有光は村木と杏子と自分が三人で写っている写真を見て, 過去の楽しい日々,杏子の死を思い出していた.その時, 有光の脳裏に東郷の笑い声が響いてきた.有光は決意を新たにするために, 写真を燃やした.その炎は有光の闘志を燃え上がらせた.杏子の喪が明け, 身辺の整理を終わった有光は, ようやく血を以てする復讐戦の火蓋を切って落とす時が近づきつつある, と感じていた.
アパートを出た有光はチャンピオンに姿を現した.そこには佐竹もいた.
有光に大沼も佐竹も矢野もそして明子も声をかけられなかった.
その有光が口を開いた.
有光「沼さん,今まで貯めてきた金はいくらになっているんだ?」
大沼は有光の意図がわからず,「え?」と訊き返した.
有光「すまんが,俺の取り分を明日一番で引き出してきてくれないか.」
大沼「そら…」
皆,有光の意図に気がついた.
大沼「有光さん!」
矢野「じゃ,やるんですね,いよいよ.」
佐竹「(有光の肩を叩き)何も言わなくても君の気持ちはよーくわかってる.
俺達みんな手伝わせてもらうよ.」
大沼「おう,おう,おう.全力挙げて協力しますよ.」
矢野「そうだとも.一緒にやらせて下さい.」
だが有光の応えは
有光「矢野,いいかげんに身を固めろよ.
あんたの子が明ちゃんのお腹の中にいるんだろう?」
矢野「へ? 知ってたんですか.」
有光「つまらん考えを起こすのはやめとけ.」
矢野「いや,しかし,それとこれとは別だ.
俺だって杏子さんを殺した奴が憎いですよ.」
有光「俺がやろうとしている事はガキが生まれてまでやるような,
ご立派な事じゃないんだよ.こいつは血塗ろの薄汚え復讐なんだ.」
矢野「汚かろうが,血塗れだろうがそんな事はどうだっていいんだ.
どうせ相手はでっかい力を持ってるんだから,汚え手段も,
殺しだってやらなきゃならない事は俺だって承知してる.だから…」
大沼「矢野.」
大沼が矢野を止めた.
大沼「有光さんの言う通りだよ.いざとなったら俺も言おうと思ってたんだよ.
明ちゃんの身にもなってみろよ.」
佐竹「誰もおめえさんの事,卑怯だとか臆病だなんて言いやしねえよ.
二人で子供を育てていく方が,余っ程勇気がいる事なんだ.
だから矢野ちゃんのことは置いといて,俺と沼さんは手伝わせてもらうぜ.」
大沼「おう.」
佐竹「俺達には失う物は何にもねえんだ.なあんて,
ちょっとかっこよすぎるかな?」
だが
有光「あんた方二人は素人なんだ.足手まといになるだけだ.」
佐竹「足手まとい? そりゃちょっと言いすぎじゃないか.え.」
大沼「そうですよ.そりゃ言いすぎですよ.」
有光「何も言わないでくれ.沼さん,頼むよ.」
有光はチャンピオンから出て行った.
有光は仲間を汚い闘いに巻き込みたくなかったのだ.
有光はチャンピオンの前で草刈と出くわした.有光は黙って去ろうとしたが
草刈「杏子さん殺しのホシの口から,
村木が彼らと繋がりがあることがわかったんでね.
君には何の後ろぐらい点もなかった.しかし,君は,杏子さんのために,
黙って全てを背負った.その気持ちも今の私にはわかってるつもりだ.」
有光「もう過ぎ去った事です.村木も杏子も死んだんですから.」
草刈「だからこそ,君が血で血を洗う復讐に走り,
私が君を殺人犯として逮捕しようとする事は避けたいんだ.
これは捜査一課長としてではなく,個人として君に忠告したいんだ.」
有光「お気持ちはありがたいと思いますが,
この世の中で法によって裁けない奴がいるって事です.
あの事件で刑事を辞めて以来,私にはその事が良くわかってきたんですよ.」
草刈には有光を黙って見送る事しか出来なかった.
有光は武器屋の根津(大泉滉)のところへ現われ,武器をしこたま買い込んだ. 有光は根津を一度逮捕した事があったのだ.最初は警戒した根津だったが, 結局は折れ,ライフルやら機関銃やらを有光に売り渡すのだった. 暗い街の底で有光はじわじわと憎しみの白い牙を研ぎ始めていた.
貴志(高城淳一)から東郷は有光が姿を消した事を知らされた.
ちょうどその頃,草刈は唐橋から北多摩署からの報告を受けていた.
かねてから内偵中だった米軍からの武器弾薬の古売屋ルートを探り,
古売屋の一人を逮捕したところ,
その男から有光が大量の武器弾薬を仕入れた事が判ったと言うのだ.
草刈「何? 有光が?」
草刈は有光の意図を見抜き,有光を銃器不法所持で指名手配する事,
そして貴志興業の周辺を所轄署と協力して張り込む事を唐橋に命じた.
ここは貴志興業のビル.有光を捕まえるために警察が周りを固めていた. だが有光は中に入る車に捕まって警察の目をくらませた. そして地下にあるスナックの中で発煙筒をたいて騒ぎを起こした. 警察や貴志興業のの目がスナックへ向いている隙に, 有光は貴志興業の事務所に入り,拳銃を何発も何発も撃って貴志を殺した.
だが有光は逃げる途中で負傷してしまった.その有光を救ったのは矢野だった. 有光は矢野のアパートに運ばれ,ベッドに寝かされた.
翌朝.有光が目を開けると杏子の姿が見えた.
有光「杏子…」
だがそれは明子の見間違いだった.
明子「気がついたのね.ああ,良かったわあ.」
有光「すまん.」
矢野「とんでもない.張っていたかいがありましたよ.」
有光「張っていた?」
矢野「ええ.怒られるかな.多分有光さんがあそこを狙うだろうと検討をつけて,
毎日それとなくうろついてたんですよ.」
有光「そうだったのか.」
そこへ佐竹と大沼もやって来た.
佐竹「有光君.貴志を殺ったらしいね.」
有光「ああ.」
大沼「いやあ,しかし危ないところだった.ねえ,有光さん,
俺達にも手伝わせてくださいよ.覚悟はできてるんだから.」
有光「気持ちだけもらっとくよ.俺はここを出て行かないと.」
有光は起き上がろうとしたが,矢野と明子に制止された.
矢野「とんでもない.その傷じゃ無理だ.」
大沼「本当に怒るぜ,有光さん.」
佐竹が言った.
佐竹「こう言うときには,友情の押し売り,甘んじて受けるもんだよ.」
有光は皆の申し出を受け入れた.
その頃,貴志の死を有光によって叩きつけられた宣戦布告と知った東郷は,
関東一円に強大な勢力を張る組織暴力団誠心会を動かそうとしていた.
東郷「誠心会会長阿久津のところへ行ってくれ.わしは何も言わん.」
秘書「わかっております.全てお任せください.」
秘書は誠心会へ行き,阿久津(玉川伊佐男)に指令を出した.
その動きを警察もつかんだ.
草刈「何,誠心会の阿久津までが動き出した?」
唐橋「は.下部組織まで動員して有光を.」
草刈「貴志を動かし,今度は阿久津という大物を動かす人物か.
そいつはただ一人.」
唐橋「東郷正豪.」
草刈は肯いた.
草刈「有光の標的は東郷だったんだ.とすれば,
発端は有光が東郷に関する重大な情報を握ってからだと考えられる.」
唐橋「なるほど.」
草刈「二課とも協力して東郷の周辺を洗ってくれ.」
唐橋「は.」
草刈「ただし,相手が相手だ.あくまでも慎重にな.」
警察にとっても東郷は大物だったのだ.
明子が買物に出た隙に有光は矢野のアパートから出た.
だが有光の居場所を大沼と佐竹は既に知っていた.
佐竹「傷が完全に治ってからでも遅くはねえと思うよ.」
大沼「それにこれは街でつかんだ情報ですがね,
誠心会の阿久津が動き出したそうですよ.」
佐竹「奴らはかなり大々的に人間狩りを始めた.ま,今,
動いても無駄だろうな.」
有光「いや,それだったらなおの事ですよ.
奴らは必ず矢野のアパートを探し出す.
俺は矢野と明ちゃんだけは危険にさらしたくないんですよ.」
佐竹「わか.じゃあ,俺のアパートへ来いよ.」
大沼「何を言ってんだよ.ブン屋さんのアパート行ったって同じじゃないかあ.」
佐竹「いや,つい最近引っ越したばっかりなんだよ.それに社も辞めちゃったし,
ま,奴らとすりゃあ,手がかりはつかめねえだろうな.」
大沼「そいつはいいや.それじゃあ,速いとこ行こう.いい,矢野にはねえ,
あたしから連絡しますから,ね.さあ,中入って,中入って.
あたしやっていくから.」
佐竹と大沼は強引に有光のジープに乗り込み,佐竹のアパートへ行った.
佐竹「今時,ちょいめずらだろ.ここなら当分安心だよ.」
有光は迷惑をかけたことを詫びたが,佐竹と大沼は気にしないでと言った.
佐竹「じゃ,沼さん,行こうか.」
佐竹と大沼は立ち上がった.
有光「どこへ行くんだ?」
佐竹「いやあ,沼さん,店たたむって言うんでね,ちょいと後片づけ.」
有光「チャンピオンへ行くのか?」
有光は嫌な予感がしていた.
大沼「なーに,大丈夫ですよ,心配しなくたって.もう閉めちゃってんだから,
とっくに.奴等だって目つけちゃいませんよ.」
有光「いや,万一ってことがある.近づく前に,
十分近くを調べてからにしてくれ.」
佐竹「心配要らな.」
出て行こうとする二人に有光が言った.
有光「沼さん,どうしてたたんでしまうんだ?」
大沼「ふ.権利を売っ払って矢野にやるんですよ.奴もガキができることだし.」
有光「で,あんたは?」
大沼「いやあ,あっしはねえ,能なしですから,
いずれまた似たような商売をどっかでやりますよ.」
佐竹「兎に角あの店は色んな事思い出すから嫌なんだってさ.
デリケートなんだよ,見かけによらず.」
大沼「いいですかい.絶対,ここ動いちゃいけませんぜ.」
そう言い残して大沼と佐竹は去って行った.
有光に言われたとおり,佐竹と大沼はチャンピオンの周りをうかがった. そして中に入ったが,中には刺客が待っていた.大沼は佐竹に逃げろと言い, 佐竹を逃がそうとした.大沼は刺客に腹を刺され,死んでしまった.
佐竹は逃げようとしたが,誠心会の者に捕まってしまった.
そして有光の居場所を吐かせるため,阿久津は佐竹を腕から吊るさせ,
拷問にかけた.
阿久津「有光は何処だ.どこにいるんだ.」
佐竹「知らねえよ.それより,大沼,大沼をどうした.」
三下「とっくにあの世へ行ったとよ.」
三下「てめえも死にたくなかったら,さっさと吐くんだよ.」
佐竹「ちきしょう.」
佐竹はなおも拷問にかけられたが,何も喋ろうとしなかった.
佐竹「殺せ.殺したって言わねえぞ.」
なおも佐竹は拷問にかけられていた.
有光と矢野は佐竹のアパートで考え込んでいた.やがて有光は決断し,
立ち上がった.
矢野「有光さん.今度こそ俺にも行かしてくれ.佐竹さんを救って,
沼さんの仇を討たせてくれ.」
有光は行こうとしたが
矢野「有光さん.俺にも武器をくれ.奴らをぶっ殺したいんだ.」
しばらく二人は睨みあったが
有光「あんたは生きていかなきゃいけないんだ.」
有光は矢野に当身を食らわせ,独りで出て行った.
阿久津は佐竹にガスバーナーの火を背中に当てさせた.
佐竹は苦痛と熱さに呻き声をあげたが,何も吐こうとはしなかった.
その時,阿久津のところへ有光から電話がかかってきた.
有光「阿久津さん.あんたの狙いはこの俺だろう.俺を殺りてえんだったら,
明日の朝八時,関戸橋の砕石工場へ来い.もちろん,
俺はただおめおめとただやられるつもりはねえがねえ.」
阿久津「よし.乗ってやろう.ただし,ここにいるお前の仲間は,
それまで預かっとくぜ.ちょっと痛めたが,この後は大事にしてやるよ.」
有光は阿久津からの電話を切った後,110番へ電話した.
翌朝八時.砕石工場に誠心会の連中が姿を表わした.
そこへジープがやって来た.誠心会の連中はジープを狙い撃ちしようと,
ジープに向かって発砲しながら近づいた.蜂の巣になるジープ.
連中の一人がジープへ行くと,なんとジープは無人.と同時にジープが爆発.
連中は警察に捕まった.
唐橋「有光はおらんか!」
そこに有光の姿はなかった.その頃…
有光は誠心会に乗り込んでいた.有光は誠心会の連中を機関銃で蜂の巣にしたが,
阿久津「銃を捨てねえと,この男の命はねえぞ.」
阿久津は佐竹を盾にした.佐竹が隙をついて逃げようとしたが,
佐竹は阿久津に撃たれてしまった.阿久津は有光に撃たれて死んだ.
有光は佐竹を抱き起こし,何度も何度も呼びかけた.
やっと意識を取り戻した佐竹は小声でこう言った.
佐竹「すまねえな.しかし,俺は,何にもしゃべりゃあしなかったぜ.
拷問には,弱い筈の,俺がよ.これじゃあ,まるで,
レジスタンスの,と,と,闘士だよ.これは,冗談.冗談だ.」
これが佐竹の最期の言葉だった.有光の目から涙がこぼれ落ちた.
大沼と佐竹の死を悲しみ,自らを責めさいなむ暇は今の有光にはなかった.
その心中には,最大の敵東郷への殺意が改めて吹き荒れていた.
有光は東郷の屋敷の前に潜み,ライフルで狙いをつけていた. 東郷が出てきたところで殺ろうと言うのだ.
その頃,矢野は,佐竹がかつて書き記し,マスコミに拒否された,
東郷に関する調査記録を持って草刈を訪れていた.一読した後
草刈「矢野君.よく持って来てくれた.私としてはこれを無駄にしたくはない.
これについて今言える事はそれだけだ.」
矢野は肯き,同行してきた明子も喜んでいた.
草刈「君達は今有光がどこにいるのか,心当たりはないのかね?」
思わず明子は矢野を見た.
矢野「ありません.いや,もしあったとしても,
それを僕らの口から言う事はできないでしょう.」
草刈は肯いた.
草刈「わかった.有光を逮捕するのが先か,
この記録により東郷を追い込み逮捕するのが先か,いずれにしろ,
有光がこれ以上殺人を重ねないためにも,
私は双方に全力を尽くすしかないだろな.」
沈黙が流れていた.
さて有光が東郷を狙っていると,門が開いた.
有光は出てきた東郷を狙ったが,そこへ車がやってきて,
草刈が降りるのが見えた.
草刈「東郷先生,捜査一課の草刈です.」
東郷「うん.」
草刈「失礼ですが本庁までご同行願えませんか?」
東郷「同行? どういう事かね? 君はこのわしを逮捕するつもりかね?」
草刈「いえ.殺人事件の参考人として少々お伺いしたいと思いまして.」
東郷「ほう.殺人事件にわしが関係あるとでも言うのかね?」
草刈「いえ.非公式には身辺保護として考えて下すっても結構です.」
東郷「ほう.誰から保護をするつもりかね?」
草刈「それは先生が…」
草刈は振り返って有光が潜んでいるであろう場所を見返した.
東郷「ほう.よかろう.面白そうな話だ.」
こうして草刈は東郷を本庁へ引っ張る事には成功した.だが…
草刈は一連の殺人事件について東郷の教唆を追及したが, 決定的な証拠はつかめず,逮捕に切り替える事はできなかった.次いで, 佐竹のメモに基づき,捜査二課による贈収賄関係の追求に関しても, 東郷は平然と否認し続けた.そして…
部長「東郷さんに関する捜査一課ならびに二課の取調べは,
即刻中止してもらいたい.」
二課課長「しかし,部長!」
草刈「理由を伺えますか?」
部長「いや,本庁上層部,検察双方の意向としか言えんね.」
こうして東郷は釈放された.警視庁の玄関で平然と葉巻を吸う東郷を狙い, 駆け寄る者がいた.有光だ.ここからはスローモーションで表現されている. 有光は東郷の秘書,取り巻きをドスで次々と倒し,ついに東郷に狙いを定めた. 有光の殺気に気圧され,東郷は有光から逃げる事さえ出来なかった. そして東郷は有光に倒された.返り血を浴びる有光.倒れる東郷. 血塗れのドスを投げ落とす有光.ここから普通の速度で映像は流れる. 有光は直ちに警官に取り押さえられた.そこへ草刈が中から出てきた. 黙って草刈を睨む有光.黙って階段を降りる草刈.草刈は立ち止まり, 有光は警官を振り払って草刈に近づき,両手を差し出した. 警官から手錠を受け取り,草刈は有光の両手に手錠をかけた. 法によって裁けぬ者を自らの手で裁いた有光を前に, 冷厳な法の守護者草刈の内には深い悲哀の感情とともに,一瞬, 苦い敗北感が走り抜けていた.草刈はしばらく凝と有光を見た. そして草刈は有光を連れ,警視庁の中へと入って行った.
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