有光は港で荷物を運んでいた.そして思い出していた.
杏子の声「兄さんが死んだの,事故だったのね.信じてもいいのね,あなたを.
信じたいのよ,あたし.」
有光は思い出していた.二人が情事を行なった時の事を.あの時,
二人はお互いの心の溝を埋めようと求め合ったはずだった.しかし,
その結果残った物は,より一層深い亀裂と虚しさだけだった.
そんなある日.有光は京王線の踏切で,
飛び込み自殺をしようとする女(続圭子)を助けた.
落ちていた女の荷物を拾った時,有光は女と女の夫と娘が写っている写真を発見.
有光「奥さん,お宅迄送りしましょう.」
女はそっぽをむきながら答えた.
女「大丈夫です.一人で帰れますから.」
女は有光から荷物を受け取り,帰って行った.
チャンピオンで有光は杏子の事を思い出していた.大沼が何度も有光を呼んだが,
有光はなかなか答えなかった.大沼は有光に気晴らしをする事を勧めた.
大沼「ねえ,有光さん.もしよろしかったら明日の午後一時,
プレジデントホテルの223号室へ行ってみませんか?
気晴らしには持って来いの遊びがあるんですがねえ.」
明子「あら,遊びってどんな事? あたしも行きたいわ.」
大沼「いえ,あのう,女の子には関係ないの,これは.」
大沼はポケットからお札を何枚も出した.
大沼「はい,軍資金.もちろん利子はばっちり頂きますよ.」
以上のやり取りから,その遊びがどんな種類の物か,
有光にはおよその見当がついていた.しかし杏子を忘れようという気持ちが,
有光を足をそのホテルへと向けさせる事となった.
その部屋にいたのは,あの時自殺しようとしていた主婦だった.
有光「あなたは!」
女は逃げ出そうとしたが有光に捕まった.
有光「奥さん,どうしてあなたが.」
だが女は「放して」と繰り返して去って行った.
そして女はビルから飛び降り,自殺した.有光は考えていた.あの時,
あの人妻はどんな思いで死を選んだのであろうか.
そしてどんな思いで部屋を飛び出したであろう.有光は佐竹を呼び出した.
佐竹が調べた結果でも,女の死は自殺に間違いなかった.目撃者もいたし,
遺書もあった.遺書の文面は「理由も申し上げず先立つ不孝をお許しください.
この6年間本当に幸せでした.みえの事,どうかよろしくお願いします.」
有光が責任を感じているように見えたので
佐竹「お前さんが殺したと思ってるんだろうけど,そら考えすぎだ.
ヒーローぶるのもいい加減にしろ.女は前にも自殺を図ってるんだ.
て事は女を自殺に追いやる決定的な原因が他にあるってことだよ.
そっちに的は絞るべきじゃないか.」
なおも有光は無言だった.
佐竹「うじゃうじゃ考えるのは村木刑事の一件だけで充分だよ.」
さらに佐竹は言った.
佐竹「俺が取材費出すから,アタックしてみないか? え.有光君よ.」
例の主婦が自殺した記事を見て
大沼「へえ,人妻だったとは驚きですねえ.」
有光「な.」
大沼「へ?」
有光「あんたには迷惑はかけない.だから教えてくれないか.」
大沼「教えろって何をです?」
有光「あの女の裏さ.」
大沼「裏?」
有光「ああ.」
大沼「いやだなあ,誤解しちゃあ.俺は何にも知りませんよ.いやね,
矢野と二人でバーへ呑みに行ったんですよ.
そしたら知らねえ奴から電話が掛かってきてね.」
有光「電話?」
大沼は肯いた.
有光「ええ.俺も矢野もそういう気は全然ないんですよ.
でも面白そうだからからかってやろうと電話出た.そしたら,どうです.え.
場所と時間を指定してきたんですよ.」
その夜から僅かな手がかりを元に有光の活動が開始された.
だが1週間が過ぎても大沼が話していた男からの接触はなかった.
その上,淫靡で虚飾に満ちた夜の世界は有光にとって耐え難い物であった.
そんな有光の気持ちを支えたのは死を選ばざるを得なかった,
郁子の背後に感じられる犯罪への暗い怒りであった.有光は気づかなかったが,
そんな有光をマークする男がいた.ついに有光に電話がかかってきた.
男「有光さんだね.」
有光「どうして俺の名前を? あんた誰だ?」
男「そんな事より,ホステスなんか相手にしててもつまらんでしょう.
良かったらこのあたしが面白い遊びを紹介してあげましょうか?
明日の午後二時,プレジデントホテルの513号室へ行ってみてください.あ,
お代の方はそこで結構ですよ.」
電話は切れてしまった.
翌日の午後二時.有光はプレジデントホテルの513号室に寝転び,
タバコを吸っていた.そこへ女がやってきた.有光は女に金を渡した.
女は服を脱ごうとしたが,有光は「いいんだ」と制止した.
有光は急用を思い出したと言って部屋を出た.仕方無く女は部屋を出て,
駐まっていた車の中にいた男から金を受け取った.それを有光はしっかり見た.
車が発進した後,有光は女に話を訊こうとしたが,女は逃げ出した.
有光は強引に女を捕まえ,女の家で話を訊いた.女は夫が交通事故に遭い,
お金に困っていた.そこで時々来るアクセサリーのセールスの人から,
金を借りたのだ.ところが利息がとても高くて返せなくなり,
それをネタに脅迫されたのだ.有光がセールスの人の名前を訊こうとした瞬間,
電話が掛かってきた.それは男からの電話だった.
男「坊やは遊んだかい.交通事故にはせいぜい気をつけるんだな.」
女は慌てて外へ飛び出した.そして女と有光の顔面で女の息子ただしが,
車に轢かれそうになった.これは組織からの脅迫だった.
そのため女は話す事を拒否.有光を追い返してしまった.
有光は自殺した郁子の夫(田畑孝)からアクセサリーのセールスの人の事を尋ねた.
二ヶ月前に郁子を訪ねて来た事があったと言う.
セールスの人は郁子の昔の友人と称していた.名前は秋山香代.
郁子の夫「あのう,つかぬ事を伺いますが,
家内の自殺とその人となんか関係でもあるんでしょうか?」
有光「いや.」
郁子の夫「家内の様子がそれ以来,急におかしくなった物ですから.」
有光は郁子の遺児みよを見た.みよは「おかあさん」の絵を描いていた.
有光が調べた結果,秋山香代と言う装飾品をセールスしている女(川村真樹)は,
確かに実在していた.有光は秋山を徹底的にマークする事にした.その結果,
郁子達の他にも多数の人妻が様々な手段で脅迫され,
売春を強要されている事実がわかってきた.そしてその中には,
夫から離婚されたため自殺を図った者,子供を道連れに無理心中をした者さえ,
いた.今日も有光は秋山をマークしていた.新宿で突如秋山が走り出した.
秋山を追って路地へ入り込んだ有光は怖いお兄さん3人に出くわした.
格闘が始まったが多勢に無勢.有光は拳銃で狙われた為,手が出せず,
ぼこぼこにされた.その中には夜の街で有光をマークしていた男もいた.
男「あんた同僚を殺した悪徳刑事だってな.それが今じゃあ,薄汚え野良犬か.
面を見てるだけで嘔吐が出るぜ.
どうせ甘い汁を吸おうってつもりだったんだろうが,そうはいかねえよ.」
有光は男に蹴飛ばされた.
別の男「俺達を嗅ぎ回るのもいい加減にしな.さもねえと今度は命がねえぜ.」
重傷の有光を置いて男達は去って行った.
その夜.有光は知らず知らずのうちに杏子のアパートの前まで来ていた. 杏子は重傷を負った有光を見て驚き,救急車を呼ぼうとした.だが, 有光はそれを制した.
早速その報せが杏子から佐竹に伝わった. 佐竹は「仕事は俺がバトンタッチするから」と有光に伝えてくれと杏子に頼んだ. 佐竹は有光からあらかじめ聞いていた秋山香代を徹底的にマークした. そしてその結果,秋山がかつてコールガールであった事を突き止めた.
一方,意識を回復した有光は村木の写真が飾られているのを見て,
うめき声をあげた.そのうめき声を聞いた杏子は村木の写真を隠した.
有光は自分が無意識のうちに杏子のアパートへ来ていた事を知った.
そしてそんな自分の弱さを見て無性に腹が立つのであった.
有光「すまない.」
杏子「一体何があったの? ね,わけを言って.」
だが有光は答えようとしなかった.
杏子「あたしにも言えないような事なのね.」
有光は立ち上がり,歩こうとしたがよろけてしまった.
杏子「動いちゃ駄目よ.後の事はね,佐竹さんが引き受けるって.」
有光「ここにいるわけにはいかないんだ.」
有光は出ようとしたが倒れてしまった.
杏子「洋介さん.」
有光「放してくれ.」
だが有光はまた倒れてしまった.
佐竹から秋山香代の事を聞いた大沼は秋山の事を憤った.
佐竹は秋山香代が手先に過ぎない事をつかんでいた.悪いのは背後にいる組織だ.
矢野は秋山を締め上げる事を提案したが
佐竹「無駄だな.証人がいなければとぼけられるのが落ちだ.」
大沼「証人かあ.誰かいねえかなあ.」
佐竹「いれば苦労しないさあ.」
それを聞いた矢野はとんでもない作戦を思いついた.
矢野「明子.やってくれるね.」
大沼「矢野.お前,気でも狂ったのか?」
矢野「でも俺は有光さんに借りがある.その借りを返すためなら.」
大沼「馬鹿野郎.何を古い事言ってるんだよ.おい.
いくら借りがあるからったってなあ,自分の女房…やめな,あきちゃん.」
だが明子の答えは
明子「いいわ.あたし,どんな事でも平気.う,うん.本当よ.」
矢野「明子.」
そして作戦は実行に移された.美容院で愚痴をこぼす明子.
亭主がグータラで金がないと.その横には秋山香代がいた.
早速秋山が接触してきた.そして組織の者から電話が掛かってきた.
その日の午後三時,リバーサイトホテルの342号室へ来いと言うのだ.
早速明子はリバーサイトホテルの342号室へ行った.明子は知らなかったが,
中にいた男はあの時有光をマークしていた男だ.明子は売春を拒否.
男「化けの皮がはがれたな.俺達を甘く見てもらっちゃ困るぜ.」
男は明子を殴り,誰に頼まれて接触したかを訊いた.そこへ矢野と佐竹が登場.
矢野は男を思いっきりぶん殴った.佐竹は矢野を制止.抱き合う明子と矢野.
佐竹「さあ,おめえさん達のアジトへと案内してもらおうか.」
だが男は不適に笑った.後ろに有光をぶん殴った二人が登場したからだ.
形勢は逆転した.
その頃,杏子は食事を作っていた.それを見て有光は思った.
あの忌まわしい事件さえなければ,
杏子とのこんな生活が現実の物となっていた筈だと.が,
それは許されない事だった.有光はベッドから起き上がり,
また外へ出ようとした.
杏子「洋介さん.無理よ.」
だが有光は出て行った.独り残された杏子は哀しい気持ちでいっぱいだった.
チャンピオンで大沼がイライラしているところへ有光がやってきた.
そして有光は佐竹と矢野と明子から連絡がない事を知った.
それを聞いた有光はチャンピオンを出て,
既に突き止めていた秋山香代のアパートへ急行した.
そこで有光が見たのは秋山香代の首吊り死体だった.さらに
男「やっぱり来たな.」
有光「貴様がやったのか?」
男「は,は,は,は,は.人間一度へまをすれば後が続く物さ.
さあ,来るんでえ.」
そこへ大沼も登場.形勢は逆転した.大沼と有光は組織のアジトへ向かった.
アジトは高級住宅街の一角にあった.ボスの横岡(外山高士)は, 昔香代のヒモをしていたやくざだった.だが悪知恵の働く横岡は, 人妻の売春組織を作り,香代を使ってちゃくちゃくと組織を広げて行った. そしてその人妻達から搾り上げた金で豪奢な暮らしをしていたのだ. 車が来たのを見て,有光をマークしていた男は仲間が帰ってきたと判断. 佐竹と矢野と明子を連れ出す準備をしようと横岡は命じた. 一方,有光は男を盾にして侵入を図った.だが男は横岡に撃ち殺された. その隙に佐竹は縛られている矢野のロープを噛み切った. 遂に有光と大沼は横沢の部屋に侵入.矢野も加勢したが,横岡は明子を盾にし, 外へ出た.有光は窓から外へ出た.横沢は車で逃げようとした. 横岡は連れてってくれと頼む部下も轢き,発進. だが有光によって門は閉められており,車を止めざるを得なかった. 逃げ回る横岡は自分が轢いた部下に撃ち殺され,その部下も横岡に撃たれ, 相撃ちに.有光達は明子を救出.そして有光は横岡の背広から手帳を取り出した. その手帳には彼らが食い物にして来た名前が並んでいた. つまりこの手帳だけが彼らの犯罪を裏付ける唯一の証拠であった. 有光はその手帳を懐に入れた. 翌日の新聞は暴力組織の縄張り争いから派生した抗争事件であると断定. 脅迫による主婦売春を探り当てた物は一紙もなかった.
チャンピオンで有光はメモを焼き捨てていた.
佐竹「有光君よ,お前さん,被害にあった女達を守る為に,
あんな細工をしたんだろう.」
矢野「なるほど.事件が明るみになりゃ,こいつらにしゃぶられた奥さん達は,
警察に挙げられ,家族も白い目で見られるってわけだ.」
大沼「正に大岡裁きってとこだな.」
大笑いする大沼.
有光「いや,偶然,ああなっただけですよ.」
そう言って有光は去って行った.
大沼「あれ,有光さん.」
佐竹「これで特種を逃したって事になるのか.」
明子「それは毎度の事です.」
佐竹「そらないでしょ,奥さん.」
一同,大笑いするのであった.
それから数日経って郁子の夫と子供の新しい生活が始まっていた. だが有光に新しい生活はない.有光には孤独で虚しい旅が続くだけだ.
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