「必殺仕業人」第20話「あんたこの志をどう思う」

脚本は南谷ヒロミ.監督は渡邊祐介.

夜道を侍の夫婦が歩いていた.二人は服部のところを尋ねる予定だった. 翌朝.剣之介とお歌が寝ている小屋.お歌が外へ出てみると, 外で先ほどの夫婦が寝ていた.お歌は一瞬心中死体と間違え,驚いてしまった. 二人は奥州岩倉藩の浪人小坂栄之進(浜田光夫)とお美緒(吉本真由美)だった. 二人は剣で身を立てるために50俵の禄を捨て, 先輩の服部が開いている道場を訪れるつもりだった.服部の道場を手助けし, いずれは自分も道場を開くつもりだった.だが
剣之介「志だけでうまく行くんなら世話ねえや. 俺は早く国へ帰った方がいいと思う.」
と言った途端,気分を害したのか出てしまった.
お歌「怒っちゃったのかしら.」
剣之介「怒らせた方がいいんだ. 大体いきなり江戸へ出てきて何ができるってんだ.」
お歌「そうねえ,今時剣で身を立てるなんてね.」
剣之介「あの二人,江戸でうろうろしてると破滅するぜ.ま,どうでもいいや. 人のことだ.」
今回はここでタイトル表示.剣之介の台詞が今回のテーマだ.

さて小坂は服部の家を探し当てたのだが,夜逃げした後だった. 高利貸しの手代蔵吉(梅津栄)が小坂に服部の行方を尋ねたが, 小坂に心当たりのある筈がない.

さて神山(今井健二)が高利貸しの吾兵衛(安部徹)のところへやって来て, 元金の三両だけ返した.吾兵衛が利子を返さないつもりか,とねじ込んだので, 神山は情報を売り込んだ.近々奢侈贅沢禁止令が出る.つまり, 装飾品を売ったり身につけることが,御禁制になるというのだ. 吾兵衛はお沢(任田順好)という女に, 日本橋かなぶき町で鈴屋という小間物屋を営ませている. お触れが出れば鈴屋で扱っている金銀,珊瑚,笄,髪飾り,山と抱えたまま, 野垂れ死に同然だ.神山はその情報を売りつけ, 阿漕なことをして売りさばいても見逃してやる,と言い,礼金も要求. 神山と入れ替わりに蔵吉が戻ってきた.服部が夜逃げしたと聞き, 吾兵衛は怒った.
吾兵衛「畜生.野郎,俺をこけにしやがって.侍だ. 商いの邪魔をいつもするのは侍だい.」

やいと屋が鈴屋の女主人お沢にお灸を据えていた. 店を切り盛りしてご立派ですねえ,というやいと屋にお沢がこう言った. お沢はある人から店を任されているという.やいと屋と入れ替わりに, 吾兵衛がやってきた.吾兵衛はこの店をたたむことにしたと言った. どうやって商品を売りさばくつもりだというお沢に, 吾兵衛が良い考えがあると言った.生半可なやり方じゃ売りさばけない. だから女のお沢にも人肌脱いでもらいたいと吾兵衛は言うのであった.

その晩.中村家では千勢が傘を破いてしまった.千勢は弁償すると言ったが, せんもりつもいいんですよ,と言った.そこへ主水が帰ってきた. 主水は内職の納め先の山城屋により,金を貰ってきた. だが52文足りなかった.失敗した分を差し引かれていたのだ. それを聞き,せんとりつはもっと割の良い内職をしようかと言った. それを聞いた千勢は,やっぱり弁償する,と言うのであった.

小坂夫妻は途方に暮れていた.このまま旅籠暮らしでは路銀が足りない. 旅籠を出た小坂夫妻は剣之介とお歌にまた会った. 剣之介は早く国元へ帰った方がいいと言った.小坂はいろいろ回ってみたが, 仕官の口はなかった.そして剣之介達が芸を見せているところに出くわした.
小坂「お主,金のためのとは言え,よくそんなことができるな.」
剣之介「銭のためなら何でもやるさ.それよりまだ国元に帰らんか?」
小坂は立ち去ってしまった.小坂は金,金,金の世の中が嫌になっていた. お美緒は小坂に安い借家を探そうと言っていた.

さて吾兵衛は町方の女を騙して手内職をさせることを考えていた. そして手内職の元締役を誰にしようかと考えていた. 吾兵衛は夜逃げした服部を憎んでいた.30両も踏み倒したからだ.
吾兵衛「侍の恨みは侍で晴らす.」
そこで吾兵衛は,蔵吉が服部のところで出くわした小坂夫妻に目をつけた. 蔵吉は貸間を探している小坂夫妻を探し出した. この辺りの貸間は旅籠代ととんとんだ,と言い, 鈴屋が手内職の元締を探しているので,そこなならただで住める, と言葉巧みに話を持ち込んだ.何も知らないお美緒は喜んで引き受けてしまった.

鈴屋でお沢はお美緒に仕事の内容を説明した. 内職をする人に簪の見本を渡し,一度ばらしてもらった上で, 摘み細工の要領を覚えてもらうのだ.組み立ての手順書もあるので, 四,五日練習すれば誰でも簡単にできるようになるはずだ. 要領を一通り覚えた人に材料を渡し,組み立てて持ってきてもらう. 一本につき100文で買い上げる.お美緒はその取次ぎだけやればよい. ただし,見本と説明書を渡す時に保証金として一人につき1両を受け取る. そのうち100文はお美緒の手数料になる.だから1日に5人来れば2朱になる. そしてお美緒は商売を開始した.なんとせんとりつも内職の客になってしまった.

さて小坂が町を歩いていた.主水が外を歩いていると神山が声を掛けてきた. 二人は酒を一緒に呑んだ.神山の奢りだ. 主水は牢屋見回りになってから金がないとぼやいた. 神山は釣りに金を使っているという.主水が家に帰ってくると, せんとりつと千勢がつまみ細工の手内職をしていた. 1本100文なので40本作れば一両になるという. 塾の先生より率がいいと千勢が言った.

さて小坂が酒屋で飲んでいるところに剣之介とお歌が出くわした. 剣之介はまだ国元に帰らなかったのかと言い,お歌はお美緒のことを聞いた. 気分を害したのか,小坂は何も答えず,さっさと立ち去ってしまった.その頃, お美緒は53口あったので売上が53両になったと喜んでいた.手数料は1両1分3朱. そこでお美緒は51両2分1朱を蔵吉に渡した. お美緒は見本を全て裁いたので鈴屋に取りに行くと蔵吉に言った. 蔵吉は自分が届けるから早速手配しよう,と言い, さらに借り店の家賃半年分として一両取って行った. 蔵吉と入れ替わりに小坂が帰ってきた. 小坂はお美緒の弾いていた算盤を分捕って放り投げ,商売なんてやめちまえ, と言った.その後で小坂は,自分がふがいないばかりに,とお美緒に謝った.

吾兵衛達は目論見通りに簪を全て捌くことができたのでほくそえんでいた. しかも吾兵衛の大嫌いな侍の妻を「元締」にしてだ. お沢は小坂夫妻が乗り込んでこないかと心配したが, 吾兵衛はそのための手をちゃんと打っていた.

翌日.鈴屋は店をたたんでしまった.当然のことながら, せんとりつを含む内職の請負人達が小坂夫妻に保証金を返せとねじ込んでいた. 内職の請負人達が帰った後,小坂は蔵吉のせいだと怒っていた. そして蔵吉の所に小坂が乗り込み,誰の差し金だ,と聞いた. 蔵吉は知らぬ存ぜぬを通した.

吾兵衛は神山の利子を棒引きにし,さらに礼金として三両,神山に渡した. そこへ小坂が乗り込んできた.蔵吉から何もかも聞き出したというのだ. ご禁制になる品物をつまみ細工の見本として裁き,保証金を騙し取る. これが吾兵衛の考えた手口だ.小坂は奉行所に訴え出るので, 儲けた金を返せと言った.だが吾兵衛は居直った.
吾兵衛「お侍さん,どうでもいいが,一体全体,どんな証拠があるんですか?」
小坂「何?」
吾兵衛「下手に藪をつつきますとそっちが蛇に噛まれますぜ.」
小坂「貴様,たった今,罪を認めたじゃないか.」
そこへ神山がやってきた.
神山「小坂.どんなに無実を主張しても, お前に騙された女達が信じると思ってるのか?」
小坂「私は騙さん.あれは吾兵衛の企みだったんだ.」
神山「一歩表に出たら,そんな戯言は通用せんぞ.」
小坂はやっとからくりに気がついた.だが後の祭.
小坂「どこまで卑劣な奴だ.」
吾兵衛「神山さん,あとはよろしく頼みますよ.」
神山「罪なき町人を欺き,その暮らしを脅かした者,捨て置けんなあ.」
神山は十手をちらつかせた.
神山「来い.」

牢屋敷へ小坂が連行されてきた.神山は主水に罪状書を渡した. なんと町家の女から50両を騙し取った罪で直ちに打ち首になるという. お美緒は悲しみに暮れていた.主水は小坂のところへやってきた.
主水「言い残すことがあれば申しなさい.」
小坂「ございます.」
そして小坂は打ち首にされることになった.
小坂「妻紙は無用にございます.」
これが小坂の最期の言葉だった.

その夜.お美緒が剣之介とお歌のところへやってきた. 小坂が蔵吉のところへ行ったきり,戻ってこないというのだ. お美緒は蔵吉に騙されたことを話した.さらに,江戸は不案内の上, 他に知り合いがいないので剣之介のところへやってきた,とお美緒は言った.
剣之介「どういう話か知らねえが, そいつが札付きの男なら八丁堀に聞きゃあ,わかるかもしれねえなあ.」
お歌「あんた,ひとっ走り行ってくれる?」
剣之介「あれほど帰れって言ったのに…」
お美緒「私も参ります.」
剣之介「おめえさんは来ちゃいけねえ.」
剣之介はお美緒に,ここで待っているように言って出て行った.だが…

その頃,せんとりつは小坂が打ち首になったと聞き, 主水には内職で騙されたことを内緒にしておこうと言っていた.

捨三の洗濯屋で主水と剣之介はお互いに小坂のことを話した. やいと屋にはさっぱりわからない. そして小坂が打ち首になったことをお美緒は外で聞いてしまった. 主水は小坂が無実の罪で打ち首になったと言った. そのとき,物音がした.お美緒が簪で喉を突き,自害したのだ.
お美緒「話は全て聞きました.これは何かの時にと思いまして, 残しておきましたこのお金.主人の恨み.」
剣之介がお美緒から金を取った.金額は五両.剣之介の取り分は二両で, 一人一両の筈.だが主水は一両余分に取った.
主水「これはこないだおめえに貸した分だ.」
剣之介「覚えてたのか.」

やいと屋は嫌な予感がしたので, 占い師紅嵐(特別出演の田中佐和)のところへ行った.
紅嵐「お答えいたします. 荒れ果てた古寺の薄暗い軒下に張り巡らされた蜘蛛の巣が, 吹き付ける雨風に大きく揺らめきはためくところが見えます.」
やいと屋「不吉だ.」
だが
紅嵐「が,段々と風は止み,ほのかな日差しの差し込むところが見えます.」
やいと屋「ほう.こいつはついてんな.」
だが
紅嵐「が…」
やいと屋「ああ,ちょっと待って.そこまでで結構です.がの後が恐ろしい. どうもありがとうございました.」
やいと屋はその先が不吉なことかもしれないので,そう言って立ち去った.

まずやいと屋が蔵吉をやった.金を数える吾兵衛とお沢のところに, 剣之介が乗り込み,あっと言う間にお沢を気絶させ,吾兵衛をやった. その頃,主水は神山に呼びかけていた.
主水「今夜,俺が奢る番だ.」
神山「そういうなよ.金はな,たっぷりあるんだ.」
主水「そうか.ま,どうせ汚え金だ.今夜のうちに全部使っちまえ.」
二人は笑った.
神山「は,は,は.それもそうだ.」
主水「酔い覚めの水は三途の川で飲んでもらうぜ.」
神山「どういう意味だ.」
主水「てめみたいな虫けらは生かしておくわけにはいかねえ.」
神山は主水に襲い掛かったが,主水の敵ではなかった.

久しぶりに銀次が戻ってきた.銀次は今度は娑婆で真面目に働くつもりだったが, なんと銀次の「これ」が内職詐欺に遭い, 頭にきたので他の小間物屋で万引きして埋め合わせしようと思ったという.
銀次「ですからあっしはここで頑張りまーす.」
銀次が牢の中に入っていくのを見ながら
主水「考えてみりゃ,この牢屋の中が一番平和なのかもしれねえな.」

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp