ケイは田代を見張っていた.ピンキーは山口を見張っていた. アジトでケイ,クロック,ピンキーが調査結果を報告しあった. 田代精二が理事長を務める南東京生活情報センターは悪質商法,食品公害, 環境問題など,ありとあらゆる消費者からの苦情を取り上げて調べる 市民グループだった.しかし奥村孝夫弁護士,田代精二, そして新聞記者である山口正幸の関係がよくわからない.
その頃,田代は営団地下鉄有楽町線新富町の駅を降りた所で,
奥村を殺した男(片桐竜次)にサイレンサーつきの拳銃で撃たれ,
殺されてしまった.一方,栗絵は良介と二人で歩いていた.
栗絵「大丈夫かしら.」
良介「何が?」
栗絵「お父さん,一人置いてきちゃって.」
良介「心配ないよー.親父の病気は発作的なものなんだから.
普段は人の話はちゃんと聞いてるし,言われたことはきちんとやるし,
さっきだって俺の話をまともな顔して聞いてたじゃないか.」
栗絵「でもねえ.」
良介「それより,栗絵.非番の日ぐらい夫婦水入らずで楽しまなくっちゃ.」
良介は強引に肩を組んで歩き始めた.
そして東築地警察署第三派出所(良介の勤務地)で同僚に栗絵を見せた.
同僚「知ってるよ.前にも一度会ったじゃないか.」
栗絵にベタ惚れの良介に同僚は呆れ顔.なおも歩く良介と栗絵.
ピンキーが栗絵に合図を送った.
良介「さて,どこで飯食おうか.中華,洋食,それとも…」
栗絵「あなた,先に行っててくれる? あたし,急用思い出したの.」
良介「急用?」
栗絵「うん.水道料金振り込まないと.」
良介「だったら明日だっていいじゃないか.」
栗絵「だめよーん.今日が支払期限なんだから.
3時までに振り込まないと水道止められちゃうの.ね.うふん.あたし,
中華でいいから,そこの先の来来軒で待ってる.」
そう言って栗絵は良介を置いて去ってしまった.
良介「栗絵.」
良介は呆然としていた.
ケイの店でマロンは報告を聞いた.
マロン「殺された?」
ケイ「たった今,テレビのニュースで見たんです.
生活情報センターの田代理事長が新富町の路上で殺されたって.」
マロン「まさか.」
クロック「きっと奥村弁護士を殺した犯人とおんなじ犯人だわ.」
ピンキー「ねえ,いったいどういうことよ,これって.」
マロン「もしかしたら,あの3人は何か重大な事件を探ってたのかもしれない.」
ピンキー「重大な事件?」
マロン「社会派の奥村弁護士,生活情報センターの理事長,
そして東都日報社会部の記者.この3人は密かに何か情報交換しながら探ってた.
となるとただの刑事事件じゃないわねえ.
これを暴かれては困る連中が奥村弁護士を殺し,田代理事長を抹殺した.」
ケイ「とするとマロン.次に狙われるのは山口記者ってことになるわ.」
マロンはうなずいた.
マロン「その前に何とか手を打たなきゃねえ.」
と,突然マロンは下を向いた.なんと良介がケイの店に入ってきたのだ.
マロン「いけない.」
どうしたのと聞かれてマロンは答えた.
マロン「うちの主人なのよ.」
クロック「えー.」
ケイも驚いた.ピンキーが新聞といったので,
クロックは傍らに置いてあった新聞をピンキーに渡してやった.
そしてマロンは新聞を広げて読む振りをして顔を隠した.
良介「いや,まいったなあ.一度家に戻ってそれから銀行に行くとなると,
30分はかかるだろうし.参ったなあ.」
なんと良介はマロン達の座るテーブルの隣りのテーブルについた.
良介「中華料理屋で30分も待ってるわけにはいかないしなあ.
しばらくここで時間でも潰していくか.」
良介はタバコをくわえた.しかしマッチもライターもない.
良介「あ,いけねえ.ライター忘れちゃったよ.」
良介はクロック達を見かけて声をかけた.
良介「すいません,火貸してもらえませんか?」
ピンキー「あ,あたし達,タバコ吸わないんです.」
良介「あ,そう.」
クロック達は一安心.しかし
良介「そこで新聞読んでるおばさんは?」
良介は栗絵とも知らずに無礼なことを言った.マロンは複雑な表情.
ピンキー「この人もタバコ吸わないの.ねえ,レジでマッチもらって来たら?」
良介「ああ,そうだね.へへ.そりゃどうも.」
ピンキーの作戦は的中し,良介はレジへと向かった.
その隙にマロン達は立ち去った.
マロン達は外で続きを話した.
マロン「ああ,ビックリしたあ.」
ピンキー「それにしても鈍感な亭主ね.」
ケイ「ピンキー.」
ピンキー「あ,ごめん.」
マロン「ねえ,さっきの続きだけど,
何とかして山口記者の命守る方法ないかしら?」
ケイ「そうねえ,四六時中彼の身辺見張ってるわけに行かないしねえ.」
クロック「警察に身辺警護依頼するのが一番だと思うけど.」
ケイ「その場合,本人が直接警察に依頼しなくちゃ.」
クロック「あ,そうか.」
マロンは何か思いついた.
マロン「その手はあるわねえ.」
その晩.奥村と田代を殺した男野木のところに電話が入った. 電話は会長からのもの.先方からせっつかれているので, 山口を殺してくれというのだ.会長は今週中に始末することを命じた. 野木は約束は出来ないがやってみると答えた.
ケイとクロックは東都日報の反対側のビルの屋上から,
山口とピンキーが会っているところをビデオカメラで撮影していた.
ピンキーは生活情報センターの中田と名乗り,
田代が殺された件で重大な情報があるというのだ.
ピンキーは山口を連れ出した.その頃,良介は街を警邏していた.
そこでマロンに出くわした.ブティックを見つけたので,
買い物に付き合って欲しいと言うのだ.
勤務中だがと初めは渋っていた良介も結局承諾した.
さてピンキーは公園に山口を連れ出した.その公園に野木の乗る車もやって来た.
東都日報から尾行してきたのだ.野木は車を降りて山口を狙おうとした.
山口「で,重大な情報というのは?」
ピンキー「その前に,あたしの方から聞きたいことがあるんです.
田代理事長はなぜ殺されたんですか?」
山口「え?」
ピンキー「あなた,知ってるんでしょう.理事長殺された理由.」
山口「君はそんなこと聞くために私を呼び出したのかね?」
ピンキー「お願いです.本当のこと話してください.」
だが山口は白を切った.
山口「現時点で私から話すことは何もないよ.」
ピンキー「山口さーん.次に狙われるの,あなたなんですよ.」
驚く山口.
ピンキー「警察に何もかも話すべきです.」
山口「一体何を話せというのかね?」
ピンキー「あなた方が探ってた事件のこと.」
山口「警察に話せるだけの確証があれば私がとっくに新聞種にしてるよ.」
ピンキー「じゃあ,せめて身辺警護だけでも.」
山口「その必要はないね.私はもう,あの事件から手を引いたんだ.」
ピンキー「そんなあ.」
二人が話す様子を野木も木陰から見ていた.野木は懐に手をやった.
山口「仕事があるもんで失礼.」
ついにピンキーは奥の手を使った.ピンキーはシャツを破り,
下着をはだけさせた.そしてこう叫んだ.
ピンキー「きゃあ,助けてえ.痴漢.誰か,助けてえ.きゃあ,痴漢.」
山口「君!」
ピンキーは山口に抱きついた.そこへ良介がやってきた.
マロン「あなた,何かしら?」
良介はピンキーのところに駆けつけた.
ピンキー「ああ,お巡りさん.この人,この人,乱暴するんですー.」
ピンキーのブラウスは破れていてブラジャーが丸見えだったので,
良介はこれが狂言だと言うことに気がつかなかった.
山口「違うんだ.これは狂言です.私は何もしてません.」
しかしこの弁解は良介には通用しなかった.
良介「黙れ.婦女暴行現行犯で逮捕する.」
良介は山口を連行してしまった.それを見た野木は諦めて車で立ち去った.
その車をマロンはしっかり見ていた.そこへピンキーがやってきた.
マロン「どう,うまく行った?」
ピンキー「大成功.」
マロン「そう.これで少なくとも2,3日は警察に拘留されるわねえ.」
ピンキー「その間は彼の命は保証されると.」
それがマロンの狙いだったのだ.
マロン「山口記者には申し訳ないけど,仕方ないわね.」
ピンキー「そう.世の中で一番安全な場所にいるんですからね.」
マロンはうなずいた.
マロン「さてと次の段取りはビデオを分析して不審人物の洗い出し.」
ピンキー「はい.」
マロン「ケイ達,もうアジトに戻っているかしら?」
ピンキー「と思いますけど.」
マロン「じゃ,行きましょう.」
早速アジトでビデオテープを分析した.
マロンが目撃した車は東都日報の前からつけていたのだ.
マロン「この車.ちょっとストップモーションして.」
マロンは公園で目撃した車であることを確信した.
マロン「この画面,拡大できないかしら?」
ケイ「やってみます.」
顔は見えないが,車のナンバーは読み取れそうだ.
その頃,善次郎は将棋盤に向かって詰め将棋を解いていた.
そこへ電話がかかってきた.
善次郎「はい,浜野.」
善次郎は電話を掛けて来た人物の声を聞いて襟を正した.
善次郎「これはゴッドでございますか.いつぞやはどうも.は.
ハングマンの行動費でございますか.はい.いいえ.今ちょうど,
嫁が外出してますんで.はい.では,後ほど.はい.」
善次郎はメガネを外し,獲物を狩る鷹のように鋭い目つきになった.
あのボケ気味の善次郎とはえらい違いだ.
一方,マロン達は車のナンバーから所有者を割り出そうとしていた. 車のナンバーは品川33ゆ15-99.持ち主は野木義一. 住所は港区白金台7-8 大和レジデンス505号.
野木は車に乗り,自宅のマンションを出た.早速マロンとクロックの乗る車が
野木を追跡した.野木はグランドホテルに入った.
そのとき,マロンは善次郎に似た紳士を目撃した.彼は立派なスーツを着込み,
髪をきちんと分け,立派なメガネをかけてちょび髭を生やしていた.
マロンは驚いて柱に隠れ,紳士を覗き込んだ.
クロック「どうしたの?」
マロン「いえ.」
その紳士は変装した善次郎だった.善次郎はフロントで聞いた.
善次郎「浜野と言いますがねえ,神山さんから鞄が届いてるはずだが.」
フロント「はい.お預かりしております.少しお待ちくださいませ.」
善次郎「うん.」
フロント「こちらでございます.どうぞ.」
善次郎「うん.ありがとう.」
善次郎は鞄を受け取って去って行った.
クロック「あの人が何か?」
マロン「あたしの義父にそっくりなの.」
それを聞いたクロックは驚いた.
クロック「ええ! まさか.」
善次郎は悠々と去って行く.
さてケイの店に電話が入った.
ケイ「はい.竹芝ロフト.え? ゴッドの代理人? あ,はい.わかりました.
すぐ伺います.」
電話を聞いたケイにピンキーが聞いた.
ピンキー「ゴッドの代理人?」
ケイ「うん.行動費を渡したいから取りに来てくれって.」
ピンキー「ふーん.」
ケイ「私,ちょっと行って来る.」
ケイは外へ出て行った.
さてマロンとクロックはホテルのレストランで野木を見張っていたが
マロン「クロック.」
クロック「はい.」
マロン「あたし,ちょっと用事を思い出したの.後お願いするわ.」
クロック「はい.」
マロンはホテルで見かけた紳士が善次郎ではないかと考え,
自宅に戻って確かめようとしたのだ.
ケイは竹芝埠頭でゴッドの代理人こと善次郎と会った.
善次郎「やあ,ケイ.」
ケイ「ゴッドの代理人の方ですか?」
善次郎「そう.いよいよ煮詰まって来たようだね.」
ケイ「はい.」
善次郎はアタッシュケースを渡しながら言った.
善次郎「あ,これは当座の行動費だ.
君達のギャラは仕事が終わった時点で支払うからね.」
ケイ「わかりました.」
善次郎「じゃ,マロンによろしく.」
そう言って善次郎は去って行った.
さてマロンは急いで自宅に帰ってきた.
ドアを開けて中に入ると中は静まりかえっていた.
やはりあの紳士は善次郎なのだろうか?
だが善次郎の部屋の戸を開けて見ると善次郎が本をたくさん積み上げ,
将棋盤も積み上げてバリケード代わりにし,
風呂の蓋を自分の前に置いて鎧代わりにし,
頭には鍋を被ってヘルメット代わりにし,
掃除機のパイプを持って武器代わりにして身構えているのが見えた.
栗絵「お義父さん.何の真似ですか?」
善次郎「来るな,危ない.下がって.」
栗絵「え?」
善次郎「過激派が時限爆弾を仕掛けていったんだよ.」
栗絵「時限爆弾?」
善次郎「ほら,あのテーブルの上.
爆弾処理班が到着するまで表へ避難してなさい.」
栗絵は呆れて言った.
栗絵「ちょっと,お義父さん.」
テーブルの上に置いてあるのはただの目覚まし時計だった.
善次郎「危ない,危ない,危ない.ダメ,ダメだ.あー.」
善次郎は伏せた.栗絵は時計を持って善次郎に言った.
栗絵「これはただの目覚まし時計でしょう.」
善次郎「目覚まし? いやー,わしは見覚えがないぞ,その時計.」
栗絵「古いのは壊れちゃったから,新しいのに買い換えたんです.
よく覚えといてくださいよ.これは目覚ましなんですから.」
善次郎「そうかあ.目覚ましかあ.」
善次郎は鍋を脱いだ.それを見た栗絵は心の中で呟いた.
栗絵の声「やっぱり,人違いだった.」
クロックは野木が男に会うのを見かけた. 野木は山口が警察に婦女暴行で捕まったことを報告した. 男は狂言じゃないかと言った.狂言を起こして警察に逃げ込むくらいだから, 山口は大したネタはつかんでいなかったのだろうと男は言った. 自分の身に危険が迫っている.しかし訴え出るだけの証拠は何もない. だから狂言をでっちあげたのだろうと.いずれにしろ, こっちから手は出せない,と野木が言うと,男は,向こうも手が出せない, ほとぼりが冷めるまで放っておこう,とほくそ笑むのであった.
クロックの調べで野木と会っていた男が亜細亜総業の会長だったことがわかった.
亜細亜総業は表向きは政治結社ということになっていたが,
裏では企業の秘密を握って強請っている連中だった.黒幕がいるに違いない.
ケイ「よし,その亜細亜総業の事務所,探ってみようか.」
クロック「そう思って,これ用意してきた.」
クロックはアタッシュケースを開けた.
クロック「これが超小型無線盗聴機.こっちが受信用の自動録音装置.」
その晩.ケイは亜細亜総業の事務所に忍び込んだ.鍵をロック解除装置で開け,
中に入ると男が寝込んでいるのが見えた.ケイは会長室に忍び込み,
電話機に盗聴機を仕掛けた.そして会長室を出ようとした瞬間,
ケイは男に拳銃をつきつけられた.
男「何を探りに来やがった.さあ,言え.」
ここでケイはとんでもないはったりをかました.
ケイ「撃ちたきゃさっさと撃ちなよ.」
男「なんだと?」
ケイは机の上に座り込んだ.
ケイ「あーあ.霞のおケイも焼きが回ったもんさ.
ここと目をつけたところは一度も外したことねえのに.」
ケイは机を叩いた.
ケイ「なんだい,このビル.ビタ銭一文置いてねえじゃねえかよ.」
ケイは泥棒の振りをしたのだ.
男「霞のおケイ?」
ケイ「あれ,知らないの? 全国に指名手配の盗犯202号.
名うてのビル荒らしってのは,あたしのことだよ.」
男「お前,盗人かあ.」
それで納得するなよ,と僕ちゃんは初見の際,思ったぞ.
ケイ「今更悪あがきしてもしょうがないから,殺すなり,警察に突き出すなり,
好きなようにしなよ.」
男「いやあ,うちの会社にもいろいろとわけがあってなあ.
警察沙汰はちょっとまずいんだよ.」
実はそれがケイの狙いだったのだ.
男「と言って,殺すにはちょっと勿体無いし.
この体で落とし前をつけるってのはどうだい?」
ケイはほくそえんだ.
ケイ「話のわかるお兄さんねえ.」
男の隙をつき,ケイは男を蹴り倒した.
そしてビルの1階の配電盤に受信機兼自動録音装置をセットした.
しばらく経ったある日.マロンは亜細亜総業のビルに向かっていた.
だが間の悪いことに途中で良介がそれを見かけてしまった.
良介「栗絵.」
マロンは受信機を回収した.だがそこへ良介が来てしまった.
良介「栗絵.」
マロン「あ,あなた.」
良介「なにしてんだよ.こんなとこで.」
マロン「いや,ここを通りかかったらねえ,配電盤から煙が出てたの.」
良介「煙?」
マロン「うーん.心配だから,ちょっと覗いてみたんだけど,
でも異状なかった.」
良介はこの出任せをすっかり信じてしまった.
良介「そうか.君って本当に気配りの細やかな女だねえ.」
マロン「そりゃあ,警察官の女房だもん.」
良介「栗絵.」
マロン「なあに?」
良介「俺,君に惚れ直しちゃったあ.」
マロン「あなた.好き.」
その後,マロンは良介と一緒に街を歩いた.
そして良介が上官の佐山を見かけて自分のところを離れた隙に,
ピンキーに受信機を渡した.良介は佐山に栗絵を紹介した.
佐山「前にも何度か会ってるじゃないか.」
それにもめげず,良介は栗絵を団地一の美人だあ,美人だあ,
と言われていると自慢.佐山は呆れてしまい,そんなこと言ってる暇あったら,
しっかり見回りをしろと良介を注意するのであった.
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