「がんばれ! レッドビッキーズ」第44話

スランプと闘うブラザーと心の傷と闘う少年との交流
友情にアーチをかけろ

脚本:鷺山京子 監督:奥中惇夫

ブラザーはスランプに陥っていた.一生懸命練習した時, 勢い余ってバットが飛んでしまい, 練習を脇で見ていた少年に当たりそうになった. ブラザーは謝ったが,少年は馬鹿野郎,と殴りつけて去ってしまった. 練習の帰り,ブラザーはあの少年と出会った.ブラザーはぶん殴ろうとしたが, 少年は謝り,こう言った.
少年「スタンスが広過ぎる.」
ブラザー「え?」
少年「構えた時,顎が上がってる.(顎に手をやり,顎を引きながら)引いて, (ジェスチャー付きで)脇を絞めて,ボールを充分引き付ける.いいな. これでさっきのお相子だ.」
少年はさっさと立ち去ってしまった.
ブラザー「なんだ,あいつ?」

次の日の練習.コーチからも同じ事を言われていた. そしてブラザーは思い出していた.
少年「顎を引いて,脇を絞めて,ボールを充分引き付ける.」
ブラザーは見事ヒットを打つ事ができた.

ブラザーは少年にコーチしてくれるよう頼み込んだ.
少年「嫌だ.」
ブラザー「お願いだよ.ちょっとでもいいから.」
少年「俺,野球はやめたんだ.あんなもんやるのは馬鹿だ.」
少年は立ち去ろうとした.だが
ブラザー「君の欲しいもん,何でもやるよ.なあ.このままじゃ,俺, レギュラー外されちゃうんだよ.」
と言う言葉を聞くと,態度が豹変.
少年「え,レギュラーを?」
少年は俺に着いて来れるか,とブラザーのコーチを買って出た.
少年「よし.いいか.レギュラーは誰にも渡すな.」
そして特訓が始まった.少年の作った練習メニューは,柔軟体操,ランニング, タイヤ引きなど体力トレーニングばかり.その理由は
少年「君は基礎体力が弱い.だからフォームが固まらないんだ.」
ブラザー「それにしてもハードだなあ.」
ナッツ「お兄ちゃん,三日坊主だもんね.大丈夫かしら?」
ブラザー「馬鹿.」
それからブラザーは少年と一緒に特訓を開始した. 少年は熱心にブラザーを指導した.だが…

ブラザーのスランプはさらにひどくなっていた.
ジュリ「ブラザー,あの人(少年の事),信用していいの?」
ブラザー「一時は落ち込んでも必ず打てるようになるって言ったんだよ.」
太郎「感じの悪い奴だなあ.何だか信用できないみたいだ.」
トータス「僕は特訓なんてやめた方がいいと思うよ…と, トータスも言っています.」
ジュリ「私もそう思うわ.」
ブラザーは少年のところへ駆け寄った.
少年「未だ脇が甘いぜ.」
そこへよし子登場.コメッツの若松監督を連れて来たのだ. 若松は練習試合を申し込みに来たのだ.若松は少年に気がついてこう言った.
若松「あれ,うちの柴田たかおがお邪魔でも?」
何と少年はコメッツのメンバーだったのだ. たかおは若松を見ると走り去っていった.
令子「ああ,彼は大山君の臨時コーチをしてもらってます.」
若松「コーチ? じゃあ,野球をやる気が出てきたか.」
令子「何かトラブルでも?」
若松「いやいや.大したことじゃないですが,あいつが気にしちゃって. なーに,そのうち落ち着くでしょう.」
若松は慌ててこう言ったが,令子の顔に不安がよぎった.

シゲはオーナーからたかおの情報を仕入れ,ジュク,ノミさん,カリカリ, 太郎に報告.翌日,シゲ達はブラザーに話した. シゲは少年たかおの「正体」を話した. たかおはコメッツのメンバーだったが,レギュラーを外されたので, 代わりにレギュラーに入った少年をバットでぶん殴り, コメッツから追い出された,と言うのだ. オーナーが成増へ出前に行った時に話を聞きつけたと言う. ジュク達はブラザーに,たかおが信用できないのではないのか,とまで言った.

だが真相は微妙に違っていた.ブラザーはコメッツのメンバーから話を聞いた. たかおがレギュラーを外されたのは事実だったが, 努力家のたかおは練習して取り返してやる,と一生懸命練習していた. だが,バッティング練習の時に勢い余ってバットが飛んでしまい, 代わりにレギュラーに入った少年に当たってしまったのだ. その後,冗談でコメッツのメンバーが, レギュラーを外されたからわざとやったのだろう,と言った.そのため, たかおは怒り,コメッツから出て行ってしまったのだ.コメッツのメンバーは, 悪い冗談を言ってしまったと後悔していた.
ブラザー「そうか.そうだったのか.」

公園のD51の前に座るたかおのところへブラザーがやってきた.
たかお「もう来ないかと思ったよ.」
ブラザー「なぜさ.」
たかお「聞いたろう,俺のこと.」
ブラザー「そのことか.君は馬鹿だよ.」
たかお「何!」
ブラザー「君がわざとやったなんて誰も思っちゃいないよ.チームに戻れよ.」
たかお「ふん.表面じゃ奇麗事言っても,肚の中じゃ疑ってるんだ.」
ブラザー「そんなことないよ.」
たかお「そうさ.君だってそうだろ. トレーニングのために俺を利用してるんだ.」
ブラザー「君は何故利用されてるんだ?」
たかお「え?」
ブラザー「縁も由縁もない俺のために,どうしてあんなに汗を流すんだ?」
たかお「それは…」
ブラザー「君は俺の気持ちをわかってくれた.俺も同じだ.」
たかお「明君.」
ブラザー「俺は君を信じるよ.」
こうしてブラザーとたかおはまた特訓を開始した.だが, この関係は長くは続かなかった.遠くで見ていたナッツはこう思っていたからだ.
ナッツの声「今度はお兄ちゃん,三日坊主ではないわ.でも,きつ過ぎるわ.」

疲労の為,ブラザーはフォームを崩していた. コーチはブラザーをレギュラーから外す事を考え始めていた. ナッツは皆に相談した.このままでは体を痛めない限り, 兄は特訓を止めないだろう.そこでメンバーはたかおを呼び出し,こう言った.
シゲ「ブラザーが自分じゃ言い難いから伝えてくれって.」
たかお「明君が?」
シゲ「特訓をやめるんだよ.」
たかお「嘘だろう.」
太郎「本当だよ.」
ノミさん「効果は上がらないし,疲れるばかりだから, これ以上はやれないって.」
たかお「それならそうとどうして自分で言いに来ないんだ!」
カリカリ「逆らったら何されるかわからねえもんな.」
たかお「何?」
怒ったたかおはカリカリの胸倉をつかんだが,皆に止められた. ナッツがとどめを刺した.
ナッツ「兎に角,もうやめたいって言うの.お願いだから,もう放っておいて.」
これがたかおの心の傷を深くしてしまった.何も知らないブラザーに, たかおはこう言った.
たかお「お前がこんなに卑怯な奴だとは思わなかった.」
ブラザー「え?」
たかお「俺が恐いのか? 義理押ししていただけか.」
ブラザーは怪訝な顔だ.
たかお「信じるって言ったのも嘘だったんだな!」
ブラザー「何の話だよ.」
たかお「とぼけるな.お前なんかと付き合うのはこっちから断る!」
たかおは去って行った.ブラザーはナッツから事情を聞いた.

その晩.ブラザーは令子の元を訪れた.
ブラザー「監督からみんなに言ってやってください. たかお君に本当のことを言うように.」
恵子「怒っちゃいけないわ.皆さん, あなたのことを思ってしたことなんだから.」
ブラザー「だって.」
恵子「それに,みんなでぞろぞろ謝りに行っても解決にならないわ. きっと信じてもらえないと思うの.」
ブラザー「でも,何とかしなくちゃ.」
恵子「難しいわねえ.一旦閉ざされた心を開くのは.」
どうすればいいんだと悩むブラザーに令子はこう言った.
令子「信じたこと,最後までやりぬくのよ.」
ブラザー「え?」
令子「悔いを残さないためにはそれしかないわ.遠回りかもしれないけど, いつかはきっと判ってもらえるわ.」

翌日からブラザーは独りで特訓を行なった.
令子の声「信じた事を最後までやりぬくのよ.」
ブラザー「よーし.」
たかおの声「レギュラーを誰にも渡すな.」
ブラザー「よーし.」
ブラザーは一生懸命頑張った.

そして試合当日.3対2とリードされてレッドビッキーズは5回裏の攻撃を迎えた. たちまち2アウトになってしまった.その時,センター,令子, ブラザーはこっそり試合を見に来たたかおを見つけた.たかおは逃げた.
ブラザー「逃げるなよ.自分が正しいと思うなら,何故堂々としていないんだ.」
たかお「ほっといてくれ.」
ブラザーはたかおを殴ってこう言った.
ブラザー「俺は君を信じる.君は何故俺を信じてくれないんだ.」
ブラザーの目を見たたかおはブラザーの心を信じた. そしてブラザーはたかおにホームランを打つと宣言.
ブラザー「君を信じてやるだけやったんだ.打てない筈ないよ.」
令子はシゲの代打にブラザーを出すことにした.当然,オーナーは渋ったが, シゲはいいんだと言った.オーナーがいい加減な情報を仕入れた為に, 話がこじれたからだ.オーナーは渋々ブラザーの代打を承諾した.
ブラザー「さあ,来い.」
ブラザーの声「きっと打てる.打ってみせる.」
ブラザーは二球連続空振り.オーナーは,シゲが入っていれば,と言って, シゲの顰蹙を買った.
令子の声「信じたこと,最後までやりぬくのよ.」
ブラザーの声「俺はやった.やりぬいたんだ.」
三球目は外角に大きく外れた.
たかおの声「脇を絞めて,ボールを充分ひきつけて.」
そしてブラザーは見た.たかおが顎に手をやり,顎を引け,と指示するのを. ブラザーはたかおが脇を絞めるしぐさをするのを見て肯いた. そしてブラザーは見事四球目をジャストミートし, 外野の頭を超える大飛球を打った. しばらく呆然と打球の行方を追っていたブラザーは,オーナーに促され, 一生懸命ダイヤモンドを一周した.
ブラザー「やったあ!」
こうしてブラザーはスランプを克服した.ナインに胴上げされるブラザーを見て, たかおは拍手した.喜び合うブラザーとたかお.それをコメッツのメンバー, そしてコメッツの監督若松も見た.若松はユニフォームと帽子をたかおに渡し, こう言った.
若松「たかお,お前のお蔭で同点になったぞ.ちゃんと自分で取り返せよ.」 ブラザーとたかおは握手しあった.
ブラザー「ようし今度は敵同士だ.」
たかお「待ってろ.今度はお返ししてもらうからな.」
こうしてたかおも心の傷を癒したのであった.

次回,太郎がメンバーの信頼を失って一騒動起きます.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp