第五回

敏腕プロデューサーの悪事を暴く.
清純派女優を汚す敏腕プロデューサー

脚本:鴨井達比古 監督:児玉進

中川三郎ダンススクールで中川裕季子がエアロビクスを教えていた. そこへ客(長谷川明男,塚本信夫ら)がやってきた. 社長(長谷川明男)は取り巻き(塚本信夫)に, 赤いリボンをしている娘星野いずみを選ばせた. 社長の取り巻きは星野いずみを今夜貸し出してくれ, とマネージャー(小野進也)に頼んでいた. だが今夜貸し出してくれというのは社長と情事の相手をしろということだった. 社長は恋人もいると嫌がる星野いずみの服を無理矢理脱がせて, 青いパンツ一枚だけの姿にした.そして翌日, 星野いずみは港の倉庫置場で変死体となって発見された. 号泣する星野いずみの妹.それを見たマネージャーも涙を浮かべていた.

今週のギャラ交渉

さて「原宿歩行者天国」では若者が踊っていた. そして原宿の店で園山とE・Tがギャラの交渉をしていた.
園山「若い者が盆踊りの真似事なんかして,いったい何を考えとるんだ.」
E・T「盆踊り?」
園山「図書館行って勉強するとか,スポーツをやって体を鍛えるとか, やることがいくらでもあるはずだ.」
E・T「青少年生活については仕事の話が終わってからゆっくり考えて下さいよ.」
そう言われた園山は黙ってアタッシュケースを開け,資料を渡した.
園山「はい.」
E・Tは資料を見て言った.
E・T「ほう.この事件か.新聞で読んだときから臭いと思っていたけど, やっぱりねえ.で,この手の事件は費用がかさみますよ.」
園山「そう思って今日はたくさん用意してきた.」
園山は指を4本立てた.
園山「400万.」
E・T「400万ねえ.」
E・Tは電卓を取り出してなにやら計算を始めた.
E・T「どう考えても赤字ですよ,これじゃあ.少なくとももう倍は頂かないと.」
園山はこいつもチャンプと同じかと呆れた顔.
園山「甘ったれるんじゃない. ゴッドは造幣局を経営しているわけじゃないんだ.」
E・Tも負けてはいない.
E・T「我々の仕事は慈善事業じゃないんですからねえ.」
E・Tの吐いたタバコの煙を吸い込んでしまったので園山は露骨に嫌な顔をした.
E・T「ま,他を当たってみてくれませんかね.」
E・Tはタバコの火を消し,立ち上がって去ろうとした. 園山はE・Tを捕まえて
園山「600万.これ以上はビタ一文出せんぞ.」
E・T「ま,仕方ないでしょう.」
E・Tは椅子に座り,園山は封筒を渡した.
園山「はい,600万.」
E・T「600万用意してあるんだったら,最初からそういえばいいじゃないですか.」
園山「は,は.ハイエナみたいな連中を相手にハナっから手の内を見せるほど, お人よしじゃないよ.はい,ビデオ.」
園山からビデオを受け取ったE・Tも言い返した.
E・T「ハイエナ? よく言うよ.閻魔大王の子分のくせして.」
園山「なんか言ったかね?」
E・T「いや,別に.」

調査開始

加代子は後ろを向き,コンパクトで自分の顔を見ながら口紅を塗っていた. そこへチャンプがやってきた.
加代子「いらっしゃいませ.」
加代子は後ろを向いていたので来たのがチャンプであることに気づかなかった.
チャンプ「おばはん.」
そう言われて加代子は後ろを振り向いた.
チャンプ「わしや,わしや.」
加代子「ああ.お帰りなさいませ.」
チャンプ「ああ.」
加代子「まあ,随分やつれて.」
チャンプ「そないに魅力か.」
チャンプが加代子の左肩に触ったので加代子は後ろへ下がった.
チャンプ「いやあ.マントルとホテトルのはしごでもうヘロヘロや.」
加代子「ホタル街?」
加代子は「ホテル街」と言いたかったのだ.
チャンプ「あほ.そんなもん,東京にいますかいな. あのう,全身くまなく人間ドックみたいな,えかったあ.」
そう言うチャンプは椅子に座ろうとしたが,けつまずいて倒れてしまった. なんだかよろよろしているようだ.
加代子「大丈夫ですか?」
チャンプ「はは.大丈夫.大丈夫.」
チャンプは加代子に触ろうとしたが
加代子「いけません.私は人妻でございます.」
チャンプ「なんにもゆうてへんがなあ.あの,わし, 当分の間はおなごの顔は見とうない.もうガス欠でカラカラや. おなごの顔見るの.」
とか言いながらポスターを見て
チャンプ「あ,ええ女や.」
チャンプは外へ出ようとした.
加代子「本当に病気だわ.」
そこへE・Tがやってきた.
加代子「お帰りなさいませ.」
E・T「何の騒ぎですか?」
チャンプ「ああ.」
加代子「小出さん,病気なんです.目の周りにクマが出来て.」
E・T「なるほど.じゃ,すいませんけど, ドリンク剤でも買って来てくれませんか.」
E・Tは加代子にお金を渡した.
加代子「ドリンク?」
E・T「ええ.しかも強力な奴をお願いしますよ.」
チャンプ「うん.」
加代子「強力?」
E・T「ええ.」
加代子「はい,じゃあ,行って参ります.」
加代子は外へ出て行った.
E・T「どうもねえ.」
チャンプ「お願いします.」
加代子を見送ってE・Tはアロハツーリストを閉店した.
E・T「チャンプ,あまり度が過ぎると体に毒だぜ.」
チャンプ「わかってる.わかってる.おばはん追い出す芝居やがなあ.」
二人はアジトへ入っていった. そのときチャンプはロッカーを開けるのを忘れて頭をぶつけてしまった.

アジトの中にはすでにヌンチャクとマリアがいた.
E・T「星野いずみ21歳.女優の卵.幸田プロで勉強中だった.」
マリア「いい子ねえ.ヌンチャク好みじゃない.」
ヌンチャク「女は外見じゃないよ.心だよ.」
チャンプ「生意気言うんじゃない.そう思えてるうちが幸せだよ.先を続けて.」
E・T「ああ.性格もいい子で仲間からも好かれていたらしい.ところが1週間前, 殺害現場は妹と一緒に住んでいたアパートから離れた場所だ. 警察は帰宅途中を変質者か通り魔に襲われ,抵抗して殺されたものと断定した.」
チャンプ「違うのか?」
E・T「違うと主張している人間が二人.一人は妹のこずえ19歳. 学生だがアルバイトでモデルをやっている. もう一人は役者上がりのマネージャーで幸田.34歳だ.」
チャンプ「通り魔じゃないっちゅう根拠はあるのか?」
E・T「ある.午後9時にアパートで待っている妹に, 本人から電話が入る約束になっていたが入っていない. 今まで約束を破ったことは一度もなかったそうだ.」
チャンプ「その晩の星野いずみの足取りは?」
E・T「問題はそれだ. 夕方の5時にマネージャーと一緒に青山の北川事務所を訪れている.」
チャンプ「北川.ちょっと待て.あの北川かずやか?」
E・T「そう.あの北川かずやだ. 父親の急死によって大手のサラ金北斗ローンズの二代目社長の椅子に座った, 北川かずやは現在39歳.3年前,映画製作に乗り出し,以来, 立て続けにヒットを飛ばし, 今や日本映画界ナンバーワンと呼ばれるプロデューサーだ. 現在「栄光の果て」という自動車レースを扱った大作映画を準備中だ.」
マリア「じゃあ,星野いずみがその北川に会ったのは…」
E・T「北川はその映画のヒロインに新人を起用するべく, いろんな劇団やプロダクションを探し回っていたらしい.事件当日, スカウトした星野いずみを午後5時に自分の事務所に呼びつけた.」
チャンプ「それから?」
E・T「5時半にマネージャーを追い返し, いずみをつれて銀座のレストランに食事に行ってる.まあ, 面接試験のつもりだろう.」
チャンプ「1対1でか?」
E・T「いや.秘書の宮城ひさこと, 北川のブレーンで映画評論家の中原てつお(塚本信夫)が一緒だったらしい. 北川達は食事を終えた後,9時少し前にいずみを帰したと証言している. 死亡推定時刻は午後11時前後.死体が発見されたのは翌朝午前4時半.」
チャンプ「どや.この北川っちゅう男は親父の血を引いたらしうて相当癖が悪い. (小指を立てて)こっちゃの方もな.」
ヌンチャク「じゃあ,チャンプと同じじゃないですか.」
チャンプ「アホウ.わしゃこよなくおなごを愛しとるやないか.ま,銭もやけど. ところが,北川っちう男はそうやない.金と権力に物を言わせて, 今まで泣かしたおなごは五人や十人ではないらしい.」
どう違うんだ?
E・T「噂は聞いたことがあるなあ. 確か1年程前にも映画の主役に抜擢された新人歌手が謎の死を遂げている.」
マリア「あ,知ってる,その話. 北川社長のヨットから転落して水死したって話よね.」
チャンプ「そう.あん時は単なる事故死っちうことで片付けられた.臭うか? どや.」
マリア「女の敵か.」

その頃,北川は女のポスターをナイフ投げの標的にしていた. 中原の持ってきたヒロイン候補の写真が不満だったのだ. 北川は自分好みの女優を探して来いと言ったが, 「栄光の果て」の製作開始は間近に迫っていた. 事務所を出た北川に幸田が迫ったが,ガードマンに押さえ込まれてしまい, 逃がしてしまった.そこへこずえがやってきて,幸田をとめた. 幸田は屋台で自棄酒を飲み,こずえが止めていた. すかさずE・Tが屋台へやってきて幸田に接触した. E・Tは「青木編集企画室 代表 青木信夫」と書かれた名刺をこずえに渡した. E・Tは車で幸田をこずえのアパートまで送ってきた.

さて北川の良く行くクラブにマリアが潜入した. 北川はこのクラブに月100万円も支払っていた. だが北川にはロリコンの気があり,若くて清純そうな娘でないと誘わないため, このクラブのホステスはあまり誘わなかった. 北川が映画に起用する女優も若い清純派ばかり.北川は小さい頃, 芸者上がりのママ母に虐められて育てられたのでその反動ではないか, とクラブのママがマリアに答えていた. すると北川のところに岡田るみ子という女優がつれてこられるのが見えた. るみ子は北川の大学の後輩で今年大学に入ったばかり. 早速北川はるみ子を車で連れ出した. マリアはヌンチャクに北川の尾行を指示した. クラブでは中原にマリアが接触した.

一方,E・Tはこずえのアパートでお茶を飲んでいた. E・Tは北川の周辺で4人も新人女優が変死していることを話し, こずえからいろいろと聞き出した. 幸田はいずみと相思相愛の仲で将来は結婚を約束していた. だが幸田は自分が果たせなかったスターになる夢をいずみにかけて頑張っていた. E・Tは北川には幸田が売り込んだのかと聞いた.するとこずえは, レッスン中に北川が訪れていずみに目をつけたと答えた. こずえはいずみを殺したのは絶対に北川だと力説したが, E・Tはだからといって北川にまとわりつくのは自分達のためにならない, 被害をこうむるだけだからやめた方がいいと忠告していた.

宮城はるみ子に服を脱げと命じた.るみ子は一瞬躊躇したが,結局上着を脱いだ. 北川はるみ子に酒を飲ませた.そしてスリープのヒモを切り,ブラジャーを切り, パンツだけの姿にした.するとるみ子の腹に傷跡が見えた. るみ子は中学生の時,盲腸の手術をしたのだ. 北川は体に傷のある女には興味がないとるみ子を追い出してしまった.

アジトでチャンプが北川のことを報告した. 若い頃はコンプレックスの塊で女に口も聞けないほどだった. それが金と権力と名声を握った途端に, 一番性質の悪い色魔に変身したというわけだ.
ヌンチャク「チャンプ,色魔って言葉を聞くとギョッとするんじゃない?」
チャンプ「なんやと,この巾着が.アホか. わしは常に女を愛し,女に愛されることを生きがいにしとるのや.」
呆れたE・Tはタバコの煙を吹きだした.
チャンプ「んな,女が言うこと聞かんゆうて, 殺すような色魔と一緒にせんといてくれ.」
マリアがとどめをさした.
マリア「そうよね.チャンプが女に振られるたんびに女を殺してたら, もう千人くらいは殺してるわよね.」
チャンプ「そな,ま,そういうわけやけどなあ…何を言うんや.」
話が明後日の方向へ向かいだしたので, E・Tは北川がアジトに使っているマンションのことをヌンチャクに報告させた. 北川は田園調布の自宅にはほとんど帰らず, 英国大使館近くの高級マンションに泊まっていた. 最上階の全室が北川事務所の名義になっていて, 秘書のひさこも住んでいるらしいが, 誰がどの部屋をつかっているのかはよくわからなかった. 玄関ドアは自動ロックで常時3人のガードマンが配置されているので, 盗聴機を仕掛けるのは無理だ. 事務所のある北斗ビルも盗聴機を仕掛けるのは難しそうだ. そこでE・Tはチャンプに何か作戦はないかと聞いた. チャンプは中原がマントルに凝っている話を持ち出した. 中原はマントルで領収書をもらうそうだ.
チャンプ「わしかて領収書もろうたことないで.こないだ,女子大のなあ…」
E・T「チャンプ!」
チャンプは話を戻した.チャンプはマリアにマントル嬢になって, 中原に近づけと命じた.そこへ電話がかかってきた. 電話はこずえからのものだった. 幸田プロモーションで幸田が首吊り自殺しているのがみつかったのだ. こずえとE・Tは警察の霊安室で幸田の死体を確認した. こずえは幸田の死体にすがって号泣した.

さてマリアは中原を「私がバイトしている」ところへ連れ出した. 下着姿になったマリアを見て中原は大喜び.
中原「自慢するだけあって,いい体してるねえ.」
光進電気で部長をしていた頃とは, 大違いだ.
マリア「ありがとうございます.たっぷりサービスさせていただきますわ.」
それを聞いて中原はさらに喜んだ.
マリア「ねえ,先生.ただ遊んでも面白くないでしょう. 強姦ごっこしましょうか.」
そう言ってマリアは中原の服を脱がせた.
中原「強姦ごっこ? ふふふ.面白いねえ.」
マリア「そう来ると思った.は,は.じゃあ,ちょっと待ってて. 今着替えてくるから.」
ちなみにこの模様はビデオカメラで撮影されていた. 中原がエマニエル夫人が座っていたような籐椅子に座って待っていると, セーラー服を着たマリアが登場.中原は興奮した.
中原「かわいいねえ.」
中原はベッドにマリアを押し倒した.ソファーへ逃げたマリアを中原は追いかけ, さらにベッドへ逃げたマリアに
中原「大人をじらしちゃ駄目.さあ,行くぞ.」
卑猥な笑みを浮かべながら中原はズボンを脱いだ. そしてマリアのスカートを脱がせた.その様子を別室のモニターで見ながら
チャンプ「中原の顔のアップは撮ったのか?」
E・T「ああ.ばっちりだ.」
チャンプ「よし.ぼちぼち仕上げにかかろう.」
E・T「ヌンチャク,行くぞ.」
ヌンチャク「はい.」
さて撮られてるとも知らずに中原は遊びに夢中.
中原「おい,おい,いい加減にしないか.」
突然,中原はE・Tに殴られた.
E・T「お楽しみはそこまでだ,先生.」
中原「何?」
E・T「だいぶ腹が出てるんで脂肪を取る手伝いをしてやろうっていうのさ.」
E・Tは中原をサウナ機に入れた.
中原「君,これはいったい何の真似だ.」
マリア「スチームバスじゃない.昔はどこのトルコにもこれがあったそうね. どう.」
この頃はソープランドを「トルコ」と呼んでいた.
E・T「腹の肉を取ってやろうって言うんだよ.」
マリア「懐かしいでしょう.」
蒸気が入れられ,中原は熱さに苦しんだ. そして中原はヌンチャクが持ってきたビデオを見せられた. それは先程撮影された「強姦ごっこ」のテープだった.
E・T「なに? 寒い? おい,風邪ひいたらどうするんだ.」
ヌンチャク「はい,はい.」
蒸気の量が増やされた.
E・T「ああ,本当だ.脂汗が出ている.ほらほら.寒そうだ,寒そうだ.」
中原は熱がった.苦しむ中原にE・T達は星野いずみ殺しのことを聞いた. だが中原は白を切った.
E・T「ああ,そう.まだ寒いそうだ.」
さらに蒸気の量が増やされた.
中原「私は知らん.私は現場にいなかったんだ. それはきっと北川社長とひさ子が…あち,あちい.」
E・T「おい.」
E・Tの合図でヌンチャクは蒸気の量を減らした.
E・T「始めっからちゃーんと聞かせてもらおうじゃないか. 相談はそれからだ.さあ,始めてもらいましょ.」

次の日.いずみが死んでいた現場に花を供えたこずえにE・Tが何事か頼んでいた. こずえは快諾した.そしてアジトでチャンプが電話していた.
チャンプ「ねえ,園山さん.今回えらい必要経費がかかりましてねえ, 取り分が…ねえ,ゴッドはんに言うて,ちょっと追加予算組んでもらえまへんか. まあ働きに応じた給金を.ねえ,労使関係きちんとせんと,そらあ.」
だが電話は切れてしまった.
チャンプ「切ってしまいやがった.」
E・T「俺の責任だな.」
チャンプ「貸しやど.」
E・T「ハンギングだ.」
そしてアロハツーリストは閉店した.

ハンギング

さて北川の事務所では
ひさ子「本当なんですか,中原先生.」
中原「ああ.もちろん本当さ.社長だって一目見れば絶対気に入るよ.」
ひさ子「安請け合いをして, もし駄目だったらば明日の制作発表記者会見は取りやめなきゃならないんですよ. 相手役のミドリッジヤータは明日の飛行機でアメリカから到着して, 成田から会場へ直行する手筈になってるのに, 肝腎のヒロインが決まってないんじゃ大恥かくことになりますからねえ.」
中原「大丈夫だよ.社長.是非,会ってやってください.」
北川は机にふんぞり返っていた.
北川「いいだろう.すぐここへ呼べ.」
中原「いや,それが,この子はこちらから会いに行かないと.」
北川「なんだと.この俺に足を運べと言うのか.」
中原「あ,いや,いや,いや.実はこの子は由緒ある名門の娘でございまして, イギリスのロンドンに留学して芝居の勉強をしておったんですが, 昨年体調を崩して帰国して以来,ずっとお屋敷に閉じこもっておりまして.」
それを聞いた北川は態度を一変させ,身を乗り出した.
北川「ほう.面白いなあ.」
中原「はあ.それで社長が新作を作るという噂を聞きまして, 是非会ってみたいと.」
北川「気に入った.会ってみよう.」

騙された北川は中小路という表札の出た屋敷へ入っていった. そして3人は婆やに化けたマリアに酒を勧められ,飲み干した. 北川は書生に化けたヌンチャクに連れられて娘に会いに行った. それをモニターで見ながら
チャンプ「おい,あの酒に入れた薬,ほんまに効くのか?」
E・T「ああ.幻想を呼び起こす効果があるはずだ.南米の原住民も使ってる.」
チャンプ「女に飲ましたらおもろいやろなあ.」
E・T「チャンプ,仕事中だぞ.」
チャンプ「わかってる.仕事ね.」
さて別室に通された北川は娘に会っていた.
北川「中小路せいこさんって言うのは君か?」
実は彼女はこずえだった. こずえはギリシャ神話の女神様が着るような服を着ていた.
こずえ「はい.お待ちしておりました.」
北川は苦しんだ.目がかすんでこずえの姿が何重にも分かれて見える.
こずえ「私をあなたの映画に使っていただけますか?」
北川「素晴らしい.君のような女性を私は探していたんだ.」
突然,部屋が真っ暗になった.
北川「ん? どうした.」
すると全裸のいずみの姿が.
北川「誰だ,貴様.貴様,何だ.いずみ! お前か.」
いずみ「なぜ? なぜ私を.あんなひどいことしたの.」
いずみは口から血を流して立っていた.恐怖で北川は腰が抜けてしまった.
北川「なんだと.お前,確か死んだはずだぞ.俺がこの手で殺したはずだ. なぜ生きてるんだ.」
見ると四方八方にいずみなど北川が殺した女達が全裸で立っていた. 中には首をつっているものもいた.北川が立ち上がるとまた真っ暗になった. 女の笑い声が響く中.
北川「どこ行きやがった.どこ行きやがった.みんなで馬鹿にしやがって. 殺してやる.もう一度殺してやるう.」

その頃.ひさ子は目を覚まし,中原を起こした. あれから2時間も経っているのに北川が戻ってこないのだ. そこへ北川がバアヤに化けたマリアに連れられて戻ってきた. 北川は呆然としていてひさ子の問いかけにも応えなかった.
マリア「申し訳ありません.先程のお酒がお体に合わなかったみたいで, お嬢様も心配されておられました.でももう大丈夫でございます.」
そのとき,北川が呟いた.
北川「お嬢様.あ,そうだ,君.お嬢様はどこだ? もういっぺん会わしてくれ.」
マリア「お嬢様はもう,おやすみになられました.ご心配ありません. お嬢様は大変北川様に感謝していらっしゃいました. 明日の映画の制作発表には必ず, 必ず出席させていただくと申しておりました.」
北川「そうか.じゃあ,だったらいいんだ.」

そして次の日.「栄光の果て」製作発表記者会見会場で.
北川「ええ.報道関係者の諸君. 私が制作する映画のためにかくも多数お集まり頂き,感謝に絶えません. ええ.たった今,私が6ヶ月間,探し回って発見しました, 新しいヒロインがこの会場に着いたそうですのでご紹介いたします.」
会場が暗くなり,スポットライトを浴び,拍手を浴びながらこずえが登場した.
北川「ええ,諸君.彼女を紹介する前に, ええ,彼女が英国王立演技アカデミーで勉強中の頃のフィルムがありますので, それをまずご紹介いたします.スクリーンにご注目ください.」
ところがスクリーンに映し出されたものは
北川の声「ああ,なんだとう,お前,確か,死んだはずだ. 俺がこの手で殺したはずだぞ.」
死んだはずのいずみを見て叫んでいる北川の姿を撮影したビデオだった. 会場がどよめいた.
北川の声「なぜ生きてるんだ.」
慌てた北川は周囲を見回して
北川「何だ?」
と言ってスクリーンに駆け寄った.
北川「おい,やめろ.やめろ,貴様.」
北川の声「殺してやる.」
中原「おい,やめろ.やめてくれえ.」
北川「なんなんだ,貴様.」
北川に向かって一斉にフラッシュがたかれた.
北川「やめろ.貴様ら.」
北川はおお暴れした後,こずえに聞いた.
北川「誰だ.貴様は誰だ.」
こずえは立ち上がって応えた.
こずえ「私の名前は星野こずえです.あなたが殺した星野いずみの妹です.」
またフラッシュが一斉にたかれた.
ひさこ「やめなさい.」
ひさこはこずえの口をふさいだが,こずえに振り払われた.
こずえ「聞いてください.この人は私の姉を殺しました. 夕べはっきりそう言いました.あたしの姉だけではありません. 今まで何人もの人を殺したんだ.人殺しです.」
北川に記者が群がった.そしてパトカーもやってきた. それを見届けてハングマンが,そしてこずえが立ち去った.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp