第二十三回

破産屋一味と闘う
葬いのバラード

脚本:小野竜之助 監督:帯盛迪彦

地下鉄に乗っていた初老の男は鞄を抱えていた.尾行の気配を感じた男は, 新宿で地下鉄を降り,何かをコインロッカーの中に隠した.何とか, 尾行をまいたのを確認した後,男はまた550番のコインロッカーの中に, 何かを隠した.そして赤電話からチャンピオンに電話をかけた. 矢野がとったが,男は佐竹を呼び出した.男の名前は橋本.
橋本「あのう,今,新宿駅の…」
とまで言ったところで橋本は尾行の男達に見つかってしまった. 橋本は慌てて逃げ出した.佐竹は何度も「もしもし」と呼び出したが, 答えが返ってくる筈がない.橋本は方々を駆けずり回って逃げたが, ビルの非常階段を上がるところを見つかってしまった. 男に捕まった橋本は肝心のコインロッカーのキーを下へと落とした.
男A(中村孝雄)「おーい,テープはどこだ.」
橋本「知らん.」
男A「とぼけるな.あんたが持っている事はわかってるんだ.どこへ隠したんだ.」
橋本「何のこったかわしには…」
男B「(橋本を二発殴り)うちに帰りたいなら,はやいとこはいちまいな. テープはどこなんだよ.」
だが橋本は無言だった.男Bは懐からドスを取り出した.
男B「じゃあ,もっと痛い思いをしたいのか.」
橋本「待ってくれ.待ってくれ.テープは,駅ビルのロッカーに入れた.」
男Aは鍵を要求したが,橋本は鍵がない,と逃げ出そうとした. 男Bが殴ったはずみで橋本は転落.死んでしまった.男Aは弟分の男Bに, 酒を買ってくるように命じた.酔っ払って落ちた事にしようと言うのだ. 彼らは肝心の鍵が落ちている場所には気づかなかった.

テレビが橋本の死んだ事件を報じていた.それを見ながら, 佐竹が矢野と有光に橋本の事を話した.前前日の晩, チャンピオンで佐竹が一人でトランプをしているところへ橋本がやってきたのだ. 橋本は有光を訪ねてきたのだが,とりあえず佐竹が応対した. 橋本は引き返そうとしたが,佐竹は引きとめ,話を聞きだした. 橋本は気が小さいらしく,話の内容は支離滅裂で全然要領を得なかった. とりあえず次のことが聞き出せた. 橋本の勤める会社の社長が先代の社長を殺したらしいのだ. 先代の社長は今の社長にとっては伯父に当たる人物だった. 表向きは脳溢血という事になっていた.その証拠が録音テープだというわけだ. 橋本の話では,先代の社長は雲行きが怪しいとわかってから, あっちこっちに録音装置を仕掛けていた.そのテープを, 当時社長秘書だった橋本が発見して保管していたというわけだ. 橋本はお世話になった社長一家から逮捕者を出したくなかったので, 今までテープを隠していた.
矢野「古いね,全く.」
佐竹「あー,古い,古い.ところが, わが身に危険が降りかかってきたのを知って,ようやく彼も決心をした. そして我々にそのテープを聞かせようとした矢先に…」
矢野「殺された.」
佐竹「ああ.」
矢野「馬鹿な男だ.もっと早くテープを警察に渡しとけば, こんなことにはならなかったのに.なんて馬鹿なんだよ.」
佐竹は肯いた.
佐竹「それだけに,その男が哀れだとは思わないか? ね,有光ちゃんよ.」
有光「当たってみましょう.」

橋本が勤めていた会社は栗林工業だった.そこの社長(北原義郎)は, 部下からユニバーサル銀行が融資を断ってきたという話を聞き, 驚いていた.理由は経営内容に問題があるというものだった. そこへ電話がかかってきた.栗林が出ると
佐竹「実はあなたに買っていただきたいテープがあるんですよ.」
栗林「テープ?」
佐竹「橋本さんからお預かりしたテープですよ.そう言えばおわかりでしょう.」
電話の様子を女性秘書が凝と見ていた.
栗林「さあ.あたしにはさっぱり思い当たらんが.」
佐竹「そうですか.それはどうも失礼しました.」
と佐竹が電話を切ろうとした言い方をした瞬間
栗林「あ,君.ちょっと待ちたまえ.確かに君が持っているのか? え.君の名前は?」
佐竹は電話を切ってしまった.

佐竹「証拠のテープは栗林社長の手に渡ってないぜ.」
矢野「じゃあ,まだどこかに隠されてるわけか.」
佐竹「うん.」
矢野「問題はその場所だな.」
有光「事件の鍵ってのは良く現場に転がってるって言うぜ.」

と言う訳で佐竹と矢野は現場のビル工事現場へやってきた. すると二人組が何かを探し回っているのが見えた.
矢野「あいつら,何を探しているんだろう.」
佐竹「当たってみようか.」
兄貴分がコインロッカーの鍵を発見.矢野と佐竹は二人組に襲い掛かり, 鍵を奪って逃走した.
矢野「ロッカーの鍵らしいよ.」
佐竹「うん.」
矢野「どこのロッカーだろう?」
佐竹「うん.」
佐竹は橋本との電話の事を思い出していた.
佐竹の声「橋本さん.今,どちらです?」
橋本の声「今,新宿駅の…あ!」
佐竹の声「もしもし.橋本さん.」
そうだ.佐竹は矢野を連れて新宿駅のコインロッカーへ行き, テープの奪取に成功した.

早速三人はテープを聞いた.
男「社長.あんたもいさぎよく社長をやめるべきですな.後にはここにいる, あんたの甥の栗林たけし君が座る.そうなったら, 会社の資産に傷がつかんように取り計らいますよ.」
先代社長「お前達は会社を乗っ取るためにわしを騙したと言うのか? ゆ,許さん! たけし.きじま! 会社はな, わしが血のにじむ思いで作り上げたんだ.貴様達に奪られてたまるか!」
ここで先代社長がうめき声をあげるのが聞こえた. 先代社長は飲み物の入ったコップか湯飲みか何かを落としたらしい.
先代社長「たけし! わしに…毒を…」
先代社長の倒れる音ときじまという男が高笑いする声が聞こえた.
きじま「そのお茶の中には血圧をいっぺんに高くする劇薬を入れといたんだ. 予定通り,あんたは脳溢血で死ぬ.」
先代社長「お,おのれ.」
有光がテープを止めた.
有光「どうやら,きじまって言う名の共犯者がいる.」
だが「きじま」という名前の男はざらにいるので, これだけでは何者なのかわからない.兎に角, 「きじま」という男を割り出す事が大切だ.

さて栗林の秘書は浴室でシャワーを浴びていた. 部屋には栗林がおり,橋本を殺した二人組に電話をしていた. そしてテープを未だ入手できていない事を知ると,怒って電話を切ってしまった. そして秘書の部屋から出て行ってしまった. その栗林に矢野と有光が襲い掛かった.
有光「会社の経営がピンチだというのに,愛人のマンションで骨休みですか. 呆れたもんだね.」
栗林「なんだ,君達は.」
矢野「一緒に来ていただきましょう.」
矢野は栗林を強引に連れ出そうとした.
栗林「放せ.何をする.警察を呼ぶぞ.」
矢野は栗林を二,三発ぶん殴った.
矢野「警察呼んで困るのはあんたの方じゃないか? さ,来てもらいましょ.」

有光と矢野は栗林を車に乗せ,地下室へと栗林を連れ込み, 例のテープを聞かせた.テープを再生していたのは佐竹だ.
佐竹「実の伯父さんをぶっ殺して会社を乗っ取り, 辞職を勧めた橋本さんまでばらしちまうってのは,ちょっとあくどすぎるね.」
矢野「てめえみたいな奴はな,八つ裂きにしても物足りないぜ.」
有光「よしな.お客さんに対して失礼だ.」
栗林「一体,君達は何者だ?」
有光「事件屋ですよ.」
栗林「事件屋.」
有光「いえ.勿論,俺達は,あんたをサツに垂れ込もうと思っちゃいません. その代わり,そのテープをこっちの言い値で買って欲しいだけなんです.」
栗林はしばらく考え込んだ.そして
栗林「いくらだ?」
有光「ずばり,一億円.」
栗林「一億円.ば,馬鹿な.そんな大金が工面できるはずがない.」
有光「まあ,もちろん,あなた一人で払えといってるんじゃない. 共犯者のきじまという男とよーく相談してみるんですねえ. 御返事は改めて伺います.どうも,ご足労かけました.」
有光は合図し,矢野に栗林を外へ連れ出させた.
佐竹「うまく行くかいな.」
有光「大丈夫ですよ.あの男は見るからに気が弱そうだ. こっちの狙い通りに動きますよ.」

その翌日.栗林は尾行をまくためにか,車でどこかへ移動した後, タクシーを拾って待ち合わせの場所である神宮外苑までやってきた. それでも矢野と佐竹はばっちりと栗林の後をつけていた. 栗林はきじま(安部徹)に一億円要求された話をし, 半額負担してくれと頼んだ.だが
きじま「わしに? お断りだね.」
栗林「きじまさん.」
きじま「君は橋本と言う男をわしに断りもなく殺した. その報いが今来たんだよ.」
栗林はなおも粘ったが
きじま「君はいつまでたっても未だボンボンなんだ. 一本立ちしようなんて言う殊勝な気を起こさずに, わしの指示通りに動く事だね.まあ,その事件屋の事はわしに任してもらうよ. それから,万一を考えて,橋本を殺したヤクザどもを始末をせねばならんなあ. そいつもわしに任してもらうよ.ああ,時間だ. 大事な人に会わねばならんから,これで失礼するよ.」
佐竹と矢野はわざと「きじま」の車の前に飛び出し, 「きじま」の顔を確かめた.

チャンピオンで佐竹と矢野はその時わかった事を話した. 「きじま」とは鬼島せいいちろうの事.政財界の影の実力者.金融王. 別名破産屋の鬼島せいいちろう.佐竹は鬼島を取材した事があるので, 顔をばっちり知っていた.破産屋とは,これと狙いをつけた会社に食らいつき, ピラニアのように骨までしゃぶり尽くす, 言うなれば資本主義の鬼っ子みたいな連中の事だ. だが佐竹達は気づいていなかった. 鬼島の手下がチャンピオンの前に来ている事を.佐竹は話を続けた.
佐竹「今の社長が就任した後,栗林工業は相次ぐ設備投資で, 莫大な融資を銀行から受けたんだ.ところが業績は伸び悩み, 経営は赤字で利息も満足に払えない.担保物件は次々と銀行に取り上げられ, 今や倒産寸前の状態にある.」
有光「その融資した銀行は鬼島の息がかかってるって事でしょう.」
佐竹「そう言う事.」
矢野「そう言う事って?」
佐竹「わかりやすく言えばこうだ.鬼島は栗林工業の金に目をつけたが, 先代の社長が切れ者で食い込めない.そこで今の栗林に後進をやらせ, 奴を社長の座に据えて好きなように操ってきた.」
矢野「なるほど.確かにピラニアだ.ふ,ふ.偉い相手にぶちあたって…」
と言った瞬間,灯りが消えてしまった.鬼島の手下が乗り込んできたのだ. 鬼島の手下はテープを要求.有光はテープを渡す振りを手下に襲い掛かった. 手下達は退却.矢野は栗林の手下だと思っていたが, 有光は鬼島の手下だと見抜いていた.動きが素早かったからだ.
有光「となると,狙われるのは我々だけじゃなさそうだ.」

有光の思った通り,橋本を殺した二人組も始末された. 新聞は暴力団の同志討ちかと報じた.

有光は鬼島の屋敷に乗り込み,まず運転手を倒した. そして自分が運転手の代わりになり,鬼島と話を始めた.
有光「実は夕べ,妙な事件が二つありましてね. 一つは我々が持っていた例のテープを奪われかけた.もう一つは, 栗林社長が使っていたヤクザが二人,殺された.」
鬼島「日本は人口が多いからなあ.わりい奴がたえんよ.困ったもんだ.」
有光「その悪い連中に命令を下したのは,鬼島さん,あんたでしょう.」
鬼島「さあ,わしゃ知らんなあ.断っとくがねえ, わしゃ一度も法に触れるような事をした事がない男だがねえ.」
有光「ええ.存じてますよ.しかし,今度だけはどうですかねえ.」
鬼島は無言.
有光「売られた喧嘩は買う.それが俺達の主義だって事を, 知ってもらおうと思いましてね.じゃ,お大事に.」
有光は悠々と車から立ち去った.

佐竹「なあんちゃって大見得切ったのはいいけどよ, 喧嘩するにはちょっと相手がでかすぎやしねえか?」
有光「でかい相手でも共食いさせればそう手間はかかりませんよ.」
佐竹「うん.鬼島と栗林を嚼み合わせようって言うのか.」
有光はにやりと笑った.

まず佐竹が橋本の代理と称して栗林と会い,証拠のテープを渡した.
佐竹「これで鬼島さんと相談してみてはどうです?」
そう言って佐竹は去って行った.

その晩.鬼島が栗林の秘書の部屋にやってきた.鬼島と栗林が会うためだ. 有光の狙い通り,栗林はテープを盾に今までの金を渡すように鬼島に要求した. にやりと笑う栗林は金庫からテープを出そうとした.だが
栗林「ない.テープがない.」
高笑いする鬼島は久保という部下を中に入れ,さらに
鬼島「テープなら,ここにある.」
久保が鞄からテープを取り出した.
鬼島「この久保君も和子も今じゃわしの腹心の部下だ. 君の一挙手一投足,全てわしにはお見通しって訳だ.」
高笑いする鬼島はテープを燃やしてしまった.愕然とする栗林.
鬼島「栗林君.君とはうまくやって行きたかったが,やむをえん. 君の会社の倒産を速める事にしたよ.まあ,何もかも失った君は, 自首しようが首を吊ろうがわしゃ知らん.君の好きなようにしたまえ.」
こうして有光の作戦は水泡に帰した…と思われたが…

悔しがる佐竹と矢野に
有光「がっかりするのは未だ早い.」
なんと有光は懐からテープを取り出した.驚く佐竹と矢野.
有光「敵を騙すには先ず味方からって言いますからねえ. こいつを使って最後の賭けと行こう.」

早速鬼島の屋敷に有光が乗り込んだ.有光は鬼島の手下を一人殴り倒した.

栗林のところにまた佐竹がやってきた.そして例のテープを渡し,たきつけた.

有光は殴り倒した手下を車に乗せた.

鬼島のところに電話がかかってきた.電話からは例のテープの音が聞こえてきた.
栗林「驚きましたか.あなたが燃やしたのは偽物ですよ.」
高笑いする栗林.
栗林「よーく聞いてください.私は覚悟を決めたんです. 今日にも警視庁に自首するつもりです.本物のテープとともにねえ. あなたは弁護士でも呼んで,身辺の整理でもしとくんですな.」
鬼島「栗林! きっさまあ!」
高笑いする栗林.
栗林「あれほど会社だけは潰さないでくれと言う私の頼みを, 拒否した御礼ですよ.」
泡食った鬼島は低姿勢になった.
鬼島「栗林君,君とはもう一度腹を割って話し合いたい.な.栗林君.」
栗林「鬼島さん.今更何の話でもありますまい.まさか私と一緒に, 悔い改めようとでも言うんですか?」
鬼島「そうとも! 君の会社を潰したくないという気持ちが, わしにもよーくわかったんだ.よろしい.君の望むだけの金を返そうじゃないか. 無条件でだ.」
栗林は無言だ.
鬼島「君の会社に今後一切迷惑をかけないという一札もいれよう. もっか,そっちの好きなように書きたまえ.どうだね?」
栗林の答えは
栗林「結構な話ですがね,しかしあなたには煮え湯を何度も飲まされてるんでね, にわかには信じられませんよ.」
鬼島「栗林君.お互いに長生きする道なんだよ,これが. 欲しい物は多少手荒な事をすれば手に入るが, 問題は手に入れた物を長持ちさせる事だよ.尻尾を出さんようにな.」
栗林「わかりました.もう一度だけあなたを信用しましょう.それじゃあ, 後程伺います.」
鬼島「栗林君.わかってくれたかね.じゃ.」
鬼島は電話を切った.その顔は怒りに燃えていた.

有光はまた鬼島の屋敷に忍び込んでいた.また庭で部下を倒し,拳銃を奪った. 有光は拳銃を手に持ち,鬼島の部屋に乗り込んだ.手を挙げる鬼島. 近づく有光.遂に鬼島の頭に有光の拳銃が突きつけられた.
鬼島「わしを警察に突き出す気かね.」
有光「そういう依頼は受けていませんのでねえ.」
鬼島「依頼?」
有光「そうです.さる人物からの依頼であなたを殺しに来たんですよ.」
鬼島「その相手は,栗林か?」
有光「ま,そういうところです.」
有光は鬼島を座らせた.
有光「しかし,始末するのは栗林さんとあなたの取引が済んでからですねえ. あなたも汚いが,栗林さんも実に汚い.もっとも, そんな汚い人間の依頼を受け付ける我々の方が, もっと汚いかもしれませんがねえ.」
そこへ鬼島の部下が乗り込んできた.有光は拳銃を撃ち落とされてしまった.
部下「野郎,ぶっ殺してやる.」
鬼島「待て.こいつには使い道があるんだ.栗林が来るまで可愛がってやれ.」
部下達は有光を連れて部屋の外へ出た.

さて有光に車に連れこまれていた鬼島の部下は縛られていた. 気がついた彼は車のシガーで縄を焼き切ろうとしていた.

さて栗林が鬼島の屋敷にやってきた.鬼島は丁重に栗林を出迎え, 面白い物をプレゼントすると言って有光を連れて来させた.呆気にとられる栗林.
有光「栗林さん.じたばたしても無駄だ.俺はあんたから, 鬼島さんを殺してくれと頼まれた事を白状してしまった.」
この時,鬼島も栗林も有光の罠にはまった事に気づいていなかった.
栗林「何? 馬鹿な.私はそんな事頼んだ覚えはない.」
鬼島「よしたまえ.弁解は見苦しいぞ.」
栗林「違う.この男は嘘をついているんだ.」
鬼島「弁解はよせと言ってるんだ.(懐から拳銃を取り出しながら)君は, 例のテープを持ち出してわしから金を引き出そうとする一方, その男を雇ってわしを殺そうとした.こうなったら,死んでもらうより他, 仕方がないなあ.」
鬼島は拳銃にサイレンサーをとりつけ,栗林を狙った.
栗林「待ってくれ.何もかもこの男が仕組んだ罠だ.我々をつき合わせて, 自滅させようと狙ってるんだ.」
だが鬼島はその事を理解していなかった.
鬼島「は,は,は,は.何もかも,この野良犬のせいにするとは, 君も焼きが回ったなあ.」
栗林「早まらないでくれ.これがテープだ.ただでやるから,助けてくれえ.」
鬼島「は,は,は,は.有光君.死ぬ前にわしのやり口をよく見ておけ. 殺人でも乗っ取りでも,わしのように十分計算してやれば, 尻尾はつかまれぬ.証拠や証人さえなきゃあ,どんなに疑われても, わしを裁く訳には行かんのだよ.」
有光は無言だ.栗林は何度も何度も「待ってくれ.」とか「助けてくれえ.」と, 叫んだ.そして鬼島の拳銃が火を吹き,栗林は死んだ.その瞬間, 有光は笑い出した.
鬼島「有光,何がおかしい.」
有光「とうとう貴様の尻尾をつかんだぜ.」
鬼島「何?」
有光「あそこを見てみろ!」
鬼島が「あそこ」を見た.視線がそれた隙をついて,矢野が入り込み, 鬼島から拳銃を奪った.形勢逆転.鬼島は矢野と有光に拳銃で狙われ, 身動きが取れなくなった.さらに
有光「佐竹さん.決定的瞬間を逃してないでしょうね.」
ポラロイドカメラを持って佐竹が登場した.
佐竹「大丈夫.ばっちりと決まったよ. 御蔭様で迫力のある写真が撮れましたよ.」
有光「これで貴様が正真正銘の殺人者だという証拠がつかめたぜ.」
鬼島「ちきしょう.」
佐竹「鬼島さん,この写真を買い取る気はありませんか?」
有光「俺達はこの手で,あんたの尻尾をつかむだけで満足だな.」
鬼島「おう.いくら欲しいんだ.」
有光「栗林工業から吸い取った金を全額, あんたの銀行から栗林工業に振り込むんだ.ん.どうなんだ.」
鬼島は渋々承知した.
佐竹「じゃ,早いとこやってもらいましょうか.」
鬼島は電話をかけた.その時,有光に閉じ込められていた部下が中に入って来た. 部下は物陰に隠れ,様子を伺った.
鬼島「これでいいんだな.じゃあ,写真を渡してもらおうか.」
佐竹は大笑い.
佐竹「あなたも随分お目出度い人ですね.冗談言っちゃいけませんよ.」
佐竹はポケットに写真をしまってしまった.
鬼島「きっさま.わしを騙しやがったな.」
佐竹「天下の鬼島せいいちろうともあろうお方が, 今更泣き言なんてみっともないですよ.は,は,は. あなたがやってきた脅し騙しに比べりゃ, 我々がやってんのは子供だましみたいなもんだ.は,は,は. そろそろ覚悟してもらいましょうか.」
鬼島の部下がナイフを用意.それに気づかず(?)
佐竹「有光ちゃん.」
有光が電話をかけた.その有光を狙って部下がナイフを投げたが, 有光にかわされ,部下は矢野に倒されてしまった.鬼島,万事休す.
有光「もしもし.警視庁ですか.草刈警部をお願いします.」
有光達を怒りの行動に駆り立てたもの. それは極平凡なサラリーマンの死であった. 今,その男は安らかな眠りにつこうとしている. だが事件屋有光洋介には安らぎの場はない.

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東平 洋史 E-Mail: touhei@zc4.so-net.ne.jp