脚本は小川英と杉村のぼる.監督は斎藤光正.主役は殿下.
あるアパートの一室で.若者(野瀬哲夫)がぼんやりと過ごしていた. 所持金は千円札一枚と硬貨が何枚かしかない. 若者は千円札を手にとり,マッチに火をつけて千円札を燃やそうとした. だが若者は千円札に火をつけるのをやめ,千円札で紙飛行機を作り, 窓を開け,外へ飛ばした.外では近所の主婦達が世間話をしていたが, 話に夢中で千円札の紙飛行機には全く気がつかなかった.
さて七曲署ではボンと長さんが議論していた.ボンは,
家出少年をなんでもかんでも犯罪者扱いするのはおかしいと主張していた.
そこへボスが出勤してきた.何を議論しているんだと言うボスに,
ゴリさんが新聞を見せた.それには「家出少年 踏切で飛込自殺
警察の歩道に反発」という見出しの記事が載っていた.
ボス「家出少年か.」
ボン「ボス,僕が東京に出てきた時も,半分家出みたいなもんでした.
だから家出する少年少女の気持ちはすごく良くわかるんです.自棄を起こしたり,
悪い事がしたくて家出するわけじゃないんです.彼らにとって,家出は,
自由と独立の象徴みたいなもんなんです.」
長さん「そこだよ,ボン.仮に家出が彼らにとって自由を意味するとしても,
親の方はどうなるんだ.」
山さん「そう.ボンだっていずれ父親になる.
そうなっても子供に家出を勧めるか?」
父親の世代である長さんと山さんの意見を受け,ボンは口籠ってしまった.
ゴリさんはボンをからかい,ボンは家出の先輩にくせにとゴリさんに返した.
ボス「まあ,家出については親にも子供にも,
それぞれ言い分があるんじゃないのかな.」
ここで殿下が一味違う意見を述べた.
殿下「僕は家出よりも,どうして若い連中が自殺したりするのか,
それが気になりますよ.」
皆,殿下の方を見た.この部分に今回のテーマが凝縮されていると私は思う.
さて,ある工場を初老の男(小山田宗徳)が訪れていた. 彼は谷と言う若者を探していたのだ.だが谷が働いていたのはたったの十日で, しかも履歴書も捨ててしまったので手がかりは丸でなかった. 男は何かわかったら連絡して欲しいと連絡先を書いたメモを工員に渡した.
その頃,冒頭で登場した若者はぼんやりと電話帳を見ていたが,
見るのをやめてしまった.その時,戸を叩く音が聞こえた.
若者が戸を開けると,来たのは警官だった.
警官「谷はるおさんだね?」
若者「ああ.」
警官「二日前,この先の公園でひったくりがあったのを知ってるね.」
若者こと谷は肯いた.
警官「君に効きたい事がある.ちょっと署まで来てくれ.」
警官は谷の肩に手を掛け,問答無用で連れて行こうとした.だが
谷「行かない.どこにも行かないよ,俺.」
警官「ちょっと署まで…」
谷「行かないって行ってるだろうが!」
谷はちゃぶ台にしがみついた.警官は谷を引き離そうとした.
警官「言う事をきかないのか!」
谷「出てけよ!」
警官「抵抗する気か!」
谷「俺は独りでいたいんだよ.離せよ.」
谷と警官は揉み合いになった.そして外へ出た瞬間,
谷は警官を突き飛ばしてしまった.だが運悪くそこは階段のそば.
警官は階段を転げ落ちてしまい,頭を打ってしまった.
居合わせた仲間の警官が谷を追いかけた.谷は自室に篭城.
だが警官が強引に鍵を開けたので谷は窓から脱出して逃走を続けた.
そしてとあるアパートに入り込み,部屋に篭城してしまった.
さらに包丁を自分の首に当て,来ると死ぬぞ,と叫んだ.
長さんと殿下が現場に駆けつけた.谷が篭城したのは広瀬という,
結婚三ヶ月の夫婦の部屋.ちょうど出かけている最中で,
管理人が彼らに連絡していた.引ったくりは五日前に矢追公園で起きていた.
会社帰りの若いOLが現金三万円の入ったハンドバッグをひったくられていた.
谷と同じアパートに住む主婦が犯行時刻の午後八時半頃,
現場付近でハンドバッグを持った谷を見たというのだ.
それで大谷と言う警官が話を訊こうとしたら,いきなり暴れだしたと言うわけだ.
谷を追いかけた警官は谷が引ったくりの犯人に間違いないと断言していた.
そこへゴリさんがやってきた.大谷の怪我は全治十日間ぐらい.
長さん「馬鹿な奴だな,全く.今のうちならまだ罪も軽いと言うのに.」
ゴリさん「狂言じゃないですかね,ただ逃げたい一心の.」
長さんはゴリさんの意見を聞いて肯いていた.だが
殿下「そうでしょうか?」
皆,殿下の方を見た.
ゴリさんは谷に呼びかけたが,谷の態度は変わらなかった.
谷「来るなあ.俺は独りでいたいんだよ.独りでいたいんだよ.」
戸を開けようとするゴリさんを殿下が制した.
殿下「独りでいたい?」
谷「独りで楽に死にたいんだよ.あんた達が邪魔するんなら今すぐ死ぬぞう!」
谷はまた包丁を首にあてた.
殿下「谷,なぜだ.なぜそんなに死にたいんだ?」
谷「あんた達に話したってしょうがないだろう!」
殿下「しょうがなくはないさ.さあ,話してくれ.
そういう君がなぜひったくりなんかやったんだ?」
谷「引ったくり? そんな事知るもんかよ.」
殿下は呆気にとられ,思わずゴリさんの方を見た.長さんは遠くから覗き込んだ.
殿下「じゃあ,違うんだね? 君は犯人じゃないんだね?」
谷「向こうへ行ってくれよ.もう誰とも話したくなんかないんだよ.」
ゴリさんは谷にアリバイを尋ねた.谷はアパートにいたと主張した.
ゴリさんは証明できるかどうか尋ねた.
谷「できないよ.証明なんか出来ないよ.いつだってそうなんだよ.
どんな事で疑われたって俺じゃないって証拠はどこにもないんだからな.
ずっと辛抱してきた.そうだろう.」
ゴリさん「谷!」
谷「そんな事どうだっていいじゃないかよう.ほっといてくれ.
向こうへ行ってくれよ.」
殿下は決意した.
殿下「待て.君がアパートにいたというのなら俺がその証拠をみつける.
きっとみつけてみせる.だから死ぬんじゃない.
それまでは決して死ぬんじゃない.いいね!」
殿下達は引き上げる事にした.
外へ出た殿下は長さんとゴリさんに言った.
殿下「彼のアリバイを調べます.」
長さん「いや,だがな,殿下.奴が無実なら何でお前…」
殿下は続けて言った.
殿下「それから,谷を監視する方法ですが,ちょっと.」
殿下は道を挟んで隣にあるアパートに入り,住人(栗葉子?)に,
監視するために部屋を貸してほしいと頼み込んだ.
そして殿下は長さんを置いて出て行った.
殿下は谷の部屋を調べていた.ボンは谷のアパートの近所で聞き込み.
そしてボンは千円札で作られた紙飛行機を拾い,殿下に渡した.
殿下「谷かもしれないな.」
ボンは谷の所持金が有り余っているとは思えないと言った.
殿下「有り余っているどころか,金はこれだけだ.貯金は全部おろしてゼロ.
食べるものさえ,完全に底をついている.」
ボンはだからひったくりをしたのではないかと考えた.
殿下「いや.ひったくりをやる気力さえもうなかった筈だよ.」
ボンはこんな生活で電話が引かれている事を不審に思っていた.
ボンが電話機をいじってみると料金滞納で止められたらしく,調子が悪かった.
その時,殿下は湯飲みと歯ブラシが二つずつ戸棚にある事に気がついた.
茶碗も二つある.殿下は二つの歯ブラシを手にとってみた.
ボン「誰かと同居していたんでしょう.それとも,尋ねて来る恋人のかなあ.」
殿下「違う.片方は全然使われていない.」
ボン「本当だ.おかしな奴だなあ.」
殿下は歯ブラシを置き,湯飲みをとってみた.そのとき,
ボンが栄進工業と刺繍された作業着を見つけていた.
その頃,山さんが向かい側の部屋に来ていた.谷の様子は変わりがなかった.
その時,外から物音が聞こえてきた.部屋の住人の広瀬夫妻が戻ってきたのだ.
外には記者も大勢いた.出てくれと騒ぐ広瀬.谷が窓を開けて外を見ると,
出て行けと叫ぶ広瀬と,谷に向けてフラッシュをたくカメラマンの姿が見えた.
カメラマンは大勢いた.何度も何度もフラッシュがたかれた.
これに興奮した谷はフランス人形の箱を手に持ち,外へ投げつけた.
そして谷はあらゆる物を外へ投げつけた.
山さん「よせ,谷.」
谷の動きが止まった.
山さん「誰もお前に危害を加えたりはしない.よすんだ,谷.」
谷は叫んだ.
谷「なぜほっといてくれないんだよ.俺,独りでいたいだけじゃないか.
独りで静かに死にたいんだよ.」
その時,谷は部屋に灯油の入ったポリタンクがある事に気がついた.
谷は部屋中に灯油をぶちまけた.みんな俺と一緒に燃やしてやると叫びながら.
山さんはゴリさんに止めるよう命じたが,谷はライターに火をつけ,
来ると燃やすぞ,と脅す始末.事態はますます悪化していった.
ゴリさん「落ち着け,谷.放火は重罪だぞ.」
谷「出てけ.そんな事はどうだっていいんだよ.家出してから今まで,
いい事なんか何にもなかったよ.」
それを山さんも聞いた.
山さん「家出.」
谷はライターを持ちながら思い出していた.
谷「みんなと付き合いたかったのに.
友達と一緒にもっと自由に生きたかったのに.
だが誰も,誰も俺の事なんか相手にしてくれなかったよ.
だけど,何でみんなそんな寄って来るんだよ.俺,俺をいじめたい時ばっかり.
何でみんなよってくるんだ.何で寄って来るんだよう.」
栄進工業で殿下とボンは谷が家出してきた事を知った. 谷は三年前の不況で解雇されたのだ.
ゴリさんは無線で谷が灯油を撒いて火をつけると叫んでいる事を殿下に報せた.
至急戻ってくれと言うゴリさん.
ボン「行きましょう.」
だが殿下は無言だった.
ボン「どうしたんです.」
殿下「帰るのはアリバイ証拠をつかんでからだ.」
ボンは呆れてしまった.ボンは取り押さえればいいと言ったが
殿下「ボン,強行すれば谷はかえって火を着けるぞ.ひったくりが無実なら,
谷の罪は警察への過失傷害と家宅侵入だけだ.執行猶予で済む.でももし,
もしも火を着けてしまったら,それだけで実刑は免れない.ボン,
俺には谷を救う義務があるんだ.」
そして殿下は自分が体験した事件を話し始めた.
殿下「5年前,港北署の頃だ,一度補導したことのある19歳の少年から,
電話がかかってきた.何か相談したい事があるようだった.
丁度その時事件が起きて,殆ど何も話してやれなかった.それから十日後,
アパートの床の中で死んでいる彼が発見されたんだ.死後五日経っていた.
死因は衰弱死だった.その少年の髪は白く変色していた.
部屋には食べ物と呼べる物は何もなかった.所持金は僅か14円.解剖の結果,
胃の中から検出されたのは水だけだった.」
ボン「僅か14円.しかし,14円でもあるって事はどうして…」
殿下「少年には頼れる親戚も友人もいなかった.
唯一俺が知人と言える人間だったんだ.
その俺が相談に乗ってやらなかったばっかりに…
少年の部屋には歯ブラシと湯飲みが二つずつあった.
それは谷の部屋で見た物とそっくりだった.
この広い東京で自分一人誰にも見向きもされない.
谷もおそらくそう思い込んでる.その気持ちを解きほぐすには,俺が約束通り,
彼のアリバイを証明して見せる他ないんだ.」
ボン「わかりました.僕も手伝います.」
職業安定所で収穫はほとんどなかった.だが,
谷の父親が二年程前から谷を探している事がわかった.
その日の朝も来たばかり.殿下とボンは,
谷の父親俊一(小山田宗徳)が投宿している旅館へ行ってみた.
俊一は事件の話を聞き,自分が谷を説得すると言った.
殿下「その前に一言だけ聞かせてもらえませんか?
はるお君の家出の理由です.」
だが俊一に心当たりは全くなかった.俊一は役所を定年退職し,
年金生活をしていた.俊一は学歴がないために苦労をしたという.
だから俊一ははるおが国立大学へ行く事を希望していた.
だがはるおが国立大学進学が嫌だと言ってくれれば,
俊一は国立大学進学を無理強いするつもりもなかった.
その話を聞き,殿下はボンに,俊一を先に現場へ連れて行くように命じた.
自分は引き続きアリバイ探しをするのだ.
谷のアパートに戻った殿下に,谷のひったくりの証言をした主婦が言った.
主婦「あのう,よーく考えてみたんですけど,後姿だけで,自信がなくて…」
殿下「と言う事は見間違いかもしれない?」
主婦はバツが悪そうに肯いて去って行った.続けて殿下は部屋に入った.
預金通帳から電話代が引き落とされている.殿下は電話機を見た.
殿下の声「電話から何か…彼のアリバイがこの電話から.
テレビもラジオも買えないほどなのに,どうして.まてよ.
親しい電話の相手がいる筈だ.どこかに,どこかにその電話番号がある筈だ.」
殿下は家捜ししてみたがメモらしきものは見つからなかった.
だが殿下は壁に電話番号が書かれているのを発見.早速公衆電話から掛けてみた.
すると
女性の声「はい,こちら命の電話です.」
殿下は谷の心の奥がわかったような気がした.
一方,谷は部屋のクッキーにも手をつけず,篭城を続けていた.
山さん「本当に死ぬ気の人間は誰にも説得できん.
死ぬ気をなくさせる以外はなあ.」
山さんも長さんも頭を抱えていた.そこへボンが俊一を連れてやって来た.
山さんは俊一に説得させる事にした.
俊一「はるお.私だ.父さんだよ,はるお.」
谷は俊一の方を見たが,またそっぽを向いてしまった.
俊一「どうしたんだ,はるお.顔を見せてくれ.」
俊一は懸命に谷を説得した.自分が悪かったなら謝る.母さんは体が弱っていて,
谷の事ばかり言っている.自分は谷を一生懸命探した.話しているうちに,
感極まって俊一は泣き出してしまった.
俊一「はるお.これ以上,人様に迷惑をかけることはやめておくれ.
お父さんが憎いんなら,父さんに当たっておくれ.はるお,はるお,はるお.」
谷は俊一の泣く様子を見た.そこへ殿下もやってきた.
殿下「アリバイは証明されました.」
山さん「そいつが役に立てばいいがなあ.」
殿下はボスに電話した.
ボス「お前の信じる通りにやってみろ.ただし,あまり刺激を与えると,
放火の恐れがある.十分,注意しろ.」
殿下は谷に向かって言った.
殿下「谷,俺だ.わかるか.約束通り,君のアリバイを見つけてきたぞ.」
谷が姿を現した.
殿下「君はひったくりの犯人なんかじゃない.
五日前の午後八時から九時にかけて,君は自分の部屋に電話を掛けていた.
どこへ掛けたかもわかっている.命の電話だ.」
長さん,そしてゴリさんが殿下の方を見た.
殿下「君はよくそこへ電話を掛けていた.あの日もだ.
係の女性がはっきりと君の事を覚えていた.谷,今確認してきた.」
殿下は命の電話に掛けた時の様子を話した.
殿下「確かですね? 確かにその時間だったんですね.」
係の女性の声「ええ.間違いありません.電話は全部記録しますから.」
殿下「どうして死にたいか話しましたか? え?」
係の女性の声「それは谷さんに限らず,これと言った原因はないんです.
ただ疲れ切って独りぼっちの深い穴に落ちてしまうんです.
そういう若い人からの電話が私どものこの命の電話だけで,
一日に百件からあるんです.」
殿下は話を続けた.
殿下「君はきっと何もかも面倒臭くなってしまったんだろう.
君の部屋の窓の下に千円札の紙飛行機が落ちていた.
これは君が飛ばしたんだろう?」
殿下はあの紙飛行機を飛ばした.谷は足で紙飛行機を拾った.
殿下「君にはもうお金はいらなかった.仕事も友達も要らなかった.
夢も誇りももう何も要らなかった.でも,それは嘘だ.君は,
ただ死ぬのが一番楽だと自分に言い聞かせているだけだ.本当は君は寂しいんだ.
独りで死にたくなんかないんだ.」
谷「やめろう! お説教ならたくさんだよ.」
谷は灰皿を投げつけた.そのため,部屋の窓ガラスが割れてしまった.
ボンは怒って谷に何か言おうとしたが殿下に止められた.
殿下「閉めるな.カーテンを閉めるんじゃない.」
ボン「島さん.」
殿下「谷.寂しくないって言うんなら,
なぜ君の部屋には茶碗や歯ブラシが二つずつあるんだ.」
谷は無言だった.しばらく殿下と谷は睨みあっていた.
殿下「いつか訪ねて来る誰かの為に君は買った.
昨日までは誰も来なかったかもしれない.でもそれは,
みんなが君を嫌ったからじゃないんだ.谷,自分が人を呼ばなかったからなんだ.
いや,呼んでも自分がみんなに心を開こうとしなかったからだ.
君がなぜ家出をしたのか,俺は知らない.だけど,寂しいのはみんな同じだよ.
友達が欲しいのもみんな同じなんだよ.誰も君には見向きもしなかったって,
君は言ったそうだね.だがそれは違うよ.
現に君のお父さんは二年間ずーっと君を探しつづけていたんだ.」
谷は無言だった.
俊一「はるお.はるお.はるお.」
殿下「父さんは違うって言うのかい? 友達や仲間とは違うって言うのかい?
違いやしない.同じだ.同じなんだよ,谷.君と同じように傷つき,
同じように寂しい人が一人ここにいるだけだ.
どうしてその人と素直に話し合えないんだ.同じ人間同士なのに,
どうしてそんな風に傷つけあわなければならないんだ.」
谷は殿下の言葉を反芻した.
殿下の声「同じなんだよ,谷.君と同じように傷つき,
同じように寂しい人が一人ここにいるだけだ.
どうしてその人と素直に話し合えないんだ.」
谷はライターを手から落とした.
殿下「ここを出るんだ.いいね.」
谷は突っ伏して泣いた.こうして事件は解決したかに見えた.だが…
谷は俊一と再会した.二人の目に涙が浮かんでいた.俊一は谷を抱き寄せた.
そして谷は殿下に連れられて外へ出た.だが広瀬夫妻が弁償しろ,と騒ぐ声,
そしてカメラのフラッシュがたかれるのを見て,谷は興奮.
また広瀬夫妻の部屋に入り,火を着けた.その様子を,
向かい側の部屋に住む女も見た.殿下達は一生懸命消火した.
殿下の説得は無駄だったのだろうか?
殿下「救えなかった,とうとう.結局俺は何にも出来なかったんだ.」
ゴリさん「違う.そいつは違うぞ,殿下.お前さん,奴の命を助けた.
それだけでいいじゃないか.それだけで.さあ,ボン,行こう.」
ゴリさんも殿下も気がついていなかったが,
殿下が救ったのは谷だけではなかった.
谷は連行されていった.殿下は向かい側の部屋へ戻り,
女に迷惑をかけた事を謝った.ガラス代は警察で弁償すると.だが女は言った.
女「私,やっとうちへ帰る決心がつきました.刑事さんのお蔭です.
私,去年の夏に家出したんです.」
殿下「君.」
女「何度も帰ろうと思いました.でも,あの人と同じなんです.
どうしても素直な気持ちになれなくって.刑事さんの説得を聞いていて,
このままじゃいけないってわかったんです.だから,うちに帰ります.」
やっと殿下は頬笑んだ.
女「でも,お父さんの顔を見た時,何と言ったらいいのか,
どうしてもそれがわからなくって.」
殿下「それなら簡単だよ.お父さん,ただいまって言えばいいんだよ.」
殿下は頬笑んだ.女は一礼した.そして殿下は去って行った.
翌朝.出勤してきた殿下は皆にからかわれていた. 皆に「なかなかの名台詞だぞ.」とか「お父さん,ただいま.」とか言われ, 殿下はなぜそれを知っているのか呆気にとられた.実は, 向かい側の部屋に住んでいた女こと下村ようこがたった今東京駅から電話をし, 新幹線に乗るところで,「やっと『お父さん, ただいま』と言える気持ちになりました」と殿下に伝えてくれと言ったのだ. 一安心する殿下.ボスは殿下に,家出した事あるんじゃないのか, と訊くのであった.
次回は長さん主役編.長さんの娘が遂に結婚式を向かえますが, 長さんは式に出席できませんでした.
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