「がんばれ! レッドビッキーズ」第41話

ジュリ,ボール恐怖症に陥る.
よみがえるサウスポー

脚本:鷺山京子 監督:畠山豊彦

今日もレッドビッキーズは練習していた.ジュリの調子も良かった. だがカリカリが放った強烈なピッチャーライナーが顔面に当たりそうになり, 咄嗟にジュリはグローブで顔を庇った. 病院から出てきたジュリの顔に怪我はなかった.心配するナッツに
ジュリ「平気,平気.何ともないわ.」
と答えたが…

それからのジュリはノーコンになってしまった. 顔に怪我を負わなかったが心に怪我を負ってしまったのだ. つまり,無意識のうちにピッチャーライナーの恐怖がよみがえり, ミットに目が行かなくなっていたのだ.練習終了後,ジュリはピアノを弾いた. ジュリのお母さん(高山真樹)は野球なんかやめてしまえば良いのにと言っていた.
ジュリ「そうはいかないわ.でも野球って難しい.」

その頃,他のナインもジュリのことを心配していた. 太郎はマイペースで素振りをしていた.ナッツはジュリのことを心配. ブラザーはカリカリがピッチャーライナーを打つから行けないんだ, と言った.
太郎「バッターはがんがん打たにゃ.」
次郎「打たにゃ.」
太郎「うんと運動して打ってやらにゃ.」
ノミさんはピッチャーライナーの恐怖について語った. 彼はピッチャーライナーを足に当てたことがあり,とても痛かったという.
ノミさん「しばらく俺,恐かったよ.何となくね.」
ジュリ「でもジュリの場合,顔だもん.女の子としてはやっぱりショックよ.」
ジュク「そのショックが一時的なものならいいですが, それが元で野球が嫌になったりしないでしょうか?」
カリカリ「そんなことになったら大変だぜ.おい,俺達で何とかしてやろうよ.」

そこでナッツがジュリを呼び出してきた.ジュク,カリカリ,ブラザー, そしてノミさんはピッチャーライナーを克服するための練習をしようと勧めた. まずキャッチャーマスクを顔につけ,ゴムボールを投げてみようというのだ. そしてゴムボールで大丈夫になったら軟球に戻して練習しようというのだ.
ナッツ「いい考えでしょう.きっとうまく行くわよ.」
だが
ジュリ「よしてよ.」
ジュリはそっぽを向いてこう言った.
ジュリ「子供じゃあるまいし,ゴムボールだなんて.」
ジュク「でもボールに対する恐怖心をなくす為には…」
ジュリ「恐怖心? そんなものないわよ!」
ノミさん「恥かしいことじゃないよ.初めは誰でも恐いのが当り前なんだ.」
ジュリ「恐くなんかないって言ったでしょう.」
カリカリ「じゃあ,どうしてストライクを投げないんだ. 気持ちが逃げてるからだろう.」
ジュリ「ちょっとフォームを崩してるだけよ.」
ジュリは振り返って皆に言った.
ジュリ「気持ちはうれしいけど,はっきり言って余計なお節介よ!」
そう言ってジュリは帰ってしまった.
ジュリ「僕達のやり方が悪かったかもしれません. ジュリのプライドを傷つけたんですね.」

次の練習の時.ナッツは打席に入ろうとしたブラザーに耳打ちした. ブラザーはジュリの球をことごとく空振りしたが, 実はジュリに自信をつけさせるためにわざとボール球を空振りしていたのだ. これを令子もジュリも見抜いていた.
ジュク「もういいですよ.空振りしたぐらいじゃ駄目なんですよ.」
令子「ジュクの言う通りよ. どうやらジュリは本物のスランプに陥ってしまったらしいわ.」
練習終了後もブラザー達はブラザーの特訓と称してジュリに球を投げさせた. だがジュリのノーコンは相変わらずだった.遂にジュリはこう言った.
ジュリ「あんな球を振るんじゃ,野球をやめた方が良いわね.」
カリカリ「おい,そんな言い方ってあるかよ.」
ジュリ「別に.事実を言っただけよ.」
カリカリ「じゃあ,どうしてストライクを投げないんだ. いくら名バッターだからって,あんなクソボールが打てるか!」
ジュクはカリカリをなだめた.だが
ジュリ「もうたくさんよ.ブラザーの特訓なんて口実でしょう. あたしに投げさせるのが目的なんだわ.」
ブラザーはそうじゃないと否定したが
ナッツ「いえ,ジュリの言う通りだわ.」
ナッツはジュリに皆の思いを一生懸命説明した.
ナッツ「あなたがスランプで苦しんでるのがわかるのよ. だからみんなで力になってあげたいと思って…」
だがこの言葉はジュリの心を固くとざしてしまうだけだった.
ジュリ「もういいわよ.」
ジュリは駆け出してしまった.そして道端に立ち止まって泣いてしまった. そして振り返ってこう言い放った.
ジュリ「野球,野球って何夢中になってるの? こんなことまでして何だって言うの.野球なんかただの遊びじゃない!」
この言葉を聞いたナインは皆ジュリに反発した.
カリカリ「おい,そんなつもりでやってたのかよ.」
ジュク「僕らにとって野球は全てです. そんないい加減な気持ちの人はいません.」
ジュリ「私は違うわ.野球なんて止めたっていいのよ.ピアノをまた始めるわ. テニスだってやれるのよ.」
ジュリはこう言い放って去って行った.皆怒り狂った. 一人ナッツだけがジュリの気持ちを理解した.
ナッツ「いいえ,本気で言ってるんじゃないわ.ジュリだって辛いのよ.」
だが
ジュク「それにしても言って良い事と悪い事があります.」
カリカリ「無駄だったよ.」

次の練習の時.ジュリの球を受けようとする者は誰もいなかった. 令子は帰りにジュクから話を聞いた.
ジュク「許せません. 本当ならジュリにレッドビッキーズを止めてもらいたいくらいです.」
令子「君達の気持ちはわかるわ. でもジュリだって本気でそう言ったとは思えない. だって小さい頃から習っていたピアノを止めてまで, 野球に打ち込もうとしていたんですもの.」
ジュク「僕達は,下手糞,やめちまえ,とみんなに言われて, それでも野球を続けてきたんです.それなのに野球を遊びだなんて言われたら…」
令子は気がついた.
令子「そうよ.ジュリにはそれが欠けているんだわ.」
ジュク「え?」
令子「みんなはどん底から這い上がってここまでやってきたわ. でもジュリは違う.入団してすぐリリーフエース. 今迄野球の楽しさは知ってても,その苦しさを知らなかったのよ.」

次の練習の時.何と令子はジュリを投手から外すことを決めた.皆驚いた. オーナーは無茶だと反対した.しかもジュリのポジションとは
令子「ジュリの新しいポジションとは球拾い兼雑用係よ.」
ジュリはショックを受けた.
令子「ストライクの入らないピッチャーに用はないわ. 別なことで役に立ってもらわなくちゃ.」
コーチ「もちろん投げられるようになったら,すぐピッチャーにカムバックだ.」
なおもオーナーは無茶だと反対したが
令子「以上よ.練習始め.」
練習中,ジュリは後方で哀しそうな顔をして立っていた. 皆が練習を終えて帰る最中,ジュリはベースやボールを片付けていた.

練習を終えたジュリは家に帰り,ピアノを弾いていた. するとお父さんの北原(小美野欣二)が帰ってきた. 北原はピアノの音が乱れているのを聞き,ジュリの心の迷いに気付いた. 雑用係に回され腐ったジュリを見て北原はピアノに鍵を掛けてしまった.
北原「少しぐらいきついからって,もうくじけてしまうのか.」
ジュリ「パパ.」
北原「レッドビッキーズはお前が選んだ道だ.途中で止めることは許さんぞ.」
ジュリは泣いて部屋から出て行った.

北原は令子の家を訪れ,こう言った.
北原「私は詳しい事情は知りませんし,また聞こうとも思いません. 全てお任せします.」
恵子「でも北原さん,令子はまだ子供ですし…」
北原「いやあ,江咲さんが信頼を置いているお嬢さんだ.ご厄介でしょうが, なまじ親が口を出さない方が良いでしょう.」
ちなみに北原と幸一郎は同じ会社に勤めている.
令子「できるだけの事はやります.」
北原「頼みます.」
そう言って北原は席を立った.そして玄関で
北原「ジュリは決して弱い娘じゃないんです.ただ失敗に慣れていないんです.」
令子「わかっていますわ.」
北原と令子の思いは同じだったのだ.
北原「ではよろしく.失礼します.」
北原が帰った後
恵子「お父さんがあなたを信頼してるんですって.」
令子「案外親馬鹿なのね.」
恵子「令ちゃん,しっかりしてよ.」
令子「あら,女の子の野球は反対じゃなかったの?」
恵子「そうよ.でも今度はお父さんの信頼が掛かっていますからね.」
令子は笑って肯いた.

CMが終わり,次の練習終了後,令子はこう宣言した. 次からは30分早く来て皆のスパイクを磨けと言うのだ. 流石にナイン達も反対したが,令子の意思は固かった.
令子「ジュリは雑用係よ.スパイクぐらい洗う事当り前だわ.」
皆令子に詰め寄ったが
コーチ「監督の言うとおりだ.与えられた仕事なんだからな.」
ジュリは泣きそうな顔をしていた.
令子「口惜しかったら投げてみることね.」

とは言うものの,コーチも令子の方針に懸念を抱いていた.
令子「でもこれしか方法はないわ.あたしはジュリを信じてるわ. 辛さを跳ね返す力をあの娘は持っていると思うの.」
コーチ「だといいが,それまで我慢できるかなあ.」
令子「ジュリは恵まれすぎていたのよ. 音楽もスポーツにも人並み以上に才能を与えられていて, 今迄やることなすことうまく行っていたのよ.」
コーチ「はじめての厳しい試練というわけか.」
令子「ジュリならこの試練も乗り越えられるわ. そのためにあたしが悪役になることぐらい,なんでもないことよ.」

ジュリはスパイクを摩いていた.そしてコンドラで土をならしていたが, 虚しい気分になり,コンドラを放り投げて走り去ってしまった. 家に帰ったジュリはピアノの鍵が開けてある事に気がついた. ジュリはピアノを弾こうとしたが弾くことができず,ピアノに突っ伏して泣いた.
ジュリ「どうして,どうしてあたしだけがこんな目にあわなきゃ行けないの?」
令子の声「投げられないのは誰のせいなの? 誰でもないわ.ジュリ, あなた自身のせいよ.」
北原の声「お前が選んだ道だ.途中で止めることは許さん.」
令子の声「口惜しかったら投げてみることね.」
ジュリ「あたしだって投げたい.それができないから苦しんでるのに.」
ジュリは泣くのであった.

ナインは雑用係のジュリに同情するようになっていた. だが表立って手伝う事は令子に禁止されていた.
令子「ジュリ,昨日,トンボが投げ出してあったわ. 罰としてバケツに一杯小石を拾うこと.いいわね.」
そして令子は他のメンバーに言った.
令子「さあみんな,何やってるの? 一緒に帰りましょう.」
ナイン達の声は元気がなかった.ジュリは一人でみんなを見送った. 一生懸命グランドの小石を拾うジュリ.一人で小石を拾うジュリ. そこへナッツ,カリカリ,ブラザー,ノミさん,ジュクが帰ってきた.
ジュリ「ナッツ.みんな.」
カリカリ「監督を撒いてきたんだ.あんまりだよ,こんなやり方.」
ブラザー「酷すぎるよ.ジュリが何か悪い事でもしたってわけでもないのにさ.」
ナッツ「あんなに優しい監督なのにどうしてあなただけに厳しいのかしら.」
ノミさん「まるで何か恨みあるみたいだ.」
ジュクの意見は一味違っていた.
ジュク「まさか,そんな.監督には監督の考えがあるんですよ. それより早くやってしまいましょう.」
ジュク達はジュリを手伝い,小石を拾ってやった.
令子の声「口惜しかったら投げてみることね.」
ジュリはみんなに懇願した.
ジュリ「お願い,お願い.あたしを助けて.監督を見返してやりたいの. ストライクの速球をミットに叩きつけたいの.」
ジュクの両肩を持つジュリの目から涙がこぼれていた.
ジュリ「お願い.」

次の日から,河原でジュリの特訓が始まった. そこはノミさんがノーコンを克服する特訓をした河原だ. キャッチャーのマスクをつけ,ジュリは一生懸命ゴムボールを投げた. 初めはノーコンだったジュリもストライクを投げられるようになった. ジュリは自分からマスクを外した. 投げていくうちにジュリはストライクを投げられるようになった. そして球を軟球に変えて見る事になった.一瞬,ジュリは躊躇したが
ナッツ「大丈夫よ.やれるわ.」
皆の言葉に励まされ,ジュリは練習を開始した.

次の練習の時,令子はジュリに投げてみないかと誘ってみた. ノミさんもジュクも明日か明後日にしてほしいと頼んだが
ジュリ「いいえ.投げます.」
令子「三球.ただしストライクだけよ.」
ジュリはマウンドに立った.
ジュリの声「投げてみせる.速球のストライク.」
ジュリは二球続けてど真ん中に投げた.遂にコーチが宣言した.
コーチ「よーし,今度は打つぞ.」
コーチの打球はピッチャーライナーだった. ジュリは顔面に飛んだ打球をグローブで見事捕る事ができた. ジュリはピッチャーライナーの恐怖から脱することができたのだ. 喜ぶナイン達.ジュリは言った.
ジュリ「皆のお蔭です.皆のお蔭です.」
令子「ジュリ,よく頑張ったわね.ピンクのサウスポー.」
ジュリ「監督.」
喜ぶナイン.令子の目も潤んでいた.

次回は石黒コーチに縁談が…

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp