第十回

スキャンダルを揉み消そうとする官僚の悪事を暴く.
エリートの父親が隠し子の命を狙う!

脚本:鴨井達比古 監督:佐藤武光

開発省計画局長牧田英一(菅貫太郎)を講師に招いた 「時局講演会」が開かれていた.講演会は大盛況のうちに終了. 帰る牧田を物影から女子高校生が見ていた.その晩, ある料亭で杉浦と言う人物から仲居(野口ふみえ)に電話がかかってきた. その後,仲居が通用口から出てくると車がやってきた. 車に乗っていたのは杉浦で,仲居から過去の事を聞こうとしたのだ. 杉浦は現金300万円を出し,例のものを渡せばあと200万円出すと言った. そこへ男達(中村孝夫ら)がやってきた.男は杉浦と仲居を撃ち殺してしまった. 男達は例のものを仲居が持っているかどうか確認したが,
男「(外国語の訛りで)持ってなーい.」
そして男達は仲居に拳銃を握らせ,「淳とみどりへ」と封筒に書かれた 「遺書」を置いていった.仲居の子供である淳とみどりは悲しみに暮れていた. みどりは先程牧田を物陰から見ていた女子高生だ. 警官から遺書を見せられたみどりは「嘘.」と叫ぶのであった.

調査開始

この事件は「中年男女 拳銃で心中!!」と報じられた.翌日. 牧田は車の中で仲居が念書と写真を持っていなかったことを知らされた. 部下は大丈夫でしょうと言ったが,牧田は念書と写真がある限り心配だと言い, さらに二人の子供の存在を懸念していた.牧田は警察の方は大丈夫だと男に 言った.料亭の仲居とブラックジャーナリストの心中でおしまいだと. なんと牧田と部下はサファリのタクシーに乗っていた.開発省前で降ろした後,
サファリ「局長って言ったなあ,あの男.」
サファリは新聞を見て例の事件こと八木沢文代(44)と杉浦一也(42)の 「心中」を知った.サファリは無線で連絡した.
サファリ「ジャッキー,俺だ.ちょっと気になることがあるんで, みんなを集めといてくれ.」

アジトでサファリは例の「心中」事件を説明した. 八木沢文代は赤坂の料亭の仲居で若い頃は売れっ子の芸者だったらしい. 警察は文代が淳とみどりに残した遺書と勤めていた料亭の女将の証言を元に, 心中と断定した.女将は文代が最近男性問題で悩んでいたと証言. 杉浦は新星ジャーナルと言う怪しげな雑誌を出している, いわば政治ゴロで拳銃は彼の持ち物だろうと警察では見ていた. サファリは牧田達のことも調べていた. 牧田の年齢は47歳.次の次官の呼び声高い役人だ. ところが本人は3月いっぱいで退官し,次の総選挙に出るらしい. 何しろなかた派の大幹部の柏木こうへいの娘婿だからだ. もう一人の客はレジャークラブや不動産会社を経営しているくらもとさかえ50歳. 広域暴力団銀竜会会長の義理の兄で以前は大物の総会屋としてならした男だ.

その頃,八木沢みどりは文代の遺影を前に悲しみに暮れていた.
みどり「母さん.母さんが死んだって言うのに,あの人, お葬式にも出て来なかったわねえ.」
あの人とは牧田のことだ. そこへオショウが文代の昔からの友人と称して線香をあげにきたと言って訪れた. 外を歩きながら,みどりはオショウに「心中」だとは信じられないと言った. そのとき,オショウは怪しげな連中が車に乗って, みどりを見張っていることに気がついた.オショウは兄の淳はどうしたと聞いた.
みどり「お兄ちゃんは高校を中退しちゃって,3ヶ月前に家を出ちゃって.」

ここはライブハウス.零心会のパフォーマンスは大盛況.余談だが, バニーこと松下清志さん(本名の松下正之名義)も一瞬映っている. ちなみにクレジットされているのは鋭角一,湯治一博,志水一政計,判戸敬士, 大田光二,宮路佳具,佐藤健,古後義和,林塁,中村英二,松下正之の面々. さて観客の中にはクレイ,そして怪しげな男達もいた.舞台終了後, 零心会のメンバーは稽古場に戻ってダンスの稽古をしていた. 団長はマネージャーの由美に香典として淳にお金を渡させた. メンバー全員でカンパしたのだ.淳は「いいですよ」と遠慮した. 皆生活が苦しかったからだ. だが団長はみんなの気持ちだから取っておけと言った. その言葉を聞いた淳はお金を受け取ることにした. 由美は家に帰ってあげた方がいいと言い, 団長もみどりが高校1年生だからと帰ることを勧めたが, 淳は自宅からだと稽古場まで片道1時間以上かかることと, アルバイトも変えなくてはならないことを理由に渋った.

その頃.みどりが帰宅すると部屋が荒らされているのがわかった. そこへ淳が帰ってきた.みどりは淳に退学届を出してきたと言った. 働かないと暮らしていけないからだ. 淳はみどりの生活費くらい稼いでやると言い, 退学届を取り消して来いと言うのであった.

さてサファリは文代の働いていた料亭の楓の間で, 文千代こと八木沢文代の芸者仲間の秀奴に話を聞いていた. 秀奴は文代の件はタブーだと言い,話そうとしなかった. だが文代の事件は心中ではないと考えていると秀奴はサファリに話した. それを女将が立ち聞きしていた.その頃, 牧田はくらもとと文代達を殺した男(中村孝夫)と話をしていた. 念書と写真は文代の家からも見つからなかった. となるとみどりか淳のどちらかが持っているに違いない. そこへ女将がやってきて,秀奴に男が文代の件を聞きこんでいることを, 牧田達に伝えた.その頃, サファリと秀奴は別の店で文代と牧田の件を話していた. 牧田と文代は愛人関係だった.その証拠書類も持っていたと秀奴は話した. 秀奴はその帰りに車に轢き殺されてしまった.

秀奴の死体は東京湾の海岸で見つかった. サファリは文代の件を話したので始末されたと見ていた. そして文代が話したことも事実だったと確信した. 淳とみどりの父親は牧田.牧田は二人が生まれたときに名前をつけ, 将来は自分の子供として引き取ると言う念書を書いて文代に渡した. 親子4人で撮った写真もあるという.だが認知はしなかった.その後, 牧田は将来を見込まれ,保守党なかた派の大物柏木こうへいの娘と結婚し, 今政界に進出しようと言うわけだ.文代は牧田に認知を請求しようとしない, 古風な女だった.しかし牧田が出馬しようとしている選挙区は, 反主流派の重鎮の大和田たかしの選挙区だった.この選挙区の定員は3名. 保守党の議席は現在1名.牧田が選挙に打って出れば必然的に大和田が落選する. 大和田派はブラックジャーナリストの杉浦を使って, 牧田のスキャンダルを暴く作戦に出た. 隠し子がいることがわかれば牧田は選挙どころではなくなる.
オショウ「そうか.まだ証拠の品があるとすれば子供達はやばいな.」

零心会の稽古場では稽古が盛んに行なわれていた. そこへジャッキーがやってきた.稽古終了後, ライブハウスのショーで赤字が出たことをメンバーが告げた. それを受けて路上パフォーマンスの方が向いているんじゃないかと, 他のメンバーが言った.マネージャーの由美は, テレビ局からショー番組に出てみないかという話が来ている事を言ったが, 団長は断るつもりだと言った.
団長「俺達はな,淳,タレントになりたくてやってるんじゃないんだ. テレビの演出家にあれこれ指図されてブラウン管の中でやっても, そんなもんは俺達じゃない.」
メンバーの一人が金くれるんなら赤字解消に1回くらいいいじゃないと言うと, 団長はさらにこう言った.
団長「他にもテレビに出たい奴はいるか? もしいるなら, うちからは出て行ってもらう.俺達はなあ,新宿の路上の上から生まれたんだ. 路上がダメなら公園.公園がダメならライブハウス. ビルの屋上でも高速道路の下でも生の観客を相手にやっていく. これが零心会だ! よろしく!」
メンバーも「よろしく!」と応えた.

オショウが営むおでん屋の屋台でメンバーの一人が淳に, 母親が死んで寂しくないのかと聞いた.その帰り,淳達は暴漢に襲われた. すかさずオショウはクレイに無線で連絡. そしてオショウは暴漢に襲い掛かったが,遅かった. メンバーのわたるが刺されてしまったのだ. オショウとクレイはわたるを病院へ運んだ.わたるは一命を取り留めたが, 全治1ヶ月の重傷.わたるの付き添いはメンバーが交代で行くことになり, 翌週の公演は淳がわたるの代役として抜擢された.メンバーが稽古に励む中, 団長と由美は淳に狙われる心当たりはないのかと聞いていたが, 淳には心当たりがなかった.だが, 文代の死と関係があるかもしれないと思い当たった.

さてサファリは盗聴機を打ち込んで牧田達の話を盗聴し, 自分達の推理が正しかったことを確認. そしてクレイは男の事務所から出てくる連中の写真を写した. アジトでその写真を見たオショウは連中が淳を襲った男達であることを確認. サファリはゴッドに会って来たことをメンバーに伝えた. ゴッドは例の「心中」事件を知っていて, 裏に選挙が絡んでいることやハングマンが動いていることも知っていた. ゴッドはゴーサインを出し,費用は全額出すとサファリに確約したと言う.
サファリ「さあてジャッキー,お前さんの出番だなあ.」

みどりのところへ手紙が届いた.
サファリの声「みどりさん. お母さんを殺した連中があなた達兄妹の命も狙っています. 安全のために,すぐお兄さんと一緒にいるようにしてください.」
みどりは手紙の忠告に従い,零心会の稽古場へ行った. 団長はみどりを匿うことを快諾した. そこへジャッキーが週刊ピュアレディーの記者と称して淳とみどりに会いに来た. ジャッキーは投書があったと言い,淳とみどりが牧田の子供かどうか尋ねた.
淳「そんなの出鱈目ですよ.」
淳は投書を放り投げた.みどりは淳をたしなめた.
みどり「お兄ちゃん,隠すことなんてないわ.事実は事実なんだもん. 何も逃げ隠れすることなんてないじゃない.私達何も悪くないんだもん. そうでしょう.」
ジャッキー「あなたが嫌だって言うのなら記事にしないつもり. プライバシーの問題だし.ただお母さんもあんな風に亡くなった事だし, あたしも孤児だから,ただあなた達に会ってみたくって.ねえ, もし嫌じゃなかったらその牧田って人に会ってみない?」
淳はしばらく考えた後,牧田と会うことにした.

しばらく経ったある日.ホテルの部屋で女性週刊誌の記者と称して, クレイが牧田と会った.クレイは子供の人数を聞いた. 牧田は高校生の娘が一人いると答えた.
クレイ「お一人.3人の間違いじゃないでしょうか?」
牧田「え?」
クレイ「そう伺ってますけどね.」
牧田「なーにを言い出すんだ,君.」
と言うやいなや,扉が開いて淳とみどりとジャッキーが登場した.
クレイ「局長,あなたと文代さんとの間にできた淳君とみどりさんだ. まさか忘れたわけじゃないでしょう.」
牧田は白を切ったが,
淳「見てください.」
淳は牧田は念書を見せた.さらに
淳「あなたの書いた念書と写真です.」
牧田はしばらく無言だったが
牧田「こんなものは出鱈目だ.不愉快な真似をするね,君は.帰る.」
牧田は帰ってしまった.淳は叫んだ.
淳「あんな奴,親父じゃねえ.」
みどりは泣きながら淳に抱きついた.
ジャッキー「ごめんなさい.やっぱりやるべきじゃなかった.」
淳「いいんです.」
クレイは無言だった.

その晩.零心会の稽古場が放火された.牧田の命令によるものだ. メンバーの一人は鉄パイプで殴り倒され,さらに淳とみどりがさらわれた. そこへサファリが駆けつけ,連中の車を追いかけた.連中はピストルを乱射. サファリはジグザグ運転で拳銃の弾を避けたが,ついにタイヤに弾が命中. 追跡を諦めざるをえなかった.

次の日.オショウが流していると老婆が飛び出してきた. オショウは急ブレーキをかけ,車を止めた.そして車を降りて
オショウ「お婆ちゃん.」
老婆に駆け寄った.
オショウ「大丈夫かい? いきなり飛び出して危ないじゃないの.しっかりして.」
オショウが老婆を助け起こすと
?女「ありがとうさんです.なにしろ,この,年をとりますとねえ, 足も手も弱くなりまして,目も弱くなりましてねえ.」
オショウ「冗談じゃないよ.あのねえ,足元はふらつくわ,目は見えないわじゃ, 街ん中出て来ない方がいい.」
?女「ええ.ごめんなさいねえ.」
オショウ「ごめんなさい,どうでもいいから,もう速く,ほれ, ゴッドからのこれでしょ.例の奴.」
それを聞いた?女は驚いてオショウの方を見た.
オショウ「はい,頂戴.」
?女「どこでわかりましたの?」
オショウはこの質問には答えず,こう言った.
オショウ「いつも,いつも,ご苦労さん.クサヤの干物は結構だと言っといて.」
?女「ちょっと.この顔のどこでわかりましたの?」
どうでもいいが, この回より前の回でクサヤの干物がゴッドのお土産として届けられたことはない.

その頃,開発省の牧田の部屋に電話がかかってきた.
サファリ「名乗るほどのもんじゃないがねえ,一つ忠告しておこう. 火事場泥棒みたいにさらっていったあんたの息子と娘を, もし傷つけるようなことがあったら親子だと言う証拠の品を, 全てマスコミに公表するぞ.」
牧田「何の話だ?」
サファリ「とぼけなさんな.例の念書と写真を預かってると言うことだよ. 追って連絡するまであの二人は大事にするんだな.わかったな.」

淳とみどりは連中に拷問されていた. そしてタイガーキャブからオショウが無線でサファリに連絡した.
オショウ「1号車,応答願います.ゴッドから金は受け取った.」
サファリ「了解.緊急指令トラトラトラ.」
タイガーキャブの車は産業ロボットの操作により, 緑ナンバーから白ナンバーに変えられ,ボンネットから虎のシールがはがされ, 虎のエンブレムが屋根からはずされ,色も塗り替えられた. そしてハングマンは出動した.

ハンギング

くらもとのところに牧田から電話が入った. くらもと達は淳とみどりを連れて取引現場へ入った.その途端,扉が閉まった.
牧田「おい.どこにいるんだ.いるんなら出て来い.」
と言った途端,サンダーブロウが撃たれ,連中は全員眠りこけてしまった. 口を押さえながらハングマンが登場.

その後,零心会の稽古場に淳とみどりがワゴンに乗せられて眠らされたまま 運ばれてきた.メンバーは淳とみどりを起こした.そして由美が手紙を発見.
サファリの声「君たちのお母さんを,心中に見せ掛けて殺した悪党たちに, さばきが下されることになりました.零心会の仲間たちと一緒に, 次の指示に従ってください.」
指示は次の通り.

  1. 次の日時,場所に集合してください.
    12月14日(金) PM1:00〜 日本橋長瀬産業ビル屋上
  2. ハンギング・パーティーには君たちの協力が必要です. 「ありがたや節」のリズムに併せて,パフォーマンスを行って下さい.
  3. 当日,会場では混雑が予想されますので,事故には充分気をつけて下さい.

さて悪党達が気がつくと,彼らはロープで縛られ, 日本橋長瀬産業ビルの屋上にいた.屋上からは向いのビルにロープがはられ, 「零心会ストリートパフォーマンス会場」という垂れ幕が下りていた. それを見て大勢の人達が会場に押しかけた.悪党達を見て観客は「なによー, 零心会いないじゃない.」とブーイングの嵐.
牧田「おい,君達,このロープ解いてくれないか?」
悪党達は観客に頼み込んだが,
観客「えー,でも何か面白そうだよー.」
と悪党達の頼みを聞くものはいなかった.とそのとき, 悪党達は向いのビルへ向かって引っ張られていた. 例の垂れ幕の下りていたロープは悪党達もつないでいたのだ. 向いのビルの屋上にハングマンが集結していた.
サファリ「牧田,よーく聞け.お前は自分のスキャンダルを隠したいがために, 八木沢文代という女性を心中に見せ掛けて殺した.そうだな.」
サファリの声がスピーカーから響いた.
牧田「知らん.馬鹿なこと言うな.」
サファリ「そればかりじゃない.お前は血を分けた子供達まで殺そうとした. 自分の出世のために.」
牧田「ふざけるなあ.お前は誰だあ.」
サファリ「よーし.じゃあ,こうなる.」
悪党達は向いのビルへ向かって引っ張られた. このままだとビルの下へと落ちてしまう.悪党達はやめてくれえと叫んだ.
サファリ「どうだ.下はいい眺めだろう.」
恐怖のあまり叫ぶ悪党達.通りにも野次馬が押しかけていた.ついに
男「やめろー.俺は関係ない.くらもと社長に言われてやっただけだあ. やめてくれえ.」
くらもと「馬鹿言え.殺せと命令したのは牧田局長だ.俺じゃない.」
牧田「黙れ,何を言うか!」
くらもと「頼む.やめてくれえ.あの女を殺したのはこいつらなんだあ. 命令したのは牧田局長だあ.」
それを聞いたハングマンは
サファリ「当然,ギルティーだなあ.」
全員,同意した.綱が切れると同時に悪党達は反対側に落ち,零心会が登場. 悪党達は観客に踏んづけられて服がぼろぼろになってしまった. KAJAの演奏する「ありがたや節」に併せ, 零心会のメンバーが悪党達の周りで踊った.その様子をみどりも見た. パトカーのサイレンを聞きながら,ハングマンは去って行った.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp