第六回

巧妙な保険金殺人のからくりを暴く.
愛妻家ボクサーが保険金にKOされる!

脚本:日暮裕一 監督:児玉進

事件勃発

神田川に沿って聖橋の方から神田の方へ向かって走っていたボクサーが, 突如胸を押さえて苦しみだした.そして死んでしまった.

さて英家では雅則が蝶子に詰問されていた. 雅則が勝手に生命保険に加入したからだ.
雅則「何かあった時にさ,お互いに困らないように…」
蝶子「もう入ってます.」
雅則「あれー,そうだっけ?」
頭をかく雅則.
蝶子「第一,これは掛け金ばかり高くて掛け捨てじゃないですか.」
雅則「生命保険なんてみんなそういうもんだろう.」
蝶子「今入ってる『にこにこ老後保険』は満期になれば, 利息がついてちゃんと戻ってくるんです.」
雅則「あ,そう.」
雅則はぐうの音も出なかった. 蝶子は生活設計があるから保険に入るならちゃんとしたものにしろと言うと,
雅則「いてててて.急にお腹が痛くなった.」
と叫んでトイレへ駆け込んでしまった.
蝶子「もう!」
怒った蝶子は保険証書を投げ上げた.

調査開始

その翌日.蝶子が江戸川の川辺をジョギングしていると
マネージャー「あ,は,は,は,は.せいがでますなあ.」
マネージャーがリュックサックを背負ってジョギング姿で登場. しかし蝶子は無視.どんどんスピードを上げてしまった.
マネージャー「おい.おい,ちょっと.ちょっと.ねえ.」
マネージャーはどんどん引き離されてしまった.
マネージャー「おーい.ちょっと.ね,せっかく,用事があるって.あるの. ね.」
マネージャーは息が上がってしまい,うずくまってしまった.
マネージャー「ああ,ダメだ,こりゃ.ああ,もう,わざと.」
やっとパピヨンは引き返してきた.
マネージャー「ええ,なかなか健脚のようですけどね,無理は禁物ですよ. 運動は適度にやらんとね.」
パピヨン「ええ.走りなれてますからね.」
そう言ってパピヨンは走り回っていた.
マネージャー「でもね,ロードワーク中のボクサーが死んだ. 死因は心臓麻痺だった.」
パピヨンは立ち止まった.
マネージャー「ま,ボクサーの死亡事故はそう珍しいことじゃない. だが,同じジムの選手が2年前も同じような死に方をしていて, しかも高額な保険が掛けられていたとしたら?」
パピヨン「保険金殺人.」
マネージャー「確証はまだないんだが,それを暴くのが今回の仕事だ. ま,詳しくはこれを読んでくれ.」
マネージャーはリュックサックからファイルと封筒を出して渡した.
マネージャー「運動は適度に.無理は禁物ね.」
マネージャーは去って行った.

問題のジムは高沢ジム.3ヶ月前にジョギング中に亡くなったのは小森謙二. 死因は心臓麻痺.寺田勝彦は日本ジュニアライト級4位だったが, 2年前にタイトルマッチを控えていて練習中に心臓麻痺で死亡. ジムの会長は高沢(小松方正)でキャバレーも何件か経営していた.
バニー「この男が保険金の受取人ですね?」
受取人は選手の妻達だった.
バニー「だったら問題ないんじゃ…」
だが掛け金を払っていたのは高沢だった.しかも高沢は保険金が下りた直後に, 新しい店を開店させていた.
ファルコン「まずは高沢ジムを探ることですね.」
パピヨン「お願いね.今回のギャラは80万. ファルコンは特別に20万の経費をプラス.」
エジソンが文句を言った.
エジソン「あれ,なんでファルコンが20万プラスなの?」
パピヨン「潜入のための特別経費.」
エジソン「そんなんないんじゃないの.」
ファルコン「なんだったら,代わってあげようか?」
エジソン「いや,結構です.」
エジソンは渋々納得した.
エジソン「もう5年若ければ考えるけどね,俺も.」
ファルコン「5年? 10年じゃないの?」
バニー「20年ですよ.」
エジソンはジロっとバニーを睨み,パピヨンは失笑した.
ファルコン「際どいとこだね.」

ファルコンは高沢ジムに練習生として潜り込んだ. だが3日も経つのにファルコンを指導してくれる者は誰もいなかった. 高沢もトレーナーも水谷というボクサーのタイトルマッチが近いので, 水谷にかかりっきりだったからだ.水谷治は元日本フェザー級チャンピオン. だがそれは7年前の話.どこのジムもとっくに見放していたのを, 高沢が移籍させて強引にタイトルマッチを組んでいたのだ. しかも33歳なのに2階級も落としてバンタム級で闘わせると言うのだ.
ファルコン「無茶だなあ.」
水谷は地下の特訓室でトレーニングしていたが, 練習生仲間は高沢にどやしつけられるので近づかないほうがいい, とファルコンに警告した.

早速ファルコンが地下の特訓室を覗いて見ると,中はストーブやヒーターだらけ. 水谷はビニール製のコートを着て縄跳びをしていた.減量のためだ. 覗き見しているファルコンの顔にパンチが飛んだ. 高沢とトレーナー二人(伊吹徹,塩見三省)がやってきたのだ.
高沢「何してんだ.」
ファルコン「俺,水谷さんのファンなもんですから.」
高沢「ここは立ち入り禁止だぞ.わかったら消えろ.」
仕方なくファルコンは退散した.

口を押さえながら出てきたファルコンの肩を誰かがつかんだ. 思わず殴ろうとするファルコン.
エジソン「おっとっとっと.何があったか知らないけど,そうかっかしないの.」
安心したファルコンは緑美園のワゴンの中で, エジソンに水谷を使ってまたやる気だと言った.
エジソン「なるほど.必要経費を多く取るだけのことはありますね.」
ファルコン「ありがと.」
方法は肉体の限界を超えた減量と練習で心臓をパンクさせることだ. 前の二人と同じ手口だ.手を下さなくて合法的に死なせることができる. エジソンはファルコンに死んだボクサーの妻達のことを話した. 二人とも高沢が経営しているキャバレーマンハッタンの元ホステスだった.
エジソン「ま,好意的に考えればさ,縁結びの神様になったってわけ, 高沢が.」
ファルコン「あの面じゃ神様に見えないねえ.」
エジソン「でしょう.」
ファルコン「見えない,見えない.」

早速パピヨンがホステスとしてマンハッタンに潜入し, おばさんのホステス仲間からパピヨンは死んだ二人の妻達のことを聞き出した. 二人とも見合い結婚し,結婚してすぐに死んだというわけだ. 二人とも保険に入っていたおかげで大金を手にした. とここまで聞いたところで別のホステス(高沢順子)が入ってきたので, おばさんは話をやめた.そのホステスが出て行った後,おばさんは話を再開. 出て行ったホステスの真梨子も高沢の紹介で最近水谷と結婚していた. 噂によると高沢が水谷に保険を掛けてやったらしい. 前の二人も真梨子も高沢のお手付き.つまり保険は手切れ金代わりだという訳だ.

バニーの調べによると小森謙二の妻小森典子は, 保険金が下りると同時にブティックを開店していた.寺田勝彦の妻寺田和江は, 1年前からロサンゼルスに渡っているので調査不能だった.
エジソン「てめえの女を保険金の受取人にしたんだ,高沢は.」
バニー「でも,どうしてそんな回りくどいやり方を?」
鈍感なバニーの言葉を聞いてファルコンは呆れてしまった.
ファルコン「(大声かつ早口で)身内でもねえのに, 高額の保険金の受取人になったら,おかしいじゃないか!」
エジソン「ましてや本人だって納得しねえだろうが! 自分が死んで高沢に金が転がり込むなんて.」
ファルコン「何考えてんだよ.いったい.」
バニー「(大声で)早速ハンギングを!」
ファルコンとエジソン「確証がないんだ!」
パピヨン「彼女達と高沢の関係を立証すればOKよ.」
バニーとエジソンは小森典子を当たることになった. ファルコンは水谷を当たることになった.
バニー「(大声で)はい!」

その晩.典子のブティックに置いてあった女のマネキンが動き出した. マネキンは白いお面を被り,かつらを着けて女装したエジソンとバニー. バニーは電話機に盗聴機を仕掛けた.
エジソン「ねえ,うまくいったわね,バニーちゃん.」
バニー「そうね,お姐様.」
エジソン「それじゃ,このままお店出ましょう.」
バニー「そうしましょ.」

翌朝.水谷は眠る真梨子の布団を直してやった. そして薬を飲んでからジムへと出かけて行った.

自転車に乗るトレーナー(塩見三省)と一緒に皇居のお堀端を走る水谷に, ファルコンが声を掛けた.ファルコンはわざとトレーナーを突き飛ばし, 水谷に声をかけた.水谷はスピードを上げて走り去り, ファルコンは離されてしまった.息が上がり, 西郷さんの銅像(上野にある物とは別物)の下で寝そべるファルコンは
ファルコン「本当に33かよ.」
と息をハーハー言わせていた.だが水谷も胸を押さえて倒れていた. 救急車を呼びに行こうとするファルコン.そこへトレーナーが登場.
トレーナー「誰が休んでいいと言った.さっさと起きて走れ!」
見かねたファルコンが止めたが
トレーナー「こんなロートルがタイトルに挑戦しようって言うんだ. 人並みのことをやってたらおっつかねえんだよ.」
だが人がやってきたのでトレーナーは諦めた.

典子のブティックにエジソンが乗り込み,保険金の話を持ち出して強請った. 図星だったらしく,典子はエジソンを叩きだした. 早速エジソンとバニーが盗聴開始.典子は高沢のところへ電話した. 心配する典子に
高沢「なーに,サツも保険会社も見抜けなかったんだよ.心配するな.」
典子「でも.」
高沢「下手に騒ぎ立てたら薮蛇になるってことを忘れるなよ.」
しっかりエジソンとバニーは聞いていた.
エジソン「これで女と高沢がつるんでるってことがわかったか.」

心配して水谷を看病する真梨子.ロビーでファルコンはパピヨンに報告した. 医者の話では, 水谷は今までボクシングを続けていたのが不思議なくらい衰弱していた.
ファルコン「ま,これで水谷もわかったでしょう. このまま続けていればどういうことになったか.」
高沢と典子もつながった.後は真梨子を洗ってハンギングだとパピヨンは言った.
ファルコン「洗うまでもないと思いますけどね.」
だが,なんと水谷は退院してしまった.ファルコンは玄関で水谷を呼び止めた. 水谷はちょっと疲れただけだと言い,練習を再開するつもりだったのだ.
ファルコン「冗談言うなよ.死んじまうぞ,このまま続けたら.」
だが水谷は聞かなかった.ファルコンは真梨子にも詰め寄ったが, 水谷を止めた.そこへトレーナー達がやって来た. トレーナー達は強引に水谷を連れて行こうとした. ファルコンには首を言い渡し,餞別としてパンチをお見舞いした.
真梨子「あなた.」
トレーナー(伊吹徹)「なんや.」
真梨子「あの…」
水谷「心配すんな.俺は大丈夫だから.」
心配そうに水谷を見る真梨子.
トレーナー「ほな,奥さん.これ,いつもの栄養剤ですわ.」
トレーナーは真梨子に錠剤の瓶を渡した. そして水谷はトレーナーと一緒に去った.

パピヨンは真梨子を尾行した.突然,真梨子は倒れてしまい, パピヨンが介抱した.その頃, 関西弁を話す方のトレーナーは高沢に真梨子の様子がおかしいと報告. 水谷に本気で惚れたのではないかと考えたのだ. そこへ別のトレーナーがやってきた. 伊吹(ファルコンのこと)が乗り込んできたというのだ. ファルコンはリングに上がり,水谷と試合をしようとしていた. 高沢は様子を見ることにした.一方的に叩かれるファルコンを見て
トレーナー「こら,まるで勝負にならんわ.」
だが
ファルコン「まるで効かねえんだよ,あんたのパンチは.」
ファルコンの反撃を喰らい,水谷は2回もダウンしてしまった.
ファルコン「わかったろ,自分の状態が.」
トレーナー達と高沢は「ラッキーパンチだ」とか「ただのまぐれだ」と言い, 水谷も「次のメニューをお願いします」と言った. ファルコンは追いかけようとしたが, 関西弁を喋る方のトレーナーにナイフを突きつけられた. そしてファルコンは地下の特訓室に閉じ込められた. サンドバッグに縛り付けられ,ストーブとヒーターで焦熱地獄.さらに
トレーナー「この部屋は扉閉めてまえば密室になんのや.」
ファルコン「そんでストーブ燃やしつづけたら…」
トレーナーはファルコンの腹にパンチを数発お見舞いした後
トレーナー「己は事故死すんのや.減量中に誤って窒息ゆうことで方つくわ.」
と言って去って行った.ストーブが燃え,ファルコンは汗をかいた.

真梨子は注射器に手を出していた.パピヨンは注射器を取り上げた. パピヨンは一生懸命真梨子を励ました.トレーナーの睨んだ通り, 真梨子は水谷を本気で愛していたが, 麻薬のために高沢達の言いなりになっていたのだ. 水谷もそのことを知った上で真梨子を愛していた.その頃, ファルコンは失神してしまった. そんなファルコンをたたき起こしたのは水谷だった.水谷はストーブを消し, ヒーターを止めてやった.だが縄を解こうとはしなかった. 自分の戦いが終わるまでは邪魔されたくなかったからだ.
ファルコン「どうして,どうして,そんなに入れ込むんだよ. あの女,高沢の女だったんだぞ.」
水谷「知ってるよ.今は俺の女房なんだ. その真梨子は悪魔に取り付かれて苦しんでんだ. 何とかしてやるのが当たり前だろう. そのためには,どうしても金が要るんだ.」
ファルコン「でも死んじまったらよ…あんた,まさか,死ぬ気じゃねえだろな.」
水谷は無言だった.
ファルコン「どうかしてるぜ,あんた.」
水谷「俺はボクサーとしては未熟だ.とっくに峠も越えちまってる. どう頑張ってみても世界が狙えるわけじゃねえし,かといって, ボクシングしか出来ねえ半端もんだあ.いい年こいて, それしか持ち合わせがねえんだよ,俺には. ボクシング以外何もなかった俺にはじめてできた家族のためだからなあ. 出し惜しみするわけにはいかねえよ.」
そう言って水谷は去って行った.ファルコンは馬鹿野郎と叫んだ.

走る水谷.縄を解こうとするファルコン.地下の特訓室にエジソンが現れた.
エジソン「よ.」
ファルコン「はやく.はやくロープ解け,馬鹿野郎.」
エジソン「馬鹿野郎?」
エジソンが引き返そうとしたので
ファルコン「ちょ,ちょ,ちょ,ちょ,ちょ,ちょっと待て. 頼むよ,エジソン.頼む.な.」
エジソンは部屋に入ってきた.
エジソン「いやあ,助けてもらうにはもっと感謝の気持ちがないと. 似合うじゃん,子供背負ってるの.」
ファルコン「この年で子持ちにはなりたくないよ.」
エジソン「ダメだ.こんがらちゃったよ.解けねえ.」

寝ている真梨子は思い出していた. 真梨子は水谷に麻薬のことも高沢の女だったことも打ち明けていたが,
水谷「昔のことはどうだっていいだろう.今,俺の女房なんだから. たった一人の家族なんだから.」
さらに
水谷「お前は何も心配しなくていいんだ.俺が必ず救い出してやるから. この命に代えても.」
そこへ医者から電話がかかってきた.興奮剤の服用を中止するようにと言うのだ. このまま服用すれば非常に危険だと言うのだ. そう.トレーナーから渡されていた錠剤は栄養剤ではなく,興奮剤だったのだ. そこへ関西弁を話す方のトレーナーがやって来た. トレーナーの前で真梨子は錠剤の瓶を叩き割り,皆ばらしてやる,と言ったが, トレーナーに取り押さえられてしまった.
トレーナー「無理やなあ.己はヘロインの打ちすぎでくたばってまうのや. 保険金は代理人の会長に転がり込む.」

水谷はトレーナーが真梨子を連れ出そうとしているところに出くわした. 真梨子を救おうとトレーナーに飛び掛る水谷. だがトレーナーのパンチを受けてダメージを受け, 水谷は胸を押さえて苦しんだ.さらに水谷はナイフで刺されてしまった. そこへファルコンとエジソンがかけつけた. ファルコンはパチンコでナイフを弾き飛ばした. トレーナーには逃げられたが,真梨子は無事だった. 水谷を見て救急車を呼べとエジソンに言うファルコン.だが水谷は
水谷「待ってくれ.その必要はねえ.これでいいんだい. お前に頼みがある.」
ファルコン「なんだよ.言ってみろよ.」
水谷「俺の,保険が,下りたら,真梨子を,伊豆の,サナトリウムへ. 手続きは,してある.」
ファルコン「あんた,そのために.」
水谷「あそこで,あいつの体を,きれいに.頼む.」
ファルコン「わかった.約束するよ.」
真梨子が駆け寄った.
真梨子「あなた,あなた.ねえ,あなた.あなた.ねえ,どうして. どうしてあたしなんかのために,ねえ.」
水谷「俺達,夫婦だろう.」
それが水谷の最期の言葉だった. 号泣する真梨子を見てエジソンもファルコンも泣いた.

バニー「どうして水谷は騙されてるとわかって彼女のために…」
パピヨン「バニーも人を愛した時にわかるわ.」
エジソン「んま,子供じゃ無理だよな.」
パピヨン「ハンギングと行きましょ.」
蝶の舞うCGが流れた.衣裳部屋からパピヨンが登場.
パピヨン「Let's go!」
3人「Hanging!」
3人は手をたたきあった.そしてハングマンは出動した.

ハンギング

高沢はトレーナー達からファルコン達のことを聞いていたが, 真梨子が泣きつかなきゃ大丈夫だと涼しい顔. そのとき,部屋の明かりが消えた.サンドバッグを叩く音が響いた. 高沢の命令でトレーナー達がジムに入ると, 水谷の服を着たファルコンがサンドバッグを叩いているのが見えた.
ファルコン「水谷の使いで来たよ.デスマッチの招待になあ.」
トレーナー達は怒りに燃えるファルコンの激しいパンチと, エジソンのモップを食らって倒された. ちなみにエジソンは弱そうな方を倒した後,モップで床を拭いた.

高沢の部屋にバニーとパピヨンが登場.二人とも喪服を着ており, バニーは葬式用の花輪を持っていた.
高沢「なんだ,お前ら.」
パピヨン「お葬式の花輪をお持ちしました.」
高沢「そんなものは頼んどらん!」
パピヨン「すぐ必要になりますわ.あなたのために.」
高沢「何?」
高沢はバニーの投げた花輪で動きを封じられた.
パピヨン「最期のご一服をどうぞ.」
高沢はバニーにタバコをくわえさせられ, パピヨンがライターから噴射した催眠ガスの餌食になった.

真梨子の病室にファルコンが見舞いに訪れた.
ファルコン「水谷のだ.」
ファルコンは真梨子に水谷が使っていたグローブを渡した.
ファルコン「今度は君が戦う番だ.」
真梨子は無言でファルコンを見つめた.
ファルコン「4時にテレビ見てくんねえか. クズどもに制裁が加えられるそうだから.」
ファルコンが去った後,真梨子はグローブを抱きしめた.

さて悪党達はリングの中にいた.悪党達はルームランナーの上に立たされており, 白いウレタンで周りを覆われていて,腕と頭だけが出た状態になっていた. さらに悪党達は両手にグローブをはめさせられていた.
高沢「な,なんだ,こりゃ.え?」
前を見るとヒーターと文字盤が見えた.文字盤には数字が書かれていた. 関西弁を喋る方のトレーナーAと高沢が前を見ている最中, もう一人のトレーナーBが脇に食パンが置かれているのに気がついた. 食パンの前にもヒーターが置かれていた.
ファルコン「そろそろデスマッチのゴングを鳴らそうか. 今から諸君にはロードワークを始めてもらう. 性格の悪い諸君のことだから黙って言うことを聞くとは思えないんで, 走りたい気分にさせてやるよ.」
ヒーターに火が入った.
ファルコン「どう.そのジェットヒーターは特製だから,すぐに温度が上がり, 汗をかくには最高.減量するにはもってこいだと思うよ. そして諸君らの足元にあるランニングマシーンは, そのジェットヒーターに接続されてる.」
熱さにのけぞる高沢とトレーナーA.脂汗を浮かべて口をあけるトレーナーB.
ファルコン「もし熱くなりすぎたらできるだけ速く走ることだ.」
高沢「な,何を!」
ファルコン「速度が上がれば上がるほど, ヒーターの温度が下がるようにしてある.後は自分達で調整してよ. ま,走り過ぎても体温は上がるだろうけどね.」
高沢「おい.よせ.おい.馬鹿なことすんな,畜生.」
トレーナーA「おい,やめんかい,こら.やめんかい,こら.」
トレーナーBは口を開けっ放し.文字盤が40から60になった.
高沢「おい.いったいどういうつもりだあ.」
ファルコン「ほら,ほら.そんなこと言ってる間に, ヒーターの温度はどんどん上がるよ.」
60から80になった.
高沢「お前ら,こんなことする,資格あるか!」
120になった.食パンも焦げていった. それに気がついたトレーナーBはランニング開始. 泡食ってトレーナーAも高沢も走り始めた.80になった. 食パンが黒くなっていく.高沢がへばり始めた. 100と120の間を行ったり来たりして,120になった.
トレーナーB「や,や,や,やめてくれえ.」
ファルコン「やめてほしければ,お前らの悪事をすべて吐くんだなあ. スタンバイ.」
エジソン「了解.」
アンテナがセットされた.
トレーナーB「やめろー.」
食パンはもう真っ黒だ.
トレーナーB「は.喋るー.喋るからやめてくれえ.」
高沢はトレーナーBをぶん殴った.
高沢「馬鹿野郎,黙れ.」
トレーナーB「あ,痛.」
だが
トレーナーB「喋るー.喋るから…」
高沢「黙れ.」
高沢はまたぶん殴った.
高沢「喋るな.喋らんぞー.」
ファルコン「おい,おい.仲間割れは良くないなあ.お宅にはペナルティーだ.」
高沢のヒーターが高沢に近づいた.
高沢「いい加減にしろ.」
トレーナーB「やめてくれえ.」
食パンが燃え始めた.
ファルコン「次は誰のヒーターを近づけようか.」
トレーナーBのヒーターが近づけられ,トレーナーBは悲鳴をあげた.
高沢「喋るんじゃねえぞ.」
だがトレーナー達は汗だくで息も上がってきた.パピヨンは秒読み開始.
パピヨン「5,4,3,2,1.キュー.」
エジソンがスイッチを押すと同時に「ON AIR」開始. 「東京・南麻布 専売病院看護寮」のテレビなどに,悪党達の姿が映し出された. 高沢がトレーナーBをぶん殴った.
トレーナーB「何が会長だ.」
高沢「喋らんぞー.喋らんぞ,貴様.」
高沢はトレーナーBを説得している最中,
トレーナーA「全て喋るー.」
高沢はトレーナーAをぶん殴った.
トレーナーB「全てはこの高沢の話なんだ.ボクサーに保険掛けて殺したのは.」
高沢「俺は知らねえぞ.勝手に俺一人のせいにしやがって.」
トレーナーA「人のせいにするな.」
高沢「馬鹿,黙れ.」
トレーナーA「全部会長がやったことじゃねえか.」
高沢「黙れ,貴様.黙れ.」
トレーナーB「嘘じゃねえ.」
高沢のパンチが飛ぶ中
トレーナーB「練習中の事故死なら怪しまれねえって.」
水谷のグローブを抱き寄せながら真梨子もテレビを見ていた.
高沢「嘘だあ.」
トレーナーA「会長の計画じゃねえか.」
高沢「俺一人でやったんじゃねえや.」
トレーナーBが高沢を殴った.
高沢「みんなでやったんだあ.」
トレーナーAも高沢を殴った.
その醜態を見て真梨子は悲しみに暮れた. そして悪党達の足元が爆発し,部屋が暗くなった.

また急に明るくなり,薔薇の花を持ったパピヨンが登場.
高沢「(咳した後)誰だ,お前は?」
パピヨン「闇に舞う蝶,パピヨン.安らかに眠っていただきます.」
薔薇の花から催眠ガスが噴射され,悪党達は再び眠りに入った. そして蝶の描かれたダンボールにつめられて警察署の前に運ばれた.

事件解決して…

ファルコンはサンドバッグを一心不乱に叩いていた. そして例の事件の記事を見て
雅則「保険金殺人ねえ.最近多いんだよ.こういうのが. 身内が急に保険に入ろうなんて言い出したら気をつけなきゃいけないの.」
これが墓穴を掘ることになった.冷たい視線を感じた雅則は
雅則「あ,僕はそういうつもりじゃあ,なかったんだ.」
蝶子「もちろん,わかってますよ.でもどうして急にそんな気になったの?」
雅則「あ,会社に遅れるなあ.」
雅則がドアを開けると保険のお姉さんがやって来ていた.慌てる雅則. 雅則は鼻の下を伸ばし,「俺が何口でも引き受けた」と言って,入ったのだ.
蝶子「あ・な・た!」
雅則は慌てて出て行った.蝶子は呆れてしまった.

「ザ・ハングマンV」へ 「全話のあらすじ」へ 「全話のキャスト」へ 「緊急指令トラトラトラ」へ 「私の好きなテレビ番組」へ 「touheiのホームページ」へ戻る.


東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp