第六回

売春組織を叩き潰す.
恋を引き裂く愛人バンク

脚本:竹山洋 監督:児玉進

スコールの降る中,女が逃げていたが男達に取り囲まれてしまった.
女「返して.日本に返して.返して.」
そして女は港に変死体となって浮かんだ.

さてマリアは自宅でエアロビクスをしながら新聞を読んでいた. そして冒頭で追いかけられていた女,山口香子がバンコクで死んだのを知った.
マリア「香子.」
マリアはアロハツーリストに電話し,E・Tがその電話を受けた.
E・T「礼子が休むそうだ.」
すかさずチャンプが言った.
チャンプ「生理休暇や.」
E・Tは大真面目に応えた.
E・T「いや.友達が亡くなったらしい.」
チャンプ「いやあ,生理休暇,生理休暇.照れくさいからそんなんゆうとるんや. いや,俺ぐらいになるとわかりますよ,ちゃんと.」
今のご時世ならチャンプは間違いなくセクハラで訴えられていたに違いない. そのとき,加代子がチャンプのところにお茶を置いた.
チャンプ「ありがとう.」
チャンプは続けた.
チャンプ「女の仕草,目つき,匂い,ね,生理休暇や.休ませたらいい.」
そのとき,チャンプは傍らにいた加代子の方を向いた.
チャンプ「そこへ行くと野川さんは気の毒やねえ.一年中休暇がないから.」
加代子「どういう意味ですか?」
チャンプ「いや,あのう,無駄な血も流さんと働きもんや言うてます.」
加代子「ああ.ありがとうございます.」
そう言って加代子は去って行った.

バンコク警察は山口香子の死を自殺と断定した. カーラジオでそのニュースを聞いたマリアは呟いた.
マリア「嘘よ.」
香子はマリアが行きつけの美容院の美容師だった. 香子は同僚との結婚を控えていた.
香子「あたしのプレゼント,職人の魂だって言って大切にしてくれているの.」
香子の婚約者は仕事のときにいつもプレゼントのはさみを使っていたのだ. マリアは佃二丁目にある美容院へ行き,香子の婚約者と会った. 香子の婚約者は衝撃の事実をマリアに告げた.
婚約者「あいつ,売春してた.」
マリア「え?」
香子の婚約者は胸のポケットからはさみを取り出していった.
婚約者「香子の奴,仕事道具は大切にしなくちゃって, 俺の誕生日に高い金出してこんなもん買って来た.あの頃は夢があったなあ. いっぱい.二人して美容院作って,それから,うち建てて,子供は大学にやって. それが,あいつ売春してたんだ.」
それを聞いたマリアは驚いた.
マリア「どういうこと.香子,絶対にそういうことする子じゃないわ.」
婚約者「やってたんだよ,本当に.」
マリア「ねえ,説明して.ホントなの?」
香子の婚約者はうなずいた.
婚約者「あいつ,コンパニオンクラブに入ってた.」
マリア「コンパニオンクラブ?」
婚約者「ああ.スポーツコンパニオンクラブって言って, テニスやボーリングやゴルフ,つまり,男の相手さ.香子の奴, ボーリングがうまかったから美容院の金作るためって.」
マリア「どうして,どうして,そんなこと.」
婚約者「俺だってやめろって言ったよ! だけど香子の奴, そんなクラブじゃないから大丈夫だって.それが…」
香子の婚約者ひろしは香子が男と一緒にホテルへ入っていこうとするのを見かけ, 男と香子を殴って立ち去った.
ひろし「その日から戻ってこなかった. こんなものが目の前にあれば苦しくなるばっかりだ.」
ひろしは香子からもらったはさみを投げ捨てた.
ひろし「礼子さん.もう会うこともないでしょう.」
そう言って,ひろしは立ち去った. マリアはひろしの捨てたはさみを握り締め,何事か決意していた.

マリアは一人でスポーツコンパニオンクラブに潜入した. 事務員の吉田はマリアには怪しい素振りを見せなかった.早速マリアは, その晩の6時にテニスの相手を西岡という女の子と一緒にしてほしい, と吉田に頼まれた.マリアが外へ出ると早速吉田はどこかへ電話した.
吉田「もしもし.吉田です.いつもどうも.実はですねえ, 今日きれいな子が来たもんで,テニスの方に回しましたから, よろしくお願いします.はい.ええ.こないだの子のトレードマネー, 確かに頂戴しました.ええ.資料の方は後程届けますから.はい.」
吉田は電話を切った.立ち聞きしていたマリアは呟いた.
マリア「トレードマネー?」

マリアは二宮と名乗っていた.指定された時刻にテニスコートへ行くと, 西岡の他に佐藤と鈴木というおじさんも一緒だった. マリアは西岡に香子のことを聞いた.西岡は香子と二,三回仕事をしたが, 香子が愛人バンクへ行ってからは会っていないと言う. 愛人クラブとは新宿のVIPクラブのことで, 会員制で男の会員は有名人や偉い人ばかりなのだ. きれいな子にはすぐに声がかかり, スポーツコンパニオンクラブから愛人バンクへ移った子はかなりいると言う.

マリアはチャンプ達にも相談した.
チャンプ「愛人クラブか.」
ヌンチャク「最近,マスコミでも取り上げられてる,あれでしょう.」
チャンプ「うん.ちょっと待て.それは俺の分野や. これは男と女が会員になって,お互いに愛人になる条件を出しおうて契約する. 愛人バンクは言わば愛人の就職斡旋業やろう. これは別に悪いこっちゃ思わんなあ.」
マリア「でも香子は別にそんなとこに入るような子じゃないわ.」
チャンプ「いやあ,お前さんはねえ, 自分の友達やから悪う言いとうないやろうけど,近頃みんなやっとるがなあ. マントル,ホテトル,愛人クラブ,大流行や. 倫理観言うのはこの辺に置いといて今の若い子はこだわっとらんわ.」
マリア「香子は違うわ.何か事情があるはずだわ.」
チャンプ「うん,わかった.そやけど,銭にならんことはごめんやで.」
マリア「ビジネスならいいわけ?」
チャンプ「そりゃ,そうや.よし.今回はお前さんが園山に会え.な.」
E・T「うん.園山に会った方がいいなあ.」

今週のギャラ交渉 その1

こうしてマリアは「神宮外苑 絵画館」の前で園山と会った.
園山「そう.」
マリア「いくらでも構いませんから.」
園山はあっさり承諾した.
園山「かわいらしいマリアの頼みだからねえ.ゴッドに相談してみるか.」
マリア「はい.」
だが
園山「いや,しかしねえ,ちょっと資料が足りないなあ.とりあえずねえ, ここに100万あるから,これを調査費として貸してあげよう.」
マリア「ありがとうございます.」
園山「愛人バンクね.世の中変わったなあ.」
と偉そうに言った後で
園山「どう.これで僕と契約しない.」
マリア「は? ああ.」
マリアは苦笑するしかなかった.

ヌンチャクはVIPクラブを双眼鏡で覗いた. マリアは中でVIPクラブの事務長(峰岸徹)と会っていた. そして隙を見て盗聴機を仕掛けた. 事務長はスポーツコンパニオンクラブは愛人クラブの出先機関だといい, 最初から愛人クラブに登録するような人はすれっからしでよくない, とほざいていた.そして愛人バンクからスポーツコンパニオンクラブには, トレードマネーを払うから大丈夫だとも言った. さらに前日にマリアとテニスをした鈴木がマリアを気に入ったので, 月50万払うと言ったというのだ.マリアは恋人がいるっていったが, 事務長はみんな恋人がいるから関係ないと答えた. そしてマリアが出たところでE・Tが金持ちに扮装してVIPクラブに入り込んだ. そして会員名簿を見ないで,入口ですれ違った子がいいと言った. すると女の会員がビデオテープを返してくれとやってきた. すかさずマリアが盗聴した. 事務長と女社長(中島葵)はその女性会員に500万で売るとゆすっていたのだ. だがここまで盗聴した際,事務長が脅してソファを蹴飛ばしたときに, 盗聴機が壊れてしまった.そして, その女性会員は横浜の港で水死体となって浮かんだ.

次の晩.ヌンチャクはVIPクラブに忍び込んだ. ビデオテープを取った瞬間にVIPクラブの事務員に見つかってしまったが, 何とか撃退して逃走することに成功した. ビデオテープは水死体になった森あきこの情事を映したものだ. このときあきこは幻覚剤,おそらくLSDを飲まされていたに違いない. これをネタに嫌がる娘を会員にしていたのだ.マリアは再度, 園山に会うことにした.

今週のギャラ交渉 その2

最初と同じ場所でマリアは園山と会った.
園山「そうかあ.あの娘さんも被害者の一人かね.」
マリア「ええ.間違いありません.」
園山「ゴッドも君の熱意には応えたいと言っている.」
マリアは喜んだ.
マリア「ホントですか?」
園山「報酬は300万.」
マリア「はい.」
園山「不服じゃないのかね?」
マリア「いいえ.ありがとうございます.」
その言葉を聞いた園山は感激した.
園山「いやあ,君は素直でいいね.あのチャンプとは大違いだよ. よし,50万乗せよう.頑張りなさい.」
マリア「はい.」

アジトでマリアが説明した.
マリア「言うまでもないけど,ターゲットは二人.女は大原けいこ,38. 前歴は国会議員の秘書.秘書時代に広げた顔で大変な商売を思いついた.」
E・T「そこでこの大西とくっついたってわけだな.」
マリア「資料によるとピンクバー,覗き喫茶, あらゆるセックス産業に手を出してるわ.」
チャンプ「うらやましいやっちゃなあ.」
マリア「チャンプ.」
チャンプ「なんでや.セックス産業がなんでいかんねん.」
マリア「そんなこと言ってないわ. 若い女を毒牙に掛けて殺人まで犯してるかもしれないのよ,この二人は.」
チャンプ「まあ殺しはいかんわなあ.ところでマリア, お前さんの友達の山口香子ってのは何でバンコクで死んどったんや.」
マリア「資料によるとけいこはバンコクでも秘密クラブを経営しているわ.」
チャンプ「よっしゃ.早速にそのバンコクに飛んでみよう.」
ヌンチャク「あ,外国って聞いた途端それだもんなあ.」
チャンプ「何で?」
ヌンチャク「そんなの自前ですよ.」
チャンプ「わかっとるがな,お前.まだ女に銭使うほど落ちぶれておらんわい.」
本当か? それはともかく,E・Tは失笑した.
チャンプ「善は急げや.行こう.」
E・T「困った問題だ. さて,次の犠牲者が出ないうちに我々も次の仕掛け急ごう.」
チャンプ「資料.資料.資料.」
E・Tはチャンプに資料を渡した.
チャンプ「アディオス.」
そう言ってチャンプは去って行った.

さて大原はビデオが盗まれた件を気に病んでいた.次の日, E・Tは大西にマリアがいいとねじ込んでいた.そこへ鈴木がやってきた. 大西は鈴木をなだめて返した.そこでE・Tは札束を大西に渡した. 札束の効果はテキメンで大西の態度が低くなった. さてチャンプはバンコクでの調査結果を国際電話で報告した. 大原達は愛人バンクで使い古した女性を, 東南アジアの秘密クラブに送り込んでいたのだ. 女を連れて行くのは大西だった. 殺された山口香子はこの旅行が終わったら自由にしてやるという約束で, タイまで連れて来られたのだが,全くその気配がないので彼女は逃げ出し, そして捕まった.無理矢理酒をたくさん飲まされて海に突き落とされたのだ.
E・T「あの野郎.ハンギングだ.」
ギャラが分配された.
マリア「一人73万.これ内訳だから取っといて.」
マリアはプリンタから打ち出された紙をヌンチャクに渡した. ちなみにこの頃のプリンタはドット式で, 左右に穴が開いた専用の紙を使う形式のものだった.
マリア「これがチャンプの分.はい.」
そしてアロハツーリストは閉店した.

ハンギング

その頃,ひろしはマリアから来た手紙を読んでいた.
マリアの声「明日, あなたを愛した香子さんを死に至らしめた真実をお教えします.午前9時, 下記の場所までおいで下さい.」
場所は横浜港のヨットハーバー.

大原はマリアにE・Tとの契約を勧めていたがマリアは断った. 仕方がないので大原はジュースを持ってこさせた. マリアは飲む振りをしてジュースをハンドバッグの中に入れ,眠った振りをした. マリアを車の中に運び込んだ大西は,ついムラムラっときてしまった.
大西「いい女だあ.あの野郎にやらせるのはもったいないよ.」
どさくさに紛れてマリアの唇にキスした後,大西はこうほざいた. そして大西がブラウスを脱がせてブラジャーの上から胸をわしづかみにした瞬間, 大西は頭を殴られた.
大原「商品に手,出すんじゃないよ.」
大西は車を走らせた.大西の車をヌンチャクが尾行する. そして大西の車はホテル目黒エンペラーに入り込んだ.

マリアはベッドに投げ出された.
マリア「何すんのよ.」
大西と大原は部屋の外へ出た. そして別室でモニターテレビを覗いている部下に大西は
大西「準備はいいか?」
部下「Okです.」
大西「よし,後は俺がやる.あ,社長が心配しているからな, 十分警戒するように.」
部下「はい.」
部下二人は出て行った.マリアが寝ている部屋にはカメラがあり, モニターテレビにはそのカメラが映した映像が映っていたのだ. マリアはしっかりとカメラの位置を確認した. さて部下二人はホテルの駐車場でヌンチャクに倒された.その頃, 大西はE・Tを部屋に連れてきた. E・Tはマリアを相手に情事のお芝居.大西がモニターテレビを覗いているとき, ヌンチャクは吹き矢を吹いて大西を眠らせてしまった.

やっと大西が気がつくと「情事」が終わったところ. マリアはジュースに何か入れたのねと大西と大原に文句を言った. そして大原と大西はマリアを別室に連れて行き, マリアにビデオテープの存在をほのめかした.
大原「このビデオ,あんたの恋人に見せようかなあ.」
マリア「見せればいいじゃない.あたし,警察行くから.何よ, ジュースだけじゃないじゃない.隠しカメラで人の裸まで撮りやがって.」
大西「この野郎.おぼこだと思ったらとんだもんじゃないか.」
マリア「うるせえなあ,このドスケベ.あたしにしたこと, みんな喋ってやるから.」
大西が手を掛けると
マリア「何すんだよ.離せよ.」
大原「わからない子ね.おとなしくしてればいい目にだってあえたし, お金だってたんまり転がりこんできたのよ.大西,早く.」
大西はマリアに猿轡をかませた.

大西が運転し,マリアと大原を乗せた車をヌンチャクが,E・Tが追いかけた.
E・T「ヌンチャク,巻かれるな.着いたら先にセッティングしておけ.」
ヌンチャク「了解.」
ヌンチャクはビデオカメラを持って先回り. そこへ大原達もやってきた.早速撮影開始.
マリア「何すんのよ.」
大西「何するのかなあ.」
大西は酒を取り出した.そして大西は酒の瓶を水槽につけて遊んだ.
マリア「何よ,それ.」
大西「海水さ.飲んでもらうのさ.」
マリア「殺すつもりなのね,あたしを.」
大原「そういうこと.酔っ払って海に落ちて事故死するわけ.」
マリア「山口香子も森あきこもこうやって殺したのね.」
大西「知ってやがる.」
大原「そうよ.みーんな,こうやって死んじゃったのよ. あんたの名前も明日新聞に事故死として載るわよ.ねえ.」
大原は大笑い.大西は無理矢理酒を飲ませようとした. カメラを握るヌンチャクの手に力が入る.
マリア「何人殺したのよ.」
大原「さあ,何人だったかしらねえ.」
大西「さあ,何人殺しましたかねえ.」
マリア「ああ.お願い.助けて.死にたくない.言わないから. 絶対に誰にも言わない.」
大原「残念ねえ.死んでもらわなくっちゃなんないのよ.」
大原と大西はマリアの顔を水槽につけた. 突然,水槽から顔を上げたマリアが笑い始めた.
大原「何よ.何がおかしいのよ.」
マリア「勝負は下駄を履くまでわからないって言うでしょ.E・T.」
E・Tが登場した.
大西「中田さん.」
E・T「こんなにうまく乗ってくれるなんて, 俺達の芝居もまんざらじゃなかったみたいだなあ.ほら. これは愛人バンクの女性達からのプレゼントだ.」
E・Tはバーボンの瓶を取り出して見せた.
大原「動くな.」
大原はマリアの頭に拳銃を突きつけた.
大原「勝負は水物ね.」
大西も拳銃を構え,E・Tに狙いを定めた.だがE・Tは余裕の表情だ. バーボンの瓶を上に投げて注意をそらした隙に大原と大西の拳銃を打ち落とし, さらに落ちてきたバーボンの瓶を手にもった. その隙にマリアはE・Tのところへ駆け寄った.E・Tはバーボンを飲みながら
E・T「ああ,うまい.慌てる勝負は勝ち目がないってね. せっかく愛人バンクの女性達がお前達にプレゼントしようって言うんだ.あ, ほら.」
マリア「まあ,もったいない.あたし,頂くわ.」
マリアはバーボンの瓶をE・Tから受け取った.

そして大原が水着,大西は全裸に赤色の褌をしただけの姿に着替えさせられ, 網に入れられ,クレーンに吊られ,海につけたり,あげたりさせられた. その脇には「この二人は数人の女を自殺に見せかけた殺人犯である. 警察に連絡を!」と書かれた看板が立っていた. 大原も大西も泳げないので恐怖におののいた.野次馬が集まる中, 大原と大西は叫び声をあげた. そしてひろしもやってきて,ヌンチャク撮影のビデオを見た. 大西と大原はお互いに罪をなすりあいながら叫び声をあけた. パトカーのサイレンが響く中,ひろしとヌンチャクは去って行った.

マリアは岸壁を歩いた.そして香子がひろしに贈ったはさみを海に投げ捨てた. 歩いて去るマリアを車の中からE・Tが見ていた.

「新ハングマン」へ 「ほぼ全話のあらすじ」へ 「ほぼ全話のキャスト」へ 「緊急指令トラトラトラ」へ 「私の好きなテレビ番組」へ 「touheiのホームページ」へ戻る.


東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp