第十五回

マンションに人質をとって立て篭もった若者達と有光との対決
昼下がりの訪問者

脚本:山浦弘靖 監督:帯盛迪彦

季節はもう夏.チャンピオンでは有光,矢野,そして明子がスイカを食べていた. 明子が矢野を見て言った.
明子「あーあ.口の周りがびちゃびちゃじゃないの.まるで子供みたい.」
明子が矢野の周りを拭いてやっているところへ佐竹がやってきた.
佐竹「まー,熱い,熱い,熱い,熱い.」
佐竹はスイカをねだったが
明子「残念でした.売り切れです.」
佐竹「信じられないなあ.」
さて佐竹は有光に頼まれていた報告書を持って来ていた. 有光が礼を言い「大変だったでしょう」と言うと,佐竹は,こんなの簡単, と言い,さらに
佐竹「お冷だけか.」
余程スイカを食べたかったのか佐竹はそういいながらコップに水を入れた. 仕事は競争相手の会社の新製品を探る事.矢野がふざけた仕事だと言うと
佐竹「仕方無いよ.資本主義社会は食うか食われるか. 調査を依頼してきた電気メーカーの社長が必死になるのも当り前だあね.」
佐竹はお冷に砂糖を入れていた.明子がギャラが安すぎると文句を言うと
佐竹「ん! 最近,とみにしっかり丸.でもなあ, この夏枯れに仕事があるだけでも,ありがたいと思わなくっちゃあ.お. ところで沼さんは?」
矢野「うん.カワイコちゃんと二人で泳ぎに行ったよ.」
佐竹「また? あの野郎.」
有光は報告書を届けに行く事にした.今日は子供達の夏休みも間近い土曜日. 有光にとっては何の変化もない平凡な一日である筈だったのだ.だが…

パトカーが車を追いかけていた.スピード違反だ. 警官は運転手こと淳也(沖田駿一)に免許証の提示を求めた. 運転手が免許証を探している間に,警官は後部座席に目をやった. すると女ことまきが膝の上に載せていた緑色の袋の中から札束が見えた.
警官「なんだ.君,まさかそれ, 金がいっぱい詰まってるってわけじゃないんだろ?」
警官は軽い気持ちで問いかけたのだが,それを聞き, 淳也と後部座席の男こと精二(菅野直行)の顔色が変わった. 慌てた精二は警官に向かって発砲.
淳也「(精二に)馬鹿野郎.」
慌てて車を発信させたが脱輪.男達は車を捨てて逃走した.男達は走りに走った. 工事現場を脱けようとしたところで,精二が気分を悪くしてしまった. 淳也は,精二が警官を撃たなければ何とか切り抜けたのに, と精二をなじると,まきが,偉そうな事言うな,と返した. そこへパトカーのサイレンが.男達は近くのマンションに潜り込む事にした. 男達はマンションに戻ってきた中年の女性とエレベータに乗り込んだ. そして女性をピストルで脅迫.そのまま部屋に乗り込んだ. 部屋の中には女性の夫北見(鈴木瑞穂)がいた. 北見は連中を追い返そうとしたが,かなわなかった.
淳也「他に家族は? 答えろ!」
北見「娘が一人いる.だが外出中だ.」
淳也「精二!」
精二はびびりまくっていた.仕方がないのでまきが部屋の中を探った. 確かに他に人はいなかった.
淳也「俺達,サツに追われてるんだい.しばらくここに居させてもらうぜ.」
北見「ちょっと待ってくれ.金ならいくらでもやる.車を使いたきゃ, 私のを使ってもいい.だから,頼むからこっから出て行ってくれ.」
淳也「うるせえ! 折角だけどそういうわけにはいかねえんだよ. この部屋はマンションのてっぺんだ.隠れるには持って来いの場所だもんな. ま,サツがおとなしくなるまでゆっくり居さしてもらうぜ.」
そこへブザーの音が.有光がやってきたのだ.
有光「ごめんください.有光ですが.」
淳也「誰だい,有光って.」
北見「仕事の事で私が雇った人間だ.」
びびる精二とまき.
有光「有光ですが.有光ですが.北見さん.書類を持ってきました.」
精二はびびっていた.
淳也「ほっとけよ.留守だと思って帰るぜ.」
だが
北見「しかし,今日の午前中,会う約束をしてるんだ. 居留守を使ったりしたらかえって怪しまれるかもしれん.」
精二「ふざけるなよ.調子のいい事言いやがって.俺たちの事, 報せるつもりなんだろう.その手は食うかよ.」
淳也「待てよ,精二.このおっさんの言う通りかもしれないぜ.」
精二「でもよ,淳也.」
淳也「妙な真似しやがったら, (北見の妻にピストルをつきつけ)こいつをぶっ放すだけよ.」
淳也は北見を応対させる事にした.ただしチェーンロックをかけたまま. ドアの陰には淳也が隠れていた.それには有光は気づかず
有光「ああ,いらっしゃったんですか.」
北見「うん.」
有光「依頼された報告書ですが,改めてください.」
北見「どうも.後でゆっくり読ませてもらう.」
北見はチェーンロックをかけたまま報告書を受け取った.有光は怪訝に思った.
北見「ありがとう.」
有光「はあ.」
精二とまきは北見の妻に拳銃をつきつけていた.
北見「あ,いや,いいんだよ.急な用事ができたもんで. 何もおかまいできなくて.申し訳ない.」
有光「いえ.いいんです.」
北見「じゃ,これ,調査費の残金.」
北見はチェーンロックをかけたまま,小切手の入った封筒を有光に渡した.
有光「はあ.」
有光は怪訝に思いながら受け取った.
有光「じゃあ,失礼します.どうも.」
有光は去って行った.北見はドアを閉めた.淳也達は安心した.だが…

有光は廊下を歩き,外へ出た.そして小切手を封筒から出してみると, なんと何も書かれていなかった.有光は周りを見渡した.パトカーが見えた.

まきは精二にコーラを飲ませていた.どうやらまきと精二は恋仲らしい. 淳也はコーラを奪って飲んだ.その時,電話が鳴った.緊張が走った. 電話は有光からのもの.公衆電話からかけていたのだ.やがて電話は切れた.

異変を察知した有光は非常階段を上がり,屋上に登った. そして屋上から下を覗き込み,足場を発見.ベランダに降りようとした. その時,人影が見えた.実は淳也が窓から外の様子をうかがっていたのだ.
精二「あのポリ公,まさか死にやしないだろうな.死んだら事だぜ. きっと死刑になっちまうよ.」
まき「大丈夫だって,精二.死ぬわけないよ.ねえ,淳也.」
淳也「そんな事はどうだっていいんだよ.それより俺が心配なのは兄貴の方さ. みつかったらただじゃ済まねえもんな.」
有光は淳也が中に戻ったのを察知するとベランダの柵に降り立った. そしてベランダに降り立って様子をうかがった.有光はゆっくりと窓を開け, 中に入った.有光が入り込んだのは寝室で, そこのドアの隙間から居間をうかがった.

さてここはチャンピオン. ラジオのアナウンサー(福留功男)が事件を報じていた.
アナウンサー「犯人達は秋山巡査に瀕死の重傷を負わせた後, 車を捨てて世田谷区経堂の住宅街に逃げ込んだ模様です.」
矢野がラジオのスイッチを切った.
矢野「仕方のねえチンピラどもだ.」
明子「ねえ,経堂って言えば,有光さん,書類届けに行ったところじゃない?」
矢野「ん? そういえば,ちょっと帰りが遅いなあ.」
佐竹「まあ,心配要らない.どっかでカワイコちゃんにばったり出会いの, ピーのピーよ.」
明子「ふ,ふーんだ.有光さん,佐竹さんと違いますよ.」
佐竹「ま,俺ほどはもてねえな.」
何も知らずに一同,大笑い.

その頃,まきは,いいマンションだ,私達のオンボロアパートに比べると, まるで天国だ,と言っていた.さらにまきは北見の職業を聞いた.
北見「会社の経営だよ.」
まき「ふーん,社長さんか.あたいの親父はのんだくれの労務者. あたいを殴る事しか能のない奴さ.だからぐれてやったんだ.あ, でも親父の奴がいるだけでもまだマシだよね.淳也の親父は女と蒸発. 精二と来たら,父親はどこの馬の骨かわからないんだもんね.」
淳也「まき.つまんねえ事,ペラペラ喋んなよ.」
まき「何さ.本当の事言われたからって頭に来る事ないだろう!」
淳也はまきをぶん殴った.そしてまきと淳也はつかみあいの喧嘩を始めた. この機に乗じて有光は居間に突入しようとしたが…呼び鈴が鳴った.
那美「ママ,あたしよ.」
仕方無く有光は突入を断念.淳也は北見夫人を玄関に出させた. 那美は婚約者の由起夫を連れて帰っていた.那美は「パパ」を驚かすために, 出来上がったウェディングドレスをつけ,居間に入って来た. だが北見の様子が変なのに那美は気がついた.あっと言う間に, 那美と由起夫も人質にされてしまった.由起夫は一流貿易会社のサラリーマン. まきは那美からウェディングドレスを奪い
まき「精二,どうだい,似合うか?」
精二「ああ.」
まき「でもさ,どうせなら,この方がもっと似合うと思うよ.」
なんとまきはウェディングドレスに火をつけて燃やしてしまった.
まき「幸せだねえ,あんたって.こんなウェディングドレス作ってもらってさあ. 本当に幸せだよ.」
あっという間にウェディングドレスは黒焦げに.
那美「ひどい.あんまりだわ.」
北見「一体,何の権利があってこんな無茶をするんだ.貴様達は人間じゃない. 獣だ.」
淳也「そうさ.俺達は獣だぜ.おめえらみてえにお高い人種を見てると, 無性にかみつきたくなるんだ.精々,気をつけた方がいいぜ.」
北見は言葉を失った.
淳也「さあ,おっさん.娘を慰めてやんなよ.」
まき「淳也.」
淳也「心配ねえって.いざとなりゃ,こいつをかわいがるだけよ.」
淳也はさちおの頭にピストルを突きつけた.
淳也「どうした.小便ちびっちまうんじゃねえのかい.え.は,は.」
仕方無く北見は娘を慰めるために寝室へ行った.すると
北見「有光君.」
寝室には娘と北見夫人の他,有光もいたのだ.
有光「僕に出来る事はありませんか?」
北見「いや,何もしない方がいい.」
有光「どうしてです?」
北見「今,下手に刺激をしたら,あたし達は皆殺しになるかもしれん. 奴等が出て行くまでじっと辛抱しているのが一番利口だ.」
有光「しかし,北見さん.」
北見「有光君.君が余計な事をする事で私の家族を犠牲にしたくないんだよ. どうか,我々に構わないでくれ.頼む.」
那美「パパ.そんな言い方ってないわ. 有光さんは私達を助けてくれようとしているのよ.」
夫人「ねえ,あなた.那美にもしもの事でもあったら…やっぱり, 有光さんに頼みましょうよ.」
北見「うるさい.この家の主は私だ.黙って私の言う通りにしなさい.」

結局,北見達は縛られてしまった.有光は未だ寝室に隠れていた. パトカーは去ったようだ.まきは,じゃあ,逃げよう,と言った.だが
精二「待てよ.遠巻きにして俺達が出てくるのを待っているのかも.それによ, 兄貴達だって今頃ニュース聞いてこの辺うろついてるかもしれねえしよ. 下手に動かねえ方がいいよ.」
まき「精二.びくつくのもいい加減にしなよ.あんた,それでも男なの!」
精二「まき,てめえ…」
淳也「二人ともいい加減にしろよ.」
淳也は由起夫に那美と「やれ」と強要した.由起夫が嫌がると, 淳也は那美をつかんだ.
北見「娘をどうするんだ?」
淳也「決まってるじゃねえかよ. 俺があいつの代わりにかわいがってやるのよ.」
まき「面白いじゃんか.やっちゃいなよ.」
淳也が「やろう」とした.由起夫が淳也に飛び掛ったがかなわなかった.
那美「待って.ここじゃ,いや.あたしの部屋へ連れてって.」
淳也は那美を寝室へ連れて行った.そして那美をベッドへ押し倒し, スカートをめくり,卑猥な笑みを浮かべて那美に襲い掛かった. その時,有光が後ろから殴りかかり,淳也を気絶させた.

居間では
まき「ねえ,精二.あたいを抱いて.ねえったらあ.」
まきと精二は情事を開始.精二はピストルをテーブルの上に置いた. それを寝室から有光は見ていた.由起夫は起き上がり,精二に襲い掛かった. 揉み合ううちにピストルが暴発.精二の右足に弾が当たった. まきは拳銃を拾って由起夫に狙いを定めた.そこへ有光が襲い掛かった. だが意識を取り戻した淳也の逆襲に遭った. 北見はその間に非常ベルを鳴らせる事に成功.管理人が北見の部屋へ行った. そこへ黒い車に乗った男達(内田勝正ら)が通りかかった. 淳也達の逆襲に遭ったため,北見は「けつまづいた拍子に…」と, 管理人に言わざるを得なかった.

まきは精二の手当てをしようとしたが,北見家に救急箱はなかった. まきは買いに行くと叫んだが,淳也がそれを制止. 北見夫人に買いに行かせる事にした.
那美「あなたが逃げようとしなければこんな事に…何で逃げようとしたの?」
由起夫は返す言葉がなかった.
那美「パパだってそうよ.あの時,パパが有光さんの言う通りにしていたら, こんな事にはならなかった筈よ.そうでしょ,パパ.」
北見も返す言葉がなかった.

北見夫人は外へ出た.管理人に「お騒がせしてすみませんでした.」と言い, 救急用品を買いに行く北見夫人.それを先ほどの黒い車の男達が尾行していた. 薬局を出た北見夫人に黒い車の男達が声をかけた.男達は警察の者と名乗り, 三人組が隠れている事を聞きだした.

北見夫人が戻って来た.那美は有光を手当てしていた.
淳也「ふん.フィアンセからこの男に乗り換えたのかよ.浮気なスケだぜ.」
夕方になり,夜になった.状況は何も変わらなかった.
淳也「どうした.手も足も出ないだろう.芋虫と同じだよ.」
有光「こんな事をしたって無駄だ.今に警察にわかっちまう.それより, 自首した方が利口じゃないのか?」
淳也「馬鹿野郎.冗談言うなよ.それじゃあ,折角苦労して頂いた金が, パーになっちまうじゃないかよ.」
有光「金?」
淳也は緑の袋から札束を出して自慢した.二千三百万円. 彼らは闇のカジノで働いていた.その売り上げを奪って逃げたのだ. 先ほどの黒い車に乗っていた男達は刑事ではなく,カジノの胴元だ.
淳也「ところがよ,ずらかる途中でスピード違反やらかしちまってなあ, ポリにこの金の事がばれそうになっちまったんだよ.そこで, つい撃っちまったってわけだ.」
北見「呆れた連中だ.貴様達のような若者がいるから, 世の中悪くなる一方なんだ.」
淳也「すいませんね,世の中悪くしちまって.でもよう, 好きでぐれたんじゃねえんだよ.金や学歴のねえ俺達には, こうするしかねえのさ.同情してちょうだい.」
有光の怒りが爆発した.
有光「甘ったれるんじゃねえ!」
淳也「何?」
有光「世の中にはなあ,お前達と同じような境遇に育っても, まっすぐに生きている連中が大勢いるんだ.そういう連中に比べれば, お前達は屑だ.てめえに甘ったれる事しか能のねえ屑野郎だ!」
淳也「ふん.何とでもほざきやがれ.」
淳也は有光を蹴り上げた.そしてラジオをつけた.そこへ電話がかかってきた. 何と電話は金を奪われた兄貴分(内田勝正)からの物だった.
兄貴「やっぱりそこだったのか.随分探したぜ.」
淳也の態度が一変.さっきまでの威勢の良さはどこへやら.
淳也「兄貴.俺は…」
兄貴「いいって事よ.淳也.精二達も一緒かい?」
淳也「実は,精二の奴が…」
精二「やめろよー!」
怒り狂った精二は電話を切ってしまった.兄貴分は電話が切れたのを知り, 公衆電話ボックスから外へ出た.
精二「もう駄目だよ.やっぱり兄貴達にかぎつけられちまったよ.もう駄目だ. 俺達,殺されちまうよ.きっと殺されちまうよ.」
淳也「うるせえよ!」
淳也は逆上し,精二や北見を突き飛ばした.その時
アナウンサー「えー,音楽の途中ですが, ただ今入りましたニュースによりますと,今日の午後, スピード違反の取締り中に拳銃で撃たれた秋山巡査は, 手当てのかいも無く死亡したとの事です.捜査本部では,犯人達の容疑を, 殺人罪に切り替え,全力を挙げて犯人の逮捕に乗り出すとの方針を決定しました. それではまた,続けて音楽をお届けしましょう.」
それを聞き
精二「もうおしまいだよ.三人とも死刑になっちまうよ.死刑になるんだよ!」
淳也「てやんでえ.撃ったのはおめえだよ.死刑になるのはおめえだけだい!」
まき「何言ってんのさ.あんたがスピード違反なんかするから, こんな事になっちまったんじゃないのさ.」
淳也「うるせえ.」
淳也はまきをビンタした.放心する精二.淳也もまきも黙っていた. 有光は怒りに燃え,北見は困惑.北見夫人も困惑.那美は白けた目をしており, 由起夫は恐怖におののいていた.

兄貴分達は警察の者と名乗り,管理人から北見の部屋の鍵を借りた. 一緒にエレベータに乗った管理人を兄貴分達は殴り倒した.

淳也「なあ,精二.こうしたらどうだ.兄貴に詫び入れてよ, この金返す代わりに俺達匿ってもらうんだよ.」
精二「兄貴に?」
淳也「そうだよ.兄貴を頼れば絶対大丈夫だよ.な,そうしようぜ,精二.」
淳也が勝手な事をほざいている間に有光は何とか紐を爪で切ろうとしていた.
精二「嫌だ.」
淳也「何でだよ.」
精二「俺にはこんな大金つかめるチャンスは二度と来ねえよ.逃げてやるよ. どこまでも逃げてやるよ.」
淳也「そんな事言ったってお前,逃げられっこねえよ.」
精二「その時は,ここにいる人質みんなぶっ殺して,俺も死んでやるよ. どうせ俺はポリ公一人殺してるんだよ.こうなったら,二人殺すのも, 三人殺すのも,同じ事だよ.」
精二は逆上していた. 由起夫が情けない声を出し「僕は死にたくない」とほざいた.
那美「由起夫さん!」
北見「言う事なら何でも聞く.命だけは助けてくれ.」
精二「うるせえなあ.撃つぞ!」
淳也「やめろ,精二.」
その時,ドアが開いた.兄貴分の牧村と細川がやって来たのだ.
牧村「おい,淳也.」
牧村は淳也のチェーンロックをはずさせた.精二は乗り気ではなかった.
牧村「警官殺しとは,またどでかい事をやらかしたもんだなあ. これで一人前の悪党になったというわけだ.」
精二「出てけ.出てかないとぶっ放すぞ!」
牧村「は,は.弱ったなあ.そうカッカされちゃ. こっちは穏やかに話をつけに来たんだぜ.」
淳也「話って何です?」
牧村「うん.考えてみりゃ,お前達が俺に牙をむいた気持ちは無理もねえ. その点は俺も反省してるんだ.そこで物は相談だが, お前達を匿ってやる代わりに,そっちの金をこっちに返さねえか?」
三人はお互いを見合った.
牧村「いやあ,全部とは言わねえ.その半分の1200万でいいんだ. 残りの金はお前達に小遣い銭代わりにくれてやる.」
淳也「どうする,精二.悪い話じゃねえと思うがなあ.」
まき「淳也の言う通りだよ.ね,精二.OKしちゃおうよ.」
突然,有光が笑い出した.
淳也「何がおかしいんだい.」
有光「ヒヨッコはやっぱりヒヨッコだなあ.」
まき「何だって?」
有光「お前達の兄貴はなあ,金を頂いた後でお前達をぶっ殺すつもりだ.見ろ. ちゃんと顔に書いてあるぜ.」
図星だったのか,細川が襲いかかろうとしたが,牧村は制止した.
牧村「困るね.妙な入れ知恵をしてもらっちゃ. 騙そうとしてるのはお前の方じゃないのか?」
淳也「そうとも.兄貴の言う通りだぜ.この野郎, 俺達と兄貴をかみ合わせて自滅させようと企んでやがんだ.へ. その手は食うかよ.」
有光は冷笑した.
有光「信じる信じないはそっちの勝手だ.しかし後で泣きをみたって, もう遅いんだぜ.さ.悪い事は言わないから,早くその二人を追い出せ.」
まきは迷っていた.
まき「精二,どうする? あたいには, こいつの言う事も正しいような気がするけど.」
牧村「おい,精二.下手すりゃ,おめえは死刑だぞ.それでもいいのか?」
精二は迷っていた.そして有光に言った.
精二「誰がてめえの言う事なんか信じるか.誰が.」
有光は無言だ.
牧村「よーし,話は決まった.おい,そんな物騒なおもちゃ,こっちへ寄越せ.」
弟分「おい,淳也,精二.」
淳也は投げようとしたが精二は投げようとしなかった.
牧村「おい.」
二人とも渡してしまった.
有光「やめろ!」
時既に遅く,淳也と精二は蜂の巣になった.やっと有光は腕を解く事に成功した.
精二「畜生.騙しやがったな.」
精二はまた撃たれて絶命した.まきもピストルで撃たれた. 有光は電線をショートさせてブレーカーを落として部屋の電気を消し, 牧村と細川に襲い掛かった.そして牧村と細川を倒す事に成功した. そして有光は110番しようとしたが
那美「有光さん.」
有光はダイヤルを回したが,受話器を置き,黙って出て行った.

事件には有光が関わらなかった事として処理された. 北見達は記者から質問を受けていた. 力を合わせてチンピラを追い払った者として.

チャンピオンでは佐竹と矢野がトランプで遊んでいた.そこに有光登場.
佐竹「お,早かったじゃないか.さてはカワイコちゃんにでも振られたな?」
矢野が有光の腕の傷に気づいたが
佐竹「決まってるじゃないか,有光ちゃんの趣味は. カワイコちゃんが腕にガブ.」
佐竹は明子にかみ付く真似をした.今日は子供達の夏休みも間近い土曜日. やはり有光にとっては何の変化もない一日であった.

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東平 洋史 E-Mail: touhei@zc4.so-net.ne.jp