「必殺仕業人」第16話「あんたこの無法をどう思う」

脚本は野上龍雄.監督は松野宏軌.

捨三が酔っ払って歩いているうちに転んでしまい, 女が犯された上に殺された死体を見つけてしまった. その傍らに鳥追いの女(横山リエ)がいた.
捨三「誰だ,てめえは?」
女「あのう,お願いがあります.」
捨三の洗濯屋に一同集合した.20両払うと言う話だった.とりあえず, 主水達は外で待機し,中で捨三が話を聞くことにした. 鳥追いの女の手首には傷痕があった.女が乱暴され, その犯人も鳥追い女は見ていたと言う.殺されたのは知り合いではないが, 可哀想なので下手人を殺して欲しい,と女は言った. 殺された女は富くじを当てており,その金が目当てで襲われたに違いない. 女はちゃんと20両持っていた.だが下手人は赤鞘組.
やいと屋「俺は降りた.」
赤鞘組は奉行所も恐れる乱暴者の集団だった.主水もダメだと手を振った. 女が去ったあと,剣之介は何やら考え込んでいた.
剣之介「気になるな.」
主水「え?」
剣之介「あの女だ.あの身なり. おそらく毎日食うや食わずの生活だっただろうが, それが20両も大金を持っている.しかも気の毒だと言うだけで, それをぽんと投げ出す.赤の他人だ.何故だ.何があの女に起こったんだ.」
剣之介の言うことがこの話のテーマでもある.

剣之介とお歌が芸を見せようとしているところへ赤鞘組が現れた. 赤鞘組は地回りのやくざどもを撃退した.剣之介が帰ろうとすると, あの鳥追い女が連れてこられた.これが女か, と赤鞘組のボス陣場弥平次(城所英夫)は言い, 鳥追い女を無理矢理逆立ちさせた.

やいと屋の客,船宿の女将は,人間はどうしてうまく行かないのかねえ, とぼやいていた.女将は大店を一人で切り盛りしていた. 何と女将は赤鞘組の陣場に,無理矢理妾同然にさせられていたのだ. やいと屋が手代を相手に話していると, 陣場と女将が屋形船で出かけることになった.あっしが,と言う手代に, 陣場の手下は幸吉(島田順司)が名指しされている,と言った. 幸吉は仕事をよくやるが,酒は呑まないし,女遊びもしないし, 笑った顔も見せなかった.一体何が楽しみで生きているのかわからない, と手代はやいと屋に言った.

屋形船で陣場は女将と情事を開始しようとした. 陣場は女将が幸吉に惚れていることを見抜いていた. 情事を幸吉に見せつけようという魂胆だ.陣場は別れてもいいと言ったが, その代わりに金を無心した.女将は拒否したが,陣場は代わりとして身体を要求. 別れたければ金を用意しろと陣場は繰り返し繰り返し言った.

「君子は色を現さず.男子十にして席をおなじゅうせず.」について, 千勢が講義していると主水が千勢を呼び寄せ,新しく入った好色本を渡した. 近々五色刷りの凄いのが手に入る,と主水が言い,千勢は大喜び. 言っていることと,やっていることが全然違うぞ.その時, 主水はりつに呼び出された.お咲(西崎みどり)がやってきたのだ. お咲は面談がめでたくまとまり,近々結納を交わすことになった. 相手は筆頭与力.縁談がまとまればお引き立てがあるかもしれない. お咲は仲人を主水とりつに頼むと言う.主水は快諾した.

お歌は先ほどの鳥追いを連れてきた.鳥追いの名前はおとく. おとくは池のほとりで丸太みたいに横になっていたと言う. それを見かねてお歌はおとくを連れ込んだのだ. さて女将は幸吉に自分が幸吉に惚れていると言っていた. 女将の死んだ旦那は女道楽にうつつを抜かす男だった. 幸吉は旦那とは正反対で真面目一方の男だった. だが幸吉は女将の申し出を断った.10年前,ある事情で幸吉は身を投げていた. それを女将が助けたのだ.身を投げた理由が元で, 幸吉は女将の申し出を受け入れることができなかったのだ.

屋台の前でやいと屋と主水が景気が良いかと言い合っていると, 幸吉が酒を呑んで人に絡んでいるところに出くわした. やいと屋は幸吉を自分の家へ運び込み,寝かせてやった. 幸吉は心中しようして身投げしたところを女将に助けられていたのだ. 幸吉は自分の素性を一切言おうとしなかったので身元は良くわからない. だが加納屋とさっきからわめいていた.それをやいと屋から聞き, 寝ている幸吉を見た主水は,見覚えがあるなあ,とずっと考えていた.

捨三の調べで幸吉の身元がわかった. 幸吉は芝明神にある質屋加納屋の後家おいせの婿に入ったが, 一人娘のおとみと幸吉が惚れあってしまった.だが義理の間でも父と娘では, この恋が許されるわけがない.悩んだ挙句,おとみと幸吉は心中したのだ. おとみの死体はその後ずっとあがらなかった.そこへ剣之介がやってきた. 例の鳥追いのおとくが潜り込んでいたというのだ. 捨三は加納屋の前でおとくを見たと言った.門付けをするでもなく, 涙ぐみながら様子を伺っていたと言うのだ.それを聞いた主水はピンと来た. 早速お歌に「おとみさん」と呼ばせるとおとくは反応した. やはり鳥追いはおとみだったのだ. やいと屋は幸吉におとみが生きていることを話した.泣いて幸吉は喜んだ. 幸吉は,ここ10年自分だけが生き残ってすまない,と思っていた. だから女将の思いにも応える事ができなかったのだ. 一方,おとみも幸吉が生きていると知って泣いて喜び,服を調えていた. やいと屋の家では幸吉が服を調えていた.暮六つに二人が会うという約束だ. 久々に「西陽の当たる部屋」が流れる中,お歌はおとみに化粧を施してやった. そして暮六つになった.やいと屋のところに手代が乗り込んできた. 何と女将は書置きを残して陣場と刺し違えると言って出て行ったのだ. それを聞いた幸吉はいてもたってもいられず,陣場のところへ乗り込んだ. 陣場が正に女将を斬ろうとした時,幸吉が乗り込み,盾になった. その隙にやいと屋は女将を連れて逃げた. 女将は妹のところに身を寄せることにした.その頃, 中村家では主水がいないので大慌て.お咲の祝言が近いのにだ. あんなのを婿にしたのが悪い, とせんとりつはお互いに責任をなすりあって大喧嘩.あまりの醜態に
お咲「あたし,帰ります.」

剣之介の小屋で剣之介と主水はいらいらして待っていた. お歌とおとみもまんじりともしない様子.
お歌「ちょっと遅いわねえ.」
主水「おい.金のことなんか言ってなかったか?」
お歌「ああ,おとくさんねえ,20両も持っているのよ. まあ,白粉一つ買わないで身代流して暮らしてたからひとりでにたまったって, 言ってたけどね.それで気持ちだけでいいからお礼がしたいって言うのよ.」
主水「そのお礼ってのはいくら出すって言ったんだい.」
お歌「だからあたし言ったのよ.そんなことよせって.」
血相変えて剣之介が言った.
剣之介「よせだと!」
主水も嫌な顔して何か呟いた.
お歌「だってあの人,金がいるじゃない.」
剣之介「俺達だっているじゃないか.」
お歌は剣之介の言葉を流して言った.
お歌「それにしても遅いわねえ.ちょっと,ちょっと,あれ,何?」
そこへ傷を負った幸吉がやってきた.幸さん,おとみ,と抱き合う二人. だが幸吉は死んでしまった.遅れてやいと屋がやってきた. やいと屋が事情を話そうとしていると,絶望したおとみが自害してしまった.
お歌「こんな馬鹿なことってあるかい.やっと一緒になれたんじゃないか. 三人もいて何にもできなかったのかい.こんな,こんな馬鹿なことってないよ.」
主水,剣之介,やいと屋は言葉を失った.
お歌「おとみちゃん.もう離れるんじゃないよ.」

三人は仕事に取り掛かることにした.
お歌「あんたが死んだら,あたしも生きちゃいない.」
剣之介はお歌の言葉にうなずいた. 陣場は女将の居所がわからないのかとほざいていた.その時,気配が. 相馬軍十郎(五味龍太郎)が出て行った.外では捨三が,女将の居所がわかった, と言って二人連れ出した.勿論,これは罠.捨三におびき寄せられた二人は, 主水に斬られた.さて相馬が感じた気配とはお灸の燃える匂い. 相馬はやいと屋に殺された.陣場をやるのは剣之介だ.
お歌「お迎えにあがりました.」
陣場「何?」
お歌「あなた様に晴らせぬ恨みを持つ方からのお迎えでございます.」
いつの間にか陣場の後ろに剣之介がいた. 刀を抜く間もなく陣場は剣之介に仕置された.

慌てて主水が帰ったが,お咲は既に帰った後.主水は叩き出されてしまった. 翌朝.仕方なく牢屋敷の番所で寝る主水に忠助が声を掛けてきた.また銀次が, 女に惚れ,相手を殴って逆にボコボコにされて怪我だらけになり,出戻ってきた. 馬鹿な奴だと言う忠助に
主水「私は銀次が馬鹿な奴だと思えんなあ.殴ったり怪我させたり, 心中するほど惚れあえば幸せじゃあ,ありませんか.」
忠助「とんでもありませんよ,中村さん.日々是平安.これが一番ですな.」
主水は呟いた.
主水「日々是平安.何を言ってやがんでえ.こっちは日々是不安の連続だ.」

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp