脚本は保利吉紀.監督は松野宏軌.
芸者のおりく(水原麻記)のところに, 米穀問屋越後屋の若旦那伸吉(太田博之)が通いつめていた. おりくはいつ身請けしてくれるんだと詰め寄っていた. そこへ金貸しの久六が現れて30両を返せと詰め寄ったが, 逆に伸吉にぶん殴られてしまった.伸吉は岡引(田口計)と久六に連れられ, 越後屋にやってきた.越後屋の旦那藤兵ヱ(西山嘉孝)は, 伸吉の放蕩ぶりに呆れていた.ちょうどやいと屋が来ており, 奥で女将のお仙(双葉弘子)にお灸を据えていた. そこへ伸吉の弟の孝助(道井和仁)がやってきて,女将を呼んだ.表へ出てみると, 旦那が伸吉を勘当するので,人別帳から外せ, と言い放ったところに出くわしてしまった.岡引と久六は外へ出た. 金は奉行所で何とかしてくれるんですよね,という久六に, 岡引は自分に話を預けろと言っていた.今回はここでタイトル表示.
岡引は伸吉を自分の家へ連れ込んだ. そして弟の孝助をかどわかせと岡引は言った.疑いの掛からないよう, 岡引はしばらく新之介を牢屋敷へ入れておき,その間に弟をかどわかす. そしてお金を受け取る役を新之介がやるという寸法だ.
伸吉は賽銭泥棒の疑いで牢屋に入れられ,刺青まで入れられた. その時銀次が「頑張りまーす」と言って放免になった. その頃,女将はやいと屋に伸吉が可哀想だとこぼしていた. 兄思いの孝助は伸吉を探すことにした.町中を歩き回った伸吉は, 兄の使いだという言葉に騙され,岡引の一味にさらわれそうになった. なんと孝助は捨三の洗濯屋に逃げ込み,そのまま立て篭もってしまった. 捨三は素早く身を隠したので存在に気付かれなかった.
岡引とおりくはぐるだった.
元々はおりくを使って伸吉から金を搾り取ろうとしていたのだが,
勘当になってしまい,計算が少し狂ってしまった.
さて捨三のところに剣之介とやいと屋がやってきた.
だが立て篭もった男達には気付かず,二人とも去って行った.
剣之介「ここんとこ仕事がねえんで一文なしだあ.やいと屋,
ちょっと都合してくれよ.」
やいと屋「またかよ.いいかげんにしてくれよ,ほんとに.」
剣之介「次の仕事で返すよ.な,もう十日も酒呑んでねえんだ.」
やいと屋「しょうがねえな.貸すのはいいが,返すときには色つけてもらうぜ.」
剣之介「しっかりしてるな.ま,恩に着るぜ.」
やいと屋「そろそろ仕事の口がかかるかと思えばこのざまだ.ついてねえや.」
この会話は捨三の肝を冷やりとさせた.捨三は屋根瓦を外して洗濯屋を脱出.
皆を集めた.
捨三「旦那,こりゃきっと仕事になりますぜ.」
主水「馬鹿野郎.仕事場占領されて何が仕事だい.」
やいと屋「捨三,まさか勘付かれちゃいねえだろうなあ.」
捨三「てめえ達二人がつまらねえことくっちゃべってるから,
こっちは気が気じゃなかったよ!」
剣之介「いずれにせよ,妙なことが小屋の中で起こったら,
お前にも疑いが掛かる.」
主水「捨三,夜までに追い出しちまえ.」
捨三「でも旦那,奴ら人質抱えてるんですよ.いってえ,どうするつもりです.」
しばらく主水は思案した末,こういう作戦を思いついた.
捨三が少しだけ戸を開き,主水が十手を見せつけながら洗濯を「頼む」のだ.
この脅しが聞き,連中は孝助を連れて捨三の洗濯屋から逃げていった.
捨三は子供の身を心配したが,やいと屋も剣之介も,
下手に関わり合いにならない方がいいと言って去って行った.
主水も親が銭出せば済むから仕事にならない,
下手なことすると子供の命が危ない,と乗り気ではなかった.
やいと屋のところに越後屋の番頭がやってきた.孝助が行方不明だというのだ.
やいと屋は,知らないね,と番頭に答えた.
お歌は剣之介達が子供を助けなかったので薄情だと言った.
剣之介「お歌,俺達は命をかけて仕事してるんだ.
気持ちだけで動くわけに行かん.」
その頃,越後屋に脅迫状が届けられていた.
主水が居酒屋の前をうろうろしていると中から千勢に手を取られ,
中に入れられた.主水は大喜び.さらに
千勢「働き盛りの中年の男の方っていいですわね.
頼りがいがあって,あたし好きですわ.」
これを聞いた主水はさらに喜んだ.そして主水は千勢を連れて帰った.
そして主水は千勢に,一緒に呑んだことを内緒にするように釘を刺した.
ちなみに今日はりつの誕生日.帰りが遅かったのでりつもせんも機嫌が悪かった.
そこで主水はりつが前から欲しがっていた半襟を渡してやった.りつは大喜び.
せんは自分の誕生日に何もくれないと嫌味を言った.
りつは主水の誕生日に何をあげようかしらとのろけた.だが
千勢「遅くなってすいませんでした.中村様,今日は御馳走様でしたね.
おやすみなさい.」
りつは機嫌を悪くし,せんはにやりと笑うのであった.
翌日.洗濯屋の前で主水と剣之介が出くわした.誘拐の一件が気になったのだ.
中に入ってみるとやいと屋もいた.捨三は連中の隠れ場所も探し出していた.
やいと屋は勘当された兄の仕業だと睨んでいたが兄は牢屋敷の中.
剣之介「こいつは難しい仕事だな.
二人の男の手から子供を無傷で救い出そうって言うんだから.」
主水「ま,どっちにしてもただじゃ動けねえぜ.」
だが
やいと屋「そいつの方は心配いらねえよ.何しろ相手は越後屋だ.
あたしが何とかしますよ.」
剣之介「銭が出るなら話は別だ.
この不景気の時代に贅沢は言っちゃいられねえ.」
主水も乗り気になり,後ろで誰が糸を引いているか,
引き続き調べろと捨三に命じた.
放免になった伸吉はおりくのところに行った. その足で伸吉は岡引のところへ行き,刺青を入れられたと文句を言った. 伸吉は身代金は500両にし,折半しようと言った. 岡引は部下の粂吉(志賀勝)に越後屋へ行くように命じた. その様子を捨三がしっかり覗いていた.
越後屋と女将は孝助のことを心配していた.そして旦那が出た後で伸吉登場. 伸吉はみんな聞いてしまったといけしゃあしゃあと言った.そこへ投げ文が. 店の者一人で金を持って来いと言う.伸吉は心を入れ替え,奉公させてくれ, と言い,越後屋に頼み込んだ.越後屋は投げ文を見せ, 伸吉の差し金だと思っていた,と言った.すかさず伸吉は刺青を見せた. これに越後屋は騙されてしまった.伸吉が,命に代えても孝助を取り返す, と言ったので,越後屋は身代金を持っていく役を伸吉に頼むことにした. その様子を物陰から捨三が見ていた.
捨三から岡引の弥七が噛んでいたことなどを聞いた主水は, 早くやいと屋と剣之介に報せろと捨三に命じた.暮五つ.時間はあまりない.
越後屋は身代金の500両を伸吉に託した.そして伸吉は外へ出た.
すかさずやいと屋が伸吉のあとをつけた.やいと屋の後ろに粂吉がいた.
そこでやいと屋は伸吉が曲がった角を曲がらずに行ってしまった.
伸吉は弥七に分け前を要求したが,弥七に刺されてしまった.
その現場にはおりくもいた.おりくは前から弥七の女だった.
おりくは以前万引きをしたことがあったのを,弥七が見逃してやったのだ.
そこへやいと屋がやってきたので,弥七達が逃げた.
やいと屋「しっかりしろ.」
伸吉「岡引の弥七にやられたあ.どなたか知らねえが,弟が,弟が危ねえんだ.」
やいと屋「わかった.弟さんは必ず救い出してやるから.」
伸吉「金なら…金ならここにある.恨みを…恨みを…晴らしてくれ.」
伸吉の袂から小判が零れ落ちた.
捨三,主水,剣之介は孝助の閉じ込められている場所へやってきた.
相手は一人だが匕首を持って孝助にぴったりと着いている.
剣之介は木の枝を折り,蔓と組み合わせて弓矢を作った.
そこへやいと屋がやってきた.
やいと屋「案の定,弥七に殺された.恨み晴らしてくれと頼まれたんだ.
愚図愚図してると弟も危ねえ.」
金を受け取りながら主水が言った.
主水「中の奴は叩き斬ってもかまわねえなあ.」
やいと屋「ああ.それから粂吉って野郎がこっち来やがる.そいつも.」
皆早速仕事に取り掛かった.まず剣之介が弓矢を放ち,
孝助のそばにいた三下留三(島米八)を射抜いた.
留三は矢を抜こうとする隙を突かれ,主水に斬られた.
粂吉は剣之介に仕置された.捨三は孝助に目隠しし,
安全な場所へ連れて行った.
捨三「いいか,十数えたら目隠し外しな.」
孝助が目隠しを外した時には捨三の姿はなかった.
何も知らない弥七達は金を数えて大騒ぎ. そしておりくと弥七が情事している最中, やいと屋は二人に同時に鍼を刺して一辺に仕置した.
翌日.銀次が戻ってきた.牢に入れると思った銀次は二発叩かれただけ. 牢屋が一杯なのでこそ泥を買うわけにはいかないので,この措置になったのだ. 文句を言う銀次は主水にまた叩かれるのであった.
余談ですが,実はこの話が私が一番最初に見た必殺シリーズの番組です. 毎週土曜日の昼間に必殺シリーズの再放送が行なわれていたことがあり, この最後のシーンだけをチラッと見た記憶があります. その後,「仕事人大集合」を見,毎週土曜日に放送された「必殺商売人」を見て, それから月曜日から金曜日の午後4時代に放送された, 前期必殺シリーズの作品を見て必殺シリーズのファンになりました. ですから,私はこの年代にしては珍しく,後期ではなくて前期だけを見て, ファンになったというわけです.