2002年3月2日

「太陽にほえろ!」第66話「生きかえった白骨美人」

脚本は田波靖男と四十物光男と小川英.監督は山本迪夫.シンコの登場はなし.

ジーパンが手錠の手入れをしていた.そこへ久美ちゃんが戻ってきた. 今はもう秋.久美ちゃんは食べ過ぎてしまったらしい.そこでジーパンが, 自分も食事に出るので後を頼む,と言った. 今日は連続婦女絞殺犯人もとい容疑者が護送されるので, 残りのメンバーは東京駅まで行っていたのだ. 久美ちゃんが,早く見てみたいなあ,と言うと,ジーパンは, そんな見たら気絶するぞ,とからかった.怒る久美ちゃんを置いて, ジーパンは食事に出て行った.久美ちゃんは,自分も試験を受けて, シンコみたいな女刑事になるんだ,と夢想した.調子に乗った久美ちゃんは
久美ちゃん「御用だ.じゃない,連続絞殺魔逮捕する.」
と言って自分の左手に手錠をはめた. ところが鍵がなくて大騒ぎ…しているところへ初老の男(浜村純)が入ってきた. 男は久美ちゃんが刑事かと訊いた.まあそんなところだ,と久美ちゃんが言うと, なんと男は新聞を手に持ち
男「じゃあ,申し上げますけどねえ,こいつ偽者ですよ.」
何と今日大阪から東京へ護送されてくる連続婦女絞殺容疑者は偽者だという. 久美ちゃんが理由を尋ねると
男「なぜって真犯人は私なんですから.」
久美ちゃん,吃驚仰天.
男「どうか,その手錠をこの私に掛けてください.」
久美ちゃんは困ってしまった.
男「本当なんです.こうやって絞め殺したんです.」
男が久美ちゃんの首に手をやり首を絞める真似をしたので, 久美ちゃんは叫び声を挙げて気絶してしまった.
男「どうしたんですか,刑事さん.しっかりしてください,刑事さん.」

久美ちゃんはジーパンに起こされた.ジーパンは手錠を悪戯するのは良くない, と説教した.
久美ちゃん「あの人は?」
ジーパン「そういうのはねえ,専門家に任せてもらいましょう.」
ジーパンは忘れ物を取りに戻ったのだ. 仕方がないのでジーパンは自分の分と男の分の食事の出前を注文するよう, 久美ちゃんに頼んだ.

というわけできつねうどんを食べながらジーパンは男の取調べを始めた. ジーパンは男にきつねうどんを勧めたが,男は結構ですと言って, 食べようとしなかった.男の名前は田口りょうぞう,52歳. 住所は新宿区要町4-5 三信マンション.
ジーパン「ほう,マンション住まいとは豪勢ですねえ.」
時代を感じさせる台詞を言った後,ジーパンは職業を尋ねた.だが答えは
田口「新宿区要町4-5 三信マンション.」
ジーパン「それ,住所でしょ.僕が訊いてるのは,あのう,勤め先.」
田口は真顔でこう言った.
田口「ですから,勤め先も同じです.管理人してますので.」
ジーパンは納得.
ジーパン「ああ,マンションの管理人.(小声で)それなら, 早くいやいいんだよ.」
田口「でもそんな事,どうだっていいでしょう. 自分で人殺しの罪を認めているんですから,どうかあたしを逮捕, 早く罰してください.」
ジーパンは,詳しい事情を聞かないと,と言ったが
田口「証拠だってあるんですよ.女を絞め殺す時にねえ, 指紋がつかないように手袋したんです.このこと,犯人でなきゃ言えませんよ.」
ジーパンはうんざりした様子だ.
ジーパン「そういうのはねえ,新聞を読めば出ているんですよ.」
田口「刑事さん,私を信用してくれないんですか. この指で5人の女を絞め殺したんです.」
ジーパンは自首した理由を尋ねた.
田口「夢に殺した女たちの亡霊が現れて私を苦しめるんです. 私はもう疲れました.これでぐっすりと眠りたいんですよ. 刑事さん,私を助けると思って早く死刑にしてください.」
ジーパンがうんざりしているところへ廊下から騒々しい音が聞こえてきた. 婦女連続絞殺容疑者が七曲署に到着したのだ.ゴリさんが記者達をさえぎり, 山さんが取調室に容疑者を連れて入ってきた.ゴリさんも取調室に入った. ジーパンは絞殺魔だという男を尋問しているところだと言うと
山さん「なんだい,またお前か,田口.」
田口「旦那,今度は本当なんです.」
ゴリさん「親父さん,早くかえんないと偽証罪になるよ.」
そう.田口は自首マニア.何度も何度もこういうことを繰り返していたのだ. ゴリさんは田口を外へ出した.ジーパンも外へ出た.このとき, ジーパンは頭をぶつけてしまった.ジーパンのテーマの変調曲がかかる中, 田口はジーパンに言った.
田口「あんた,優しい刑事さんだねえ.だから教えてあげるよ. 本当は私がやったんだよ.」
ジーパンは呆れてしまい,鉛筆をへし折って立ち去った.

翌日.山さんが容疑者を自白させたことを報告している最中, ジーパンは何か考え込みながら煙草を吸っていた. 久美ちゃんがどうしたのと言うと
ジーパン「いくら自首マニアだからってあんなに迫力のある嘘はつけないよ.」
ジーパンはなぜやってもいないことを自白したがるのかが気になっていた. 山さんや長さんがその理由を話した.田口は記憶喪失だったのだ. 近所の人の話だと,3年前に可愛がっていた一人娘に家出されたのがきっかけで, おかしくなってしまったらしい.殿下もゴリさんも田口のことを話した. そこへ電話が.矢追町の工事現場から白骨死体が掘り出されたと言うのだ.

早速,ゴリさん,殿下,ジーパンが現場へ駆けつけた. 一足先に科学警察研究所技師の川上(天地総子)が来ており, 三人にまだ中に入らないよう指示した. ゴリさんは手帳を出して自己紹介しようとしたが
川上「あ,いいの.手帳なんか出さなくても人目で判るわよ. 刑事はどこでも同じなんだから.くたびれた背広に磨り減った靴履いて.」
それは僕ちゃんも同じだ.閑話休題.思わずゴリさんは「何!」と言ったが, 殿下に制止された.川上は殿下に「こちらはまあまあね. 割と品のいいネクタイしてるじゃない.」それを受け
殿下「あなたもメガネなんか掛けなかったら相当に美人なんだろうに, もったいないね.」
と返した.そこへジーパン登場.
川上「駄目よ.野次馬,あっち行って.」
ジーパン「野次馬!」
ゴリさんと殿下が川上にジーパンを紹介した.川上は驚いていた. ジーパンは早く現場を見せてくれといったが
川上「まだ駄目よ.おそらく3年以上も前の仏さんだと思うわよ.ふ. あなた方みたいに非科学的な捜査をする人がいくら現場を探ってみても, なーんにも出てきやしませんよ.」
ジーパンは何か言おうとしたが
ゴリさん「ちょっと言いすぎじゃないですか.」
ゴリさんと川上の間に険悪なムードが漂った.殿下はゴリさんを制止した. そこへ川上を呼ぶ声が.川上は骸骨を手に持ち
川上「なかなかいい形しているわ.かなりの美人ね.」
ジーパン「骸骨見ただけで美人だって判るんですか.」
ゴリさん「冗談だろう.」
そこへ田口がやって来た.勿論,捜査現場には入れないので遠巻きに見ていた.
川上「見たい? それならどうぞ.」
川上は骸骨をゴリさんの方に差し出した.思わずゴリさんはのけぞった.
川上「どうしたの?」
殿下は骸骨が美人の女だと判った理由を川上に尋ねた. 何と川上は死体が23,4歳だが処女じゃないらしいと見抜いていた. 指紋と同じで人によって頭蓋骨も千差万別. どれをとっても同じ頭蓋骨はないと言う. ゴリさんは怪訝な顔で骸骨を覗き込んで見た. 川上は,あなた達は3年前の状況を調べた方がいい,と言った. そこへ田口が人込みを掻き分けてやってきた.
田口「私です.やったのは私です.」
ゴリさん「なんだい,また爺さんかよ.」
だが
田口「申し訳ありません.私を逮捕してください.」
呆れてゴリさん,殿下,ジーパンは立ち去った.
川上「あの,あなたは?」
田口「この女を殺した犯人です.」
川上が驚いている隙にゴリさん,殿下,ジーパンは現場に入った.
川上「じゃ,あなたは本当に?」
田口「はい.」

白骨死体が発見された工事現場は以前雑木林で元は東京都の緑地指定地だった. ところが東京都が計画を変更して都営アパートを建てることになり, 工事を始めたところ,死体が掘り出されたと言うわけだ. つまり死体が埋められた頃はそこは空地だったのだ. 近所の人の話だとたまにアベックが入るくらいのもので, 死体を埋めるには都合のよいところだったという. となると犯人には死体が掘り返される筈がないと言う自信があったに違いない. となるとかなり土地勘のある者の仕業に違いない. 殿下が近所の人の犯行だろうかというと,ボスが異議を唱えた. 土地の不動産業者で都の計画を知っているものだったら, あの場所に目をつけるだろう.そこへジーパンが入ってきた. 科学警察研究所から報告書が届いたのだ.ゴリさんが「例の彼女, 未だ来ないのか?」と訊くと,ジーパンは後で来るそうだと答えた. 報告書によると,被害者は女性,推定年齢は23,4歳,死因は不明, 左の第二および第三臼歯に虫歯の治療の痕あり,という.ボスは, 歯医者を当たることと,家出人や捜索願から該当しそうな人物を当たるよう, 命じた.

という訳で皆,歯医者を当たった.殿下は調書を調べていた. ジーパンは歯医者で患者に間違えられて治療を受けさせられる羽目になった. 歯医者からは該当する人物は見つからなかった.だが調書の中から, 田口の娘が該当者に含まれていたと殿下が報告した.田口の娘はOLだった. という事は勤め先の近くの歯医者で治療を受けたのかもしれない. 草の根わけても探そう,とゴリさんが言うと
川上「そんな大変なことする必要はないわ.」
と川上がやってきた.川上は大きな木の箱を持っていた.
川上「刑事の武器は勘と足だっていうけど, もうちょっと科学捜査を信用したらどうなの.」
川上は頭蓋骨から顔を復顔して来たのだ.髪の毛がなかったので, かつらを色々と被せてみた.なんと
ジーパン「これ,田口和子じゃないですか.」
殺されていたのは田口の娘和子(桂木美加)らしいと判った.
川上「いかが.これで科学の偉大さが判ったでしょ.」
勝ち誇る川上.ボスは田口和子の線を当たる事に決めた.
ジーパン「あのおじいさん,呼ぶんですか?」
川上「じいさんって?」
ジーパン「ほら,この女性の父親です.」
殿下「現場であなたに自首してきた変なじいさんがいたでしょう.」
川上「ああ,あの人が.は,は.今度の自白は本物かもしれないわよ.」
ゴリさん「そうかなあ.彼は記憶喪失症なんですよ.」
川上「その記憶喪失症もよーく調べてみないとね.」
ジーパンは人形の首を取ろうとして手を伸ばしたが,川上に叩かれた.
ゴリさん「しかし,あなたは大した女性ですねえ.」
川上「どういう意味,それ.」
ゴリさん「いや,あのう,あんたには恐いものってないんですか. 例えば,お化けとか.」
川上「恐怖と言うものはねえ,正体が判らないから恐いのよ. よーくその実態を見極めれば恐いことなんか何もありゃしないわよ.」
と言いながら川上はメガネを取った.ゴリさんは感心した. ボスはゴリさんとジーパンに田口を当たるように命じた. 殿下達は近所の聞き込みに当たることになった.

田口は三信マンションの前にホースで水を撒いていた. 田口は逮捕しに着てくれたと喜んで手を出したが, ジーパンは田口の娘のことを訊きたいと話を切り出した. 田口は娘のことなど全然覚えていないと言って怪訝な顔.
ゴリさん「でも娘さんがいたことは覚えているでしょう.」
田口「ええ.あのう,周りでなんだかんだ言われるんで…」
ジーパン「他に娘さんのことでなんか知ってますか?」
田口「さあ,大したことは知りませんなあ.あのう, 私が記憶を失くしたのも娘のせいだそうですから.」
何と田口は他人事のようにそう言った.
ゴリさん「え? なんで.」
田口「娘が私の頭を殴って怪我をさせたから,こんなになっちまったんだと.」
ゴリさん「誰がそんなことを言ったんだ.」
田口「社長さんですよ.」
ゴリさん「社長?」
田口「このマンションの持ち主です. このマンションの6階にいらっしゃいますよ.」
そう言って,田口は最上階の方を見た.

ジーパンとゴリさんはマンションのオーナー(西沢利明)の部屋に上がりこんだが, 自分は何も知らないといってゴルフのパターの練習をし, 妻にジーパンとゴリさんの相手をさせた.ゴリさんは三年前の事を訊いたが, その頃は青山に住んでいたので田口とは全く付き合いがなかったと妻は答えた. だが田口はオーナーのアパートの店子だったので顔は知っていたと言う. 3年前まで三信マンションは2階建てのアパートだったのだ. かなり古いバラックで,それを取り壊して建てたのが三信マンションだったのだ.
ゴリさん「すると当然,アパートの住人の立ち退き問題も起こったでしょう.」
妻はそうだと答えたが,その話なら夫の方が詳しいと付け加えた.
オーナー「ああ,立ち退きの問題か.そういやあ, その件で田口の親子と二,三度会ってるなあ.」
ジーパンは和子が田口を殴った事が本当かどうか訊いた.
オーナー「本当かどうかは知らんが,ちょうど立退き料を百万円支払った翌朝, 爺さんが部屋の中で倒れていたんですよ.頭を殴られてねえ.」
ジーパン「で,そんとき娘さんは?」
オーナー「消えてました.百万円と一緒にねえ.」
ゴリさん「百万円と一緒に…」
オーナー「金欲しさに父親を殴り倒して逃げた. そうとしか考えられないでしょう.」
ゴリさん「その田口さんを管理人になさったのは何か訳があるのですか?」
オーナー「いえ.引き取り手のない気の毒な方なので…それだけのことですよ.」
オーナーはまたパターの練習を始めた.
ゴリさん「あのう,お忙しいところを恐縮ですが,もう一つだけ. そのアパートの住人で立ち退き先の判ってる人ありませんか.」
オーナー「そりゃあ,無理ですなあ.今じゃ縁も由縁もない人達ですから.」
オーナーの妻「あら,でも,ほら,しつこく郵便物の区に入れた人何人かあって, あの人達の住所,確かメモが.」
妻がメモを持って来た.オーナーはパターを入れるのを失敗した.

近所の人の話だと,田口親子の仲はとても良かったと言う. しかも田口和子がお金を持ち逃げするところを見た人は出なかった. 元住人の一人はその話なら当時中川, つまり今は結婚して寺岡という名前になった三信マンションのオーナーに訊け, とゴリさんに話した.寺岡は三年前までは不動産会社の平社員だったのだ. それで立ち退き問題にまで首を突っ込み,田口親子とも何度も交渉したと言う.
ゴリさん「あの寺岡が…じゃあ,どうしてさっきあのこと黙ってたんだ.」

寺岡の怪しい点はそれだけではなかった.寺岡は本籍を5回も変えていた. 寺岡は結婚する度に本籍を変えていたのだ.本籍を移転すれば結婚歴は消える. 結婚詐欺の手口だ.長さんからその話を聞き
ゴリさん「どうも引っ掛かりますね,ボス. 我々の前で完全にすっとぼけたあの顔,あれは山師ですよ.」
だが田口事件とのつながりが見えない.そこへ川上が登場. 何と犯人の目星がついたと言う.
川上「田口よ.」
ゴリさんも長さんも殿下もその意見を否定したが
川上「あのねえ,記憶喪失ほど芝居しやすい病気はないの.」
ジーパン「それじゃあ,嘘だって言うんですか.記憶喪失も自首マニアも, あの爺さんのやったことは全て.」
ボスは怪訝な顔だった.川上は肯いた.良心の呵責による自己倒潰だというのだ.
ゴリさん「ちょっと待って下さいよ. 科学万能主義のあなたがそれを言い出すからには,根拠があるんでしょうね. 科学に裏づけされた確かな根拠が.」
骨髄を調べた結果,放射線療法を受けた痕跡が見つかったと言うのだ. つまり田口和子は白血病にかかっていた疑いが濃くなったと言うのだ. 一旦発作が起きれば物凄く苦しむのだ.
ボス「なるほど.つまりあなたの推理によれば, 娘の苦しみを見かねた田口が安楽死を願って娘を殺した.」
川上はボスを知能指数が高いと誉めた.
川上「いかが.これであなた達も判ったでしょう.田口はね, 忘れたんじゃないの.忘れようとしたのよ.」
それに答えてボスが皮肉を言った.
ボス「いや,誉められたから言うわけじゃないが,確かに一つの推理ですな.」
川上「いいえ.事実ですわ,これが.」
ボス「じゃあ,それを証明できますか?」
川上はそれを証明するため,田口を呼ぶようにジーパンに言った. 嘘発見器にかけると言う.そう言い放って川上は去った. ジーパンは,俺は嫌だな,田口が可愛相になった,と言ったが, ボスは,そう言わずに呼べ,と言った.皆,納得していなかったが
ボス「いいか.俺もあの爺さんの人柄は良く知っている. 爺さんが殺人犯だとは思わん.多分,俺のその信念はお前達の誰よりも強い筈だ. だがな,今はその証拠がない.彼女の推論を覆すだけの論拠がないんだ.」
皆,納得した.
ボス「寺岡を含めて三年前の事実を克明に洗え. いずれにしても真実は一つしかないんだからな.」

寺岡が勤めていた戸川不動産を長さんが訪れて寺岡に関する話を聞いた. 寺岡は二年前まで戸川不動産にいたが,どうもやる気があるように見えなかった. 何か役得がありそうな仕事だとすぐ食いつくくせに, まともな仕事にはさっぱりという感じだったという. そのくせ女性には強く,随分ガールフレンドがいたらしい. ところが寺岡は女性の事は絶対に言おうとはしなかったらしい.

ゴリさんは田口和子が勤めていた会社へ行き, 田口和子のボーイフレンドの話を聞き込んだ. 誰か好きな人がいたことは確かだったが,彼女はとても内気で, 秘密主義だったので絶対に言おうとしなかったと言う.

ジーパンのテーマに乗せ,ジーパンが寺岡を尾行した. だが尾行に気付かれたので,途中から殿下に交代した. そして殿下は長さんと東京大飯店で合流.寺岡は奥の個室に入った. だがただの逢引だった.長さんはマネージャーに話を聞いた.

さて川上は田口を嘘発見器に掛けていた.
川上「いいですか.これからあたしが質問する事に対して, 全ていいえでお答えくださいね.自分でははいと答えたくてもね.」
田口「いいえ.」
まだ質問が始まっていないのに田口が「いいえ」と答えたので, 川上はずっこけた.
田口「まだ,はいでいいんですね.はい.」
というとぼけたやり取りがあった後,質問が始まった.

一方,ボスは長さん達から報告を聞いていた. 東京大飯店のマネージャーによると, 寺岡の相手の女性は次々と変わっていたと言う. 現夫人のはつえも何度か来ていたし,その前には別の女, その数年前には別の女が来ていたと言う.つまり東京大飯店の個室は, 結婚しようとする女を寺岡がくどくために使われていたのだ. 残念ながら,マネージャーは田口和子を見かけたかどうかを明言できなかった. 「見た気もしますが」と殿下と長さんに答えたと言う.これじゃあ, 決め手にはならない.例え田口和子と寺岡の関係が立証できたとしても, それが殺人とどう結びつくのか,それを探るのがもっと難しい.
ボス「賭けだな.」
ゴリさん「は?」
ボス「いや,依然として証拠は何一つとしてないが, 現に寺岡は結婚三年目でもう別の女に手を出している. 寺岡の口説きの図式通りとすれば,近いうちにその女に乗換る.」
それを受け,殿下はその女の家の近所の人に聞き込んだ話を報告した. その女も最近父親が死んでかなりの遺産を持っていた.
ボス「田口和子は貧しい女だが,百万円という立退き料があった.」
ジーパン「そうか.それを目当てに…」
ボス「ああ.女を踏み台に金を目当ての結婚を次から次へと繰り返す. 寺岡がそういう男である事はまず確かだ.とすればだ, そんな奴にどんな罠をかけてもかまわん.少々無理な注文だが, みんな手分けしてある女性を探してくれないか.」
皆,怪訝な顔だ.
長さん「は,ある女性と言いますと?」
ボス「わからんか.あれだよ.田口和子だ.」

ゴリさんはモデルクラブの事務所へ行き,田口和子そっくりのモデルを探した. ジーパンはデパートで田口和子そっくりの女性を探そうとしたが, 客と間違えられてしまった.殿下はスーパーのバーゲンセールでもみくちゃに. 長さんは梅花女子短期大学の卒業アルバムから, 山田澄子(桂木美加)という女性を発見.髪型を除けば田口和子そっくりだ. だが会ってみると山田澄子は短大の頃とは少し様子が違っていた. ゴリさんは「いるようでいないもんだな.」と食堂でラーメンを食べていると
ゴリさん「あ,いた.」
テレビに映っていた女優は田口和子そっくりだった.

まだ嘘発見器での取調べは続いていた.だが
川上「駄目だわ.全く無反応だわ.」
田口「いいえ.あ,すいません.」
というやり取りがあった後
川上「あなたが謝ることはないんですよ.たとえあなたの記憶喪失が本物でも, あなたが犯人だと言うあたしの確信は変わらないんですからね.」
田口「ありがとうございます.そうなんです.犯人は私なんです.」
川上は頭を抱えてしまった.そこへゴリさんとジーパンが登場.
ゴリさん「何かわかりましたか?」
川上「いいえ.」
川上は明日から別の方法,つまり催眠療法を試してみる,と未だ言い張っていた.
ジーパン「あ,催眠術ですね.科学らしくないな.」
ジーパンは失笑してしまった.川上は, 催眠療法は人間の80%を占めるという潜在意識を引き出す立派な医学だ, と言った.
川上「その方法が一番なの!」
ゴリさん「ああ,なるほど.」
ジーパン「わかりました.」
川上はゴリさんとジーパンが素直なので拍子抜けしてしまった. ゴリさんは川上にボスが呼んでいると伝えた.

川上が七曲署の捜査一係室に入った.中にも誰もいなかった. そのとき,川上の背後に置かれていた田口和子の人形の首が動いた. 振り返った川上は怪訝な顔.川上が窓の方を見ると人形の首が動き, また川上が振り替えると同時に人形の首が元の位置に戻った. そこで川上が人形の首を覗き込んでみると,人形の顔の目が開いた!
川上「きゃあーーーーーーーーーーーーーーー!」
と叫んで川上は失神してしまった.と同時にゴリさん達登場.
ゴリさん「やった,やった.は,は. 彼女が間違えるくらいだから成功間違いなしですね.」
長さん「いやあ,驚いたねえ.いやあ,どうもご苦労さん.」
実は人形ではなくて人間が首を出しているだけだったのだ.
殿下「さあ,しっかりしてください.恐い者知らずのお嬢さん.」
殿下は川上を起こしてあげた.だが川上が「彼女」を見た途端
川上「あーーーーーーーーーーーーーーー!」
と叫んで川上はまた失神してしまった.

というわけで作戦決行.まずジーパンが田口を連れ帰った. 三信マンションの入口でジーパンと田口は寺岡を出あった. ジーパンは明日は田口に催眠療法をすると寺岡に話した.
寺岡「効果があるんですか?」
ジーパン「ええ.絶対に効くそうです.今日も結果が良かったし, 明日は九分九厘記憶が戻るだろうって言う話です.」
寺岡は良かったなあと言った.
田口「はあ.私はただ一刻も早く罪の清算をしたいんです.」
ジーパンは「わかった,わかった.」と言って田口を中に連れて行った. 寺岡は田口達を見送りながら不審な顔.そして部屋に戻って酒を呑もうとしたが, 外を見るとジーパンが張り込んでいるのが見えた.寺岡は女に電話し, 旅行を早めて明日の午後二時に行こう,と言い,現金を忘れずに,と言って, 電話を切った.

翌日.鑑識課では田口に催眠療法が行なわれていた. 寺岡は車を走らせていた.その様子を殿下も長さんもしっかりと見ていた. 寺岡は首都高速を降りて溜池方面へ向かっていた.催眠療法が続き, 田口が苦しんでいる頃,寺岡が車を降りた. そして東京大飯店の個室で寺岡は女を見て驚いた.「田口和子」がいたからだ. 苦しむ田口.
寺岡「和子.許してくれ.俺が悪かった.殺す気はなかったんだよ. 許してくれ.許してくれえ.」
寺岡は壷を落として割ってしまった.その頃,田口は暴れ, 記憶を取り戻していた.
田口「和子.可愛相な和子.あんな奴に殺されて.」
さて寺岡は真っ青な顔で個室から出ていた.そこへジーパンと長さんが登場. 反対側にはゴリさんと殿下が登場.寺岡は挟み撃ちされた.
ゴリさん「寺岡.田口和子をやったのはお前だな.そうだな.」
寺岡「け,刑事さん.そうです.私がやったんです.」
寺岡は膝をついて罪を認めた.
寺岡「それじゃあ,あの女…」
女も外に出てきた.
ジーパン「協力ありがとう.もういいですよ.」
女はかつらを取って言った.
女「びっくりしたわ.この人,凄い顔するんだもん. こっちが逃げ出したくなっちゃった.」
寺岡は呆気に取られてしまった.その顔には脂汗が浮かんでいた.

ジーパン,ゴリさん,長さん,殿下達は寺岡が全部吐いたと言った. 詳しい状況を話す前に
山さん「いや,殺した時の状況なら,こっちにも判っているぞ. 奴は立退き料を目当てに和子さんに接近したが,父親の田口に紹介された時, 不治の病,白血病の事を知った.」
ボス「その上,立ち退きの一件ではつえが独身なのを知って, すぐはつえに乗り換えた.」
ジーパンもゴリさんも呆気に取られた.
山さん「和子さんはそのことをなじり,寺岡は彼女を突き飛ばした. 体の弱っていた和子さんは,その衝撃で首の骨を折って死んでしまったんだ.」
久美ちゃん「ちょうどその時入ってきたのが,田口のお爺さんだった. 逆上した寺岡がお爺さんを殴り倒した.お爺さんは死ななかったけど, 記憶を失ってしまった.ね,そうでしょう.」
ゴリさんとジーパンはそのことを知っている理由を訊いた.
ボス「いや,こっちでもなあ,ミス科警研が手柄を立てて, 爺さんの記憶がすっかり戻ったんだよ.」
そこへ川上が登場.皆,おめでとうございますと言ったが, 川上はバツが悪そうだった.というのは…
田口「皆さん,私を捕まえてください.罰してください.」
皆,怪訝な顔.ボスが田口の心を見抜いてこう言った.
ボス「手には掛けなかったが,何度殺そうと思ったか判らない. 寺岡がやらなかったら,きっと私が殺してた.そう言いたいんだな.」
田口「そうです.私は罪深い人間です.殺人が無理なら殺人未遂で, どうか罰してください.でないと辛くて夜も眠れない.」
ボス「だがあんたは殺さなかった.それが事実だ.あんたには何の罪もない.」
田口「でも…」
ボス「俺の親父も癌で死んだ.爺さんと同じだよ. 苦しみ悶えてる親父を楽にしてやりたいと何度思ったかしれん. だがな,人間の命の重さを俺はその時はじめて知った.たとえ二日の命でも, どんなに苦しんでも,生かせたい,生きるべきだ,それが人間なんだ. 爺さん,あんたも同じ事を考えたんだろう.」
田口は涙を流していた.
ボス「あんたが罪人なら,この俺だって罪人だよ.」
そのとき,「田口和子」の首が頬笑んだ.

次回は鮫やん登場編.殿下に殺人容疑がかかります.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp