第十八回

有光達が的を目の前にして「仲間割れ」し,「生き残った」のは有光一人. 果たしてその結末は?
事件屋仕掛人

脚本:松田寛夫 監督:井上昭

ホステスの純子(榊ひろみ)が働いているクラブに, 夫(柳生博)が男(杜沢泰文)を連れてやってきた. 夫と男は密談を開始した.

仕事が終わった後,純子と夫はアパートに帰った. 赤ん坊を夫があやし,純子が髪を整えた. 純子は夫が連れてきた男が誰かを尋ねた.夫は答えた.男の名前は高井. 雀荘で知り合ったという.高井は女と麻雀のイカサマで暮らしているらしい. さて夫が顔を洗っている間に,純子はタンスの引き出しをあけ, タオルを出そうとした.その時,タンスに拳銃が入っている事に, 純子は気づいた.
純子「あんた.」
夫は慌てて拳銃を取り上げた.
純子「またやるのね?」
夫「うるせえなあ.声が大きいよ.」
純子は拳銃を取り上げた.
夫「何しやがんだ,このう.返せよ.」
純子「いやあよ.」
夫「返せよ.」
純子「うまくいきっこないわ.また刑務所よ.」
怒った夫は純子をビンタした.この騒ぎで赤ん坊が泣き始めた.
純子「いやよ.いやよ.」
夫「純子.」
純子「やめて.やめてよ.」
夫は純子を愛撫して誤魔化そうとし,純子は「いやよ.」と拒否し続けた. だが夫は拳銃を取り上げてしまった.その時,隣から「うるさいぞ.」と文句が. 純子と夫は慌ててその場を取り繕った.やっと赤ん坊が泣きやんだ.
純子「生活するぐらい,あたしがちゃんとしているじゃない.」
夫「ああ.毎晩お前はホステスとして夜に御出勤だ.亭主の俺は子守りで留守番. 結構なご身分だよ.」
純子「だって.」
夫「仕方がねえって言うのか?」
純子は答えなかった.
夫「そうだよな.勤めようにも俺には盗みの前科が三つもあるとくりゃあ, お前が働くしかねえよなあ.だけどな,純子,お前ももうそろそろいい歳だ. いつまでもホステスやってらると思ったら大間違いだ.」
純子「うまくいきっこないわよ.」
夫「行かせてみせるさ.純子,いいか.一発どでかい山を当てたらさ, きれいさっぱり足を洗うよ.な.そしたら,こう,こじんまりした,そう, お茶漬け屋の店でも出してさあ,親子三人,水入らずで暮らせるじゃないか. な.」
女にはわかっていた.男が一旦言い出した以上, 止めたところで所詮無駄であった.そして一週間後のやはり夜の事である.

純子は気が気でなかった.夫と高井はカリナン宝石サロンに忍び込み, 宝石強奪に成功した.車を走らせる高井はうまく行ったとご満悦. 夫はこれからが大変だと釘を刺した.大抵,捌いた物から手がつく. だから苦しくても凝と我慢し,最低5年は待つ.その辛抱さえできれば, やばい事は何にもない.盗みの時効は5年だからだ.高井は心配ないと答えた. ここで夫は車を止めさせ,公衆電話から純子の店に電話した.
夫「うまく行ったよ.何もかもだ.明日の夕方には帰る.」
電話している間,高井は盗んだ宝石を見ていた. 純子はすっかり元気を取り戻し,今日はあたしのおごり,と冗談を言った.

さて夫と高井は造成地のそばにある墓地に車を駐め,穴を掘り始めた. 墓なら穴が掘られていても怪しまれる心配がないからだ. 始めは高井が穴を掘っていた.穴はどんどん深くなり, 高井の腰まで埋まるほどだった.ここで夫は高井と穴掘りを交代した. 穴掘りに専念する夫.だが夫は気づいていなかった.高井の心に浮かんだ欲望に. 高井は拳銃を取り出し,夫に向けた.夫が驚く間もなく蜂の巣になってしまい, 穴の中に倒れこんでしまった.高井は夫の死体の上に, 物の入ったアタッシュケースを入れた. さらに夫の脱いでいた上着から財布を出した.ついでに金もとる為だ. 財布の中には金だけではなく,夫が親子三人で写っている写真も入っていた. 高井はその写真を財布の中に戻し,財布を上着に入れ,上着を穴の中に入れた. そして穴を埋め始めた.

その頃,草刈がカリアン宝石サロンに急行していた. 草刈に保険協会の安藤(福岡正剛)がこうこぼした.
安藤「ああ,やりもやられたり.二億円ですよ. しかも金額保証の保険つきばかり.大損害ですわ.」
草刈は最善を尽くすと安藤に言った.

女は待っていた.次の日も,その次の日も.しかし, 男が帰ってくる筈もなかった.警視庁挙げての捜査にも関わらず, 手がかりは依然として皆無.事件を一月も過ぎた頃には, 早迷宮入りの観測が公然とマスコミに流れていた.

さてある雀荘で高井は麻雀で一人勝ちし,金を分捕って帰って行った. 帰って行く高井に大沼がこう言った.
大沼「うまいもんだね,兄さん.」
高井が帰った後,大沼が高井と麻雀をしていた男達にこう言った.
大沼「(半荘勝負の馬鹿づきだと)本当にそう思うかい?」
大沼は高井が使った手を披露した.
大沼「最初は難しい奴から行くかな.燕返しって奴.ね. これは普通の奴じゃちょいとできねえ.いいかい.よーく見てなよ.」
何と一筒から九筒まで全部揃っていた.
大沼「さあて,次は爆弾詰みだ.」
なんと白発中東西南北揃った字一色.
大沼「これが爆弾詰みだよ.見てもわからねえだろう.つまり,節穴じゃあ, 見張りにならねえってわけだよ.」
高井に金を巻き上げられてチンピラは見張り役の二人を張り倒し, 雀荘から出て行った.遂に男達は高井を見つけ,金を返すように要求した. 高井はとぼけたが,証人の大沼が姿を現したので白を切る事は出来なかった. 大暴れする高井のところへ
矢野「おう.どこの誰だか知らねえが,加勢するぜ.」
何故か矢野は高井に加勢し,男達と立ち回りを演じた.大沼はただ見ているだけ. 高井も物凄く強かった.

高井と矢野は意気投合し,二人でビールを飲んだ.高井は剛柔流三段の腕前. 高井は矢野のボクシングも年季が入っていると誉めた.
矢野「なあに,大した事はねえよ.ま,プロの飯は食ったけどな.」
高井「ふーん,プロなら大したもんだ.」
矢野「そうかな.何しろ八百長専門. それも適当に殴られてひっくり返る役割だったからなあ. 今でも殴られるのはうまいぜ.」
高井が殴る真似をすると矢野は倒れる真似をした.
矢野「おう,そうだ.俺の知り合いのスナックがあるから,もう一件行こう.」

こうして矢野は高井をチャンピオンに連れてくる事に成功した. チャンピオンには明子と有光がいた. そして矢野と高井は寝ている有光の向かい側に座った. ウィスキーを持ってきた大沼を見て高井は驚いた.
矢野「訳を話したところですんなり着いて来ちゃくれないと思ってな. かと言って無理矢理しょっ引いてくるには,ちょいとお前さん,腕が立ちすぎる. どこでどう邪魔が入るかわからねえからな.」
高井は逃げ出そうとしたが大沼に捕まった.
大沼「お,おっと.動くんじゃねえよ.」
大沼は高井の首にナイフをつきつけていた.
高井「これはどういう事だい? どういう事だって訊いてるんだよ!」
大沼は不敵に笑い,高井を元の席に座らせた. そして矢野が高井を縛り付け,有光がどこかへ電話.
有光「ああ.事件屋の有光です.ええ.押さえました.キャッシュで100万, いつでもお渡しできますよ.ええ.なんだって! おいおい. 俺達は最初から殺しはやらねえって断ったはずだ.そうだ. 兎に角約束通り銭持って引き取りに来てもらいましょう.」
そう言って有光は電話を切った.
有光「くっそう,あのじじい.俺達を殺し屋と間違えてやがる. 一千万だとよ,この野郎に.一千万.」
矢野「野郎殺して一千万円ですか.」
大沼「ふーん.一千万か.」
矢野「くそったれ.ふざけやがって.人を見損なうなって言うんだよ.」
大沼は欲を出した.
大沼「一千万か.有光.先方から一千万て切り出すくれえなら, こら話の持ってきようじゃ二千万,いや,三千万にもなるかもしれねえぞ, そら.」
怒った矢野が大沼に飛び掛った.
矢野「こら,大沼.本気でそんな事を.」
大沼「うるせえな.てめえは黙ってろい.」
矢野「何!」
我慢できずに高井が怒鳴った.
高井「くっそう! 一体どうなってるんだって訊いてるんだよ. 何でこの俺が狙われなくちゃいけないんだい.」
大沼「わからねえのかい.」
高井「ああ.心当たりがねえなあ.」
大沼「とぼけるな! おい.てめえが強姦して売り飛ばしたスケがな, 薬にいかれてこれになっちまったんだよ. それでスケの親が俺達に泣きついてきたんだ.今の電話じゃ, てめえをばらしたら一千万下さるそうだ.なおみってスケだよ. 覚えがあんだろ.」
高井「なおみ? そんな女知らねえなあ.」
大沼「ネタあがってるんだよ.雀プロの高井って見上げた野郎だってな.」
高井「俺じゃねえ.人違いだ.」
大沼「往生際悪いんだよ.」
高井「本当だ.知らねえんだ.」
大沼は高井の頭をこづいた.
大沼「うるせえや.この野郎,人が黙ってりゃいい気になりやがって, てめえは.」
有無を言わさずに大沼は高井の口にタオルで猿轡をかませた.その時, ノックの音が.
矢野「サツだ.サツが来るとやばいぜ.不法監禁でこっちがパクられる.」
有光が大声で言った.
有光「今日は休みなんだよ.」
すると
佐竹「おー,そういう声は有光か.佐竹だよ.週刊スキャンダルの佐竹.」
慌てて大沼達は机の下に高井を隠し,佐竹を中に入れた.何故なのだろうか?
佐竹「どうなっちゃってるの? 休みでもないのに店閉めちゃって, がめつい丸にしちゃ珍しい丸.お,こりゃまた,皆さんお揃いで. 何かあったのかな?」
何故か誰も何も答えなかった.佐竹は歩き回りながら言った.
佐竹「そう言えば,うーん,事件のきな臭い臭いがするような,しないような. よ.何かあったらいっちょかましてくれよ.」
大沼「とんでもない.未だに失業中ですよ.何かいい仕事あったら話下さいよ. ね.なあ.」
佐竹は有光を軽く叩いたが,眠そうに伸びをしただけ. 高井は身動きがとれなかった.
佐竹「俺の勘にも狂いがあるかな.じゃ,また.」
こう言って佐竹は去って行った.一安心する大沼達.がっかりする高井. そこへ佐竹が舞い戻ってきた.慌てる大沼.高井は首を左右に動かし, 何か言おうとした.
佐竹「ね,何かいいネタはないかなあ.最近,ネタ切れでねえ, 雑誌は売れないわ,編集長はブーブー言う,銭は入らない,女の子にはもてない, もう困っちゃってるんだよ.何かあったら頂戴.恩に着るからさ.」
何故か慌てて大沼が怒鳴った.
大沼「わかってますよ! わかってますよ! 今までだって何かあったら, いの一番にしらせてるでしょうが.」
佐竹「そう.そうだったな.恐いなあ.末永くよろしくね.」
やっと佐竹が帰って行った.大沼は高井をつかんだ後,何か思いついたらしく, 電話のダイヤルを回し始めた.
矢野「おい,大沼.お前,どこに.」
大沼「うるせえなあ.」
そして電話がつながると
大沼「ああ,親父さんですか.先ほどの事件屋ですがね…いやあ,有光じゃねえ. マネージャーの大沼ですよ.」
矢野「馬鹿,よせ.」
矢野は受話器を奪おうとしたが大沼にかわされた.明子は矢野をなだめた.
大沼「ええ,そうです.は,困りますな.ギャラその他仕事の話, あたくしに相談してくれなくっちゃ.え,大体ねえ, 百万なんてはした金で仕事引き受けるなんざ野郎をさらって晒すだけでいいって, 話だったんですよ.そうです.殺しなら殺しって, はっきりあたしに注文して下さりゃ良かったんだ.は,は,しかしね, 殺しとなると一千万円安過ぎますよ.ずばり言って二千万. びた一文欠けてもお断りです.じゃ.」
大沼は電話を切った.
大沼「二千万出すってよ.」
矢野は大沼の胸倉をつかんだ.
矢野「大沼.貴様.」
たちまち矢野と大沼は喧嘩を始めた.有光は止めたが
矢野「この野郎の腐りきった根性,叩きなおしてやる!」
大沼「腐りきった根性だ?」
矢野「ああ.」
大沼「てめえはそんな偉そうな口利ける側かよ. (矢野の現役時代の様子を写したパネルを叩いて)聖人君子じゃあるまいし, (パネルを剥ぎ取って)八百長あがりのボクサーがな, 今更きれいな真似事したって(パネルを叩き割りながら)おかしいんだよ.」
矢野「何だと!」
大沼「有光さん.あんたもだぜ,おい.よう.悪徳デカの身だ. もっときっぱり肚くくって,きっぱり生きられねえのかよ. かっこつけたって懐が素寒貧じゃ,しょうがねえんだよ.それによ, あんな野郎生かしといたってどうしようもねえ事しやしねえんだよ. そんな野郎ばらしてどこが悪いんだよ.ばらして二千万が手に入るんなら, こんな結構な話はねえじゃないか.な,矢野.」
矢野「馬鹿野郎!」
大沼は矢野にぶん殴られた.たちまち喧嘩が始まった. その弾みで大沼は矢野の腹をナイフで刺してしまった.矢野の腹から鮮血が飛ぶ. 高井の顔には脂汗が浮かんでいた.そして矢野は床に倒れ, 動かなくなってしまった.
明子「あなた.」
何と大沼は明子を押さえ,ナイフを突きつけた.
大沼「動くな,動くな.一歩でも動いてみろ.」
有光「大沼!」
有光は立ち上がっていた.
大沼「うるせえな.こうなったら俺と一緒に殺しやろうじゃねえか.え. 二千万円山分けしようじゃねえか.嫌なら明子殺すぜ.」
大沼は興奮していた.有光は息を飲んだ.
大沼「どうすんだよ.一人殺したんだ.二人殺すも,三人殺すも同じだぜ.」
明子「有光さん,あたしはいいわ.こんな男の言いなりになっちゃ駄目.」
大沼「おめえは黙ってろ.」
有光は態度を決めかねていた.
大沼「もたもたするんじゃねえ.早くぶち殺せよ.二千万なんだぜ.早くしろい!」
仕方無く有光は高井の首を締めようとした.
大沼「そうだ.」
明子「人殺しー!」
明子は叫んで大沼から逃げ,階段の奥へと逃げた. だが明子は追いつかれたようで,明子の悲鳴が聞こえた後, 大沼だけが戻って来た.狂ったように高笑いする大沼に有光の怒りが爆発. 大沼にテーブルやらイスやらを投げつけた.大沼は悲鳴をあげて動かなくなった. 呆然とする有光.そこへ佐竹が入って来た.
佐竹「どういう事なんだ,有光君.説明してくれよ.この男は?」
有光「そいつが原因だあ.そいつを殺したら二千万になる. 何もかもそっから狂い始めた.俺が殺ったの,大沼だけだ.」
佐竹「だったら,自首しろよ.」
有光「冗談じゃねえ.」
有光はナイフを拾い,佐竹の首につきつけた.
有光「こうなったら大沼が言った通り, こいつをぶっ殺して二千万のゲンナマを握る.太く短くだ. 精一杯突き当たるまで楽しく生き延びてやる. まずあんたには死体の始末からしてもらおうか.早くやれ.」
佐竹「その顔じゃとめても無駄なようだな.」
佐竹は矢野を奥へとひきづりこんだ.その直後,佐竹の叫び声が. 佐竹を刺した有光は異様に興奮.高井にナイフをつきつけた.
高井「ま,待ってくれ.殺さないでくれ.金なら俺がやる. 俺を殺ったら二千万と言ったなあ.助けてくれたら一億やる.」
有光「ふざけんな! 麻雀のイカサマで食ってる人間が一億なんて持ってるわけねえ!」
高井「持ってんだよ.」
有光「うるせえ.」
高井「助けてくれ.本当なんだよ.」

と言う訳で有光は高井の案内であの墓地へやってきた. 高井は両手首を縛られたまま.有光はスコップを土に刺し, 無言で掘るように命じた.
高井「ロープは切ってくんねえのかい.この手じゃねえ.」
有光は高井をぶん殴った.仕方無く高井は両手首を縛られたまま, 穴を掘り始めた.その間,有光はタバコを吸った.一生懸命穴を掘る高井. タバコを吸う有光.やがて服が出てきた.有光は高井を突き飛ばし, 穴を掘り始めた.高井は服の中から拳銃を取り出していたが, 有光は穴掘りに夢中だった.有光がアタッシュケースをみつけると
高井「有光さんとやら,それまでだ.」
高井は拳銃をつきつけた.有光は訊いた.
有光「この男は?」
高井「相棒さあ.」
有光「貴様がばらしたのか?」
高井「ああ.こいつ(拳銃)でなあ.」
何故か有光は薄笑いを浮かべていた.
高井「何がおかしい?」
有光は土を投げつけて反撃した.高井はひるんでしまい, その隙に有光は拳銃を蹴り上げた.高井は剛柔流の空手で対抗したが, 有光には通じなかった.そして逃げようとした高井の前に, なんと矢野,佐竹,明子,そして大沼が現れた.呆気にとられる高井. そして視聴者.
大沼「は,は,は.簡単な手さ.氷枕の中にトマトジュース入れて, 腹の中に仕込んどいた.女がトルコに売り飛ばされりゃ, その親父が怒り狂って復讐だのってのは全部出鱈目なんだよ. ま,おめえさんが人違いだとわめくのは無理ねえや.なあ,矢野.」
矢野は頷いた.
佐竹「しかしうまいもんだ.死に様としちゃあ,迫真の名演技だったぜ.な.」
明子「本当.見直しちゃったわ,私.」
矢野「いやあ,俺はただ,佐竹さんの書いた筋書き通りやっただけさ. 芝居といやあ,有光さんも結構悪乗りしてたぜ.」
有光は何も言わなかった.そこへ草刈達がやって来て高井を連行していった. 有光は草刈に言った.
有光「約束通り,拷問による自白の強要なんて奴はいっさいしてませんよ.」
佐竹「そう言う事.あいつにちょっとした芝居を見せてやっただけですよ.な.」
盗品を確認する安藤に大沼が言った.
大沼「一割の謝礼はキャッシュで願いますよ.」
安藤「わかってます,わかってます.」
依頼人は安藤だったのだろうか? 草刈は例の財布の中から写真をみつけ, 有光に渡した.親子三人で写っているあの写真だ.
有光「じゃあ.」
そう言って有光は立ち去った.

二億の一割の二千万が入って大沼は大笑い.そこへ
有光「二千万の一割.二百万もらってくよ.」
大沼「え?」
矢野「どこへ?」
明子「鈍いわねえ,あなた.」
矢野「ああ,そうか.」
大沼にも有光の目的がわかった.
大沼「また変な病気が始まったんですか? 事件屋が依頼者に謝礼を持ってくなんて聞いた事ありませんよ.」
有光「だけどねえ,御蔭で二千万儲かったんだ. 情報提供の謝礼だったら払うのが当然だろう.」
佐竹「そう言う事.二百万渡しても一千八百万残るじゃない.」
有光は去り,明子は矢野に指輪が欲しいといった.
矢野「ああ,いいとも.鯨の卵みたいなごっついダイヤ,買ってやるぜ.な.」
大沼は慌てて札束を抱え込んだ.
大沼「え.なんだ.鯨の卵みたいなごっついダイヤ?」
矢野「ああ.」
大沼「冗談じゃありませんよ.全くいいかげんな.大体ねえ, 鯨なんてのは卵産まない,産まないんだよ.」
矢野「だってお前,そんなに儲かってるじゃんか.」
大沼「いつも儲かるとは限らないの! 今までだって経費ばっかかさんで, 元手の取れたの少なかったじゃありませんか!」
ここで佐竹が言った.
佐竹「沼さん.さっきの芝居に似てきたねえ.あれ, 案外本気だったんじゃないのか?」
図星だったのかどうかは知らないが
大沼「冗談じゃありませんよ.あたしゃねえ, 銭の為にダチ殺しをやろうなんて事しませんよ.全く.」
矢野「そうかな.わかんなくなってきたぜ,俺は.」
険悪な雰囲気になったので
大沼「それじゃあね,あのこれで蚊の泣くようなルビーでも買ってもらいなさい. 駄目.これはねえ,いざって時の畜えなの.駄目だよ.駄目.」
大沼は「駄目」と連呼するのであった.

有光は依頼人のアパートに着いた.ドアを叩こうとした瞬間, 赤ん坊の泣き声が聞こえて来た.二週間前,このアパートを訪れた時も, 赤ん坊の泣き声が聞こえていた.男の失踪に女が有光達に助けを求めたのだった.
純子「お願いです.主人を探してください.」
有光「突然姿を消したって言うんですね.」
純子「ええ.」
有光「思い当たる理由は全然ないんですか?」
純子は口籠った.そして頷いた.
有光「じゃ,どうして警察に行かれないんです?」
純子は無言だった.
有光「警察だったらただで御主人を探してくれますよ.」
純子はうつ向いてしまった.
有光「それとも警察には頼めないような何か特別な訳でも?」
純子の顔色が変わった.
有光「そうですね.」
純子は頷いた.

その事を思い出し,有光はドアをノックした.純子が出てきた.
純子「やっぱり…」
有光「詳しい事は後程警察の方から連絡があると思いますが,一応私の方から. それから,これは御主人の遺品です.じゃあ.」
有光は財布を渡して帰って行った.中には二百万円の札束と, 親子三人で写っているあの写真が入っていた.赤ん坊は泣いていた. 純子は写真を手にし,泣いてしまった.

有光はゴミ収集所からキューピー人形の首と胴体を拾った. そして元に戻し,頬笑んで置いた後, 純子のアパートの方を見てから去って行った.

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東平 洋史 E-Mail: touhei@zc4.so-net.ne.jp