2002年8月3日

「太陽にほえろ!」第88話「地獄の再会」

脚本は市川森一.監督は竹林進.主役は鮫やん登場編なので殿下. シンコの登場はなし.この回でオープニングのジーパン登場部分が変更.

ボスが和服の女性(北あけみ)と会っていた.そこへジーパン,山さん, 長さんが戻ってきた.女はジーパン,山さん,長さんにも挨拶. ゴリさんが「あのチンピラやっと口割ったぞ!」と叫びながら戻ってきた後, 女はボスに言った.
女「わてはこれからも一人で生きて行きます. 小さな飲屋でも息子と二人食べていくだけやったら,どうにでもなりますから. 今は刑事の女房に戻って,昼も夜も神経すり減らして,能無しや, 気がきかんのと,文句言われながら生きて行くより,今のままのが, 自由で気楽ですねん.でもねえ,あんさんの気持ちは,本当に,本当に, ありがたいと思ってます.」
女は感極まって泣いてしまった.
ボス「奥さん.」
そこへ電話が.ジーパンがとろうとするのを制し,ボスが出た.
ボス「はい,一係.ああ,殿下か.ああ.で,そっちの方,どうだ?」

殿下はあるレストランにいた.
殿下「ええ.こっちはまだ話を切り出してないんですがね, きっかけがつかめないんですよ.何しろ, 山田署へ移ってはじめてもらった総監賞でしょう. 手柄話がなかなか終わらないんですよ.」
殿下は鮫やんと鮫やんの部下青木孝文(勝野洋)と一緒にいたのだ.そう. ボスは離婚していた鮫島元夫妻の縁をとりもとうとしていたのだ.
鮫やん「あんときなあ,わしの拳銃がもう1秒遅れていみ, お前の脳天をあいつが振り上げた斧でバツーンと真っ二っつや.ほんまに. ああ,思い出しても,わい,未だに鳥肌が立つで.」
青木「はい.今,こうやって生きてられるのは鮫島先輩のお蔭です. そればかりか,自分までこんな総監賞まで頂いて.」
青木は賞状を手に持った.
青木「感激に堪えません.」
鮫やん「そうか.青木は何かい,この総監賞もらうのはじめてか?」
青木「はい.もちろん,はじめてです.」
鮫やん「ふーん.で,誰ぞに見せたい相手おらんのかい,この賞状」
青木「郷の親父に見せてやりたいと思います.」
鮫やん「ふーん.それはええこっちゃ,ええこっちゃ.親父さん,喜ぶで. なあ,青木は,あれやど,お袋さんがおらなんだなや.」
青木「はい.」
鮫やん「なあ,青木よ.言うてしもうたら,こんなもん,紙切れや.な. けどやなあ,こんな紙切れ一枚にしてもやなあ, わしらお互い命かけて手にした賞状や.誇りや.な,青木.それは親父さん, 同じだけ苦労しなさったやろう.けどお前,ほんまに,ええ息子に育ったでえ. なあ.ほんまに親孝行なやっちゃ,お前は.は,は.母親なんてなあ,そりゃ, いらしません.」
鮫やんも涙を流した.
殿下「オーバーだなあ.」
そう言いながら殿下は席に着いた.
青木「先輩.」
殿下「あのう,鮫さん…」
だが鮫やんは殿下の言葉が聞こえなかったのか
鮫やん「わいらはなあ,こんな紙切れ,障子の貼り紙にする程もらってるがなあ. 今からこんな紙切れもらうためにやで,山田の田舎からな, 本庁まで出向く事あらへんのや.けどたまにはお前, この殿下には会いたいしやなあ,藤堂の顔も見たいと思うで.それで, ここまで出てきたわけやなあ.」
やっと話が一段落したので
殿下「ええ,それで,ボスが一目是非会いたいって言ってるんですがね.」
鮫やん「あ,そうか.ほな,すぐ行こう.」
鮫やんが立ち上がりかけたので
殿下「いや,ちょっと待って下さい.あのう,今電話したら, ボスがこっち来るそうです.」
鮫やん「係長が?」
殿下「ええ.」
鮫やん「わざわざ忙しいのにまあ…(青木に)どや,言うたやろう.な. 都心に出て来たら,わしは社長や.え.」
青木「全くです.」
殿下「それでですねえ,それがそのう, ボスが一緒に連れて来る人がいるんですけれど…」
鮫やん「うん.」
殿下「鮫さんもよくご存知の人なんですけれど.」
鮫やん「誰や? え? そんな事言われてもわかりゃへんがなあ.え. 顔が広いさかい.は,は,は.」
殿下「あのう,奥さんなんですけど.」
それを聞いた鮫やんは
鮫やん「藤堂,いつ嫁さんもらったのや? 言え.」
殿下「鮫さんのですよ.」
それを聞いて
鮫やん「わいの? わ,わいの嫁はん?」
殿下「ええ.」
先程までの威勢の良さは何処へやら.鮫やんは目を白黒させた.
鮫やん「玉枝?」
殿下「そうですよ.他にもいるんですか?」
鮫やん「あ,あほ.玉枝が今頃なんで, それも藤堂がなんで連れてこないかんねん!」

さて七曲署ではジーパン達が事情を知って大笑い.皆, ボスの見合いだと思っていたのだ.

鮫やん「あのう,玉枝が,何かい,その, より戻したいと藤堂に泣きついて来たんかいな.ん? ふん! 今更何ぬかしてんのや.わいに見切りつけて飛び出したのは,あっちやないけ.」

玉枝「え? あの頑固者が藤堂はんに泣きついて? そんな. 信じられまへんがな.」
ボス「いやあ,鮫さんも歳とったんですよ. それに城北署にいた頃は忙しすぎたし,まあ山田署に移ってから, 多少のんびり時間も出来て,色々考え方が変わったんじゃないですか.」
玉枝「へえ.少しはまともな考えするようになったんですかねえ.ふん. 今更何ぬかす.」
ボスは頭を抱え込んでしまった.

鮫やん「ふん,あつかましい女子やなあ.けど藤堂かてお節介やないか. なんぼ泣きついてきたかてやなあ,追い返したらええねん,追い返したら. なあ,青木よ.」
青木「は.自分は未だ夫婦の事はまだよく…」
鮫やん「んなもんなあ,慌てて結婚したら絶対あかんで.」
殿下「それじゃあ,ボスにはなんて言いましょうか? 折り返し, こっちから電話する事になってるんですが…」
鮫やん「なんでい.電話でも何でも勝手にしたらええやないかい.」
殿下「それじゃあ,奥さんには, やはりここへ来るのは遠慮してもらいましょうか.」
鮫やん「え,いや,いや.ま,本人が,来たいと言うてんのやったら, まあ来させたらええやないかい.なあ. こっちは藤堂の顔潰す訳にはいかへんねん.まあ,会うだけ会ったら, 会うだけやで.会うだけやったら,俺だって.」
自分は夫婦の事はまだよく…と言いたくなるような展開で殿下は苦笑いしていた. そこへ電話がかかってきた.何と鮫やんあて.
殿下「あ,ボスかもしれませんねえ. ひょっとしたら奥さんが電話に出たいと言ったのかもしれませんよ.さ,早く.」
鮫やん「殿下.」
殿下「え?」
鮫やん「ちょっと,お前,先出てくれ.」
殿下「なーに言ってるんですか.鮫さんを呼んでるんじゃありませんか. さあ,早く出た方がいいですよ.」
鮫やん「わい,女房だったら何も話する事あらへん.な.おい,青木.お前, 出てくれ.」
青木「自分がですか?」
鮫やん「女房やなかったらわし変わるさかい.」
仕方無く青木が電話に出た.その時, レストランの前に駐まっていた車の中から銃が撃たれ,青木が即死. 余談ですが青木が倒れる時の演技は物凄く,藤岡さんが大丈夫か, と思うほどでした.勝野さんは,柔道をやっているので何でもないですよ, と答えたそうです.台詞は多少棒読みでもアクションは行ける. 勝野さんが新人刑事役をつかみとった瞬間です.閑話休題. 鮫やんと殿下は青木を助け起こしたが既に息がなく,二人は外へ出た. だが車で逃げた後.殿下は車のナンバーが「品川83-43」と見るのがやっと. 鮫やんが道路の真ん中で立ったままだったので個人タクシーが止まる羽目に. タクシーの運転手は降りて文句を言ったが,鮫やんはタクシーを奪い, そのまま追いかけてしまった.慌てて殿下も, 鮫やんの奪ったタクシーに飛び乗った.鮫やんと殿下は車を発見し, 追跡を開始した.
鮫やん「この野郎,ぶち殺したる.」

報せを聞き,ボスと玉枝も現場にかけつけた.ひとまず玉枝は車の中に待機. ガラスの割れ方から見て凶器はショットガンらしい.玉枝はボスから, 鮫やんが無事と聞き,一安心.鮫やん達の跡をボスと玉枝は追う事にした.

鮫やんの暴走振りを殿下は止めた.
鮫やん「目拭いてくれ.涙で前が見えん.おおきに.殿下.お前, 適当な所でおりい.」
そんな事言われても殿下は困るばかり.殿下はタクシーの無線を借り, 逃走車のナンバーと逃走車が山田方面に向かっている事を七曲署へ通報する事を, 頼んだ.個人タクシー組合からの通報を受け, 早速ゴリさんが無線でボスに伝えた.ついでに銃の種類も判明したので, ボスに伝えた.ウィンチェスター1400. 連続発射の出来る狩猟用のショットガンだ.登録ナンバーを調べて, 所有者を調査中だ.ボスは首都高速を飛ばした. 鮫やんは東名高速を飛ばしていた.鮫やんに犯人の検討はつかなかった.
鮫やん「兎に角,奴等はわいを狙うたんや. 青木はわいの身代わりに殺されおったんや.」
青木の声「郷の親父に見せてやりたいと思います.」
鮫やん「青木.青木.俺,地獄まで追いかけてでも仇はとったるぞ.」
何と鮫やんは犯人の車にタクシーをぶつけようとした.だがスピードを出しすぎ, 追い抜いてしまった.気づいた時は連中の車は高速を降りてしまった. 鮫やんと殿下はタクシーを乗り捨て,走って追いかけた. 鮫やんは拳銃をぶっ放した.たまらず犯人達は車から降りて逃走した.

長さんからボスに連絡が入った. 山田のインターチェンジ付近で乗り捨てのタクシーと, 犯人の物と思われる車が発見されたと言う. 乗り捨てのタクシーは鮫やんと殿下の使ったタクシーだろう. 犯人達が二名と言う以外は何もつかめていなかった. 山田署との合同捜査になりそうなので,ジーパン,ゴリさん, 山さんは電車で山田署へ向かった.
玉枝「これやからもう刑事の女房には戻りたくないって言うてますねん. お店開ける時間までに帰れますやろか?」
ボス「は?」

ガソリンスタンドの中に殿下が入った.鮫やんも付近に待機. そこへ犯人達がやってきた.
鮫やんの声「狙い通りや.車盗みに来よったな.しかし, 事務所に入られたら面倒やなあ.」
殿下と鮫やんは犯人達を捕まえようとした.一人は何とか倒したが, もう一人がガソリンスタンドの給油機の口にライターを近づけたので, 銃を捨てざるを得なかった.その隙を突かれて犯人は逃亡. 鮫やんは軽トラックに乗って追跡.殿下はとめたが,鮫やんは聞かず, そのまま軽トラックで追いかける羽目になった. そして犯人は山の中に入って行った.みるみる距離があいて行った. それでも鮫やんは青木の仇をとるために追跡を続行. 犯人の車はドライブインを過ぎて行った.一台の車がドライブインに駐まった. 鮫やんは軽トラックを乗り捨て,その車を奪ってしまった. 止めようとした殿下は置いてけ堀になってしまった. 殿下は車の持ち主に事情を話し,警察にも連絡した.

あのガソリンスタンドにボスと玉枝も到着した.死者が出たと知り, 心配する玉枝.ボスは犯人の顔を確かめた.
ボス「鶴間邦彦.神戸を根城にしているプロの殺し屋ですよ.」
ボスは山田署の署員に挨拶.ボスは玉枝に言った.
ボス「鮫さんもうちの島も無事のようです.」

鮫やんは山道を走って行ったが,なぜか検問に引っかかってしまった. そこにはジーパン,ゴリさん,山さんもいた.鬼姫山一帯に非常線を張っていた. 犯人の車がまだ検問を通っていないと知り,鮫やんは鬼姫山の中へ戻って行った.
山さん「どうしても自分で捕まえるつもりだ.」

ボスと玉枝は殿下と合流した.
ボス「殿下,とうとう放り出されたか?」
殿下「ええ.参りましたよ.奥さんも?」
ボス「奥さん,疲れたでしょう.お茶でも飲んで行きますか?」
玉枝「もうショックでのどがからからですわ.」
玉枝はレストランの中に入って行った.
殿下「亭主は生きるか死ぬかの捕り物やってるのに,大した度胸ですね.」
ボス「破れ鍋にとじ蓋.あ,山さん達が山の麓まで来ている筈だ. すぐ連絡しろ.」

鮫やんが追跡を続けている頃,殿下は山道を調べ,ボスは玉枝と話をした. 子供はもう中学生.大人しい子だった.ボスは,鮫さんが戻ってきたら, 快く迎えてくれませんか,と玉枝に頼んだ.その瞬間, 玉枝はボスの魂胆を見抜いた.両方に言い事を言って, よりを戻させようとした事を.ボスは否定したが
玉枝「ま,どっちにしても一緒に暮らす気おまへん. 会うたら,すばりその事,本人に言うつもりですけど.」
そこへジーパン,山さん,ゴリさんがやってきた. 鶴間の相棒は高山と言う前科七犯の男.ボスは雇い主がいると考えた. 犯人の本当の狙いは鮫やんであり, しかも犯人が行き当たりばったりで山田に逃げ込んだとは思えない. 雇い主が山田にいるのだろう.鮫やんが山田に移ってから未だ間がないが, その鮫やんに恨みを持つ山田の人間と言うと
ボス「鮫さんの総監賞になった事件.」
山さん「女子高生連続殺人事件. ホシの渋沢つとむは鮫さんに射殺されています.」
その復讐に違いない.山さんは渋沢の背後関係を当たる事にした. ボスは殿下に犯人の隠れ場所になりそうなところを尋ねた.まずモーテル. ドライブイン.ゴルフ場.石切場の小屋.農家が少し. ボスは殿下に鮫やんが拳銃を持っているかどうか尋ねた.
殿下「それが言いにくいんですけど,僕の拳銃を…申し訳ありません.」
ボス「まあいいんだよ.丸腰でうろつかれるより,そっちの方が気が楽だ.」

鮫やんは鬼姫山の山中を隅無く探していた.その頃, 山さんは渋沢の背後関係を調べ上げていた.渋沢には組織のバックはなく, 身内は雑貨屋を営む母親一人.殺し屋を雇う力はないと思われるが, 念のため,行くだけ行ってみる事にした.

鮫やんはモーテル龍泉荘に来ていた.管理人(塩沢とき)から話を聞いたが, どの部屋も空いているという.管理人は鍵を取りに行った. だが鮫やんは鍵も持たずに部屋を改めた.そして, 部屋の一つの鍵が開いている事に気がついた.そして中に入ると, 蛇を投げつけられた.慌てた鮫やんは発砲.ついに弾が尽きてしまった.
高山「銃を捨てろ.」
鮫やん「おんどれや,味な真似しやがって.雇い主は誰や.」
そこへ管理人登場.
管理人「あんたが鮫島さん?」
鮫やん「おばはん,何もんじゃい?」
管理人はしばらく鮫やんを睨んだ後,鮫やんの捨てた拳銃を拾い, 鮫やんを殴って気絶させた.

山さん「ボス.雑貨屋の女は渋沢の本当の母親じゃありませんね. 戸籍上は親子なんですが,実は姉さんの子供らしいです.」
ボス「もらいっ子か.で,渋沢の本当の母親ってのは何処だ?」
山さん「鬼姫山の南で龍泉荘と言うモーテルをやってるそうです. 急いでください.」
ボス「よーし,わかった.」
ボス達は急行する事にした.玉枝も着いていくことにした.

管理人は警邏に来たパトカーをうまく帰した後,鮫やんを殺そうとした.
管理人「あんた,渋沢つとむの何処撃って殺したの? 心臓かい.頭かい! つとむが撃たれたのと同じ場所で息の根を止めてやるからね.」
鮫やん「母親の愛情っちゅうのは,物凄いもんやなあ,おい.そら, おまはんみたいな女から生まれた子供やったら,そら人の四,五人殺したかて, なんとも思わんはなあ.」
管理人は鮫やんの胸倉をつかんだ.
管理人「世間にどう思われようとも,私にとってはたった一人の息子さ!」
怒った管理人は鮫やんを突き飛ばした.
管理人「その息子をあんたはたった一発の拳銃で, この世から消してくれたんだからね! そのうえ賞状までもらってさあ. 母親が黙ってるわけないよ!」
鮫やん「親父はどないしたんじゃ?」
管理人「親父がいたら誰が妹夫婦の籍を借りたりするものか! 片親で肩身の狭い思いをすると思うか! いい学校に入れて, いい会社に就職させたいと思うから,断腸の思いで籍をむこうに預けたんだよ. あの子一人を育ててどんな苦労をしてきたか,男のお前にはわかりゃしないよ! この鬼.人でなし!」
この屁理屈に鮫やんの怒りが爆発した.
鮫やん「己ばっかりが親とちゃうわい.おんどら.」
管理人「殺してやる.」
鮫やん「ああ,殺せ.その代わりなあ,その前によう聞けよ.世の中にはなあ, 母親なんぞの手借りんでも男手一つで, 真面目に立派な警察官に育つ男もおるのじゃ. 己が過保護で育てた子と比べてみい.月とすっぽんやないけ! その立派な子をおんどれが,己がようもわいの身代わりに殺しやがったな.外道!」
管理人「黙らせてやる.」
管理人は一発撃った.

その頃,ボス達は龍泉荘の周りを固めていた.玉枝も心配で車を降りた. そして山さんの声を聞いて管理人達がひるんだ隙を突き,鮫やんが逆襲. ジーパンも部屋に乱入し,鮫やんは無事救出された.玉枝もやってきた.
玉枝「あんた.」
鮫やん「何しに来たんじゃ,お前.」
玉枝「あんた,生きてたんやねえ.」
鮫やん「あほか,お前.死んだりするかいな.」
鮫やんは懐からゴルフボールを出した.管理人の撃った弾はボールに阻まれ, 鮫やんには当たっていなかったのだ.
ボス「運の強い男だよ,あんたは.」
鮫やん「ああ.無茶苦茶やなあ.またあんたらに助けられてしもうたがなあ. その…ああ,痛え.」
ボスは殿下に鮫やんを車まで連れて行く事を命じた. 殿下は鮫やんと玉枝を無理矢理一緒のパトカーに載せた. たちまち口げんかを始める二人を見て殿下は警官に,麓の病院までお願いします, と言った.パトカーは発進.
ボス「どうだ,あの二人は.駄目か?」
殿下「とてもとても.全然駄目ですね.見込みなしですよ.賭けましょうか? あれでよりが戻ったら,一万円出しますよ.」
ゴリさん「俺も一万円.」
ジーパン「じゃあ,俺も賭けますよ.ね,金ないから,千円ね.」
ボス「一万円,一万円に千円か.いくらになるかな?」

さてパトカーは麓にさしかかっていた.
鮫やん「ちょっと止めて.降りる.」
鮫やんはパトカーから降りてしまった.慌てて玉枝が追いかけた. 鮫やんの腕を玉枝が握り,二人は一緒に歩いた.
鮫やん「坊主,どないしてる?」
玉枝「坊主って誰の事ですか?」
鮫やん「わいの息子!」
玉枝「ええ.ええ子に育ってます.」
それを聞き
鮫やん「あーあ.坊主のためじゃ.しゃあない.我慢しようか.」
思わず玉枝は鮫やんの方を見たが,すぐに目をそらした.
玉枝「何我慢しはりますの?」
鮫やん「馬鹿.坊主のために我慢して, また一緒に暮らそうかっちゅうとるのやないか!」
突然の申し出に玉枝は何も言えなかった.
鮫やん「どないしたん?」
玉枝は泣いていた.
鮫やん「なんじゃい,お前,嬉し涙流しとるのかい.」
玉枝「誰が嬉し涙を.目に,目にゴミが入って.」
玉枝はそう言って抱きついた.それを車の中からボスが見た. ボスは殿下の方に手を出したが,殿下はとぼけて金を出さなかったのであった.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp