脚本は柏倉敏之.監督は山本迪夫.主役は殿下.シンコの登場はなし.
ある日の午後.新宿駅西口で殿下は恋人の麻江と待ち合わせをした.
殿下の方が遅刻してしまい,殿下は麻江にその事を謝った.
道すがら,麻江と殿下は話をした.
麻江「あたしね,母に手紙書いたのよ,島さんの事.」
殿下「そう.」
麻江「そしたら東京に出て来るって言うの.」
殿下「山形からわざわざ?」
麻江「うん.一度会いたいからって.」
殿下「僕もだ.休暇をとって山形へ行こうと思っていたんだ.」
麻江「でしょう.だから手紙書いたのよ.来てって.」
殿下「そうか.」
殿下と麻江は新宿のビル街の陸橋で話をした.
殿下「いいんだね,本当に? 刑事の奥さん.」
麻江「我慢します.だって,もしかしたら…」
殿下「もしかしたら,なんだい?」
麻江「刑事じゃない島さんなんて全然魅力ないかもしれない.」
殿下「こいつ.」
殿下は笑って麻江を小突こうとしたが,麻江は笑いながらそれをかわし,
走って逃げた.殿下も走って追いかけた.そして追いついて言った.
殿下「悪い奴だ.人をからかった罰に今日は一日中引っ張りまわすぞ.」
麻江「はい.お仕事の方はいいの?」
殿下「ああ.今日は事件もないし,ちゃんと休みをとって来たんだよ.」
麻江「ふーん.」
麻江は一安心した.
殿下「何処に行きたい?」
麻江「えーとねえ,まずお鍋買いに行きたい.」
殿下「え,鍋?」
麻江「だってあなた鍋料理が好きでしょう.だから.」
それを聞いて殿下は笑った.
麻江「おかしい?」
殿下「いや,おかしくないよ.よし.じゃあ,二人で鍋買いに行こうか.」
麻江「うん.」
と言った途端,殿下のポケットベルが鳴った.
殿下「うるさいんだよ,お前は.」
殿下はポケットベルをたたいた.
麻江「島さん,駄目よ.電話ならあそこにあるわよ.」
殿下「ああ.」
殿下は頬笑んで七曲署に電話した.電話にボスが出て用件を伝えた.
共栄倉庫の裏で事件があったと言うのだ.電話を切った殿下は麻江に言った.
殿下「出来たら,アパートによるよ.」
麻江「お夕飯作って待ってるわ.気をつけてね.」
殿下「ああ.じゃ,また後で.」
麻江「うん.」
走って現場へ急ぐ殿下を麻江は見送った.
これが最後のデートになるとも知らずに…
現場には一足先に山さんが駆けつけていた. 被害者は40歳前後の男だが身元は未だ判明していなかった. 拳銃で胸を撃たれて死んだのだ.ジーパンの調べでは遺留品はなかった. 山さんはジーパンと殿下に聞き込みに回るように言った. 入れ替わりにゴリさん登場.被害者の所持品には身元がわれそうな物はなかった. だが財布には全然手がつけられていなかった.ゆきづりの犯行ではない. 長さんが発見者から聞き込んだ話によると, 被害者はうわ言のように「たつ」と言う言葉を繰り返して死んだという.
七曲署に戻った面々は「たつ」と言う言葉の意味を考えていた.
ジーパンは人の名前(の一部)ではないかと考えた.長さんも山さんも賛成.
だが被害者の身元が未だわからない.当面は被害者の身元を割り出す事になった.
被害者は最近歯の治療をした痕がある.小さい時から歯医者は苦手だ,
と言うゴリさん.
殿下「ゴリさん,頑張って下さいよ.」
ゴリさん「おーい,なんだ,他人事みたいに.ん?」
殿下「恋人がいるとデートもしなければなりませんからね.
こういう事は○○に頑張ってもらわなくちゃ.」
ファミリー劇場放送時に○○の部分はカットされた.閑話休題.
ゴリさん「なーに言ってんだ,調子のいい事言っちゃってまあ.」
殿下とゴリさんはそういいながら出て行った.
それを見てボスと山さんは笑ってしまった.
その頃,麻江は夕飯の支度をするために買物をしていた. その帰り道,麻江はタクシーにぶつかってしまった. タクシーは慌てて去って行った.
報せを聞いた殿下は病院へ駆けつけた.一生懸命走る殿下.
だが病室に着いた時,麻江の顔には白い布が被せられていた…
殿下はゆっくりと腰をおろし,そしてゆっくりと白い布をとった.
殿下「麻江…」
あまりの事に殿下はそう呟く事しかできなかった.そこへボスもやってきた.
ボス「間に合わなかったな.」
殿下「ええ.ボス,僕は,この人と約束をしたんですよ.
二人で一緒に鍋を買いに行こうって.この人は,それを,
楽しみにしてたんですよ.」
感極まったのか,殿下は泣き声でそういった.ボスは肯いた.
それしかできなかった.
殿下「それをこいつ,約束も果たさない内に…」
そう言って殿下は飛び出してしまった.ボスは麻江をじっとみつめた後,
また顔に白い布をかけてやった.病院の外へ出た殿下は,
木を何度も何度も殴っていた.
麻江のアパートで殿下は麻江の母の柚子と話をした.
柚子「麻江の手紙にはいつもあなたの事ばかり書いてありました.
あの娘は本当にあなたが好きだったんですねえ.
だから,あたしも楽しみにしていたんです.
あなたと麻江が二人で,二人の…」
柚子は泣き出してしまった.
柚子「ごめんなさい.愚痴ばっかり言って.でもね,
あの娘は幸せだったと思いますよ.あなたに,
ここまで良くして頂いたんですから.せめてもの…」
また柚子は泣き出してしまった.
殿下「お母さん…」
柚子が泣きやむのを待ってから殿下は続けた.
殿下「これから,どうなさいますか?」
柚子「明日,山形へ帰ろうと思っています.この娘を連れて一緒に.」
二人とも遺影とお骨を見るのであった.
長さんが麻江ひき逃げ事件の話を交通係から聞きだしてきた.
目撃者はまだ出ていなかった.今のところ,手がかりは現場に残された塗料だけ.
修理工場を当たっているが,犯人は未だ見つかっていなかった.
ジーパンはボスに,交通係の仕事を手伝わせてくれ,と頼み込んでいた.
殿下の気が済まないのと,ジーパン自身も気が済まないからだった.だが,
ボスはそれを許さなかった.
ボス「俺達にはまだ解決しなきゃいけない事件がある.
ひき逃げ事件は交通係に任せるんだ.」
山さんはジーパンの肩を叩いた.そこへ殿下がやってきた.
殿下「どうも,ご心配をおかけしました.」
ボス「大変だったなあ.もっとゆっくり休んだらどうだ?」
殿下「でも,独りでじっとしててもしょうがないですからね.」
山さん「殿下,気を落とすなよ.」
殿下「僕なら大丈夫ですよ.今更いくら悲しんでみても,
彼女は生き返るわけじゃないし,もう忘れる事にしたんです.は.
もう人間なんて儚いもんなんですね.いつどうなるかわからないんだから.」
その言葉をボスは聞き逃さなかった.だがボスは無言だった.
殿下「ああ,そうそう.ゴリさんに金借りてましたっけね.
今のうち返しとこう.俺もいつ儚くなるかわからないから.」
ゴリさん「いいよ,そんな.」
殿下「いいから,いいから.山さん,捜査の方はまだなんですか.
身元は割れたんですか?」
山さん「いや,未だだ」.
殿下「なんだあ,未だか.俺がいなきゃ駄目ですねえ.ボス,俺,歯医者の方,
回ってきます.」
殿下は外へ出ようとした.ゴリさんが殿下を呼び止めた.
ゴリさん「こういう仕事は○○の俺にがんばれって言ったじゃないか.」
しつこいようだが,○○の部分はファミリー劇場放送時にカットされた.
閑話休題.
殿下「ええ.」
ゴリさん「だったら,俺に任せろよ.」
殿下「だけど俺,デートする相手,もういないですからね.」
殿下はそう言い残して出て行った.ボスはゴリさんに目配せした.
ゴリさんは殿下の跡を追って出て行った.
ボスからゴリさんと殿下のところに連絡があった.
もう遅いから七曲署に帰って来いと言うのだ.だが
殿下「このままじゃ帰れませんよ.」
ゴリさん「お前,明日があるじゃないか.」
殿下「人間なんて明日はどうなるかわかりませんからねえ.
俺,どうしても今日中に…」
ゴリさん「殿下.」
殿下「俺の事だったら心配してくれなくてもいいんですよ.
ゴリさん,先に帰ってください.」
殿下はまた聞き込みに出て行ってしまった.
その頃,ボスは交通課の前までやってきた.その時,中から山さんが出てきた. 誤魔化しあう二人.二人とも麻江のひき逃げ事件の結果が気になったのだ. ひき逃げ事件の目処はまだついていなかった.
殿下は歯医者を精力的に回っていた.まるで何かにとりつかれたかのようにだ. いつしか夕日が沈もうとしていた.
翌日.
ゴリさん「無茶だよ,殿下.ろくに寝てもいないのに,
今度は殿下自身が駄目になってしまう.」
ジーパン「しかしねえ,島さん,
捜査に打ち込む事で立ち直ろうと必死なんですよ.」
ゴリさん「そんな事,俺にだってわかってるさ.だけどなあ,
無理が過ぎるとある時突然,がくっと来るんだ.それを心配してるんだよ.
それにだぞ,明日を信じないで何ができる? そんなニヒルな考えじゃ,
捜査だってうまく行く筈ないだろう.」
ゴリさんがボスに殿下をもう少し休ませた方がいいと言った瞬間,
殿下から電話が掛かってきた.被害者の身元が判明したというのだ.
西池おさむ,45歳.板金加工場を経営している男だ.
ボスはゴリさんとジーパンに,殿下と合流して調べるように命じた.
西池の妻は号泣し,死体が夫であると明言した.その日,
西池は銀行へ行った事がわかった.
新しい機械を入れるためにお金を借りに行ったのだ.金額は500万円.
続けて殿下とジーパンは「たつ」という言葉に心当たりがあるかどうかを尋ねた.
その結果,白井達純という工員がその加工場で働いている事がわかった.その日,
白井は休んでいた.事件があった日,白井は午後から出てきたと言う.
寝坊したと言うのだ.殿下とジーパンは白井を引っ張る事にした.
殿下とジーパンは白井(水谷邦久)のいるビリヤード場へやってきた.
殿下は,自分が表から乗り込むので,ジーパンに裏口へ回ってくれ,と言った.
ジーパン「え? 相手は拳銃を持っているかもしれないんですよ.
独りで大丈夫ですか?」
殿下「大丈夫だよ.」
殿下は独りで乗り込んで行った.殿下が西池殺害の件を持ち出すと白井は逃亡.
殿下は白井を追いかけた.ジーパンが駆けつけた時は,
殿下が白井を何発も何発も殴っている最中だった.
その晩.殿下とゴリさんとジーパンは祝杯を挙げた. 犯人らしき男が挙がったからだ. ゴリさんは自分がおごると言った. ジーパンは殿下を見直したと言った.だが…
殿下は寂しく独りで歩いて帰った.翌日.
白井は山さんに対して西池殺しを否認した.
西池の口を塞いだのかという山さんに対して白井はこう言った.
白井「だったら証拠を見せてみろよ.俺がそんな事をするもんかよ.」
山さん「ふーん,それじゃあ,共犯がいるって事か.どうなんだ.」
図星だったのか白井は黙りこくってしまった.その時,ジーパンが取調室に入り,
山さんを外へ呼び出した.白井の部屋から金が出てきたと言うのだ.
真新しいお札で300万円.ナンバーは西池がおろしたお金と一致した.
だが拳銃は出てこなかった.山さんは取調室に戻り,その事を問い詰めた.
遂に白井は共犯者の名前を白状した.
共犯者は岩本正道で27歳.元戸川組の組員で,
白井とその日の12時にあけぼの公園で会う約束になっていた.
早速ゴリさんがあけぼの公園へ向かった.
殿下「僕も行きます.」
ボス「お前はいかん.少し休め.」
殿下「大丈夫ですよ.」
殿下はそう言い張って出て行った.久美ちゃんは,
殿下がすっかり元気を取り戻した,と考えたが,ボスはそう思ってはいなかった…
一回りするためにゴリさんは殿下と別れた.殿下はアベックが来るのを見て,
麻江の事を思い出していた.その時,戻ってきたゴリさんが殿下を呼んだ.
はっとした殿下は岩本(中村孝雄)が来ている事に気がついた.
ゴリさんと殿下は二手に別れて近づく事にした.
岩本は刑事が来ている事に気づき,逃走.殿下,そしてゴリさんが跡を追った.
駐車場の中を逃げ回った後,岩本は若い女をタテにした.
ゴリさんはボスに連絡をして応援を頼みに行った.
応援が来るまで絶対に手を出すなよ,と殿下に言い残して.だが,
殿下は独りで岩本に近づいた.岩本は威嚇するために殿下の足元を狙って撃った.
殿下「下手糞!」
殿下はそれでも近づいた.戻ってきたゴリさんは,応援が来るまで無茶するな,
と言ったが,それでも殿下は岩本に近づいた.
見かねたゴリさんは岩本の拳銃を撃ち落し,岩本は何とか逮捕された.そして…
ボス「どうしてあんな勝手な真似した.」
殿下は答えなかった.
ボス「ゴリはお前に早まるなと言った筈だぞ.」
殿下「しかし,犯人は逮捕しました.」
ボス「逮捕した.だが,だがあの時ゴリがいなかったらどうなっていたと思う?
お前今頃,死んでたかもしれんぞ.」
殿下「どうせ一度は死ぬんです.死ぬのが怖くちゃ,刑事なんか務まりませんよ!」
ボス「馬鹿者!」
ボスの鉄拳が殿下に飛び,
殿下はゴリさんとジーパンのいた机の上までぶっ飛んだ.
ボス「お前は確かに勇敢に岩本に立ち向かった.その手で白井も逮捕した.俺は,
少しも嬉しくないぞ.お前,生きる気力なくして,
ただ我武者羅に突っ込んで行っただけだ.いいか,殿下.甘ったれんじゃねえぞ.
命を粗末にするのはような奴は,俺は部下に持ちたいと思わん.」
その時,長さんが飛び込んできた.ひき逃げ事件の犯人が判明したというのだ.
犯人は水沢雄吉と言う個人タクシーの運転手.だが水沢の娘の話によると,
前々日に自宅を出たきり戻ってきていなかった.行方は未だつかめていなかった.
交通係は捜査一係に応援を求めていた.
ジーパン「よし,俺が行きます.」
ボス「待て.」
ボスは殿下の方を見た.
ボス「お前も一緒に行け.」
殿下「ボス…」
ボス「愚図愚図するな.」
殿下「はい.」
殿下はジーパンと一緒に水沢の家へ向かった.
ボスの声「殿下,頑張れよ.」
水沢の娘に水沢の行き先の心当たりはなかった.
殿下「隠してるんじゃないでしょうね.お父さんはひき逃げをしたんですよ.
そのために一人の人間が死んだんだ.あなた,どう思ってるんです!
逃げ回ってそれで済む事じゃないでしょう.」
殿下は感情的になっていた.その真の理由を水沢の娘が知る由もない.
だが水沢の娘は泣きながら必死に謝って言った.
娘「申し訳ありません.どうか父を許してやって下さい.
父は本当はそんな事のできる人じゃないんです.
事故だって15年間,一度も起こした事がないんです.でもあの時,
母が急に倒れて,父は病院へ駆けつけるところでした.普通じゃなかったんです.
咄嗟にどうしていいのか,わからなかったんです.」
ジーパンは胸を打たれ,思わず殿下の方を見た.殿下も胸を打たれていた.
殿下「それで,お母さんは?」
娘「命は取り留めましたけど,入院したままです.長くかかりそうなんです.」
殿下は何も言えなくなっていた.
娘「あたし,父に代わってどんなつぐないでも致します.
父を許してやって下さい.お願いします.お願いします.」
遂に水沢の娘は土下座までして謝った.
殿下もジーパンも何も言えなくなってしまった.
取り敢えずジーパンと殿下は車に戻り,無線でボスに報告した.
ボスはそのまま張り込みを続ける事と焦らない事を二人に命じた.
殿下は無言だった.ジーパンはどうしたのか訊いた.
殿下は麻江の事を考えていた.
殿下「もし彼女がいたら,なんて言うかなって思って.
やっぱり,ボスと同じ事を言うだろうなって.」
ジーパンには返す言葉がなかった.とりあえず,ジーパンがタバコを勧めた時,
電話の鳴る音が.殿下とジーパンは家の中に戻る事にした.
水沢(浜田寅彦)から電話がかかってきたのだ.
水沢の娘恵子は水沢に戻ってくるように言ったが
水沢「駄目なんだ,俺は.もう駄目なんだよ.」
とか
水沢「恵子,母さんを頼む.」
と泣きながら言うばかり.殿下は電話の事を恵子に尋ねた.
恵子「父は死ぬ気なんです.死んでお詫びする気なんです.」
殿下は恵子と電話を代わった.
殿下「水沢さんですね.今,どこにいるんですか?」
水沢「あ,あんた…」
殿下「僕は,七曲署の島です.いる場所を言ってください.」
殿下はジーパンに目配せし,連絡に行かせた.
殿下「水沢さん,その音は何です?」
水沢はガスで自殺しようとしていたのだ.
水沢「刑事さん,私は,人をひき逃げしましたが,すぐに手当てをすれば,
助けられたかもしれないのに,逃げ出したから,卑怯な私は,
こうしてお詫びする他,しかたがないんです.」
殿下「いけない.水沢さん,死んじゃいけない.」
ジーパンからの連絡を受け,ボスは逆探知して水沢の居場所を調べる事にした. そのために,ボスはジーパンに出来るだけ電話を長引かせるように殿下に伝えろ, と言った.
放送当時の電話交換機が映る中
殿下「ご家族の事も考えてください.
あなたがいなくなったら娘さんはどうなるんです.
病気の奥さんはどうなるんですか? 早くガスを止めるんだ.」
水沢「だけど,亡くなった人にも御家族が…私がおめおめと生きていたら,
その方々に,会わせる顔が…」
殿下「水沢さん.」
水沢「私はもうこうするより他に…」
殿下「あなたが死ねばどうなると言うんです.家族が喜ぶとでも思うんですか?
彼女が生き返るとでも言うんですか?」
水沢「私はもう…」
遂に殿下は刑事としての顔をかなぐり捨てた.
殿下「待ってくれ.あんたには,あんたには僕の話を聞く責任があるんだ.」
水沢「許して下さい.」
水沢が受話器を耳から話した,その時
殿下「僕の恋人だったんですからね,その人は.」
驚いた水沢は受話器を又耳に当てた.
殿下「彼女を亡くしてから,僕は自棄になった.
生きていたってしょうがないような気にもなった.だけどな,
生き残った者には責任がある.今はそう思うんだ.どんなに辛くても,
生きて行かなくちゃならないんだよ.」
ここでジーパンが戻ってきて,話を伸ばせ,というジェスチャーをした.
殿下「水沢さん,俺はあんたが憎い.だから,だから俺は,
あんたがそのまま死ぬなんて事は許さない.どうしても,
どうしても生きていてもらいたいんだ.生きて,
自分のした事の償いをしてもらいたいんだよ.わかるか,水沢さん.」
その時
恵子「あたしに貸して下さい.」
殿下は恵子と代わった.
恵子「お父さん,刑事さんの言う通りよ.あたし達,
これからしなくちゃならない事があるもの.だからお父さん,勇気を出して.
お願い.ガスを止めて.」
水沢「わかったよ,恵子.わかった.」
だが水沢の意識はガスで朦朧となっていた.
その時,逆探知が成功.山さん達は水沢のいるモーテル旅路へ急行した.
恵子「どうしたの,お父さん.お父さん.返事して.」
殿下「水沢さん.聞こえますか.早くガスを! しっかりしてください.
水沢さん!」
水沢は床に倒れこんでいた.そこへ山さん達が駆けつけ,ガスを止めた.
長さんを除く七曲署の面々が部屋で待機していた.そこへ長さんが戻ってきた.
長さん「水沢がな,意識を取り戻したよ.助かるそうだ.」
それを聞いて皆一安心.
ジーパン「よかったですね,島さん.」
殿下「腹減ったなあ.俺.(ジーパン,ずっこける)ここんとこ,
ろくに飯食ってなかったからなあ.ゴリさん,金貸してくれませんか.」
ゴリさんは気前良く一万円札を渡した.
殿下「ゴリさん,ありがとう.」
ゴリさんは照れてしまった.皆,ゴリさんを見て冷やかした.
だが殿下は何も言わずに出て行こうとしたので
ゴリさん「おい,殿下,それいつ返すんだよ?」
殿下「まあ,月末ですね.」
ゴリさん「月末って,おい,それじゃあ,俺,飯食えないじゃないかよ.」
殿下「気にしない,気にしない.」
ジーパンと長さんは大笑い.ゴリさんはボスに金策を願った.
仕方無くボスは一万円札をゴリさんに渡し
ボス「おい,ただし月末だぞ!」
と空の財布を振るのであった.
ちなみに麻江がこのような形で死ぬ事になったのは, 殿下の女性ファンから「殿下に恋人はいらない」と言う抗議が殺到したからです. そのため,麻江の出番はたったの三回. 麻江を演じた有吉ひとみさんは後にボギーの姉として出演します. でも私はカワセミカルテットの頃は本放送をあまり見ていなかったので, ボギーの姉正子の姿を見た事は全くありません.
次回は西山署長の息子にひき逃げの嫌疑がかかります. 息子が犯行を「認めた」ことにより,窮地に陥る西山. だが西山の息子の供述の様子から,事件の真相をボス達が突き止めて行きます.
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