第二十九回

自転車取引に絡む偽装事故の真相を暴く.
爆発サイクリング

脚本:山浦弘靖 監督:帯盛迪彦

ここはアルファ自転車の社屋.社長(戸浦六宏)が腐食液の効き目を見ていた. ブレーキワイヤに一吹きするだけでワイヤーはぼろぼろになった. その効き目に御満悦の社長は秘書室長の柳井(原口剛)と部下の本間と柴田に 「早速とりかかれ.」と指令を出した.が, 気配を察した柳井が部屋の外へ出てみると社員の小島京子が廊下にいた. 書類に判を押してもらいに来たと言うのだ. 小島は明日にすると言って去って行ったが
社長「柳井君,後は任せる.」

さて酔っ払ったパンが国鉄中野駅近くの自転車置き場の脇で 「♪私ばかよねえ,おばかさんよねえ.」と歌っていた. パンは酔っ払って小島京子の自転車に乗ってしまい, 警官に職務質問を受けてしまうが,そこへ小島がやって来て, パンを弁護してくれた.警官が去った後,パンは礼を言い, 小島が持っていた封筒を見て
パン「あなたアルファ自転車にお勤めですか? 私,お宅のライバル会社のペガサス自転車のものを使ってるんです.」
小島「おやめになったほうがよろしいですわ. 今にとんでもないことが起こりますから.」
パンは怪訝な顔.小島は自転車に乗って去って行った.その瞬間, 自転車置場脇に止まっていた車の運転手が合図を送り, 変形ハンドルの自転車に乗った男が小島の後を追いかけた. その様子をパンが目撃.小島はガード下でその男に刺されてしまった.

その翌日.競輪場でパンはものの見事にすってしまった. そこへマイトがやってきて,100枚当てたと自慢した. ご馳走してやろうかというマイトにパンはノーサンキューと言ったが, マイトが持っていた新聞の記事を持って驚いた.小島が死んだのだ. 新聞記事では多発する自転車通り魔の仕業ではないかと報じていた.

屋上のビアガーデンでパンは小島のことを振り返る.
パン「見ず知らずの俺をかばってくれて,本当にいい娘さんだった. 年格好もうちの娘と同じくらいでなあ. だけど犯人が通り魔と言うのはどうも腑に落ちねえなあ.」
パンは小島が出て行った瞬間, 自転車置場脇に止まっていた車の運転手が合図を送り, 変形ハンドルの自転車に乗った男が小島の後を追いかけたことを思い出していた.
パン「あの男が犯人だとしたら,通り魔なんかじゃない. 明らかに誰かの指示を受けて娘さんを殺したんだ.」
パンが話している間,マイトはジョッキに入ったビールを飲み干した. 行こうとするパンをマイトが止めた.
マイト「ゴッドからの指令はまだだぜ.」
パン「このままほっとけって言うのかよ.」
マイト「俺たちゃ死人だ.死人に口なし.」
パンは憮然としてマイトから目線をそらした. その隙にマイトは自分の飲み干したジョッキとパンのジョッキを取り替え, またビールを飲み干すのであった.

その頃,ペガサス自転車製自転車のブレーキの故障が原因で, 自転車事故が多発していた.それを自転車新報という業界紙がすっぱ抜いた. ペガサス自転車の葛城専務(高城淳一)が自転車新報にお金を持ってきたが, 編集長(松山照夫)は腐食したブレーキワイヤーを持ち出してきて, ふざけるな,と突っぱねた. そのことを会社で聞いたペガサス自転車社長の大原正行(増田順司)は驚いた. 別の専務が,自転車のブレーキワイヤーが腐食するなど常識では考えられない, だから原因を徹底的に究明しよう,と大原に進言した.大原は,そうしてくれ, と言った.故副社長念願のカメリア連邦向けの輸出の話が差し迫っていたからだ. そこへ,ペガサス自転車被害者同盟と称する人たちがやってきた, と報告が入った.

とある食堂でパンが食事をとっていた.テレビで, ペガサス自転車製自転車のブレーキワイヤーが腐食し, 事故が多発している件に関してニュースが流れていた. このニュースをパンは聞き流した. だが自転車通り魔が捕まったと言うニュースには注目した. 自転車通り魔は中学三年生の犯行で, 彼はむしゃくしゃしたので犯行を重ねていたのだ. だが彼は小島京子(23歳)殺しについては犯行を否認していた. パンはその晩のことを思い出し, 小島がペガサス自転車の事故のことを知っていたことを疑問に思った.

その晩,大原の自宅では大原が娘(有吉ひとみ)に事故のことをこぼしていた. 大原は娘婿の信一郎が生きていたらなあとぼやいたが, 孫の信行と遊んで憂さを晴らそうとするのであった.

一方,とあるバーでアルファ自転車社長が葛城と会っていた. 葛城は万事順調とアルファ自転車社長に報告していた.葛城は内通していたのだ.

次の日,パンは受付で小島京子が秘書課に勤めていたことを聞き出した. そこへ秘書室長の柳井がやってきた. パンは,小島の事件は通り魔に見せかけた殺人じゃないか,と柳井に言い, 心当たりはないか,と聞いた.柳井は何も知らないと答えた. パンは立ち去った.柳井は部下の本間と柴田にパンの後をつけさせ, 社長にパンのことを報告した.

パンはアルファ自転車の社員に小島京子のことを聞き込んでいた. そして変形ハンドルの自転車の持ち主が中西であることを知った. その晩,パンは中西の住むアパートに向かったが, 中西は「首をつって」死んでいた.立ち去るパンを本間達が襲ってきた. そこへドラゴンが現れ,パンを助けた.

団地のアジトでパンの手当てをしながらタミーは,何を考えてるの,と言った. そこへドラゴンが戻ってきて, 中西がアルファ自転車の社員だったことを報告した. 中西は会社の金を使い込んでいたのだ.そこへマイトから電話がかかってきた. ゴッドの事務所に集合しろと言うのだ.

ゴッドからの指令

マイト「諸君,ゴッドから許可が下りた.」
パン一人では危ないのでマイトがゴッドに頼んだのだ.
パン「余計な事しやがって.」
口ではそう言っていたが,パンは嬉しそうだった.
タミー「でも,問題はどうやってアプローチするかね.」
マイトはペガサス自転車がチャームガールを募集していると言うビラを見せた. チャームガールを使ってイメージアップを図るのが, ペガサス自転車の狙いだったが, チャームガールが事故を起こせば敵の思う壺になる.

ここは中野駅前.ペガサス自転車のキャンペーンの会場で,自転車新報編集長が, こんなのは茶番だと騒いだ.観客の目がそちらに向いている隙に, 自転車のブレーキワイヤーに腐食液が吹きつけられた. その様子をマイトが見届けた.

タミーの乗った自転車が細工された自転車だった.下り坂でブレーキがかからず, あせるタミーをデジコンとドラゴンが運転するトラックが助けた. デジコンの分析により,ブレーキワイヤーに吹き付けられた薬品は, 普通の分析装置では検出できないものであることがわかった. こんな薬品を作れるのは日本ではスリースター薬品工業くらいのものだろう.

パンがスリースター薬品工業を見張っていると,中から柳井が出てきた. 柳井が会社で自転車新報編集長に金を渡している様子をマイトが目撃した.

その後マイトは競輪場でパンにゴッドからの情報を伝えた. まずアルファ自転車とスリースター薬品工業と自転車新報がグルだと言う事. カメリア連邦向けに自転車を一億台輸出する話が, ペガサス自転車で持ち上がっていること.

アルファ自転車社長は例の手を打つように柳井に指示を出した. それは大原の孫信行を誘拐し,大原を誘い出すことだった. 信行がいないと心配する大原の元に葛城から電話がかかってきた. 中野駅前で信行を見かけたと言うのだ.大原と大原の娘は中野駅前へ急行. 自転車に乗っている信行を迎えようとして飛び出した大原は, 信行もろとも車にはねられて死んでしまった.悲しみに暮れる大原の娘.

この事故を新聞で知り,さらにアルファ自転車が, ペガサス自転車のカメリア連邦自転車輸出を肩代わりすると知り, パン達は怒り狂った.そこへマイトがやってきて, ゴッドからゴーサインが出たことを伝えた.
マイト「たっぷり楽しい青春サイクルをさせてやろうぜ.」

ハンギング

デジコンがハンギング用の装置を開発した.そしてカメリア連邦との調印式の日, タミーが自転車新報編集長の宮前をおびき出した. さらにパンがアルファ自転車社長,柳井,葛城をおびき出した. 四人はそのままトラックで多摩川の川原へ連れてこられた. そしてハングマンはハンギングの装置を見せつけた.
マイト「あの美容自転車には爆弾がセットしてあります. ペダルが動くと同時に起爆装置に電流が流れ出すんです.はい, スピードメーターが30Km/hに達しました. この30Km/hをよく覚えといてくださいよ. もし30Km/hを切ると…起爆装置が自動的に作動して…」
自転車に仕掛けられたダイナマイトが爆発を起こし, 自転車は木っ端微塵に吹っ飛んだ.驚く4人.
社長「こんなもの我々に見せてどうするつもりだ.」
マイト「皆さんもかなりお年をめしている. 運動なさったほうが少しでも長生きするでしょう. 青春を思い出してサイクリングをしてみよう.ヤッホー,ヤッホー.」
パン「道具は4人分ちゃんと用意してございますから」

ここは中野駅前.ファンファーレがなると同時に紅白の幕が降り, アルファ自転車社長達4人がハンギング用自転車に乗せられているのが, 披露された.右から柳井,社長,葛城,宮前の順. マイトの声がスピーカーから流れる.
マイト「それでは,美容運動を始めましょう.ヤッホー,ヤッホー, 言いながらペダルを踏んでください.どうぞ.」
一生懸命ペダルをこぐ4人.
マイト「止めようとしても無駄です.スピードはどんどん上がりますよ.」
デジコン「ダイナ.」
マイト「30Km/hを超えました. これからは皆さんの足でペダルをこいでもらいましょう.」
一生懸命ペダルをこぐ4人.野次馬が大勢集まり始めた. 野次馬は大笑いしている.すると,一人のスピードメーターが下がり始めた.
マイト「どうしました.時速30Kmより遅くなるとドカーンですよ.」
その声を聞いて,4人はまた一生懸命ペダルをこいだ.
マイト「どうしました.ヤッホー,ヤッホーの声が聞こえませんよ.」
4人はヤッホー,ヤッホーと叫んだが社長はグロッキー寸前だ.
タミー「見て.あの真剣な顔.」
パン「もっともっと苦しめばいいんだ.」
スピードメータの値がまた下がり始めた.
デジコン「ダイナ.」
宮前「社長,もう足が動きません.」
葛城「あたしもだ.」
宮前「助けてくれえ.頼む.」
マイト「いいとも.助けてやる. その代わりお前達のやったことを洗いざらい喋るんだ.」
社長「そ,それ.」
マイト「わかりました.それなら死んでもらいましょう.さようなら.」
しばらく社長達は自転車をこいでいたが,多摩川での爆発を思い出し, ついに社長が喋り始めた.
社長「わ,わかった.話す.我がアルファ自転車はカメリア向け自転車輸出を, ペガサス自転車から奪おうと計画した.」
マイト「その手口は?」
社長「わが社の息がかかったスリースター薬品工業で作らせた, 特殊な腐食剤をペガサス自転車のブレーキワイヤーにたらし, ブレーキ事故を起こさせた.」
マイト「大原社長と孫の事故死の件はどうなんだ?」
社長「私が葛城に命じて大原社長の孫を誘拐させた. そして駅前広場に大原さんを呼びつけてから,交通事故に見せかけて,さ, 殺人を.」
そのとき,中央線の電車が中野駅を通過.パンがマイクをマイトから奪い取った.
パン「小島京子さんもお前達が殺ったんだなあ.」
社長「ああそうだ.秘書課の小島京子はこっちの計画を知ったからだ. その殺しを通り魔と偽装するため,わが社の元社員中西まさおを使った. 復職を条件につけた.ところが,それがばれそうになったので, 自殺と見せかけて殺害した.」
パン「よーし.お前が今喋ったことは全て録音された. このテープは犯行に使った腐食液とともに証拠品としてそこへ置いておく.」
社長「わかった.わかったから助けてくれえ.」
パン「ああ,わかった,わかった.」
パンはマイトにマイクを返した.
マイト「慌てんなよ.もうすぐ警察が来る. それまでゆっくり美容運動してなさい.」
社長「あ,そんな.そんな.そんな.」
野次馬は大笑い.他の悪党は「社長!」と連呼.社長は,もう駄目だ, とグロッキーになってしまった.起爆装置が起動された. だが打ち上げ花火に火がついただけだった. そしてパトカーと入れ替わりにハングマンは立ち去るのであった.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp