脚本は井上由美子. これを知った段階で見るのをやめるべきでした. NHK朝の連続テレビ小説「ひまわり」もそうでしたが, 物凄くリアリティのないお話でした.主人公は中山安兵衛(木村拓哉). 後の堀部安兵衛.これは井上女史の責任ではありませんが, 安兵衛が高田馬場の仇討ちをする場面や道場で稽古をする場面で 合成を多用.あまりの空気感のなさに興冷めしてしまいました. そして高田馬場の仇討ちをした直後, 安兵衛が吉良上野介(津川雅彦)に呼び出されて会う場面があります. ドラマはフィクションだからそんな場面があっても良いのかもしれないけれど, 高家筆頭が一介の素浪人に会おうと思うのでしょうか? 高家とは朝廷との間の儀式,典礼をつかさどる役目を持った家のことで, 格は大名に準ずるものの,発言権は大きいものがありました. その筆頭が吉良家で,足利義氏(あしかがよしうじ)を祖とする名門の家柄です. 禄高も4,200石と高家の中では飛び抜けて高く,家禄以外の余録を含めると, 中級大名にも匹敵するといわれています. そんな高貴な身分の人が一介の素浪人を呼び出すことなど滅多にないこと. さらに安兵衛が服も整えず,しかもタメ口を利いたのにはがっかり. この場面を見てさらに興が冷めてしまいました. そして堀部弥兵衛が安兵衛と三本勝負をして負けた場面で, さらに興が冷めてしまいました.実は弥兵衛もかなりの剛の者で, そんなに剣術が弱いわけではないのです.実際,高田馬場の仇討ちの二年前, 弥兵衛の実の息子が凶死し,弥兵衛は自分で息子を殺した犯人を斬り捨て, 自分で仇を討っているのです.そんな弥兵衛があんなに弱い筈ありません. ドラマはフィクションだから,それでも良いのかもしれないけれど, 違和感を覚えてしまいました.以後, 赤穂城明け渡しの場面までは忠臣蔵定番の場面ばかりですが, 実は安兵衛以外の人がやってことも安兵衛がやったことになっているので, やたらと安兵衛ばかり目立ち過ぎ.何かが違います. 「忠臣蔵1/47」と言うのは木村拓哉さん考案の題名. 安兵衛は47士の一人に過ぎないという考えが木村さんの頭にあったと言います. だが井上脚本は安兵衛ばかりが目立っていて, 木村拓哉さんの考えにも合っていないと思います. また弥兵衛が仇討ちに反対するシーンがありますが,これもおかしいです. 実は弥兵衛も安兵衛同様強硬派でした. こんな風に穴ばかり目立つ作品は見るのが辛いです.そういえば, 吉良家で茶会がある日を探り出したのは大高源五なんですけれど… 大高源五の扱いが小さ過ぎ!
そうそう.余談ですが吉良上野介を演じた津川さんは, 「忠臣蔵外伝 四谷怪談」という映画では大石内蔵助を演じています. 吉良上野介と大石内蔵助の両方を演じた事があるのは, 津川さんくらいかも知れません.他には思い当たりません. ちなみに今回大石内蔵助を演じた佐藤浩一さんは, 「忠臣蔵外伝 四谷怪談」では田宮伊右衛門を演じています.
貶すばかりもあれですので, 私の好きな赤穂浪士の討ち入り事件を扱ったドラマや映画をあげておきます. NHK大河ドラマ「峠の群像」と深沢欣二監督の「忠臣蔵外伝 四谷怪談」です. 「忠臣蔵外伝 四谷怪談」と同じ頃に上映されていた 市川昆監督の「忠臣蔵 47人の刺客」は途中で居眠りしてしまいました. 堺屋太一さんが書いた「峠の群像」では大石内蔵助が石野七郎次に, 「昼間に行灯をつけてみた.」と言う場面があります. 「晴れた日には噂通り行灯の灯りは目立たなかったが, 一天俄かに曇り夕立の時には行灯の灯りが明るく見えたぞ.」と言う内蔵助. 日常では目立たないが非常時だと目立つと言うのが内蔵助の言いたかった事です. 実際,内蔵助は浅野家取り潰しの前に,取り潰しになった備中松山城を受け取り, 城番を立派に勤めると言う大役を卒なくこなしています. 「峠の群像」では赤穂浪士の討ち入り事件の伏線として, この備中松山城の受け取りを入れています. こういう工夫があったので面白かったと言うわけです. 勿論,高田馬場の仇討ちも「峠の群像」でちゃんと描かれていました.
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