深夜.トラックが走っていた.その荷台の中では,
初老の男が口にガムテープをされ,縄で縛られていた.
男のガムテープがはがされ,縄が解かれた.
別の男「追いついてきたな.」
別の男「よし.足持て.」
縛られていた男は道路へ放り出された.気がつく間もなく男は車に轢き殺された.
翌朝.現場検証が行なわれた.
男が道路に急に飛び出してきたと「目撃者」も運転手も主張したため,
その事件は事故として処理された.だが…
チャンピオンに届いた手紙を佐竹が読み上げていた.
佐竹「これは絶対に事故ではありません.絶対に事故じゃありません.
明らかに殺人です.あたしはこの目ではっきりそれを見ました.お願いです,
有光さん.あなたの力で真犯人を挙げてやってください.なお,
同封したお金は謝礼です.差出人…不明.はーん,
有光ちゃんも有名になったもんだねえ.」
有光は黙って笑った.大沼は金の少なさに文句を言っていた.
二万円だったからだ.矢野はガセネタ臭いと睨んでいた.
佐竹「いや,面白半分のガセネタだったら銭は入れねえだろう.
この二万円と言うところに真実味があるよなあ.どう思う?」
有光は何も答えなかった.
大沼「兎に角,これだけって事はないよ.な,取材費って事で,
これに上乗せしてもらえないかなあ.」
佐竹「しっかりまるー.ま,有り金次第だなあ.」
大沼「それなら決まったも同然.ね,何様じゃあるまいし,
そんなに仕事の選り好みしていられないぜ.働かざるもの食うべからず.」
有光は苦笑していた.
街にはサンドイッチマンやピエロ(伊東四朗)が出ていた.有光が歩いていると,
ピエロは有光を呼び止めた.だが有光は無視して行ってしまった.
慌ててピエロは仲間のサンドイッチマンに立て札を渡し,有光の跡を追った.
その尾行は有光にはばれていた.
有光はピエロが隠れるのを見て思わず笑ってしまった.
まず有光は美風荘というアパートへ行った.
そこに被害者武田まことの娘真由美(榊原るみ)が住んでいたからだ.
有光は真由美から武田が事故に遭った理由を訊いた.
真由美「私にもわかりません.いつも車には気をつけるんだよって,
うるさく言っていた父でしたから.」
有光「最近,お父さんの様子に何か変わった事はありませんでしたか?」
真由美「いいえ.いつものように荒川製糖に.
父はそこでガードマンをやってまして.
お人よしで人に恨まれるような事もありませんし,それに臆病で夢があって,
あたしがこんな体ですから,小さな洋裁店をやらせるのが父の夢だったんです.
それでついこないだ,ようやくお金の目処がついたからって父の故郷の松本に,
小さな店を見つけてくれて.だのに,父は…なのに,父は,車なんかに…」
有光は目撃者と運転手に聞き込みを行なったが,知っている事は警官に話した,
と非協力的だった.やはりあのピエロは着いてきていた.
そこで有光はピエロを捕まえ,チャンピオンに連れ込んだ.
ピエロは矢野に押さえ込まれ,大沼に化粧をはがされ,素顔が現になった.
矢野「なぜつけたんだ,有光さんを?」
ピエロ「あんまり利巧なやり方じゃないんで,つい気になって.
あれじゃあ,サツと同じであんまり頼りになりませんよ.」
大沼は気がついた.
大沼「それじゃあ,お前か,あの二万円.」
ピエロ「そういう事になるんでしょうね.(矢野に)痛いなあ,もう.いいですよ.
こうなったらもう何もかも話しちまいます.あたしはねえ,殺された武田さん,
あの人と同じアパートに住んでるんだ.
以前から武田さんには親しくしてもらってたもんで,
それだけに一人残されたあの娘さんが可哀想でねえ.
あんないい娘に悲しい思いをさせてどっかで悪い奴ら,ぐっすり眠ってる.
そう思ったら私は無性に腹が立った.
だからあの娘のために仇討ちがしてやりたいんですよ.」
矢野「お前,武田さんが轢かれるのを本当に見たんだな?」
ピエロ「見た? そりゃまあ,ちゃーんとこの目で見ましたよ.」
大沼「そんじゃ,どうしてサツに言わねえんだ.」
ピエロ「サツ.は,ありゃいけませんや.ガキの時分から,
おまわりとひまわりと遠回りって奴は虫が好かねえんです.へ.へ.へ.へ.」
大沼「は.は.は.は.うまい事いいやがるね,この野郎.」
ピエロは有光に言った.
ピエロ「あんた,凄腕だって評判だけど,こら飛んだ評判倒れだったねえ.」
有光はピエロをじろっと睨んだ.
ピエロ「目撃者も運転手もみんな買収されてあれはグルなんですよ.わかる?
じゃ,あたしはこれで.ね,帽子と鼻返して.」
大沼「おっこってるんだから自分で拾やあいいじゃねえか.」
ピエロ「自分で奪ったんだから拾いなさいよ.」
大沼は帽子と鼻をとってピエロに渡した.
ピエロが出て行くと大沼は悪態をついた.入れ替わりに佐竹が入って来た.
佐竹「今の男は?」
大沼「依頼者だよ,手紙の.」
佐竹「そう.どっかで見たような見ないような…で,どうなんだい?」
有光「佐竹さん,死んだ武田の前科洗ってみてくれませんか.」
佐竹「武田の前科ね.うん.いいよ.
どうやらやっとエンジンがかかってきたようだねえ.」
素顔に戻ったピエロは新宿駅前の立ち売りの売店でこんな見出しをみつけた.
「週刊レディ 結婚シーズンを控えこんな男にご用心!!」「結婚詐欺常習…」
それをみたピエロの男は週刊レディを手に取った.
その中には自分の顔写真と本名の三枝司朗が載っていた.
三枝「おじさん,これ急いで全部.」
慌てて三枝は週刊誌を買い占め,
有害図書を入れる白いポストに買い占めた週刊誌を全部放り込んでしまった.
自分の身元がばれるのを恐れたからだ.
その晩.三枝は真由美のところにやってきてかぼちゃを差し入れた. そして米を研いでいないと聞くと, アグネス・チャンの「ひなげしの花」を面白い節をつけて歌いながら, 米を研いでやった.それを聞きながら真由美は笑うのであった. 余談だが後年この芸を伊東さんは「みごろ食べごろ笑いごろ」等で見せていた.
その頃,佐竹は有光達に新聞の切抜きを渡していた.
それは「荒川製糖の怪事件」という見出しの記事だった.
大沼「荒川製糖怪事件.砂糖ごっそり倉庫は空っぽ.堂々とトラックで運ぶ.」
佐竹「これは未だ犯人が挙げられていない,去年の砂糖パニックの時の事件だが,
この時のガードマンが…」
有光「武田か?」
佐竹「そう.これだけの大事件をやるには中から手引きがなきゃ出来無い.
武田は死んじまったから,死人に口なし.その時,
武田と組んで勤務していたガードマンが山下って言うんだ.どうかね.
手始めにこの山下って男を洗っては.」
有光は頷いた.
有光は荒川製糖に行ってみたが,山下はとっくに辞めていた.
矢野が山下の住んでいたところへ行ってみると既に引っ越した後.
だが新宿の辺りで見かけたという人がいた.キャバレーではいい顔らしいと言う.
そこで矢野は新宿のあるキャバレーへ行ってみた.
バーテンは山下なんて男は知らないと言った.矢野は引き返したが,
バーテンの言葉は嘘だった.矢野は帰り道で四人組に襲われたのだ.
ピンクのTシャツの男(池田力也)「誰かを探してるんだってな.」
矢野は無言だ.
ピンクのTシャツの男「山下を探しているのかい?」
矢野はなおも無言.
ピンクのTシャツの男「俺が山下って言うんだい.何か用かい?」
矢野「お前が山下なら,砂糖を盗まれた時の事を聞きたいと思ってな.」
「山下」の合図で格闘が開始された.最初矢野は善戦したかに見えたが,
四人の一人は空手の使い手で別の一人はヌンチャクの使い手だった.
さすがの矢野もピンチかと思われたが,「山下」のふりあげたピッケルが,
四人のうちの一人の頭に刺さってしまった.矢野は反撃に転じ,
慌てて「山下」達は退散.矢野は怪我した男を問い詰めた.
そして本物の山下の居場所を訊き出した.
山下のマンションに矢野が乗り込むのを四人組の仲間が見ていた.
山下の部屋のドアには鍵がかかっていたが,中からラジオの音が聞こえていた.
矢野は窓から侵入.山下はベッドで情婦とくつろぎながら競馬中継を聞いていた.
矢野はラジオを消し,山下に迫った.
矢野「山下か?」
山下「誰だ,てめえは?」
矢野「倉庫荒らしのうまみを教えてもらおうと思ってな.」
山下は矢野に襲い掛かったが矢野の敵ではなかった.
情婦「やめて.もうやめて.」
山下は白をきり,矢野の鉄拳が何発も飛んだ.
情婦「やめて.言うからやめて.」
矢野「どこだ.」
情婦「野々村興業.」
山下「馬鹿野郎!」
山下は情婦を突き飛ばした.矢野は出て行った.
チャンピオンで.
有光「野々村興業?」
佐竹「なあるほど.野々村なら倉庫屋やってるから,
いくらごっそり盗んでも隠し場所には困らねえってわけだ.」
大沼「そいじゃあ,武田をやったのは野々村か?」
矢野「いや,その辺の事は奴もはっきり知らないらしい.兎に角,
手引きしたのは山下一人だから,
武田が後からかぎつけて何かやったんじゃないかな.」
有光は矢野の方を見た.
大沼「なーに,これだけ揃えりゃ,打つ手ありますよ,ね.
ドーンと一発行きましょう.」
佐竹「ところで矢野ちゃんよ,その山下っておっさん,どうした?」
矢野「いや,俺だってサツじゃねえんだからしょっ引いてくるわけ行かないよ.」
佐竹は大沼の方を見た.大沼も佐竹と同じ考えだった.
大沼「馬鹿.」
佐竹「馬鹿.」
大沼「馬鹿.」
佐竹「ばーか.」
大沼「その山下って奴にもしもの事があったらどうするんだよ.」
と言ってるそばから山下の情婦がやってきた.
情婦は矢野の胸倉をつかんで言った.
情婦「あんた(矢野),あの人を探したりするから行けないんだよ.」
大沼「ほら.」
情婦「あいつのせいであの人,あの人.」
慌てて佐竹が情婦を矢野から引き離した.
矢野「山下がどうかしたのかい?」
情婦「あれから野々村の男達が無理矢理引っ張ってえ…」
矢野「本当か?」
情婦「どうしてくれるのよ.あの人の身にもしもの事があったら.ね,
何とかしてよ.あの人を助けてよ.」
矢野「わかった.」
有光も出て行った.
ピエロの扮装をした三枝が電話を掛けて来た.大沼は,
有光が山下を探しに出て行った事と,
敵の正体が野々村興業である事を話した.
三枝「おい.冗談じゃない.そんな男助けろだなんて俺は頼んだ覚えないぜ.
もたもたしないでとっととその野々村興業に乗り込んでもらいたいねえ.え.
サツに渡す証人?」
大沼「そう.最後は証拠をそろえてサツに引き渡すんだよ.こっちはね,
殺しはやらないの.だからがたがた,がたがた言わないで任せとけって,
言うんだよ.ところでよ,お前さん,あの娘,たぶらかすんじゃないだろうな.」
三枝「何だって?」
大沼「わかってるんだよ,ちゃんと.
お前がおまわりと遠回りとひまわりが嫌いだって理由がな.」
大沼と佐竹はあの週刊誌を既に手に入れていたのだ.
三枝「ほーん,そうかい.それがどうしたっていうんだい.
ああ確かにあたしは結婚詐欺師だよ.口先三寸で女を抱けるし,金も入る.
まあ,ゆう事なしの稼業だよね.しかしねえ,俺はプロだよ.
隣近所の娘に手を出すような汚い真似はしやしないよ.
