第二十五回

有光,村木殺害事件の黒幕の正体を知る.杏子死亡.
復讐の炎

脚本:神波史男 監督:手銭弘喜

杏子,歩行機能を失う

病院のベッドで眠る杏子を見守る有光は思い出していた.
杏子「あたし,あの人達から聞いたんです.昔, 兄があの人達と持ちつ持たれつの関係だったって事を.」
驚く有光.
杏子「それはつまり,兄が悪徳刑事だったって事ですね? あなたではなくて.」
危機が何度となく襲った後, 杏子の命にはようやく確かな炎がともろうとしていた. そして二人の間の長いわだかまりは徐々に消え, 新たな絆が生まれようとしていた.

病院の屋上で有光は医者から聞かされた.
有光「じゃあ,一生.」
医者は肯いた.
医者「残念ながらね.本人にはおりを見て私の方から.」
運命は残酷にも杏子から歩行機能を完全に奪っている. 有光をかばって背中を撃たれた事が原因だった.

病院から出てきた有光に佐竹が声をかけた. 有光から杏子の病状を聞いた佐竹は驚いた.
有光「俺の賭けがこんなになっちまって…」
佐竹「気持ちは察するにあまりあるけど,君の責任じゃないよ.」
佐竹は有光の肩を叩いて慰めた.
佐竹「自分を責めるのは不毛だよ.俺にはそうとしか言いようがないな. こんな時,一人の友人の存在なんて無力なもんだなあ.」
有光「いや.」
無力じゃない.有光は佐竹に感謝していた.
佐竹「で,杏子さんはその事を知っているのか?」
有光「いや,まだ.」
佐竹は頭をかいた.
佐竹「そうか.」
有光は本題に入ろうとした.
有光「何か用があったんじゃないんですか?」
佐竹「いや,もういいんだ.こんな時には, ごたごたに首を突っ込んじゃ行けねえよ.」
有光「いや,こんな時には,何か体を動かした方が…何か, 面白いネタでもつかんだんですね.」
佐竹「いや,未だはっきりわかったわけではないんだがね. 気持ちを紛らわす為に,一緒に動いてもらうかな.」
有光は肯いた.そして佐竹は本題に入った.佐竹の古くからの知り合いで, 瀬川と言う男がいた.瀬川は表向きは建築関係の業界紙をやっているが, 実際は一匹狼の情報屋だ.瀬川は佐竹にある情報を売りたいと言って来ていた. 銭になるような情報だという.
佐竹「丁度俺も,俺なりに杏子さんの治療費の事を考えていたんでね, やってみようか.ひょっとしたら, 君が追ってる黒幕の事もつかめるかもしれないよ.」

有光,瀬川と組む

というわけで有光と佐竹は瀬川(村上不二夫)と会った.がそこへ, 車が乱入.拳銃で瀬川を狙い撃ちした.有光は車に飛び乗り, 連中に襲い掛かったが,結局逃げられてしまった.瀬川は有光に礼を言った.

瀬川は有光と佐竹をある造成地へと連れて行った.そこは
佐竹「大伴不動産のニュータウンじゃないか.」
瀬川「そう.この辺り一帯を一斉に売っているのが大伴不動産だ.見ろ, 広大な土地.そのほとんどは公有地.それプラス上等な私有地.大伴はなあ, これを桁外れの安値で手に入れたんだよ.」
佐竹「桁外れの安値? それがつかんだ情報か.」
瀬川「まあな.命救ってもらった礼にただでもうちょい教えてやるがね.」
佐竹「なんだい?」
瀬川「大伴は何故,ここをべらぼうに安く手に入れられたかって事だよ. つまりな,公有地に関しては政界に顔が利き, 私有地に関しては地主に対して有形無形の脅しをかけられる, その両方出来る人間が大伴の背後にいたって事さ.」
佐竹は訊いた.
佐竹「そいつは誰だ?」
瀬川「そいつは未だわからん.さっきの事を考えると知らん方がいいらしいな.」
有光「つまり,その誰かがあんたを.」
瀬川「おそらくな.俺は只,この黒い噂を大伴社長ににおわせただけだ. その結果があれだ.ひえー,桑原,桑原.岩島って土建屋も, 同じように殺されたしな.」
岩島が殺された件は前回の冒頭で描かれた事件だ.瀬川の握っていた情報と, 有光が追っていた黒幕はつながっていたのだ.
佐竹「じゃあ,あの事件は単なる中谷建設との入札のこじれじゃなかったのか.」
瀬川「あんた方,岩島の事件知ってたのかね?」
佐竹「ああ.ちょっとな.」
瀬川「まあ,入札争いは確かにあっただろうがね,がしかし, 岩島が殺られた原因は違うな. 奴は俺なんかよりずっと裏の事情を知っていたからなあ. この下請け仕事をとるために, そいつをネタに大伴社長を強請ったに違いねえんだ.見ろ,この造成工事. 地盤固め.崖づくり.みいんな手抜きだらけで,やれば膨大な利益よ. 庶民どもは何も知らないで,営々貯め込んだ銭をどんどん注ぎこむって寸法だ.」
佐竹「それでおまえさん未だ,大伴を強請るつもりなのか?」
有光は佐竹の方を見た.
瀬川「そうさなあ.俺は未だ諦めちゃいねえんだ.丁度いい. ブンヤと腕の立つ事件屋が着いてくれりゃあ, 何とかもう一押しする手はあるだろうぜ.どうだい,乗るかね?」

有光と佐竹はチャンピオンへ瀬川を連れ込み,これまでの経緯を話した.
瀬川「なーるほどねえ.あんたらにもそんな引っ掛かりがあるなら, これはますます好都合じゃないか.ま,必ず,大伴からでっかい銭を出せるぜ. ただし,まあ,岩島みてえにはなりたくねえから, あんたらに援護してもらいてえ.いやいや.勿論,銭がてにへえったら, たっぷり謝礼金出そうじゃないか.」
有光「そいつは結構だが,決め手がねえだろう.大伴不動産の背後にいる誰かは, 相当危険な奴らしいな.俺達がついていても,あんたを守るだけで精一杯だ. 武器もねえしな.」
瀬川「一発で決めて,さあっと手引いちまえばいい.その手は一つだけある.」
有光「やばい手だなあ.」
瀬川は水割を一口飲んでから話し始めた.
瀬川「その通り.あんたらに手汚してもらう事になるんだが, それでもやる気あるかね?」
瀬川は懐から一枚の写真を出した.
瀬川「大伴社長の一人娘だ.」
瀬川は大伴の娘を誘拐しようと言い出した.金はつかめるし, 大伴の黒幕の正体も大伴から訊きだせる.一石二鳥だ.
佐竹「どうするね?」
大沼「下手すっとおててがこれ(お縄)だからな.」
矢野は無言だった.
有光「かまわねえ.俺一人ででもやるぜ!」
杏子をあのような姿にした者の正体をつかみ,憎悪の全てを叩きつけるためには, どんな卑劣な手でも使おう.有光の決意は堅く, 結局佐竹達も引きづられるように同意した.

有光,大伴の娘を誘拐する

有光と矢野は大伴の使いと称して大学から大伴の娘ゆきを連れ出した. ゆきはお見合いのために呼び出されたと思っていた. いつもこういう事があったのだ.そのため,誘拐はあっさり成功した. だが大伴と接触しているはずの瀬川からの連絡はなかなか来なかった.
佐竹「くっそう.瀬川の奴,何してやがるんだ.」
大沼「全く遅いね.」
そこへ電話がかかてきた.だが瀬川からの物ではなかった. 佐竹が電話を切ると,すぐにまたかかってきた.今度は
佐竹「はい.ああ,瀬川先生.遅いじゃないかあ…ああ. 確かにお嬢さんはお預かりしてるよ.」
瀬川「おお,わかった.ご苦労だったなあ.じゃあ, 大伴との交渉は全て俺に任せてくれえ.そう.俺は既に顔を知られてるからなあ. 取引が成立したらすぐ連絡するから, あんた達はそのまま待機していてもらおうか.おう,忘れちゃいねえよ. 黒幕の事は必ず喋らせる.大丈夫.切り札はそっちが握ってるからさあ.」
瀬川は電話を切った.
佐竹「奴はこれから交渉するそうだ.このまんまで待てと言っている.」
大沼「早いとこ交渉してもらいてえよ. こっちとら爆弾抱えてるようなもんだぜ.」
その時,既に有光の鋭い勘は, 情報屋瀬川の言動にかすかな裏切りの臭いを感じていた.

遂に有光,黒幕の正体を知る

その夜.大伴(天津敏)の屋敷に瀬川が乗り込み,話を持ちかけていた. 有光の思った通り,瀬川は有光達を大伴に売り, 情報料として二千万円を得ようとしていた.大伴はその話に乗り, 現金で二千万円を用意させた.
大伴「さて,聞こうか.娘はどこだ? 誘拐した奴らは誰だ?」
瀬川「主犯は有光.元デカの事件屋.他に雑誌記者の佐竹.他二名.」
大伴は驚いた.
大伴「何,有光! あの男か.」
瀬川「ご存知だそうで.奴らから事情を聞きましたよ.」
大伴「それで,奴らは娘をどこに隠してるんだ.」
瀬川「おっと,社長.あたしゃ,あなたを信用してますがね, まあ,念のために,それは一応あたしが安全と思うところまで行ってから, お電話でお伝えいたしましょう.」
大伴「ちぇ.虫けらめが.」
瀬川「ああ,背後に,これもご承知と思いますがねえ,奴らの狙いは, あなたの後ろにおられる,いやあ,あたしなんか, とても恐ろしくて知りたくもない,どなた様の正体をつかみとる…」
とまで言ったところで
有光「その通りだ.だがなあ,それだけじゃねえ. そのけちな野郎の十倍くらいの銭も頂きてえ.」
有光と大沼と矢野がゆきを連れて乱入した.
大伴「有光!」
矢野「よ,瀬川君.よく裏切ってくれたな.」
矢野の鉄拳が瀬川に飛んだ.大沼は剃刀を取り出し,ゆきにつきつけた.
大伴「ゆき!」
有光「よう,はいぇえとこ喋ってもらおうか. お前に着いている黒幕はどこのどいつだ.」
大伴は喋ろうとしなかった.その顔は恐怖で真っ青になっていた.
大沼「は.ご返事がないとこのきれいな顔が台無しになるよ.」
矢野「いや.俺はその前にちょっと楽しみたい.」
そう言って矢野は剃刀をしまい,ゆきの服を破り捨てた. ついにゆきの胸が現になってしまった.そして矢野はゆきに剃刀をつきつけた. 悲鳴をあげ,「パパー」と叫ぶゆき.それでも大伴は言おうとしなかった. 矢野はゆきに抱きついた.
ゆき「パパー.パパー.」
遂に大伴は喋り始めた.物凄く情けない声を出して.
大伴「待ってくれえ.」
有光「喋るのか?」
大伴「話す.話すからやめてくれ.」
有光は矢野の拷問をやめさせた.
大伴「話すが,どうか私が話したという事は伏せてくれ.それがわかったら, 私でさえ破滅させられてしまうだろう.」
有光「ああ,わかった.誰なんだ.」
だがこの期に及んで大伴は頭を抱えてしまった.話すのが恐かったのだろう. 大伴はイスに座り込み,手を組んでしまった.
有光「大伴!」
大伴「東郷,東郷先生だ.」
大伴はそれだけ言って頭を抱え込んでしまった.冷や汗が額に出ていた.
大伴「先生のお力添えで私の会社は関東大造成地の土地を, 格安で手に入れる事ができたんだ.」
有光「ほう,なる程.良くは知らんが,大変な大物らしいな.」
大伴は肯き,顔を手でおおってしまった.
有光「それで,土地でしこたま儲けた中から見返りの政治献金ってわけか. 何か証拠の物件はないのか.証拠の物件は! どうなんだ. 娘がどうなってもいいのか.」
大伴「十億円の借用書と,それを裏付ける念書を渡してある.頼む. 私の事は,私は何も喋らなかった事にしてくれ.この通りだ.」
余程東郷が怖いのか,大伴は土下座して有光に頼み込んだ.
有光「わかった.」
有光は去って行った.大沼は瀬川のアタッシュケースを奪い, 矢野と一緒に去って行った.その様子を東郷の手の者が見ていた.

話を聞いた佐竹は東郷正豪が黒幕だと聞いて驚いた.
佐竹「そうするってえと,今度って今度は手を引くしかないかもしんねえなあ. 東郷って奴はあまりにもでっかく,危険すぎるわ.」
大沼「よ,ブン屋さんよ,あんた,このネタスクープしたくねえのかい? あんたの勤めてる会社,週刊スキャンダルって言うんだろう? だったらこれ以上のスキャンダルはねえじゃねえか. 東郷につながる政財界のお偉方はだよ, がったがたの大揺れに巻き込まれるんだよ.」
佐竹「そりゃあ,俺だってジャーナリストのはしくれだ.書きたいよ. 書きたいのは山々だ.だがな,東郷はやばい.やば過ぎるんだよ. あいつは大新聞でもタブーなんだ.相手が悪すぎらあ.」
大沼「へえ,そんなもんかねえ.」
佐竹「第一,杏子さんの事も考えてみろよ.奴はだよ, 俺達が手がかりもつかめねえうちに居場所を突き止めて人質にしてたんだ.」
大沼「え,しかし,あれはねえ.」
佐竹「つまり,それぐらい奴の暗黒街への支配力はでっかいって事なんだよ. 俺の先輩の何人かは正義感に燃えたばっかりに消されてるんだ.事故だ, 盗難だとか,迷宮入りの事件でな.有光君よ,俺はなあ, 君だけは犬死してもらいたくないんだ.」
有光は覚悟を決めていた.
有光「佐竹さん,だからこそ,俺は一度奴と会ってみたい.」
佐竹「会ってどうする? 奴を強請るのか.」
有光「出たとこ勝負だ.わかりませんね.兎に角,今後,東郷と関わり合うのは, 俺一人でいいって事です.」
驚いた大沼は有光の方を見た.
有光「どうせ,俺はもう完全に奴らの掌の中につかまれてるんだし.」

有光,東郷と対峙する

大胆にも,有光は表門から東郷の屋敷に入り込んだ. 東郷は庭で茶席をもうけていた.
東郷「有光君だね.」
有光は肯いた.
東郷「そろそろ君が現れると思って人払いしておいたんだよ.」
有光「どうしてわかったんです?」
東郷「ま,そんな事より,一服いただきたまえ.」
有光は緋毛氈の上に座り込み,東郷を凝と見た.
東郷「で,君の狙いは?」
有光「十億円.」
東郷「ほう.つまり,あたしが大伴から受け取る事になってる全額か. なる程.それであたしの今度の仕事を全く0にしようというつもりかな.」
有光「その通り.」
東郷「面白い思い付きだ.が,できるかな,そんな事.」
有光「やってみましょう.つまり十億円いただけないんでしたら, まず全てのマスコミにあんたの動きをぶちまけるという事ですよ.」
東郷「君は,確かな裏づけとなる物証をつかんでいるんだったな.」
大伴は手を叩いた.すると大伴の屋敷にいた東郷の手下がやってきた. 彼は東郷に書類を渡して去って行った.
東郷「この男は大伴より私に忠実なんだ.これはな,大伴から私に寄越した, 十億円の借用書とそれに関する大伴個人の念書のコピーだ. これを君にあげるから,大新聞,大雑誌,テレビ,ラジオ,いや, 警察の方がいいかもしれんな.どこへでも持って行きたまえ.」
有光「握り潰されるだけと言う訳ですか.余程,自信があるようですなあ.」
東郷「ま,そうだな.わからんぞ.今まで一度もそんな事をした人間は, おらんかったからな.は,は,は.」
有光はコピーを破り捨てた.
東郷「ほ,ほ.あっさり諦めてしまったのか.」
有光「いや,私の狙いは金でもないし,あんたを社会的に葬る事でもなく, 法の裁きを受けさせる事でもない.その事がはっきりとわかっただけですよ.」
東郷は無言だ.
有光「どうせあんたなど知りもしない事だろうが, あんたの支配するヤクザのある者が, 私の親友であった村木と言う男をたらしこんで悪徳刑事にした.そして, 私の恋人を私の目の前で重傷を負わせた.私にとっての最大の敵, それがあんただ.」
東郷「うん.それで?」
有光「私はあんたとじかに会ってみたかった. そして私の憎しみの刃を磨ぎすましたかった.」
東郷「敵か.それなら今ここで,あたしを殺すしかないね. あたしを殺さないとおそらく後で後悔する事になる.あたしには確かに敵が多い. しかし,あたしの敵があたしにとって不都合な人間は, いつも消えていったからな.」
有光「そうでしょうなあ.しかし,私は消されかかる時,その時こそ, 私が今出来ない事が出来るというもんですよ.」
東郷「なるほど.では,お互い,楽しみにしておこう.」
有光は去ろうとした.その時
東郷「有光.」
有光は立ち止まった.
東郷「あたしは気が短い方でね.」
有光は去り,東郷はある決意を固めていた.

東郷,有光への攻撃を開始する

東郷は貴志組の組長(高城淳一)に指示を出した.まず,瀬川が消された. そして大伴が始末された.警察では,瀬川は行方不明, 大伴は社長のイスを失った挙句のノイローゼ自殺と断定された.

杏子,死す

有光は杏子の病室にいた.杏子は有光が考えている事を見抜いていた. 有光は東郷への復讐を決意していたのだ.
杏子「私のためならどうかやめて.兄についての真相も知らずに, あなたをずっと恨みつづけたわ.せめて,せめてあなたの身代わりになれた事で, その償いができたような気がして.一生自分の足で歩けなくなっても, 今でも,むしろ満足しているの.」
有光「君は,君は知ってたのか!」
杏子「自分の体の事ですもの.誰に言われなくてもわかるわ.」
有光は二の句が告げなかった.
杏子「私,退院したら田舎へ帰って,もう二度と東京へは出てきません. だからといったら,おこがましいけど,もう危険な事はやめてください. ながーい時が経てば,みんな忘れるわ.兄の事も,私の事も.」
有光は言った.
有光「俺が何かやるとすれば,それはもう俺自身のためなんだよ.」
有光は立ち上がって言った.
有光「俺は,君の事は忘れはしない.俺は一生君の傍にいる.そう考えてくれ.」
杏子「ありがとう.私,あなたがどこかで幸せに生きていることだけを考えて, これからも一生生きていくつもりです.」
有光は絶句した.そこへ医者が入って来た. 急患の都合で部屋を変えたいというのだ.が, 彼らは貴志組の連中(三重街恒二,尾崎考二)だった. 連中は有光の右肩を撃ち抜いた.有光は必死に応戦したが,力及ばず
有光「杏子! 杏子.杏子.杏子.きょ…」
杏子に弾が当たってしまった.怒りに燃える有光は刺客を追いかけた. 有光は一人を非常階段から揉み合っている内に突き落とし, もう一人を駐車場で捕まえ,ボコボコにした.有光は何発も何発も殴りつづけた.

霊安室に安置された杏子の遺体の傍らで明子は泣いた.大沼と矢野は何も言えず, 佐竹は涙を流していた.そこへ草刈が駆けつけた.
草刈「こんな時にすまんが,ちょっと事情を聞かせてくれないか.」
霊安室の外で草刈は有光に話をした.
草刈「あの二人の身元がわかった.広域暴力団に指定されていた貴志組, 現在は貴志興業の構成員だ.貴志興業と何かあったのか?」
有光「いえ.」
草刈「貴志でないとすれば誰なんだ,君の敵は.」
有光「今は未だ…」
草刈はこの事件の背後にただならぬ物を感じて一旦は去った. そして燃え狂っていた有光の怒りと憎しみは今や改めて, 一点に向かって凝縮しようとしていた.

一方,佐竹も,杏子の死によって闘う決意を固め, 怒りと憎しみの全てをぶちまけ,真相をペンに托した.しかし…
佐竹「何ですって! 没!」
社長も大乗り気だったのだが,何者かの手によって会社が買収され,社長は更迭. 新社長の方針で佐竹の原稿は没にされたのだ.
佐竹「わかったよ.今日限り,社,やめてやるよ.辞表は後でも叩きにくらあ.」
佐竹は編集長(穂積隆信)に向かってそう言い,出て行った.

有光は杏子の遺骨の入った骨壷を抱いて火葬場から出てきた. その顔は怒りに燃えていた.その後を大沼,矢野,佐竹,明子がついていった. その脇には東郷の監視の目が光っている.一瞬,有光洋介は, 前途に果てしなく広がる凄まじい地獄を見ていた.

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東平 洋史 E-Mail: touhei@zc4.so-net.ne.jp