脚本は中村勝行．監督は大熊邦也．
美濃屋の女将(楠侑子)が八百屋へ買物に来たついでにお金を借りていった．
女将は魚屋からも金を借りた．そして女将はやいと屋に呼び止められた．
やいと屋は前に貸した3両を返してくれといった．女将は今夜返すと言ったが，
前もそう言って返さなかったのだ．
やいと屋「どうも当てにならないなあ．」
美濃屋に帰った女将は旦那からお釣りを返すように言われていると， そこへ来客(草野大吾)がやって来た．女将はその男から金を強請られていたのだ． 番頭は女将に男のことを尋ねたが，女将は男の素性を話そうとしなかった． 今回はここでタイトル表示．
牢屋敷では銀次が女にぺんぺん草を渡したが
女「生憎だけどねえ，あたい面食いなんだ．」
囚人達は大笑い．
主水「おめえ，礒のアワビだな．え．へ，へ，へ．
礒のアワビの片思いって言うんだ．へ，へ．とぼけやがって．」
主水は銀次の頭をぺんぺん草で叩いた．
主水「生憎だが放免だ．」
主水は銀次の襟にぺんぺん草を刺した．
銀次「え?」
主水「出てけ．」
その夜．剣之介とお歌は物を食べていた．突然，お歌は，食べ過ぎて腹が痛い，
と言い出した．そして剣之介とお歌はそのまま逃げ，食い逃げを働いた．
剣之介「おい．食い逃げってのは案外うまく行くもんだなあ．」
お歌「あたい，食べる気しないわ．だけど，この生活が，いつまで続くのかしら?」
剣之介「いつまでって，このままでいいじゃねえか．」
そのとき，お歌は占い屋を見つけたが
剣之介「よせよせ．俺は占いなんか信じねえ．」
お歌「だって．」
剣之介「いずれ先が見えたら楽しみがなくなっちゃうさ．さ，行こう，行こう．」
その占い屋には美濃屋の女将も来ていた．
女将は美濃屋の番頭伝吉と密通していたのだ．
占い師の霊蝶(坂本スミ子)は伝吉と別れた方が身のためだと言ったが，
女将は伝吉と駆け落ちすることまで考えていた．
女将が去った後，霊蝶は足を伸ばしてくつろごうとしたが，
嘉兵ヱ(浜田寅彦)からあと一人と聞いてうんざりした．
そして雪隠と称して酒を呑み，憂さを晴らした．
霊蝶は煙草を吸おうとしたが，煙草も吸わせてもらえなかった．
嘉兵ヱは弥七(新田章)に命じ，次の客を呼ばせた．なんと次の客はせんとりつ．
せんとりつは，何年の連れ添っているのに，
子供ができないので見てもらいに来たのだ．
霊蝶「ご主人の卦は水天宿．急いては事を仕損じる．地は待つの意．
待てば海路の日和あり．」
せん「では待っていればいずれはややこが?」
霊蝶「が，しかし，子宝運は七夕を機に朝日が昇る如くに出ております故，
七夕まではメオトの営みは，禁止．」
とまあ，いいかげんなことを言った．七夕まで夫婦の営みは禁止と聞き，
せんとりつは戦慄．
霊蝶「もし，それを破れば折角出てきた子宝運は砂山のように崩れ去ります．」
その頃，主水が家に帰ってくるとせんとりつは不在だった．
千勢が頂き物を一緒にいかがと誘ったので主水は離れに入った．
千勢「中村様．」
主水「はい．」
千勢「私のことどう思われます?」
思わぬ言葉に一瞬主水はぽかんと口を開けた．
主水「いやあ，それは勿論，立派な塾の先生だと思っております．はい．」
千勢は手鏡を取った．主水には手鏡から千勢の口元が見えた．
千勢「私，夜も眠れませんの．」
主水「ああ，それはいけませんなあ．どっかお具合でも悪いんですかな?」
千勢「私，激しい恋をしそうなんですよ．」
主水「え?」
あまりの言葉に主水は驚いた．
千勢「男らしくって，苦みばしって，奥様のある方と．」
主水は咳払いした．
主水「先生もなかなか燃えておられますな．」
千勢「ええ．めらめらと燃えそうな恋をしそうなんです．」
そこへせんとりつが帰ってきた．興奮した主水がドアップに．
主水「私の人生にも春が来たようですな．
あなたは私に生きる勇気を与えてくれました．」
主水は頭を上下させ
主水「失礼します．」
主水は離れから出て行った．ところが実際は
千勢「あら，あの方勘違いなされたかしら．」
そうとも知らずに，せんから七夕の夜まで独りで寝てもらいます，と言われても
主水「結構ですなあ．結構，結構．結構ですよ．結構，結構．」
さて嘉兵ヱ一味はほくそえんでいた．冒頭で女将を強請っていた男もぐるだ． 霊蝶の脇で控えている嘉兵ヱが仕入れたネタを元に，男が強請ると言う構図だ． このまま続けていれば美濃屋のような上客が入るかもしれない． 嘉兵ヱは霊蝶にやいと屋をあてがってやったと言った． 男は美濃屋はだいぶ参っているぜと言った．もう三ヶ月も強請っていたからだ． 潮時じゃないかという男に，嘉兵ヱが新しいネタを小耳に挟んだからまだ行ける， と言っていた．さてやいと屋は占い師の霊蝶にお灸を据えていた． 霊蝶はいい気分．やいと屋のお灸が上方天満流と聞いた霊蝶は， 自分も難波流陰陽道だと言い，やいと屋の運勢を見てやると言った． 霊蝶は「前世のえにしゆうねんか，ピリッと感じますわ．」と言い， 占いにかこつけてやいと屋を誘惑した． さすがのやいと屋も霊蝶の強引なペースに押されっ放し．結局，次の日， やいと屋は霊蝶と一緒に芝居見物に出かける羽目になってしまった．
次の日．女将は千勢から一両を借りた．そこへ八百屋が現れ， 一両を返せとねだった．女将は一両を返した．そこへ町人達が現れ， 金を返せと女将にねだり，大騒ぎになった．皆踏み倒されていた． そこへ主水登場．主水は町方の方で調べるからと町人達をひとまず退散させた． 主水は千勢の前でいい顔ができたと上機嫌．さて女将は男から， 番頭と駆け落ちしたいと言う話を種に強請られていた． 一方，やいと屋は橋の上で霊蝶を待っていたが，ずっと待ちぼうけ． それもそのはず，霊蝶は嘉兵ヱに客が待っているからと足止めを食らっていた． 嘉兵ヱは霊蝶を水茶屋から拾ってきたのだ．その頃，やいと屋は女将から， お金は返せない，だから身体で返す，と言われ，驚いていた．
その晩．やいと屋の家に霊蝶がやって来た． 霊蝶はお詫びにお酒を持ってきたと言い，やいと屋と一緒に酒を呑んだ． そして霊蝶は嘉兵ヱ達のことを愚痴った． 霊蝶は嘉兵ヱ達に生き神様に祭りたてられ，酒はあかん，煙草はあかん， と言われていたのだ．霊蝶は一度好いた男と一緒になりたかった，と言い， やいと屋も断る理由はありませんからね，と言った． その帰り．霊蝶は歌を歌いながら帰った．
翌日．女将はやいと屋に3両返しに来た．ただならぬ様子だったので， 女将にやいと屋はその理由を尋ねた． 3ヶ月前から女将は瓦版屋の由造から強請られていた．きっと， 女占い師の霊蝶からもれたに違いない．だがそれももう終わりだと女将は言った．
さて霊蝶のところへ銀次と女がやって来ていた．相性を見てもらうためだ．
霊蝶「出ました．
二人とも未来永劫ともに白髪の生えるまで固い絆で結ばれておる．」
女「は．うれしい．」
銀次「そんなあ．」
そう．銀次はちょいと一回のつもりだったのだが女は本気だったのだ．
女「銀ちゃん，良かったねえ．」
銀次「先生，あっしはねえ，所帯持てるような男じゃないんですよ．」
銀次が近寄ったので
嘉兵ヱ「これ．これ．」
霊蝶「そんなむきにならんと．」
銀次は元の位置に戻った．
霊蝶「が，しかし，あんたの卦はおかしいな．」
銀次「え?」
霊蝶「出たり消えたりしとる．」
銀次「は．そうなんですよ．それがあっしの運勢なんですよ．」
そこへ弥七が入ってきてやいと屋が来たと言った．霊蝶は喜んで出て行った．
だがやいと屋は霊蝶が由造に情報を売ったと思っており，
霊蝶は問い詰められた．霊蝶には身に覚えのないことだった．
その頃，剣之介とお歌は芸を見せていた．相変わらず客の評判は散々だった…が，
籠に1朱入っていた．何か食べよう，とお歌と剣之介が言い合った．
お歌は天ぷらが食べたいと言い，剣之介は鰻が食べたいと言った．
その時，人だかりが．なんと女将と伝吉が心中死体で上がったのだ．
それを見てから
剣之介「やっぱり鰻の天ぷらにしよう．」
女将ことおときを強請っていた由造はその事件をネタに瓦版を売りまくった． 霊蝶は美濃屋の女将の一件を漏らしたのは嘉兵ヱ達だろうと詰め寄ったが， 嘉兵ヱは白を切った．霊蝶は，兎に角，足を洗う，嘉兵ヱ達のことをばらす， と言って立ち去ろうとした．だが霊蝶は弥七に刺されてしまった．
瀕死の霊蝶はやいと屋の家にやってきた．
霊蝶「やいと屋，やいと屋．わてやおまへん．わてやおまへんで．
あの瓦版屋に情報流したの．わてんとこの嘉兵ヱと弥七ですねん．」
やいと屋「そいつらが霊蝶さんを?」
霊蝶「ああ．まんまといてこまされました．」
やいと屋「ひでえことしやがる．」
霊蝶「何言ってんのや．わての手相見て．みておくんなはれや．生命線，
短いですやろ．これがわての運命じゃ．」
やいと屋「そんな気弱なこと言っちゃいけないよ，霊蝶さん．」
霊蝶「そやけど，長いなあ．わて，あんさん一緒に過ごしてくれはったので，
嬉しかった．おおきに．忘れしまへんで．あのう，それから，これ，
(2両分の小判を手に持ち)やいと屋はん，帯でもこうて．な．」
霊蝶は小判を落し，息絶えた．やいと屋は何事か決意し，2両の小判を拾った．
やいと屋「この3両は元々私のもんだ．だがねえ，美濃屋の女将さんが，
どんな思いしてこの金工面したかと，それ思うと，
とてもあたしの懐には入らないんでねえ．こいつが今度の仕事料だ．」
剣之介「後の2両は?」
やいと屋「霊蝶がくれた仕事料だ．こいつはあたしが貰いますよ．」
主水「文句はねえ．」
捨三は由造がいる陰間茶屋へ行き，いいネタを仕込んできた，と言った． 南町奉行所の与力が浮気をしていると言うのだ． その言葉に騙された由造は外へ出た． そして壁に寄りかかったところを主水に刺されて死んだ． 弥七がいた飯屋ではお歌が主人の目をそらし， その隙に剣之介が弥七を仕置した．嘉兵ヱをやるのはやいと屋だ． 嘉兵ヱは霊蝶の後釜を仕込んでいる最中だった．霊媒の踊りに夢中で， 嘉兵ヱはやいと屋が乗り込んでいることに気づかなかった． 振り返った時には後の祭．額を刺されてしまった． 嘉兵ヱは霊媒の踊りと同様，両手を広げて絶命．芸が細かいぞ，浜田寅彦さん．
翌朝．銀次が牢屋敷に匿ってくれと駆け込んで来た．
女がしつこく追いかけてきたというのだ．
女は私の身体を悪戯したくせにと言ったが，
それは銀次が尻を触っただけのことだった．
主水「馬鹿野郎．わかった．お前は猥褻の罪で五日間の入牢だ．」
女「お役人様，それじゃあ，銀ちゃん，可哀想です．」
主水は女をたたき出した．牢屋敷の中では
銀次「旦那，娑婆の女にはこりごりですぜ．」
主水「何を言ってやんだ．はよゆけ．馬鹿な奴だなあ．俺なんか，おめえ，
七夕の夜までお役ごめんだ．は，は，は，は，は，は，は．」
空笑いする主水だった．