「必殺仕業人」第1話「あんたこの世をどう思う」

脚本は安部徹郎.監督は工藤栄一.

さて市松を逃がした責任で牢屋見回りに格下げになった中村主水は, 一杯ひっかけた帰り,一人の白塗りの男に呼び止められた.
男「お前さん,中村主水って男を知ってるか?」
これが後の仲間,赤井剣之介と中村主水との出会いだったが, 主水は知る由もない.主水はとぼけたが,剣之介は金を無心. 剣之介の剣の腕は見事な物だったが,腰に刺しているのは竹光だった.

さて主水は牢屋の罪人から5両で大名の奥方殺しを引き受けていた. もう少し色をつけられないのかという主水に仲介役の罪人伝蔵(汐路章)は, いつお呼びがかかるか判らないとうそぶいた.そして主水に, 頼み人の豊島屋が牢から引っ張り出されることを教えた. 早速係の役人島忠助(美川陽一郎)に尋ねて見ると, 上州5万石の沼木藩の奥方に妹おりん(木内みどり)が殺され, それを怒った豊島屋が奥方に襲い掛かったのだ.

主水は捨三が営む女郎の洗濯屋へ行った.印玄と市松のいない今, 仲間は他にやいと屋又右衛門ただ一人.そのやいと屋も頼りない. 大名相手の仕事だというのに,これでは心もとない. 主水はあの白塗りの男を捜すように捨三に頼んだ.

下谷の寺の境内であの白塗りの男はお歌と言う女と一緒に大道芸をしていた. 実はその男は元沼木藩藩士真野森之助であった. 男を沼木藩士が取り押さえようとしたが,男はお歌を逃がし, 自分も往来に紛れて逃げることに成功した.

沼木藩士からそのことを聞いた奥方は大喜び. だがお歌のことを聞くと奥方の機嫌がたちまちわるくなった. また奥方は国元の職人にきれいな着物を作らせていた. 奥方はその職人を江戸へ呼び出していた.職人は江戸から帰ったら, 国元のお殿様の側室に着物を作るという噂もあった. きれいな着物はこの世に一つだけあればいいと言い放っていた. その頃,やいと屋は,沼木藩の老女松乃(絵沢萠子)から, 豊島屋の妹おそのは殿様の手がついたために, 奥方に殺されたと聞き込んでいた.

翌日.男とお歌は川原のボロ小屋に潜んでいた. お歌は昨日のことを気にしていた.その後,反物屋でお歌は反物を万引き. だがばれてしまった.そこへ主水がやってきてお歌を連れ出した. 主水はお歌に男のことを問い詰めた.お歌は主水に男の素性を話した. 男は沼木藩の侍だったが,お歌の為に人を殺し, お歌と一緒に脱藩して逃げたのだ.主水は今の話は聞かなかった事にしよう, と言い,男のところへ連れて来させた.男は市松から主水のことを聞いていた. 市松と男は信州諏訪で知り合い,ごろつきを殺したのだ. どんな仕事が欲しいと聞く主水に
男「殺しだ.今の俺にはそれしかできねえ.」
さらに男は主水に金を貸してくれと頼んだ.必ず返せと主水は言い, 金を貸してやるのだった.久しぶりに飯を食べた男とお歌.

中村家は困窮していた.せんとりつは傘貼りの内職をしていた. 定町回りの頃は僅かながらお届けものがあったが,今は何もなかった. 主水は部屋貸しをしてはどうかと言った.りつは反対したが, せんは乗り気で「さすが婿殿.良い考えです.」と言うのであった. これが災いの元になるとは主水もせんも気がついていない.

男に主水は標的が沼木藩奥方のお未央の方だと言った. お未央の方は着物を作った源兵衛を呼び出した.そして褒美と称し, 家来の小沢勘兵衛(天野新士)に源兵衛の手を斬らせた.
男「斬れん.俺には女は斬れん.」
男はお未央の方の許婚だったのだ. だがお歌が沼木藩の藩士にさらわれてしまった事により,状況は一変する. 男は否応なしにお未央の方と対峙する羽目になってしまったのだ.

その頃,捨三はお未央の方を殺すことを躊躇していた.そこへ男がやって来た
男「あの女は俺がやる.」
仕事は一件五両.残った一両は話を持ち込んだ奴が取る. 男は一両を主水に返した.
男「生きているうちに返しておく.」
男こと赤井剣之介は何やら研いでいた.やいと屋は御神籤を引いた. 大吉だが,やいと屋は文面を気にしていた.

お未央の方はお歌をなじっていた.気丈に話すお歌にお未央の方の怒りが爆発. お未央の方はお歌を殴った後,お歌に琵琶を弾かせた.お歌の琵琶, そして歌声が響く中,やいと屋が屋敷に忍び込んでいた. お未央の方は刀を手にとり,玄を切った.それでもお歌は琵琶を弾いた. またお未央の方は玄を切った.それでもお歌は琵琶を弾いた. 一方,主水は小沢を刺殺.やいと屋は松乃を焼いた鍼で殺した. そしてお未央の方のところに剣之介が現れた.帰ってきたと狂喜するお未央の方. 剣之介はお未央の方を抱きしめ,そしてお未央の方の元結を斬った. そして髪を絞めてお未央の方を絞め殺し,お歌を連れて逃げた.

やいと屋はお尋ね者とは組めないと言った.そして主水に
やいと屋「八丁堀,その人連れ込んだのはあんただ. だからあんたの前ではっきり言っとく.俺はおめえさんを信用できねえ. だから一緒にする気もねえ.」
それを受け,主水が言った.
主水「やいと屋,俺だっておめえなんか,はなっから信じちゃいねえや. おめえだけじゃねえぞ.あの捨三も,あのノッポも.俺あ, だ〜れも信じちゃいねえ.俺達,お前,人様の命頂戴して金稼いでる悪党だ. だから仲間が欲しいんじゃねえか.地獄の道連れがよ. その道連れを裏切ってみろ.地獄にも行けやしねえぞ.」
そういう主水に剣之介は,俺はもっと金が欲しいと言い放ち, 主水に馬鹿野郎と言われるのであった.

作品全般に流れる暗いムードのためマニアには人気の高い「必殺仕業人」ですが, その暗いムードのため視聴率は前作の「必殺仕置屋稼業」よりも落ちたそうです. 最後のシーンに象徴されるように,仕業人グループは金だけで繋がっています. だから仲間意識などほとんどなく,組めば金を得られると言う意識だけです. そんな仲間達を束ね,殺しを続けていく主水にとっては辛い日々だったでしょう. 「必殺仕置人」や「新必殺仕置人」の頃の和気藹々としたムードとは程遠く, 甘党だった主水がいつのまにか酒を飲むようになるのもわかるような気がします.

なお最後のシーンは工藤栄一監督がその場で付け加えたもので, 台本にはないシーンです.台本の最後のは次の通り. 主水が仲介人の罪人のところへ行き,仕事が無事に終わったことを報告. ついでに罪人の首を斬る日が決まったことも報告. それを聞いた罪人が「そうか.俺は先に地獄へ行って待っているからな.」 というようなことを言い,主水の表情が暗くなると言う物でした. どちらの最後もこの作品をよく現していて興味深いのですが, 工藤栄一監督の作ったシーンの方が, 作品の世界をより深く物語っているとも思います. その工藤栄一監督ももういません… また冒頭で本作唯一と言ってもいいコメディーリリーフ, 出戻り銀次郎(鶴田忍)が出戻ってくるシーンがあります.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp