深夜のヨットハーバーで.ヨットの中で男が二人の男(沖田駿一ら)にぶん殴られ, 無理矢理酒を飲まされた後,海の中へ投げ込まれた.
「赤坂 迎賓館」の正門前で園山がチャンプと待ち合わせた.
チャンプが葉巻をくわえるやいなや,園山は露骨に嫌な顔をして手で仰ぎ,
口を押さえたが,葉巻からは煙は出ていなかった.そして,
なんとチャンプは葉巻を食べ始めた.
園山「なんだね.君は葉巻食うのか?」
チャンプ「これは新発売のチョコレートですわ.」
園山「え?」
チャンプはチョコレートをちぎって園山に分けてあげた.
園山「うん.」
園山は気に入ったらしく,右手で丸を作った.
チャンプ「あーん? 園やん,甘党でっか?」
園山はうなずいた.
チャンプ「糖尿,気いつけんと.ほら.」
チャンプは残りのチョコレートも渡してやり,園山はそれを食べた.
チャンプ「ま,あもうなったところでビジネスの話をしましょうか.」
園山「そう.そうだった.」
園山は衛視の詰所を覗き込み,中に衛視がいないことを確認した.
そして詰所の中に入り,チャンプを呼んだ.
チャンプ「ああ.付き合いきれんな,もう.」
そう言いながらチャンプは詰所の中に入った.
園山が見せた資料には冒頭で殺された男の写真と,
その事件を「更科流家元の一人息子 泥酔の挙句 ヨットから転落死!」
と言う見出しで報じた新聞記事が入っていた.それに関連して
「後継者争い 再び激化」と言う見出しの記事も入っていた.
チャンプ「ああ,この事件でっかいな.警察では事故死と断定しとるが,
そりゃあくまでも更科流の後継者争いに絡んだ殺しやないかと.」
園山「ゴッドもそう睨んでおられる.しかもただの内輪揉めではない.」
チャンプ「わかってます.
ただの生花のお家騒動ならゴッドがわざわざ銭はろうてわしらを雇うはずがない.
ゴッドはなんぞ裏があるんやないかと睨んではる.」
園山「その通りなんだ.」
チャンプ「そんで,どんな裏がありまんのや.」
園山「この資料を元にそれを調査するのが君達の仕事じゃないか.」
すかさずチャンプが言った.
チャンプ「銭は?」
園山「500万.」
園山は封筒を渡した.
チャンプ「調査費は?」
園山「もちろん,込みだ.」
チャンプは納得せず,こうねじ込んだ.
チャンプ「なあ,園やん,あのう,調査費ねえ,
今回から別口にしてもらえまへんか?」
園山「別口?」
チャンプはうなずいた.
チャンプ「ああ,ご存知のように諸物価高騰のおりから,
必要経費がかかって困ってまんねん.わしらの取り分がすくのうなって.
わしらハングマンのキャッチフレーズは,
トルコ嬢よりも高い収入を得ようっちうのやったんやけど,
どうも,この頃看板倒れになってしもうて.」
くどいようだが,この頃はソープランドをトルコと呼んでおり,
ソープ嬢をトルコ嬢と呼んでいた.それはともかく,
園山はチャンプの要求をきっぱりと退けた.
園山「甘えてもらっちゃ困るな.自分達の取り分を増やしたければ,
経費を節約すればいいんだ.」
園山は立ち去ろうとした.慌ててチャンプは園山を追いかけた.
チャンプ「園やん.園山はん.園山はん.堅いばかりが男じゃないよ.
そんな調子じゃ,あんたの大好きな若い娘に嫌われまっせ.」
園山「君ねえ,今,行革の時代だよ.無駄なものは極力省くことだ.
ゴッドもそう仰っておられるんだ.」
園山はさっさと帰ってしまった.
チャンプ「何が行革の時代や,ホンマにもう.
土光はんが聞いたら泣いて喜ばはりまっせ.」
ちなみにこの頃は土光さんが先頭に立って行財政改革を政府が推進していた.
さてアロハツーリストにはE・Tと加代子がいた.
E・T「すみません.そっちの書類をちょっと見せてもらえませんか?」
だが加代子は本を読むことに夢中でE・Tの話を聞いていなかった.
E・T「あのう.」
E・Tが立ち上がって加代子のところへ行き,書類を取った.
加代子「は?」
E・T「いやあ.」
そこへチャンプがやってきた.
チャンプ「おはよう.」
E・T「おはよう.」
チャンプ「なんじゃ,相変わらず閑古鳥が鳴いとるやないか,ホンマに.
これがホンマの観光会社とは洒落にもならんぞ.みんな,どないした?」
E・T「セールスに出てるよ.」
チャンプ「どうせ空手で帰ってくるやろ.
こんなこっちゃ人員整理も考えないかんな.」
E・T「ああ.」
すると加代子が泣き出した.
チャンプ「いやあ,あのう,野川さん.野川さんのこっちゃおまへんで.
ね.奥さん,心配いりまへんて.
例え給料が払えんようになっても奥さんの分くらい,
わいがこの体を売ってでも稼ぎ出しますがなあ.」
加代子「そうじゃないんです.」
チャンプ「そうじゃないって?」
加代子「私は悪い妻なんです.至らない妻なんです.」
チャンプ「なんぞしましたんかいな.はい.」
加代子「妻としてどんなに行けなかったのか,
あの御本読んでよくわかったんです.」
加代子が読んでいた本をチャンプは取ってみた.それは更科弥生が書いた
「夫を成功させる妻の条件―「今の私」でいいのか?―」という本だった.
加代子「あのう,申し訳ないんですけど,
今日はこれで早退けさせていただけないでしょうか.」
E・T「ええ.そりゃ,まあ.」
チャンプ「いいですよ.どうせ,客も来やへんこっちゃし.」
加代子「夫のお見舞いに行ってあげようと思うんです.」
チャンプ「そうや.そうや.」
加代子「それが妻のつとめですから.」
加代子は立ち去ろうとしたが,ふと思い直し,
ハンドバッグからコンパクトを取り出した.
加代子「夫に恥をかかせないためにも,妻は,
妻はいつも美しくあらねばなりません.」
加代子はお化粧を始めた.
チャンプ「奥さん,鼻毛が出とる.」
チャンプは加代子の鼻毛を抜いてやった.
加代子「すいません.」
加代子はコンパクトをしまい,
加代子「ごめんあそばせ.」
加代子は去って行った.
E・T「チャンプ,チャンプ.」
チャンプ「ほっとけ.ほっとけ.」
E・T「え?」
チャンプ「西洋のことわざでなあ,女の一生は長い患いである,
ちう言うまんねん.」
E・T「あれが患い?」
チャンプ「そう.重症.」
アジトでチャンプが指令を説明した.
まず更科流の家元の息子が殺されたヨットハーバーの現場写真を見せた.
更科流家元の名前は更科真一で年齢は26歳.
次期更科流家元の後継者と目されていた男だ.
更科流家元と先妻の間に出来た子供だ.
更科流家元の更科直道は3ヶ月前から入院していた.
表向きは単純な循環器障害と言うことになっているが実際は癌で,
あと半年持つかどうかと噂されるほど重症だった.
真一の死で後継者として浮上してきたのが,
直道の後妻,弥生(今出川西紀)だ.一流女子大出の才媛で,
最近は先ほど加代子も読むほどのベストセラーも書いていた.
ベストセラーだと言うものの,
実は更科流の会員に強制的に買わせているからであり,
本の中身もゴーストライターが書いたという噂だ.
そのゴーストライターが陣内まこと(西田健)で年齢は37歳.
全学連の闘士からトップ屋に転向し,
5年前,更科流事務局長に収まった男だ.
陣内が後ろから糸を引いて更科弥生を操っているらしい.
陣内には大北しょうご(細川俊夫)の息がかかっていた.
大北は保守党の次代を担うニューリーダーの一人と呼ばれている男だ.
更科流の会員は全国に約150万人いて海外支部が20箇所あまり.
だから巨額の資金が動いており,派閥争いを繰り広げる大北にとっては,
更科流が願ってもない資金源になるのだ.
そのために更科弥生を次期家元に担ぎ上げ,
ダミーに仕立て上げようというわけだ.
チャンプ「このおばはん,何にも知らんと,
マスコミに乗せられてちゃらちゃら浮かれとるわけや.」
しんいちの事件を知った弥生はロサンゼルスから帰国.
更科流本部で記者会見を行ない,
海外支部の仕事が残っていたので帰国が遅れたと言い訳し,
しんいちの死を悲しんで涙を流した.しかし,
後継者問題のことを聞かれると答えず,陣内に促されて去って行った.
これから帰朝報告を兼ねて家元を見舞いに行くと言うのだ.
さて記者会見が開かれている頃,チャンプは阪神タイガースの帽子を被り,
弥生の車のところへやって来た.
チャンプ「おっさん,おっさん,頼むで.」
チャンプは強引に後部座席に乗り込んだ.
チャンプ「ええ.ほなやってんか.やって,やって.ああ,おっさん,
吉原やってくれ,吉原.吉原で一番高価なトルコ,紹介してくれ,トルコ.え.」
くどいようだが,この頃はソープランドをトルコと呼んでいた.それはともかく,
チャンプは運転席の真後ろに盗聴機を仕掛けるのに成功した.
チャンプ「あわ踊りやりながら六甲颪,歌いまんねん.は,は,は.
何,ポケーッとしとるのや.はよやれ.え.」
車を羽箒で拭いていた運転手は呆気にとられていた.チャンプは車から降りた.
チャンプ「なんやこれ,タクシー違うんかい.は.偉い高価な車やと思うた.
そうかいな,おっさん.えらい悪いこっちゃな,ホンマに.ああ.」
呆気にとられたままの運転手を尻目にチャンプは悠然と立ち去っていった.
その直後に弥生と陣内が現れた.弥生が後部座席に乗り,
陣内が車を運転して去って行った.チャンプとE・Tが盗聴をしながら追跡を開始.
弥生「あの子も馬鹿よねえ.よりによって酔っ払って海に落ちるなんて.
ふふ.でもこれで邪魔者が消えたわけよね.ねえ,あの人の所へ行くの,
明日にしてくれない? お風呂にでも入って,一休みしたいわ.」
陣内「あくまでも貞淑な家元夫人として振舞って頂かないと
この先計画通りに事が運ばなくなります.」
弥生「わかってるわよ.さっさとくたばってくれちゃえばいいのに.でもあの人,
意外にしぶといから半年以上もつかもしれないわね.いっそ,
安楽死させればいいのよ.その方が本人だって苦しまなくて済むんだもの.」
この会話を盗聴したチャンプとE・Tは呆れていた.
E・T「呆れたもんだ.」
チャンプ「夫を早死にさせる妻の条件ちゅう方がピッタリの女やなあ.」
家元の更科は明法大学病院に入院していた.
秘書の村上(三浦真弓)が更科を一生懸命介護していた.
村上が更科に食事を食べさせているところへ弥生が登場した.
弥生と更科の仲は険悪で喧嘩を始める始末.ついに更科が言った.
更科「私の人生で最大の過ちはお前と結婚したことだ.」
弥生「何度も申し上げましたように,決して離婚は致しませんわよ.
私の人生であなたの妻となったことが最高の幸せなんですから.」
弥生は高笑いをし,更科は激怒したが,咳してしまった.
しかし,更科は他の弟子に跡を継がせると宣言していた.
その後,陣内は大北とロイヤルサウナで会った.
ロイヤルサウナにはマリアが潜入していた.大北は陣内に10億円を要求していた.
陣内は額が大きいので渋った.家元の決断がいるからだ.
大北は家元の始末を示唆した.その会話をマリアは盗聴していた.
早速マリアはチャンプに電話で報告.
チャンプは病院にヌンチャクを回らせることにした.その後,
チャンプ「おい,マリア,おまはんの声は電話で聞いとるとセクシーやでえ.
いっぺん,テレホンセックスせえへんか?」
マリア「真面目にやりなさい.」
マリアは電話を切ってしまった.
チャンプ「アホ.ふん.中年男の魅力がわかっとらんなあ,おまはんは.」
ヌンチャクはエレベータの工事人に化けて病院に潜り込んだ.
村上「あのう,果物を買いに出かけて来ますので後はよろしくお願いします.」
そう看護婦に頼んで村上が出て行くのをヌンチャクは目撃した.
ヌンチャクは更科の病室を覗き込んだが,異状はなさそうだ.
村上と入れ替わりに,冒頭でしんいちを殺した男達が病院に入り込んだ.
ヌンチャクは看護婦に呼ばれ,別のエレベータをみるように言われたので,
更科の病室から離れざるをえなかった.それを見届け,
例の男達は白衣を着て更科の病室に入り,点滴の管を抜いた.
しばらくして,医者が白衣がないと騒ぐ声を聞き,
ヌンチャクは異状に気がついた.
村上「誰か,誰か来て.お家元が.誰か,誰か来て.」
村上が一生懸命叫んで医者を呼んだ.村上は更科を助けるよう医者に懇願した.
間一髪,更科は助かった.
ヌンチャクからこの話を聞いたE・Tは不審に思った.
村上は果物を買いに出て行くと言って病院を出たのに,
何も買わずに病室に戻ってきた.
まるで家元が殺されかけるのを知っていたかのようにだ.
もしかしたら村上は反家元派に通じているのかもしれない.
マリアは村上のデータを調べてみた.名前は村上房子.
1949年5月21日生まれで34歳.1971年4月に白梅女子大の英文科を卒業.
学生時代の1970年3月に更科流師範試験合格.大学卒業後に更科流本部家元,
更科直道の秘書となり,現在に至っていた.
このデータだけでは村上は家元派で,反家元派とつながる理由が見当たらない.
尚も不審に思うE・Tにチャンプもマリアも異議を唱えた.
なぜ村上が更科を助けに来たのか,その理由が見当たらない.
チャンプ「お前,そんなに気になるのやったら,お前はん一人で独自に
調査したらええがなあ.しかし,その調査費の方は予定外やからな.
おまはんのギャラから後から引かしてもらいます.」
マリア「そんなしみったれたこと言わないでよ.」
チャンプ「何がしみったれや.今は行革の時代やで.
我々ハングマンかてシビアにいかなあ,生き残れまへん.
無駄使いは人類の敵です.」
チャンプはどこかで聞いたような台詞を言った.すかさず突っ込みが入った.
ヌンチャク「よく言うよ.」
マリア「そうよ.一番無駄使いしてるくせに.」
全くだ.
チャンプ「なにごちゃごちゃ言うとんねん,お前.我々は予定通り,
調査続行です.ザッツ・ライト.」
その翌日.例のサウナで大北と陣内が会っていた.マリアがその会話を盗聴した.
大北はもっと確実に殺せる方法を取るべきだったと陣内を叱った.
陣内は2,3日中に始末させますと答えたが,大北は危険だと渋り,
もっと確実な方法はないのかと聞いた.
そこで陣内は次の週末に各地の支部から上納金が約10億円集まる事を言った.
大北「それを回してくれるのか?」
陣内「その代わりに先生には借用書を書いて頂かなくてはなりません.」
大北「借用書?」
陣内「それを担保に先生に10億円融資すると言う形なら
家元も承諾するでしょう.」
大北は渋った.大北は借金をしないことを信念にしていたのだ.
だが陣内はこう言った.借用書の返済期限は半年にする,その頃には家元が死に,
弥生が次期家元になり,
借用書の件は帳簿でいくらでも操作できるので有耶無耶になると.
大北はいわば闇献金だと納得した.
一方,村上は家元の世話をかいがいしく行なっていた.
村上が家元の洗濯物を干しているところにE・Tが現れた.
E・T「食事の世話から下の世話,そして洗濯.
家元に対するあなたの献身は並の秘書にはとても真似できないなあ.」
E・Tは「週刊トップジャーナル」の結城二郎と名乗った.
E・Tは例の事件のことを持ち出し,反家元派の謀略ではないかと言ったが,
村上はそこまで頭が働かないとごまかした.そこへ陣内が現れた.
陣内は大北に10億円融資する件を持ちかけた.しかし更科は拒否した.
更科は村上が大北とつながっていること,
そして村上と大北が弥生を操っていることも見破っていた.
陣内が帰っていった後,村上が更科に言った.
弥生が連帯保証人になるという条件で融資すると言うのはどうかと.
村上「まあ期限が来てもどうせうやむやにできるとお考えなんでしょうけれど,
奥様が連帯保証人となると話は別です.
そんないい加減な借用書の保証人をなさる方が,
更科流のお家元になると言うことは,全国の会員が賛成するはずがありません.」
更科は弥生を追い出せる口実になるかもしれないと考え直し,
融資の件を承諾したと皆に伝えるよう,村上に指示した.
その直後,村上は陣内と会った.
陣内「どうだった?」
村上「Okよ.」
陣内「よく家元を説得できたなあ.」
村上「当たり前よ.
この日のために献身的な秘書の役割を演じ続けて来たんですもの.
それより,大北の方は大丈夫? 感づかれちゃいないでしょうね.」
陣内「ああ.闇献金だと同じだと頭から信じ込んでる.」
村上は冷笑した.
村上「政治家なんて単純ね.あとは弥生を連帯保証人にすれば全て完了.」
陣内「任しといてくれよ.あの女を騙すのはわけはない.」
村上「ところで,さっき来た週刊誌の記者だけど
,昨日の事故について何か不審を抱いてるようだし,ぐずぐずできないわよ.」
村上の懸念通り,以上の会話をE・Tはしっかり物陰から聞いていた.
弥生のところに陣内が現れた.直道が言った通り,
弥生には華道の才能はなかった.
だが弥生はそれでも家元にはなれると言って開き直った.
陣内は連帯保証人の件を持ちかけた.
陣内は弥生が家元になれば借用書はクズ紙同然だと言ってごまかし,
弥生を借用書の連帯保証人にすることに成功した.
ヌンチャクは庭に忍び込んでいたが
陣内「動くと脳味噌が吹っ飛ぶぞ.」
陣内に拳銃を突きつけられて捕まってしまった.
陣内は帝都経済研究所に電話を入れた.そこは冒頭でしんいちを殺し,
更科が死にかける事故を起こした連中の溜まり場だったのだ.
ヌンチャクが更科の家から連れ出されるのをマリアは目撃し,尾行を開始した.
一方,アジトでチャンプは古い写真を見て驚いた.
陣内と村上が一緒に写っていたからだ.
陣内と村上は全学連時代からの仲間だった.
二人ともそれを隠して更科流に潜り込み,敵対関係を装った.
更科も弥生も大北もまんまとそれに騙されてしまったのだ.
E・Tは金の二重取りが二人の目的だろうと睨んでいた.
更科に金を出させるだけではなく,
大北の借用書を市中に流す.合わせて20億近くなる.
チャンプ「ごっつい猫糞やなあ,おい.なんや,そんな話,聞くと,E・T,
ちまちまとハングマンやってるのが嫌になってくるなあ.」
チャンプとE・Tは苦笑した.そこへマリアから無線が入った.
ヌンチャクが渋谷の雑居ビル,すなわち帝都経済研究所に連れ込まれたのだ.
場所は渋谷3丁目23番地.
チャンプ「そこが殺し屋のアジトやな.よっしゃ.」
ヌンチャクは拷問されていた.
男A(沖田駿一)「どうだい,気分は?」
ヌンチャク「絶好調.」
男A「は.ジャイアンツの中畑みたいなこと言いやがって.」
ヌンチャク「よく似てるって言われるんですよ.」
男A「ふざけんなこと言うな,この野郎.」
ヌンチャクはさらに拷問された.陣内は素性を吐くまで痛めつけろと言い,
去って行った.ビルから出る陣内を車の中から見ながらマリアが言った.
マリア「早くしないとヌンチャク,殺されちゃうわよ.」
チャンプ「ええがな.あいつが殺されたらわしらの取り分が増える.」
マリア「チャンプ!」
チャンプ「ジョーク,ジョーク.ジャスト,ジョーク.ふふ.おまはん,
怒るとおっぱいまで膨らむなあ.」
チャンプはマリアの胸に右手を伸ばしたがマリアにはたかれてしまった.
チャンプ「イーティー」
そして言った.
チャンプ「E・Tの奴,用意できてんのかいな.」
その頃,E・Tは屋上から縄をおろし,
ヌンチャクの閉じ込められている部屋へ向かい始めた.
それを見てチャンプ達も車から出た.
一方,ヌンチャクが吐かないので帝都経済研究所の連中は面倒くさくなり,
ヌンチャクの首をネクタイで締めようとした.そのとき,
チャンプ「火事だあ.」
マリア「キャー.大変,大変.助けてえ.」
煙が廊下から部屋の中に入ってきたので帝都経済研究所の連中は部屋の外へ出た.
実はこの煙はチャンプが発煙筒を焚いて起こしたもの.そうとも知らず,
帝都経済研究所の連中は廊下へ出てしまった.
その隙にE・Tが窓から部屋に入り込んだ.
E・T「ヌンチャク,大丈夫か.」
ヌンチャク「全然,大丈夫じゃないっすよ.」
E・Tはヌンチャクを助けてやった.
帝都経済研究所の連中は発煙筒を見つけて仕掛けに気づき,部屋に戻ったが,
部屋はもぬけの殻だった.
アジトでチャンプ達は金を精算した.マリアが金を分配した.
チャンプ「どうや,おい.
今回はわしがうるそう節約を唱えたかいがあったやろう.はい,はい,はい,
はい.」
ヌンチャク,E・T,チャンプの順に金が渡された.
チャンプ「おい,ちょと待ちや.なんやわし,
みんなより少ないような気がするけど.」
マリア「その分,ヌンチャクに危険手当として特別ボーナス.」
チャンプ「なんぼ?」
マリア「10万.」
チャンプ「なんでや,おい.」
マリア「だって,今回,チャンプ一番楽したでしょ.それぐらい我慢しなさい.」
チャンプ「そんなアホなあ.」
ヌンチャク「ごっつぁんです.」
チャンプ「ボーナスって,お前,地方公務員か.」
チャンプは札束でヌンチャクの頭を叩いた.
E・T「よーし,仕上げに掛かろう.」
そしてアロハツーリストは閉店した.
その翌日.帝都経済研究所の連中は事務所でヌンチャクとE・Tに倒された.
ヌンチャク「どうだい,気分は!」
E・T「お前達が大北と陣内の命令で何をやったか,残らず話してもらおうか.」
更科流本部では陣内が10億円を用意させていた.
陣内「これがねえ,大北先生の借用書だ.保管してくれたまえ.」
陣内は借用書を事務員に渡そうとしたが
村上「陣内さん,その借用書はお家元が直接保管なさるそうよ.
私がお預かりするわ.」
E・Tの睨んだ通り,借用書は陣内から村上の手に渡された.
そして車で陣内が出発しようとしたとき,
誰も乗っていないはずの後部座席から手が伸び,
運転席に座っている陣内の背中を叩いた.驚いた陣内は振り返った.
背中を叩いたのはチャンプだった.
陣内「誰だ,貴様は.」
助手席にマリアが乗り込んだ.
マリア「ちょっとドライブしてもらうだけよ.10億円の札束と一緒にね.」
チャンプ「素直に言うこと聞きなはれ.バラバラになりとうなかったらな.」
チャンプは手にダイナマイトを持っていた.
一方,金融業者の事務所の前で村上はE・Tに出くわした.
E・T「献身的な家元の秘書も裏を返せば女詐欺師と言うわけだなあ.」
村上「何の話ですか?」
E・T「昔の仲間だった陣内と組んで,10億円を騙し取り,
この借用書を金融業者に流して金を二重取りする.全く,考えたもんだ.」
村上「返して,お願いだから.返して.」
だが村上はE・Tに麻酔薬を染み込ませたハンカチで口を押さえられ,
眠らされてしまった.
大北の所にチャンプから電話が入った.
大北「なに,陣内がわしを裏切った? 馬鹿な.そんな筈はない.」
チャンプ「ええか,よう聞きなはれや.
陣内は家元の秘書の村上房子と組んであんたを騙してたんや.
大北はんともあろう人がアホやでえ.10億円猫糞された上に,
今頃あんたの借用書がどこぞの高利貸しの手に渡ってるかもしれまへんで.」
大北「そ,そんな馬鹿な.」
チャンプ「嘘やと思うなら渋谷の109へ行ってみなさい.
己のアホさ加減がようわかるやろ.」
電話は切れてしまった.
チャンプの隣りの公衆電話ではマリアが弥生に電話していた.
チャンプ「今頃,あのおばちゃん,金切り声あげとるで.」
チャンプの予想通り,弥生は金切り声を上げて車を呼べと叫んでいた.
さて陣内,村上,そして帝都経済研究所の二人は柱に縛られ,回転していた.
周りには花がいけてあった.
E・Tの声「(やたらと陽気な声で)はーい,皆さん.How are you?
ごきげんいかがですか? これから史上最高のショーをご覧に入れます.
どうぞ.前方をよくご覧下さい.」
銀色のマネキンが置かれ,ダイナマイトがくくりつけられていた.
E・Tの声「では,ショーの第一弾.スタート.」
ダイナマイトの導火線が燃えていき,ダイナマイトが爆発し,
マネキンが粉々になった.思わず村上は叫び声を挙げてのけぞった.
E・Tの声「みなさんもいろいろと悪いことしてきましたね.
その悪事の数々を白状してください.言わないと人形のようになりますよ.」
この喋り方はマイトだとぴったりくるのだが,名高達郎さんには全然似合わない.
それはともかく,悪党どもは無言だった.
E・Tの声「言いたくないようですね.では,ショーの真打,スタート.」
と言った瞬間に村上が叫び声を挙げた.導火線に火がついたのだ.
火は悪党達の周りを輪を描きながら燃えていく.
男B「やめろ,やめてくれえ.」
男A「何でも言う.言うから,消せ.消してくれよ.
更科しんいちを事故に見せかけて殺したのは俺達だ.
ここにいる陣内に言われてやったんだ.
更科流の家元を殺そうとしたのも,この陣内の命令だあ.」
陣内「何を言うんだ.俺は大北に騙されてこいつにやらせただけだ.」
村上「そうよ.その通りなのよ,そうなのよ.」
大北が渋谷の109の前に現れた.すると大音量でこんな声が響いてきた.
男Bの声「大北しょうごは更科流を資金源にするために俺を送り込んだんだ.
あの男は金のためなら何でもやる男だ.人殺しなんか屁とも思っていない男だ.」
野次馬をかき分けて大北は進んだ.そして立ち止まった.
陣内の声「あんな,品性下劣な男の小間使いをいつまでもやってるのはごめんだ.
だから,房子と組んでいっぱい食わしてやったんだ.」
村上の声「あんな女が家元なんかになったら更科流は滅茶苦茶になるわ.
だから,あの女を乗せて,その資金で新更科流を作るつもりだったのよ.」
弥生も野次馬をかき分けてやってきた.
村上の声「何が夫を成功させる妻の条件よ.
あの女は家元が死ぬのを指折り数えて待っているのよ.あの女は豚よ.
皺だらけの顔に白粉塗りたくった最低のメス豚だわ.」
弥生と大北は並んでこの叫びを聞いた.
男Aの声「やめろ.やめてくれえ.みんな,陣内に言われてやったんだ.
陣内の命令でやったんだあ.」
弥生と大北はモニターテレビの存在に気がついた.
モニターテレビには悪党どもが映し出されていた.
男B「俺もだよ.みんな陣内に頼まれただけだい.」
陣内「何を言ってるんだ.お前達は自分からやりたいと言ってきたじゃないか.」
男B「嘘つけえ.」
陣内「金のためにやったんだろう.」
村上「そうよ.一番悪いのは更科弥生とあの大北よ.」
野次馬達,そして大北と弥生はモニターテレビの前に集まった.
男A「そうだ.」
村上「私達は悪くないわ.」
男B「俺は何もしてねえぞう!」
陣内「一番悪いのは大北しょうごと弥生だあ.」
村上「更科流が新しく変わるためよ.大北と更科弥生が悪いのよ.」
そのとき,野次馬に混じっていたチャンプが叫んだ.
チャンプ「あれ,これ,更科弥生と大北代議士と違うか?」
大北と弥生は野次馬にもみくちゃにされた.
チャンプとE・Tは大北と弥生を置いて去って行った.
マリアとヌンチャクも去った.
渋谷の街を一緒に歩いていたE・Tとチャンプはパトカーとすれ違った.
そこへマリアとヌンチャクも合流した.
マリア「でもなんだかおしいわね.この10億円.」
ヌンチャク「1割,いや1%でもいいからもらえるもんならもらいたいですよ.」
チャンプ「こら待て.お前ら,なんちゅうあさましいこと言うとるんや.」
偉そうに言うチャンプ.
E・T「チャンプ.」
チャンプ「ん?」
E・T「なんだかいつもと言う事が違うなあ.」
チャンプは冷たい視線を感じ,困ったような顔をして周りを見回した.
チャンプ「なんや,その疑わしそうな目は.」
E・Tがチャンプの懐を探ると分厚い札束がでてきた.
E・T「チャンプ.」
チャンプ「けったいやなあ.いつの間に紛れ込んだんやろうなあ.
この金,足が生えとんのかいなあ.オアシゆうぐらいやから.
えらい,すいまへん.」
仕方がないのでチャンプは猫糞しようとした札束を箱に返した.
E・T「ハンギングだ.」
マリア「しょうがないわねえ.」
チャンプはみんなに締め上げられた.
チャンプ「降参,降参.」
チャンプはさらにお札を何枚かポケットから出すのであった.
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