「必殺仕業人」第22話「あんたこの迷惑どう思う」

脚本は猪又憲吾.監督は工藤栄一.

闇の口入屋藤兵ヱ(神田隆)が服を脱ぎ,褌1丁の姿になった. 背中には刀傷があった.藤兵ヱは着替えてどこかへ出かけ, 仕事の依頼を受けていた.依頼人(天津敏)は高貴な身分らしく頭巾を被っていた. 仕事の内容は水谷里絵という女の始末.
依頼人「豪商浜屋伝兵衛に我が伊達家の領地内の港を使わせて抜荷をやらせ, 賄を取っていた.それが公儀に聞こえそうになった.」
それでは伊達家が取り潰されるかもしれない.そこで浜屋を抜荷の科で磔にし, 浜屋と関わりのあった6名の家臣にお家の為だと言い聞かせて切腹させたが, 6人目に腹を切らせた水谷玄之進が依頼人と浜屋の繋がりを知っていた節がある. それに気付いた時は既に遅く,妻の里絵が江戸へ逃げていた.しかも玄之進の弟, つまり里絵の義理の弟が侍をやめて江戸で瓦版屋になっているという噂があった. もし依頼人のことが瓦版に刷られてばらまかれれば,ここは公儀のお膝元の江戸. 依頼人の身の破滅になる.仕事料は二千両.早速藤兵ヱ一味は行動を開始した. 瓦版を刷る玄之進の弟清二郎(伊藤敏孝)の所へ藤兵ヱ一味が乗り込んだのだ. 今回はここでタイトル表示.

剣之介とお歌が寝ていると物音が聞こえた. 役人かもしれないと剣之介は警戒したが,やってきたのは役人ではなかった. 藤兵ヱ一味に追いかけられていた瓦版屋の清二郎だったのだ. 清二郎は外へ出たが橋の上で藤兵ヱ一味に囲まれた.だが川に飛び込み, 何とか追手を巻いた.剣之介は善次郎が置いて行った瓦版を見ていた. その題名は伊達家切腹騒動始末.大変なことが書かれていた. その頃,清二郎は里絵(珠めぐみ)のところに駆け込んでいた.

翌朝.銀次はもう2,3日牢屋にいられるようにしてくれと主水に頼んだが, あかんべえをされた.そこへ剣之介がやってきた.
主水「ここへは来るなって言ったろう.」
剣之介「相談があるんだよ.」
主水と剣之介は捨三の洗濯屋へやってきた.
剣之介「これ,どうしたらいいんだよ. 助けた奴が今朝になっても取りに来ねえんだよ.」
主水「これ一枚か?」
剣之介は残りは隠したと答えた.
主水「残りを全部燃しちまうんだ.」
捨三にはその理由がわからなかった.
捨三「どうしてです,旦那.これだけのネタだ.これ必ず銭になりますぜ.」
主水「銭になる前にお前の首と胴体ばらばらになってるぞ.」
捨三は怪訝な顔だ.
主水「捨三,おめえ,口入屋の藤兵ヱが動いてるって言ってたな.」
捨三「へえ.それなんですけどね,誰か人を探してるらしくて, 街中あちこち探し回ってまさ.」
主水「それで話がつながるな.剣之介, おめえの小屋へやってきた連中はおそらく藤兵ヱの手下だ.」
やっと捨三にも主水の言った言葉の意味が判った.
捨三「まさか!」
主水「いや,そうだ.あの藤兵ヱは,この伊達家の家老の監物から, 残りの瓦版の回収を引き受けたにちげえねえ.」
剣之介「その口入屋の藤兵ヱってのはなにもんだ?」
主水「俺達の稼業の上手を行く奴だ.」
捨三「上手なんてもんじゃねえでしょう.頼み人は大名とか豪商. 頼み料も一両,二両で目の色変えるあっしらと大違いで, 千両箱でいいって勘定だよ.」
主水は残りの瓦版を燃してしまえと言った. 藤兵ヱのいる江戸で残りをばら撒くことなんて死ぬも同然だからだ. 主水は,知らねえぞ,と言い,捨三もおそれをなしてしまった. 主水は剣之介が見せた瓦版を燃やすのであった.

剣之介とお歌が小屋に戻ってみると蒲団の並べ方が変わっていた. 家捜しされたのだ.さらに剣之介が外を見ると見張りらしき者の姿が見えた. 藤兵ヱ一味の助造(広瀬義宣)と吉次(阿波地大輔)だ.

捨三は例の瓦版をやいと屋のところへ持って行ったが, やいと屋も血相を変えて捨三を締め上げた.
やいと屋「何も糞もあるか.何でこんなもん燃してしまわねえんだよ.」
捨三「旦那もそう言ってたんですけどねえ,剣之介さんがどうしてもって.」
やいと屋「預かったもんだから勝手にできねえって理屈か.」
やっとやいと屋は捨三から手を放した.
やいと屋「ああ,まだ侍のからっけつにふけってやがる.おい,八丁堀, 何ていってるんだい.」
捨三「当分,剣之介さんには近づかないようにして,見張れって事ですよ.」
やいと屋は瓦版を破りながら言った.
やいと屋「兎に角な,俺はあいつとの付き合い絶つ.元々赤の他人だい. それからな,道で会っても声を掛けることは勿論のこと, この町内には一歩も足を踏み入れるな.そういっとけ.」
やいと屋は破った瓦版をくしゃくしゃに丸めて捨三に投げつけ, そういうのであった.

さて中村家ではせんとりつが覗かれたと大騒ぎ.物好きな奴もいたもんですな, と主水が見に行くと,誰もいなかった.そのとき,犬の鳴き声らしき声が.
せん「婿殿.何か仰いました?」
主水「どうせ捨て犬でしょう.」
ピンと来た主水が出て行こうとすると千勢が出てきた. 何と捨て犬に残り物の鯛をあげようと言う. それを見てせんとりつは勿体無いと言った. かまわず主水は残り物の鯛を持って外へ出た.捨三が来ていたのだ. 捨三は剣之介が藤兵ヱに目をつけられたことを伝えた.そのとき
りつ「あなた.」
捨三は一生懸命,犬の鳴真似をするのであった.

相変わらず剣之介とお歌は藤兵ヱ一味の者に見張られていた. お歌と剣之介が芸を見せている現場の周りにも見張りがいた. その頃,藤兵ヱは見張りを解けと言った.剣之介とお歌を油断させるためだ. さらに藤兵ヱは剣之介の身元を洗うことを命じた.叩けば埃が出るに違いない.

藤兵ヱの目論見通り,お歌は油断していた. そこへ瓦版屋の義姉里絵がやってきた. 清二郎から預かった瓦版を返してくれと言うのだ. 必死になって剣之介は否定した.だが里絵はこう言った.
里絵「6人目に腹を切らされた水谷玄之進は私の夫でございます. 夫の仇を討ちたい,その一念で遠い陸奥より遥々この江戸へ. 勿論,間監物を追い詰めたとて,死んだ夫が生き返る筈もございません. でもそうするより他に夫の菩提を伴う術はございません. お願いでございます.どうか本当のことを仰ってくださいませ. あの刷り物はどこ? お手元にお持ちなのでございましょ.」
お歌「あんた.」
剣之介は見張りの気配を察してこう言った.
剣之介「夢を見てるんではないか.俺は何も預かっちゃおらん.帰ってくれ.」
しかたなく里絵は帰って行った.お歌は忘れ物に気付き, 里絵のところまで追いかけた.そして
お歌「氷川神社の社殿の下に.」
戻ってきて謝礼を取っていたお歌に剣之介が言った.
剣之介「喋っちまったのか.奴らはまだ見張りを解いちゃいない.」
剣之介は外へ出て様子を伺ったが,その隙に,お歌が連れ去られてしまった. さらに小屋には真野森之助の手配書が貼られていた.

里絵にも藤兵ヱ一味の尾行がついていた.そうとも知らず, 里絵は氷川神社へ行き,社殿の下から瓦版を取って行った. それをやいと屋が気付き,里絵に忠告した.
やいと屋「あんたつけられてる.振り向くな! この先を右に曲がると蕎麦屋がある.店から裏に逃げると路地になっていて, 突き当たって右側にやいと屋の看板がある.そん中入んなさい. 逃がしてあげますよ.」
やいと屋の指示に従い,里絵は追手を撒いた. その頃,お歌は土蔵に連れ込まれ,縄で吊るされて拷問を受けていた.

洗濯屋に剣之介を除く一同が集合した. 藤兵ヱのところに連れ込まれて生きて帰った者は一人もいない.
捨三「大体,又さんがその里絵って女がいけねえんだよ.だってそうでしょう. 剣之介さん,尻尾つかまれないようにうまくやってんだよ.それなのにあの女, 大迷惑じゃねえか.」
やいと屋「大迷惑してくれたのは剣之介だ.」
捨三はやいと屋を睨んだ.だが主水は捨三にとって, もっととんでもないことを言い出した.
主水「お歌はいずれ口割るだろう.藤兵ヱに俺達のことが知れたらどうする?」
捨三はうろたえた.
主水「俺は以前藤兵ヱの元で働いてて島送りになった者から小耳に挟んだんだが, 藤兵ヱは江戸に仕業人という稼業があるって事を知っててな, 目障りだと話してたそうだ.」
やいと屋「おそらく藤兵ヱのことだ.剣之介が仕業人とわかりゃあ, 必ず俺達のところへ手延ばしてくる.向こうに先手打たれたら, こっちに勝ち目ねえや.」
捨三「待って下さいよ,二人とも. それはお歌さんが俺たちの事喋っちまった後の事でしょう.」
やいと屋「捨三,おめえ,お歌が信用できんのかい.」
捨三「又さんよ…」
主水「やめろ.今度のことは剣之介の失策りだ.仕事でもねえ事でへまやった. 剣之介に言い訳はねえだろう.俺も相手が藤兵ヱでなかったら, まず助け出す手立てを考えるんだがなあ.」
やいと屋「まず無理だなあ.」
捨三の歩く音だけが聞こえた.主水は捨三に言った.
主水「捨三.それはお歌には気の毒だ.だがなあ,俺達の身を守る為には, やることは一つしかねえんだ.わかるな.やいと屋.」
やいと屋「お歌が吐かされる前に俺達がお歌を.」
主水「おめえ,やってくれるな.」
やいと屋は肯いた.
やいと屋「うまく忍び込めるかどうか.兎に角今夜.」
我慢しきれなくなった捨三は怒鳴った.
捨三「やめろ.殺す前になぜ助けること考えねえんだよ.冷た過ぎるよ. 酷過ぎるよ.寂しいじゃないか.」
主水は言った.
主水「捨三.例えばなあ,捕まったのがお歌じゃなくて俺だったとしたらだ. 俺はやいと屋に殺されても文句は言えねえ.それが俺達の生き様だ. 二日待ってろ.いいな.」

お歌は拷問を受けていた.藤兵ヱは剣之介が仕業人であることを見抜いていた. そしてお歌は死んでも里絵の居所は言わないだろうと考えた. そして部下の吉次に里絵と清二郎を見つけるまで,生きて帰るな,と言い, 二人を探しに行かせた.拷問が一段落した頃,剣之介は屋根から竹の筒を伸ばし, お歌の口にくわえさせた.そして水を口に含み,筒を通してお歌に水を飲ませた. お歌は一生懸命剣之介からの水を飲み, 剣之介は一生懸命お歌に水を飲ませるのであった.

依頼人こと間監物は藤兵ヱと会っていた.監物は仕業人のことは忘れろといい, 瓦版の回収を優先させろと言っていた.その頃, 里絵は悲壮な決意で瓦版を配る決心を固めていた. 清二郎は里絵が好きだといっていた.清二郎は兄と里絵が結婚したので, 武士の身分を捨て,江戸へ出て瓦版屋になったのだ. 清二郎は監物のことなどどうでも良かった. 好きな里絵と一緒に何かやれるのが嬉しかったからだった.

翌朝.清二郎は里絵の所から姿を消してしまった.里絵は置手紙を読んだ.
清二郎の声「一晩中,義姉さんの寝顔を見ていました. あなたが死んで私が生き残るなんて我慢できません.義姉さん, 死ぬほど好きでした.お幸せに.刷り物のことはどうか忘れてください.」
瓦版を抱えた清二郎は藤兵ヱの手の者に殺されてしまった. 運ばれて行く清二郎の死体を里絵が一生懸命追いかけていた.

お歌はまだ吐かなかった.そして里絵は一心不乱に瓦版を刷った. そしてやいと屋が家に帰ると里絵がいた.
里絵「私はおろかな女です.亡き夫の仇を討つんだと.そうすることが, 武士の妻が取るべき道だと.その実, あたしは生前の夫には冷たい女だったのです.それなのに, 清二郎さんを巻き込んで.清二郎さんの心も知らず. あたしが清二郎さんを殺したのです.」
やいと屋「あんたが悪いんじゃねえよ.」
里絵「あんないい人.あんな心の優しい人.」
そして里絵はやいと屋に瓦版を托しながら言った.
里絵「お願いでございます.あたしには死んだ清二郎さんの仇を討つことは, とてもできません.ですから,あなたのお力でこの瓦版を江戸の街に. お願いでございます.」

やいと屋「やるか.」
主水「おう.捨三.てめえ,欲しくねえのか.」
捨三は主水から金を取ったが,主水が渡した小判の枚数は多かった.
捨三「なんですか,これは.」
主水「剣之介の分だ.」
捨三「え?」
主水「あいつは銭にはきたねえからなあ.」
捨三「旦那.」
その頃剣之介は竹筒の先に指輪をつけ,お歌が吊るされている縄を切った. やってきた藤兵ヱの部下を殴り倒し,剣之介はお歌を連れて立ち去った.

剣之介が逃げ込んだという家に助造と吉次が来ていた. 隙を見て助造と吉次は忍び込んだが,蒲団に籠っていた主水に叩き斬られた. さあ仕事開始だ.剣之介は金を数える藤兵ヱのところにやってきた.
藤兵ヱ「吉次か.里絵をやったら,次は剣之介とお歌だ.」
と言った瞬間,藤兵ヱはお歌の姿を見て驚いた. そしてあっと言う間に剣之介に絞め殺された.

伊達家の屋敷にやいと屋が潜り込み,天井に潜んでいた. 家老の監物の所へ家来がやって来た.水谷里絵がやってきたというのだ. すぐに連れて来いと監物は命じた.家来が去った後, 燃える瓦版が天井から落ちて来た.驚いた監物が部屋に入って来た瞬間, 監物の額にやいと屋の鍼が刺さった.

翌日.捨三が例の瓦版をばら撒いた.それを里絵がじっと見ていた.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp