「がんばれ! レッドビッキーズ」第39話

スランプのカリカリが山中湖遠征で亡きペンフレンドとの約束を果たす.
富士山に向って打て!

脚本:上原正三 監督:田中秀夫

カリカリはスランプに陥っていた. 上体と腰がばらばらで手だけで打とうとしていた. カリカリは太郎の加入に伴って焦っている,と令子は考えた. 一方,エジプトにいる幸一郎から絵葉書が届いていた. 文面はレッドビッキーズのことばかり.恵子は呆れてしまった. さらに工藤政治という人からも令子のところに手紙が届いていた. 住所は山梨県南郡山中湖村.令子には心当たりがなかった. ちなみに令子の家は東京都練馬区桜ヶ丘 1-22 にあるという設定.
令子「前略.私は山中チームの監督をしております工藤と申す者です. 実は私のチームのエースピッチャーである沢村真吾とお宅の島田剛君とは, 野球ペンフレンドとでも申しましょうか,いつの日か対戦して, 力いっぱいの勝負をしようとお互い励ましあってきた間柄なんだそうです. しかし,うちの沢村から送った挑戦状に対し, 島田君からは何の返事もないとの事で, こうして初対面のあなた様に不躾とは知りつつお便りを差し上げた次第です… カリカリが?」

翌朝.カリカリは一生懸命練習していた.毎日400回素振りしていた. 手に出来た血豆を潰してしまうほど激しい物だった.カリカリは焦っていたのだ. 令子はカリカリにその理由を尋ねた.カリカリは太郎の加入が原因だと答えたが, 令子は真の理由を見抜いていた.返事を出さなかった理由も.
令子「なぜ返事を出さないのか.それはホームランを打つ自信がないからよ, 沢村真吾君からね.そして焦った.ホームランを打ちたい.大振りになる. フォームを崩す.いくら練習しても深みにはまる一方だわ.」
カリカリは無言だった.
令子「ねえ,行きましょう,山中湖へ.」
カリカリ「え?」
令子「まず対決するのよ.沢村真吾君とね.」
こうしてレッドビッキーズは山中湖へ遠征に出かけることになった. カリカリのスランプ脱出のきっかけになると令子が考えたからだ.

バスの中で令子とカリカリは真吾の話をした. 写真で見る真吾はピッチャー向きの体格をしていた. 真吾は12三振を奪った事もあった.しかも真吾の防御率は1点台だった. レッドビッキーズの面々を工藤達,山中チームのナインが出迎えた. 工藤に促され,沢村とカリカリは挨拶をかわした. 沢村の態度はどこかぎこちなかった.試合は翌日. レッドビッキーズの面々は「英気を養う」事になった. なぜかよし子も炊事当番と称して遠征に参加していた. 令子は馬に乗り,コーチと太郎と工藤は釣り. カリカリは沢村と一緒にボートに乗っていた. 沢村はスケートが好きだが釣りは嫌いだとカリカリに言った. これを聞いてカリカリは首をかしげた.

夜はバーベキューとキャンプファイヤーだ. ピーマンを美味しそうに食べる沢村を見ながらカリカリは首をひねっていた. ジュクとノミさんは翌朝カリカリの特打を手伝うことを申し出ていた.

翌朝.山中湖畔でカリカリの特打が始まった.だがカリカリは考え込むばかり. その理由は
カリカリ「監督,真吾がおかしいんだ.」
令子「真吾君がどうかしたの?」
カリカリ「手紙と違うんだ.」
令子「手紙と違う?」
カリカリ「冬の山中湖でワカサギ釣りをするのが好きだって書いてあった. それなのに,昨日聞いたらスケートのほうが好きだって.」
令子は笑ったが
カリカリ「それから手紙によると真吾はピーマンが大嫌いなんだ. それなのに夕べは食べていた.」
令子は人の好みは変わるわよと言い,ジュクやノミさんは神経質になりすぎだ, と言って練習再開.とその時,工藤と沢村が墓参りするところを, 令子達は目撃した.その墓は何と沢村真吾の墓.令子達に工藤が言った.
工藤「沢村真吾は二ヶ月前に亡くなりました.」
カリカリを出迎えた沢村とは弟の真二だったのだ.工藤は令子達に理由を話した. 真吾は山中チームのエースだった.その速球は中学生にも打てないくらいだった. ところが一年半くらい前から真吾は脳腫瘍を患い,ずっと入院生活を送っていた. カリカリと文通を始めたのは一年位前.手紙に書いてあった, 「12個三振を奪った」とか「もっか12連勝中」というのは真吾の作り話で, 全て病室の中で天井を眺めながら,こうなりたい,こうありたい, そう言った夢や希望を手紙に書いていたのだ.カリカリに送った写真は, 入院中なので真二のユニフォーム姿を撮った物だった.
工藤「これが真吾の写真です.」
カリカリは工藤が出した二枚の写真を見た.一枚はユニフォーム姿. もう一枚は病院のベッドの中でグローブをはめ,ボールを握っている物.
真二「兄ちゃん,会う度にゆうとった.」
真吾はいつも退院したらレッドビッキーズと対戦すると言っていたのだ. カリカリとの約束を守るためにだ. 真吾はカリカリの写真を真二に見せながら言った.
真吾「なーに,返り討ちさ.空振り三振さ.」
話し終わった真二は感極まって泣いてしまった.
工藤「騙したことは重々お詫びします. でもどうしてもレッドビッキーズと真吾のために.申し訳ありません. 許してください,島田君.」
カリカリは真吾の写真をじっと見つめ,そして真吾の墓を見るのであった.

CMが終わり,レッドビッキーズと山中チームとの試合が始まった. まず一点とられてしまった.カリカリは考え込んでいた.
工藤の声「真吾の作り話です.こうありたい,こうなりたい, そういう夢や希望を君に書き送ったんです.」
そのため,ファーストゴロを捕れず,バッターランナーが生きてしまった. 続くファースト正面のゴロもお手玉し,三塁走者が生還して,バッターも出塁. 続く打者は 6-4-3 のダブルプレーに切って取ったが, 結局山中チームは初回の表に3点を入れた. 三回裏の攻撃.ナッツが出塁し,センターが凡打に倒れた.
よし子「シゲ,ホームラン頼むよ,ホームラン.」
シゲはホームランにはならなかたがヒットを打ち,満塁にした. カリカリに打席が回った.だがカリカリは三球とも空振りして三振した. 早くも令子はトータスの代打に太郎を送った. 太郎は真二の球を二球続けて空振りしたが, 三球目をジャストミートし,ホームラン.皆大喜びしたが, 独りカリカリだけはベンチでうなだれていた.ノミさんは凡打に倒れた. 令子はノミさんに代えてジュリを入れた.
工藤「富士山までかっ飛ばせ!」
山中チームのナイン「富士山までかっ飛ばせ!」
カリカリがミスを重ね,山中チームは得点を重ねた. こうして向かえた最終回.5対3で山中チームがリードして向かえた. 令子は,チェンジまで諦めないで,と言った. スタイルとナッツが連続して凡打に倒れた.しかし,センターとシゲが出塁. 二死一,二塁でカリカリに回った.
オーナー「おい,今日の島田は当てにならんぞ.」
ペロペロ「太郎ならホームランが期待できるのになあ.」
だが令子はカリカリに賭けた.カリカリは初球を見送りのストライク. 二球目を空振り.あっと言う間に追い込まれてしまった.令子はタイムを取った.
令子「何よ,今の気のないスイングは.」
カリカリ「俺だって精一杯振ってるよ.」
令子「真吾君はね,亡くなる寸前まで君と対決することを夢に見ていたのよ.」
カリカリはうなだれた.
令子「君は裏切っているわ,真吾君を.あの富士山に向かって打ちなさい, 思いっきりね.」
カリカリは肯き,打席に入った.ボールカウントは
審判「ツーストライクワンボール.」
辻褄が合わないような気がするが,無視しよう.閑話休題. カリカリは真二をじっとみつめた.令子も工藤も二人をじっと見た. カリカリには真二の姿が真吾に見えた.
工藤の声「真吾は島田君との対決を心の拠り所にしとったようです. 元気になりたい一心で手術にも耐えて.」
そしてカリカリは真二の投げた球をジャストミート.見事に外野の頭を越えた. カリカリの脳裏には真吾の姿が映っていた.
カリカリの声「真吾,見たか.俺は打ったぜ.ホームランだ.」
真吾の声「島田,俺の負けだ.ちきしょう.」
真二はうなだれた.ランナーが帰ってきた. だがカリカリは打席に立っていたままだった.
コーチ「島田,走れ.走れ.」
我に帰ったカリカリは走った.
真吾の声「島田.島田.」
カリカリの頭の中を色々なものが駆け巡った.真吾の姿,自分の特訓など. カリカリはホームインした後,富士山に向かって叫んだ.
真吾「真吾,打ったぞー.」
カリカリは真吾との約束を果たしたと同時に, スランプ脱出のきっかけをつかんだのであった.

次回は模擬試験とエリートスターズとの対戦を前にし, 焦って突き指したジュクを見て, ノミさんが太郎をキャッチャーに指名するという強攻策に打って出ます. さあ,どうなるか.

多分,題名は故大杉勝男さんに打撃コーチが指導した時に言った言葉, 「月に向かって打て!」を意識してつけられたものでしょう. また舞台となっている山中湖畔には林寛子さんの別荘があったので, 地元との付き合いの関係で林さんが頼んでこのロケが実現したそうです.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp