第二回

冤罪事件の真相を暴く.
東京無宿・有光洋介

脚本:松田寛夫 監督:野田幸男

あれから半年

有光洋介が警察を去って半年が経った.だが幼馴染を失い, 恋人を失った有光の心の傷は未だ癒されなかった. そして今の有光は職場を転々とし,ドヤからドヤへと移る日々が続いた. そんなある日,有光はある男(草薙幸二郎)にこんな話を持ちかけられた.
男「どうだい,俺と組んでガバッと荒稼ぎをする気はねえかい.」
有光が無視しようとすると男は週刊誌を取り出し,ページをめくり, なおも誘ったが
有光「強請りの相棒探しているならお門違いだぜ.ま,別口を当たる事だな.」
男「とぼけんじゃねえや.おめえがどんな男か, 俺がしらねえとでも思ってんのかよ.ダチ殺しの悪徳デカとくりゃ, 強請りの相棒にはもってこいの肩書きだな.ほうら. こいつはおめえ,ちゃちなおめえ,強請りと違うんだぜ.え. おめえみてえな相棒がいてくんなきゃ,俺一人じゃ, とてもかなわねえ相手なんだからよ.」
有光は返事の代わりにタバコの煙を男に吹きかけた.男は怒り, 周りの連中に有光の事を吹聴して回った. それがきっかけで有光はドヤで喧嘩騒ぎを起こし, 別のドヤへ移る羽目になった.いつも有光はそうだった. 忘れようとしても忌まわしい過去は向こうからやって来る. その過去に追い立てられるようにして有光はドヤからドヤを転々としていた. この時の有光は,金田の持っていたネタが重要な物である事に, 気がついていなかった.

渋谷の陸橋で有光は女の子と遭遇した.
女の子「お母ちゃん,死にかけてるのよ.」
有光は女の子に手を引かれ,女の子の住むアパートに来た. 中では女の子の母親が病気で寝ていた.母親は有光に何かを訴えようとした. 有光には女の言いたい事がわかっていた.息子の無実を訴え,息子を返してくれ, と頼んでいるのだ.母親の息子,つまり女の子の兄が捕まった事件はこうだ. 二年前,女子高校生の強姦殺人事件が起きた. 当時警視庁捜査一課の刑事だった有光は地元所轄署に応援に赴き, 捜査に協力した.所轄の山口刑事(西沢利明)の見つけた証拠が決め手となり, 母親の息子健一は容疑者として逮捕された.母子三人の暮らしは貧しかった. 母親の息子の無実を信じる心情は有光には理解できた. だが健一が犯人であるという「事実」はどうにもならない. 母親はひっそり死んだ.

有光始動

有光が渋谷のアパートに移った頃,獄中にあって母親の死を知った若者は, 自供を翻し,無実を主張し始めた.佐竹がこの記事を手に持ち, 有光の元を訪れた.若者の主張が事実だとすれば格好の記事のネタになる. 佐竹は有光にこの事件を調べてもらうつもりだったのだ. だが有光は佐竹の持ってきた調査費を受け取ろうとはしなかった.
有光「気持ちは嬉しいけど,無駄なんですよ,この事件は.」
佐竹「無駄? 調べもしないでどうして?」
有光「二年前,僕自身,この捜査に加わっていたんですよ.」
佐竹は笑って諦めた.佐竹は名刺を置いて出ようとしたが,去り際にこう言った.
佐竹「君は生まれつきのデカなんだ.君からそのごそごそ探し回る才能, 悪い奴を叩き潰そうって言う根性,そいつを抜いちまったら何の取り得もない. 君はただの抜け殻,ごく潰し.そこんとこ,わかってる.」
有光は佐竹の置いていった新聞を見た.そして以前, 有光を強請りの相棒として誘った男,金田吾郎が「酒酔」になり, 「運河で溺死」した事を知った.ピンと来た有光は金田の死を調べる事にした.

まず有光はあの時のドヤへやってきた.そして金田の荷物から, 週刊誌をみつけ,あの強姦殺人事件の記事をみつけた.有光はドヤの管理人から, 金田のホラ話をまともに聞いていたのは林(佐山俊二)である事を聞き込んだ. そして林がいつも公園にいる事を聞き込んだ.ドヤの管理人は, 金田の荷物を有光に見せた事を警察には内緒にするよう,有光に念を押した. 有光と入れ替わりにあの時の刑事山口がドヤを訪れた. 山口は週刊誌が消えている事に気がつき,有光が何しに来たか訊いた.

一方,有光は林から話を聞いていた.林はアル中で手が震えていた. 金田は悪ぶっていたが口先ばかりの臆病な男で, 自分一人ではこそ泥も出来ないほどだった. 金田は二年前の事件の真犯人を知っていたらしく,週刊誌の記事を見て, こいつは犯人じゃねえと言っていたと言う.有光は林にタバコをやり, 金をやって帰ろうとした.それに恩義を感じた林は有光を呼び止めた.
林「あの男がおめえ,真犯人を強請って殺されたんだ, と思ってるんじゃねえだろうな.」
有光は林からまた話を訊く事にした.有光は知っていた. 普段金田が酒を呑まなかった事を.林もその事を思い出した. 金田には胃潰瘍のけがあるらしく,薬ばかり飲んでいた.

さて佐竹は編集長に「また空振り」と言っていた. 編集長の小言を佐竹が右から左に流していた時,有光から電話が掛かって来た. 早速佐竹は有光のアパートへ飛んだ.
有光「あの男は真犯人を目撃したんだ.もちろん,ああいう男だ. 警察に届けようなんて考えもしなかった.そして二年近く経った. 偶然K週刊誌の特集記事を読んで,現在犯人とされている男が, 自分が目撃した真犯人とは全然別な人物だと気がつく.」
佐竹「そこで, 何食わぬ顔をして娑婆でのうのうと暮らしている真犯人を見つけ出し, 強請りにかかって消された.そう考えれば辻褄もあう.」
有光「ええ.佐竹さん,もしそうだとしたら…俺は取り返しのつかない過ちを…」
有光は若者の母と妹を思い出し,口に手をやった.
佐竹「そうだよ.正義の味方は辛いね.しかし, これは君だけの責任じゃあるまい.君は無理矢理応援に引っ張り出されただけ. そうだろう?」
有光はある事を決意した.

有光は久しぶりに警視庁捜査第一課を訪れた.そして主任に, 草刈に会わせてくれと頼み込んだ.主任は断ろうとしたが, 通りかかった草刈は唐橋主任に,いいんだ,と言い, 有光を課長室へ連れ出した.入れ替わりに戻って来た吉川は有光来訪を知り, 課長室に乗り込もうとしたが止められた.

草刈「あの事件なら既に結論が出ている.再調査は出来ないな.」
有光「どうしてですか? これほど明らかに…」
草刈「有光君.被告が上訴審で自供を翻した時に検討済みなんだ. 上層部の決定で警察としては現在起訴している被告をあくまでも真犯人とし, 以後全ての判断を裁判所に委ねる事になる.」
有光「それだけですか.」
草刈は有光の方を見たが,すぐにそっぽを向いた.
有光「それだけで本当にいいんですか.課長はかつて, 私がでっち上げで犯人を逮捕したと批難して仰った.警察官足るべき者, いかなる場合でも法に忠実である事が第一.例え相手が極悪人であろうと, 法の執行において法を曲げる事はいささかも免れないと.そうですね?」
草刈「今でもその信念に変わりはないと思ってる.」
有光「じゃ,課長の法に忠実であれって言うのは, 手続きさえ法律にのっとっていれば,例え無実の人間が死刑になっても, やむをえんという事なんですねえ.」
草刈「有光君.放言だよ.」
有光は黙って出て行った.外には捜査第一課の面々が立っていた. 草刈は主任を呼んでこう命じた.
草刈「例の女子高校生の強姦殺人事件だがねえ…」
主任「は?」
草刈「捜査資料と,それから当時の所轄側の捜査責任者を呼んでくれないか.」

しばらくして,山口が草刈の元を訪れた.
山口「無実の疑いがある? まさか.気でも狂われたんですか,課長.」
草刈「しかし絶対に有り得ないとは言えないようだなあ. 私が自分自身で捜査資料を検討しなおしてみた結果だよ.」
山口「ですが二年前,あなたの部下も捜査に加わってた.仕込み,証拠集め, そして強姦未遂の前のあったあの男が容疑者と浮かび上がった時, 真っ先に引っ張る事を主張したのはあなたの部下でした.」
草刈「有光刑事の事かね?」
山口「ええ.」
草刈「わざわざ来て再調査を主張して来たのもその有光刑事なんだよ. もっとも今は刑事じゃない.」
山口「課長はあんな男の言う事を信用なさるんですか?」
草刈「今にして思えば,自供を取るのに少し時間がかかりすぎていたようだね.」
山口「私が拷問でもしたと仰るんですか?」
草刈「いや,そうは言っていない. だが無実のくせに自供をした前例がないとは言えない. それにその自供も最近翻されている.」
山口「じゃあ課長は,既に私が無実の人間を逮捕したと, 確信しておられるわけですか?」
草刈「いや.むしろ今でもあの男が真犯人の可能性が強いと思っている. ただ,僅かでも疑問がある時は慎重をきして再調査した方がいいと, 考えてるだけだ.」
山口「それで再調査は公式の命令ですか?」
草刈「私の私的な頼みだ.いや,忠告と受け取ってもらってくれてもいい.」
山口「わかりました.じゃあ仰る通りに, もういっぺん調べなおしてみましょう.」
草刈は肯き,山口は一礼して去って行った.

さてアパートに戻って来た有光は管理人から林の来訪を聞かされた. 何か思い出したという.慌てて有光は公園へ行ってみたが, 暴漢(八名信夫)に後ろから後頭部を殴られてしまった. 林は慌てて逃げた.

チャンピオンに有光はやってきた.有光は大沼と矢野に林の救助を求めた. 矢野が飛び出して行ったが,林はあの時の暴漢に車で轢き殺されてしまった. 矢野が駆けつけた時,林の息はもうなかった. 矢野は公園に寝ていた浮浪者から力づくで暴漢の事を聞きだした.

今や有光は真犯人が別にいることを確信していた. そして息子を返せと叫び続けて死んだ母親の事を, 罪無くして鉄格子の中に二年の月日を過ごしている若者の事を思っていた. 有光,佐竹,大沼,矢野は暴漢を捕まえた.矢野は暴漢をぶん殴ったが, 暴漢は何も喋ろうとしなかった.
大沼「よせよ.そんな殴ったら死んじまうよ.」
止めるのかと思いきや
大沼「ガソリンぶっ掛けてやるんだ.」
矢野は暴漢の全身にガソリンをかけた.そして大沼がライターの火をつけ, 近づいていく.これは効いた.
暴漢「やめろ.やめろ.やめてくれえ.やめろ.やめてくれえ.やめろー.」
なおも大沼は火をつけたまま近づいていった.
暴漢「言う.言うからやめろー.デカだ.山口って言うデカに頼まれたんだ.」
有光は山口が若者に手錠をかける瞬間を思い出していた. 有光はある決意を固め,一人で出て行った.

有光対山口

有光は所轄署へ行き,山口を渋谷のあのアパート, そして13号埋立地へ連れ出した.女の子は有光の跡を追って行った. 13号埋立地で
有光「事件発生当時,まだ捜査が五里霧中の段階で, あんただけがいち早く真犯人にたどり着いていた.多分, とてつもない大金持ちのどら息子でしょう.それから, あんたは告発する代わりに,見逃して莫大な報酬をせしめたんだ.いや, そればかりじゃない.あんたは関係のない若者を生贄に提供する事で, 真犯人への道を永久に閉ざしてしまおうと目論んだ.そして捜査陣の目を, あんたの立場を利用して…それも全てうまく行った. 誰もあんたを疑おうとはしなかったんだ.あの若者を, 有罪に追い込んだ物的証拠は何もかも, あんた一人の手で発見されていたって言うのに…二年も経って, ひょっこり目撃者が現れなかったら,私も永久に気がつかなかったでしょう. そして真犯人を強請りにかかった目撃者を連絡を受けてあなたが自ら消したんだ. ところが私が疑いを抱き,追い詰めた事を知ったあんたは,私を闇討ちさせ, 時間稼ぎした間に,もう一人林という哀れなルンペンまで殺してしまった. だが結局はそれが墓穴を掘ったんだ.」
山口「まあ細かい点は抜きにして大体そんなところだ.さすがだよ. だが残念ながら全て推理だけ.確実な証拠は何一つないじゃないか. ま,でるところに出りゃ,あんたの言い分は通用しないねえ.」
有光「今んところはそうでしょう.だが必ずこの手で尻尾をつかんでみせる.」
有光と山口はしばらく睨みあった.
山口「わかったよ.ま,そうむきになるな.ほれ.」
山口は札束を取り出して放り投げた.有光が拾ったのを見て
山口「それでいいんだろう? まあ,お前の狙いは最初からわかってた. 銭だとな.だからもしばれてもお前となら銭で話がつけられる. でなきゃとうに,お前も消していた.」
有光は山口をにらみつけた.
山口「なんだ.まさかこれじゃあ足りないって言うんじゃないだろうなあ. 贅沢は言わない事だ.」
有光「豚には豚の考えしか浮かばねえらしいなあ.」
山口「豚だ? それじゃあ,貴様なんだ! 薄汚え銭をしこたま取り込んだ悪徳刑事だと言う事にゃあ, お前と俺は変わりはない.それどころか,俺はお前みたいに, ダチ殺しまで平気でやらかすほど,悪党じゃないぜ.」
これを聞いた有光は山口を殴りつけ,札束を放り投げた. 有光と山口の闘いが始まった.それを草陰から女の子が見ていた. 山口は拳銃を乱射したが弾が尽き,その隙を突かれて有光に逆襲された. 激しい格闘の末,有光は勝利した.有光は木の柵に山口の両腕を回し, 後ろ手に手錠を掛けて山口を拘束した. 女の子は有光が歩いて去っていくのを黙って見ていた. 通報を受けて草刈達捜査第一課の面々が駆けつけた.

観念した山口の供述により,間もなく真犯人は逮捕された. 若者は釈放され,記者に囲まれた.妹の山本まさ子は佐竹に連れられ, 刑務所の前まで来ていた.兄妹の再会を有光は陰から見守っていた.

事件解決後,有光は杏子の職場の前まで来て思った. 自分はやはり杏子を愛していた.

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東平 洋史 E-Mail: touhei@zc4.so-net.ne.jp