第十九回

明子を人質にとられ,有光が草刈と対決
殺しを誘う声

脚本:山浦弘靖 監督:井上芳夫

白昼,刑事が刺殺された.仲間の刑事が犯人を路地裏に追い詰めたが, 彼も犯人の仲間に殴り倒され,拳銃を奪われてしまった.

その事を唐橋から聞かされた草刈は緊急手配を指示した. 奪われた拳銃のナンバーは39371.
唐橋「課長.」
草刈「何?」
唐橋「組織暴力団の挑戦ではないでしょうか? 頂上作戦を中止しろと異常なほどの脅迫が続いているのですが.」
確かに脅迫状が沢山届いていた.「家族も殺す」と書かれた物もあった.
草刈「推論は行かん.捜査はあくまでも白紙からスタートしよう.」

チャンピオンでは有光達がラジオで拳銃奪取事件のニュースを聞いていた. 他人事じゃないと言う矢野に有光がこう言った.
有光「いやあ,別に.俺はもうとうの昔にデカを廃業しちまってるんだ. 何も関わりもない.」
佐竹「言うなれば武器よさらばって言うところだ.」
そこへ明子が奥から戻って来た.
明子「ねえ,あなた.このネックレスどうかしら?」
横から佐竹が割り込んだ.
佐竹「どれどれどれ.あ,いいじゃなーい.センスある.いいよね.絶対, かっちょいい丸.」
明子「ありがと.」
佐竹「だからさ,おみやげ,待ってるよ.」
明子「残念でした.佐竹さんのその手には乗りませんからね. (矢野に)じゃあ,あなた.(有光に)お願いします.」
明子は出て行った.だが明子は気づかなかった.尾行者がいる事を.

明子がバスを待って列に並んでいるとチンピラが割り込んできた. 明子が注意すると,チンピラは怒った. そしてバスに乗り込んでもチンピラは明子に絡んできた.とその時, 別の男達が拳銃を構え,バスをジャック.「表示板を回送」に変えさせ, どこかへと走らせてしまった.

その夜.ラジオのニュースでその事件が報じられたが, 有光達はそのバスに明子が乗っている事を知らなかった.
矢野「ハイジャックの次はバスジャックか.世の中色々ありますね.」
と呑気な事を言っていた.そこへ酒屋がやって来てビールを一ケース持って来た. さらに酒屋は表に置いてあった包を有光に渡した.ちなみに今回,大沼は休み. 閑話休題.
佐竹「食物かな?」
矢野「はい.開けてびっくり玉手箱と.何が入っているやら.」
中身は
佐竹「ネックレスにキーにFM受信機か.どういうことかいな?」
矢野はネックレスを見て気がついた.
矢野「これは明子の…」
驚く一同.そこへFM受信機から声が聞こえてきた.
男「有光君,聞こえるか? 有光君. 今から君は私の指示通りに動かなければいけない. 指示に従わなければ人質の命はない.ではまず渋谷駅へ行って, ロッカーの中の品物を受け取るんだ.」
矢野はFM受信機を手に持ち, 一生懸命「明子はどこだ?」と叫んだ.
佐竹「矢野ちゃん.無駄だよ.これは受信専用だから, どんなにわめいても相手には通じない.」
悔しがる矢野.
佐竹「有光君よ.どうする?」
有光「兎に角,一応,指示通り動く他ないでしょう.」
これが事件の始まりだった.

まず有光は渋谷のコインロッカーへ行った. 中に入っていたのはなんと拳銃だった.ブローニング口径32.ナンバー39371. この拳銃こそ,有光洋介にとって生涯忘れる事の出来ない呪われた拳銃であった. 彼はその拳銃で村木を撃ってしまったのだ.受信機から声が聞こえた.
男「有光君.今君が手にしている拳銃は今日の昼, 警視庁の刑事から盗まれた拳銃だよ.」
有光は辺りを見回したが
男「私を探しても無駄だ.さあ,その拳銃を持って次の場所へ向かいたまえ.」

有光は高架下へ行かされた.ビールの空き瓶が二つ. 二つとも上に卵が載っていた.男は卵を撃てと命じた.躊躇する有光. だが男は明子の悲鳴を聞かせ,有光に拳銃を撃つよう急かした. 仕方無く有光は卵を二個とも割った.男は有光の射撃の腕を試したのだ. 次に男は国道246号線で御殿場へ向かうように命じた.それを見ている者がいた.

草刈は鑑識課の課員から報告を受けていた. 有光が高架下で拳銃を撃っているのを目撃した坂口という男からの通報を得て, 現場を調べた結果,有光が撃った拳銃の弾と奪われた拳銃の弾とが一致したのだ. 続けて草刈は坂口から話を聞いた.坂口は車のナンバーは覚えていなかったが, 有光が乗った車がジープである事は覚えていた.

翌朝.有光の乗ったジープをヘリコプターがつけていた.男は有光に, 有光の前を走っているバスを追い抜くよう命じた.有光は強引にバスを抜いた. 対向車線を走っていたトラックと有光はぶつかりそうになったが, 事故にはならなかった.男は有光の車の腕に満足. そして日本ランドの富士急ホテルへジープを走らせるように命じた. ジープは日本ランド 富士急ホテルに着き,有光はそのままチェックイン. 有光は部屋で指示を待つ事にした.
男「有光君.この辺でそろそろ君の仕事の内容を伝えよう.君の仕事. それは今君が手にしている拳銃である人物を殺す事だ.それが誰か. それは後で教える.それまでホテルで待機していたまえ.わかったね.」
有光が怒って立ち上がると
男「どうした,有光君.自分が殺し屋に仕立てられた事を不服のようだなあ. しかし君はこの仕事を断る事はできん.」
明子の悲鳴が聞こえた.静寂だけが流れた.有光は電話を手にとろうとしたが, やめた.窓越しに監視されている可能性があるからだ. そして部屋の奥に入り,窓の死角になっているところからチャンピオンに電話. 佐竹と矢野は日本ランド富士急ホテルへ急行した.

その頃,警視庁でも静岡県警から報告が入っていた. 有光のジープが御殿場で危うく接触事故を起こしそうになったと言うのだ.

日本ランド富士急ホテルのロビーで有光は矢野と接触した. 有光は勘定を払うついでに矢野にメモを渡した.
有光の声「指令を出しているFM受信機の感度は三百米以内. ホテル周辺や泊り客を洗ってくれ.」

部屋で待つ有光に電話がかかって来た.有光は窓から見えないところで, 電話を取った.電話は矢野からだった.
矢野「どうも相手の選手が見当たりませんねえ. もっと派手な打ち合いに出ないと,この試合負けですよ.」
有光「よし,やってみよう.」
有光は外に出てジープに乗った.途端に受信機から声が聞こえてきた. 男は勝手な行動は許さんと言った.有光はそれを無視して出て行った. と同時に黒い車が有光を追いかけて出て行った. その黒い車を矢野の車が追いかけた.有光は黒い車の存在に気がついた. そして途中で矢野と協力して黒い車を駐め,矢野が乗っていた男を問い詰めた. そして有光が車の中を調べた.だが,無線機はなかった.人違いだったのだ. 悔しがる矢野.
男「気の毒だったな,有光君.折角だが, そう簡単に尻尾を出すような私じゃないよ.さ.諦めてホテルへ帰りたまえ. それから君の相棒には東京に帰ってもらうんだな.」
怒る矢野を有光はなだめ,東京へ帰るように言った. 仕方無く矢野は有光と別れた.
男「大変結構だ.では君は部屋に帰って次の指示を待ちたまえ.」

一方,佐竹は有光を見張っていたらしき男を発見.早速跡をつけた. 男は日本ランド富士急ホテルに入った.佐竹は男達の部屋を確認. だが佐竹は気づいていなかった.自分がロビーで坂口に見られていた事を. 佐竹は男達の部屋を覗き込んだ.その時,佐竹の背中を誰かが叩いた! 驚く佐竹.
矢野「何だ?」
一安心した佐竹は怪しい奴が部屋にいる事を矢野に教えた. 矢野はノックしてみたが誰も出ない.そこで佐竹と矢野は中に入った.
矢野「誰もいねえじゃねえか.」
だが
男「動くな.」
矢野と佐竹は坂口達三人に取り囲まれ,拳銃を突きつけられた.

唐橋と草刈も御殿場に向かっていた. 草刈は駐まった車の傍に警官がいるのを見て車を駐めさせた. 駐まっていた車の運転手は先ほど有光と矢野に犯人一味と間違えられた男だ. 草刈と唐橋は話を聞き,有光が日本ランド富士急ホテルにいるらしい事を知った.

有光はいらいらしていた.そこへ
男「待たせたな,有光君. 急いでホテルを出て日本ランドの遊園地に向かいたまえ. そこで最後の指示を与える.」

佐竹と矢野は樹海の中に放り出されていた.下手に迷い込んだら一生出られない.

有光は日本ランドへ行った.一足違いで草刈と唐橋がホテルに着いた. そして日本ランドへ有光が行った事を知った.

佐竹と矢野は目印に白い布を木に結びながら歩いていた. 迷わないようにするためだ.

佐竹と唐橋は日本ランドに入った.佐竹と唐橋は別れる事にした. 唐橋はリフトに乗り展望台へと向かった.佐竹は下を歩き回った.
男「有光君.午後二時が来たら展望台に登るリフトに乗りたまえ.」
有光は時計を見た.二時十分前くらい.その時,草刈を呼び出す放送が聞こえた. 草刈は遊歩道の一番リフトよりのコーナーに向かった.二時になり, 有光はリフトに乗った.
男「これから最後の仕事に入る.これが終われば全て解放する.いいね. 拳銃を用意したまえ.君を殺すのは警視庁捜査一課長の草刈警部だ. 右前方の遊歩道の外れに草刈は立っている.我々の部下が背中向きにさしておく. だから絶対に外すな.」
草刈の姿が見えた.確かに後ろ向きに立っていた.有光は拳銃を構えた.
男「今だ.やれい.」
だが
男「迷うな.やらなければ人質を殺してしまうぞ.撃て.」
仕方無く有光は撃った.だが草刈には当たらなかった.いや,当てなかった.
草刈「有光!」
男「有光,わざと狙いを外したな.兎に角この場は逃げろ. 上には刑事が張っている.」
唐橋が拳銃を構えて有光を狙っていた.有光はリフトから飛び降り, 森の中へ逃げた.

坂口は人質の一人を撃ち殺した.有光への見せしめのためだ.

夜になった.
男「寒いかね,有光君.眠気覚ましに新聞を置いておいたよ.」
その新聞は有光が起こした事件を報じていた. 「遊園地でピストル発射 元刑事が上司を撃つ 懲戒免職を恨んで?」
男「どうだ.うまく仕組んだろう. 警察は君が我々のリモコンで動いているとは気づいていない.つまり, 草刈が殺されても君の個人的な犯罪として片付けられる訳だ.ところで有光君. もう一つ君に見せたいものがある.右に歩きたまえ.」
有光は立ち上がり,右に歩いた. すると先ほど坂口に殺された男の死体が転がっていた.
男「君が失敗した事への罰だ.この次に殺されるのは矢野と言う男の女房だ.」
有光「けだものめ! 出て来い!」
だが誰も出てこなかった.有光は怒りに任せて辺りの草木に当り散らした. そしてFM受信機を投げ捨てようとしたが…
男「冷静になれ,有光君.君にとって草刈警部は憎しみの対象でしかないはずだ. そんな男の命と罪もない善良な市民の命とどっちが大事か, わざわざ言うまでもないだろう.いいか,有光君.残った人質を生かすも殺すも, 全て君次第なんだ.」
仕方無く有光はFM受信機を胸ポケットに入れた.

翌朝.佐竹が弱音を吐いていた頃,佐竹と矢野はやっと道に出る事が出来た. そして草刈に事情を説明した.
草刈「人質?」
佐竹「そうなんですよ.それで有光君,引き金をひいてね.」
唐橋「そんな言い訳が通用すると思っているのか.」
佐竹「ああ,言い訳なんかじゃありませんよ.(草刈の肩を握り)ねえ, 信じてくださいよ.頼むから.」
草刈は思い出していた.
有光に一味と間違えられた男の声「そうなんです. 無線でリモコンしているのはお前だろうと.」
そして
草刈「いいだろう.信じようじゃないか.」
唐橋「課長!」
佐竹「さすがは課長.物分りがいいや.」
だが
草刈「ただし信じたからと言ってどうすればいいかね? 有光に撃たれて死ねとでも言うのかね? 折角だがそんな事は出来ん. いや,あたしは命が惜しくて言ってるんじゃないんだ. これほど巧妙な罠を仕掛ける以上,かなりの組織が動いている事は確かだ. つまり今度の事件はその組織が警察に叩きつけた挑戦状なんだ. となれば答えはただ一つ.法治国家の面目にかけても, 私が殺されるわけには行かんと言うわけだ.」
矢野「それじゃあ人質は殺されても構わないと言う訳ですね? それはあんたは偉い人間だろうよ.でもな,いくら偉くたって命は一つなんだ. それに比べて人質は13人もいるんだぜ.1人の命と13人の命とどっちが重いんだ. え.」
佐竹が矢野をなだめていった.
佐竹「さすがは草刈警部.言う事に筋道が通ってらあ. これじゃあ警視総監になる日も目近いぜ.行こう.」
矢野「畜生.この石頭.」

有光は二人組の警官と格闘.だが衆寡敵せず,両手に手錠を掛けられた. それでも有光は警官を倒し,逃走した.

その報せは唐橋にも届いた.
唐橋「課長.有光の奴,四合目の非常線を突破して, 五合目の方へ向かってるそうです.直ちに追いましょう.」
答えはなかった.
唐橋「課長!」
草刈は意外な事を言った.
草刈「非常線を三合目まで下げるように.」
唐橋「下げる?」
草刈「そうだ.相手は狂ってる上に凶器を持ってる.」
唐橋「しかし…」
草刈「奴の弱点は私が一番良く知っている.」
草刈は車に乗り込み,五合目へ向かった. その報せは山荘にいたボスにも伝わった.

男「有光君.草刈は富士の五合目へ向かったぞ.君も急ぐんだ.」
有光は石を使って手錠の鎖を叩き切った.そして五合目へと急いだ.
男「有光君,どうした.人質の命は君にかかっているんだぞ.さあ,行け. 草刈を殺すんだ.」
有光は這いつくばって山を登った.草刈の車に唐橋から, 有光が五合目に向かったと言う報せが入った.
男「草刈は今,五合目から富士登山道を登り始めている.さあ急げ.休むな.」

富士の斜面で草刈は有光を呼んだ.しばらく風の吹く音しか聞こえなかった. そして遂に草刈は有光を発見した.有光も草刈を見つけた. 草刈は有光に近寄った.有光が拳銃を構えた.草刈が立ち止まった.
有光「課長,あなたは人質の身代わりのために来たのか?」
草刈「買いかぶってもらっちゃ困るな. 私は人質を救う為の的になるつもりはない.ここへ来たのは君を逮捕する為だ. さあ,拳銃を捨てるんだ.」
有光「動くな.」
男「待て,有光.草刈君にも話が通じるようにボリュームを上げてくれたまえ.」
有光はFM受信機のボリュームを上げ,草刈に受信機に見せつけた.
男「草刈君,聞こえるか.日本ランドでの有光君は君を殺す事が出来なかった. しかし今度はそうは行かんぞ.最も未だ君が助かる方法はある. それには今から私が話す条件を君が飲む事だ.その条件とは, 現在君の陣頭指揮で行なわれている暴力団撲滅の頂上作戦を即刻中止する事だ. 君にも家族がいる事だし,この際つまらん面子は捨てて私の条件を飲みたまえ. その方が君のためじゃないのかね.もし承知してくれるなら, 拳銃を空に続けて二発撃ちたまえ.不承知なら一発だ.さあ,草刈君.」
草刈は拳銃を空へ向けた.だが一発しか撃たなかった.
男「残念だな.何とか君を助けてやろうと思ったのだが,やむをえん.有光君. 草刈を殺せ.」
仕方無く有光は拳銃を向けようとした.だがその前に有光は草刈に撃たれた. もんどり打って後ろ向きになった有光に草刈はもう一発撃った. 有光は腹を押さえ,逃げた.追いかける草刈.
草刈「拳銃を捨てろ.」
有光は富士の斜面を転がり落ちていった.有光は死ぬのか? 有光の動きが止まった.
草刈「有光洋介.銃を捨てろ.抵抗すれば射殺する.」
その隙を突いて有光は二発撃った.草刈は倒れ,有光も動かなくなった. そこへ一味の連中がやってきた.
チンピラ「は,は.まさか相撃ちになるとは思ってもみませんでしたね.」
ボス「御蔭様で有光の始末をする手間が省けたって訳だ.」
だが連中は気づいていなかった.有光も草刈も出血していない事を. 高笑いする連中の隙を突き,有光が立ち上がった.さらに草刈も立ち上がった. 連中は全て有光と草刈によって倒された.有光はボスを何発も何発も殴った. さらに石まで持ち出したので草刈は有光を止めた.ボスに草刈が言った.
草刈「私が撃った弾は全て空砲だ. 有光君の弾はこの防弾チョッキが全て防いでくれたよ.」
有光「この猿芝居にかかるようじゃ,お前達も大した悪党じゃねえや.」
有光はボスに唾を吐いた.

人質は全員解放された.矢野は明子と抱き合った.有光は拳銃を草刈に渡した.
草刈「しかし,私の芝居によく呼吸を合わせてくれたね.」
有光「ああ.最初の一発で空砲だとわかりましたから.」
草刈「そうか.じゃあ.」
去ろうとする草刈に有光が言った.
有光「ちょっと待ってください.」
草刈「ん?」
有光「僕の殺人未遂の一件はどうなるんですか?」
草刈「さあ,知らんなあ,そんな事は.全ては芝居だったんだ.全てな.」
草刈は去って行った.
佐竹「さすが.大物.」

草刈は例の拳銃を手にしながら思った.ブローニング口径32.識別番号39371. この呪われた拳銃はいつかまた悪を倒すために働くであろう. だが有光洋介の手に握られる事は二度とあるまい.最早二度と.

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東平 洋史 E-Mail: touhei@zc4.so-net.ne.jp