列記としたプロの詐欺師なんだよ.お宅らみたいにねえ,
相手が手強いと見るとサツにケツ拭かせてみたり,それからだねえ,
依頼者の身元調査に時間潰してるような,
そんなはんちくな野郎とはわけが違うって事だよ.」
大沼「何!」
三枝「いいですかい.有光さんに伝えといてほしいねえ.
悪党なら悪党らしくはっきりしてくれってね.」
三枝は電話を切ってしまった.
大沼「おい.おい.勝手に切んな,この野郎.こっちは未だ切ってねえのに.
ふざけた野郎だな,本当にもう.」
佐竹「じゃ,俺,もうちょい野々村の周り洗ってみるよ.」
そう言って佐竹は出て行った.
有光と矢野は野々村興業をあたっていた.その頃,とぼとぼと歩く三枝を,
真由美が呼び止めていた.そして二人は神宮外苑で話をした.
なぜか真由美は笑っていた.
三枝「真由美さん,何かいい事でもあったの?」
真由美「さあ.」
三枝「じゃあ,当ててみようか.」
真由美「当たるかしら?」
三枝「うーん,(ジェスチャーつきで)彼氏にプロポーズされた.」
真由美「残念でした.さあ,お次は?」
三枝「うーん,降参だな.」
真由美「あら,もう.」
三枝「ねえ.本当になんかあったの?」
真由美「あたしね,諦めたんです.松本のお店.ただそれだけ.」
三枝「お店を?」
真由美「ええ.」
三枝「どうして? お父さんの夢だったんじゃないの?」
真由美「だって,お父さん,お金の都合つけないまんま…今日ね,
向こうの不動産屋さんから買うのか買わないのかはっきりしてくれって,
電話があったんです.それで.」
三枝「何とかもう少し待ってもらえないのかい? ほら,もう一度頼んでみたら?
手付けを打つとか何とかしてさあ.」
真由美「だって,待ってもらっても無駄なんですもん.」
三枝「でも…」
真由美「いいんです.これですっきりしたんですから.あたしねえ,
一つ夢が破れてももう一つ夢があるの.近頃ちっとも寂しくなんかないの.」
そう言って真由美は三枝をじっとみつめた.三枝は目を外らした.
真由美「三枝さん.」
三枝はどぎまぎしてこう言った.
三枝「は.いや,仕事がもう一つ残ってますんで.それじゃあ.」
三枝は芸を見せながら去って行った.
それを見て真由美はがっかりした.
仕事場で三枝は鏡に向かっていろいろと顔を作るのであった.
三枝は野々村興業に乗り込み,野々村と部下の新渡戸に会った.
三枝「買ってもらいたいものがありましてねえ.」
野々村「何? 物は?」
三枝「武田さん殺し.運良く目撃していたものでねえ.」
新渡戸「貴様!」
野々村は新渡戸を制した.
野々村「で,いくら欲しいんだね?」
三枝「500万.」
野々村「ほう.ささやかな要求だねえ.」
三枝「ええ.安いもんでしょう.」
野々村「君で二人目だよ.」
三枝「二人目?」
野々村「前にも君みたいにささやかな要求をした人がいて,
その人の結末は君が目撃した通りだよ.」
三枝「武田さんが.」
野々村「何にしろ,死に急ぐ事はあるまい.」
野々村は不適に笑った.
三枝「私を消してももう遅いんじゃないですか.有光という奴が動いてますから.
ご存知でしょう.」
野々村「ああ,報告は耳にしている.」
三枝「あの男は悪徳刑事で警視庁を馘になった,したたか者だ.
それをまともに相手にしたんじゃ,
ますます向こうに弱みを握られるだけじゃないですかねえ.
あたしがあなただったら,そんな真似はしない.どっちに転んでも分が悪い.
どうです.ここは一つ,この私に任せては見ませんか?」
暫く考えた後,野々村は頷いた.三枝は札束を持って後にした.
新渡戸「あんな奴,信用していいんですか?」
野々村「だから,お前はいつまでも一人立ちできねえんだよ.
今,ここで消せば足がつくじゃないか.一時,金を抱かしてやるだけだよ.
あいつをだしに有光を誘きだす.一石二鳥って奴だな.わかったな.
わかったんなら,さっさとやれ.」
その夜.三枝は捕まり,札束を首からぶら下げられて後ろ手に縛られ,
猿轡をかまされていた.そしてライフルで狙い撃ちされた.慌てて逃げ回る三枝.
そこへ有光と矢野が乗り込んだ.そして三枝を救出した.
三枝「あ,どうも.」
三枝に有光の鉄拳が飛んだ.
有光「馬鹿野郎!」
三枝「違うんだよ.この金は武田さんの娘に渡してやりたかったんだよ.」
有光「真由美さんに?」
三枝「有光さん,武田さんが殺されたのはねえ,
例の砂糖の一件で野々村を強請ったからなんですよ.だけど俺は,
こういう気持ちは良くわかるんだ.
あの時娘に都合しようとして出来なかったもんだから,武田さん,
焦ってたんだよ.だから心ならずも.それが気持ちってもんじゃないですかねえ.
だから俺は,俺が武田さんに代わって.そいつのどこが悪いんですか!」
有光は札束を取り上げて言った.
有光「こんな金で真由美さんが喜ぶとでも思うのかい! え.こんな金で.」
三枝「そらあ,汚れた金だって事はよくわかってるよ.しかし,
あんただってきれい事だけじゃ,この世の中通用しないって事は,
百も承知の筈だよ.」
有光は何も言えなくなった.
三枝「だから,頼む.金返してくれよ.」
有光は札束を返さなかった.
三枝「返してくれよ.」
有光は三枝をぶん殴った.
三枝「へ,へえ.あんた,そんなにお堅い奴だとはねえ.そうですか.
よくわかりました.どうせ力じゃ勝ち目はないんだ.金の事は諦めましょう.
だけどねえ,有光さん.一つだけ,聞いてもらいたい事あるんですよ.
これは金には変えられない,大事なお願いなんだ.
どうか武田さんの事は真由美さんの耳には入れないでください.
これは俺の,真由美さんにしてあげられる唯一つの.
俺は今迄ちゃらんぽらんにしか生きられなかった男ですからね.
真由美さんに会ってからっていうもの,おっかしいやねえ,
いい年こいてべっこうの自分にでくわすなんてよ.け.たくもう.」
それを聞き,去ろうとした三枝に有光は札束を渡してやった.
そして去って行った.
三枝「有光さん.」
有光は,三枝が真由美に対してやろうとしている事が,
自分が杏子に対してやっていた事と同じである事に気づいたのだ.
そんなある日.山下の死体が発見された.「車にのって電柱に激突した」のだ. その一報が佐竹からチャンピオンに掛かってきた. 胸騒ぎを感じた有光は三枝のところへ行ってみた. だが三枝は帰っていないらしく,牛乳瓶がドアの前に置かれていた. 真由美の話では前の晩から三枝は帰っていないという. 早速有光はチャンピオンに電話し,矢野を呼び出した. 三枝は消されたのかもしれない…
しばらくして真由美が外へ出てみると帰ってきた三枝とでくわした.
三枝は真由美に言った.
三枝「そうそう.有光さんがびっくりするようないい話があるんだ.」
三枝は真由美に登記簿を見せた.名義は真由美のものになっていた.
三枝「全く酷い不動産屋だったよ.私が行かなかったらまんまとだまされて,
お父さんのお金,パーになるところだった.」
真由美「え?」
三枝「いやあ,とっくに払ってたんだ,お父さん.内緒にしてるなんて,
きっと何か魂胆があったんだろうけど.」
と言って三枝は武田の遺影を見た.そう.
三枝はあの金で松本の店を買ってやったのだ.
三枝「真由美さん,そうだ.これ.私,何もできないんで,これがお祝いです.」
三枝が渡したのは松本までの切符だった.
三枝「お店,早く見たいんじゃないかな.明日の朝の切符買って来ちゃった.」
真由美「三枝さん.」
三枝「いやだなあ,そんなにかしこまっちゃ.僕困っちゃう.じゃ,これで.」
三枝は出て行く時,ドアに頭をぶつけてしまった.
そうとは知らない有光と矢野は野々村のところに乗り込み,
三枝の居場所を聞いた.野々村が知る由はない.
だが野々村は新渡戸に電話させた.
野々村「新渡戸か.俺だ.お前に預けてあるお客さんをな,
中野の廃工場にお連れしろ.あ.ああ,迎えの方をご案内するからな.
わかったか.」
チャンピオンに矢野が足を怪我して戻ってきた.
有光は一人で三枝を受け取りに行った.そこへ三枝がやってきた.
驚く大沼と矢野.三枝は松本まで行った事を話した.そして三枝は矢野から,
有光が三枝を引き取りに中野の廃工場まで行ったと聞き,怪訝な顔.
矢野「罠だ.畜生.」
矢野は立ち上がろうとしたが,大沼に止められた.その間に三枝は出て行った.
何も知らない有光は野々村を盾に取り,中野の廃工場に乗り込んだ.
野々村は有光に自分の所で働けと誘った.話はついたと野々村は叫んだが,
聞こえたのは新渡戸の高笑いだけ.
新渡戸「社長.あんたはおめでたい人だなあ.
ここにいる有光と一緒に死んでくれるなら,一石二鳥って奴だ.」
野々村「新渡戸.貴様.」
新渡戸はマシンガンを野々村と有光にぶっ放した.慌てて有光は逃げ,
野々村は蜂の巣になって絶命.
新渡戸「出て来い.隠れても無駄だ.」
有光は隠れるのが精一杯だった.その時,三枝がやってきた.
有光「やめろ.やめろ.」
だが三枝はフクロウの物真似をしながら出て行った.
そしてマシンガンで狙われ,慌てて別の場所に隠れた.
新渡戸が三枝を狙う.有光は新渡戸の背後に回りこんだ.だが三枝が撃たれた.
有光は反撃に転じ,連中に立ち向かった.大沼も加勢し,連中は倒された.
有光は三枝を抱き起こした.三枝は腹を撃たれていた.
三枝「ああ.平気,平気.ピエロに失敗はつきもんだよ.」
三枝は笑ったが,すぐに倒れてしまった.
その日のうちに三枝は桐ケ丘病院に運ばれた.有光は三枝を看病した. 三枝は真由美の夢を見ていた.
翌朝.有光は同じく入院していた矢野と一緒に三枝の病室へ行った. だが三枝の姿はなかった.
その頃,新宿駅で真由美は足をひきづりながら,特急あずさに乗り込もうとした.
手には武田の遺骨を持っていた.階段で有光はピエロの扮装をした三枝を発見.
三枝ははいつくばって階段を上がろうとしていた.有光は三枝を抱き起こした.
有光「三枝さん.」
三枝「ああ.精一杯,めかしこんできたつもりなんですよ.は,は,は.」
有光「馬鹿な奴だ.」
有光は三枝を助け起こし,ホームへと連れて行った.
三枝の気持ちがわかったからだ.
三枝を見つけた真由美は喜んでドアのところまで来た.
真由美「三枝さん.」
三枝は腹を押さえていた.
真由美「どうなさったんです?」
三枝「いや,食べ合わせが悪くって,このざまですよ.」
真由美「三枝さん.あのお店,本当は…」
三枝「何です?」
真由美「あたし,御一緒に行って頂けたらって,そう思ってたんです.」
三枝「え!」
三枝の顔が苦痛にゆがんだ.だがその後,三枝は二回,頷いた.
じっとみつめる真由美.その時,ドアが閉まり,あずさ号が発車した.
手を振る真由美.手を振る三枝.有光は三枝を抱き起こしてやった.
あずさ号が新宿駅を出た.と同時に三枝は倒れこんでしまった.
有光「三枝さん.三枝さん.」
何も知らない真由美は手を振っていた.悲しき愛を全うし,息絶えたピエロ.
その安らかな頬笑みはまさに有光への愛の鎮魂歌であった.
「白い牙」へ 「サブタイトルとキャスト」へ 「スタッフ」へ 「私の好きなテレビ番組」へ 「touheiのホームページ」へ戻る.