第二十六回

人体実験を繰り返す慈善病院の裏に隠された秘密を暴きだす. ハングマン組織解散.同時に野川加代子も失業.
女体を人体実験する悪魔の病院長

脚本:大野武雄 監督:永野靖忠

男(大村千吉)が「苦しい」と叫びながら橋の上を走っていた. そこへパトカーが通りかかり,男に質問した. さらに海津病院「太陽の里」の救急車が通りかかり, 強引にその男赤木を乗せようとした.彼は夜に「太陽の里」を脱走していたのだ. だが赤木は苦しんだ挙句に死んでしまった.

今週のギャラ交渉

「夢の島公園」で園山がチャンプを探していた.
園山「チャンプ.チャンプ,どこだ.」
園山はチャンプ…ではなくて, カップルが抱き合いながら寝そべっているのを見つけた. 早速出歯亀を開始する園山.すると
チャンプ「すっきやなあ,園やんも.」
驚いて周りを見回す園山.
チャンプ「おーい,ここや,ここや.ここ.」
大笑いするチャンプ.チャンプは木の上にいたのだ.
園山「なーにしてんだ,そんなとこで.」
チャンプ「え.マンウォッチング.いわゆる人間観察やねえ.な,園やん. こっから見下ろしとくとアベックがよう見えまんのやがな.誰にも見られん. 邪魔されん.もうどえらいことに夜ともなるとなりまっせ.」
早い話がチャンプも出歯亀をしていたというわけだ.
園山「上から覗こうって言うのかね.」
チャンプ「ご名答.」
園山「昼間っからご苦労なこったなあ.」
チャンプ「ま,この場所はねえ,特等席やさかい,ライバルが多いもんやから, ほい,頼むでえ.」
チャンプは自分の鞄を園山に放り投げて渡した.そして木から下りた.
園山「その情熱を仕事に注げば,君の人生もバラ色に輝いたと思うがね.」
チャンプ「いやあ,バラ色には輝かんかもしらんけど, ピンク色には輝いてまっせ.あっち行こう.」
チャンプと園山は別の場所へ移動して商談を開始した.資料を見たチャンプは
チャンプ「ふん.ほんで,報酬は?」
園山「300.」
チャンプ「な,園やん.人間ちうのは飴玉で動くもんだっせ.」
園山「それはとりあえずの調査費だ.報酬はその他に一人頭100万ずつ.」
園山はアタッシュケースを開け,封筒を渡した.
園山「合計700万.」
チャンプ「ホンマかいな,園やん.」
園山「その代わり条件が一つあるんだ.」
チャンプ「条件?」
園山「あの場所,譲ってくれんかね.」
チャンプ「木の上を?」
園山「うん.」
二人は握手した.
チャンプ「はは.好きなよう.」
園山「ありがとう.」

調査開始

さてアロハツーリストでは加代子が週刊誌を読んでいた.そして, 芸能人が電撃婚約してエンゲージリングの値段が2千万円という記事を読んで, 溜息をついていた.
チャンプ「ただいま.あら,野川さん,お芋ですか? 絵になってますねえ.」
加代子は焼き芋をほおばりながら言った.
加代子「何がです?」
チャンプ「いやあ,なにがですって, 孤閨を守る人妻が冬の昼下がりに焼き芋手にしながら溜息ついて皮むいて, あの人今頃どうしているかしら.」
加代子「まあ,もう,いやらしい.」
チャンプ「いやらしいって今溜息ついてましたがな.」
加代子「違います.私,これを見て.」
加代子は週刊誌をチャンプに見せた.
チャンプ「え? ああ,スターの婚約ですか?」
加代子「ねえ.エンゲージリング,ダイヤなんですよ,2千万も.」
チャンプ「へえ,2千万.こんぺいとうみたいやなあ.こんなん, 野川さんも欲しいんでっか?」
加代子「そりゃあ,ダイヤは女の夢ですものう.」
チャンプ「ほう,ほな買わはったらよろしいがな.」
加代子「まあ無理ですわあ.そんな2千万もの大金,私には.」
チャンプ「ふーん,また,また,また.ご主人, 生命保険に入っておますんやろ.」
これを聞いた加代子は怒ってしまった.
加代子「小出さん,主人に死ねと仰るんですか.」
チャンプ「いや,野川さん.冗談.ジョーク.ジョークなんですがなあ.」
加代子「冗談でも言っていい冗談と悪い冗談がありますわ.あたくし, 帰らせていただきます.」
チャンプ「野川さん,あのう,野川さん.」
そこへE・T,マリア,ヌンチャクがやってきた.
加代子「お先に.」
チャンプは芋を食べながら言った.
チャンプ「愛してはんのやなあ.」
E・T「誰を?」
マリア「野川さんを?」
チャンプは芋をのどに詰まらせてしまった.
チャンプ「仕事.」
ヌンチャク「芋ばっかり食って.」

冒頭の男は赤木りょうじという名前で57歳.死因は肺癌.死因に不審な点はない, いや,あると言えばあるかもしれない. この男は身寄りのない人間でいわゆる浮浪者だった. そして慈善団体太陽の里に入院していた. 海津会病院医院長海津洋一郎(多々良純)が運営している更生施設だ. 高級老人ホーム,病院,障害者のための作業施設, そして刑用者のための更生職業訓練施設が太陽の里一帯に集まっていた. 海津はその前歴を一切語らない男だった. ゴッドの指令は海津を調べることだった. この1年間に54名の死亡者が太陽の里から出ていた. 1週間に1人死んでいる計算になる.資料には死亡届が入っていた.癌,心臓病, 脳出血,いろいろ書かれているが, 診断書を書いたのは太陽の里の病院の医師だった. だから死因などどうとでも書いてごまかすことができるのだ. ゴッドは,太陽の里の中に人を死に追いやる何かがあるに違いない, と睨んでいた.

早速チャンプは「老人ホーム・薫風会」所長と称して太陽の里を訪れた. ちなみに場所は杉並区の高円寺.施設を見学したいというのだ. 事務長(中山昭二)と事務員(岡部正純)はチャンプを案内した. 海津は老人達と一緒にフォークダンスを踊っていた. 事務長の話では世界文化アカデミーの叙勲を受けることが内定しており, 5日後にニューヨークへと渡米する予定だという. 病院は24時間体制.無料で入院している患者も何人もいるという.
チャンプ「あの建物はなんです?」
事務長「は,特別病棟です.」
チャンプ「特別病棟! ご案内いただけませんか.」
すかさず事務長が答えた.
事務長「いや, あそこには重症患者や伝染性の病気の患者が隔離されていますんで, ちょっとご案内できません.」
チャンプ「そうですか.」
事務長は別の場所を案内した.そして見学を終えたチャンプが帰ろうとした時, 子供連れのちり紙交換屋が女を太陽の里に入所させるのを目撃した.
女「おさむちゃーん,あたしみたいな女でもつとまるかなあ.」
おさむ「心配すんなよ. みんなここで職業訓練受けて立派に社会人としてやってきてるんだ.」
女「体売ってお金儲けること覚えちゃってるしさ.」
おさむ「そんなことは忘れろよ.この門くぐったときから, あんた別人に生まれ変わるんだから.」
女「別人かあ.」
男の子「お姉ちゃん,頑張ってねえ.」
女「うん.ありがとう.」
女は男の子の頭をなでた.
女「坊やのためにも頑張ってみるか.あ,おさむちゃん,頑張ってみるよ, あたし.」
チャンプは彼らの写真を撮影した.

E・Tは特別病棟が怪しいと睨んだ. ちり紙交換屋が紹介者というのも怪しいとマリアが言った. チャンプはちり紙交換屋は大勢人を太陽の里に紹介しているだろうと睨んでいた. その頃,太陽の里事務員は「人類幸福の輪太陽の里後援会」の席で, 10名社会復帰したと報告していた. そこで今月は出所後間もない刑容者を募集したいと言っていた. おさむも後援会に参加していた.その後, E・Tとマリアは週刊誌の記者と称しておさむに都電が近くを走る公園で会った.
E・T「今度,海津洋一郎の特集を組むことになってなあ.」
おさむ「おい.口の聞き方に気をつけろよなあ.」
E・T「え?」
おさむ「言い方があるだろうが.海津さんとか,海津先生とか. 俺はあの先生のこと,尊敬してるんだから.」
それほど,おさむは海津に心酔していた.おさむは赤木も紹介し, 20人以上紹介していた.今月の目標は刑務所帰りの若い男だとおさむは言った. さらに,世間から白い目で見られがちなので自分達が力を貸してやらなければ, とおさむは言った.おさむは海津と親しく,受付も秘書も通さず, 直接話ができるという.
おさむ「あの先生は俺みたいな人間にまで優しいよ.ボン, お前にも優しいもんな.」
男の子「うん.」
おさむは男の子を抱き上げていった.思わずマリアは微笑んだ.
マリア「あなたの子供?」
おさむ「ああ.似てるだろう.」

チャンプとヌンチャクはアジトでE・Tとマリアの報告を聞いた.
チャンプ「ボランティアか.どうもさぶいぼの立つ言葉やな.」
マリア「太陽の里のガードが固い以上,突破口は木所おさむしかないわねえ.」
E・T「刑務所帰りの若い男を探していたなあ.」
E・Tはヌンチャクをジロっと見た.ヌンチャクは自分を指差した. そしてヌンチャクは都電が近くを走る, おさむのアパートの近くに止めてあったちり紙交換の車から, ちり紙を盗もうとした.おさむがそれを見つけてヌンチャクを捕まえると, ヌンチャクは刑務所を出たばかりで一銭も持っていないのでついやったと言った. 早速おさむはヌンチャクを太陽の里へ 紹介した.ヌンチャクは前田あきおと名乗った.ヌンチャクの体を検査した後, 事務長はヌンチャクを職業訓練所へ連れて行った.入れ替わりに海津が現れた.
海津「どうかね.」
研究員「完璧なる健康体です.諸器官,筋力,体力, どれをとってもずば抜けてます.」
海津はカルテを見て言った.
海津「うん.今度はこれだな.」

その夜.ヌンチャクは特別病棟に忍び込んだ. 特別病棟の警備は厳重で赤外線つき監視カメラが各所に配置されていた. ヌンチャクはカメラをかいくぐってある部屋に入った. そこは手術室らしかった.おさむが紹介した 女がベッドに寝かされているのが見えた.女の脈拍は0. つまり,女の心臓は停止していた.いろいろな電極が女の体につけられていた. さらに変な管が天井から延びていた. ヌンチャクはカメラでいろいろなものを撮りまくった. そのとき,物音がしたのでヌンチャクは隠れた. 入ってきたのは医者らしかったが, 宇宙服のようなヘルメットを被って防護服を着ていた. ヌンチャクは部屋から脱出した.

ヌンチャクが撮影した計器の写真を分析したマリアは海津達の狙いをつかんだ. BHCとコレラ菌を混ぜた人体に与える影響を追ったデータが, 計器に表示されていたのだ.BHCは神経を麻痺させる猛毒で, 高濃度だと呼吸神経を麻痺させて瞬時の内に人を殺すことも可能だ. おさむの紹介した女は, BHCとコレラ菌を混ぜたものをガスにして吸わされたのだろう.つまり, 海津は密かに細菌兵器を開発し,人体実験を繰り返していたのだ. 一気に叩き潰そうと怒るヌンチャクをE・Tはたしなめた. 海津が細菌兵器を開発する理由がわからないからだ. 裏で操っている人間がいるのかもしれない. E・Tはヌンチャクに海津を徹底的にマークすることを指示.
チャンプ「よし,わしは海津の過去を洗い出してみる.」
ヌンチャク「洗い出すって,奴の過去は全くの謎なんでしょう.」
チャンプ「アホ.細菌兵器って言うのは, 一朝一夕にしてできるもんやないやないか. 以前にも手がけたことがあるはずや.」

E・Tとマリアはおさむを問い詰めた.そこへおさむの子供, 洋介の様子が変だとアパートの管理人のおばさんが言ってきた.熱があったのだ. 往診してきた医者はちょっとした消化不良なのですぐに治るという. だがおさむは男手一人なので洋介の食事は不規則になりがちだった. おさむの部屋にはカップラーメンの空き箱がたくさんあった. 医者はそれを見てきちんと時間通りに食べさせないと言った.医者が帰った後, おばさんはおさむに忠告した.
おばさん「おさむちゃん,洋介はやっぱり施設に預けた方がいいよ. あんた一人で育てるのは無理だよ.」
おさむ「うるせえなあ,ほっといてくれよ.」
おばさん「ほっとけないじゃない. このままだったら洋介はろくな人間にならないよ. 私が手助けするったって限界があるんだから.」
洋介は「ママー,ママー」とうわ言を言った.
マリア「どうしたの,洋介君.」
洋介は尚もうわ言を言った.
マリア「ママを呼んでるわ.」
おさむ「いねえよ,そんなもん.」
洋介「ママー,どこにも行かないでー.」
マリアは洋介の手を握った.
マリア「大丈夫よ.ここにいるわよ.おやすみなさい.」
外へ出て公園のベンチに座っていたおさむにE・Tは, 洋介がおさむの子供ではないことをおばさんから聞いたと言った.
おさむ「俺の子だよ.」
E・T「蒸発した友達夫婦がお前に押し付けて行ったって言うじゃないか.」
おさむ「俺がてめえの子だって言ってるんだよ. 他人がとやかく言うことじゃねえだろう.」
見兼ねたマリアが言った.
マリア「そりゃ,一年も一緒に暮らしていれば情も湧くでしょうけれど, この先もっと大変よ.施設には栄養士さんや保母さんもいるのよ.」
後ろにはSLのC58 407が置いてある.
E・T「どこか紹介してやろうか.」
おさむ「やめてくれよ.保母がなんだ.栄養士が何だよ. 施設のガキが一番欲しがっているのはなあ,一緒に風呂入ってくれたり, 一緒に寝てくれる親なんだよ.てめえのこと心配してくれる人間が欲しいんだ. あんたなんか何にもわかっちゃいねえよ.」
E・T「木所.」
おさむ「俺にはわかるんだよ.俺は孤児院の出身だからよ. 俺は親が欲しかったよ.どこにいるのかわからねえ親がよう.」
マリア「でもねえ,愛情だけでは子供は育てられないのよ. あなたは洋介君の面倒見て満足かもしれないけど,洋介君にとって, それが幸せだとは思えないわ.」
おさむ「てめえらの指図なんて受けねえよ.」
おさむは去ってしまった.

チャンプは図書館で資料を調べていた. そしておさむは海津に洋介を手放すことを決心したと伝えていた. その後海津は太陽の里を出て都内のホテルである男(佐原健二)と会っていた. それをヌンチャクは目撃.
男「結構.このデータなら先方は満足だ.」
海津「うちの研究員の労作です.」
男「ごくろうさん.」
研究員「いえ.こういう実験の機会は滅多にありませんので, 貴重なデータを得ることができました.」
男「なるほど.ところで今度は保育園を開いてもらえんかね.」
海津「保育園?」
男「名目は生み捨て,子殺しの世の中から子供を救う.」
研究員「BHCの幼児に与える影響を調べるんですか?」
男「その通り.誰にも気づかれない少量を5年,10年吸ったらどうなるか, そのデータを先方は欲しがっている.」
海津「わかりました.」
男「早急に頼むよ.」
部屋を出る海津達をヌンチャクは目撃. そしてライターに仕込んだ小型カメラで男の顔も撮影した. そしてヌンチャクは男をバイクで自宅まで尾行して, 男の名が北見伸也であることをつかんだ.しかし北見伸也の名は警察,防衛隊, 代議士,その秘書の中にも該当する人物も見つからなかった. チャンプはゴッドに調べてもらうことにした. そしてチャンプは日本陸軍の細菌部隊の写真をマリアに渡した. 悪魔の部隊と異名をとった部隊だ.この中に海津がいるかもしれない. マリアは終戦と同時に細菌部隊の人間は全員自害している筈だと言った. さらにヌンチャクは写真の中に海津と似ている人物がいないと言った.
チャンプ「アホ.整形してるっちゅうことも考えられるがな. 戸籍かて買うことができる.」
ヌンチャク「整形してたらますますわからないじゃないですか.」
チャンプは苦い顔.
マリア「大丈夫.やってみるわ.」
ヌンチャク「どうやって?」
マリア「顔はいくら変えられても絶対に変えられないところがあるの.それは頭, 頭蓋骨なの.」
チャンプはヌンチャクの頭をつかんだ.
チャンプ「これや,これ.」
マリアがコンピュータで分析した結果, 海津と同じ頭蓋骨を持つ人間が細菌部隊の中にいることが判明した.つまり, 海津は細菌部隊にいた人間なのだ. だから海津は慈善家の仮面を守るために過去をひた隠しに隠していたのだ. そこへE・Tが新聞を持ってやってきた. 新聞に海津が保育園運営に乗り出すという記事が載っていた.
マリア「あたし,ちょっと出かけてくる.」
E・T「どこへ行くんだ?」
マリア「ええ.ちょっと気になるの.」

マリアはおさむのアパートへ行った.マリアの懸念通り, 洋介は海津のところに預けられていたのだ. マリアがしつこく聞くのでおさむは理由を尋ねた.
マリア「海津は洋介君を実験材料に使う気なのよ.」
おさむ「実験材料?」
マリア「そう.あなたが海津のところへ連れて行った人間は, 恐ろしい細菌ガスのモルモットだったの.みんな殺されたのよ.」
おさむ「出鱈目言うなよ.」
マリアはチャンプが目撃し,ヌンチャクが撮影した女の写真を取り出した.
マリア「清水明美.この女性,あなたが海津の所へ紹介した女性ね. 彼女は殺されたわ.」
写真を持つおさむの手は驚きで震えていた.
おさむ「冗談じゃねえよ.海津はこんなことできる人間じゃねえよ.」
マリア「海津はどこにいるの? ぐずぐずしてると洋介君の命が危ないわ. 実験材料にされるかもしれないのよ.海津の居所はどこ? 洋介君をどこへ連れてったの?」
おさむはマリアの質問に答える代わりに出て行った.
マリア「どこ行くの?」

海津のところで洋介はパパ(おさむ)のところへ帰りたいと泣いていた.
事務員「いやあ,全くよく泣く子ですねえ.」
海津「結構なことじゃないか.よく泣くのは健康な証拠. 得難いモルモットだよ.」
そこへ
おさむ「洋介.」
洋介「パパー.」
おさむがやってきた.洋介はおさむのところに駆け寄った. そして二人は抱き合った.
海津「おさむ君,どうした?」
おさむ「先生,洋介,返しにもらいに来ました.」
海津「心変わりをしたのか?」
おさむ「先生,俺達が紹介した人間は実験材料だったんですか?」
海津「おさむ君,一体どうしたというんだ.」
おさむ「細菌ガスで殺されたんですか?」
事務長「何を言うんだ,お前は.」
海津「おさむ,誰に入れ知恵された.」
おさむ「ホントなんですね.先生,答えてください.」
答えの代わりに事務員が拳銃を向けた.
事務長「お前は少し知りすぎたようだな.」
おさむは洋介をかばって後ずさりした.
おさむ「先生,今までのは全部嘘だったんですか.俺に優しくしてくれたのも, あれは全部嘘だったんですかあ.」
事務長「身のほど知らずもいい加減にしろ. お前はいつか役に立つと思って飼っていたんだ.」
ついにおさむは腹を撃たれてしまった.瀕死のおさむは洋介を連れて逃げた.
海津「やめろ.あいつの背後にいる人間を突き止めろ.」

おさむは洋介を連れて自宅のアパートに逃げ帰った.アパートにはE・T,マリア, ヌンチャクが待っていた.ヌンチャクは救急車を呼びに行った.
E・T「おい,誰にやられた.海津か?」
洋介「パパー.パパー.」
おさむ「ああ.結城さん,洋介のこと,頼むよ.」
マリア「しっかりして.」
E・T「おい.」
洋介「パパー.死んじゃ,やだよ.」
おさむ「俺が馬鹿だった.洋介の面倒を頼むよ.」
おさむは事切れてしまった.
洋介「パパー,死んじゃ,やだよー.パパー.起きてよー.起きてよー. パパー,パパー,死んじゃ,やだよー.」
洋介の叫び声を聞いたヌンチャクも駆けつけた. それを事務員と事務長も見ていた.
事務員「前田あきおだ.奴はなにもんですかねえ.」
事務長「すぐ北見さんに連絡しろ.」
事務員「はい.」

北見の部下はアロハツーリストのことを探り出してきた.そして海津達に報告.
北見「結城五郎,32歳.前身は傭兵.ラオス,カンボジア, パレスチナなどの戦火の中を生きてきた男だ.前島アキラ,23歳.前科5犯. 武道の達人.紅一点雨宮礼子.そして小出英樹.元関西警察署署長. この4人はアロハツーリストなる旅行代理店を運営している.」
野川加代子の存在は無視されたらしい.
海津「旅行代理店に勤めとる人間がなんで我々を探ったり?」
北見「旅行代理店というのは仮の姿だ.」
海津「なにもんですか?」
北見「わからん.正体不明の組織だ.しかし,我々の前に立ち塞がる以上, どんなことがあっても組織をあげて叩き潰す.ご安心なさい.」

ゴッドの決断.ハングマンの決断.

園山はチャンプをお台場に呼び出した.一緒に海釣りをすると装っていた.
チャンプ「園やん,あんたももう物好きやなあ. 寒いのにこんな酔狂なとこ呼ばんでも.」
園山「何も酔狂でここに呼んだんじゃない.理由があるんだ.」
チャンプ「ああ,そうでっか.ほんで, あの北見っちゅう男の正体わかりましたかい.」
だが園山はチャンプの問いには答えず, 浮きを見つめたままとんでもないことを言い出した.
園山「チャンプ,今回の仕事は今日限り打ち切りだ.」
チャンプ「え?」
園山「こっちを見るな.ここに一人頭500万ずつ,合計2千万ある.」
園山は魚入れごと2千万の札束をチャンプの側に置いた.
園山「これはキャンセル料だ.」
これを聞いたチャンプは驚いた.
チャンプ「キャンセルって.園やん,ガキの使いやあるまいし, はいそうですかっちゅうわけにはいきまへんなあ.」
園山「命が惜しかったら,これ以上首を突っ込むな.」
チャンプ「ほう.ゴッドの命令ですか?」
園山「そうだ.」
チャンプ「さっぱりわけわからんなあ.そやけど,このままやったら,わし, みんなに説明のしようがおまへんがなあ.」
園山「それなら言おう.君達が正体を知りたがっていた北見って男はJCIA, 内閣情報室の室長だ.」
チャンプ「日本のスパイ組織と言われてる?」
園山「それとCIA,米軍戦略部隊が絡んでるとゴッドは睨んでおられる. チャンプ,正直に言おう.極秘情報だが,上の方が動き出している.」
さすがにチャンプの顔色が変わった.
園山「今ならまだゴッドの手で止めることができるんだ.」
チャンプ「そ,そやけど,あいつらのしようとしとることはやねえ…」
園山はチャンプの方を見て言った.
園山「わかってる.チャンプ,何も言わずに金を受け取ってくれ.」
チャンプ「もし受け取らん言うたら?」
園山「ハングマンは解散.ゴッドの庇護もなくなるぞ.解散してもいいのかね.」
チャンプ「脅かしでっか.」
園山「チャンプ,まだまだこの国では君達の存在が必要なんだ. 今回の仕事が最後じゃないんだ.そこをわかってくれ. 時間がかかるかもしれんが,後の処理はゴッドがすると仰ってる. 後はゴッドにお任せしろ.それが君達のためでもあるんだ.」
チャンプ「ま,一応,預かっときましょ.」
園山は付け加えていった.
園山「な,チャンプ.くれぐれも変な考えを起こすんじゃないぞ.」
それを聞いたチャンプは笑っていった.
チャンプ「園やん.園やんがわしらのことを心配してくれたの, はじめてやねえ.」
チャンプは葉巻を海に投げ捨て,釣竿を上げてみると
チャンプ「あれ,釣れてるわ.」

アジトでチャンプはキャンセル料をE・T達に見せた.
チャンプ「一人頭500万ずつ.どうだ. ちょっと目を瞑るだけで500万の金が転がり込んで来るんだぞう.え. こんなうまい話は二度とない.さっきから何度も言ってるように, これは銭金の問題やない.ええか.今度の喧嘩の相手は国や. どう考えたってわしらに勝ち目はないやないか. ええか.わしらが負けるってことは,わしら殺されるってことやど. 殺された方がいいのか,それとも,500万の銭をもらった方がいいのか,こらあ, 子供にでもできる簡単な計算や.」
チャンプの苦しい心中を知ってか知らずか,まずマリアが異議を唱えた.
マリア「指くわえて見てろって言うの?」
ヌンチャクも異議を唱えた.
ヌンチャク「そんなことできねえよ.」
チャンプは二人の言い分がわかるだけに厳しい顔をして苦しい言い訳をした.
チャンプ「ああ.そやから何度も言っとるようにゴッドが公の場で究明すると.」
マリア「それまでに何人も犠牲者が出るわ.」
E・Tは無言で札束を取って立ち上がった.
チャンプ「さすが,E・T,大人やね.」
だが
E・T「俺は勝手にさせてもらう.」
札束を置いて出て行った.
チャンプ「E・T,妙な気起こすなよ,お前.」
マリアも札束を置いた.
マリア「あたしは一人でもやるわ.」
ヌンチャクも
ヌンチャク「木所の死を無駄にしたくないんでね.」
と言って出て行ってしまった.チャンプは途方に暮れ,負け惜しみを言った.
チャンプ「おいおいおい.ほな,お前,ハングマン解散せにゃならんのやど, おい.勝手な真似すんな,おい.ふん.なんじゃい.ま,この2千万, わし一人でもろうとくわ.こんだけあってみい.トルコ,女子大生パブ, 愛人バンク,思いのまんまじゃ.ふん.」
チャンプは笑ったが,どこか寂しそうだ.なおくどいようだが, この頃はソープランドのことをトルコといっていた.

夜の新宿を歩くE・T,マリア,ヌンチャクの三人.
ヌンチャク「全くチャンプの奴.今度って今度は愛想もこうもつきましたよ. あんな冷血漢だとは思わなかったなあ.」
と言った途端,三人は車に轢かれそうになり,さらに車の中から拳銃で狙われた. そして車は去って行った.
マリア「相手はなりふり構わずね.」
E・T「二人は今のうちに姿を消した方がいいなあ.」
ヌンチャク「E・Tは?」
マリア「一人でやる気? そうはいかないわよ.」
E・T「チャンプが言うように,死ぬかもしれんぞ.」
だが二人の決意は堅かった.
ヌンチャク「覚悟の上です.」
マリアもうなずいた.
E・T「よし.明日,海津がニューヨークに発つ前にやる.」

そして次の日.E・T達三人が車を高速道路に止めて海津達を待ち構えていると, パトカーがやって来た.パトカーはE・T達の乗る車の前に止まった. パトカーから出てきた警官は
チャンプ「おい.」
ヌンチャク「チャンプ!」
チャンプ「よう.」
E・T「え?」
マリア「どうしたの,その格好.」
チャンプ「え,映画の小道具借りてきたんだ.腐れ縁だ. 本官も最後まで付き合おう.」
E・T達3人は微笑んだ. そしてチャンプの運転する「パトカー」の先導で出発した.

アロハツーリスト廃業

その頃,加代子がアロハツーリストへやってきた. だが荷物はきれいさっぱりなくなっていた.
加代子「おかしいわねえ.間違いないわよねえ.」
とそのとき,加代子は壁にダイヤの指輪と手紙が貼り付けてあるのを発見した.
チャンプの声「野川さん.今日で都合により閉店することになりました. 長い間,ご苦労さん.同封の指輪,退職金代わりにお受け取りください. またいつの日か会うこともあるでしょう.その日まで元気にお過ごしください. ご主人にくれぐれもよろしく.あ,追伸.この手紙はすぐに燃やしてください. 小出より.」
そして加代子はダイヤの指輪を見て驚いた.
加代子「ああ,この指輪, こないだの週刊誌に出てた2千万のとおんなじじゃない.」
なぜかあのときの週刊誌だけが残っており, 加代子はチャンプの買った指輪があの指輪であることを確認した.しかし
加代子「なんだか,あたし化かされてるみたい.そうよね.この指輪,偽物よね. 小出さんが本物くれるわけないもん.」
加代子は2千万のダイヤの指輪を放り投げてしまった.ああ勿体無い. でもそれまでのアロハツーリストの「惨状」を見て来ている加代子が, そう思うのも無理はない.そこへ
加代子「あ,いらっしゃいませ.」
刑事達がやって来た.
刑事「所長は?」
加代子「留守ですけど.」
刑事「調べさせてもらうよ.」
加代子「なんですか,今日は?」
刑事達はロッカーを開けようとした.
加代子「あら,ちょっと,そのロッカー困るんですけど. 勝手に開けないで下さい.困るんですけど.」
刑事達は隠し扉のスイッチを発見.中に入った. すると中はいつのまにか秘密カジノになっていた.
加代子「小出さん達,こんな賭博場.だっから,あたしを邪魔にしてたんだ.」
そのとき,加代子は気がついた.
加代子「だったら,あの指輪.本物かも.」
加代子は放り投げた指輪を探して見つけた.そして服に隠そうとするが, 生憎,その日着ていた服にはポケットがなかった. だから加代子はダイヤの指輪を飲み込んでしまった.ああ,勿体無い.

最後のハンギング

成田空港の玄関で海津達は検問に引っかかった.実は警官はチャンプ達の変装. 海津達は全員催眠ガスで眠らされてしまった.

海津達6人が目を覚ますと彼らは縛られて椅子に座らされていた. 天井からは管が二本延びていた.
チャンプ「やっと気がついたようだなあ.」
事務長「ここは? ここはどこだ?」
チャンプ「知らぬはずはあるまい.」
E・T「お前達が多くの人間を葬った細菌ガスの実験室だ.」
チャンプ「見覚えがあるだろう.」
6人は全員慌てた.
海津「君達はいったい何を言ってるんだ.私は海津洋一郎だ. 何か人違いしてるんじゃないのかね.」
マリア「その海津洋一郎にあたし達は用があるの.」
E・T「お前達は羊の皮を被った殺人鬼だ.」
海津「いったい,なんのことかさっぱりわからん.」
E・T「あくまでとぼける気だな.我々にも考えがある.」
事務長「いったい,どうする気だ.」
チャンプ「お前達がやったと同じ方法で地獄へ送ってやる.」
それを聞いた悪党達は驚いて管を見た.
チャンプ「自分の罪を告白しろ.そうすれば防毒マスクを与えてやる. ただし先着2名だ.」
降りて来た2つの防毒マスクを取ろうと悪党達は全員手を伸ばした. だが誰も手にとることができなかった.
チャンプ「海津.防毒マスクが欲しけりゃ,正直に話すことだ.」
チャンプはリモコンスイッチを押した.途端に白いガスが管から放出された. 悪党達は「やめろー.出してくれえ.」とか「助けてくれえ.」とか叫び始めた. ついに
海津「わしが言う.わしが命令して作らせたんだ.」
実は海津達はあるビルの前に止められたトラックの中にいた. 海津達の叫びは外にも大音量で流され,野次馬がトラックの前に集まった.
北見「私が依頼したんだ.米軍に渡すために私が依頼したんだ.」
研究員「私が作った.認める.」
事務員「50人以上の犠牲者を出したことを認める.だからマスクをくれえ.」
事務長「許してくれえ.」
洋介と一緒にハングマンは外に立っていた. そしてE・Tがリモコンスイッチを操作するとトラックの荷台が開き, 悪党達はさらされた.悪党達は記者達のカメラに撮影された.
チャンプ「終わったなあ.」
E・T「ああ.」
チャンプ「マリア,何にもなかったな.」
チャンプは去って行った.パトカーのサイレンが響く中
マリア「楽しかったわ.」
マリアも去って行った.
ヌンチャク「じゃ.」
ヌンチャクも去って行った.E・Tは洋介を抱いて去って行った.

そして

海津洋一郎の件は大々的に報道された. 続いてテレビではアロハツーリスト賭博事件の件を報じていた. チャンプは食堂でラーメンを食べながらニュースを見た.
チャンプ「頼みまっせ,ゴッドさん.」
テレビでは野川加代子と「ビルのオーナー」の園山がインタビューに答えていた.
加代子「知りませんよ.私は病気の夫を抱えて毎日あそこのカウンターで, 毎日毎日本当に真面目に働いていたんですからあ.こんな,賭博場なんて, 全然,はじめて見たんですから.ほんとに,あたし…」
園山は加代子をジロっと見てから喋り始めた.
園山「世の中,わからないことが多いもんですね. あんな素晴らしい店子はいないと思ってたんですよ.皆さん, ホントにいい人ばっかりで,紳士淑女の集まりでしたからねえ. いやあ,本当に信じられませんねえ.」
それを見たチャンプは
チャンプ「紳士淑女か.は.園やん,うまいこと隠しよったなあ.」
そう言ってラーメンをすすった.その頃, E・Tは洋介を肩車して赤坂見附の歩道橋の上を歩いていた. E・Tが洋介に向かって微笑んだところで番組は終了した.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp