第十回

新人女優を売り込む芸能学院女性経営者の悪事を暴く.
新人女優に泥をぬる芸能学院女帝

脚本:鴨井達比古 監督:西村潔

「白夜物語」という映画の主演女優オーディションが行なわれていた. オーディションの結果, 3千人の応募者の中から宮田さゆり(福家美蜂)に決定した. 宮田さゆりのマネージャーの溝口(近藤宏)も涙を流して喜んでいた. 一方,赤木プロダクションの女社長赤木ゆみ(三條泰子)に, 話が違うとオーディションに応募した女優(横田さとみ)の母親がねじ込んでいた. 母親は多額のお金を女社長に払っていたのだ.そしてその晩,溝口は, 宮田さゆりを引き抜いたのは汚いなあ, と赤木ゆみの夫(川合伸旺)にねじ込まれていた. だが宮田さゆりは赤木ゆみのやり方に嫌気がさして半年前に赤木プロをやめ, 宮口の世話になったのだ.交渉は決裂. 溝口は高架下で車に轢き殺されてしまった.

今週のギャラ交渉

「皇居 内堀」のお堀端へチャンプがとうもろこしを二本持ってやってきた. 園山は新聞を読んでいた.
チャンプ「食いまへんか?」
園山「あ,ありがとう.」
チャンプはとうもろこしを一本園山に渡した. 二人はとうもろこしをかじりながら交渉を始めた.
チャンプ「は,は.あんさん,芸能記事読まはるとは思わなんだなあ. 園やんは宗教新聞の方がにおうてまっせ.」
園山「馬鹿言うな.仕事に必要とあらば,何でも目を通す.」
チャンプ「仕事?」
チャンプは園山から新聞を取り上げた.新聞には, 宮田さゆりのマネージャーが轢き殺された事件を報じた記事が載っていた.
チャンプ「宮田さゆり? 乗った,園やん.乗った.わい,もう,この子大ファン. この子と中森明菜の大ファンなんでんがなあ.こないだ,この子の記者会見, 感動したわ.今時これだけね,芸能界で純情な子,いまへんで. いや,この子に会えるゆうんだったらどんな仕事でも引き受けます.」
これを聞いた園山は内心にやりと笑ったようだ.
園山「じゃあ,200万でいいかな.」
チャンプ「いいとも.」
チャンプは両手で輪を作った.ちなみに「笑っていいとも!」が絶頂の頃だった.
チャンプ「結構,結構.200万で結構.そやけど園やん,なんだんねん, 200万で,これやれって.まさかわいにこの子の親衛隊やれっちうのと, ちゃいまんのやろうなあ.」
園山「馬鹿もいい加減にしたまえ.ほれ.マネージャーの轢き逃げ事件だよ.」
チャンプ「ああ,これねえ.」

調査開始

その頃,アロハツーリストの面々は暇を持て余していた.
加代子「あのう.」
E・T「え?」
加代子「伺いますけど,こんなにお客さんが来なくって, 我が社はやっていけるんでしょうか?」
E・Tはマリアと顔を見合った.
加代子「私,ボーナスもらわないと困るんです. 何しろ,毎月美容に5万以上もかけてるんですから.」
そこへチャンプがやってきた.
チャンプ「おはよう.」
加代子「おはようございます.」
チャンプ「あ,ああ,野川さん.えらい人気やなあ.今もうえらい人ごみや. 今,この下でなあ,テレビのロケしとんのや,えらい人気や. 土曜ワイドちうたかいなあ.」
加代子「あら,じゃあ誰かスターが来てるんですか?」
チャンプ「なんつうたかなあ,松やない,檜やない,杉! 杉良太郎とか言うのが. 偉い貫禄やな.監督怒鳴りつけとったがな.」
それを聞いた加代子は興奮した.
加代子「まあ,杉様!」
チャンプ「眉毛びっと引いて.」
加代子「うわあ,杉様です.私,ちょっと行って来ていいですか? どうせ暇だから.いいかな,この格好で.やだ,私,目立ったら困っちゃうけど. ちょっと見てきます.」
加代子は出て行ってしまった.
加代子「杉様,来てへん.E・T様,仕事,仕事.」
E・T「はい.」
4人はアジトに入った.

アジトではギャラの額を聞かされてチャンプがブーイングを受けていた.
E・T「ちょっと待ってくれよ,チャンプ.200万ってのはどういうことなんだ.」
チャンプ「まあまあE・T,そない言うな.たまには割安でやってやらんと. そりゃ,園山かて,ゴッドかて,つらいねんで,しんどいやで. 世の中不景気なんだから.な.」
マリア「変ねえ.100円でも多く取ろうって人が, そんな予算で赤字が出たら,どうするつもりなの?」
ヌンチャク「それは当然チャンプの負担になるわけですよ.責任上ね.」
チャンプ「アホ抜かせ,お前.予算に応じてやるっちうのが プロというもんやないかい.な,E・T.」
E・T「知らんねえ.ま,とにかく資料見せてもらおうじゃないか.」
チャンプ「ええやろ.」
チャンプが資料を説明した.歌手志望の木村れいこ17歳は, 一昨年ビルの屋上から投身自殺した.彼女は妊娠4ヶ月だった. モデルの卵の大里のりこは一昨年の9月に覚醒剤によるショックが原因で, 大久保のラブホテルで死んだ.この他に2名,計4名のタレントの卵が変死した. この4人は赤木ユミ芸能学院の生徒もしくは元生徒だった. 赤木ユミ芸能学院は大手の芸能学校の一つ. 講師には大物芸能人を並べ,派手な宣伝で生徒を集め,現在生徒数200人. 年間授業料がなんと72万円.だが授業内容はかなりお粗末らしい. 経営者の赤木ユミ(三條泰子)37歳は, 10年前にはちょっと名前の売れたポルノ女優だったが, 今ではタレント学校のほかにプロダクションも経営し, 芸能界の女帝と呼ばれるようになっていた. 今回の仕事の突破口は宮田さゆりのマネージャー溝口次郎が轢き殺された事件だ. 溝口は昔は凄腕のマネージャーだったが, 5年前に妻子を交通事故で亡くして以来,引退していた. 最近カムバックして新人女優の宮田さゆりの売込みを始めた. その宮田さゆりが映画の主役に抜擢され, スターへの切符を手にした途端,溝口が車にはねられ, 苦境に立たされたというわけだ.宮田さゆりは赤木芸能学院の生徒だったが, 半年前にやめていた.だがマネージャーに死なれてしまってはどうしようもない. 結局はまた元の赤木ユミのところへ戻るという噂だ. E・Tは赤木ユミがなぜそんなに力を持っていることに疑問を持った. すかさずチャンプが答えた.赤木ユミというのは芸名で本名は波多野ゆみ. 波多野ゆみは波多野ごう(川合伸旺)46歳の本妻なのだ. 波多野は元々は二流週刊誌のチンピラ記者だった男だが, 今では大物政治家と親交をもち,レコード会社や映画会社の顧問格になって. 芸能界のフィクサーと呼ばれるようになった.
チャンプ「なんでこいつがそんな力を持つようになったか.」
E・T「その謎をとくことが一連の事件の解決につながるってことだなあ.」

マリアは宮田さゆりに近づき,溝口から頼まれたと称して, 良いマネージャーがみつかるまでマネージャーを代行することにした. そしてE・Tも宮田さゆりが所属している溝口事務所を見張ることにした. そこへ赤木ユミがやってきた.自分のところへ戻れというのだ. だが宮田さゆりは断った.溝口は宮田さゆりの亡父の友人で, 一度引退したのに宮田さゆりのためにカムバックしてくれたのだ. それを聞いた赤木ユミは悪態をついて帰っていった.マリアは宮田さゆりに, なぜ赤木芸能学院をやめたのかと聞いた. 宮田さゆりは嫌なことがあったからと答えたが, 具体的内容については答えようとしなかった.

赤木プロダクションでは所属女優の倉本京子(横田さとみ)に, 赤木ユミがねじ込んでいた.倉本の母が寄付金を返せとねじ込んできたのだ. 倉本京子は親友の宮田さゆりに負けてよかったといい, 宮田さゆりと一緒に学院をやめるべきだったと答えていた. そこへ波多野から電話がかかってきた.赤木は波多野に宮田さゆりの件を報告. 波多野は今夜女の子を調達するように頼んでいた. 政治家に頼まれたのだ.赤木ユミは沢井かずこをあてがうことにした.

赤木プロを見張っていたE・Tにチャンプから連絡が入った. E・Tはチャンプに赤木プロのことを報告した. 3年前までは受験料と授業料だけで年間1億二千万円売り上げていたらしい. ところが教室は狭いし,パンフレットに並んでいる有名講師は全然来ない. しかも,ここ数年スターらしいスターを生んでいないので, 生徒の集まりもどんどん落ち込んでいるらしく, ついに赤字で焦っているらしい. チャンプは倉本京子の母親が赤木ユミに, 何千万円もの金を運動費という名目で取られたことをE・Tに報告. 自宅は抵当に入っているし,高利の金も相当借りているらしい. ここまで話したところへ赤木ユミが沢井かずこを連れて出て来た.

波多野はクラブで赤木ユミの始末を片腕のさかいに示唆. そして波多野は片岡代議士に会っていた.波多野はホテルへ片岡を連れてきて, 先に来て待っていた沢井かずこと情事を開始した. そのことをヌンチャクとE・Tが目撃した. 波多野がフィクサーになったのも赤木ユミのところの女タレントに, 因果を含めて大物代議士などの相手をさせた作戦が効をそうしたのだろう. そして変死事件も,宮田さゆりが赤木芸能学院をやめたのも, それが嫌だったからに違いない.さかいは元を正せば広域暴力団東名会の元幹部. 赤木は金の卵が欲しいところだ.それには宮田さゆりが邪魔になる.
チャンプ「ちくしょう.もしかしたら奴ら, 僕のさゆりちゃんを消しにかかるかもわからん.おい,マリア,大丈夫やろな.」
マリア「ええ.おばさんの店まで送り届けたけど…あたし, もう一度行ってみるわ.」

チャンプの懸念は最悪の形で的中した.宮田さゆりは拉致されてしまった. 倉本京子が会おうと約束して店を出たところを狙われたのだ. 念のためにE・Tは倉本京子の家へ向かった. 主役に決まっておめでとうというために電話で呼び出したのは倉本京子だったが, 宮田さゆりは約束の場所に現れなかったのだ. そして倉本京子は拉致されたことを知らなかった. そのとき,倉本京子の母が手首を切って自殺を図った.E・Tは救急車を呼び, 病院へ運んだ.E・Tの輸血もあり,倉本京子の母は一命を取りとめた. 倉本京子はE・Tに礼を言うのであった.

宮田さゆりは覚醒剤中毒の状態で警察に捕まった. 新聞社には逮捕されるというのが何者かの手によってあらかじめ伝わっており, 逮捕の瞬間,宮田さゆりはカメラのフラッシュ攻勢を受けた. 宮田さゆりは容疑を否認したが,一緒に捕まった元暴走族の少年の証言により, 容疑は深まった.
マリア「頭にきたわ.いくらなんでもここまで汚い手使うとは.」
チャンプ「しかし,これは彼女自身が否認を続けてる以上, 当分の間は出てこれんなあ.かわいそうなさゆりちゃん. よし,今に奴らをぎゃふんと言わしてやるからなあ.」
そのとき,ヌンチャクから連絡が入った. さゆりと一緒に捕まった男鈴木の保釈が決まったというのだ. 早速ヌンチャクが鈴木を記者から救う振りをして連れ出し, E・Tと一緒に鈴木を責めた.鈴木の車のボンネットがへこんでおり, 血がついていた.溝口を殺したのは鈴木の犯行だったのだ. 鈴木は鉄パイプで襲い掛かったが,ヌンチャクやE・Tの敵ではなかった.

倉本京子にE・Tは会った. 倉本京子の母が自殺を図ったのはお金が原因だったことを京子も遺書で知った. 倉本京子はE・Tに宮田さゆりは麻薬をやるような人物ではない, と答えるのであった.

ギャラが分配された.
マリア「はい.18万ずつね.」
チャンプ「はい,ありがとう.」
ヌンチャク「誰だろなあ,こんな金額で引き受けてきたのは.」
チャンプ「なんじゃと,こら,お前.いろいろあるわな,E・T」
E・T「しかし,まあ,やな事件だったなあ. 倉本京子がさゆりと同じいい子だったのが,まあ救いといえば救いだな.」
チャンプ「そうそう,そのとおり.さゆりはええ子や.」
3人はチャンプをジロっと見た.
E・T「よーし,ぼちぼち仕上げに掛かろうか.」
チャンプ「行こう.」
アロハツーリストは閉店した.

ハンギング

「白夜物語」の主役は倉本京子に決まり,記者会見が開かれた. E・T達は棺桶を持ち込んでいた. 記者会見場で波多野ごうが「白夜物語」のプロデューサーに就任したことも, 発表された.そして倉本京子が登場.
記者「京子さん,宮田さゆりとは友達だったんでしょう. 何か一言言って下さい.」
京子「さゆりちゃんのことは良く知ってます. 絶対にあんなことする人じゃありません.さゆりは罠にはめられたんです. 私を,私を主役にするためにここにいる赤木学院長が罠にはめたんです.」
赤木は驚いた.
赤木「何を言うの.あなたは頭がどうかしちゃったんじゃないの.皆さん, すみません.この子はちょっと上がってしまってますので.」
だが
京子「いいえ.あたしは正気です.皆さん,聞いてください.」
赤木「おやめなさい.」
京子「いいえ,聞いてください.」
波多野「中止.記者会見は中止だ.」
騒然とする会場から波多野は京子を連れ去ろうとしたが, 京子はマイクにかじりついた.
京子「皆さん,聞いてください.私の母は自殺を図りました. 何千万ものお金をこの人達に騙し取られたんです.それだけじゃないわ. この人は,この波多野さんの命令で学院の生徒の女の子達を, まるでコールガールのように片岡代議士達に斡旋して…」
赤木「嘘ですよ.何を言うの.あんたは頭が変なのよ.」
京子「嘘じゃないわ.私も,私も命令されたわ.でもさゆりは拒否したわ. それで学院をやめたんです.」
そのとき,E・T達が記者会見場に棺桶を持ち込んだ.
チャンプ「長らくお待たせしました.ええ,記者会見場の方へ持ち込んでくれ, と言われたもんですから.では確かにお届けしました.」
ヌンチャクは棺桶の上にかかった白い布を取り,蓋の扉を開けた.
チャンプ「喋っていいよ.」
チャンプがそう言うと棺桶から叫び声が聞こえた.
鈴木「出してくれえ.頼む.何もかも喋るからよ. 宮田さゆりを罠にかけたのは赤木ユミだよ. 俺は金をもらってちょっと手伝っただけだよ. さゆりのマネージャーやったのはさかいの兄貴だよ.」
起き上がった鈴木は
鈴木「赤木ユミだ.」
パトカーのサイレンが響く中,赤木と波多野は記者の質問攻めにあっていた.

宮田さゆりは釈放された.宮田さゆりと倉本京子は抱き合った. そして倉本京子は宮田さゆりにマリアから預かった手紙を渡した.
マリアの声「さゆりさん,おめでとう.もうあなたは一人でも大丈夫. 映画が完成したらどこかの映画館で見せてもらいます.頑張ってね.礼子.」
遠くからチャンプが,マリアが,ヌンチャクが, そしてE・Tが宮田さゆりと倉本京子を見届けてから去って行った.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp