「必殺仕業人」第28話「あんたこの結果をどう思う」

脚本は安倍徹郎.監督は渡邊祐介.

今回はいきなり仕置シーンから始まる.まずやいと屋が懐中の火種を吹いた. 手に持つ御神籤はその後の運命を暗示するかのように「凶」だった. やいと屋は御神籤をくしゃくしゃに丸めて捨てた. もちろん,やいと屋は他にも御神籤を持ってはいたが… そして標的が籠で帰ってきた.
やいと屋「会津屋さん.」
会津屋「誰だ?」
やいと屋は会津屋を仕置した.

主水はある藩の重役の籠に声を掛けていた.
御付きの侍「何事だ.」
主水「失礼ですが,藩姓名の儀,承りたい.」
籠を開けて重役(永野達雄)が名乗りをあげた.
多門「奥州柴山藩土屋多門.」
主水「御無礼いたしました.どうぞお通り下さい.」
行列が去った後,主水は剣之介とお歌に目くばせ. そして下谷の柴山藩藩邸に籠が到着した時,お歌が現れ, なにやら意味ありげに笑った.藩士達の目がお歌にひきつけられた隙を突き, 剣之介は多門を仕置した.今回はここでタイトル表示.

翌朝未明.捨三は首尾を頼み人に報告.
頼み人「そうか,死んだか.おら達が生き延びる道はこれしかなかった.」
捨三は頼み人から金を受け取った.だが4両に値切られそうになった. 奥州柴山藩の山の衆が苦しい生活の中から金を出し合って出していたからだ. 捨三はその願いを跳ね除けた.洗濯屋で捨三はその事をこぼしていた. やいと屋は山吹色の小判と行きたいねえと言ったが, 剣之介は「贅沢言うな.これでも一両は一両だ.」と意に介さなかった. 主水達は金を分けて帰った.

さて頼み人達は土屋の娘おすみと婿の小十郎(浜畑賢吉)の籠とすれ違った.
頼み人「あの人達には罪はねえがなあ.」

さて柴山藩の屋敷では同心の服部(外山高士)が多門殺しのことを, 聞き込もうとしていた.出入りの商人の会津屋も殺された. 多門の死も関係あるに違いない.だが柴山藩士は, 町方には関わりがないと協力しようとしなかった. そこへ小十郎の籠が着いたとの報せが届いた.藩士達はそっちへ行った.
服部「へ,田舎侍が.」

おすみは多門の遺体を見て号泣した.小十郎は手を合わせた. 江戸家老は小十郎を呼んだ.家老と多門は同年だった. 江戸家老が江戸家老を仰せ付かって以来の付き合いだった. 多門は20年もの間,家老の片腕となってよく働いた. 家老は下手人を捕らえるように小十郎に命じた.小十郎にとっては舅の恨みだが, 事はそれだけでは済まない.留守居役を殺され,出入りの商人を殺され, しかも下手人を取り逃がしたとあっては柴山藩の面目が立たない.
江戸家老「頼むぞ,小十郎.」
小十郎「神明をとし,必ずや.」
これが小十郎にとっての悲劇の幕開けであった.

まず小十郎は御付きの侍に事件当夜の話を聞いた.その手口から, 小十郎は商売人の仕業だと睨んだ.
小十郎「江戸には金さえ出せば人殺しをする手合いがごろごろいるそうだ. 以前,江戸勤番のおりにそういう話を耳にしたことがある.」
そのとき,侍の一人が会津屋から届けられた御神籤を小十郎に渡した. 会津屋の玄関傍に落ちていたと言う.

小十郎は出入りの口入屋の江戸屋(田崎潤)に捜索を依頼した. 江戸屋は小十郎から御神籤を受け取り,下手人探索の話を受けた. 江戸屋は柴山藩に長年の御恩があるので断りきれなかったのだ. 多門にも何かと目をかけてもらっていた.だが
江戸屋「ただ.」
小十郎「何だ.」
江戸屋「こいつはひょっとすると商売人の仕事だ.」
小十郎「そうだ.俺もそう思う.」
江戸屋「とすると,あっしもその世界には片足突っ込んで生きている男だ. 堅気の衆に話せることもありゃ,一生口をぬぐって, 知らぬ顔の半兵衛を決め込まなくちゃあならないこともある. その辺のところは一つ.」
小十郎「すると何か.下手人の名は明かせぬこともあるというのか.」
江戸屋「その通りです.」

牢屋敷では銀次がしらみのかけっこの賭けを開いていた.
主水「銀次,てめえ,ここ誰の島だと思ってるんだ.寺銭出せ.」
とせこいことをした後,捨三が外へ姿を現した. 主水は同僚にお茶を取りに行かせ,捨三から話を聞いた. 捨三は江戸屋が会津屋殺しの一件を嗅ぎ回っている事を話した. 主水も捨三もまずいなあと渋い顔. 江戸屋は一声掛ければ江戸中の闇の世界の人間が動くほどの大物なのだ. 主水は捨三に江戸屋から目を放すなと言い, 自分は奉行所の動きを探ることにした.

江戸屋一味の調べは続いていた.主水は会津屋の担当服部に探りを入れた. 服部は,漆を扱う会津屋と江戸留守居役が同時に殺されたので, 漆相場と関係があると睨んでいた.
服部「中村,お前,馬鹿に興味を持っているようだな.」
主水は,自分が興味あるのはこれだけ,と絵草紙を見せるのであった.

剣之介とお歌が飯を食べていると,江戸屋に殺しの口を垂れ込めば十両になる, との噂を聞いた.その晩,お歌は剣之介が野良犬みたいに斬り殺される夢を見た. その話を聞き
剣之介「きっと昼間のことが気になってたんだよ.心配いらねえさ.さあ.」
剣之介はお歌を寝かせ,言った.
剣之介「今迄だってこうやって生きてきたんだ. 滅多なことじゃどじは踏まねえよ.そう簡単に死んでたまるか.」

おすみは気分が鬱ぎ込んでいた. 土屋多門の初七日に御焼香にやってきたのはごく僅かだった. 多門は心優しい人だった.この屋敷にも多門の世話になった人は沢山いるはずだ. それなのに手のひらを返したように.小十郎はこう言った. 小十郎とすみは5年余り多門と別れ別れになって暮らしてきた. 江戸にいた多門には江戸の顔があるかもしれないのだ.そのことを忘れるな,と. この言葉の重みを後で小十郎は思い知らされることになるとも知らずに.

多門に同僚は探索をほどほどにしろと言って去って行った. そこへ江戸屋の使いがやってきた.
江戸屋「土屋さん,わかりましたよ.あれは仕業人です.」
小十郎「仕業人?」
江戸屋「はい.殺しを稼業としている奴らで,その中の一人, やいと屋又右衛門と言う男がいっちょうかんでるのと,やっと探り出しました.」
小十郎「下手人はその男か.」
江戸屋はこう言った.
江戸屋「さて土屋さん,これから先はあんたがたの仕事だ. あっし達も仲間を売ると後が恐いんでねえ.」

やいと屋のところでは剣之介がお灸を据えてもらっていた.
やいと屋「へえ,おめえさんも人並みに肩がこるのかねえ.見直しちまったぜ.」
剣之介「随分殺したからな.」
やいと屋「は?」
剣之介「これはただの肩こりじゃないんだ. 死んだ人間達の恨みがこの肩にのしかかってるんだよ.」
やいと屋「ふ,その恨みをやいとで散らそうと言うのかい.終わったよ.へえ, くだらないねえ.殺す方も殺された方もいずれは地獄で面つきあわすんだ. そん時には頭下げて一言すんませんでしたと言やあ, それで済むんじゃありませんか?」
お灸が終わった頃,小十郎が柴山藩の者を引き連れ, やいと屋を捕らえにやって来た.剣之介も応戦したが,多勢に無勢で敵わず, 捕まってしまった.やいと屋は一人で逃げ,捨三のところへずらかった方がいい, とほざいていた.

翌朝.お歌は寝そびれていた.そこへ捨三がやってきた.
捨三「お歌さん.驚いちゃいけねえよ.気を確かに持つんだぜ.」
お歌「死んだの?」
捨三「いや,捕まったんだ.下谷の柴山屋敷だ.」
その頃,剣之介は小十郎によって激しい拷問を受けていた. 水に顔をつけたりあげられたりしていた.
小十郎「どうだ.せめて名前だけでも教えてくれぬか. やいと屋の他にも仲間はいるはずだ.首謀者は誰だ.誰に頼まれた.」
だが
剣之介「己に訊け.柴山藩に訊け.」
小十郎「おう.こうなりゃお主の体に言わせてやる.」
小十郎は棒で剣之介を打ち据えた.

主水は剣之介を牢屋敷へ連れ込む作戦を発案した. 牢屋敷まで連れ込めば主水の裁量でどうにでもなる. かつて市松を逃がした時と同じ捨て身のやり方だ.捨三は成功するか危ぶんだ. 主水は服部と一緒に柴山藩の屋敷に乗り込んだ.
服部「我々は藩邸にまで立ち入る気は毛頭ない. ただ下手人の片割れを捕らえたという聞き込みがあった.」
柴山藩藩士は町方には関係ないと追い返そうとした.
主水「しかし町方にも会津屋殺しを詮議する役がある. 是非とも下手人をお貸し願いたい.」
だが
小十郎「断る.当藩の調べが済むまではお渡しするわけには行かん. たってというなら,腕ずくで引き取りに参られい.」
こうして主水捨て身の作戦は失敗した.

主水はやいと屋を問い詰めていた.
主水「江戸屋が狙ったのは剣之介じゃねえ.やいと屋,お前だぞ.なぜだ. なぜだい.なぜおめえの素性が割れたんだ.」
やいと屋にはその理由が判らなかった.
やいと屋「俺がどじを踏んだとでも言いたいのかい.」
主水「だったらどうする.」
やいと屋「掟通り,裁いて貰おうか.」
主水とやいと屋は睨みあった.そこへお歌がやってきた.
お歌「剣之介を見殺しにするんですか?」
捨三「少なくとも今夜は動けねえ.今動いたら,それこそ江戸屋の思う壺だい. 今夜だけは辛抱してもらわねえと.」
お歌「辛抱すれば助かるの? 明日になれば助かるの?」
主水「お歌さん.ここまで来たら下手な慰みは言いたかねえ. 万一の場合の覚悟だけはしといてもらいてえんだ. 剣之介は黙って死んでいくだろう.喋ったところで端っから助かる命じゃねえ. あいつ一人じゃねえ.これは俺達みんなの定めだ. ただ遅いか早えかそれだけのことなんだ.」
この言葉の重みを主水は後で思い知らされることになる.

剣之介は火箸で拷問を受けていた.江戸屋は剣之介の顔を見たが, 江戸屋は剣之介の顔を知らなかった.小十郎は他に仲間がいないか聞いたが, 江戸屋は答えの代わりに小十郎に忠告した.
江戸屋「土屋さん,あっしにできることはこれまでだ. これ以上闇の世界をつっつくと,あっしもあんたも命取りだ.」
小十郎は無言だ.
江戸屋「引き時が肝心ですよ.引き時がね.」

お歌は柴山藩の屋敷に忍び込み,剣之介の閉じ込められている土蔵を発見した. 剣之介は両手に手枷をつけられ,天井から吊るされた状態になっていた.
お歌「あんた.あんた.」
剣之介は声を出そうとしたが出なかった.そしてうなだれてしまった. お歌は小刀で一生懸命錠前を壊そうとしたが壊すことなどできなかった. そこへやいと屋登場.やいと屋は火薬で鍵を壊した.二人は中へ入り, 剣之介を助け出した.だがその様子を飯炊き女に見られてしまった. お歌は剣之介を抱え,一生懸命逃げた. やいと屋は自分が殿になるつもりだったが, 腕力の弱いやいと屋には荷が重過ぎた.剣之介とお歌は橋の下に隠れた. だが橋の下からどぶ川に出たところを見つかってしまった. まずお歌が斬られた.剣之介も応戦しようとしたが, 傷だらけの体では力を出せず,野良犬のように斬り殺されてしまった.
小十郎「引揚げい.」
柴山藩の者はやいと屋を連れて引き揚げた.その後
剣之介「お歌.」
お歌も剣之介も手を伸ばした.だが二人とも力尽き, 手を結ぶことはできなかった.

主水「死んだ.二人ともか.」
捨三「へい.」
主水「やいと屋は.」
捨三「わかりません.また探って来ます.」
主水は剣之介とお歌の死を知り,ショックを受けた. 厠の前で呆然とする主水を千勢が見て,覗かれたと怒り狂った. せんもりつも中村家の恥だと騒いだが,その声は主水には聞こえなかった.
主水「死んだか.死んだのか.剣之介もお歌も.」

江戸家老は小十郎とおすみに捜査の打ち切りを指示した.殿の裁断だと言う. 勘定方が会津屋との帳面を調べた結果,多門の不正が発覚したのだ. 多門は会津屋と組み,漆相場を操って巨額の金を横領していた. 山働きの領民の苦しみは計り知れず, その恨みがこの事件を引き起こしたに違いない. これ以上事を荒立てれば必ず御公儀の問題となり,柴山藩の命脈にも関わる. おすみは多門の遺品に金がなかったのでそんな筈はないと言った. だが家老はその理由をはっきり述べた.多門は日本橋に若い女を囲い, 料理屋を開かせていた.金は全てそこに注ぎ込んでいたのだ.

仕方無く小十郎はやいと屋を解放した.
やいと屋「ほう,おめえにもやっと判ってきたのかい.いいだろう. 今日のところはおとなしく出てやってやる.だがな,このままで済むかどうか, そいつは表出てからの相談だ.邪魔したな.」
こう捨て台詞を残してやいと屋は去った.そのとき, おすみが自害した報せが小十郎のところに届いた.

捨三はこのまま事を治めるつもりかと主水にねじ込んでいた. 捨三は柴山藩のことを訴え出て刺し違えようと言い出したが
主水「それを奉行所がとりあげるんなら,俺達は飯の食い上げだ.」
そこへ江戸屋の面々がやってきた.
江戸屋「江戸屋源蔵だ.これを小屋の中の方に渡してくれ. それから,この御神籤はやいと屋又右衛門にけえしてもらおう. 仕業人にしてはどじなことをした,そう伝えてくれ.」
江戸屋が持って来たのは小十郎からの書状だった.
小十郎の声「事の真相を識るに及び只只驚愕仕候.国勢を乱し, 民百姓を途端の苦しみに追いやりたる談, 成敗もまた止むなしと覚悟いたしおり候.但し,舅を失い, 今又妻をも失いたる談,真に無念にて,このまま帰国では侍の一分も立ち申さず, よって明朝,果し合いを望むものにて御座候. これはあくまで私の恨みなれば卑怯未練の振舞あるまじく, 曲げて御承引下されたく候.土屋小十郎.」
主水「果し合いか.」
捨三「旦那とサシで勝負しようって言うのですかい.畜生,なめやがって.」
主水は書状を破り捨てた.

その晩.お座敷で
やいと屋「は,は,は.笑わせやがって.何が侍の一分だ. 仕業人が金にならねえ殺し合いをするとでも思ってるのかい.芋侍め.」
主水「俺は受けるぜ.」
やいと屋「なんだと.」
主水「俺にも剣之介とお歌を殺された恨みがある.それを果たすつもりだ.」
やいと屋「八丁堀,おめえ本気でそんなこと言ってるのかい.」
主水は肯いた.
やいと屋「へえ,不思議だねえ.全く侍ってえのはおかしな連中だ. 俺にはとても理解できねえや.」
やいと屋は酒を飲んでから言った.
やいと屋「なあ,主水さん.俺はそんなごたごたに巻き込まれるのはごめんだぜ. 俺は明日にでも上方に行く.江戸もそろそろやばくなったし, 剣之介の言い草じゃねえが俺達は少しやりすぎたようだ. ま,当分,上方へ行って,やいと屋修行のやり直しよ. 後はおめえさんに任したぜ.」
主水「足抜けか.」
やいと屋「そういうわけだ.」
主水「そいつは掟に外れちゃいねえか.」
やいと屋「掟? じゃあ,おめえの方はどうなんでい. 侍なら掟外れの果し合いも許されるってえのかい.」
しばらくお囃子だけが聞こえた.
主水「お互い様か.」
やいと屋「そうらしいなあ.」
主水は黙って立ち上がり,あの御神籤を渡した. それを見たやいと屋の顔色が変わった. やいと屋は御神籤をまたくしゃくしゃに丸めた.

翌朝.小十郎が指定した場所に主水がやってきた. 傍で捨三とやいと屋が見ていた.
小十郎「良く来てくれた.礼を言うぞ.奥州柴山藩土屋小十郎.」
小十郎は刀を抜いた.主水も刀を抜いた.
主水「中村主水だ.」
主水は羽織を脱いだ.そして二人は果し合いを開始した. 二人とも死を覚悟していた.しかし,剣の腕は主水の方が上だった. 主水の胴が小十郎に決まった.
小十郎「こ,これで,これでいい.」
それが小十郎の最期の言葉だった.この結果を主水はどう思ったのだろうか.
やいと屋「恐ろしい男だ.」
主水はやいと屋にも捨三にも何も言わず,羽織を拾い, 朝靄の中へと去って行くのだった.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp