第一回

自動車事故偽装殺人の真相を暴く.
悪徳刑事・有光洋介

脚本:松田寛夫 監督:野田幸男

有光洋介登場

伊豆の山道から車がガードレールを超えて転落する事件が発生した. 車に乗っていた家族全員死亡.静岡県警の見方は
所轄の刑事山田「まあこのつづら折りの山道ですからねえ, ふっ飛ばしすぎてハンドルを切り損ねてガードレースに突っ込んだ. 平凡ですがそんなところでしょう.」
だがわざわざ現場まで足を運んできた警視庁捜査第一課の刑事, 有光洋介の見方は違っていた.
有光「こういう場合も考えられませんか? あの上から高性能の望遠鏡ライフルで狙撃. 打ち抜かれたタイヤは突然バーストして暴走. 同じ結果になりますよ.」
冒頭で描かれた事件の真相は有光の見方通りだったが, 山田は信じようとしなかった.
山田「まさか.高速で走って来る車を他に傷つけずに, タイヤだけを撃ちぬくなんて不可能ですよ.」
有光「ところがそれが可能な奴が一人だけいるんです.」
有光は権堂(山本麟一)の仕業だと睨んでいた.実際にはその通りだったが, そう見ているのは有光唯一人.山田は信じてはいなかった.有光は話題を変え, 被害者の身元を山田に尋ねた.被害者は土建業の一家. 有光は土建業の連中を当たってみる事だと忠告した. その中に金で殺し屋を雇ってでも商売敵を消したがる者がいるはずだ. もっとも,証拠がないので無駄だろうが.

警視庁に戻った有光は唐橋から注意された.あまりにも突飛な事を言うので, 静岡県警が「あの人,どうかしてる」と思って電話してきたのだ. 有光は黙って出て行った.
唐橋「奴さん,本当にどうかしてるなあ. 今に交通事故はみんな例の殺し屋の仕業だと言い出すぞ.」
それを後輩刑事の吉川も聞いていた.

廊下で有光は幼馴染で同僚の村木とすれ違った.
村木「お前,最近,杏子のところに顔を出していないそうだな.」
村木の妹杏子は10代の頃から有光と将来を誓い合う仲だった. 有光はこれから行くと村木に言って出て行った.有光は神宮外苑で杏子とデート. 二人は本当に幸せそうだった.

その後,有光は大沼と一緒に出かけていた.
大沼「本当にいいですね?」
大沼は受け取った大金を数え,その後, その金と引き換えに老人から拳銃を受け取った. 老人はかつて盗品の古売をしていた頃,有光に逮捕された事があった. しかし有光は老人に育てるべき孫があるのを知って, 何くれとなく老人の面倒を見た.そしてその孫も一人立ちして去り, 孤独な老人は我が子のように有光を愛しんでいた.

有光と大沼は大沼が営むスナック「チャンピオン」の中に入って行った. 中には矢野がいた.なおも大沼は有光に言った.
大沼「いいんですか,現職のデカがこんな事をして. ばれたら懲戒免職だけじゃすまねえ.刑務所送りですぜ.」
だが有光は黙ったまんま.
大沼「そうですか.」
大沼は拳銃を矢野に渡した.有光はさっさと出て行ってしまった. 矢野は元プロボクサーで大沼は矢野の元押しかけマネージャー. 八百長絡みでやくざとの腐れ縁を断ち切れず, 危うく消されるところを有光が間に入って話をつけてやった事があった.

権堂は山の中で射撃の練習をしていた.権堂は全弾的の真ん中に撃ち込んだ.

ある夜.矢野は権堂のマンションに忍び込んでいた. そして権堂が帰って来たのを察知し,ベランダに隠れた.

翌日.有光と吉川は権堂の部屋に押し入った. 吉川が家宅捜索をした結果,拳銃が発見された. 実はその拳銃は有光が大沼に買わせ,矢野に渡した物だった.
権堂「野郎,はめやがったな.」
権堂は引っ張られ,有光は執拗に権堂を取り調べた.それは取調べと言うよりは, 刑事と殺し屋が生身でぶつかり合う,血塗の格闘だった. それを知った有光の上司で捜査第一課の課長草刈は唐橋にこう言った.
草刈「きちがい沙汰だ.即刻釈放させたまえ.」
有光が抗議にやってきた.もう少しで有光の知るだけで7件, 知らない物も含めれば十件いや二十件にも達する, 権堂の犯行をはかせる事ができるのだ.しかも拳銃不法所持は現行犯であり, それだけで送検可能だ.草刈は釈放の理由を述べた.
草刈「それ(拳銃不法所持)がでっちあげだと言ってるんだ.」
沈黙が流れた.
有光「証拠はありますか?」
草刈「あれば君を逮捕してる.大体,君はあの権堂という男の事になると, いつも感情的になりすぎる.書類によれば過去五年の間に, 今度のを別としても四回も殺人容疑で逮捕.」
有光「全て証拠不十分で釈放でした.目撃者が消された事も, 身代わりに犯人が名乗って来た事もありました. 奴は尋常な手段で尻尾をつかむ事が不可能な事なんですよ.」
草刈「だからと言って五回目をでっちあげで逮捕していい事にならん. 断っておくが,私は別に権堂をかばっているわけではない. 正直言って私自身も権堂が殺し屋でないかと疑っている. したがって以後権堂に関しては一切,私が直接調査する事にした.」
有光「無駄だと思いますがねえ.」
草刈「余計な心配は無用だ.それより君は自分の馘を心配したまえ. 既に君についても徹底的に調査するように命じてある.預金類の全てをおろし, またサラ金にまで借り集めた百万円以上の金を君はどう使ったのか? 拳銃の入手経路,それが何者の手によって権堂の手に仕込まれたか? たれ込みの電話をしたのは何者か? 兎に角, 君が権堂逮捕のためにでっちあげをした証拠がつかめれば, 私は躊躇無く君の逮捕状を上層部に注進するつもりだ.いいかね. 警察官たるべきもの,いかなるときでも法に忠実である事が第一. 例え相手が極悪人であろうとも法の執行において法を曲げる事は, いささか免れん.」
有光は権堂を釈放するより他,道はなかった. 権堂が警視庁を出る時,有光は権堂の復讐を予感した.

有光と権堂との因縁は五年前にさかのぼる. その時,権堂の凶弾の犠牲になったのはドライブ帰りの一家だった. 無惨に破壊された自動車の中に,唯一人,奇跡的に生き残った赤ん坊がいた. その女の赤ん坊を見つけた時,有光は権堂を自分の手で逮捕する事を, 刑務所に送る事を誓ったのだ.赤ん坊は教会に預けられ, 今は立派な子供に成長していた.有光はその子と一緒に海岸を走り, 親子連れを見て,権堂逮捕を胸に誓うのであった.

有光,悪徳刑事の汚名を受ける

権堂の復讐が始まった.まず,有光が暗黒街とつながりを持った悪徳刑事である, という悪意を込めた噂を街に流した. その噂を週刊スキャンダルの編集長が聞きつけ, 部下である佐竹は有光に接触した.有光は何も話す事はないと佐竹に言った. だが佐竹はその記事が行けると確信していた.

さらに権堂は村木に接触し,有光殺しを強要した.村木は断ろうとしたが
権堂「断れねえよ,おめえには.」
権堂の黒幕が駐まっている車の中にいた. 村木がかつて功を焦るあまり,情報をとる為に近づいた暗黒街に逆用され, できた腐れ縁.一度悪と近づいた以上,断る事は許されないのだ. 権堂は黒幕と一緒に去って行った.

数週間後,拳銃強盗がとある建築現場に逃げ込んだとの通報があり, 居合わせた有光と村木が現場に直行した.有光と村木は中に入った. 村木は有光と別れ,別行動.そして有光は拳銃で狙われた. 物陰から有光が逆襲して射殺した相手は…村木だった.驚く有光. 村木の目から涙がこぼれていた.その涙から有光は全てを悟った. 権堂の手により有光を狙わざるを得なかった村木の苦しい胸中を. 有光は怒りと悲しみに打ち震え,いつまでも立ち尽くしていた.

新聞や雑誌はここぞとばかりに有光の村木殺しを書きたてた. 佐竹はチャンスと見て情報を収集.情報の真偽なんか問題ではない.
佐竹「執念の鬼刑事,実は暗黒街の殺し屋か? ジャーン.泣かせ所はねえ, 殺された刑事が幼馴染,竹馬の友.しかもその妹はフイアンセと.」
編集長も大喜びだ.

週刊スキャンダルの記事を見て権堂は高笑いし, 有光の後輩の吉川は怒って有光を難詰していた.有光は無言を押し通した. 吉川の有光に対する尊敬は有光に対する憎悪に変わった.

一方,大沼と矢野は佐竹を呼び出していた.
大沼「出鱈目もいいところだぜ.有光さんに限ってそんな事をしねえよ.」
佐竹「だがね,そういう噂が流れているのは事実なんだ.」
矢野「だからその噂が出鱈目なんだよ.これだけ言ってもわからねえのかい?」
矢野は佐竹の胸倉をつかんだ.
佐竹「わか,わかった.よし.訂正記事は出そう. ただし無条件てわけにはいかねえ.有光刑事が悪徳デカでないっていう証拠を, この目で確かめたい.君達に助けてもらってね.あ,勿論,費用は持つし, それなりの謝礼はするから.どうだい?」
大沼「どうする?」
矢野「どうするって,おめえ,マネージャーだろう.決めろよ.」
大沼は決断した.
大沼「よーし.ファイトマネーは?」
佐竹「ファイトマネー? ああ.」
佐竹は指一本立てた.大沼と矢野は納得しなかった.佐竹はもう一本立てた. 大沼は無理矢理もう一本立てさせた.

佐竹と大沼のいる前で,矢野は男を殴っていた.
佐竹「おい,死にやしねえだろうな.」
大沼「大丈夫.加減して殴るのに慣れてるんですよ.八百長で鍛えた腕でね.」
大沼と佐竹は笑った.なおも矢野は殴り続けた.何発も何発も殴られた末, 遂に暗黒街に詳しい顔役は遂に村木こそがつながりのある悪徳刑事である事を, 吐いた.佐竹は大沼に三万を渡したが
大沼「三万?」
佐竹「いいから,気にしないで.」

一方,有光は取調べを受けたが,恋人杏子に対する愛の証として黙秘を通した. 草刈も激しく追及したが,でっちあげ,射殺事件,暗黒街とのつながり, いずれも決定的な証拠を握る事は出来なかった.警視庁から出てきた有光に, 大沼,矢野,そして佐竹が接触した.
佐竹「有光.俺は誤解していた.」
有光は無視して去ろうとしたが
佐竹「もちろん,訂正の記事は俺が書くし,責任を持って紙面にも載せるよ. ここで君を待っていたのは直接君の話を聞いてからと思ってね.」
だが有光の答えは
有光「訂正の必要はないですよ.」
村木は呆気にとられてしまった.佐竹は大沼と矢野のお蔭で, 暗黒街でつながりを持っていたのは有光ではなく, 村木だとわかったと言ったが
有光「いいんですよ.今のままで.今のままが一番いいんです.」
そう言って有光は立ち去った.佐竹は有光の言う通りにするしかなかった. 大沼は佐竹に三万円を返そうとしたが,佐竹は受け取らなかった.

有光は村木射殺後はじめて杏子と出会った.思わず有光は立ち止まった. だが無言で去って行った.杏子は振り返ったが, 有光とは反対方向へ歩いて行った.二人は今までの日々を思い出していた. 有光はかつてないほど,杏子に対して愛を感じていた. その愛ゆえに真相を言う事はできなかった.かくして有光は, 同僚刑事を殺した悪徳刑事と言う謂れ無き十字架を背負う事になったのだ. 同時に卑劣な罠によって幼馴染の刑事を殺させ, 杏子への愛を引き裂いた殺し屋権堂への怒りが殺意とも言える憎悪の炎が, 有光の心の中で燃えていた.

佐竹は編集長に,あれは空振りだったと言っていた.

有光,権堂を倒して警視庁を去る

しばらくして有光の処分が発表された. 有光は覆面パトカーに乗って巡る事になった. 有光は上司や同僚の蔑視に耐え,黙々と職務を遂行していた. 待っていれば殺し屋権堂がその姿を自ら現す筈だったからだ.幼馴染を失い, 恋人を失い,ずたずたにされた権堂に最後のとどめをさすために. そして青海の倉庫街で有光の乗った覆面パトカーのタイヤが, 権堂にぶちぬかれた.有光の必死のハンドルさばきにも関わらず, 覆面パトカーは多数の車に激突した末に横転して炎上.同僚の刑事を救い出し, 通りがかりのカップルの車を半ば強奪して有光はオートバイを駆る権堂を追跡. 権堂は13号埋立地に逃げ込んだ.後に臨海副都心となるこの場所は, 当時はゴミの山だった.その中を権堂,そして有光がカーチェイスを繰り広げた. そして有光は権堂をはねた.車から降りた有光は虫の息の権堂と対峙した.
有光「村木を脅して俺を狙わせたのはお前だな?」
権堂「そ,そりゃ,この俺に勝ったと思うだろうが,俺を殺したって, てめえがこの手で殺した奴は生き返っちゃこねえんだ.ダチ殺しの悪徳刑事. 貴様には明日がねえって事よ.」
有光は拳銃を構えたが,権堂は動かなかった.有光は去ろうとしたが, その隙を突き,権堂はナイフを投げようとした.だが有光は振り返り, 権堂を射殺.有光は拳銃をおろし,歩いて行った. そして駆けつけた草刈に警察手帳と拳銃と手錠を渡し, 有光は去って行った.それを吉川,唐橋,そして草刈は黙って見送るのであった.

有光はアリタリア航空から杏子の姿を盗み見た. 杏子が気がついた時には,有光の姿は消えていた. やはり有光洋介は杏子を愛していた.しかし,その愛の実る日は二度と来ない. 愛を失い,友を失い,虚ろに巷をさまよう明日なき有光には, 愛を奪い,友を奪った悪とのあくなき闘いが待っているのであった.

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東平 洋史 E-Mail: touhei@zc4.so-net.ne.jp