「必殺仕業人」第14話「あんたこの勝負をどう思う」

脚本は安部徹郎.監督は松野宏軌. 「助け人走る」#9「悲劇大勝負」と同じような話ですが, 切り口がちょっと違います.

さて夜遅く,女(三浦真弓)が神社でお百度参りをしていた. そこへ荻田道安(中尾彬)がやってきて声を掛けた. 女ことおかなは荻田が今度将棋で戦う男の女房だった. おかなは夫のため,そして年老いた義母のため,負けてくれと頼み込んだ.
荻田「おかなさん.神仏とて賽銭を取る.あんたの賽銭は何だ?」
おかなは自分の身体を賽銭として捧げた.その頃, おかなの夫竹次郎(長塚京三)は今日も将棋を指していた. その将棋会所では竹次郎に敵う者はいなかった. そして会所では竹次郎と道安の勝負はどちらが勝つかと言う話で持ちきりだった. 掛け金もべらぼうに高いと言う.

竹次郎の母まつ(松井加容子)はやいと屋のお得意さんだった. まつは竹次郎も竹次郎の父も将棋ばかりと嘆いていたが, やいと屋は竹次郎の腕は大したもんだと誉めていた. さて外へ出た捨三にやいと屋は,竹次郎の調子はどうだい,と聞かれていた. 何と贔屓の商人同士が五百両ずつ出し合い,賭金が千両になっていたのだ. 主水は竹次郎に1分賭けると言った.捨三は賭け事なんて勿体無いと言って, 賭けには乗らなかった.やいと屋は道安に賭けると言った. いくら力があってもどん底の暮らしをしていては勝てるわけがないと言うのが, その根拠.一方,おかなが働く店でお歌が声を掛けていた.そのとき, しがない将棋指し天下斎棋楽(田辺一鶴)が, いくら将軍家御指南役の道安でも竹次郎には敵わない,とほざいていた.
剣之介「無責任なことばかり抜かしやがって.」

主水は荻田道安と関竹次郎対局場へ行き,賭け事の取締りが厳しくなってるぞ, と言って袖の下を貰っていた.ちょうど竹次郎と道安の勝負が始まったばかり. 主水はあがりこんで将棋のことをあれこれ言ったが,相手にされなかった. その頃,剣之介とお歌は大道芸をしていた.そこへおかながやってきた. 落ち着かないと言うのだ.おかなはこんな辛い商売はないといった. 勝てばいいのだが,負けると三日も四日も竹次郎は眠れなくなってしまうのだ. 何でこんな苦労をするんだろう,千度の将棋で勝っても五両か六両だけ, 負けると一文ももらえない,とおかなが言うと
剣之介「女にはわからんな.」
お歌「ちょっと何よ,それ.」
剣之介「命がけで勝負をできるのは男だけだ.この気持ちは女にはわからん.」
お歌「ふ.冗談じゃないですよ.あたしだって花札を引く時は命懸けですよ. 死ぬ気でやってるんだから.」
剣之介「そういうこととわけが違うんだ.」

なおも勝負は続いた.何と夜になっても勝負がつかなかった. 竹次郎の家ではまつが南無妙法蓮華経と唱えながら太鼓を叩き, 仏壇に祈願していた.そのとき,まつが手を止めた.竹次郎が帰ってきたのだ. そして「助け人走る」の時に作られたB.G.M.が流れる中, 帰って来た竹次郎はおかなに叫んだ.
竹次郎「勝った.勝ったぜ.あー,勝ったぜ.道安に勝ったぜ. 俺は道安に勝った.勝ったぜ.」

翌日.千勢は「君子は愉えを避く」について講義してた. 将棋や碁などの勝負事に夢中になると人間は間違いを犯す,と言う意味だ. そこへ主水登場.将棋盤を取りに来たのだ.主水は子供達に笑われた. さらにせんは「将棋の指し手を調べる」と主水が言ったので呆れてしまった. りつも呆れ,せんとりつは内職の傘貼りにせいを出していた. だが主水は将棋の指し手を調べていた.

その頃,道安はスポンサーの商人勘兵衛(谷口完)と, 大槻(波田久夫)と言う武士になじられていた. 敗因の道安らしくない手を何故指した,と言われ, 道安はおかなと寝たことを話した.それで遂気が緩んだと言うのだ. 早速道安の使いの者がおかなを呼び出しに行った.
道安「おかなさん,私は約束を守った.あんたとの約束を守って勝ちを譲った.」
おかな「嘘です.あなたは竹次郎を負かす気でした. 勝ちを譲る気なんか始めからなかったんです.あたしだって将棋指しの女房です. そのぐらいのことはわかります.」
図星だったのか道安は無言だ.帰ろうとするおかなを捕まえ,道安はこう言った.
道安「私は勝っていたのだ.だが勝ちを決める一瞬,私に身を任した, お前の白い肌の匂いが身をよぎった.だが私は負けた. あんたとの約束を守って負けた.」
おかなはこういうのがやっとだった.
おかな「どうしようって言うんです,あたしを.」
道安「この償いをしてもらおう.」
道安はおかなを抱きしめた.だがおかなの本当の相手は道安ではなかった.
勘兵衛「なるほど.こいつはいい女だ.」
「必殺必中仕事屋稼業」の時に作られたサスペンス曲が流れる中, おかなは勘兵衛に犯されてしまった.

その晩.竹次郎を誉めていたスポンサーの辰五郎(西山嘉孝)のところに, 勘兵衛がやってきた.これは片八百長なので金を返せと言うのだ. 勘兵衛はおかなと道安が寝たことをほのめかした. そしておかなは竹次郎に殴られた.竹次郎は道安と寝たのはいつだ, とおかなを責めた.おかなは,許してもらおうとは思わない, でも竹次郎に勝って欲しかった,と言った.竹次郎は, 自分の力で勝ったんだ,と信じたかった.そして竹次郎は, おかなが自分の勝負に泥を塗ったことが許せない,と言い, うちには帰ってくるな,と言って去って行った. 呆然とするおかなをお歌が呼び止めた.おかなは寂しそうに笑った.

翌朝.おかなが土佐衛門となって川端に浮かんだ. じっと見るお歌は剣之介に無理矢理連れ出された. お尋ね者の剣之介が関わり合いになると面倒なことになるからだ. お歌は前の晩におかなから全てを聞いていた.道安が悪い, というお歌に剣之介が言った.
剣之介「道安を恨むのは筋違いだ.」
お歌「何で?」
剣之介「恨むならむしろ竹次郎の方だろう.いや, 将棋の持つ非情さと言った方が良いかもしれん.あの女はただの死損だ.」

おなかが死んだと聞いた捨三は仕事になると言ったが,やいと屋は否定した. 竹次郎が仕事にするわけがない,と.だが捨三は出て行った.
捨三「好きなんだから.本当にこの仕事が好きなんだから.」
捨三は人のことを言えないぞ.そして夕方.竹次郎は道安のところに現れ, 勝負を申し込んだ.命を賭けて戦うと言うのだ.

高田藩の御重役大槻高次郎が立ち会うことになり,また勝負が始まった. 竹次郎の顔は鬼気迫っていた.さすがの道安も息を呑む場面が続く. 竹次郎必殺の銀打ち.だが道安は竹次郎が打った銀の真ん前に歩を打った. これが効き,竹次郎は負けた.と同時に竹次郎は大槻に斬られて死んだ.

まつは,仏壇の奥に竹次郎が将棋で稼いだ金がある, 竹次郎とおかなの恨みを晴らしてくれ,とやいと屋に頼んだ.さあ,仕事だ. だが剣之介は乗り気じゃなかった.
剣之介「勝負は強い者が勝つんだ.勝った奴は常に正しい. 負けた奴に義理立てすることはねえだろう.」
主水「おめえ,将棋知ってるのか?」
剣之介「将棋は知らねえが,勝負は知ってる.」
主水「あれは勝負じゃねえ.騙しだ.」
捨三がその理由を話した.あの時の勝負は竹次郎の勝ちが見えていた. だが道安は歩をわざと下に落とし,駒台に載せた. そしてその歩を打って竹次郎の勝負手を封じた. これは如何様師が使う「落し」の手だ.
剣之介「竹次郎はそのことに気がつかなかったのか?」
やいと屋「おめえさん,将棋を知らないからそんなことが言えるんだ. 指してる時は誰だって夢中だ.かっとして目の前の駒しか目に入らねえんだよ.」
それを聞いた剣之介は納得し,仕事をすることにした.
剣之介「賭け師の勝負は終わった.」
なおやいと屋は将棋の駒を将棋盤の上に落し,全部と金にしてから出発し, 勘兵衛を仕置.大槻が便所から出てきた.手を洗う大槻. 大槻のひしゃくからこぼれた水が刀にかかるのが見えた. それに気がついた時,大槻は主水の突きを食らって絶命した. そして道安をやるのは剣之介だ.剣之介は歩いていた道安に飛び掛り, 一瞬にして仕留めた.道安の懐から将棋の駒がこぼれ落ちた.

翌朝.銀次は体操をしながら主水と将棋を指した. なんと主水は銀次の飛車を使って王手を掛けた.
銀次「こういうのはねえ,泥棒の始まりですよ.」
白い目で見る囚人達.
主水「まちげえってことあるじゃないか,お前.やめた!」

なお,この回から島忠助があまり登場しなくなります. 演じていた美川陽一郎さんが撮影中にお亡くなりになったからです. いい味を出していたと言うのに残念なことです. 謹んでご冥福をお祈りしたいと思います.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp