脚本は村尾昭.監督は蔵原惟繕.
今日もせんは傘貼り.りつは女の子が授かるようにと毎年雛人形を飾っていた. 主水は毎晩頑張っていると応えたが,せんは,言い訳ばかりお上手になって, 種無しカボチャ,と嫌味を言った.
さてやいと屋は仕事がないのでいらいらしていた.捨三に仕事を探してこい,
と催促する始末.そこへ主水も登場.やいと屋は主水にも仕事を催促.
やいと屋がいなくなった後,捨三が,
やいと屋は仕事がないのでいらいらしていた,とこぼすと
主水「やいと屋だけじゃねえや.俺達だっておんなじだ.
仕事の味をいっぺん覚えちまうと,その味が一生忘れられないんだ.」
後に「新必殺仕置人」で念仏の鉄も同じことを言う.
いや鉄は「必殺仕置人」の時もそうだったのかもしれない.
「必殺仕置人」#6「塀に書かれた恨み文字」では,
辻斬りを働いた馬鹿殿の近習が切腹することになったと聞くと,
「あんな奴らに侍らしく切腹されてたまるか!」と言って,
錠とともにわざわざ仕置に出かけているのだ.いずれ死ぬのは明白なのに.
もうすぐ島送りになる伊平(伊吹剛)という男の幼い息子太吉が,
伊平に会いに牢屋敷へやって来た.忠助は太吉にねだられて弱っていた.
主水は鬼ごっこする振りをして,太吉を伊平に会わせる事にした.
ちょうどその頃,銀次が解き放ちになろうとしていた.銀次は,
牢を出たり入ったりすると疲れる,とこぼしていた.そのとき,
太吉は伊平を見つけ,大騒ぎになった.主水は牢役人に咎められた.
どさくさに紛れ,銀次の放免は取り消しになった.大喜びする銀次.
伊平はおゆう(山口朱美)がいなくなったと太吉から聞き,驚いた.
連れ出されようとする太吉に伊平が言った.
伊平「太吉,弥蔵おじさんの言うこと,よく聞いて,可愛がってもらうんだぞ.」
太吉「やだあ.あんなおじさんなんて嫌いだあ.」
突然,伊平が主水に懇願した.
伊平「再吟味お願いします.どうか,再吟味を.再吟味を,
再吟味をお願いします.」
主水は伊平から話を聞いていた. 主水は太吉がおゆうがいなくなったと言っていたことを思い出し, 再吟味の申し出と関係があると考えていた.そして,そのことを伊平に尋ねた. おゆうは伊平と所帯を持つはずの女だった.おゆうがいなくなれば, 伊平の親方で弥蔵(大滝秀治)と言う香具師の元締が, 太吉の面倒を見ることになる,と伊平は言った. 伊平はおとよという女を殺して自首した罪で捕らえられていた. おとよは弥蔵の妾だった.伊平はおとよについ手を出してしまったと言ったが, 主水は裏に何かあると睨み,問い詰めた.弥蔵にとって伊平は仇だ. その仇が太吉の面倒を見るのは何故なのだ,と. だが伊平は本当の理由を話そうとしなかった. 主水が弥蔵の家へ行ってみると太吉はまだ帰っていなかった. 主水が帰ってきた後,弥蔵はおゆうを強引に物にしようとしていた. 弥蔵は座敷牢におゆうを閉じ込めていたのだ.
さてやいと屋は川原で太吉と出会っていた.太吉は独りだった. そして太吉はやいと屋のあとをついてきた. やいと屋は「早くうちへけえんな.」と太吉に言ったが, 太吉は帰ろうとしなかった.同じ川原に剣之介とお歌がいた. 剣之介はやいと屋に金を無心した.そのとき,剣之介は太吉に気がついた. やいと屋は太吉に芸を見せてくれとお歌と剣之介に頼んだ.二人は承知し, 芸を見せてやった.結局やいと屋は太吉を自分のうちへ連れて帰ってしまった.
その晩.牢の中で伊平が殺されてしまった.濡れた半紙を口と鼻につけられ, 窒息死させられたのだ.その様子を銀次は見ていたが, 寝たふりをしてごまかした.伊平の死は心の臓の発作として片付けられたが, 銀次は主水にそのことを話した.主水は誰にも言うなと銀次に言った. そして主水は伊平の死体から書置きと金を発見した. やはりおとよを殺したのは弥蔵の仕業だった.そして書置きには, 自分が殺されたら太吉の面倒と仇を討ってくれと書いてあった.
仕事にありつけると聞いたやいと屋は喜んでいた.
弥蔵は俺がやると張り切るやいと屋を主水は止めた.
捨三が詳しく調べていたからだ.
主水「それよりなんだな,やいと屋.おめえと伊平の倅が出会うってのは,
これはまた何かの因縁だぜえ.」
だが因縁はこれだけではないことを主水,そしてやいと屋は気づいていなかった.
伊平を殺したのは今日解き放ちになった勘助(山本清)だった.
そして勘助は弥蔵の子分だった.弥蔵はおゆうに伊平が死んだことを告げた.
それをしっかり捨三が調べ上げていた.弥蔵の屋敷の警備は厳重だ.
床下には盗人避け,天井裏には雀脅し,座敷牢には女を閉じ込めていた.
これを聞いたやいと屋は
やいと屋「結構だねえ.その方がやりがいがある.」
主水が中村家に帰ると新しい間借り人がもう入居していた. 今度は若い女性の千勢.せんもりつも,そして主水も大喜び. 千勢は早速寺子屋を開業した.
早速弥蔵の屋敷にやいと屋と剣之介が忍び込んだ. だが弥蔵と勘助はやいと屋と旧知の間柄だったのだ. 度肝を抜かれたやいと屋は引き揚げる他なかった. 虚しく引き揚げるやいと屋は弥蔵のことを思い出していた. やいと屋の両親は弥蔵を裏切って殺されていた. だが幼かったやいと屋は助けられ,弥蔵に育てられてきたのだ. 弥蔵が歌を歌いながらノミで木を彫っているそばで幼いやいと屋は育ったのだ.
翌日.捨三の洗濯屋に現れたやいと屋を主水達が責めた.
主水「やいと屋,てめえ,なぜやらなかった.」
剣之介,捨三もやいと屋をじろっと睨んだ.
主水「おめえは,仕業人として面まで割れちまったんだ.」
やいと屋「俺は裏切るような真似はしねえ.」
やいと屋は弥蔵のことを話した.弥蔵は昔は吉五郎と言う男で仕業人だった.
やいと屋は弥蔵に殺しの手口を教わっていた.だが弥蔵は盗みも働く外道だった.
やいと屋は外道までは教わっていねえと言った.
主水「訳はどうでもいい.てめえ,生かしとくわけにはいかねえぞ.」
主水は刀を抜こうと柄に手をやった.剣之介も指輪を指にはめた.
主水「俺ははなっからおめえなんか信じちゃいねえぞ.」
主水は刀を抜き,切っ先をやいと屋の喉元に突きつけた.
主水「俺はもう少しこの仕事で楽がしてえ.俺が生きるために,おめえ,
死んでもらうぞ.」
だが太吉が洗濯屋にやいと屋を呼びにやってきた.そのため,
やいと屋は何とか家へ帰ることが出来た.
やいと屋の家を勘助,そして剣之介が見張っていた.
勘助はやいと屋を弥蔵のところへ連れ出した.
やいと屋は昔は政吉と言う名前だった.
弥蔵は太吉がやいと屋のところにいることに驚いた.
弥蔵「政,あのガキを俺によこしてくれ.」
弥蔵は太吉を始末するつもりだったのだ.
やいと屋「親父さん,変わったな.昔の親父さんじゃねえや.
8年前はあんなひでえ殺し方はしなかったぜ.」
弥蔵「政,それが8年ぶりに会って俺に言う言葉か.
はあ,おめえも大層立派になったもんだ.」
やいと屋は帰ろうとしたが,弥蔵はやいと屋に,自分達と組もうと持ちかけた.
やいと屋はその話を断った.仲間への義理立てかと言う弥蔵に
やいと屋「義理立て? あたしには義理とか仁義とかまるでありませんよ.」
弥蔵はそれなら仲間のことを話せと詰め寄った.物陰から見る剣之介.
やいと屋「たった今言ったでしょう.
あたしには義理とか仁義とかというのはまるでないって.」
弥蔵「それはテテオヤ同然の俺にもねえってことか,え,政.」
交渉は決裂.勘助はやいと屋に襲い掛かろうとしたが,ここは人が多い,
とやいと屋は居直って立ち去っていった.
遂に弥蔵はやいと屋の家に客を装って現れた.それを見ながら,
剣之介も捨三も,やいと屋が裏切らなかったことは確かだ,と思っていた.
主水「客がけえりゃ,やいと屋一人だ.弥蔵達は殺しにかかるぞ.」
剣之介は踏み込もうとしたが,主水は止めた.
主水「面さらす気かい.ここは一番,やいと屋に賭けてみようぜ.」
捨三は大丈夫かと懸念した.やいと屋は弥蔵を殺ろうとしたが,
やいと屋が懐中の火種を手にした途端
弥蔵「なんだい,そりゃ.」
弥蔵はやいと屋の魂胆を見抜いていた.その為,
やいと屋は手を動かすことが出来なかった.高笑いする弥蔵.
そこへ太吉が現れた.太吉を連れてやいと屋は外へ出ようとしたが,
太吉は弥蔵が投げたノミの餌食になってしまった.
やいと屋「くっそう.子供まで殺す外道にまでなりさがっちまったのか.」
やいと屋は太吉の怪我の手当てをした.そこへおゆうが現れた.
太吉が心配なので隙を見て何とか逃げ出してきたのだ.
泣きながら太吉を心配するおゆうを見てやいと屋は何事か決意していた.
やいと屋「今度の仕事に金はいらねえ.こいつは返しとくぜ.」
主水「やいと屋.この稼業は人情がらみじゃ成り立たねえぞ.
これはおめえのもんだ.」
こうして三人は仕事に取り掛かった.まず弥蔵のところへ主水が乗り込んだ.
番屋におゆうがやってきて太吉を預かってくれと言ったと言うのだ.
弥蔵は勘助を連れ,出かけることにした.橋の下に女がいるのを見て,
弥蔵と勘助はおゆうだと思い,川へ降りることにした.勿論,それは罠だ.
橋の下で剣之介が勘助を仕置した.弥蔵をやるのはやいと屋だ.
弥蔵は振り返った女を見て驚いた.おゆうではなくお歌だったからだ.
虚を突かれた弥蔵はやいと屋の鍼で倒された.
やいと屋は昔弥蔵が歌ってくれた歌を歌いながら帰っていった.
弥蔵と過ごした思い出と決別するために.