第十四回

保険金詐欺の内幕を暴く.
疑惑の新妻殺人犯に自白させる!

脚本:大野武雄 監督:井上梅次

調査開始

夜の街でクレイは車を止めていた. なんとカップルがラブホテル代わりにしてたのだ. 女のあえぐ声が響く中,ジャッキーから業務連絡が入った.
ジャッキー「至急,事務所に帰…(女の喘ぎ声を聞いて)ちょっとクレイ, やだー.」
そこへオショウがやって来た.
クレイ「どうしたんだ,ジャッキー.用件なんなんだよ.」
オショウ「クレイ.お楽しみ中のとこ申し訳ないけど至急事務所へ帰ってくれ.」
クレイ「俺じゃないですよ.客ですよ.お・きゃ・く.」
そう言っているクレイの目の前に女の足が伸びてきた. クレイが足の裏をくすぐると女が叫び声を挙げた. それを聞いた男がクレイにどうしたと聞くと, クレイは交代の時間なので降りてもらえないかと答えた.
男「何だ? 乗車拒否する気か!」
クレイ「あのなあ.客にもマナーってもんがあるんだよ. つけ上がって,このガキは.降りろ,この野郎!」
クレイはカップルを裸のまま降ろしてしまった. 去って行くクレイの車を見て,服を着ながら男は叫ぶ.
男「なんだあ.この野郎!」

オショウ「うまいぞー.」
オショウはおいしそうに食べていたが
クレイ「ぷわー.くっせー.」
クレイは鼻をつまんだ.ジャッキーも鼻をつまんだ.
ジャッキー「ちょっと,たまんない臭いね.」
オショウ「琵琶湖の鮒寿司.珍味中の珍味だよ.」
クレイ「ゴッドからですか?」
オショウ「そう.」
クレイ「ゴッドってどういう食生活してるんですかねえ.」
ジャッキー「はやくしまってよー.服に臭いがしみついちゃう.」
オショウはこう言って嘆いた.
オショウ「味がわからんとはなあ.情けない連中だ.」
サファリ「さあ,仕事の話に移ろう.」
サファリは一人の男の写真をスクリーンに映し出した. 男の名前は市村まさあき(長谷川明夫).年齢は35歳. 職業はレストラン経営者.断定はできないが放火が1件, 殺人が2件を行なったらしい.しかし警察はその証拠をつかめなかった. 続けてサファリは女の写真を映し出した.名前は三枝たまえ. 福岡でアパートを経営していた.5年前,当時失業中だった市村は彼女と結婚. その直後に不審火でアパートは全焼.三枝は焼死体となって発見された. その結果,市村は1億5千万円の保険金を得て上京し, レストランのオーナーになった.そして市村の現夫人がまた死んだ. 市村と1年前に再婚した明美夫人は3ヶ月前海水浴中に溺死した. 入っていた生命保険の金額は2億円. ところが受取人は明美の妹魚住清子(三浦リカ)だ. 清子はブティックのハウスマヌカンをしている. 市村自身が受取人になれば市村に疑惑がかかる. そのカモフラージュと言うことも考えられる. その話を聞いたクレイとオショウは市村と清子ができていると考えた.

青山にある,市村の経営するレストランにジャッキーが客としてやってきた. ジャッキーはボーイを呼び,市村に声をかけさせた. なんと1銭もお金がないというのだ.ジャッキーはここに就職させてくれといい, 千葉の田舎に飽き飽きしていたので飛び出したと言った. 両親の了解もとらなきゃね,と市村が言うと,ジャッキーは電話を強引に借りて, 千葉の実家ならぬタイガーキャブへ電話をかけた. タイガーキャブではオショウがざる蕎麦を食べていた.
オショウ「はい.タイガーキャブ.」
ジャッキー「パパ.あたしよ.」
オショウ「パパ?」
オショウは作戦を思い出した.
オショウ「あ,梓.」
そしてオショウはテープのスイッチを入れ,鶏が鳴く声を再生した.
オショウ「もしもし.今,どこさ,いんの?」
ジャッキー「青山よ.」
オショウ「青山って,どこ?」
ジャッキー「東京のど真ん中.私,この街に憧れてるの.働きたいのよー. 今マスターと変わるわ.」
市村「もしもし.私市村と申しますが.」
オショウ「あ,マスターさんでございますか.私水木の父親でございます. 何か娘が面倒なことをお願いしてるようですが.」
オショウはボリュームを上げた.するとテープから飛行機の騒音も聞こえた.
市村「あ,うちで働きたいと仰っているのですが.」
電話から飛行機の騒音が聞こえた.
市村「もしもし.もしもし.聞こえますか? うちで働きたいと仰っているのですが.よろしいですか?」
オショウ「いや,私の方は構わないですが, かえってご迷惑になるんじゃないかと.」
市村「いえいえ.今ちょうどうちで一人欠員がありますので.」
オショウ「は? いや今ちょっと飛行機がうるさくて.」
市村「今ちょうどうちで一人欠員がありますので.」
オショウ「ああ,そうですか.一つよろしくお願いいたします. すぐ落花生送りますから.」
多分,成田のそばに住んでいるという設定なのだろう.

さてサファリは明美が死んだ事件を「サーフサイドビレッヂ」で聞き込んでいた. 市村夫妻はツインルームを予約していた.しかし来たのは明美一人. 市村自身は後から来ると言う話だったが,結局来なかった. そしてボーイが海で明美が泳いでいるところを見ていた. ボーイはもう一人ダイバーがいるのを見ていたが, 警察の調べでもみつからなかった.ついマスターの話では先程, 妹の清子が話を聞きに来たという.そこでサファリが現場へ行ってみると, 女が一人来て花を海に投げていた.その女は魚住清子. 魚住はサファリに川口と言う人物かと聞いた. 清子は川口正夫が明美の浮気相手だったと言い, 事件の日の朝も川口から来た手紙でもめたと話した. 清子はサファリに手紙を見せた. しかし差出人の住所には川口正夫は住んでいなかった.手紙の文面は 「明美 俺はお前が忘れられない 昔のように 一緒に暮そう 市村と 早く別れてくれ 正夫」となっていた. 洋服ダンスの奥にしまってあったのを市村がみつけたのだ. 明美は心当たりがないといい,一人でホテルへ行ったと市村は清子に言った. 清子は川口正夫と言う人物に心当たりはなかった. そして二人でホテルに行き,ホテルについたら明美が死んでいたのだ. つまり明美が死んだ時,市村は清子と一緒でアリバイがあるのだ. サファリは川口が問題のダイバーであると言う説と明美が自殺した説が 考えられるというと,清子は否定した.明美と清子は幼い頃に両親と死別し, 施設で育った.だから大きくなったら施設を作って子供達と暮らすのが, 明美と清子の夢だったのだ.市村も協力してお金を貯めていたと言う. お金を貯めるのに生命保険に入るのはおかしいとサファリが言うと, 清子は貯金をするなら生命保険が一番有利だと明美と清子に勧めたと答えた. 保険金の受取人は清子だが,保険金の支払いは市村が負担してくれたと言う. そして保険金は警察が事故だと断定したので間もなく清子に入ると言う. 以上の会話を一人の男(塩見三省)が脇で聞いていた.

清子のマンションに市村と保険会社の人間がやってきた. 保険金は間もなく入ると言う.早速サファリが盗聴機を打ち込み, クレイと一緒に盗聴開始.市村は明美の夢を叶えてやりたいと言った. そして手伝いたいと申し出た.まず社会福祉法人を見つけ, 善意の人から金を集める.そして土地を確保する.静かなところがいいだろう. 職員は子供二人に一人ずつ.医者もいる.そうすると2億じゃ足りない. 土地に1億,建物に1億,運営費に1億,合計3億が必要だ. 1億は市村自身が集めようと言った.
クレイ「あの野郎,ちょっとおめでてえんじゃねえのか.」
そこへ電話がかかってきた.電話は川口正夫からのものだった. 明美のために線香をあげたいといい, さらに清子を見て明美と似ているので結婚したいと言った. 市村は受話器を取って川口と話した.明美が死んだ日に海にいただろう, と市村は川口に聞いた.川口は肯定し,ダイバーは自分だと言った. 川口(塩見三省)は公衆電話から電話をかけていた. ただし自分が殺したわけではなく,自分が明美を追いかけているうちに, 沖へ明美が逃げ,自分で沈んでしまったと言い放ち, 川口は電話を切ってしまった.

アジトでハングマンが話し合った.クレイは犯人は川口だと短絡的なことを主張. オショウは,これで清子と市村が保険金目当てに組んでいたと言う線はない, と言った.
サファリ「妹の清子は,この事件には無関係だ.」
クレイ「俺も今度ばかり,市村は関係ねえと思うなあ.」
ジャッキー「あたしもマスターは悪い人に見えないわ.」
だがサファリの意見は違っていた.
サファリ「いやいあ.奴はただの悪党じゃない.今に尻尾をつかんでやる. とにかく今まで通りマークを続けてくれ.」
この意見にクレイは異議を唱えた.このことをよーく覚えておこう.
クレイ「なんだ,なんだ,なんだ,なんだ,おい. てめえばっかり(自分の頭を指差して)ここがいいみたいな言い方しやがってよー. あったまくるよね,俺は.俺は川口って野郎がくせえと思うよ.」
これを聞いたオショウは苦笑した.
オショウ「珍しくハングマン,意見分かれたなあ. こりゃ,ちょいとした知恵比べだねえ.」

それでもクレイは市村の張り込みを続けた. クレイは市村の車のタイヤをパンクさせた. 仕方がないので市村はタクシーを拾おうと外へ出た.すかさずクレイ登場. 市村は桜台へ向かった.クレイは盗聴機つきライターを市村に渡した. 市村は日進不動産へ行き,土地を物色. 市村は相続中で係争中の土地800坪を1億で購入することにした. 係争の方は間もなく方がつくらしい.条件が揃えば3億で転売可能だという. 市村は手付金で500万で払った.これを無線で聞いたオショウも
オショウ「そうかあ.本気で施設を作るつもりかなあ.」
ジャッキー「今度ばかりはゴッドのメガネ違いじゃないの?」
だがオショウはジャッキーの意見には同意できないらしく,首を左右に振った.

市村はジャッキーに帽子の形をしたブローチをプレゼント.ジャッキーは喜んだ. 一方,サファリは清子を見張っていた. 原宿のブティックで清子は働いていた. 店を出た清子を車の中から見張る川口. 清子が外へ出てきたところをサファリが声をかけた. そして土地が見つかったことを話していた. 土地を半分売れば1億得られると言う. 清子は市村がいろいろ世話してくれるので市村に好意を抱き始めていた. その日の夜に市村が相談に来ると言う.サファリは清子を送ってやった. マンションには川口もやって来た.川口を見たサファリは
サファリ「誰だ,一体.」
清子がシャワーを浴びているところへ川口が侵入してきた. そこへ市村がやって来た.クレイも市村を尾行してやってきた.
クレイ「今,市村が来ただろう.」
サファリ「その前に妙な男が彼女つけて入って行った.」
クレイ「妙な男?」
サファリ「川口かもしれん.」
浴室から出た清子に川口が迫る.そこへうまい具合に市村がやって来た. 市村は川口にナイフで足を刺されてしまった.クレイは川口を追跡. サファリは市村の手当てをし,救急車を呼ばせた. クレイは川口の車に信号弾を打ち込み, タイガーキャブにいたオショウに知らせた.クレイは川口の住まいを突き止めた. そしてアジトで川口の正体を報告した.
クレイ「川口正夫は偽名.本名は吉岡健25歳. 解散した銀竜会のチンピラで凶暴だが, (自分の頭を指差して)ここはいいって話だ. 奴を叩けば明美殺しを吐くに決まってるぜ.」
だがサファリの意見は
サファリ「慌てるな.市村明美の事故死は必ず保険が関係あるはずだ. それなのに,川口が保険とどんな関係があるのか,そこんところがわからん.」
クレイ「あくまで市村に狙いしぼってるんだなあ. 5年前の事件は保険金詐欺かもしれないよ.だが今度のは関係ねえよ.」
サファリ「そう思わせるのが奴の手なんだ.」
ジャッキー「ねえ,手って?」
サファリ「5年前と同じ方法じゃあ,警察に疑われる. だから受取人を妹の清子にしたんだ.」
オショウ「清子が受け取った後で取り上げるってことか?」
サファリ「ああ.」
クレイ「どうやって取り上げるんだよ.」
サファリ「どんな手を打ってくるのか,待つしか方法がない.」
クレイ「あー,あー,あー,あー.気のなげえ話だよ,全く. んじゃ,川口は明美殺しに関係ねえって言うのか?」
吉岡だろう,クレイ?
サファリ「いや,ある.ただつながりがわからんだけだ.」
ジャッキー「ああ,いやだ,いやだ.ハングマンしてると, どうして疑い深くなっちゃうんだろう. マスターは保険金なんか狙っちゃいないわよー.」
オショウはジャッキーのしているブローチに気がついた.
オショウ「さては,このブローチ,マスターのプレゼントだな.」
ジャッキー「さすが,ハングマン.ばっちり.」

病室で市村は保険金が清子の口座に入ることを聞いた. 自分の身代わりに怪我をした市村に清子はメロメロの状態. そこへジャッキーが花を持って入ってきた. 市村はジャッキーのブローチの位置を治してやった. 軽い嫉妬を覚えた清子は病室の外へ出た. そこへ病院の職員に化けたオショウが病院食をワゴンで運んでやってきた.
オショウ「どうかしました?」
清子「いいえ.何でもありません.」
病室からジャッキーの声が聞こえてきた.
ジャッキー「毎日お見舞いの来てもいいですか?」
オショウ「若いお嬢さんのお見舞いですか?」
清子「ええ.」
清子は病室に入り,市村は安静にしていないといけないんです,と言って, ジャッキーをたたき出してしまった.ジャッキーはオショウに言った.
ジャッキー「なあに,つんけんして.面白くないの.」
去って行くジャッキーを見ながら
オショウ「女心に火をつける.これが市村のやり方だとしたら, サファリの言ってることは当たってるな.」
松葉杖で歩く練習をする市村を清子は一生懸命介護していた. そしてついに市村と清子はキス.二人は結婚した. 複雑な表情で結婚祝賀パーティーにジャッキーは出席した.

アジトにハングマンが集結した.
サファリ「やっと市村の手が読めてきた.」
オショウ「まあ,市村ぐらいの男になりゃあ, 女の一人ぐらい恋に陥れるのはわけないさ.」
クレイ「ジャッキーちゃんもだいぶ利用されちゃいましたね.」
クレイ,あんたも市村を弁護してたじゃないか. 怒ったジャッキーは市村からもらったブローチを捨ててしまった. それを見たオショウは失笑した.
オショウ「土地の手付は市村が払ったんだろう?」
ジャッキー「保険金は清子の口座に振り込まれたようよ. 2,3日中に取引するんですって.」
サファリ「保険金を妹の財産にしておいてから結婚するのが, 奴の最初っからの手だった.」
ジャッキー「でも清子が生きている限り,お金は市村のものじゃないわ.」
サファリ「法人の設立を遅らせておいて, その間にゆっくり清子殺しに取り掛かる.」
クレイ「おい,おい,おい.それまで待っていたらよ, オショウの腰曲がっちまうぜ.」
オショウ「え? おい,助けてくれよ.じゃ, 腰が曲がらないうちにいびり出すか.」
ジャッキー「ねえ,どうするの?」
サファリ「やっぱり俺は川口と市村が組んでると睨んでる.」
ジャッキー「だって川口は市村を刺したのよ.」
サファリ「だんだんわかってきたんだ.疑いを自分に向けさせないためと, 清子の同情を勝ち取る一挙両得のウルトラCだったんだ.」
どうでもよいが,川口じゃなくて吉岡じゃないのか,サファリ,ジャッキー.
クレイ「ふーん.悪知恵もそこまで行くと芸術だねえ.」
オショウ「芸術には芸術をもって対抗しようじゃないかあ.」

吉岡のところに電話がかかってきた.電話はオショウからのもの.
オショウ「あんた,明美の昔の恋人かい?」
吉岡「誰だ,お前?」
オショウ「今にわかるよ.野暮な狂言はよしな.一体,いくらもらってるんだ.」
吉岡「一体,なんのことだい.」
オショウ「三枝たまえ殺しも市村明美殺しもお前が一役買ってることは, ちゃーんとわかってるんだ.」
そう言ってオショウは電話を切ってしまった.吉岡はしばらく考えた後, どこかへ電話した.そして出かけていった.早速クレイが追跡開始. 吉岡は市村と会っていた.やはり市村と吉岡はグルだったのだ.

例の不動産会社に市村がねじ込みに来た. 例の土地を政界のお偉方が買うと言うのだ. そこへ民友党代議士鈴木あきらの主席秘書の辻村ことオショウがやって来た. お偉方とは鈴木あきらのことだと言う. なんと子供のための施設,言うなれば福祉事業のために土地を買うと言うのだ. 市村は施設を作る話を持ち出した.オショウは土地を譲ることを快諾し, さらに1ヶ月以内で法人認可が下りるように後押しすると言った.

タイガーキャブの事務所でオショウは大成功と高笑い. 土地が法人の物になる前に市村は清子を殺しにかかるに違いない.
ジャッキー「ねえ,どんな方法でやるのかしら?」
サファリ「それは決まってる.川口を使って, また事故死に見せかけるって手だ.」
サファリ,くどいようだが,吉岡だろう.
ジャッキー「恐ろしい男ねえ.」
クレイ「誰だよ.優しくっていい男なんて言ったのわよ.」
お前も市村は怪しくないって言ってただろう,クレイ.
オショウ「次のターゲットはお前さんだったかもしれなかったんだぞ.」
ジャッキーは苦い顔.そこへ
?女「おじゃま致します.」
今回はシスターの格好をして登場した.
?女「皆様は神をお信じになりませんね.悔い改めてください.」
サファリ「悔い改めるったって,俺たちは別に…」
?女「嘘を仰い.皆さん方の顔にたくさんの罪が現れています.」
サファリ「あれ?」
?女はサファリに言った.
?女「あなたは今まで多くの人妻を泣かせてきましたね.」
オショウ「当たり,当たり.」
?女はクレイにも言った.
?女「あなたはOL.」
クレイ「え?」
?女「あなたは…」
オショウ「未亡人専門です.どうぞ,今後ともよろしく.」
このとき,よね子のことを思い出したかどうかは定かではない.
?女「私に懺悔してください.女性関係の全てを.」
サファリ「芝居はこの辺で幕にしましょう.」
オショウ「鮒寿司の臭いがぷんぷんしてるよ.」
?女は大慌て.
?女「あら.わかりました?」
サファリはうなずいた.
クレイ「鮒寿司より臭いよ.あんたの芝居はさ.」
?女「かわいくない子.あたくしね, この頃だんだん変身するのが楽しくなってまいりましたの.」
そう言いながら?女は包みを取り出した.
?女「これが皆様のギャラと経費.そしてゴッド様からのお土産.」
?女は鮒寿司を取り出した.
?女「皆様グルメでございますから,また取り寄せましたの.鮒寿司.」
クレイとジャッキーは鼻をつまんだ.
サファリ「ああ.これはオショウが好物だったな.」
サファリも顔をそむけながらオショウに渡した.
オショウ「ああ.どうも.」
?女「では,皆様に神のご加護がありますように.」
?女は十字を切った.
?女「アーメン.」

市村と清子は急に東伊豆へ新婚旅行へ出かけた. そして断崖のところで市村は清子の写真を撮ろうとしたが, カメラにフイルムが入っていなかった. 市村はホテルへフイルムを撮りに行くと言って去って行った. 入れ替わりに吉岡が登場.
吉岡「あんたは,足滑らせて,ここから落ちて死ぬんだよ.」
ゆっくり清子に近づく吉岡.その頃, 別の場所で市村はカップルの写真を撮ってあげていた. そのとき,あの崖から女が落ちるのが見えた.新聞は「東伊豆の断崖で, 新妻行方不明! 足を滑らせ転落?」「上がらぬ死体 捜索打ち切る」と報じた. 朝日新聞を見てほくそ笑む市村.市村は早速出かけて行った.
サファリ「敵は最後の動きに出たぞ.」
ジャッキー「市村の車,完全にキャッチしてるわよ.」
サファリ「緊急指令トラトラトラ.」
タイガーキャブの車は産業ロボットの操作により, 緑ナンバーから白ナンバーに変えられ,ボンネットから虎のシールがはがされ, 虎のエンブレムが屋根からはずされ,色も塗り替えられた. そしてハングマンは出動した.

ハンギング

市村は吉岡と会った.
市村「これでこの広大な土地は俺のもんだ.転売すれば3億5千万にはなる.」
だが吉岡は怪訝な顔.
市村「良くやってくれたなあ,川口.おい,どうしたんだ?」
吉岡だろう,市村.それはともかく吉岡は,こう言った.
吉岡「なんだか,妙だぜ,兄貴.」
市村「何が?」
吉岡「俺,やってねえんだよ.」
吉岡が清子に手を掛けた途端, 麻酔弾を打ち込まれて吉岡は眠ってしまったのだ.だから
吉岡「どうしたんだか,わからないんだ.首の後ろでチクッとしたら, 俺,気が遠くなっちゃってよー,気がついたら人が崖から落ちたって, 大騒ぎなんだよ.」
市村「じゃあ,お前が突き落としたんじゃないのか?」
吉岡「ああ.」
市村「しかし,清子は海に消えたぞ.」
吉岡「でも,死体は上がらなかったぜ.何かが動いてるぜ,兄貴.やばいよ. 俺,もう手引くから.」
市村「待てよ.」
市村は車から降りて,吉岡とつかみ合いの喧嘩を始めた.そこへクレイが登場. オショウもサファリも登場.
市村「なんだ,お前達は?」
サファリ「死刑執行人.ハングマンだ.」
オショウ「市村,お前が見たのは人形だ.清子さんは生きている.」
麻酔弾を打ち込んだのはサファリだった.そして清子を隠れさせ, オショウとクレイが人形を身代わりに投げ込んだのだ.
サファリ「落ちたのは人形.当の本人はちゃーんとあるホテルに匿っている.」
呆気に取られる吉岡.
吉岡「くっそー.」
市村「川口,やっちまえ.」
吉岡はナイフを持ってクレイに襲い掛かったが倒されてしまった.そして市村は
オショウ「怪我するといけませんからね. メガネだけは外しといた方がいいですよ.」
オショウは市村のメガネを外し,市村をぶん殴った. そして市村はサファリの撃ったサンダーブロウに倒された.

清子の隠れているホテルの部屋に手紙が投げ込まれた.宛名は「魚住清子様」
サファリの声「あなたのお姉さんを殺し, あなたを毒牙にかけようとした犯人に制裁が加えられます. ぜひご出席ください.」
日時は11月11日土曜日の午後2時から.場所は稲城市稲城第一土地区画. 京王相模原線の稲城駅とJR南武線の稲城長沼駅の間にある山の中だ.

さて工事用のテントの中に市村と吉岡が縄で縛られて椅子に座らされていた. 二人の間にはマネキンが座らされていた.頭上にドラム缶があった.
サファリ「この缶の中身がなんだかわかるか? 塩酸だ.」
見るとドラム缶から白い気体が出ている.
クレイ「じゃ,良く見ててよ.」
クレイがリモコンスイッチを押すとウィンチが回り, マネキンにドラム缶の中の塩酸が掛けられた.それを見て吉岡は叫び声をあげた. サファリ達はハンカチで鼻を押さえながらこう言った.
サファリ「これを頭から浴びたら,お前達の体は溶け,残るのは白骨だけだ.」
オショウ「おい.5年前のたまえ殺し,三月前の明美殺し,みんな喋っちゃえ!」
クレイ「早く喋んないと,骨になっちゃうよ,骨に.」
クレイはリモコンスイッチを押した.ウィンチが回り始めた. ドラム缶が傾いていく.叫び声をあげる吉岡.暴れまわる市村.ついに
吉岡「ま,ま,待ってくれ.待ってくれ.言う.言う.何でも言う.」
クレイ「それじゃあ,止めてあげよう.」
クレイはスイッチを押した.
吉岡「俺は市村に頼まれてやっただけだ.」
市村「この馬鹿! 金儲けの口を探してくれって言ったのは,お前じゃないか.」
サファリ「たまえさんの放火殺人もお前の仕業だな?」
市村「川口,騙されるな.ただの脅かしだ.」
クレイ「おー,そうかい,そうかい.じゃあ,見ててもらおうかな.」
クレイはスイッチを入れた.
オショウ「おい,俺達も巻き添え食ったら大変だ.」
クレイ「それじゃあ,ごゆっくり.」
ハングマンは全員,テントから出て行ってしまった.ドラム缶の傾きが増す中
吉岡「あ,やめてくれえ.俺は市村に1千万で頼まれてやったんだあ.」
市村「待て,川口.」
スピーカーから声が響く.
オショウ「海で明美さんを殺したのもお前だな?」
吉岡「そうだ.」
ジャッキー「ラブレターも偽物ね.」
吉岡「ああ.みんな市村に頼まれて俺が書いた.そいつを使って, こいつは女房を一人で海へやり,てめえのアリバイを作りやがったんだ. みーんな市村の仕業だ.」
サファリ「どうだ,市村.川口の言ったことを認めるか?」
市村「んー,待て.待ってくれ.認める.俺がやったー. 俺が川口に命じてやらしたー.」
吉岡「そ,そうだー.こいつがやったー.」
市村「俺がやったー.俺がやったー.」
と言った途端にテントの幕が降ろされ,悪党達はさらされた. 「魚住所有地 0423-47-2211」という看板の脇で清子は悪党達を見た. 先程の自白テープが大音量で流される中,清子は悪党達に近寄った.
市村「清子.」
清子は無言.野次馬が群がる中
サファリ「ギルティー.」
クレイがスイッチを入れ,ドラム缶の中の液体が悪党達にかけられた.
サファリ「ただのお湯だよ.」
クレイ「やけどで済むだけだよ.」
ジャッキー「ホントに塩酸ぶっかけてやりたいわ.」
清子は無言で立ち去った.ハングマンの乗る車はパトカーと救急車とすれ違った.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp