第二十回

覚醒剤密売組織の罠に落ちた刑事を救う
暗黒街の刑事

脚本:小野竜之助 監督:手銭弘喜

新宿駅西口で覚醒剤の取引が行なわれた.だが取引相手は組織とは別物. サイレンサー付拳銃で相手を撃ち殺し,覚醒剤を奪って去って行った. 覚醒剤を奪った男は覚醒剤の入ったアタッシュケースをコインロッカーに入れ, その鍵とメモを速達でどこかへ送った.

殺された男は東南アジア系の外国人であったが,指紋照合の結果, 国籍不明のジャン・ゴクサンという男だと判明した. ジャンは覚醒剤ホンコンルートの重要人物であり, 死体に残されていた銃弾から凶器の拳銃の割り出しに成功した.その結果, 拳銃密売の前歴のある男が,事件の数日前,実弾30発付で50万円で売却した事を, 自白した.拳銃を買った男は工藤孝志32歳.かつて麻薬所持販売等の前科があり, 捜査本部では工藤をジャン殺しの犯人と断定.全国に指名手配した.

さてクラブで女(有吉ひとみ)は男達に目をつけられ,逃げた. そこへ大沼が遭遇.大沼は女をチャンピオンへ連れ帰った. だが男の仲間がそれを見ていた.
佐竹「お,可愛いじゃない.可愛い.沼さん,またー.」
大沼「それどころの騒ぎじゃないよ.追いかけられてんだ,この人は.」
佐竹「追いかけられてる?」
大沼「ああ.」
女「すいません.誰だかわからないけど,すぐ出てきますから.」
佐竹「どこのお店?」
女「クラブなんです.ニューアリタリア.」
大沼「あれ,あの区役所のゴーゴー?」
その時,女が外を見た.どうやら大丈夫そうだ.表から外へ出ようとする女に, 明子が声を掛けた.服を着替えて出た方がいいからだ.明子は女を連れ, 奥へと入っていった.それを見送った後
大沼「佐竹さんよ.ニューアリタリアってのはただのクラブじゃねえって話だぜ. 際どいエロサービスで評判なんだよ.」
佐竹「ほう.じゃあ,あの娘に振られた男が追っかけ回してるのかな?」
大沼「かもしんねえなあ.」
二人して卑猥な笑みを浮かべているところへ男達が乱入した.
大沼「お客さん,飲み物は何にしましょうかね?」
男「女,どこやったんだ.」
大沼「女? そんなのうちのメニューには…」
男達は大沼を無視して奥へ入ろうとした.
佐竹「お客さん,出口はあちらですよ.」
この冗談が通用するはずもなく,たちまち乱闘が始まった. この乱闘シーン,なぜかスローモーションを使用.明子は女を裏口から逃がした. だが直に男達は裏口から出て女を捕まえ,工藤の居場所を問い詰めた. そして車で逃げられてしまった.
大沼「待てえ.畜生.」
そこへ
有光「どうしたんだ?」
佐竹「有光君.」
大沼と明子は事情を説明した.ヤクザみたいな男三人が女を追いかけて乱入し, 出て行った.女も訳ありなのだろう.
佐竹「あいつらは確か工藤が何とかって言ってたねえ.」
大沼「そんな事言ってた?」
佐竹「ああ.」
有光は無言で佐竹に新聞を開いて渡した. 新聞には冒頭の事件の記事が載っていた.
佐竹「こいつは面白くなってきたな.」
大沼「何が?」
佐竹は大沼に記事を見せてやった.

女は工藤の情婦だった.女は工藤の居場所を知らないと言い張った. 一味のボス(北村総一郎)は例の記事を見せた.工藤は人殺しをして逃げたのだ. それも知らないのか.驚く女.工藤はは女をかたに, ニューアリタリアの江川から50万円を借りていた.その50万円で拳銃を買った. そして一味の依頼主の「会社の人」を殺し,時価1億円の覚醒剤を奪った. ボスは言った.工藤から何か報せがあったら真っ先に自分に報せるようにと. 女は了承した.
ボス「それからもう一つ.警察から何か訊きに来るだろうがね, 誰にも私の事は何にも知らないと言うんだよ.いいね.」
女は了承し,返された.ボスは依頼主に言った.
ボス「御覧の通りです.私のルートで八方手を尽くした結果がこれです. ミスター・ウェン,あんたの方で工藤という男の何か手がかりはありませんかね?」
ウェン「ミスター陣場,損したのは私のほうだ. その男が絶対秘密の筈の私の取引を嗅ぎ付けたのはどっちのルートか. 捕まえて吐かせば判る事だ.」
陣場「勿論です.」

その頃,警視庁捜査第一課の刑事松原(森下哲夫)は射撃練習をしていた. 草刈は松原の射撃の腕前を誉めた.松原は射撃の試合を控えていた. そんな松原に草刈は工藤の情婦を調べるように命じた.源氏名ははるみ. 松原と出身地と小学校も一緒なのだ.
松原「園原ひろ子…」

はるみこと園原のマンションを松原が訪れた.園原は驚いた. 松原は出身地が同じなので担当になったことを園原に告げた. 松原は小学校の時と全く変わっていなかった.生真面目で勉強家でスポーツ万能. 松原はまじめな園原が工藤と一緒になっている事に驚いていた.
園原「驚いたでしょ.あたしすっかり変わっちゃったわ. 東京に飛び出してふわふわしている内にこうなったの.」
松原は本題に入った.園原は工藤の行方を知らないと言った. 出て行ったら何の連絡も寄越さないのだ.
松原「でも,そんな男でも三年も一緒に暮らしてるところを見ると, 何か取り得があるんだろうね.」
園原は無言だった.松原は何かあったら連絡するようにと言って去って行った. 松原浩司の名刺を見て,園原は昔の事を思い出していた. 松原と楽しく遊んだ日の事を.それは松原も同じだった.

陣場のところに有光が乗り込んできた.陣場の子分(岡田勝)を張り倒して乱入し, 有光はチャンピオンの修理代50万円を請求した. 陣場はうちの社員がやったという証拠はあるのかと開き直った.
有光「なんでしたらお宅の社員の首実見でもしましょうか? ニューアリタリアのはるみさんとご一緒にでも.」
陣場は笑いながら言った.
陣場「それはねえ,警察のやる仕事じゃないんでしょうか.」
有光はこう返した.
有光「まあいいでしょう.そうすればはるみさんをなぜ追い掛け回していたか, 喋る事になりますが.確か,はるみさんのおとこってのは, 現在指名手配中の工藤とかいう男でしたねえ. お宅はどうして工藤を探してるんです?」
陣場「あいつの起こした事件にあたしの方が係わり合いがある, と言いたいんでしょう.」
有光「ええ.」
陣場「冗談じゃありませんよ.私はねえ, あの男に僅かばかしの貸しがあったんですよ.それで,急に姿を消したもんでね, 女に居場所を訊こうとしただけなんですよ.そしたら女が急に消えたんで,まあ, ついうちの社員が乱暴でも働いたんでしょうかねえ.でも, あなたにかけたご迷惑は償いますよ.」
有光「ありがとうございます.あの工藤に僅かばかしの貸しですか?」
陣場「全くあんな大それた真似をするとは私も気がつきませんでしてね.」
そう言いながら陣場は小切手を有光に渡した.有光は帰って行った.
陣場「ただの男じゃないよ.調べろ.」
部下はみな出て行った.

有光は陣場の部下がいるのに気づき,素早くチャンピオンに入った. だがそこには松原がいた.
松原「僕は捜一の松原って者だ.少し話したいんだ.」
ちなみに今回,矢野はお休み.

松原と有光は公園で話した. 松原は有光が陣場と接触した事を早くもつかんでいた. 有光の評判は芳しくなかったので,何か企んでいるのではないか.
有光「その通り.俺は悪名高いデカ崩れの野良犬だ.」
それを聞いた松原は幻滅した.
松原「有光さん,僕は銃の名手に心の曲がった奴はいないと思ってました.」
有光「銃? そいつは何だね? 人殺しの道具じゃないか.え.まあ, 競技で撃つ分には誰も血を流さんがねえ.」
松原「こっちの捜査の邪魔だけはしない事ですね.」
そう言って松原は去って行った.

その足で松原は園原のマンションを訪れた.
園原「松原さんだったの…」
松原「工藤かと思ったのかい?」
園原「あんな男の事は忘れたわ.」
松原は工藤が園原をかたに借金をしていた事まで調べ上げていた.
園原「あたしも馬鹿な女ね.あんな男と一緒になったりして. はじめは事業に失敗したから,しばらくキャバレーに勤めてくれって言われて, 行ってみたら何十万も借金.それでもあの男を信じてた. そんな事が何回もあるうちに,騙されてるって事に気がついたわ. 逃げようかと思った.でも,やめたわ.諦めたのよ. これがあたしの運命なんだなあって.」
松原は園原は慰めたが,あたしなんかもう駄目よ,と園原は酒を呑み始めた.
園原「松原さんは?」
松原「僕は仕事中だから.」
園原「そうだったわね.松原さんってそういう人なのよね,いつも. みんなで決めた規則はちゃんと守りましょうか.」
松原「園原,妙だよ,今日は.」
園原はウィスキーをコップに入れようとしたが,その手は震えていた. そのため,ウィスキーをこぼしてしまった.
園原「ちょっとごめんね.」
そう言って園原は洗面室に入った.実は覚醒剤を打とうとしていたのだ. それに気がついた松原は洗面室に強引に入った.一生懸命,我慢しろ, という松原.打たせて,もう駄目よ,という園原. 松原は「馬鹿野郎!」と園原をビンタし,園原をベッドに寝かせた. そして園原にウィスキーを飲ませた.園原は松原に抱きついた.
園原「松原さん,あたし抱いて.」
松原「君.」
園原「抱いて忘れさせて.お願い.あたしが可哀想なの. それしか薬忘れる方法がないの.お願い.お願い,抱いて.忘れさせて. お願い.」
松原「ひろ子ちゃん.」
松原は園原の頼みを聞き入れてしまった.二人は情事を開始した. しばらく経って有光が園原のマンションにやってきた. 呼び鈴を鳴らせても返事がなかった.松原と園原は裸でベッドで抱き合っていた.
松原「俺はあの頃から君が好きだったんだ.何度も君を抱きしめたいと思った. くそう.工藤の野郎.ぶっ殺してやりてえ.」
園原「松原さん.」
なおも二人は情事を行なった.

今度は有光が松原を問いただした.
有光「はるみに覚醒剤をやめさせようと力を入れてる事も仕事の内かね?」
松原「それはどういう意味です?」
有光「君は単なる友情以上の者をあの娘に示したって事だ.」
松原「あんたに何がわかるものか.人のプライバシーに構わないでくれ.」
有光「刑事だって男だ.女にも惚れるし,人並みの欲もある. だが捜査中の刑事が殺人犯のおんなとの情事.これは一体どういう事かね?」
松原は何も言えなかった.
有光「事が表に出れば君は一線から外されるばかりか, 射撃の世界大会出場も夢と消えてしまう.それがどんな人間らしい事でもね. 君はこの捜査から降ろしてもらった方がいいんじゃないのか? あの娘の事はこの事件が解決した後で結論を出せばいい.」
松原「刑事を失格したあんたが先輩面してお説教ですか. 俺があいつと寝たのはねえ,捜査のためですよ. 俺に何でも喋ってくれるためのね.あんなスケが,誰が本気で.」
松原は笑って誤魔化そうとしたが有光が松原を見る目は冷たかった.

松原は園原が持っていた注射器を草刈に見せた.
草刈「これははるみが所持してたというのかね?」
松原「はい.あの女は工藤に教え込まれて酷いエフェドリン中毒にかかってます. 早く病院に入れてやらなければ…」
草刈「君はあの女が工藤の所在を知る重要な手がかりだと言う事を, 忘れたわけではあるまい.」
松原「しかし,はるみの話ではあの男は身勝手な奴で, 長い間留守にしても電話一本寄越さないと言いました.」
草刈「問題は今東京中に蔓延している覚醒剤のルートを一気に潰す事だよ. ま,その女を入院させてやる日もそう先の事ではあるまい. 我々は法を犯した人間を捕まえる刑事なんだ.」
松原の耳に園原の「抱いて」という声が何度も何度も響いた.
草刈「松原君.」
その声を聞いて松原は我に返った.
草刈「わかったね.」

また有光が陣場のところに乗り込んだ.有光は園原と懇意になったと言い, さらに陣場が盗まれた物が時価一億円の覚醒剤である事を持ち出した.
陣場「君!」
有光「大丈夫ですよ.お宅がお調べになってる通り,私は悪名高いデカ崩れ. 特に鼻は犬並で銭金にかけて敏感でしてね.」
陣場「は,は,は.君の察した通りだよ.私は工藤のために面目が丸潰れだ. ルートの方からはしつこく狙われてるんですよ.それであたしの面子にかけても, どうしてもあいつを探し出さなくてはいけない.」
有光「ところが警察の方であなた方の尻尾をつかむのに躍起になってる. 工藤を探し出しても御宅の方では動いてはまずい.そうですね.」
陣場は有光にタバコを渡した.
陣場「殺しを請け負ってもいいって言うのかい?」
有光「銭金次第では引き受けてもいいと申し上げてるんですよ.」
陣場は有光のタバコに火をつけてやった.
有光「ま,私がご入用でなかったら破談にしましょう.」
帰ろうとする有光を陣場が呼び止め,こう言った.
陣場「君はこっち(拳銃)の腕も相当だって事はわかってるんだよ. その御蔭で同僚を殺したぐらいだからねえ.いくら欲しい?」
有光「三千万.半分は前金で頂きます.」
陣場「三千万!」
有光「それでも安いぐらいですよ,陣場さん.工藤は拳銃を持ってるんでしょう? だったら成否は五分五分じゃないですか.」
陣場「わかったよ.前金は500万にしてくれ.有り合わせがないんだよ.」
陣場は金庫から金を出しながらそう言った.有光は了承した.
有光「で,工藤はいつ?」
陣場「わかり次第連絡するよ.ハジキもその時渡す.」
有光は金を受け取って帰っていった.入れ替わりに部下が入って来た. 信用できますかねという部下に陣場はこう言った.
陣場「どっちにしたって,事が終わったら消えてもらうんだよ. つけさせてるだろうね.」
部下は大丈夫だと答え,さらに松原と園原ができている事を報告した. 有光の懸念は的中したのだ.
陣場「ほう,そいつは使えるね.」

有光は公衆電話からチャンピオンに電話し,三人で園原を見張るように言った. そして有光は無人のチャンピオンに陣場の部下達を連れ込んだ.

何も知らない松原は園原のマンションに入り込んだ. だが園原は薬をまた打って寝ていた.園原を助けるため, 松原は口移しで水を飲ませた.だがこれは罠だった. この様子を写真に撮られたのだ.事情を知らなければ, 松原と園原が接吻しているように見える写真だ.
部下A「いい写真が撮れましたぜ,松原さん.」
部下B「よく効く注射でねえ,まあ二,三日は目が覚めないでしょうなあ. ひょっとしてこっち(頭)も狂ったかもしれませんがねえ.」
そして松原はそのまま連れ出されてしまった.佐竹達が駆けつけた時は後の祭.

明子はチャンピオンに戻ってこう言った.
明子「ひろ子ったら難産だったけどやっと生まれたわ. だけど御主人たら無責任ねえ.どこ探しても連絡つかないのよ. きっと悪い奴らに捕まって徹夜麻雀でもして放してくれないんじゃないかしら. 産気づくまではひろ子と一緒だったらしいけど.」
これを聞いた有光は松原が連れ出された事を知った.ひろ子とは園原ひろ子. 御主人とは松原の事.有光は出て行こうとした.
部下(池田力也)「どこへ行く?」
有光は強引に出て行った.それを見送ってから明子は電話した.

陣場は例の写真を盾に松原に「協力」を求めた.工藤を殺すのだ.驚く松原. 既に陣場は工藤の居場所を知っていたのだ.陣場はからくりを話した. まず陣場は金庫からアタッシュケースを出した.
陣場「一億円の品物はここにある.」
松原「工藤は貴様に使われていたのか.」
陣場「その通りだよ.警察の目は厳しくなったんでね,ここらで一芝居うって, しばらく取引を休もうと思ったんだよ.工藤は金を欲しがってた. 二人の利益が一致したって訳だ.私が奴の国外逃亡の手筈を整えている間, 奴はね,警察の目の届かないところで待ってるんだよ.ところが, 来るのは船じゃなくて香港のボスと殺し屋の君だよ.」
松原「俺が殺し屋?」
陣場「そうだよ.そこで君はハジキを持った工藤を撃ち殺す.警視庁一の腕だ. 一発で十分でしょう.君は現職のデカだから, 殺した理由はなんとでもつけられる.勿論,君は,捜査本部へ通報して, 工藤の発見を報せる.事が終わった後,皆さんがやって来るようにね.」
松原は断ったが
陣場「おっとはやまっちゃいけないよ.どうしても断るって言うんだったらね, はるみの首に君のベルトが巻きついてるって事になるんだよ. そのそばで自分の拳銃で心臓一発. この写真も現場に花を添える事になるでしょうねえ. ギャングの情婦と現職のデカの天国に結ぶ恋って訳ですかねえ.返事を頂こう. もう大して時間がないんだよ.」
松原の耳に園原の「抱いて」という声が何度も何度も響いていた.
陣場「松原君.考えるには大して時間もないんだよ.」
松原「わかった.言う通りにやる.俺は未だ命が惜しいからな.」
陣場「承知すると言うんだな.」
松原「その代わり,はるみと金をくれ. 俺ははるみのヒモ野郎を前から殺したいと思ってた.」
陣場「へえ.」
松原「そして貴様のくれる金で昔のひろ子に戻してやるんだ.」
陣場「女のために刑事の名誉とオリンピックを捨てるって言うの?」
松原「そう.貴様の罠にはまったと言うだけで, 俺の刑事としての生命は終わったんだ.刑事のまんまじゃ, 一人の女も救えなかった事で俺がどんなに悩んだか貴様にはわからんだろう.」
陣場は冷笑した.
陣場「金と女か.ん.二千万とはるみはくれてやるよ.縄,解いてやんなさい.」
とそこへ
有光「待ってくれ,陣場さん.」
虚を突かれ,一同驚いた.
陣場「有光,どうしてここへ.何やってんだ,お前は.」
有光「話は全部聞かしてもらったぜ.あんた,こいつの言う事,信じるのかい?」
有光は笑っていた.
有光「若いデカほどコチコチの仕事野郎だ.特にこの男は, はるみを仕事で利用するために惚れた振りをするような強面野郎だ.俺はね, 陣場さん,こいつの口から仕事のためだったら, スベタの一人や二人はどうなろうと構わんと言ったのを聞いてるんですよ.」
松原「有光さん.」
有光「現場のデカは非情で仕事の鬼だ.うまく罠にかけたなんて安心してると, 陣場さん,酷い目に遭いますよ.この男が口先で OK したのも, チャンスを見てあんたを捕まえる気なんだ.ん.図星だろう,松原君.え.」
陣場「有光君.演説は沢山だよ.私はねえ,あなたを信用しない訳じゃないんだ. ただこう言う仕事はね,現職のデカの方がうまく行くと考えてるだけなんだよ.」
有光「陣場さん.俺はプロだ.」
陣場は頷いた.
有光「デカの真似だったら本職以上だ.」
陣場「うん.」
有光は陣場の手に握られている拳銃を手に取り
有光「さすがに手入れが行き届いてますねえ.」
陣場「松原君のだ.」
有光「陣場さん.約束通り,工藤は俺がやる.」
松原「有光さん.いや,有光.貴様,やっぱり, 腹の中まで腐りきった悪徳刑事だったんだ.」
有光「うるせえ! その通りだ.へ,へ,へ,へ.松原君, ようやく本音を吐いたなあ.貴様にはるみと二千万の為に工藤をばらす事なんぞ, できる筈がねえ.」
松原「できるさ.」
有光「嘘つけ! 陣場さん,こいつの目を見てわかったでしょう.」
陣場「よーし,話は決まった.有光君,そろそろ時間だよ.」
有光「その前にですねえ,約束の金を用意してもらいましょうか.確か2500万.」
陣場「うん.わかったよ.おい.」
陣場は部下に札束の入ったアタッシュケースを持って来させた. そして見張りを残して有光を連れて立ち去った.

有光達の乗った車を大沼と佐竹が尾行していた.そうとも知らずに陣場は走る. さて草刈は松原の監禁されているところに乗り込み,松原を救出した.
松原「課長,すいません.自分の不注意で.」
草刈「陣場は?」
松原「はい.有光と一緒に三号倉庫の廃墟へ. 有光はそこに現れる工藤を騙し討ちにする為に私の拳銃を持って.」
草刈「有光が?」
松原「はい.」
草刈「松原君,君がここにいる事を報せてきたのは有光の仲間だよ.」
それを聞いて松原は驚いた.

さて有光と陣場達は三号倉庫に着いていた. 有光は工藤を騙すために倉庫に乗り込んでいた. 陣場は取引先のボスと会って,工藤を渡す手筈になっている事を伝えた. そして有光は工藤に約束の金の入ったアタッシュケースを渡した. 有光は工藤を連れ,屋上へ行った.そこにヘリが来ると言うのだ. そして有光は工藤に拳銃を向けて撃った. だが弾はアタッシュケースを持つ腕に命中.
取引相手「陣場,貴様裏切ったな.」
陣場「違う.あいつはデカだ.早く捕まえろ.」
陣場の部下が乗り込もうとした瞬間,大沼と佐竹の乗った車が到着. 有光は大沼と佐竹と合流し,陣場達を倒した. 逃げようとした取引相手のところには草刈と松原の乗った車が到着. 御用となった.

連行される陣場達を見送った後,有光は松原に拳銃を返した.
有光「素晴らしい奴だったよ.」
松原「有光さん.僕は未熟な刑事だ.先輩を誤解してました.」
有光「松原君.晴れの舞台での活躍を期待してるよ.」
続いて有光は草刈の前に両手を出して言った.
有光「私を逮捕しなくていいんですか?」
草刈「どうしてだね? 確かに銃声はしたが,誰が発砲したか私は見なかったし, それにこの拳銃は松原君が肌身離さず持ってた奴だ.君が何をしたところで, 私は関知しないよ.」
松原「失礼します.」
そう言って草刈と松原は去った.

園原は入院し,テレビのニュースで松原が大会で二位になった事を知った. 愛する者のために誰はばかることなく喜び泣く者に幸あれ. だが巨大な悪の手先に唯一の愛を奪われた有光洋介にとっては, 悪への限りなき憎悪だけが彼を明日へと駆り立てていくのだった.

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東平 洋史 E-Mail: touhei@zc4.so-net.ne.jp