第二十五回

金持ちに赤ん坊を密売する組織を吊るす.
代理ママの製造ベビーが売られる!

脚本:田上雄 監督:永野靖忠
放送日:1986年8月8日

深夜.通りを女が逃げていた.車に追いかけられていたのだ. 女は車も入り込めない路地に入り,公園に隠れ, 見事追手を巻いた…かに見えた.「追手を巻いて」安心した女は, 廃車置場の車の中に隠しておいた赤ん坊を出した.だが
追手の一人「なるほど.こんなところに隠しておいたのか.」
女は追手に刺し殺され,赤ん坊は連れ去られてしまった.

翌日,蝶子は勝鬨橋の上で赤ん坊の定期検診が1年間に5回もあると, 近所の奥さん達から聞き,驚いていた.お宅はお子さんがいないから楽だ, とか,寂しくないのか,と言われて複雑な顔.挙句の果てには, お体の具合が悪いのではないか,とか,「ご主人様, お弱いんじゃございません.」と言われてしまい,苦笑するのであった.

その頃,雅則はくしゃみをしていた.そこへ蝶子が帰ってきた. 早速蝶子は子供が欲しいと言ったが,それを聞いた雅則はむせてしまった.
雅則「なんだよ.やぶから棒に.朝っぱらから冗談よしてくれよ.」
蝶子「本気で言ってんのよ.今からでも遅くないでしょ.」
雅則「しかしね,僕は40過ぎてるし,君だって…」
渋る雅則に対し,すかさず蝶子はこう応えた.
蝶子「まだ35よ.その気になれば,今,すぐにでも.」
雅則「ダメだよ,今すぐになんて.そんなことしてたら会社に遅れちゃうよ.」
蝶子「いやあねえ.そういう話じゃなくて心構えの話をしてるのよ.」
雅則「はやまっちゃ,いけないよ,蝶子.ね.子供を育てるということは, 大変なことなんだから.」
蝶子「それが楽しいんじゃないの.」
雅則は渋い顔.
雅則「子供部屋だって必要になるし…」
蝶子「広いおうちに引っ越せばいいんじゃない.」
雅則「まあ,そういう話は,いずれ日を改めて.急がないと遅れちゃう.」
そう言って雅則は出て行った.

調査開始

さて蝶子が総武線の脇にある自転車置場に自転車を置こうとすると
マネージャー「ああ,奥さん,奥さん.そこダメ.はい.向こう,行って. はい.はい,はい.」
マネージャーは自転車置場の整理員に扮装していた.
マネージャー「はい,ここ置いて.あっちはダメねえ.そうそう.そうやって, ちゃんと一列に並べる.ね.」
パピヨン「あら!」
やっと自転車置場の整理員がマネージャーであることに気がついたパピヨン. マネージャーがファイルを開こうとしているのを見ながら
パピヨン「まあ,ちょっと凝り過ぎじゃありません?」
マネージャー「ハ,ハ,ハ,ハ,ハ,ハ.どうせ暇を潰すんなら, 少しは世の中のためになった方がいいと思ってねえ. さて,仕事というのはこれだ.」
マネージャーは冒頭の事件を報じた新聞記事を見せた.
パピヨン「テレビのニュースで見ましたわ. 変質者の犯行じゃないかって言ってましたけど.」
マネージャーの見解は違っていた.
マネージャー「いや.どうやら計画的な殺人らしい.」
パピヨン「計画的な?」
マネージャー「うん.この他にもねえ,同じ年頃の娘が二人, 死体で発見されたんだ.一人は自殺, 一人は轢き逃げ事故として処理されてるんだがねえ, 同一犯人による犯行の線が強いな.」
パピヨン「というと,何か共通点が?」
マネージャー「うん.まず司法解剖の結果だがねえ, 3人の体には最近出産した経験があったんだ.」
それを聞いたパピヨンは驚いた.
パピヨン「赤ちゃんを産んだんですか?」
マネージャー「そうなんだ.おまけにその赤ん坊の行方が揃って不明なんだよ.」

緑美園でファルコンが顕微鏡でプレパラートを覗いていた.
エジソン「何一生懸命やってんの?」
エジソンが酒のつまみの「柿の種」をつまみながら聞いた.
ファルコン「ハイブリッドの種,見てんの.」
エジソン「ハイぶりっ子?」
ファルコンは顕微鏡を覗くのをやめた.
ファルコン「ハイブリッド! ハイブリッドってえのはねえ, 遺伝子組み替えを利用した品種改良のこと. この種の場合は在来種に比べて成長が10倍速いから, 水分不足の土地でも充分生きられるというわけなんですよ.」
エジソンの感想は
エジソン「俺,どっちかって言うとこっちの種(柿の種)の方がいいね.」
感心なさそうに柿の種をつまむエジソンを見てファルコンはカチンときたようだ.
ファルコン「あんたねえ,柿の種で緑が増やせる?」
それでもエジソンは柿の種をつまんでいた.
ファルコン「地球はねえ,今,砂漠化が進んでるんだよ.」
エジソン「俺だってガキの頃から東京砂漠在住よ.」
そう言ってエジソンは柿の種をまたつまんでいた.
ファルコン「飯屋の倅と話が合わないねえ.多分これだったらねえ, 24時間で発芽するよ.」
ファルコンがいじるシャーレに
エジソン「早く芽を出せ,柿の種.」
と言いながらエジソンは柿の種を入れた.
エジソン「多分,これだったらねえ,26時間で発芽するわよ.」

そこへお客さんと入れ替わりにパピヨンがやってきた.
バニー「あ,いらっしゃい.」
パピヨン「ポトス,あります?」
バニー「ああ,はい,どうぞ,こちらへ.」

アジトでパピヨンが指令を説明した.
ファルコン「赤ん坊が行方不明ってどういうことなんですか?」
バニー「誰かが連れてったんじゃないですか?」
当たり前のことを言うバニーに
エジソン「馬鹿.赤ん坊が荷物背負って自分から蒸発するか!」
そのとき,エジソンは何か思い出した.
エジソン「あ,ハイぶりっ子な赤ちゃんだったらできるかもね.」
ファルコン「いい加減にしようねえ.」
パピヨンが話を戻した.
パピヨン「連続殺人と赤ちゃん失踪の裏に何があるのか.これが今回の仕事.」
エジソン「(小声で)連続殺人と赤ちゃん失踪ね.」
廃車置場の被害者は酒井ひろこで年齢は20歳.2年前,地方の高校卒業後, 都内のデザインスクールに入学.半年後,スナックでアルバイトを始め, やがて新宿のファッションマッサージで働くようになった.
ファルコン「よくいるんだよねえ,そういうキャリアの子が.」
エジソン「典型的な歌舞伎町ギャルだね.でも,この子,結構おいしそうよ.」
バニー「真面目にしてください!」
その後,酒井ひろこは1年程前に店を辞め,雲隠れしたそうだ.
エジソン「1年前って言うと妊娠する直前でしょう. 本番ギャルに転向して避妊に失敗した.」
それならすぐに中絶するはずだ.行方をくらませてまで赤ん坊を産むはずが無い. この1年間どこで何をしたのかを突き止めれば, 殺された理由がわかるかもしれない. 酒井ひろこの死因は出血多量によるショック死だった. 全身を滅多刺しにされたのだ.凶器はおそらくアイスピック.
パピヨン「ま,こんなところね.何か質問は?」
エジソンが手を挙げた.
エジソン「ギャラ,いくらっすか?」
パピヨン「今回は経費込みで60万.」
それを聞いたエジソンは挙げた手を自分の頭の上に下ろした.
エジソン「この頃,ちょっと渋いんじゃないですか?」

蝶子はギャラを持って,ときわ相互銀行へ直行.
銀行員「マイホームコースでしたね?」
蝶子「ええ.あ,半分は出産育児コースにしといてください.」

早速ファルコンは酒井ひろこがマッサージ嬢をしていた店を訪れた. ファルコンは酒井ひろこのことを聞き込んだが, マッサージ嬢は知らないと答えた.知っている子はいないかと聞いたが, マッサージ嬢は風営法の時にみんなやめてしまったから,と答えた. マッサージ嬢は「すっきりしに来たんでしょう.」と迫ったが, ファルコンは金を渡してごまかした.
ファルコン「ちょっと領収証もらえないかなあ.」
マッサージ嬢「冗談でしょう?」
ファルコン「あ,は,は.冗談だな.それじゃ,また来るわ.」
ファルコンを見送った後, マッサージ嬢は怖そうな黒服にファルコンのことを伝えた.

二人の黒服は外を歩くファルコンに詰めより,路地へ連れ込んだ.
黒服「なんだってひろこのこと,嗅ぎ回るんだよ.」
ファルコン「いやいや.忘れられないんだよ. 抜群のフィンガーテクニックがさ.」
黒服は死んだので諦めるように言った.すかさずファルコンはこう言った.
ファルコン「それでさあ,子供,どうなったの?」
黒服「子供?」
ファルコン「いや,つい最近,子供産んだって聞いたけど.」
黒服「どこでそんなことを?」
黒服はファルコンの胸倉をつかんだ.というわけで乱闘開始. 黒服の一人はアイスピックを取り出したが, パトカーのサイレン音が聞こえたので,退散した. 実はこのサイレン音はエジソンが運転する緑美園のワゴンが出していたもの.
エジソン「タイミング,いいでしょう.」
ファルコン「もうちょっと早く来ても良かったんじゃねえのか?」
エジソン「あ,そう.」
ファルコン「あ,奴らにお土産もたしといたからさあ,受信の用意してくれる?」
エジソン「よーし.お乗り.」
ファルコンはワゴンに乗り込んだ.

黒服の一人は佐々木という男のところへプッシュホンで電話をかけた. 口を押さえて痛がるもう一人の黒服の袖口に「お土産」が着いていた. 早速盗聴を開始するエジソンとファルコン. 電話を掛けていたのは神崎という名前だった. 神崎は佐々木に酒井ひろこのことをかぎ回っている男がいることを報告. 佐々木は神崎に,「当分の間,店を休め」といったらしい. 電話を切った神崎はもう一人の黒服にそれを伝えた. そのとき,神崎はもうひとりの黒服の袖口に盗聴機が着いている事に気がついた. そして
エジソン「くっちまったよ,あいつ.」
ファルコン「電話の相手,割り出せるか?」
エジソン「はいはい.ちょっと待っててね.」
電話番号が表示されるのを見て
ファルコン「ふーん.おもちゃじゃないんだな,これ.」
エジソンは電話を掛けてみた.すると
女事務員「はい.武宮徳三事務所です.」
エジソン「武宮とくぞ…」
エジソンとファルコンは顔を見合わせた.
エジソン「あの,政治家の武宮徳三さん?」
女事務員「はい.どんなご用件でしょうか?」
エジソン「えー,佐々木って方,いますか?」
女事務員「佐々木は武宮の秘書ですが,おつなぎしましょうか?」
エジソンは結構ですといって電話を切った.
ファルコン「後はバニーちゃんの宿題にしましょうか.」

武宮は衆議院当選5回で保守党内の良識派として知られていた. 秘書の佐々木恭介(長谷川哲夫)は元一流新聞の政治記者だったが, 才能を買われて武宮の片腕となり,主に婦人問題を担当していた. 佐々木は最近テレビの教育番組で司会を務めたり, カルチャースクールのゲスト講師に招かれたりするなどして人気が急上昇し, 近い将来,インテリ主婦層の支持をバックに立候補するという噂もあった. とここまでバニーが調べ上げたのをアジトで聞き,エジソンは拍手した.
エジソン「はい,よくできました.ご苦労さん.」
ファルコン「ちょっとプライベート部分の突っ込みがいまいちだったかなあ.」
バニー「これは中間報告です! もう少し時間を下さい.」
パピヨンの答えは
パピヨン「せっかくだけど,この先はあたしに任せて.」
衣裳部屋へパピヨンは入って行った.
エジソン「残念でした.」
ファルコン「ま,受け狙うなよー.」
ここでエジソンはあることを思いついた.
エジソン「ねえ.」
ファルコン「ん?」
エジソン「着物かドレスかギャラの一割.」
ファルコン「よーし.」
ファルコンはエジソンの賭け勝負に乗った.
ファルコン「着物.」
エジソン「ドレス.」
バニー「不謹慎です,そんなの!」
エジソンとファルコンはバニーをジロっと睨んだ. そしてパピヨンはパンツルックで登場した.それを見たバニーは手を叩いた.
バニー「ドローですね.」
パピヨン「何が?」
エジソンはごまかすためにか,パピヨンに声を掛けた.
エジソン「あ,ねえ,ねえ,プレゼント.」
エジソンは小道具をパピヨンに渡し,パピヨンは出て行った.
エジソン「こいつ(バニー)のパンツの色,賭けねえ?」
ファルコン「白だな.」
エジソンとファルコンはバニーのパンツを脱がそうとした.

パピヨンはボランティアと称し,佐々木の講演会に潜り込んで, 佐々木と話を聞いた.パピヨンは会社の経営者の妻と称し, 子供を作る暇も無い位,忙しいとぼやいた. そこへ佐々木に面会したいという男(高峰圭二)が現れた. 佐々木は中座して男と会った.その様子を, パピヨンはエジソンが渡したコンパクト型受信機を用いて盗聴した.
佐々木「困りますねえ,矢島さん.もうお会いしない約束じゃ,ありませんか.」
矢島「新聞を御覧になったでしょう.あの女が,ひろこが殺されたんですよ.」
佐々木「それがどうしたって言うんですか.あれは変質者の犯行で, 我々とは何の関係もありませんよ.」
矢島「しかし警察があの女の顔を調べたら…」
佐々木「心配いりませんよ.あなたとの関係が表沙汰になるようなことは, 絶対ありませんから.それに,こんなことを言っちゃなんですが, あのこが死んでくれたことはあなたにとっても幸いなんですよ. 例の秘密は漏れずに済みますからねえ.」
なおも矢島はびびっていたが
佐々木「さあ,もうお帰りなさい.帰って赤ちゃんの顔を見れば, 気持ちが落ち着きますよ.」
佐々木が戻るとパピヨンはメモを残して「帰った」後だった.

パピヨンは矢島の後を追いかけた. 矢島は「しゃぶ禅」という料理屋に入って行った.そこの社長を務めていたのだ. 別の話でたまたま登場したある運送会社から私のところに脅迫状めいた抗議のメイルが届いたので, 念のため書いておくが,実在のお店とは関係はない.その運送会社には, そこの従業員が悪事を行なったのか,という言いがかりともいえる問い合わせが, 殺到したらしい.ここに出てくるお店は, あくまでもドラマのロケに協力したものであることをここで明言しておきたい. 閑話休題.パピヨンは従業員に聞き込んだ.矢島の妻は10年前に流産して以来, もう赤ん坊ができないと諦めていたのだが, 代議士の秘書が紹介してくれた病院で「手術」したので, 赤ん坊ができたらしい.従業員は病院の名前までは知らなかったが, 伊豆の方にあるらしい,と答えた.「お腹が大きい間」, ずっと伊豆の別荘に矢島の妻は行っていたという.

その頃.妊娠したのか,大きなお腹をした若い女, 真由美が外へ出ようとしたが,先程の神崎達に呼び止められた. 真由美は酒井ひろこの葬式へ出るつもりだったのだ. 真由美は酒井ひろこの親友だった.だが真由美は佐々木らの命令で, 赤ん坊を産むまでそのマンションに閉じこもるよう,命じられていたのだ. 神崎達が出て行った後,ファルコンとバニーは鉢植えを抱え, 真由美の部屋に入り込んだ.大家から頼まれたと称し, ファルコンとバニーは「覗き防止」のためベランダに植木を置いた.
ファルコン「これでよし,と.あー,何か喉かわいちまったなあ.」
バニー「いえ,僕は別に.」
鈍感なバニーの頭をファルコンは叩いた. ファルコンは聞き込みをするきっかけを作るために,こう言ったのだ.
バニー「あ,乾いてます,乾いてます.」
仕方なく真由美はジュースを出した.ファルコンは写真立てに気がついた. 写真には真由美と酒井ひろこが一緒に写っていた.
ファルコン「あれ,この人,知ってるなあ.」
真由美「ひろこ?」
ファルコン「新宿のファッションマッサージでね.お友達だったんですか?」
真由美はうなずいた.ファルコンはカマをかけることにした.
ファルコン「そういえば,あんたにも見覚えあるなあ. ひょっとして同じ店で働いてたんじゃないっすか?」
図星だったのか,真由美は約束があると称してファルコン達を, 叩きだしてしまった.

パピヨンとエジソンは四菱産業の専務夫妻と称して, 「しゃぶ禅」という料理屋に入り,矢島と会った.念のために書いておくが, 別の話でたまたま登場したある運送会社から, 私のところに抗議のメイルが届いたので,念のため書いておくが, 実在のお店とは関係はない.閑話休題.エジソンは「といってもさあ, 女房の親父が社長なの.」と言い, 社長の娘婿なので専務になることができたと言った. パピヨンは,矢島が待望の赤ん坊ができたと聞きつけてやってきたと言った. パピヨンは結婚して以来6年になるが,一向に妊娠する気配が無い, と付け加えた.それでどうしたら妊娠できるのか,知恵を借りたい,というのだ. エジソンとパピヨンの懇願に負け,ついに矢島は病院の名前を喋った.

矢島に紹介されたと称し, 小谷産婦人科医院の院長小谷雅代のところをパピヨンは訪れた. パピヨンは卵巣に欠陥があるため,妊娠は不可能と診断されたと小谷に話した. それではどうしようもないと小谷は答えたが
パピヨン「でも矢島さんの奥様だって.先生, お金はいくらかかっても構いません.何とかお力添えを. 父の会社は代々直系の親族が社長になるんです. 私どもに子供ができなければ夫の出世も望めません. なんとか,いい方法を教えていただけませんでしょうか.」
小谷はしばらく無言だったが
小谷「一つだけ方法があります.」
ただし夫とも話し合う必要があるという.翌日の10時に, 指定された場所へ来るようにと小谷は言った.

さて蝶子が帰ってくると雅則がすでに帰ってきていた. また出かけるのだが,少し時間が余ったので戻ってきたというのだ.
雅則「どこ行ってたの?」
蝶子「見ればわかるでしょう.」
蝶子は買物袋からキャベツとネギを出しながらそう言った. 蝶子が冷蔵庫に野菜を入れる隙に雅則は買物袋から財布を出し, お金を出した.そして
雅則「小谷産婦人科医院?」
雅則は星野蝶子と書かれた診察券も見つけていた. 余談だが生年月日は昭和26年4月29日になっていた.
蝶子「何見てるの?」
雅則「どうもおかしいと思ったんだよ.急に子供が欲しいなんて言い出すから. そういう兆候があったのか?」
蝶子は慌てた.
雅則「水臭いなあ.それならそうって言ってくれりゃあいいじゃないかあ.」
蝶子「ちょ,ちょ,ちょっと待ってよ.あたし,病院なんて行ってないのよ.」
雅則「君も意外に初心なんだねえ.恥ずかしがらないでいいんだよ.」
雅則は「星野蝶子」という名前になっていることには気がついていなかった.
蝶子「だってホントなのよ.ねえ,その診察券,拾い物なの. 交番に届けようと思ってうっかり忘れてたのよ.」
その交番に浜野良介が勤めているかどうかは定かではない.
蝶子「だって,あなた,最近,子供ができるようなことしてくれた? してくれてないでしょ.」
雅則「あれ.そういえば,これ,名前が違うな.」
蝶子「でしょう.」
笑ってごまかす雅則.雅則は今夜麻雀で遅くなると言って出て行った. 蝶子の財布の中身は空っぽになっていた.

ホテルのベッドの中で小谷は佐々木にまた客がついたと報告していた. 四菱産業の専務なのでうまく持ちかけ,代理妻をあてがえば3千万円になる. 小谷は,前の二人を2千万にしたことに文句をつけていた.安すぎるというのだ. それに対して佐々木は,代理妻には会社の名義で生命保険を掛けてあるので, しめて1億円になる,と答えた.子供ができずに悩んでいる夫婦は大勢いる. まして,跡取問題が絡むとなおさらだ.それにつけこみ, 佐々木達は儲けていたのだ.佐々木は小谷に, その新しい客は前から診ていた客かどうか聞いた. 矢島の紹介ではじめて来たと小谷は答えた.それを聞いた佐々木は警戒した. 最近,佐々木達の身辺を洗っている連中がいるからだ.

翌日.エジソンは指定された場所に現れた.登場したのは神崎達. 神崎達は小谷の使いの者だと称し,エジソンを車で乗せた. そして車の中でエジソンに拳銃を向けた.身辺を調べた結果,
神崎「四菱産業にはなあ,お前みたいな専務はいないとよ.」
エジソンは神崎達に殴られた.一人がアイスピックを取り出すと
エジソン「ああ,めっけた.この凶器.廃車置場の事件もお前達でしょう.」
神崎「ああ,そうさ.あの娘,せっかく作った矢島のガキ連れて, 逃げようとしたんでなあ.」
エジソン「逃げなくても殺すことに変わりなかったんじゃないの?」
図星だったのか
もう一人「そこまで知ってるからには,てめえも死んでもらうぜ.」
アイスピックを持った方の男がエジソンに襲い掛かった. 抵抗するエジソンだったが,劣勢だ.そこへ
エジソン「遅い!」
エジソンが神崎達の方を指差しながら叫んだ.それを聞いた神崎達が振り返ると, 車の助手席からファルコンが身を乗り出しながら近づき, パチンコで狙いをつけているのが見えた. パチンコに神崎達がひるんだ隙にエジソンは後部座席に乗り込んだ. ファルコンはバイバイと手を振り,車は走り去った.

ファルコン「いいタイミングだったでしょう.」
エジソン「ちょっと遅かったじゃないの.」
ファルコン「どうやら佐々木には会えなかったらしいねえ.」
エジソン「敵もさるものって訳.」
車を運転していたのはバニーらしい.
バニー「収穫は0ってわけですか.」
ファルコンとエジソンはジロっとバニーを睨んだ.
エジソン「生意気言ってんじゃないよ.敵もさるものなら,こっちもさるもの.」
エジソンは懐からテープレコーダーを取り出し,ファルコンに渡した.
エジソン「はい,どうぞ.」
ファルコン「おー.」

その足でファルコンは真由美のところにやってきた. ファルコンは真由美に衝撃の事実を伝えた.
ファルコン「君の友達は佐々木の命令で殺されたんだ.」
真由美「そんな.うっそ.」
ファルコン「この子の前にも二人,死んでる.自殺や事故に見せかけているが, 後腐れないように殺されたと考えていいだろう.」
早速ファルコンはテープを再生した.
エジソンの声「ああ,めっけた.この凶器.廃車置場の事件もお前達でしょう.」
神崎の声「ああ,そうさ.あの娘,せっかく作った矢島のガキ連れて, 逃げようとしたんでなあ.」
エジソンの声「逃げなくても殺すことに変わりなかったんじゃないの?」
もう一人の声「そこまで知ってるからには,てめえも死んでもらうぜ.」
ファルコンはテープを止めた.
ファルコン「この調子は君も同じ運命だ.」
真由美は愕然とした.
ファルコン「君達は佐々木に強制されて行方をくらましたの?」
泣きながら真由美が答えた.
真由美「強制じゃないわ.契約したのよ.」
ファルコン「契約?」
真由美「子供を欲しがっている男の人の精子を小谷病院で人工授精して, 奥さんの代わりに赤ん坊を産んであげる. うまくやったら1千万円くれる約束だったの.」
ファルコンは溜息をついた.
ファルコン「どうせ,そんな金,くれる気はなかったさ.口封じってのが, 一番手っ取り早いからなあ.」

アジトでファルコンから一同はその話を聞いた. なぜかエジソンは大きなイヤリングをつけていた.
エジソン「なるほど,腹貸し業か.考えたな.」
バニー「子供を産ませといて口封じに殺してしまうなんて断じて許せません!」
バニーが大声で叫ぶのでファルコンは上を向いて欠伸をした.
ファルコン「興奮すんなよ,坊や.」
バニー「でもー!」
エジソン「後でたっぷり発散させてあげるから.」
エジソンはイヤリングを外しながら言った.
パピヨン「ボスの佐々木恭介は私がやります.」
エジソン「あ,そうだ.これ持ってってください. これね,イヤリングにもカフスにもどっちにもなる.ちょっと,来て.」
エジソンが操作するとイヤリングから針が出て,花が落ちた.
蝶の舞うCGが流れた.衣裳部屋からパピヨンが登場.
パピヨン「Let's go!」
ファルコン「Hanging!」
手を出すバニーの手をファルコンが叩いた. ファルコンの手をエジソンとバニーが叩こうとしたが, ファルコンが手を引っ込めたため, 2人はファルコンの手を叩くことができなかった. 今回もエジソンとバニーは初期の格好.バニーはワゴンの中でバンダナを巻いた.

ハンギング

神崎達のところに佐々木から電話がかかってきた. 矢島夫妻を始末しろというのだ.
神崎「下手に喋られちゃ,まずいからな.」
そこへ
ファルコン「その必要はねえよ.お前ら,俺につきあってもらうぜ.」
二人とも,ファルコンに倒された.

佐々木はパピヨンを車に乗せ,ホテルへ向かっていた. パピヨンが佐々木に電話をし,呼び出したのだ. 車を止めた佐々木はパピヨンにキスしようとしたが,イヤリングの餌食になった.

小谷「なんです,あなた達は?」
エジソン「ご心配なく.お金取りに来たわけじゃありません.さ.」
バニー「はい! 失礼します.」
バニーが小谷を取り押さえ,エジソンは麻酔薬を注射.
エジソン「珍しいんか?」
バニー「いえ!」
エジソン「お前,今,あちこち触っていたな?」
図星だったのかどうかはわからないが
バニー「そんなことありません.」
エジソンはバニーの頬を叩いた.
エジソン「大きな声出すな.運びましょ.」
バニー「はい!」

そのころ,真由美の部屋の呼び鈴がなった. しかしドアを開けても誰もいなかった. 真由美は手紙が届いているのに気がついた.
ファルコンの声「本日午後3時,テレビを御覧下さい. あなたの親友を殺した犯人達に社会的制裁が下されます.」

さて悪党達は病院のベッドに縛り付けられ,立たされていた.
ファルコン「諸君.諸君の目の前にあるのは我々が開発したレーザー発射装置, ドクターデストロイヤーだ.」
怪しげな機械が光る.
ファルコン「今から面白い実験をする.少し熱いが我慢してくれ.」
青い光が当てられた.光は輪っかを描いていた.光を浴びた悪党達は熱がった.
ファルコン「このレーザーを一点に絞ると強力なレーザーメスになる. 君達の体は一瞬にして焼き切れてしまう.まずその切れ味をお見せしよう.」
レーザーメスは真中のマネキンを3つの部分に焼き切った. それを見た悪党達はびびりまくった.
ファルコン「御覧のとおり,君達を切り刻むのは朝飯前だ. さあ,誰から始めるかな.」
パピヨン「スタンバイ.」
エジソン「OK!」
アンテナが準備された.やめてと叫ぶ悪党達.
ファルコン「やめて欲しければ,いつでもやめてやる. 君達がやった悪事を喋りさえすればなあ.」
佐々木「誰も喋るな.喋ったら負けだぞ.喋るな.」
ファルコン「皆さん,聞き分けがないようだから,手術を始めるとしましょう.」
神崎の頭の上の部分が四角に切られ始めた.
神崎「やめてくれよ.なんでも喋るから.ああ.この機械,止めてくれよ.」
パピヨンは秒読み開始.
パピヨン「5,4,3,2,1.キュー.」
佐々木「喋るな.」
神崎「廃車置場の殺しは俺達がやりました.申し訳ございません.」
この姿は「東京・調布市 金子新平さん宅」のテレビなどに映し出されていた.
佐々木「私は何にも知らん. 殺しも腹貸し業も全て小谷医院長が言い出したことなんだ.私は無関係だ.」
小谷「何言うのよ.女のあたしに責任を押し付けて,それでもあなた男なの? 卑怯者.卑怯者ー.」
これを真由美も見た.
部下「あちー.」
佐々木「うるさい.黙れ.」
神崎「やめてくれえ.お願いだあ.」
小谷「やめてよー.」
佐々木と小谷は罪をなすりあいながらののしりあった. そして部屋が真っ暗になった.

また部屋が明るくなり,薔薇の花を持ったパピヨンが登場.
佐々木「君は,一体何者だ?」
パピヨン「闇に舞う蝶,パピヨン.安らかに眠っていただきます.」
薔薇の花から催眠ガスが噴射され,悪党達は眠りに入った. そして悪党達はダンボール箱に詰められ, とある警察署の前にトラックから落とされた.

事件解決して…

筒を開けたファルコンはシャーレから芽が出ているので大喜び.
エジソン「大成功じゃない.やってるじゃない.」
ファルコン「これ大量生産すりゃあさあ,アフリカの砂漠化も防止できるし, ハイテクで地球が救えるんだよ.」
エジソン「ノーベル賞.」
ファルコン「ありがとう.」
エジソン「やったね.」
握手しあうファルコンとエジソン.だが実は
バニー「あ,すいません.これ,ずっと前に蒔いた貝割れ大根なんですよー. ありがとうございます.」
呆気に取られるファルコンからシャーレを取り, バニーは「やっと食べられそうだなあ.」と言いながら去って行った.

その頃,雅則はテレビの「情報デスク」で庄司アナウンサーが, 例の事件を報じるのを見ていた.庄司アナウンサーは朝に夜に忙しい人だ. テレビを消した雅則は赤ん坊一人に2千万円も3千万円も払うことに驚いていた.
蝶子「つまり子供には,それだけの価値があるってことよ.」
雅則「それにしても異常だよ.元手は一文もかかってないんだから.」
蝶子「その気になれば,あたし達にもすぐ作れるのよ.あなた,子供嫌い?」
蝶子の意図を知ってか知らずか
雅則「そんなことはないよ.この間も部長のお孫さんになつかれてねえ. 部長が言うには君は幼稚園の先生に向いてるんじゃないかだって.」
蝶子「じゃあ,作る作業が嫌なの?」
雅則「それも違うねえ.新鮮な相手ならかなりねえ.」
雅則はごまかそうとして余計なことを言ってしまった.
蝶子「ん? 今なんて言った?」
雅則「いやいや,別に.ただあ,体力に自信がないとねえ.」
蝶子「はい.」
蝶子はドリンク剤を見せた.
雅則「何だ,これ?」
蝶子「体力増進,疲労回復,気力充実のお薬.飲んでみて.」
だが
雅則「いやあ,それにはおよばないよ.また明日早いんでねえ, 安らかに眠らせていただきます.」
どこかで聞いたことのあるような台詞を呟き,雅則は寝るのであった.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp