「がんばれ! レッドビッキーズ」第40話

模擬試験を前にして悩むジュク.それを見たノミさんの友情.
ノミさんの友情

脚本:上原正三 監督:田中秀夫

ジュクは上の空だった.そのことにノミさんは気がついていた. やって来た令子にジュクが,ノミさんのボールは最高です,と言うのを見て, ノミさんは言った.
ノミさん「嘘つくな.ジュクは僕のボールなんか見ていない. ジュク,どうも変だぞ.どうしたんだよ.」
ジュク「変なことなんかありませんよ.」
ノミさんはジュクが何でもないパスボールをしたことを責めたが, ジュクは気のせいだと否定した.令子も何かあったのかと聞いたが, ジュクは気のせいだと否定した.
ノミさん「ジュク,何かあったら言ってくれ.俺達はバッテリーじゃないか.」
それでもジュクは気のせいだと答えた.

家に帰ったジュクはお母さんから模擬試験で50番以内に入るように言われていた.
お母さん「50番以内に入らなければ野球をやめてもらうわよ.」
ジュク「50番以内に入ります.野球も続けます.」
そんなある日.練習中にジュクはお母さんの言葉を思い出していた.
お母さんの声「50番以内に入らなければ野球をやめてもらうわよ.」
ジュクの頭の中を50という数字が駆け巡った.そのため, ジュクは練習中にノミさんの球を受け損なってしまい, 右手の親指を突き指してしまった.そこへオーナー登場. 次の日曜日の練習相手がエリートスターズに決定したと言うのだ. エリートスターズは東京大会で準優勝したチームだ. そこへよし子が登場.またオーナーがどやされるのか…と思ったら, よし子は「エリートスターズなんかぶっ飛ばしてもらいたくてさ」と, おにぎりを差し入れに来たのだ. ちなみに太郎とペロペロは真っ先におにぎりに手を出し, 令子に「練習が終わってからよ.」と注意されていた.

練習の帰り道,ノミさんは練習をやめるようにジュクに言った. 50番以内に入らなければ野球をやめさせられるんだろ,と言うノミさんに, ジュクは,大丈夫です,自信があるんです,と答えた. だがノミさんは納得しなかった.
ノミさん「それならあんなに試験のことばかり気にしてないはずだよ. 休まなきゃ駄目だ.手がそれ以上悪くなったら鉛筆も握れなくなっちゃうぞ.」
ジュク「君には関係ないでしょう.僕には僕のやり方があるんだ.」
ノミさんはジュクの手を持ち,言った.
ノミさん「投げるのは僕なんだぜ.試験の点数気にしながら, 受けてもらいたくない.」
ジュク「気にしてなんかいません.」
ノミさん「してる.だから怪我したんだ.」
ジュク「僕はやることだけはちゃんとやります.ほっといてください.」
そう言ってジュクは立ち去ってしまった.呆然として見送るノミさんを, 令子は目撃してしまった.

家に帰った令子がバッテリーのことで悩んでいると言うと, 恵子は「馬鹿ねえ,ちゃんと予備買っとけばいいじゃないの.」と, 頓珍漢な事を言った.充電池のバッテリーと勘違いしたのだ. 呆れた令子は立ち去った.それを見た恵子は
恵子「でも野球にどうして電池がいるのかしら?」
とべたな天然ボケを視聴者に披露するのであった.

ジュクは一生懸命家で勉強していた. 突き指の痛みも「眠気覚ましに丁度良いや.」と強がりを言っていた. 一方,ノミさんは太郎の自転車屋へ行き,キャッチャーをやってくれ, と頼み込んでいた.太郎はリードが苦手だと言い,さらに
太郎「あれ駄目なんだ.」
次郎「あれ駄目なんだ,ノミ.」
それを受けてノミさんが言った.
ノミさん「どうして僕がノミって言われるか,知ってるか?」
太郎「ノミの心臓か.気の弱い奴のことだ.」
ノミさん「気の弱いエースなんて本当は失格なんだ. その僕がここまでやってこれたのはジュクのお蔭なんだ.」
太郎「それがどうしたよ.」
ノミさん「そのジュクが野球をやめなきゃならないかもしれないんだ.」
太郎の手が止まった.
ノミさん「なあ,太郎君,頼む.」
全くの余談だが,元巨人の斎藤雅樹は気の弱いところがあったが, それを克服してあそこまでの大投手になった.

そして練習の時.令子は太郎がキャッチャーをやると申し出たのを聞き, 驚いていた.コーチは肩も良いからキャッチャー向きだと賛成していた.
令子「でも補欠でもキャッチャーだけはやだって言ってたじゃない. それにうちにはジュクと言う名キャッチャーがいるわ.」
カリカリ「だけど長打力は太郎のが上だぜ.」
シゲ「なーんて言っちゃって.ファーストを取られたくないんだろう.」
カリカリ「なにを,お前こそ.」
カリカリとシゲがつかみ合いの喧嘩を始めたので令子は止めた.
令子「じゃあ,今日からペロペロに代わって, ジュリさんのボールを受けて御覧なさい.」
だが
ノミさん「駄目だよ.」
令子は驚いた.
ノミさん「監督,テストしてみてください.」
ジュク「ノミさん.」
ノミさん「太郎とジュクで牽制やバント守備はどっちがうまいか, バッティングはどうなのか.」
コーチ「まあ,それも大切だけどな, ピッチャーはキャッチャーと呼吸が合わなきゃ.」
それでも
ノミさん「それは僕が合わせます. 問題はどっちが信頼できるキャッチャーかと言うことなんだ. 牽制球も投げられないキャッチャーじゃ駄目なんだ.」
それを聞いたジュクはうなだれて突き指した右手の親指をじっと見た.
太郎「監督,やらしてくれよ.」
令子は決断した.練習で太郎は見事に走者を刺した. それを見たジュクはうなだれてしまった.そしてノミさんに言った.
ジュク「君はそんなにしてまでエースの座を守りたいんですか.」
ノミさん「ポジションを守りたいのは君の方だろう.」
ジュク「何ですって!」
ノミさん「僕と太郎君がバッテリーを組んだら補欠に回るほかないもんな.」
ジュク「馬鹿な.手さえ何ともなかったら…」
ジュクは思わず右手の親指を見てしまった.
ノミさん「それが気に入らないんだ. いい加減な気持ちで受けてるから怪我するんじゃないか. そんな奴とバッテリーを組むのは真っ平だ!」
ジュクはショックを受けてしまった.
ジュク「君がそんなやつだとは思わなかった.」
ノミさん「野球なんかやめちまえ!」
そう言ってノミさんは太郎を相手に投球練習を開始した. ジュクは走り去ってしまった.カリカリは追いかけようとしたが
ノミさん「ほっとけよ.あいつは負けたんだ.」
太郎「今度の試合はニューバッテリーの初勝利と行きたいな. みんなと頑張ってバックアップ頼むぜ.さあ,頑張っていこう.」
気まずい雰囲気が流れていた.

公園で令子はジュクに声を掛けた. 令子はジュクの突指を見てノミさんの意図を見抜いた.
令子「ノミさんの言う通りね.お医者さんに行くのよ.ちゃんと治して, 模擬試験の勉強に集中しなくちゃ.」
ジュク「もういいんです.50番以内に入っても, もうノミさんとはバッテリーは組めないんだ.」
令子「何を言ってるの.」
ジュク「僕は今迄何のために野球と勉強を両立させてたんだ.」
令子「野球の魅力.それにとらわれているから.」
ジュク「素晴らしいと思ってた.みんなで力を合わせて, 互いに励ましあって,一つの目標に向かって努力する.そこから生まれる友情.」
令子「ジュク,見せたいものがあるわ.」
令子は,ノミさんがタイヤを引っ張って, 坂を一生懸命上って特訓しているところを見せた. ノミさんも不安でじっとしていられなかったからだ.
令子「ノミさんにとって, これからの一試合一試合がエースの座を賭けた闘いなのよ. しかも相手はエリートスターズよ.今ほど君のリードが必要だと言うことを, 誰よりも良く知っている.」
ジュク「でもそれじゃあ何故?」
令子「君とバッテリーを組むためよ.早く怪我を治して, 試験でいい成績を取って,野球を続けて欲しいのよ.」
ノミさんの特訓は続いていた.それをジュクはじっと見た.だが
ジュク「違う.」
令子「ジュク.」
ジュク「ノミさんは意地でも太郎君とのバッテリーを成功させるつもりなんだ. もう僕と組む気はないとはっきり言ったんです.」
令子「ジュク,あなたとノミさんは一心同体のバッテリーじゃないの? あなたはノミさんの友情が判らないの?」
思わずジュクは令子の方を見た.二人はじっとみつめあった.だが
ジュク「ノミさんに友情なんてあるもんか.」
ジュクはそう言って走り去ってしまった.
令子の声「ジュク,あなたなら判ってくれると思ったのに…」
ノミさんはなおも特訓を続けていた.

そしてエリートスターズとの試合を向かえた. だがノミさんと太郎の呼吸はまるで合わなかった.何度も何度もタイムをかけ, ノミさんが太郎を呼んで球種を決める始末だった. たちまち満塁のピンチに陥った.令子はタイムを掛けて一呼吸入れさせたが, ノミさんは次々と打たれ,さらに暴投して自滅しまった.

その頃,ジュクは家で勉強していた.
令子の声「ジュク,あなたとノミさんは一心同体のバッテリーじゃないの? あなたはノミさんの友情が判らないの?」
ジュクの脳裏にノミさんの姿が浮かんだ.そしてジュクは叫んだ.
ジュク「ノミさん.」

一方,ノミさんは連打を食らっていた.コーチはジュリへの交代を示唆したが, 令子は未だ4回だと渋っていた.だがノミさんは結局打たれてしまった. なおも一,二塁のピンチだ. 令子はジュリに交代を指示しようとした.そこへ
ジュク「待ってください.」
ジュクがユニフォームを着てやってきた.
ジュク「僕が行きます.球威そのものは衰えていません. 僕がリードすればノミさんだってまた投げられます.」
コーチは突指の悪化を懸念したが
ジュク「大丈夫です.監督,もし僕がレッドビッキーズをやめることになったら, 太郎君に僕が学んだことを全部教えます. そうすればノミさんはまた投げられます. でも今このままでマウンドを降りたら駄目です. ノミさんはエースの誇りまでなくしてしまいます.僕に受けさせてください.」
令子はジュクの熱意に賭ける事にした.
令子「私は間違っているかもしれない. だけど今あなたを止めてはいけないと思う.」
こうしてノミさんは続投.その代わり,太郎がベンチに下がり, ジュクがキャッチャーに入った.
ジュク「僕のミットに投げ込むんです.」
ノミさん「指は?」
ジュク「大丈夫.」
ノミさん「勉強は?」
ジュク「大丈夫.」
ノミさん「よし,行くぞ.」
ノミさんは一生懸命投げた.そして捕球したジュクは三塁へ牽制し, 三盗したランナーを刺した.
ノミさんの声「ジュクの親指に負担をかけてはいけない. よーし,遊球は投げないぞ.」
さらにバッターはショートライナーに倒れ, 飛び出していた二塁ランナーもアウトになった.
ジュク「ありがとう,太郎君.」
次郎「俺,次郎.」
令子は言った.
令子「差は5点よ.ランナーを貯めて逆転しましょう.」
それからのノミさんは人が変わったように好投した.結局試合は7-12で負けた. だがレッドビッキーズは勝利よりも大事なものを勝ち取った.

そしてジュクの模擬テストの日.ノミさん,太郎,次郎, そして令子は「がんばれ!!ジュク」という垂れ幕を用意してジュクを励ました. 喜んで出かけていくジュクを見て令子は思った.
令子の声「大丈夫.ジュクは必ず50番以内に入るわ. そしていつまでもいつまでも野球を続けて欲しい. こんなにも素晴らしい野球を.」

次回はデッドボールを受けたジュリがボール恐怖症に落ち入り,ナインと対立. 令子が荒療治を試みます.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp