2002年7月31日

「太陽にほえろ!」第250話「民芸店の女」

脚本は小川英と柏倉敏之.監督は竹林進.主役は山さん.

ある夜.酔っ払いが轢き逃げされた.

翌朝.石橋本町のバス停でバスを待っている山さんに, ランニング中のボンが挨拶した.
山さん「テキサス仕込のマラソンで出勤か.」
懐かしい名前だ.余談ですが, 宮内淳さんは駅から撮影所まで走って出勤したそうです.閑話休題.そこへ
女(上村香子)「あのう.」
ボン「何でしょうか?」
女の目当ては山さんだった.
女「失礼ですが,七曲署の山村さんじゃございません?」
山さん「は.山村ですが.」
山さんもボンも怪訝な顔.
女「私,5年ほど前奥様とお料理教室で一緒だった野間美保でございます.」
山さん「高子と?」
野間「ええ.」
山さん「そうですか.」
野間「私,奥様がお亡くなりになったなんてちっとも知りませんでした. 十日程前,あの頃ご一緒だった方とばったりお会いしてはじめて.」
山さん「もうじき1年になります.」
野間「奥様には本当に親切にしていただきました.」
山さんは無言.
野間「せめてお線香でもお供えしたいとずっと思っていたんです. お宅へ伺ってもよろしいでしょうか?」
山さん「はあ.」

ボンはその事をゴリさんと長さんとアッコに話した.野間が美人,しかも, 山さんに野間が好意を持っている,とボンは話した.ボスが,何を話してるんだ, と長さんに訊くと長さんは,山さんに再婚話を持ちかけようと思っていた, と言った.高子が死んでもう1年くらいになる.皆,しんみりしているところへ, 電話がかかってきた.矢追三丁目の空地で男の死体が発見されたと言うのだ. 轢き逃げらしい.

死んでいたのは冒頭で轢き逃げされた男. 頭蓋骨を含め全身数箇所の骨が折れていた.しかもタイヤ跡から見て, はっきり二度轢いていた.轢いた後,死体を空地まで運んだらしい. 所持していた健康保険証から被害者の身元がわかった.名前は広瀬道夫. 住所は新宿区矢追3丁目12-1.生年月日は昭和14年3月8日.自宅は空地の近くだ. 轢き逃げの車が近くの高速道路の下に乗り捨てられてあった.
山さん「人身事故を起こして死体を空地に隠した奴が, その車を平気で乗り捨てておくかなあ.」
車は盗難車だと判明した.
山さん「それでわかった.九分九厘,こいつは事故じゃない. 車を凶器とした計画殺人だ.」

捜査会議が開かれた.死亡推定時刻は前の晩の11時前後. 死因は車に轢かれたための頭蓋骨骨折. 被害者の広瀬は10年前から朝日町の自動車修理工場で働いていた. 自宅は犯行現場から二分ほど離れたアパート. 前の晩,広瀬は10時半まで残業をしていたので帰宅していたところを, 待ち伏せていた犯人に轢き殺されたものと思われる. 家族は家政婦の内職で留守がちの妻が一人.妻には犯人の検討がつかなかった. 車の持ち主は矢追町に住むサラリーマンで,車の中の指紋も持ち主の物ばかり. 車の持ち主が事件に関係あるとは思えなかった.アリバイもあった. つまり犯人の手がかりは皆無だった.長さんは気になることとして, 被害者がいつも持っていた革の財布がなくなっていた事だ. それが狙いだった事も考えられるが,妻の話では, 広瀬はせいぜい7,8千円しか金を持っていなかったという. それだけの金のために計画的に人を殺す筈もない.そこへ殿下が入って来た. 広瀬の背広のボタンから広瀬の者とは違う指紋が取れたと言うのだ. 前科者のものとも妻のものとも一致しない.犯人の物と考えていいだろう. とりあえず,その指紋を元に広瀬の人間関係を当たる事になった.

山さんとボンは,広瀬が大金を得ていた事を聞き込んだ. 前々日に10万円を財布に入れていたと言う.珍しく同僚に寿司をおごったと言う. 長さんは広瀬が三日前に若い男と言い争っていた事を聞き込んでいた. 歳は25,6歳くらい.髪が長くて服の胸に縫い付けのマークがあったという. 黄色にサの字のマークだったと言う.

その晩.山さんは高子の霊前に線香をあげ,和服に着替えた. そして机の上に警察手帳を置いて見ようとしていると来客が. 来たのは野間だった.山さんは野間をあげ,高子の霊前に案内した. 野間は線香をあげ,山さんはお茶を入れるためにお湯をわかした. そして野間にお茶を出した.
野間「ありがとうございました. 久し振りに奥様とお話ができたような気が致します.」
山さん「お礼を言いたいのは私の方です.高子も喜んでいるでしょう.どうぞ.」
山さんは野間にお茶を勧めた.
山さん「料理学校は一年でしたよね.ずっとご一緒で?」
野間「はい.一度目に隣り合わせたのが奥様でございました.」
ここで野間は話題を変えた.
野間「あのう,先程テレビのニュースで矢追町で人殺しがあったと聞きました. お忙しくていらっしゃるんでしょう?」
山さん「え,ええ,まあ.」
野間「すいません,おじゃまして.私,新宿に民芸品のお店を出しておりますの. お気にいるかわかりませんけど.」
野間は箱を出して山さんに渡した.
山さん「そういうものは…」
野間「使って頂けると嬉しいんです.私,とっても好きな焼き物ですので.」
山さん「そうですか.じゃ,遠慮なく.お店はお一人で?」
野間「はい.三年前主人に死なれて,それからはずっと.」
山さんは無言で高子の事を考えた.
野間「では私,お邪魔いたしました.」
野間は帰って行った.山さんは近くまで送りましょうといったが, 野間は明るい道だからと断った.
野間「あのう,これから時々お邪魔してもよろしいでしょうか?」
山さん「え.ええ.かまいませんが.」
野間は一礼して去って行った.野間が帰った後,山さんは箱を開けてみた.
野間の声「使って頂けると嬉しいんです.私,とっても好きな焼き物ですので.」
山さんの声「何故?」
中に入っていたのは徳利とお猪口だった.その時, 山さんは机の上に警察手帳を置きっぱなしにしていた事に気がついた. まさか.山さんは警察手帳を開いてみた.例の事件のメモも書かれていた.

翌朝.ゴリさんとボンは,山さんが捜査中に半日休暇を貰うのは珍しい, と驚いていた.何か調べたい事があるらしい. ボンは山さんの家に野間が訪れたと聞き,その事だと考え,ボスにあれこれ訊き, お目玉を食った.ボンは聞き込みに行くとごまかして出て行った.

矢追料理学校で山さんは野間の事を調べていた.野間の言った事に嘘はなかった. そして野間の住所を聞きつけた.しばらく山さんは野間を尾行してみたが
山さん「思いすごしか.」
野間が車を持っていない事と運転もしないらしい事を山さんは聞きこんでいた.

長さんが服の男の身元を調べ上げていた.そこへ山さんが戻ってきた. 山さんは取り越し苦労だったようだとボスに報告した. さらに鑑識課員がやってきて,山さんの警察手帳から, 山さん以外の指紋が検出されなかった事を山さんに報告した. その事で山さんの疑念は深くなった.
ボン「山さん,どうしたんですか? 誰かがその手帳を.」
山さん「いや,短い時間だったが人のいるところに手帳を置きっ放しにしてね.」
ボン「で,誰ですか,その人って?」
山さん「いや,何もなかったんだと思うんだ. 俺自身のミスを確かめたかっただけだ.じゃ,その工場へ行ってきます.」
山さんは長さん,ゴリさん,ボンと一緒に出て行った.
ボス「自分自身のミスか.」

マルサの工場を訪れた山さんと長さんは,前日から一人休んでいる男がいる事を, 聞き込んだ.小池定晴で歳は25で長髪.ぴったり一致する. 小池は広瀬から3万円借りていた.口論の理由はその金を返すかどうかだった. ゴリさんとボンは小池のアパートへ直行.だが小池は留守だった. 小池の指紋は広瀬のボタンの指紋と一致.ボスは小池を指名手配する事にした.

その晩.長さんと調査の最中,山さんは野間民芸店を見かけたので, そこで長さんと別れる事にした.山さんは野間の店に入って行った. 野間はそろそろ店を閉めるところだった.山さんは徳利の礼を言った. 野間が店を閉めに行った時,山さんは青葉有料駐車場の領収証を見つけた.

野間と山さんはレストランで食事をした.山さんは勘定を持とうとしたが, 野間はお酒の美味しい店に案内するといった.さらに
野間「事件の方はもうお片づけになったんでしょう?」
山さん「全然片付いていません. ただ容疑者らしい男が浮かんだと言うだけでねえ.」
野間「そうですの.でも,犯人っていったいどういう人なんですか? 私,推理小説が大好きなもんで凄く興味が.」
山さん「ま,いずれ発表されますよ.それでは. まだ聞き込みの仕事も残っていますんで.」

翌朝.小池を見つけたゴリさんとボンは小池を追跡して逮捕. だが小池は犯行を否認した.小池は広瀬の死体から金をとっただけだったのだ. 明け方近くまで麻雀をして二万円勝ったので借金を返そうとし, アパートへ行ってみたら広瀬の死体を発見し,小池は金を奪ったのだ. 小池のアリバイは成立した.捜査は振り出しに戻った.悔しがるゴリさん.
ボス「まあ待て.小池の証言で広瀬が持っていた金は15万, 先月小池が金を借りた時点では20万円近い金を持っていた事がわかった.」
ボン「いったいそれはどういう?」
ゴリさん「そいつがわかれば苦労はないさ.なんせ自動車の修理以外, 何の能もない男だ.そんな有利なアルバイトがあったとは思えんし.」
そこへ山さんが入ってきて,いきなりこう言った.
山さん「いや,一つだけある.」
出た.山さんの十八番.廊下で立ち聞きしていたのだろうか?
山さん「奴に出来る簡単なアルバイトが.小池の証言通り, 広瀬にはじめて金が入ったのは先月の5日頃だそうです. さかのぼって約1ヶ月の間に起きた車の人身事故は都内で約50件. うち犯人不明のままが6件ある.その中で4件は被害者がみんな死んでます.」
ボス「修理工場の広瀬がたまたま轢き逃げの車を見つけ, そして強請った.」
山さん「証拠はありません.しかし不器用な広瀬でもそれなら出来ます. そしてその広瀬を同じ轢き逃げで殺した犯人の手口もそれなら納得できます.」
ボン「ボス,修理工場には広瀬が修理した車の控えがある筈です. それを全部チェックすれば.」
ゴリさんはボンを連れ出した.

そして笠山浩一という不動産会社の社長が浮かんだ. 自分で運転している外車のサイドミラーが折れ,修理に出していた. 簡単な修理なので広瀬が一人で行なっていた.電柱にぶつけたと言って, 前月の3日に持ち込んだと言う.広瀬が20万円手に入れた二日前だ. ボスはゴリさんとボンに笠山を洗うように命じた.
ボス「勘としては本ボシなんだが,既に車には何の痕跡も残ってはいない. 証人の広瀬も死んだ.これから先が厄介だ.」
そこへ山さんへ野間から電話がかかってきた.
野間「お仕事中申し訳ございません.あのう, 今夜もお食事にお誘いしてよろしいでしょうか. 実はちょっとご相談したい事が.」
山さん「いや,今日は何時に終わるかわかりませんが. それじゃあ,これからお伺いしましょうか.」
野間「まあ,嬉しいわ.じゃあ,30分後に矢追文化センターの前で.」
山さん「わかりました.ではそれで.」
山さんは電話を置いた.
山さん「ボス.」
ボス「ボンの言っていた例の女性か?」
山さん「こんな時に恐縮なんですが.」
ボスは何かを感じ取った.
ボス「急用らしいな.わかった.」
山さんは出かけて行った.アッコは,山さんが野間と再婚するのだろうか, とボスに訊いた.ボスは,こればっかりはわからん,と答えた.

ゴリさんとボンは笠山不動産を見張っていた. 笠山(小笠原弘)はどこかへ電話をかけ,部屋を出て行った. ゴリさんとボンは電話番号をしっかり覚えた. だが表口からは出てこなかった.ぴんと来たゴリさんが聞いてみると, 笠山は裏口から出た後だった…

山さん「ご相談というのは?」
野間「ええ.つまらないことなんです.今,お店の近くに泥棒が入って.」
山さん「ああ.裏手の質屋さんがつい先日やられましたね.」
野間「ええ.それでなんだか怖くなって, 鍵とか非常ベルとか付け直そうと思っていたんです.それで…」
山さん「それなら,お店の鍵の状態を見ませんと.」
野間「いえ,いいんです.お暇な時で.本当はそんな事,口実なんです. 主人が亡くなりましてから私,ずっと一人ぼっちでした.いつも一人. いくら話したい事があっても誰もいない.心細い時も楽しい時も. でも今は相談できる人がいる.頼れる人がいる.え. 何だかそれがとっても嬉しくて.すいません.こんなことで呼び出したりして.」
山さん「謝る事はありません.そういう相手がいないのは私も同じですからね.」
二人は頬笑んでいた.

さて七曲署では殿下と長さんが笠山の事を報告していた. 笠山の商売振りは堅実だった.そこへゴリさんとボンが戻ってきた. 笠山が電話していた先へ電話してみると
店員の声「はい.野間民芸店でございます.」
皆,驚いた.つまり,野間が山さんに近づいたのは捜査情報を得るためだ.
ボン「そんな.だって彼女が山さんに話し掛けてきたのは, 広瀬殺しの捜査が始まる前ですよ!」
殿下「ボン.あの殺しが計画殺人だって事を忘れるな.」
ボン「そこまで計画して…」
ボスは山さんを探す事を命じた.

山さんと野間は新宿中央公園のベンチに座り,話し始めた.
山さん「事件の話をしましょうか.」
野間「え? ええ.とっても伺いたいわ.」
山さん「広瀬道夫という男がいました.自動車の修理工場で働いている, 38歳の全く平凡な男でした.」
野間「盗難車で殺された人でしょう.ええ. 毎日興味津々で新聞を読んでおります.」
その時,車の鍵をこじ開けて入る男がいた.
山さん「その広瀬道夫がある日轢き逃げでサイドミラーを打った車の修理を, 頼まれました.」
野間が山さんの方を少し向いた.
山さん「多分,血痕でも見つけたんでしょう.」
野間がさらに山さんの方を向いた.
山さん「記録でその件と一致するのは先月2日の轢き逃げ事件. 殺されたのは20歳の浪人学生でした.広瀬は犯人を強請りにかかりました. 犯人は応じる他はなく,金を払いました.しかし,酔うと口の軽い広瀬は, いつかは喋る.放っておけば破滅だ.犯人はそう考えた.」
野間は無言だったが,思わずハンカチを握り締めていた.
山さん「どうしても広瀬の口を封じたい. 一度人を殺した犯人には人を殺す事にためらいはない.ただ怖いのは, それがばれる事です.刑務所に入れられると.」
山さんは野間の方をじろっと見た.

ゴリさん達は必死に山さんを探していた.そして遂に場所が判明した.

山さん「ばれないように臨機応変の処置をとるためには, 警察の捜査状況を逐一知る必要がある.幸い犯人には, 所轄署の刑事を間接的に知っている女性が着いていました…あなたです.」
笠山は白い車に乗り,山さんと野間の様子をうかがっていた.
山さん「はじめの日,私はミスをしました.机の上においたまま台所に立った. それであなたに警察手帳を見られてしまった…私はあなたを調べた. しかしあなたが車には全く縁がないと知って安心しました.犯人でもない限り, まさかあなたが指紋を残さないようにハンカチまで使って手帳を開いたとは, 思えなかったからです.しかし,二度目にはあなたがミスを冒した. 私があなたのお店に伺った時です.ちらばった領収証の中に, お店の近くの駐車場の領収証が何枚かあった. あなたが駐車料金を払う車の持ち主.私はそれが誰かを知りたかった. しかし駐車場の管理人が知っていたのは, その男があなたとかなり親しい事,不動産関係の人と言うだけでした. 今日になって車の線から笠山不動産の名が浮かんできました. 社長の笠山こういちです.」
遂に野間の顔色が完全に変わった.それを笠山も見た.
山さん「しかし私には確信が持てなかった.こうしてあなたに会うまではねえ.」
野間は何かいいかけた.
山さん「ご主人に死なれてずーっと寂しかったというあなたの気持ちに, 嘘はないだろう.だからあなたは笠山こういちをどうしても失いたくなかった. その気持ちは私にはわかる.しかし,轢き殺された浪人学生と広瀬道夫の事を, ほんの少しでも考えた事はありますか? 彼らは寂しくとも一生懸命生きてきた. 私がどうにも我慢できない理由は私が利用されたからじゃない. やり口の問題でもない.どうしてこんな考え方しか, あなたにはできなかったのか.それが無性に腹が立ったねえ. 一人の刑事としても,一人の男としても.笠山こういちには, せめて自首をさせなさい.この事を知っているのは,まだ私だけです.」
野間「お店に来ている筈です.一緒に来てください.」
野間は泣きながら山さんと一緒に歩いた.だがそれは罠だった. 野間が白いハンカチを落とした.と同時に笠山の車が猛スピードで近づいた. 山さんは咄嗟によけ,叫んだ.
山さん「笠山!」
笠山はゴリさん達に進路を塞がれた.山さんは白いハンカチを広い, 野間に渡した.
野間「自首を勧めたのは,それじゃあ…」
山さん「そう.笠山が犯人だと言う証拠はない.未だ何もなかったんだねえ.」
野間は愕然とした.笠山は殿下に手錠をかけられ, 野間はボンに手錠をかけられた.山さんは白いハンカチを握り締めていた.

七曲署の屋上で山さんがタバコを吸っているとボスがやってきた.
ボス「二人とも殺人罪で送検と決まった.ばれるとわかったら, 二人で外国へ逃げる計画だったらしい.ところで山さんよ. そろそろ新しい人生考えたらどうなの? 独りでいるから, こんなややこしい事件が起きるんだよ.」
山さん「ボス.」
ボス「ん?」
山さん「それはないでしょう.大体ボスが独身でいて…」
ボスは痛いところを突かれ,誤魔化すのであった.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp