「がんばれ! レッドビッキーズ」第45話

弱いチームの練習を手伝う太郎.初心を忘れ,反発するナイン.
帰れ! ホームラン太郎

脚本:鷺山京子 監督:広田茂穂

今日も太郎は絶好調.ノミさんの球を軽々と外野へ飛ばしていた. そこへオーナー登場.何と全国少年野球大会が開かれると言う. 東京大会上位4位の球団が選抜されて出場すると言うのだ. 勿論,レッドビッキーズも出場可能だ.喜ぶナイン達. 気がつくと太郎の姿はいなくなっていた.

練習の帰り道,ナッツ達は次郎の姿を見かけた.そこでシゲ,カリカリ, ブラザーが次郎の跡をつけてみた.そして見た. 太郎が他のチームで練習しているところを. カリカリ達はどういう理由だと詰め寄った.太郎は事情を説明した. 1週間前にラブリーズの山口(上屋健一)が自転車の修理を頼みに, 西郷自転車店にやってきた.生憎父親は不在.そこで太郎がパンクを修理した. だが練習の時間になったので太郎はブレーキを修理せずに出かけて行った. そしてうっかり,ブレーキの修理を忘れたまま山口に自転車を返してしまった. そのため,山口は下り坂に差し掛かった時, ブレーキの故障で怪我してしまったのだ.それに負い目を感じた太郎が, ラブリーズの練習を手伝ってやっていたと言うわけだ. だがカリカリ達は納得しなかった.ジュクは太郎に, レッドビッキーズかラブリーズかどちらか一つを選択するよう迫った.
太郎「そりゃ,レッドビッキーズさ.」
ジュク「じゃあ,ラブリーズを辞めて, レッドビッキーズに戻ってきてくれるんですね?」
だが太郎は悩んでしまった.やめちゃえよ, 全国大会を控えてレッドビッキーズは今大事な時だ,という声を聞き
太郎「判ってるよ.だけど見捨てるわけにはいかないし…」
カリカリ「ラブリーズはできたばっかりの一度も勝った事のない, ボロチームじゃないか.どうせ,すぐ解散さ.ほっとけ,ほっとけ.」
ブラザー「そうだよ.」
太郎「だけど,山口君もみんなも一生懸命なんだ.何とか一勝させてやれば, 自信がつくと思うんだ.」
太郎の言葉には深い意味がある事に,皆気付かなかった. そのため,皆,「辞めちゃえよ」と言うばかり.
太郎「俺,レッドビッキーズが好きなんだ.後から皆に追いつく. 迷惑は掛けない.だからあと一週間待ってくれ.な,頼むよ.な. あと一週間待ってくれよ.な,いいだろう.あと一週間待ってくれよ.」
だがジュク達は納得しなかった.
ジュク「君には判ってないんです. 僕達がどんな苦労をしてここまでやってきたのか.」
太郎は落胆してしまった.皆,かつてはラブリーズのようなチームだった事を, 忘れてしまったのだ.

ジュクは独断でラブリーズの山口に練習試合の申込書を渡しに行った. それを聞いた令子は怒った.そして令子は何か訳があると見抜き, 聞いてみた.ジュクが,二つのチームに所属している奴がいる, と言ったりするなど,婉曲に太郎の事を批判した. これに太郎は耐え切れなかった.
太郎「みんな,俺を辞めさせたいんだな.」
令子は驚いた.
カリカリ「そうじゃないよ.ただ,どっちか一つを…」
太郎「俺は一週間だけ待ってくれって言った. 俺を信じてくれって頼んだじゃないか.それなのになんだ.みんな,汚いぜ!」
ジュク「でも今は大事な時ですから…」
太郎「何が大事だ.全国大会に出ることがそんなに大切か? それが野球か? そんな野球がレッドビッキーズの野球なら,俺は御免だ!」
太郎は怒って川原へ行った.次郎は慌てて跡を追った. 太郎の目から涙が零れ落ちていた.
太郎の声「畜生.全国大会がなんだ.何がレッドビッキーズだ!」
太郎はレッドビッキーズのユニフォームを脱ぎ捨て,力任せに踏みつけた.

太郎はラブリーズの指導に専念していた.それを令子は見た.
令子「これがラブリーズ.そうだ.ビッキーズも最初はこうだった.」
令子は皆が下手糞だった頃を思い出していた. ペロペロキャンディーをなめてボールを追わないペロペロ. 亀に夢中のトータス.そして次々と帰って来る相手打者.

CMが明け,川原で素振りする太郎に令子は声を掛けた. ラブリーズの監督は仕事が忙しく,1週間に1回しか来なかった. だから太郎はラブリーズの練習を手伝っていたのだ.そして, 太郎はラブリーズが1勝するのを見届けたかった. ラブリーズは未だ一勝もしていなかった.
令子「一週間待ってくれって言うのはそのことだったのね.」
太郎「もういいよ.俺はずっとラブリーズにいる事に決めたんだ.」
令子「その気持ちは立派よ. でもあなたが必要なのはラブリーズだけじゃないわ. レッドビッキーズだって必要なのよ.」
太郎の顔は濡れていた.汗なのか,涙なのか,それとも川の水がかかったのか. 太郎はしばらく考えた後,言った.
太郎「何のために? 勝つ為にか?」
令子は二の句が告げなくなってしまった.
太郎「友達の言葉も信じないで弱いチームを踏みつけにして, それで勝ってどうなるって言うんだよ.」
令子は絶句してしまった.
太郎「そうだろう.最低じゃないか,そんなの.そうだろう!」
太郎は怒って走り去ってしまった. 令子は次郎が持って来た太郎のユニフォームを手にとった.
太郎の声「弱いチームを踏みつけにして, それで勝ってどうなるって言うんだよ.最低じゃないか.最低じゃないか. 最低じゃないか…」

令子は太郎のことで頭が一杯で, 恵子から頼まれたすき焼き用の肉としらたきを買い忘れてしまった.
令子「人間って忘れるものなのね.」
恵子は呆れてしまい,メニューを湯豆腐にすることにした.令子は呟いた.
令子「あの頃のレッドビッキーズ.」
本当に皆,下手糞だった.
令子「下手ならば上手になればいい.それが練習なんだ.情熱なんだ. 未来なんだ.そうだわ.」
突然,令子は立ち上がり,恵子を驚かせた.
令子「そうよ.あたし達は大切な物を忘れていたんだわ.」

練習終了後,令子は皆を集め,泥だらけの太郎のユニフォームを見せた. そして言った.
令子「そう,あたしはこのユニフォームの泥をすっかり落とさない限り, 選抜大会の出場は辞めるわ.このユニフォームはレッドビッキーズの心よ. ねえ,みんな.もう一度スタートした頃の真っ白な心を思い出してみて. まず1勝どころか1アウトを奪るところから始まったわね. 次は一点を取る事.そしてやっと勝つ事を目標にできたわ. あの頃のチームは最低だったわ.そしてここまで来た. その結果が一人の人間の心を踏みにじってまで, ただ勝とうとするチームになったのなら,何の意味もないわ. あたしはみんなにそれを言いたかったの.」

メンバーは令子の言葉を真摯に受け止めた. そしてラブリーズのグランドにやって来て,太郎に会おうとした. だが太郎は皆を避けようとし,背を向けて歩き始めた. 皆の呼ぶ声に太郎の足が一度止まった.だが太郎はまた歩き始めた.
ジュク「ねえ,太郎君,僕達,君に謝りに来たんです.」
太郎の足が止まった.
太郎「謝ることなんかないよ.」
山口「みんな聞いたろう.太郎はもうレッドビッキーズとは縁を切ったんだ. 帰れよ.」
カリカリ「レッドビッキーズとしてではないんだ. 友達として君に謝りたいんだよ.」
太郎「友達だ? 誰が友達なもんか!」
シゲ「怒るのは当然だよ.だけど,俺達知らなかったんだ.」
太郎「知ってることを信じるなら誰だってやるさ.」
また太郎は背を向けた.
太郎「友達ってのは,一言信じてくれって言う時に, 黙って信じてくれる奴の事じゃないのか.」
これを聞いたレッドビッキーズのメンバーは言葉を失った. 去ろうとする太郎にカリカリが駆け寄り,土下座した.皆,土下座した. 太郎の怒りは解けなかった.だが太郎は涙で鼻をすすりながら歩いていった.

そんなある日.ラブリーズのグランドは毎日毎日きれいに磨かれていたのに, 太郎と山口達は気がついた.石一つ落ちていなかった. 太郎は,一体誰の仕業だろう,と考え込んだ. 実はこれはレッドビッキーズのメンバーの仕業だった. ラブリーズのメンバーよりも先に来て,石を拾ったり, トンボで土をならしたりしていたのだ.それを太郎は偶然見てしまった. 太郎は黙ってその様子を見ていた.ジュリは太郎が来た事に気がついた. 後からやてきた山口は, 洗濯された背番号13のレッドビッキーズのユニフォームに気がついた. 山口はそのユニフォームを手に取り,太郎に手渡した.
山口「君に来てもらったら,ラブリーズも強くなれると思った. レッドビッキーズのようにね.でも違うんだ.レッドビッキーズの強さの秘密は, チームワークなんだね.」
太郎は肯いた.そして言った.
太郎「いいのか?」
山口は肯いた.太郎はラブリーズのユニフォームを脱ぎ, レッドビッキーズのユニフォームを着た. それを見て,レッドビッキーズのメンバーは太郎の元に駆け寄った.
太郎「もう一度,レッドビッキーズの仲間に入れてくれるかい?」
ジュク「勿論だとも.」
太郎「ありがとう.レッドビッキーズのチームワークは日本一だよ. これからも一緒に頑張ろうな.」
皆,喜んでいた.それを遠くで見ていた令子は思った. レッドビッキーズは日本一のチームだ,と.

次回は冒頭でオーナーが言っていた全国少年野球大会にレッドビッキーズが出場. 対戦相手のエリートスターズがスパイを派遣し,ナッツとシゲがピンチに…

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp