深夜のレストランに男が拳銃を持って強盗に入り,店長を射殺した. この事件を新聞は「連続射殺魔 勝又孝治 小田原に現る」 「ついに四人目の犠牲者」と報じた.
さて「上野 不忍池」にかかる橋の上で,
園山とチャンプがギャラの交渉をしていた.
チャンプ「つまり,警察が完全に匙を投げたってことでっか.」
園山「いや,捜査当局は従来通り捜査を続行する.
君達はあくまでも別働隊としてこの事件を洗ってもらいたいんだ.」
チャンプ「別働隊?」
園山「詳しいことはこの資料を読んでもらえばわかる.」
チャンプは園山から封筒を受け取った.
チャンプ「ほんで,予算の方は?」
園山「700万.」
チャンプ「700万! ホンマかいな,それ.」
破格の金額にチャンプは驚いた.
園山「これは一刻を争う仕事だからな.
その辺を考慮して私なりに査定したんだ.」
チャンプ「はあ.
それにしてもしまり屋の園山はんにしてはえらい張り込んだもんやなあ.」
ここでやめとけばいいのに,チャンプの悪い癖が出てしまった.
チャンプ「あ,待てよ.読めた.ゴッドの税金対策だっしゃろ.」
園山「くだらん詮索はやめて返事だけ聞かせて欲しいなあ.」
チャンプ「いやいやいや.これはうっかり引き受けられまへんな.園山はん.
こりゃ広域犯罪や.あちこち飛び回らないかん.アゴ足に相当かかります.
経費に200万かかったとして残りは500.
一人頭125万では今までと対して変わりまへんがなあ.」
園山「調査費に200万とはまさに丼勘定だね.」
園山の嫌味にも関わらずチャンプは続けた.
チャンプ「な,園やん,そんな堅いこと言わんと,
もう一声上乗せしたってえなあ.」
園山は左右に首を振った.
チャンプ「あ,そうでっか.ほな,この仕事,断らせてもらいますわ.」
チャンプは園山に封筒を渡した.一度断ってギャラを釣り上げようという作戦だ.
だが
園山「じゃ,やめたらいいだろう.」
そう言って園山は去ろうとした.
チャンプ「はったりかましやがって.」
だが園山は立ち止まらずどんどん先へと歩いていった.
チャンプ「おい.わしらが降りたら困るのはあんたやで,園やん.」
しかし園山は止まる素振りを見せなかった.
チャンプ「園やん.」
園山は振り返りもせずに手を振った.
ついにチャンプは園山を追いかけて走り始めた.
チャンプ「何も断るゆうてへんがな,園やん.な,園やん待ちいて.
もう扱いにくい人やなあ.園やん.ちょっとええとこ行こう.園やん.おい.」
さてアジトに戻ったチャンプは
チャンプ「は,は,は.いや,俺の腕もたいしたもんやろ.
あのドケチの園山から700万円ふんだくってきた.」
よくそんなことが言えるものだ.
ヌンチャク「700万?」
チャンプ「そう.」
マリア「信じられないわ.ねえ,チャンプ.今度の仕事,
なんか裏があるんじゃないの? でなきゃこんな大金…」
チャンプ「ないないないない.こりゃあらへん.いつも通りのパターンや.」
E・T「とにかく内容を説明してもらおうか.」
まずチャンプはヌンチャクに,
2ヶ月前のテレビニュースを録画したものを再生させた.
アナウンサー「今朝未明,京都市山科の路上で巡回中の警察官が,
何者かに刃物で刺し殺され,拳銃が奪われました.
捜査当局は二次犯罪の恐れもあるとして緊急配備を敷き,
犯人の行方を探しています.殺されたのは京都府警…」
次にチャンプは事件発生から4日後のニュースを再生した.
アナウンサー「先日,京都市山科で巡回中の北川武男巡査が刺し殺され,
拳銃が奪われるという事件が起きましたが,その後の捜査の結果,
犯行現場付近から凶器に使用したと思われるナイフが発見され,
採取された指紋から犯人は元ガードマン勝又孝治と断定,
全国に指名手配しました.」
それから連続強盗殺人事件が起きた.
一件目は岐阜で深夜営業のスーパーが襲われた事件で,被害金額は200万.
二件目は名古屋でガソリンスタンドが襲われた事件で,被害金額は150万.
三件目は二件目の事件から十日後に静岡市内でタクシーが襲われた事件で,
被害金額は4万3千円.四件目は前の晩の事件.
小田原でドライブインの経営者が射殺され,被害金額は6万円.
警察の調べによるといずれも弾丸の錠痕検査の結果,勝又の犯行と断定された.
ゴッドは第3と第4の事件に疑問をもった.急に金額がガタッと落ちており,
ピストルをぶっ放して人を殺したにしては被害金額が安すぎるのだ.
ひょっとしたら第3と第4の事件は金が目当てではなくて,
他に何か別な目的があるのかもしれない.
チャンプ「ま,いずれにしてもや,
あのけちんぼの園山が700万という破格のギャラを出しとんのやから,
こりゃきっと裏になんぞあるなあ.」
すかさずマリアが突っ込んだ.
マリア「さっきは裏なんか何にもないって言ったくせに,
すぐ変わるんだから.」
チャンプ「コロコロ変わるのがわしのええところやないかい.」
とりあえずE・Tは被害者の線から動機を探ることを発案した.
チャンプは静岡の事件,マリアとヌンチャクは小田原の事件を探ることになった.
小田原の事件の被害者の名前は矢沢としお.
チャンプ「おい,E・T.おまえさんは何をするんや.」
E・T「矢沢の娘を当たる.」
チャンプ「娘?」
E・T「ああ.この資料によると都内に下宿して大学に通ってるそうだ.」
女子大生と聞いてチャンプの目の色が変わった.
チャンプ「女子大生か.あ,E・T.俺,静岡やめよう.
こっちの方をやらしてくれ.」
すかさずマリアが突っ込んだ.
マリア「まあたチャンプの病気が始まった.」
チャンプ「ほっといてくれ.なあ,頼む.こっちやらしてくれ.」
E・T「公私混同されたら困るからな.これは俺がやる.」
チャンプは葉巻の煙をE・Tに吹きかけた.
E・Tは矢沢の娘なおみに会いに行くと,なおみは小田原へ帰るところだった. 東都日報の記者と称したE・Tは東京駅まで車で送るといい,話を聞きだした. 矢沢は恨みを受けるような人物ではなかった. だが矢沢は別居した妻と会うために月に1,2度状況していた. なおみの実母は1年程前に交通事故で亡くなっていた. 矢沢の妻は3ヶ月ばかり前に, 結婚相談所の紹介で知り合って結婚したばかりの後妻だった.が, この女よしえはとんでもない悪妻だった.派手好きで金遣いが荒く, 挙句の果てに勝手に家を出て東京に来てしまったのだ. 矢沢は何とか復縁しようと頼み込んでいたのだ.
その頃,よしえは保険金がおりたらすぐに籍を抜きたい, と情夫(鹿内孝)にほざいていた. マリアとヌンチャクも小田原の東亜生命の小田原営業所で, 矢沢に5千万の生命保険がかけられていて, よしえから支払い請求が来ていたことを知った.静岡の事件も同様だった. 怨恨の線はないが被害者は5千万の生命保険に入っており, 受取人は3ヶ月前に再婚した後妻だった. 偶然にしてはできすぎだ.勝又と後妻達の間に直接の関係はなさそうだ. だがE・Tは,直接の関係はなくとも介在者がいるかもしれないと考えた. 例えば結婚相談所が怪しそうだ.
その晩.都内で「第5」の犠牲者が出た.
早速次の日に上野の西郷さんの銅像の前で園山がチャンプに文句を言っていた.
園山「いったい,君達は何をやっとったのかねえ.え.」
チャンプ「いや,あのう,実はでんなあ…」
園山「弁解は無用だ.君達もプロを自認してるんだったら
素直に失態を認めたまえ.え.」
チャンプ「なあ,園やん,いや,園山はん,ほな言わしてもらいますけどなあ,
わいらの仕事ってえのは犯罪を防ぐんやのうて犯罪のその実態を暴くことでっせ.
その辺をわきまえてもらわんと困るなあ.」
園山は舌打ちした.
園山「実態を暴くことが犯罪防止につながるんだ.
そのために今回は破格の報酬を支払ったんだぞ.」
チャンプ「んな,偉そうにもう.園やん,高々200万ぐらい上乗せしたゆうて,
そのように言われたら立つ瀬がおまへんがなあ.」
園山「とにかく私はなあ,ゴッドに経過報告をしなければならんのだ.
調査の進行状況を説明してもらおうか.」
チャンプ「心配いりまへん.ゴッドに言うといて.
夕べの事件で大方の目星はついとります.」
園山「目星?」
チャンプ「ああ.殺された会社員の女房はちゃーんとマリアがマークしとります.
それより,昼サロ行きませんか,例の.」
園山「またか?」
チャンプ「ああ.女子大生.」
マリアの調べにより,殺された津田としおの妻はつえも, 二ヶ月前に結婚したばかりの後妻であることがわかった. 朝早く警察の事情聴取を終えるとセントラルホテルへ直行し, 川西(鹿内孝)という男と密会した後,30分ほどで自宅へ戻っていた. 川西は東京結婚相談所の経営者だった. チャンプはこの事件のからくりをこう推理した. 川西は結婚相談所に来た男に女を紹介し,うまく話をまとめて結婚させる. いわば合法的な偽装結婚だ.入籍後,多額の生命保険をかけ,殺してしまうのだ. だが川西と勝又の関係がわからない.第2の事件と静岡の事件の間に, 川西と勝又の間に何らかのやり取りがあったに違いない.
E・Tは川西のマンションに忍び込んだ. 川西のマンションには勝又の身分証明書があり, さらに誰かが隠れていた形跡があった.一方, チャンプは川西雄三が経営する東京結婚相談所へ行き, 結婚の相談をしたいと言って川西に会った. 川西はチャンプが大きな指輪をしていたことに目をつけたようだ. 早速チャンプはE・Tとトレーニングジムで会って状況を報告しあった. E・Tの推理では,勝又は岐阜の事件の後川西を頼って逃げてきた, そこで二人の利害が一致して保険金殺人を計画した,ということだ. 元々川西の結婚相談所に登録されている女性会員は, ピンクキャバレーのホステスやデートクラブの女ばかり. その女達が結婚を餌に男を騙し, 挙句の果てには離婚して多額の慰謝料や手切れ金をふんだくっていたのだ.
さて加代子が机を拭いているところにチャンプが現れた.
チャンプ「おはよう.おはようさん.ようさん.」
加代子「さっき,お電話がありましたよ.
東京結婚相談所というところから.」
チャンプ「ほう.ほんで,なんと.」
加代子「3時に日比谷のアクトレスってレストランに来てくださいって.」
チャンプ「ほうら,おいでなすった.」
加代子「え?」
加代子は怪訝な顔.
チャンプ「いや,こっちゃのこっちゃ.」
加代子「小出さん,ホントにご結婚なさるんですか?」
チャンプ「いや,まあね.この年で独り身でいるってのは何かと面倒だしね.
大きな声じゃ言えまへんけど,セックスの処理の方も.」
「セックスの処理」と聞いた加代子は
加代子「まあ,露骨な.」
雑巾を持ったまま恥ずかしがって口を押さえてしまった.
チャンプ「雑巾でっせ.」
加代子は慌てて口から手を離した.
チャンプ「奥さんかてご主人が長の療養でいろいろ難儀してまんのやろ.」
加代子「なんちゅうことを.わたくし,そんなみだらな女じゃございません.」
チャンプ「がんばらんでも.なんだったら,わいがいつでもお相手しまっせ.」
加代子「からかわないでください.わたくし,ちょっと,
郵便局行って参りますから.」
チャンプ「スタンプ押しましょか.」
加代子「まあ,いやん,いやん.」
加代子は外へ出てしまった.
チャンプ「切手にもだえとり.」
外へ出た加代子はなぜか大人のおもちゃ屋の前で
加代子「人妻ってつらいわ.」
ともだえるのであった.
チャンプはエアロビクスをしているマリアのところへ電話し,
賃貸マンションと賃貸の家具を用意するように指示.
E・Tには額面6千万の預金通帳と婚姻届を用意するように指示した.
そしてチャンプは指定されたレストランへやってきて,
小島ゆかという(あばずれ)女と会食した.
チャンプはマリアの用意したマンションにゆかを連れて来た.
そしてコーヒーを入れようとしたが
チャンプ「ドジ,間抜け,コーヒーくらい用意しとけ.」
仕方がないので麦茶でごまかした.
チャンプは一目見たときから結婚したい思った,と言い,
即座にE・Tの用意した預金通帳を見せた.まんまと小島は引っかかった.
小島は川西に預金通帳の件を報告した.
川西は早速結婚の手続きをとるように小島に指示した.
チャンプは連続射殺魔に殺される手筈になってるからだ.
小島はチャンプに電話し,結婚を承諾したことを伝えた.
早速チャンプは小島を迎えに行き,婚姻届にサインさせた.
そして婚姻届を出す…ふりをして拾った書類を届けた.
そしてチャンプは小島と別れた.その晩,
川西は射殺実行犯の男にチャンプの写真を見せ,殺すように指示.
チャンプの借りているマンションの周りをE・T,マリア,ヌンチャクが固めた.
男がチャンプの部屋を訪れ,チャンプに拳銃を向けた途端,
男はヌンチャクに襲われ,倒されてしまった.だが男は勝又ではない別人だった.
全ては勝又のダミーの犯行だったのだ.
拳銃は勝又から奪ったものだったに違いない.E・Tは男を締め上げ,
勝又がすでに殺されていることを知った.
川西達は勝又を小田原の山林へ誘き出し,角材で殴り殺して拳銃を奪い,
死体を土の中に埋めたのだ.死体が見つからない限り,
川西達の犯行は勝又の犯行になるのだ.
川西の前にチャンプが姿を現した.
チャンプ「おかげさまで縁談がまとまりましてねえ,
一言お礼をと思いましてね.」
チャンプは川西を殴り倒し,連れて行った.
マリア「はい,E・T.一人130万.」
チャンプ「150万ぐらいある,思うたけどなあ.」
マリア「明細,ここにあるから.」
アロハツーリストは閉店した.
赤いカーテンが閉められた部屋の中に,川西,殺人実行犯,
そして小島が鎖で縛られて座らされていた.
殺人実行犯の頭にはダイナマイトがついており,
また殺人実行犯の右手には拳銃が握られていて,川西を狙っていた.
三人が座っている椅子は回転盤の上に乗っていた.
チャンプ「ほな説明させてもらいますわ.わしの手元にリモコンスイッチがある.
これを押すと,
殺し屋の兄ちゃんの体にくくりつけたダイナマイトが爆発する仕組や.いいか.
命が惜しかったら素直にわしの言うことを聞かないかん.さて,
川西さんの方やけど,あんたの顔に拳銃が突きつけられてまっしゃろ.
その拳銃には弾が一発だけ残ってまんのや.
わしが『はい』っちうたんびに殺し屋が引き金を引くことになっとる.
銃口から弾が飛び出す確率は6分の1や.
もしあんたがそれで口を割らんときはさらにもう1回引き金を引くことになる.
そのときの確率は5分の1や.いつまでも強情をはっとると,その確率がええか,
更に更に高くなるっちゅうわけや.ほな本番行ったるか.」
川西「いったい,この俺にどうしろって言うんだ.」
チャンプ「お前らがやったことを洗いざらい吐くこっちゃ.
あくまでも白を切るつもりなら,やれ.おい殺し屋.引き金を引いたれ.
ダイナマイトが爆発してもかまへんのか.」
川西「神崎,そんな脅しに乗るんじゃねえぞ.」
チャンプ「脅しやて? ほなリモコンのスイッチを押したろか.」
神崎の顔が恐怖で引きつった.
神崎「ちょっと,ちょっと待ってくれ.」
川西「神崎.」
小島が叫び声をあげた.
川西「おい,やめろ.やめろ.」
神崎が一発撃ったが,空砲だった.川西は恐怖と安堵感が混じって顔がゆがんだ.
チャンプ「そう.まだ喋る気にならんか.次は5分の1の確率やど.」
川西は脂汗を浮かべ,口を開けた.
チャンプ「よっしゃ,殺し屋.引き金引いたれ.はい.」
神崎の右手に力が入る.そのとき
川西「撃つな.何もかも喋る.撃つな.」
チャンプ「ほれ,ほれ.はようしゃべらんかい.」
川西「俺達は連続射殺魔の勝又を,勝又孝治を殺して拳銃を奪った.
そして保険金目当ての殺人もやったんだ.」
この叫びはスピーカーから外へ流された.
川西「静岡の殺人事件,小田原の事件,東京の事件,全て俺達がやった.
おーい,これで気が済んだか.」
と同時にカーテンが下ろされた.ここは芝の増上寺の境内.
野次馬がたくさん集まっていた.さらされる悪党達を矢沢なおこも見ていた.
パトカーのサイレンが響く中,ヌンチャクとマリアが帰っていった.
チャンプ「あのあほんだらが.」
E・T「最後の一発はこれさ.」
E・Tが弾をチャンプに渡した.
チャンプ「つまり,確率は0%ってことや.」
E・T「ああ.チャンプのガールハントの成功率と同じだなあ.」
チャンプ「そうそう.何? ズドーン.」
チャンプはE・Tの頭に弾をぶつけ,E・Tは笑うのであった.
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