第九回

草刈の要請で拳銃密売組織を叩き潰す.
トラブル買います

脚本:松田寛夫 監督:帯盛迪彦

男が腹を押さえながら走っていた.腹には怪我を負っており,出血していた. 男は地下道に追い詰められ,地下道の入口近くで三人組の男達に刺し殺された. 男は二人の浮浪者に助けを求めたが, 三人組の一人岸(黒部進)にとどめをさされた. 殺された男は警察手帳を持っていた.
弟分田中(中村文弥)「くっそう,やっぱし,犬じゃないか.兄貴,やばいぜ.」
岸「ガタガタするんじゃねえよ.」
岸は警察手帳を殺された男の懐に戻し,浮浪者達にこう言った.
岸「おう.お前ら命が惜しかったらつまんない事喋るんじゃないぞ. いいな.」
その剣幕に押され,浮浪者達は退散.男達はシシリアンと言うスナックに入った. そしてボス(天野新士)に報告した.
岸「社長,やっぱりサツでしたよ.」
ボス「やったのか.」
岸「ええ.」

翌朝.草刈達は殺された男小松を検分していた. 草刈は白い布を顔に掛けてやった.
草刈「後,頼むよ.」
唐橋「は.」
草刈は思い出していた.半年ほど前から全国の暴力組織に大量の拳銃が流れ始め, そのルートをたどっていた小松刑事は遂に拳銃密売グループを突き止めたのだ.
小松「課長,お願いします.私を潜らせて下さい.」
草刈「いかん.あまりにも危険だ.」
小松「しかし…」
草刈「連中をあまり甘く見てはいかんと言ってるんだよ.」
小松「しかし,課長,折角ここまで追い詰めたんです.もう一息, もう一息で奴等の組織を根刮ぎ出来るんです.課長.課長!」
結局,草刈は小松の潜入を許し,その結果,小松は死んでしまったのだ.

その頃,悪夢のような有光との愛憎の葛藤に疲れ果てた杏子は,全てを諦め, 郷里へ帰ろうとしていた.有光は新宿駅で杏子を見送った. おそらくはこれが永遠の別れであった.しかし有光もまた引きとめる術も無く, 見送るしかなかった.杏子を愛するがゆえに, 杏子の兄村木こそ悪徳刑事だったのだ, 俺を殺そうとしたのは実は村木の方だった,とは,やはり言えなかった. 有光は改めて同僚刑事殺しの悪徳刑事という謂れ無き十字架を, 自ら永遠に背負って生きる事を選んだのだった. 杏子を乗せた特急あずさ号は出発した.全てを失った有光. もはや有光には失う物は何もない.荒涼とした彼の心にやり場のない怒りだけが, 激しくうず巻いていた.

有光がアパートに戻ってみると,そこには草刈がいた.
草刈「悪いとは思ったが管理人に頼んであがらせてもらったよ.」
有光「私に何の用ですか?」
草刈「小松が死んだ.」
有光は黙って草刈を見た.
草刈「いや,正確には消されたと言うべきだろう.私が殺したようなもんだが. ある大掛かりな拳銃密売組織に潜り込ませたのだ.しかし, いかに変装を凝らしても刑事にはどうしても消せない刑事特有の臭いがある. やっぱり奴等の目を誤魔化す事は出来無かった.だが君なら既に刑事じゃない. また過去に刑事であった事がばれたとしても…」
有光「警察を追われた悪徳刑事だったら,少なくとも犬とは疑われずに済む, わけですな.」
草刈「そういう事だ.連中に接近し, 連中の組織を暴く事が出来うる者がいるとしたら, 君を置いて他にない.」
有光「使い捨ての鉄砲玉ですか?」
草刈「どう解釈しようと君の勝手だ.ただ私は連中の組織を叩き潰したい. その為には君の力を借りるしかない.それだけだ.」
有光は草刈の方をみた.
草刈「もちろん,現在刑事でもなんでもない君にこうして頼む以上, 相応の謝礼はする.」
草刈は札束を出した.有光はしばらく考えていたが
有光「いいでしょう.丁度私も誰彼相手かまわず, ただ無性に暴れたい気分だった.しかしやる以上は, 私のやり方でやらせて貰いますよ.」
草刈は肯いた.
草刈「だが殺人だけはいかんよ.」
二人は黙って見合った.
有光「私はどうやら課長,見損なっていたらしい. 血も涙もない法律のロボットだと思っていた.」
草刈「私もどうやら君を見損なっていたようだなあ.」
有光「いや,私は正真正銘の札付きのデカ崩れですよ.」
有光は札束を受け取った.
有光「課長のポケットマネーですか.安月給で随分無理しましたねえ.」
そういうほど,お札の枚数は多かった.

さてチャンピオンでは大沼,矢野,佐竹,そして明子がいた.
明子「馬鹿よ.愛し合っているのに別れるなんて.」
矢野「そんな事言ったっておめえ,ま,色々あるんだから.」
大沼「全くねえ.有光さんもどうなっちゃうのかなあ. 下手すりゃずるずるっとこのまま駄目になって,ルンペンで野垂れ死にだぜ.」
そこへ
有光「ルンペンで野垂れ死にか.いやにはっきり仰ってくれたもんだなあ.」
有光がやって来た.慌てて大沼は誤魔化した.
有光「お前さん,いつか悪い奴等を叩き潰して銭になるんだったら, 命張っててもいいって言ってたなあ.」
大沼「ええ.」
有光「今でも?」
大沼「そりゃ,有光さんと一緒だったらどんなやばい仕事でも平気ですよ.」
有光はポケットから札束を出した.皆,驚いた.
有光「何もそんなに驚く事はないぜ.前払いで頂いてきた銭なんだ.」
矢野「よーし,俺はやるぜ.うずうずしてきた.」
大沼「有光さん,これだけで仕事引き受けるんですか?」
佐竹「それじゃあ,俺が預かっといてやるよ.四人で遊んでぱあっと騒がないか? 駄目だったって報告書,俺が書いてやるからさあ.」
大沼「駄目だよ.これは店の修理代に回すんだよ.」
佐竹「しっかりしてんなあ.」
というわけで四人は乾杯.かくして事件屋は開業した.

大沼と矢野はチンドン屋に扮装.ちなみに大沼は女装していた. 佐竹は「ノンフィクション犯罪シリーズ」と称して, 拳銃密輸の手口を調べたいと貿易商やゲームセンターで聞き込みをしていた. 殴られそうになった佐竹は外に出た.そこに大沼と矢野が登場. 佐竹をさりげなく助けた.
大沼「あ,ごめんなさーい.あたし,なんか悪い事しちゃったかしら.」
矢野「あ,これはどうも,失礼さんでござんす.」
大沼「いくわよ,いくわよ.ちゃちゃん,はい.♪本日五時から開店よ〜 今日のパチンコ五時からよ〜あ,五時から開店,五時なのよ〜」

密輸ルートを探している者がいるという情報はボスにも伝わった. 佐竹を尾行する者が現れた.だが尾行者は気づいていなかった. 自分が大沼と矢野に尾行されていた事を.
大沼「は,は.野郎,まんまと釣り出されやがったぞ.」
佐竹は公園のブランコでのーんびりしていた.尾行者は物陰から覗いていた. そこへ
大沼「びっくりする事はねえよ.おめえは罠にかかったんだからよ.」
男「なんだ,てめえら.」
矢野「ハジキの一件よ.気になってつけてきたんだろう.え.」
男は逃げようとしたが矢野にボコボコにされた.

ボス「何,川上がさらわれた?」
弟分B「通りかかったチンピラが報せてくれたんでえ. 何でもチンドン屋が二人がかりで車に押し込んで…」
岸「くっそう,サツか.」
田中「サツだったらやばいぜ.」
ボス「どたつくんじゃねえ.」

佐竹を尾行した男こと川上は矢野にぶん殴られていた.
矢野「さあ,吐いてもらおうか.」
佐竹「どんな具合にハジキをさばいてるんだ.俺達はサツじゃない. 黙秘権は通用しないぜ.」
大沼「嫌な仕事だけどまた痛めつけないといけないかな.」
佐竹「さ,どうぞ.」
また矢野は川上をぶん殴った.
川上「待ってくれ.知らないんだ. 俺達下っ端はハジキの取引には関係してねえんだ.」
佐竹「じゃ,誰が関係してるんだ?」
川上「しらねえ.」
大沼「潜り込んだデカを殺したのもお前達だろう.」
矢野「どうなんだよ.」
矢野は川上を足蹴にし,またぶん殴った.その時, 川上が懐からライターを落とした.
佐竹「おう,下っ端のくせに洒落たもん持ってるじゃないか.舶来もんだ. 5万はするぜ.頂いといたら.」
佐竹は矢野にライターを投げ渡した.大沼は鉄パイプを取り出した. 矢野はその鉄パイプを捻じ曲げた.これを見て川上は顔面蒼白になった.

その夜.有光が例のスナックにシシリアンに入ろうとしていた. ボスは報告を受けていた.川上は罠に掛けられたに違いない. 流れ者のチンドン屋が現れたのは1週間前.丁度その頃から, ブン屋がハジキの事を聞きまわっていた. しかも川上をさらった車を運転していたのが,どうやらそのブン屋らしい. その頃,シシリアンの中に有光が入り込んでいた. 有光は川上の持っていたライターでタバコに火をつけ,カウンターに置いた. バーテンはしっかりとそれを見た.そして事務室に入り,ボスに報告した. ボスは田中に警視庁の刑事のリストを出させたが, その中に有光の写真はなかった. だがリストになくてもサツじゃないとは決められない. ボスは有光を締め上げる事にした.まず他の客を閉店と称して追い出した.

さて向かい側の店には大沼,矢野,佐竹の三人がいた.シシリアンを覗きながら
佐竹「いよいよ幕開きだな.」

有光は連中に囲まれた.有光は警察手帳を持っていなかった.
ボス「貴様,何者だ.」
有光は答えなかった.田中はサツに決まってるとびびりまっくったが, ボスに「うるせえと一喝された.」
ボス「何者だときいてるんだ.」
有光「物分りの悪い野郎だなあ.そろそろ察しがつきそうだと言ってるのさ.」
ボスは有光をぶん殴った.
ボス「貴様.」
有光「やっと思い出したようだな,里見.」
ボスこと里見は5,6年前,有光に酷い目に遭わされた事があった. それを聞き,岸の顔に緊張が走った.
里見「もっとも今はデカじゃねえ.汚え真似をしてサツを追い出された. 薄汚え野良犬だよ.」
有光は不適な笑みを浮かべた.
岸「じゃあ,サツの犬か.」
里見「サツの方でこんないわくつきの奴,使うわけがねえ.」
岸「デカでもねえし犬でもねえとすると…」
里見「決まってるじゃないか.餌をかぎつけて横取りに来た事件屋だよ.」
有光「まあな.川上は俺の仲間が押さえてる.生きて帰って欲しけりゃ, ハジキのルートをこっちに渡しな.」
だが答えは
里見「なめるんじゃねえぞ.そんな脅しが利くような俺じゃねえ.」
有光「じゃ,川上が死んでもいいというのか.」
里見「奴をどこへ連れ込んだ.」
有光「だから言ってるんだ.ハジキのルートを渡したら,返してやるってな.」
里見「貴様の言いなりになるか.おい.こいつの体に直接聞いてやれ.」
有光「そんな事をしてもいいのかい.川上が死ぬだけじゃねえ. 俺達のバックには西の方のでけえ組織がついてるんだ.面倒な事になるぜ.」
里見「馬鹿野郎.はったりかましやがって.この野郎に喋らせるんだ. 洗いざらい喋らせるんだ.」
有光は連中にボコボコにされていた.

佐竹達は様子をうかがっていた.有光は抵抗もせず, 連中のされるままにされていた.だが拷問には屈せず,有光は何も喋らなかった. 遂に有光は気絶してしまったかのように寝転んでしまった.連中は拷問をやめ, バーテンを残して事務室へ戻って行った.里見は有光が息を吹き返したら, 有光を再度拷問しろと命じていた.だが有光は気絶してはいなかった. 気絶した振りをして様子をうかがっていたのだ. 有光が「息を吹き返さない」ので,遂にバーテンは根を挙げ, 椅子に寝そべってしまった.里見は情事を開始.佐竹は時計を見た. 有光も時計を見た.里見は拳銃を隠し金庫の中に納れた.時刻は4時. 佐竹達は店を出た.有光は立ち上がり,バーテンを倒し,裏口の見張りを倒した. そして有光は裏口から佐竹達を引き入れた.
矢野「おい,大丈夫か.」
大沼「随分,やられたなあ.」
そして有光達は事務所に乱入.その物音に里見が気づいた.事務所では
有光「ハジキの密輸ルートは.え?」
有光は岸をボコボコにした.
有光「どうやって密輸してるんだ.」
岸「しらねえんだ.社長しかしたねえんだよ.」
有光「社長,どこにいる?」
岸「上だよ.」
有光は佐竹達を制止し,自分独りで上に向かった.

有光の登場に里見は驚いた.有光は里見に襲い掛かった. 里見は隠し金庫から拳銃を出そうとしたが,有光に阻止された. 里見は窓を割って外へ逃げたが,有光もまた窓から外へ出た.逃げる里見. 追う有光.里見はビルの非常階段を駆け上がり,屋上へ逃げたが, 有光に追いつかれた.そこで里見は建築中のビルへ飛び移った. 有光も鉄骨だけのそのビルへ飛び移った.鉄骨の上で格闘が開始された. だが里見は有光にはかなわず,両手で鉄骨につかまる羽目になった.
里見「助けてくれ.助けてくれ.な.助けてくれえ.助けてくれ.」
この時,画面が変わって下から有光と里見が映し出された.凄い高さだ. 必死につかまり,「助けてくれ」と連呼する里見.有光は無言だ.
里見「助けてくれたら儲けを貴様と折半にしてもいいんだ.」
だが有光は無言だった.
里見「ハジキの商売,お前と一緒にやってもいいんだ.」
有光「貴様と一緒に仕事する気はねえ.」
里見「何? 事件屋のくせしやがって.」
有光はにやりと笑った.やっと里見は有光の真の狙いに気がついた.
里見「貴様.くっそ.」
里見は片手を離してしまい,慌てて掴まりなおした.
里見「貴様,サツの犬か.」
有光「そこまでわかったのなら, デカ殺しの一件もてめえが黒幕だと吐くんだな.」
里見「くっそう.犬.ぶっ殺してやる.」
だが里見は落ちないようにつかまるのがやっと.里見は「助けてくれ」と連呼. 有光に助け出された時は里見の腰は抜けていた.そこへパトカーの音が.

連中は連行された.
草刈「これからどうする?」
有光「まあ,気が向くまま,適当に生きて行きますよ.」
草刈「また会おう.」
有光は去って行った.草刈は有光の背中をずっと見ていた. 有光に大沼と矢野が合流した.そこへ唐橋がやって来た.
唐橋「誰ですか,あれ.」
草刈「いや,なんでもない.」
唐橋「しかし驚きましたな,課長. あれほどしたたかな連中が密輸ルートはおろか, 刑事殺しの一件まであっさり吐いてしまうなんて. それにしてもさっきの放れ込みの電話,誰だったんですかねえ.」
草刈はそれには答えず去って行った.

佐竹は赤電話で電話していた.
佐竹「大丈夫.絶対に間に合わせま…午前中にいれますよ,はい. それよりもね,はーん,さすが編集長,そのスクープ賞ってのが欲しいんですよ. はあ,はあ,それいくら? え! けちー.そんじゃ, このネタ全部よそに売っちゃおうかなあ.はい,はい,はい,はい.それじゃあ, それで手を打ちましょう.それじゃあ,後ほど.」
そこへ有光達が通りかかり,矢野が佐竹の肩を叩いた. 有光達4人は早朝の新宿のビル街を歩いた. 悪との闘いは刑事崩れ有光洋介が失われた愛に捧げる唯一の挽歌なのだ.

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