脚本は保利吉紀.監督は工藤栄一. 定吉(大竹修造)は豊島屋の番頭の嘉七(内田勝正)に連れられ, 茶屋へ行った.定吉の相手をお駒と言う女(桃山みつる)がすることになった. 定吉は「旦那に知られたら」と渋ったが,結局嘉七の言いなりになってしまった. その頃,やいと屋が定吉の旦那の飾り職人甚作(下元勉)のところを訪れていた. 定吉と甚作の娘お京(宮前ゆかり)は惚れあっていた. だが甚作はまだ定吉の腕が未熟だと考え, 二人が一緒になるのはまだ早いと思っていた.今回はここでタイトル表示.
しばらく経って,定吉は嘉七にお駒に会わせてくれとねじ込んでいた. 嘉七はお金が要ると言ったが,定吉にはお金がなかった. そこで嘉七は甚作の簪の贋作を作れと言った.定吉は一度は断った. だが「露店で商いをするより,その方がお金になる.」と嘉七は詰め寄った. さてやいと屋と甚作が話をしていた. 定吉はもう五日も甚作のところに現れなかった.
相変わらずお歌と剣之介が芸を見せていたが,誰も見る人はいなかった.
その前で定吉が簪を売っていた.定吉は店番をお歌に頼んで,店を離れた.
お歌はお礼に簪をもらったが,剣之介は投げ捨ててしまった.
怒るお歌に剣之介が言った.
剣之介「妙だと思わんか.あれを見ろ.」
見ると定吉が嘉七に甚作の贋作を見せているのが見えた.
そして定吉は豊島屋の手代に化けて贋作商売を開始した.
手口はこうだ.まず豊島屋の丁稚が甚作の本物を届ける.
そこへ定吉がやってきて,間違いですので取り替えます,と言って,
定吉の作った鼈甲の銀流しの簪と取り替える,と言うもの.
千勢は「天網恢恢疎にして漏らさず」について講義していた.
これは老子にある言葉で「天網は目があらいようだが,悪人を漏らさず捕らえる.
天道は厳正で悪事をはたらいた者には必ずその報いがある.」と言う意味.
だが生徒達は「ここのおじさん(主水)」が「色々からくりがあって,
目溢しがある.」と言っていたと言って千勢をからかった.そこへ主水登場.
生徒達は主水登場に大笑い.その後,夕食の時
主水「天網恢恢…ん? 天網,
天網恢恢恢(鼻をすすって)何とかにして漏らさずだ.」
主水は「天網恢恢疎にして漏らさず」の意味がわからず,悩んでいた.
どうでもいい話だが,「必殺仕置人」第3話「はみ出し者に情けなし」で,
主水は「天網恢恢疎にして漏らさず」と悪党達に向かって話している.
その台詞はこういうものだ.「悪いことはできねえな.
天網恢恢疎にして漏らさずって奴だ.だがなあ,
俺達は天網なんて夢見てえな事,誰も信じちゃいねえ.
生身の人間の恨みを込めておめえらに仕置をしてやるんだ.おめえら,
目明しの六蔵手先に使って何の罪科もねえ女をおめえらの慰み者にした.
そのために首をくくった女もある.川に身を投げた女もある.
身を持ち崩した女は二人や三人じゃねえ.
その訴えを取り上げてやるはずの奉行所の役人がぐるになってちゃ,
一体,この恨み,誰が晴らすんだ.いいか,奉行所はなあ,
北町と南町だけじゃねえぞ.ここにもあるんだ.地獄の奉行所がなあ.」
老人ボケだろうか? これはただ単に,今回の脚本を書いた保利吉紀さんや,
今回のメガホンをとった故工藤栄一さんが知らなかっただけかもしれない.
閑話休題.せんとりつは悩んでいる主水を見て呆れていた.
せん「りつ,教養がないというのはなんて情けないことでしょうねえ.」
りつ「その点,父上はいささか教養をお持ちでしたこと.」
主水「母上,そう仰いますがね,世の中には色々教養が邪魔をすることが,
ありましてなあ.」
と主水が開き直ったので,せんとりつはまた呆れた.
せん「まあ,なんて無教養なお言葉.」
りつ「あなた.」
主水「は?」
りつ「千勢さんはとんだことを吹き込まれたと言って,
悔し泣きしているんですよ.」
主水「子供達にですか? へえ,私は全然記憶にございません.」
りつは嫌な顔をした.
せん「いつまでも食べてないで,早く手をついて謝っていらっしゃい.」
仕方なく主水が千勢のところへ行くと,
ちょうど千勢が新しい絵草紙を読んでいたところだった.
主水「ほう,そうですか.新しいのが入ったんですか.ちょっと拝見します.
なるほど,これはいいですなあ.」
と絵草紙をちょっと見て弱みを握っておいてから
主水「ねえ,先生,女房と婆が謝って来いとこういうもんですから…」
千勢「あのことでしたら,どうぞご心配なく.建前上怒った事ですから.」
主水「しかし先生はなんですなあ,話せるお人ですなあ.」
どさくさに紛れて主水は千勢を後ろから抱きかかえた.そして絵草紙を取り
主水「なるほど.こういう格好があるとは知りませんでしたな,あたしは.
あ,は,は,は.結構ですな,先生.」
その時
りつ「あなた,あまりお邪魔してるとお勉強の妨げですよ.」
主水「はい,はい.わかっております.」
その頃,豊島屋に客が乗り込んでいた.
何と甚作の贋作を25両で売りつけられたというのだ.
豊島屋の久兵衛(西山辰夫)は贋作を持って甚作にねじ込んできた.だが,
甚作に心当たりがあるわけがない.嘉七はいけしゃしゃあと文句を言った.
豊島屋も怒り,奉行所に訴える,と言って去って行った.
その場にはやいと屋も居合わせていた.
やいと屋「とっつぁん,紛い物かい.」
剣之介とお歌にお京が定吉の行方を尋ねていた.長屋じゃないの,
とお歌は答えた.その通り,長屋に定吉がいた.定吉は押入れに篭り,
贋作をこしらえていた.やってきたお京に定吉は甚作の細工物の下絵をねだった.
お京は断ったが,もう会わないと定吉は言った.
その頃,豊島屋には贋作をつかまされた客が殺到し,大騒ぎ.
一方,長屋でお京と定吉が抱き合うのを見て,甚作は激怒.
甚作は定吉をぶん殴ったが,お京は定吉をかばった.何と
お京「私のお腹には定吉さんの赤ちゃんがいるの.」
驚いた甚作は「定吉」と言うのがやっと.定吉も何も言うことができなかった.
外で甚作は例の贋作を見せ,お京と一緒になれ,と定吉に言っていた. 甚作は,丸甚の印だってくれてやらあ,とまで言った. 定吉は,お京をきっと幸せにしてみせる,と言い,お京のところへ向かった. 甚作は嘉七に連れられて番所へ行った.自分が騙りを働いたと言うのだ.
捨三の洗濯屋でやいと屋は甚作が捕まったことを主水に話し, 甚作が騙りをするわけがない,調べてくれ,と言った. 主水は嫌な顔をした.その頃,豊島屋も同じ事を考えていた. 甚作がそんなことをするわけがないと.豊島屋は嘉七に殴り倒した. そして嘉七は定吉を豊島屋に連れて行き, 豊島屋を首吊りに見せかけて殺す手伝いをさせた. 何も知らない豊島屋の手代や丁稚は嘉七の言うことを鵜呑みにし, 豊島屋を閉めて給金を分けると言う話を聞きながら涙した. その場には甚作を捕まえた同心の榊がいた.
さて主水は牢屋敷に来た甚作に話をした.
騙りは獄門だと聞いた甚作は定吉の身代わりで自首した事を主水に話した.
捨三の洗濯屋でその話を聞いた剣之介は,
定吉が嘉七に贋作を見せていたことを話した.
その晩,定吉は泣いてすがるお京を殴って別れていった.
そこへお歌がやってきた.お歌はお京を慰め,
何かあったらお寺の境内へおいでと言った.だが翌日.
寺にはお京は現れなかった.川に身を投げたのだ.主水は銀次から,
甚作が獄門に決まったことを聞き,甚作のいる一人部屋へ行った.
甚作は,長屋まで行ってお京が定吉と所帯を持っているかどうか確かめてくれ,
と頼んだ.だが主水はお京が川へ身を投げたこと,そして,
定吉にお京が袖にされたことを甚作に言った.甚作は嘆き悲しんだ.
甚作「お京.畜生.定吉の奴.」
主水「お裁きがついちまったものを今更申し開きができねえ.
おめえは獄門台に送られるぜ.」
甚作「え,旦那.あっしはこれじゃあ,死んでも死にきれねえ.
定吉…定吉が憎い.」
主水「人の情けが素直に通る世の中じゃねえんだ.な,とっつぁん,
おめえもついてねえや.」
泣く甚作.
主水「だがなあ,世の中には裏の裏のそのまた裏がある.
お上で裁きがつかねえ事を裏で落とし前をつけてくれる連中を知ってるんだ.」
甚作「え?」
主水「おめえの恨みは必ず晴らしてやる.」
甚作「は!」
主水「だがなあ,少々まとまった銭が要るぜ.」
こう言って主水は言葉巧みに仕業人のことを話した.
甚作は髪に隠してあったお金を主水に渡し,言った.
甚作「旦那,定吉の奴,お願いします.」
主水は捨三に仕事を急ぐように言った.奉行所が豊島屋の首吊りを怪しんで,
調べ始めていたからだ.だが豊島屋は潰れて嘉七の居所がわかりそうにない.
剣之介は定吉を追いかければわかるかもしれない,と言った.
さらにやいと屋が芋づる式に誘き出してはどうだ,と言い,さらに,
奴らの手口を真似して見てはどうだと言った.作戦は実行に移された.
定吉が贋作を売りつけたところへ,捨三が手違いで間違えちまった,と登場し,
鼈甲に銀流しの簪と取り替える.そこへやいと屋が現れ,こいつは紛い物だ,
と指摘する.客は定吉を捕まえ,金を返せと詰め寄った.
そして捨三は定吉が潰れた筈の豊島屋へ行ったのを見届けた.
それを洗濯屋で聞き,主水は今夜決行することにした.
主水は捨三とやいと屋に金を渡したが,剣之介には渡さなかった.
剣之介「おい,八丁堀.おう,おい.金,金.」
主水「おめえには今度降りてもらうんだ.」
剣之介「何だと!」
主水「おめえはお尋ねもんだ.あの辺りは町方が動き回ってる.
下手におめえの正体が割れたら俺達の命が危ねえんだ.」
剣之介「じゃあ,金だけくれ.」
捨三「何を言ってるんだよ.仕事もしねえのに金だけ貰うなんて,
虫が良すぎるじゃねえかよ.」
剣之介は捨三を突き飛ばした.
剣之介「降りたくて降りてるんじゃねえや.
こんな仕事して生活保障してくれないんじゃ合わねえや.」
仕方なく主水は言った.
主水「け.しょうがねえや.貸しだぜ.」
やいと屋は「回り道して辰巳の方から入る」と吉だと占い帖で見て, 実行に移した.主水の懸念は的中してしまい,捕り方がうろうろしていた. そこで主水は捨三を囮に使うことにした.豊島屋の前に現れた捕り方は, 捨三を追いかけて行った.その隙に, 主水とやいと屋がどうどうと豊島屋に乗り込んでいった. 嘉七と定吉は捕り方が去って一安心し,金を着物に詰めていた. その時,簪が投げ込まれた.と同時にやいと屋が乗り込んだが,劣勢だ. 二対一とは言え,本当にやいと屋は弱い.弱すぎる. やいと屋は懐中の火種を落としてしまった.そこへ主水が乗り込み, 嘉七を斬った.やいと屋は何とか懐中の火種を拾い,定吉をしとめた.
翌日.将棋をしていた主水のところへ銀次がやってきて,
甚作がこしらえた駒を渡した.珍しく神妙な顔つきで銀次が言った.
銀次「牢屋は天国だって思ったけどな.
旦那もいい人だし,みんなも優しくしてくれるし.
でもとっつぁんみたいな人でも獄門になっちまうんだから怖いですよ.
ねえ,旦那,出して下せえよ.」
主水「うるせえな,おめえも.御牢内で軽軽しく役人に物言うんじゃねえ.」
銀次「牢屋なんて地獄だよ.」
銀次はそう言って去って行った.
主水「地獄は牢屋に限るめえ.王手.」
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