第十三回

密輸ダイヤの運び屋にされた記憶喪失のトランペッターと有光との交流
トランペットは子守唄がお好き

脚本:山浦弘靖 監督:田中重雄

その夜.有光は久し振りの仕事で稼いだ僅かばかりの金を手に, 佐竹を誘って呑みに出かけた.佐竹は大沼と矢野が来ない事や, でかい仕事をしようとか言っていた.有光は佐竹の話を適当にあしらっていた. その時,トランペットの調べが聞こえてきた. 佐竹が「この店にもったいないなあ.」と言うほど, トランペッター(愛川欽也)の腕は良かった.曲が終わると同時に有光は拍手. 有光に応えてトランペッターもファンファーレを鳴らした. ヌードショーが始まると同時に有光は出て行ったが, 佐竹はその後もバーに居残るのであった.

さて有光が街を歩いていると詩集を売る女が出ていた. 有光は詩集を買う事にした.すると
トランペッター「よ.さっきはどうも.あ,買ったんすね.この娘の詩, なかなかいいんすよ.贔屓にしてやって下さいよ.ね.(女に)新しいの? よし.僕も一つ貰おう.ちょっと待って.あ,釣はいいよ.」
トランペッターは気前良くお札を渡した.
女「でも…」
トランペッター「いいから,いいから.とっときなよ.ね.」
女「すいません,いつも.」
トランペッター「いいえ.」
有光「しかし,こんなところよりもっと駅前の方が売れるんじゃないかなあ.」
女「ええ.でも今頃の時間は…」
トランペッター「ま,兎に角,いい詩を書いてくれよな.おやすみ.」
女「おやすみなさい.」
トランペッター「(有光に)どうも.」
トランペッターは去って行ったが,その後を黒い車がつけていた. それに気づいた有光は車の跡をつけて行く事にした.

案の定,トランペッターは車に乗った男達に襲われた.
トランペッター「何ですか?」
男B「正木,探したぜ.」
男A(中田博久)「俺達から逃げようとしたって無駄だと言ったぞ.出せ.」
トランペッターは訳ありらしく,男達にぶん殴られた.そこへ有光乱入.
有光「この人をどうするんだ?」
たちまち乱闘が始まった.有光は男達を蹴散らし, トランペッターを助け起こした.

有光はトランペッター正木のアパートに上がりこんだ. 部屋では正木の娘ゆき(杉田かおる)が寝ていたが, すぐに起きて正木を出迎えた.有光は正木から話を訊いた. 正木の妻は正木が入院している間に逃げていた. 正木は今迄二度もあんな風に襲われた事があったが, 正木に心当たりはなかった.なぜ警察に届けないのかと言う有光に
正木「とんでもありませんよ. そんな事したらあいつら何するかわかりませんからねえ.実はね,僕, 記憶を失っちゃったんですよ.」
有光「記憶を?」
正木「昔の事はね,何もかも思い出せないんですよ. 自分の名前だってねえ,正木とおるだって言うの,娘に教えられたりして, 弱っちゃうんですよ.いやあ,金でもねえ,ありゃ, ボディガイドでも雇ってねえ…」
ゆき「パパ.」
正木「ん?」
ゆき「ボディーガード.」
正木正木は思わず苦笑い.
正木「しかし三流バーのトランペット吹きじゃねえ,あんた.」

有光はその話を引き受けた事をチャンピオンで佐竹達に話した.
明子「ガード料はいくら?」
有光「彼,無理してでも払うって言ったんだけどねえ.」
明子「それで?」
有光「まあ,事情もある事だし, 当分は彼のトランペットをただで聞かせてもらうのが条件だ. 残りは彼の出世払いって事だな.」
佐竹は両手を広げ,呆れたというポーズ.
明子「困るなあ,そんないい加減な商売してもらっちゃ. 大沼さんが法事に行っている間, あたしが経理を担当する事になったんですからね. そういう話はまずあたしにしてあげなくっちゃ.」
矢野「ま,そう目くじら立てるな.そこが有光さんのいいところだ.」
明子は「うん!」と言ってコーヒーを飲んでいた矢野の背中を叩いた. 真似して佐竹も「う,うん!」と言って矢野の左太腿を叩いた.
佐竹「しかし崩れペット吹きの記憶喪失かあ.ネタになるかもしれないな. (カウンターを叩いて)名前なんてんだ?」
有光「正木透とか言ったなあ.」
佐竹「正木透.うーん,どっかで聞いたようなあ…うん.あの正木だ.」
矢野「知ってるのか?」
佐竹「知るも知らないも日本のジャズ界にこの人ありと言われた, かつての名トランペッタ―正木透だ.」
矢野「その男がなぜ狙われてるんですかねえ.」
佐竹「そこだ.よし,有光君よ,そいつは俺が洗ってみる.」
有光は頷いた.

男Aはボス(田口計)に正木がボディーガードを雇った事を報告していた.

さて正木がトランペットを吹いていると酔っ払いに水を掛けられた. 酔っ払いは浪曲子守唄をやれと要求.正木はリクエストに答えて吹いた. それを有光は黙って聞いていた.その帰り
正木「なんか呑みてえなあ.有光さん,今夜ねえ,おごりますよ. がーんと行きましょう,がーんと.」
有光「あんた,そんな事言って,うちで娘さん待ってるでしょう.」
正木は笑ってから言った.
正木「有光さんもねえ,嫁さん貰ってねえ,子供が出来ればわかりますよ. あいつはねえ,今の僕にとって人生ですよ.」
正木が笑っているところへあの詩を売っている女の叫び声が聞こえてきた. 女は男達に乱暴されていた.早速有光が男達を撃退した.女は家賃を滞納し, アパートを追い出されたと言う. 同情した正木は自分のアパートに女を泊める事にした.女と一緒に去る正木. 有光はあの黒い車を見かけ,胸騒ぎを感じていた.

その翌日から,正木親子と詩を売る娘みさとの奇妙な同棲生活が始まった. 正木がトランペットを吹き,ゆきがハーモニカを吹いていた. みさはゆきにプレゼントを渡した.それは宝石箱だった.
ゆき「わあ,きれい.これ本物の宝石?」
みさ「ええ,と言いたいところだけど,ただのガラス玉.」
と言いながらみさは横目で正木の方を見た.正木はガラス玉の輝きを見て, 頭が痛くなってきた.
ゆき「ねえ,パパ.これが本物の宝石だったらヨットが買えるわね.」
正木「う,うん.」
ゆき「また頭が痛いの? お薬飲む?」
正木「う,うん.大丈夫だ.」
ゆきは一安心.
ゆき「ねえ,パパ.ヨット買ったらお姉ちゃんも乗せてあげない?」
正木「うん.いいと思うよ.」
みさ「あら,ヨットを買うの?」
ゆき「うん.パパの夢はね,真っ白なヨットを買って世界一周する事なの.」
みさ「まあ,素敵.正木さんて随分ロマンチストなのね.」
ゆき「いやあ,三十も過ぎてこんな夢追っかけてるようじゃ, 男としては失格だよ.」
正木は苦笑いした.そこへ矢野が迎えにやってきた. ゆきは矢野に宝石箱を見せた.さらに
ゆき「それから今度の日曜日に遊園地に連れて行ってくれるんだって.」
矢野「へえ.いいお姉ちゃんだね.」
ゆき「当たり前でしょ.将来パパのお嫁さんになる人ですもの.」
矢野「そう.」
正木「こら,ゆき.何言ってんだ.」

そして次の日曜日.正木親子とみさはよみうりランドへ出かけた. ジェットコースターに乗った正木は自分が転落した時の事を思い出していた. それをみさが見ていた.

チャンピオンでは明子がぼやいていた.
明子「全くいい気なもんね.お遊びのガードマンまでやらせるなんて. ガード料も払わないくせに.早いけどもうお店閉めて, みんなで一杯やりましょうよ.」
矢野「おう,おう.そんなことやったら,沼さん帰ってからどやされるぞ.」
明子「大丈夫よ.だってあたしはね,無料奉仕なんですから.」
そこへ佐竹がやってきた.
佐竹「有光君よ,正木の事がわかったぜ.あれは三年前. アメリカに演奏旅行に行った時, 自分が知らない間に密輸ダイヤの運び屋にされていた.」
有光「密輸ダイヤの運び屋に?」
佐竹「うん.ところが,日本に帰国したところをFBIから連絡を受けた警察に, ぱくられかかってね,その翌日,よみうりランドジェットシューター乗り場から, 気を失っているところをとっ捕まったが, その時既に記憶を失っていた…らしい.」
矢野「その密輸ダイヤの方はどうなったんだ?」
佐竹「さっぱりわからないまる.警察も懸命に捜査をしたが, なんせ正木先生の記憶がどっかへ行ってしまったので,捜査は打ち切り. こういう事だ.」
矢野は気がついた.
矢野「有光さん,よみうりランドって言えば, 今日正木さん達が遊びに行った遊園地だ.」
有光「で遊園地は彼女の方から誘ったんだな?」
矢野「ええ.ゆきちゃんがそう言ってましたけどね.」
有光は何か引っかかるものを感じていた.
佐竹「これ.ただの偶然の一致かね?」
矢野「偶然の一致と言えば,ゆきちゃん,彼女から宝石箱をもらってたなあ.」
佐竹「宝石箱? その女,ちょっと引っかかるなあ.」
有光も同じ考えだった.

佐竹の考え通り,みさは組織の連中だった.みさはホテルでボスと会って報告. 収穫がないと聞いたボスはもっと積極的にやれと命じたが
みさ「あたし,これ以上,あの人をだまし続けるのが辛いんです. お願いですから,やめさせてください.」
ボス「どうやら正木に惚れたらしいな.」
図星だったらしくみさは何も言えなかった.ボスは高笑い.
ボス「ま,やめる,やめないは君の自由だ. しかし一旦金の魔力に取り付かれた君はそう簡単に足を抜けるかな?」
そう言い放ってボスは去って行った.入れ替わりに佐竹が登場.
佐竹「ちょっと訊きたい事があるんだ.」
みさは驚いた.
佐竹「表につきあってくれないか?」
外では有光が待っていた.
佐竹「ところで,いくらで買収されたのかな?」
みさ「何の事ですか?」
佐竹「ばっくれたって駄目.あんたの胸の中は全部読めてるんだからな. チンピラに強姦されそうな芝居をする.正木さんに近づく. ゆきちゃんに宝石箱をあげる.遊園地に引っ張り出す.何のためだ? 正木さんの記憶を回復させるためじゃないのか?」
みさは何も言えなかった.
佐竹「ではなぜ正木さんの記憶を回復させるのか? 答えは唯一つ. 密輸ダイヤの隠し場所を知りたいな.違うかね?」
有光はみさをじろっと睨んだ.
佐竹「もう全部ばれてるんだ.じたばたしないで喋ってもらおうかな. さっきホテルで会っていた男の正体,教えてくれないか?」
みさ「知りません.あたしには何の事だかわかりません.」
佐竹「あ,そう.じゃあ,後はナイフちゃんに喋ってもらおうかなあ. どうしよう?」
思わずみさは後ずさりした.
有光「おい.よせよ.」
佐竹「うん.」
有光「その代わり,君に頼みたい事がある.正木さんは本当にいい人だ. もし君にだまされたと知ったら,どんなに傷つくか知らない. だから君の正体に気づく前に立ち去って欲しいんだ.いいね.」
そう言って有光は立ち去った.佐竹もついて行った.

その夜.正木はみさに結婚を申し込んでいた.みさは考え込んでいた. そして正木に抱きついた.「抱いて」と繰り返すみさ. かえって正木はとまどってしまった.そして朝早くみさは出て行った.

チャンピオンでは.
矢野「なあ,有光さん.どうして横っ面を張り倒してでも, ドロを吐かせなかったんですか?」
佐竹「矢野ちゃん,しつこいまる.もういいじゃないですか.」
矢野「そうは行きませんよ. こっちがもたもたしてる間に正木が記憶を取り戻したらどうなるんです.え? 密輸ダイヤは悪党の手に…」
そこへ当の正木が現れた.
正木「有光さん.(佐竹と矢野に)あ,こんちは.有光さん.」
有光「どうしたんだ?」
正木「彼女がねえ,彼女がいなくなっちゃったんですよ. 有光さん,友達のよしみで一緒に探してくださいよ.」
有光の返事は事情を知らない正木にとっては冷たいものだった.
有光「ほっとけばいいんですよ.」
正木「そうはいかんよ.ね.ゆきのためには彼女必要なんだよ.頼むよ, 有光さん.この通りだよ.」
有光「お断りしますよ.」
正木「なぜだい.なぜなんだよ.あ,そうか.わかったよ.」
正木は有光の胸倉をつかんで言った.
正木「ねえ,金だな? ん.金ありゃOKするんだな.え.」
見かねた矢野が正木を有光から引き離した.
矢野「正木さん,よしなさいよ.あんた, 有光さんが金で動くような男だと思っているのか.見損なっちゃいけないなあ. 有光さんはねえ,あんたのためを思って…」
有光「矢野,よせ.」
矢野「いや,こんな男はっきり言ってやった方がいいんですよ.いいですか, 正木さん.あのみさって女はねえ…」
有光「矢野!」
有光は立ち上がっていた.が,佐竹に制止された.
矢野「あの娘は密輸ダイヤの隠し場所を探すために,あんたに近づいたんだ.」
正木はショックを受けた.
有光「矢野.」
正木はなおも呆然としていた.
佐竹「矢野ちゃんの言う通りだ.全てはそのための芝居だったんだ.」
正木「密輸ダイヤって一体何の話なんだ?」
佐竹「正木さん,あんたはねえ, 密輸ダイヤの運び屋に利用された事があったんだ.」
正木「僕が?」
佐竹「そうだ.あんたはその時から記憶を失っているんだ.」
正木「嘘だ.そんな筈はないよ.あんなきれいな詩を書ける彼女に, そんな事できるわけないじゃないか!」
正木の言葉は絶叫に近かった.
佐竹「出来ちゃったんだよ,それがあ.金に魅せられてな.ま, 女なんてそんなもんだけど.」
正木「違うって言ってるだろう.あんた達は何もわかっちゃいないんだ. 何もわかっちゃいないんだ.いいよ.いいよ.一人で探すから.」
恋は盲目とはよく言ったものだ.正木はそう叫んで出て行った.
佐竹「中年男悲しき恋か.はい,追っかけ人.」
佐竹に肩を叩かれた矢野は正木を追って出て行った.

正木はあちこち歩き回ったが,みさの行方がつかめるはずなどなかった. 正木は走ってきたトラックにぶつかり,そのはずみで壁に頭を打ってしまった. 倒れこむ正木.その時,記憶が鮮明に蘇った.正木は飛行機で帰ってきた後, 羽田空港の外で刑事と出交した.その時, 男Aが正木のトランペットのケースを奪い, 正木を車に乗せて逃がしてやった.そして事務所でトランペットのケースから, 密輸ダイヤの入った革袋を取り出した後,ボスが正木を射殺するよう命じた. 慌てた正木.その時,部屋の明かりが消え,その隙に正木は革袋を奪い, 窓から逃げた.よみうりランドの木の根元に革袋を埋めた後, 正木は落ちてしまったという訳だ.

地下街で正木はみさと出交した.
正木「君.君,随分探したよ.うち行こう.ゆきの奴も待ってるよ.ねえ. ちょっと来て.ちょっと来てよ.」
正木はみさを無理矢理連れ出した.
正木「あのねえ,この前僕が話した話覚えてる? ほら, ヨットに乗って世界一周の話ねえ.あれ,夢じゃないんだよ. あれ現実になったんだよ.あのねえ,三年前ね,僕はねえ, 僕は知らないうちにねえ,密輸のダイヤの運び屋をさせられていたんだよ. それからねえ,僕は殺されそうになってからねえ, 僕の人生は目茶苦茶になっちゃったんだよ.それねえ,思い出したんだよ. ダイヤは僕のもんなんだよ.僕の自由なんだよ.それねえ, 奴等に対する復讐なんだよ.ね.だからねえ.」
みさは立ち去ろうとしたが
正木「ねえ,これでヨットの事が嘘じゃないってわかったろう.ね,後はねえ, ダイヤを売っちゃってねえ,ヨットを買って船出するだけなんだよ.ねえ. きっと素晴らしい旅だと思うんだ.僕はねえ, 毎日ヨットの上でトランペットを吹く.君はねえ,詩を書く.ゆきの奴はねえ, ハーモニカ吹く.これが本当の自由ってもんだ.」
みさは笑い出した.
みさ「あなたってつくづくおめでたい人間に出来てるのね.」
正木「君い.」
みさ「そんなくだらない遊びにあたしが付き合うとでも思ってるの? うぬぼれないでよ.」
正木「君,君も奴等の仲間なのかい? 嘘だろう.嘘だよねえ.」
みさ「帰って.もう二度とあなたの顔なんか見たくないの.」
正木「君.」
みさは正木を突き飛ばして走り去ってしまった.
正木「嘘だ.嘘だ.」
みさは夜の街を泣きながら歩くのであった.

男達は正木を発見していた.
男A「来たな.まず後についている用心棒からやっつけるんだ.」
その結果
矢野「有光さん,すまねえ.正木さん,奴等に…」
有光「正木さんが?」

夜が明けてみさは屋台でつっぷしていた.悲しみのあまり自棄酒を飲んだのだ. そして正木の事で愚痴をこぼしていた.慌ててみさは正木のアパートへ行った. そして正木が未だ帰って来ていない事を知った.

正木を連れ戻すため,みさはボスと接触した. みさは正木に再度接触させてくれと頼み込んだ. 丁度その頃,有光はゆきから,みさが来た事を知った. そのみさはホテルに連れ込まれていた.
ボス「なあんだい,その顔は.君が正木に惚れてるかどうか, 試さなくっちゃなあ.」
ボスはみさを強引に抱き寄せたが,みさは拒否した.
みさ「お願い.正木さんの仕事,続けさせて.」
ボス「その用事はもうないんだよ.今頃奴はなあ,古川橋の例の倉庫で, ドロを吐かされてるよ.色々とねえ,ショック治療と言う奴をやってるんだ. 今に吉報が来るよ.君,金が欲しいんだろ.そんな顔しないで, 一風呂浴びて楽しもうじゃないか.」
みさは頷いた.そしてボスはシャワーを浴びに行った. その隙を見てみさはチャンピオンに電話した.
みさ「正木さん,古川橋の近くの九番倉庫の中です.」
有光「え?」
みさ「それから,あの人の記憶が戻ったんです.早く助けてあげてください. お願いします.」
有光「わかった.君は今どこにいるんだ? もしもし.もしもし.」
みさは電話を切った.その途端
ボス「いい話を聞かせてくれたなあ.正木は記憶が戻っているのか.そうか.」
そしてボスは裏切ったみさを思いっきりぶん殴った.

正木は脅されていた.白を切る正木だったが,ボスがみさを連れて登場.
ボス「君の記憶は戻ったそうだ.この娘が教えてくれたぞ.」
驚く正木.
ボス「さあ.我々をダイヤの隠し場所へ案内してもらおうか.」
みさ「正木さん.もうじき有光さん達がここへ来る筈よ. だからこの人達には教えないで.」
男C(池田力也)「ああ,静かにしろ.」
みさは思い切りぶん殴られた.それを見て
正木「やめろ.やめろ.ゆう事きくよ.案内するよ.」
ボス「よーし,ロープを解いてやれ.」

有光が九番倉庫に着いた時はもぬけのからだった.だが, 佐竹が血で書かれたメモをみつけた.
佐竹「よみうりランド.」

よみうりランドでは連中が正木とみさを連れ込み, 密輸ダイヤを掘り出させていた.物を確認した後
ボス「死んでもらうぜ.」
みさは正木をかばいながら言った.
みさ「待って.あたし,殺されたって構わない. でも正木さんだけは助けてあげて.お願い.」
正木「君.」
ボス「折角だがそうは行かん.」
ボスはみさを正木から引き離した.そこへ有光達が乱入した. たちまち格闘が開始された.倒れていたボスは起き上がろうとした.
正木「君.」
みさ「正木さん.」
二人は抱き合った.ボスが拳銃を構え,みさを狙った. それに気づいた正木は自分がみさの盾になった.正木は二発撃ちこまれた. ボスは有光に倒された.
正木「ああ,有光さん.あなたにねえ,酷い事言っちゃった.御免なさいよ.」
有光「正木さん.」
みさ「許して.」
正木「ゆき.パパ,欲張ったばっかりに.パパが死んだら, お前一人ぼっちになっちゃう.ゆき.」
みさ「正木さん.もし私でよかったら,ゆきちゃんのそばにずっといる.」
正木「本当かい.ありがとう.」
みさ「死んじゃ嫌.私,ヨットに乗る.世界一周するんじゃなかったの? そうでしょ.」
正木「真っ白なヨット.青くて大きな海.僕はトランペットを吹いて, 君が詩を書いて,ゆきはハーモニカを…」
正木はそれを夢見ながら死んで行った.みさはいつまでもいつまでも泣いていた.

翌日.港で有光は革袋から密輸ダイヤを取り出した.じっと見た後, 有光は密輸ダイヤを全部海の中に思い切り投げ捨てた. 海の中にトランペットを吹く正木の姿が浮かんだ. 有光の心の底に聞こえるトランペットの調べ. それは悲しい男の歌であった.その歌を聞きながら, 有光は改めて悪への限りない憎しみを燃やすのであった.

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東平 洋史 E-Mail: touhei@zc4.so-net.ne.jp