第二十二回

令子と父の対立
負けないわ! お父さん

脚本:上原正三 監督:奥中惇夫

練習に出かけようとする令子が身支度をしていると電話がかかってきた. エジプトから帰国してきたお父さんが, 羽田空港(当時成田空港はなかった)から掛けてきたのだ. 大喜びで自室から1階の店にいるお母さんのところへ令子は電話を転送. 1階に降りた令子は受話器を持ったまま呆然としているお母さんを見かけた. お母さんは今度お父さんと一緒に温泉へ行こうかと言い, 令子もそれを快諾.外へ出た令子は, コーチが女の人と一緒に歩いているところに遭遇. なんとコーチの婚約者だと言う.どぎまぎする令子. だが彼女はコーチの妹だった.就職するために上京してきたのだ. ちなみにこれは次回以降の伏線です.それは兎に角, 当分妹の就職活動を手伝うため練習に参加出来ないとコーチは言った. 令子がグランドへ行ってみるとオーナーもいない.シゲの話では, 組合の寄り合いがあるという.仕方がないので柔軟体操をすると, ペロペロとトータスはあっち向いてほいを始め, それをきっかけに皆体操を止めてあっち向いてほいを始めてしまった. そこへ令子のお父さんが帰ってきた.帰ってきたそうそう, お父さんはレッドビッキーズのコーチを開始した.高校時代, お父さんは名ショートだった.つまり令子の野球好きは父親譲りなのだ. 閑話休題.その晩,お父さんはレッドビッキーズのスコアを見て, あのバイキングとの一戦以来レッドビッキーズが勝っていない事を知った. 「何かが足りないんだ.」と言うお父さん.お父さんのコーチ振りは加熱し, レッドビッキーズにフォーメーションプレーを特訓.オーナーも, 妹の就職が決まって復帰したコーチも感心したが,それを見て令子は反発した. ある日,令子はお父さんをグランドに置いてけ堀にし, レッドビッキーズの面々を川原へランニングに連れ出した. そこへお母さんがやってきた.お父さんが帰国したのは体の具合を悪くしたため. お父さんは精密検査を受けさせられるために強制的に帰国させられたのだ. 体が悪いのになぜ野球のコーチをするのか.お父さんは野球が本当に好きだった. 高校時代,足を捻挫しても代打に出て,意地でホームランを打ったほどだった. 「逆境にあればあるほどファイトをかきたてる. それがお父さんのモットーなのよ.」 令子がグランドに戻ってみると,お父さんは独りでランニングを続けていた. 令子はやめさせようとしたが,お父さんは逆に勝負を申し出た. 令子は受けて立った.そして令子はお父さんと一緒に走った. 一生懸命走る令子とお父さんをナインが,コーチが,そしてお母さんが見る. ペロペロが言った.「トータス,俺達も勝負と行くか.」「負けるもんか.」 ペロペロはペロペロキャンディーをコーチに渡した. そしてトータスとペロペロも走り始めた.だがペロペロはトータスに追いつかれ, 「ガス欠だー.」と叫んでトータスの上に倒れこんでしまった. そんなペロペロにジュクはペロペロキャンディーを渡してやった. 一方,お父さんの頑張りは半端でなく,令子は差をつけられ始めた. 令子を応援するナイン達.黙って見つめるコーチ.心配そうに見つめるお母さん. 結局,令子は根をあげて倒れてしまった.「もうこれ以上走れない.」 「じゃあ,降参しなさい.」そう言ってお父さんはなおも走った. 「約束だぞ.お父さんを休ませたかったら勝ちなさい.お父さんに.」 令子は立ち上がったがヘロヘロだ.たまらずお母さんは「やめて. やめてください.」と叫んで駆け寄ろうとしたが,お父さんは「勝負なんだ.」 なおも令子とお父さんは走ったが,令子は倒れこんでしまった. 「聞こえるか,令子.命の燃える音が.」「命の燃える音?」 「そうだ.命の燃える音だ.」そういうお父さんもフラフラだった. お父さんは手をついて言った.「どうだ.」お父さんは, レッドビッキーズに一番大事なのは野球に対する熱情だと言うことを, 令子に伝えたかったのだ.「令子.野球に慣れてしまった. だから練習を見ていてもただなぞっているだけだ. それが勝てない最大の原因だよ.」スパルタ式に練習することを, お父さんは望んでいなかった.野球を追及する心を望んでいたのだ. 「それさえあれば例え10分の練習でも身につくものは違ってくるはずだ.」 それを体で知った令子であった.駆け寄るナインに令子は, 勝負はまだまだと言って走り始めた.コーチは監督に負けずに走ろうと声を掛け, ナインは令子の後を追いかけて走り始めた.「聞こえます,お父さん. 命の燃える音が.」


東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp