「がんばれ! レッドビッキーズ」第42話

石黒コーチの縁談に揺れるナイン,そして令子
石黒コーチの縁談

脚本:上原正三 監督:畠山豊彦

珍しく令子がノックをしていた.だが令子のノックは相変わらず下手糞. 外野へ球が飛ばないので太郎は飽きてしまって次郎と一緒におにぎりを頬張り, センターもトータスも座り込んでしまった.
トータス「トータス,球が全然来ないねえ.」
なぜこうしていたかというと,前の晩に令子がコーチから電話を貰い, 所用で練習に出られないと聞いたため.そこへオーナーがやってきた. オーナーはコーチの「所用」の真相を聞き込んでいた. 昨日の昼頃にコーチは作業中に怪我したと言うのだ. 大藤電器へ出前に行き,その事を聞いたと言う.

令子とオーナーとジュクは病院へ駆けつけた. 妹のみゆき(女鹿智子)が令子達を出迎えた.コーチは積荷を降ろしそこね, 足を怪我してしまったのだ.その時, 令子は他に女(野川愛)がいるのに気がついた.彼女の名前は上田幸子. コーチはお見舞いに来たものだと思っていたが, みゆきの話だと実はお見合いだと言う.さらに母親も上京すると言う. 令子はみゆきに幸子の印象を聞かれ,口を濁した.ちなみにコーチの年齢は26歳. 結婚適齢期だ.

令子が家でその話をしていると, みゆきがコーチの母親(佐々木すみ江)を連れて来た.
母「あんたかね,うちの正人をたぶらかしているのは.」
不意にそんなことを言われた令子は驚き,みゆきは母をたしなめた.だが
母「あたしはねえ,親の許しも得ない結婚なんて許しませんよ.」
恵子「あのう,何か勘違いしてるんじゃございません? 令子はまだ高校生ですのよ.」
それを聞き,さらに「行く行くどうのという話」もないと聞き, コーチの母は一安心.いくら見合いの話をしても, コーチが突っ返したりするなど乗り気でないため, コーチの母は心配していたのだ.
令子「石黒さんはコーチ.私は監督.ただそれだけの関係ですわ.」
コーチの母は幸子の見合い写真を持ってきていた. 母は令子のことがはっきりしたと聞き,コーチを田舎へ連れて帰ると言った. それを聞く令子は複雑な思いで頭を垂れた.

コーチは田舎へ帰ることを渋っていた.田舎へ帰ろうと言う母や妹に向かって, コーチはバットを持って素振りをした.思い余ったみゆきは令子に言った.
令子「コーチを辞めて欲しい?」
みゆきはコーチの未練がましい姿を見ているのが堪らなかったと言う.
みゆき「兄は過去にしがみついています.栄光の日々が忘れられないんです.」
令子「あたしにはそんな風には思えませんけれど.」
みゆき「コーチを辞めたら決心がつくと思うんです,田舎へ帰る.」
令子がそんなこと言えないと言うと,さらに
みゆき「じゃあ,はっきり言います.兄さんはあなたが好きなんです.」
令子「みゆきさん…」
みゆき「だから誰にも振り向こうとしない,きっとそうなんだわ.」
令子「まさか.」
みゆき「いいえ.それ以外に考えられない,理由なんて.」
令子は絶句してしまい,首を左右に振るのがやっとだった.

その晩,令子は恵子に昼間のことを話した. 令子はそんなこと考えたことないととまどっていた. 果たしてそうなのだろうか?
恵子「淋しいのよ,お母さん.石黒さんと一緒に暮らしたいのよ. わかるわ,お母さんの気持ち.」

さて翌日.ジュリがノックを打っていた. だが打ちすぎで手の豆を潰してしまった. 駆けつけたナインは令子にコーチが辞める話が事実かどうか尋ねた. 太郎がコーチの縁談の話を聞きつけていたのだ.

ジュク達はコーチが辞める事に危機感を抱いていた. その時,ブラザーがとんでもない作戦を思いついた.
ブラザー「こういうのはどうだ.監督とコーチが結婚するんだ.」
カリカリ「馬鹿な!」
ブラザー「監督が上さんじゃ,逃げようがないぜ.」
ペロペロ「生まれた子供もレッドビッキーズだ.」
子供らしい飛躍した発想だ.
ブラザー「そうだよ.レッドビッキーズは永延に不滅だよ.」
ジュク「卓抜なる発想ですね.」

作戦は実行に移された.ペロペロは令子が公園で待っていると称して, コーチを公園へ行くように言った.令子はトータスから, コーチが公園で待っていると聞いた.物陰から覗くジュク達. シゲがラジカセから鳥のさえずりの音を流したりするなど, ムードを出そうとした.令子とコーチはすぐに作戦に気がついた. 令子とコーチはブランコに乗った.
ジュク「♪風に揺れて〜いる〜かしら〜あの白いブランコ〜ってとこですかな.」
随分ませた子供だ.閑話休題.
令子「でも折角会ったんだから,聞いちゃおうかしら.」
コーチ「なんだい?」
それを見て
ブラザー「あたしのこと,好き? 愛してる?」
馬鹿なことを言ったブラザーはカリカリに頭をはたかれた. ブラザーは口笛でコオロギの真似.ムードミュージックを流そうとして, シゲ達は四苦八苦.なぜかブラザーが発情したのか,変なポーズを取り
カリカリ「お前は気持ち悪いんだよ.」
と怒られた.その頃
令子「あのね,どうしてお見合いに応じないかって事.」
それを見て
ジュク「核心に触れてきました.」
コーチは困っていた.
コーチ「どうしてって言われてもなあ.」
令子「じゃあ,どうしてここにいるの?」
それを見て
ブラザー「君を愛してるからだよ.」
慌ててノミさんがブラザーの口を塞いだ.
コーチ「そうだよ.どうして俺はここにいるんだろう?」
コーチも答えが見つかっていなかった.
令子「お母さんはねえ,一緒に暮らしたいのよ.」
コーチ「うん.それは良くわかってるんだ. でも俺の中でどうしても踏ん切りがつかないんだなあ.何故だろう?」
そこへ岡持ちを持ってよし子登場.
よし子「シゲ,出前手伝っておくれ.今とっても忙しいんだよ.」
これにより,ジュク達の存在がばれてしまった.
ペロペロ「結婚ってとっても難しいんですね.」
去っていくジュク達を見て
令子「引き止めたいのよ.」
コーチは踏ん切りをつけなくちゃなあと考えた.

コーチは久し振りに練習に出た.その日のコーチの打球は強かった. ナッツが足にボールを当て,シゲは頭にコーチの打球を当ててしまった. 親馬鹿なオーナーはコーチをなじった.令子はこう言った.
令子「自分のイライラを子供たちにぶつけるのはやめて欲しいわ.」
コーチ「加減がわかんなかったんだよ.」
令子「そうかしら.一度御見合いでもした方がいいんじゃない.」
コーチ「田舎へ帰れって言うのか?」
令子「うじうじ考えてるよりは,その方がいいと思うわ.」
この言葉に衝撃を受け,コーチはバットを放り投げて去ってしまった.

コーチは荷物を持ってワゴンに乗った.車を発進させようとした時, コーチは脳裏に甲子園で活躍した日の事を思い浮かべていた. そしてコーチは令子に電話した.
コーチ「俺,帰ることにしたよ.」
令子「そう.」
コーチは公衆電話ボックスから去って行った. 令子は黙ってコーチと一緒に写った写真を見ていた.

翌日.気丈にも令子は石黒が帰る事にしたことをナインに話した. ナインは追おうとしたが
令子「行っても無駄よ.」
その頃,背広を着て,バスを母とみゆきと一緒に待っていたコーチは, しばらく待ってくれ,と言ってグランドへ行った.コーチの登場に皆,大喜び. 皆,コーチの周りに集まった.
コーチ「皆にお別れ言うの忘れてたんだな.」
ジュク「じゃ,もう…」
コーチ「うん.」
ジュク「そうですか.」
その時,シゲが言った.
シゲ「残念だな.昨日のお返ししようと思ったのに.」
コーチは思わずシゲの方を見た.
シゲ「今日ならうまく捕って見せるぜ.」
カリカリ「俺も受けたかった,鬼コーチの殺人ノック.」
皆,コーチのノックを受けたいと言った.
コーチ「本当に思うか,お前達.」
シゲ「勿論さ.」
コーチ「よーし,置土産にしごいてやる.」
皆,大喜び.令子もコーチがノックするのを見て頬笑んだ.さらに
母「まあ,またやってるよ.」
みゆき「兄さーん.」
令子は二人が見に来ている事に気付き,コーチに声をかけた. だがコーチは一心不乱にノックを打っていた.
みゆき「兄さん,令子さんが好きだと思っていた.でも間違っていた. 兄さんが好きなのは野球よ,野球なのよ.」
コーチも同じ事を考えていた.
コーチの声「体の底からこみ上げてくる涙の意味がやっとわかった. 今はじめて判った.俺が東京へしがみついているのは, この燃える瞳の少年達がいるからだ.俺が青春の全てを注ぎ, 体と心で覚えた技を,熱情を,俺は彼らに伝えたい.」
コーチ「そうだ.そうなんだ.」
コーチの母は決断した.
母「汽車に遅れるよ.」
みゆき「兄さんは?」
母「正人があんなに生き生きしてるなんてねえ.高校時代もああだった. 朝早くから夜遅くまで練習,練習.でも一言も言わなかった, 疲れたなんてねえ.」
なおもコーチはノックを続けていた.
母「まるで高校時代に戻ったみたいだよ.」
みゆきは肯いた.そしてコーチの母とみゆきは黙って去って行った.
令子「いいの?」
コーチ「俺のふるさとは,ここだ.このグランドだ.」
レッドビッキーズのナインは喜んでいた.それを見て令子は頬笑んでいた. コーチはやっと目標を見つけたのだ.

次回はサードのポジションを巡り,シゲとカリカリ, オーナーとカリカリの父,そしてよし子とカリカリの母も大喧嘩. なぜかペロペロがサードに入ります.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp