第二十四回

カーレース賭博のからくりを暴く
爆走サーキット 注射オレンジすり替え作戦

脚本:松島利昭 監督:小西通雄

雨中の筑波サーキットで車のレースが開催された. ピットの女(降矢由美子)が須藤えいじに声をかけ,須藤もそれに答えた. 須藤は一人の男(南原宏治)がジロッと自分を睨んでいることに気がついた. その男は,すぐに立ち去った.女は「どうしたの?」と須藤に尋ねたが, 須藤は何でもないよと答え,FJ1600のレースに参加した. 須藤は大平レーシング所属のレーサー.女が,そしてさっきの男が見守る中, レースが開始された.須藤の車は快調にスタートし,トップを走っていた. だが突然須藤の車は最終コーナーを回ったところで左右に振れ始め, クラッシュしてしまった.ショックで女は失神してしまった.

しばらく経ったある日.デジコンがラジコンカーを走らせていた. ラジコンカーは快調に走っていた.そこへヨガがやってきた.
ヨガ「へえ.デジコンにもこんな子供っぽい趣味があったとはねえ.」
デジコン「お得意先の子に頼まれたんだ.調子が悪いから調整してくれってな.」
ヨガ「とかなんとか言っちゃって,結構楽しんでるように見えたがなあ.」
デジコンは笑った.
デジコン「これでなかなかメカ的には精巧なんだぜ,お前. そう馬鹿にしたもんじゃないさ.」
デジコンはなおもラジコンカーを走らせていたが
ヨガ「こんなおもちゃじゃなく,本物が待ってるぜ.」
デジコン「何?」

今週のよね子

さて,スクーターに乗ってオショウが妙徳寺へ帰ってきた. そこでオショウはよね子が喪服を着て亡夫の墓に参って戻るところを見かけた.
オショウ「はあ,いいもんですなあ. 女の喪服姿ってのは妙に男心をそそるもんですなあ.ヒ,ヒ,ヒ,ヒ,ヒ,ヒ.」
オショウが卑猥な笑い声を上げたところへ,よね子が現れた.
よね子「いけませんわ,和尚様ともあろうお方がそんなことを仰っては.」
それでもオショウは笑っていた.
よね子「私,夫の墓に参り,身も心も清められた気持ちでおりますの.」
いつもと違い.よね子は一礼して去って行った. オショウがボーっとしていると本堂から電話が鳴る音が聞こえた.
オショウ「電話.」
ちなみに妙徳寺の電話番号は 03-399-0121 だったらしい.
オショウ「電話急げ.」
オショウは誰も聞かない親父ギャグを飛ばしながら本堂に入った.
オショウ「はい,はい,はい,ただいま.」
オショウは受話器を取った.
オショウ「はい,妙徳寺でございます.え? あ,タミーか. 女の喪服姿ってのは悪くない.え? ええ,こっちの話だけれどね. え? 今夜0時ね.はい了解.」
オショウは電話を切った.すると突然後ろから両手で目隠しされてしまった.
オショウ「あ?」
手を取って振り返ると,よね子が後ろにいた.目隠ししたのはよね子だったのだ.
オショウ「奥さん.」
よね子「ビックリなさった?」
虚を突かれたオショウは驚いてしまった.
オショウ「いや,あのままお帰りになったのかと思いましたよ.」
よね子「さっきはごめんなさい.身も心も清めて,改めて和尚様に捧げに…」
やっぱりよね子の頭にはあのことしかなかったようだ.
オショウ「あ,いや,冗談じゃないですよ.いけません,そんなことは.」
オショウは逃げ出そうとしたが
よね子「構いません.思い切り汚して! よね子は許されぬ愛に生きる女でございます.」
オショウ「とんでもないですよ.喪服着たままで何を言うんですか.」
オショウはさっきタミーに言ってたことを忘れてしまった.
よね子「ああん.もう駄目.駄目.そんなに強く抱いたら駄目,和尚様.」
よね子は自分で強くオショウに抱きついた.
オショウ「ああ.あ,ちょっと,奥さん.落ち着いて.落ち着いて. あ,悪くないね.」

その頃,マイトはテニスコートで女の子達にテニスを教えていた. そこへテニスボールが飛んできた.マイトがボールを拾うと
タミー「すみませ―ん.」
タミーが駆け寄ってきた.マイトがボールを見ると「今夜0時」と書かれていた.

仕事開始

さてゴッドのオフィスにハングマンが集合した.
タミー「これが,そのときの事故で死んだレーサーの須藤えいじ. 大平レーシングチーム所属.花形レーサーで優勝間違いなしと目されていたの.」
オショウ「ああ,それで俺にお経あげてくれって言ってるのか.」
オショウの言葉には誰も応えなかった.
オショウ「ああ,言ってないのね.」
タミー「実は,そのときの事故にどうも不審な点があってね, 念のためにデジコンにレースの分析をしてもらったの.」
デジコンが分析結果を報告した.
デジコン「ゴッドからのデータを元にその日の天候状態, 風の向きや風力に至るまでインプットしてみたんだが, この地点でタイヤがバーストするという事故が起こっている.」
オショウ「何? タイヤが裂けるか破けるかしたの?」
デジコン「そうだ.しかし,この手の事故は今までに滅多にないことだ.」
マイト「つまり,その事故は誰かがしくんだってことか.」
タミー「八百長絡みじゃないかって線が出てるの.」
マイトとヨガは異議を唱えた.
マイト「八百長?」
ヨガ「だけど,競輪,競馬と違ってカーレースには そんな八百長するだけのメリットは…」
それに対し,タミーは反論した.
タミー「それがゴッドの調査によると, 最近密かにカーレースの世界を賭博汚染している奴がいるらしいの.」
マイト「賭博の黒幕はわかってるんだろうなあ.」
タミー「それは,これからお見せするわ.」
タミーはスクリーンに先程須藤を睨みつけていた男を映し出した.
タミー「週刊誌や何かで見たことはないかしら? 大平レーシングチームの会長大平きんぞう.元ドライブインの経営者だったのが, 5年前,暴走族みたいな連中を集めてチームを結成. 瞬く間にこの業界でのし上がった男.」
マイト「裏で相当あくどい手を使ったんだろうなあ.」
デジコン「おそらく八百長で儲けた金でなあ.」
オショウだけがふに落ちない顔だ.
オショウ「どういうこったい? じゃ,てめえのチームの所属のレーサーを, 事故に仕立てて殺しちまったってことか.」
タミー「そう.優勝候補の大本命ってことで須藤に多額の賭け金を集め, 八百長でそっくりいただこうって寸法.」
デジコン「だが,須藤は八百長を断った. だから口封じの意味もこめて金儲けの邪魔者には消えてもらった.」
マイト「レーサーなんて消耗品ぐらいにしか考えてねえな. 死んだ須藤は浮かばれねえよ.」

須藤の写真を前にピットにいた女は自分のアパートで涙を浮かべていた. そこへ塚田という男が現れた.突然,塚田は玄関先で土下座した.
塚田「許してくれ.俺は,俺は.」
女「どういうこと,許してくれっていったい?」
塚田「まさか,まさかあんなことになるなんて俺は夢にも.本当だ. 信じてくれ.俺は須藤が死んでしまうとは…」
明らかに塚田は何かを知っている様子だが,要領を得ない.
女「落ち着いてよ,塚田さん.あたしにはあなたが何を言ってるのか, さっぱり…」
塚田「全く俺はなんて取り返しのつかないことを. 今更,あんたにわびて済むことじゃないが,俺は,俺は一言…」
塚田はそう言って頭を下げ,泣き出してしまった. 女は塚田を上げようとしたが,
塚田「すまん.なんでもないんだ.今日のことは忘れてくれ.」
塚田はそう言って去って行った. 塚田がアパートを出ると男(沖田駿一)が現れた.
男「どこ行ってた?」
塚田「いえ,どこにも.」
男「まあいい.一緒に来い.」
男は別の男(大下哲矢)と一緒に塚田を, 大平レーシングチームの事務所に連れ出した. 事務所に三人が着いたところをヨガが写真撮影した.

さて女のアパートでドアをノックする音がした.
女「塚田さん? 戻ってきたの?」
だが現れたのはデジコンだった. デジコンはレーシングマガジン社の記者加納と名乗り, 須藤とは飲み友達だったと称した.女はデジコンを中にあげた. 塚田はあのときの事故のピットクルーだった. デジコンは塚田が女の家を訪れたことと,そのとき様子が変だったことを聞いた. 一方,塚田は大平達から女,すなわち須藤の恋人のところを訪れたことを, 問い詰められていた.塚田は,もう勘弁してください, と大平に頼み込んでいた.塚田は毎晩須藤の夢を見るといい, さらになんとも思わないのかと開き直っていた.その頃, 女のアパートでは女が,大平が何かやらせたんじゃないかと思っている, とデジコンに話していた. レースの直前に須藤と大平が一瞬険悪な雰囲気で睨みあっていたのだ. 須藤はあるタイヤメーカーとのタイアップの件で大平と揉めたこともあった. 大平がピンハネをしているんじゃないかと須藤は考えたのだ.

整備士の塚田は横浜の鈴繁埠頭に水死体となって発見された. 警察は酒に酔って海に転落したものと見ていた. それをハングマンも朝日新聞の記事で知った.
マイト「野郎,先手を打ちやがった.」
マイトは朝日新聞をくしゃくしゃに丸めて捨ててしまった.
オショウ「でもまあ,須藤の事故死にこいつもいっちょ噛んでたんだから, 自業自得だ.」
デジコン「気の毒だが,そうかもしれんなあ.」
タミー「けど,ヨガが撮った塚田の最後の写真からいい情報がつかめたわ.」
ヨガ「あのとき,知ってりゃ,塚田を助けたんだ.」
タミー「まあ,見て.」
タミーはヨガの撮影した写真をスクリーンに映し出した.
タミー「右の男が今西のぶお(大下哲矢), 左が梶尾(沖田駿一)って男で今西の舎弟分だった. 二人とも3年前解散した暴力団竜神会の組員. また,この車のナンバーからつきとめたんだけど, 二人は新宿百人町にあるこのビルでモータースポーツ情報社という, 怪しげな事務所を開いているわ.」
マイト「ここがノミ屋ってわけだな.」
デジコン「十中八九,間違いないなあ.」
マイト「つぎのレースはいつだ?」
タミー「明後日よ.」
マイト「明後日?」
オショウ「明後日とはせわしないもんだときたもんだ. どうせ奴らまた次のレースで八百長仕組むだろうからなあ.」
タミー「ええ.だから一応メインレースの登録メンバーを調べておいたわ. 大平のところから堀内ってレーサーが出てるけど, 本命はチェッカーの中川でしょうね.」
マイト「奴らが次に狙うのは中川か.」

モータースポーツ情報社に新規の客,すなわちオショウが電話をかけて来た. 梶尾は白を切った.
梶尾「お宅ねえ,誰に聞いたか知らねえがとんだお門違いだ. ふざけたこと言ってると賭博現行犯で警察に上げられるぜ.」
そして,梶尾は思いっきり力を入れて電話を切った. 公衆電話でオショウは耳を押さえた.
オショウ「この野郎,育ちわりいんだなあ.」
オショウは外にいたタミーに梶尾の悪口を言った.
オショウ「ハ,ハ,ハ,ハ.ふざけたこと言ってると, 賭博現行犯で警察に上げられるぜ,ガチャン,だって.」
タミー「品がないわねえ.」
オショウ「ああ.」
タミー「ま,そううまくは行かないわよ.次の手を考えましょう.」
オショウ「Ok!」

さて本命の中川達がレースの準備を進めていた. 梶尾の部下は車に細工しようとしたが,そこに
マイト「俺は何でも知っている.」
マイトが登場して近づいてきた.そしてマイトは梶尾の部下を撃退.
マイト「俺は怒った.」
マイトはガッツポーズをとり, オートバイで襲い掛かってきた連中を鉄パイプで倒していった.
マイト「貴様,誰に頼まれた.」

さてクラブで大平は今西に賭けの様子を聞いていた.思惑通り, 中川に人気が集中してきた.これで中川が負けてくれたら
大平「4200万か.もう少し売上は増えんのかね.」
今西は新しい客を引き込もうとは思っていると言ったが, あまりおおっぴらにもできないと付け加えた.
大平「そりゃあ,そうだが, せっかくリスクを背負って八百長やってるんだからなあ.」
するとオショウが成金に化けてホステスに金をばら撒いているのが見えた.
大平「あ,支配人.あの客は何者かね?」
支配人は始めてきた客だがブラジル帰りのお金持ちだと答えた. #21でも使った手だ.オショウはブラジル帰りの金持ちが好きらしい.
大平「ブラジル帰り?」
支配人の話だと先祖の墓を立て替えるために二週間の予定で帰ってきたらしい. そこへオショウがやってきた.
オショウ「ア,ハ,ハ,ハ,ハ.失礼ですが,もしかすると,あなた, 大平レーシングチームの大平さんでは?」
大平「そうですが,どうして私を?」
オショウ「あ,いや,やっぱり.いやあ, カーレースに関係のあることでしたら何でも興味持ってまして. あなたのお顔は雑誌で何度も拝見しております.」
オショウが笑っているところへホステスが戻って来いと呼びに来た. オショウはすぐに行く,と言いながら,大平と今西のテーブルに座った.
オショウ「しかし,なんですなあ.お宅のところも, 須藤という優秀なレーサーを亡くして,こりゃ痛手でしたなあ.」
大平は顔をゆがめた.
オショウ「まあ今度のレースは, チェッカーレーシングチームの中川が本命でしょうなあ.」
大平「いやあ,うちにも堀内という優秀なレーサーがおりますからねえ.」
オショウ「堀内ですかあ.いやあ,中川と比べると問題にならんねえ. なんなら賭けますか?
大平は無言だった.今西は何か言いたそうだった.
オショウ「いやあ,あたしゃねえ,日本の優秀なレーサー何人か引っこ抜いて, ブラジルでレーシングチーム作ろうかなあと思ってるんですよ. あたしの目に狂いがなければ中川はガチガチの本命ですよ. まあ今回はあんまりゆっくり日本に滞在できないですから, どっかでだーんとでかい勝負をしてみたいですなあ.」
オショウは笑って去ろうとしたが,大平は今西の肩を叩き, 今西に声をかけさせた.今西はオショウを当日サーキット場へ招待すると言い, オショウの宿泊先を確認した.そこへタミーが「オーナー」とオショウを呼んで, 迎えにやってきた.オショウは電話を待っていると言ってタミーと去って行った. その頃,ヨガは大平レーシングチームの事務所に盗聴機を仕掛けていた.

次の日.今西と梶尾がオショウの宿泊先を訪ねてきた. 今西は賭けの話を持ちかけた.中川の倍率は2倍.オショウは中川に, 5千万賭ければ5千万自分の懐に返ってくると言う事かと聞いた.
今西「5千万!」
今西は思わず梶尾の方を向いた.
梶尾「まさか本気でそんな大金を?」
オショウ「もちろん,本気ですよ. 勝てると思ったレースには目一杯行く.これが常識ですよ.」
今西「まあ,それはそうですが.それにしても5千万というのは大金ですなあ.」
さらにオショウは念を押した.
オショウ「ただしキャッシュで願いたいですなあ.後腐れのないように. いいですか?」
これに今西と梶尾は騙され,大平に報告した.
大平「なあに? 5千万? 間違いじゃないだろうなあ.」
梶尾「間違いじゃありません.凄い金持ちです. いったいどのくらい金があるのかわかりません.」
今西「会長.とにかく最高な鴨です.」
大平「よーし.受けろ.どうせ,こちらで用意する金は見せ金だあ. 例の口座で何とか間に合うだろう.中川の奴は今夜サーキット場の宿舎に泊まる. お前もこれからすぐ行け.なんとしても奴を潰すんだ.」
今西「なにしろ,5千万がかかってる. 念には念を入れてライフルを持ってった方がいいなあ.」
梶尾「いざって時は中川の車のタイヤぶち抜きますか?」
大平は肯いた.
大平「うん.こうなったら手加減はするな.中川を潰すためには何でもやれ.」

大平達の会話を盗聴し,録音したテープをデジコン,ヨガ, そしてマイトが聞いた.
デジコン「手加減はいらんか.」
マイト「こっちだって手加減はしねえぜ.よーし,奴らをハンギングだ.」
そしてハングマンは表の仮面を脱ぎ捨ててハンギングに出動した.

ハンギング

その頃. 死んだ須藤の恋人田沢涼子のところへ, 青い封筒に入っていて蜘蛛が描かれたシールで封をされた手紙,すなわち, デジコンからのハンギングパーティの案内状が届いた.涼子は案内状を読んだ.
デジコンの声「田沢涼子様 明日午後1時,筑波サーキットへ来てください. 八百長を企み,須藤さんを事故死させた大平に審判が下されます.」

その晩.梶尾は筑波サーキットの選手の宿泊所の前でオレンジに注射していた. そして中川に差し入れとして渡してくれと受付の人に渡していた. だが受付嬢が席を離れた隙にオレンジの箱はヨガによってすりかえられた. 中川は梶尾の思惑とは違って普通のオレンジを食べたのであった.

次の日.筑波サーキットに涼子も来ていた.あの時と同じように雨が降っていた. デジコンはロイヤルボックスに盗聴機を仕掛けた. そしてオショウとタミーも筑波サーキットにやってきた. オショウとタミーを今西と梶尾が出迎えた. オショウ,タミー,今西,梶尾はロイヤルボックスへ向かった. デジコンはオショウとすれ違うときに目配せした. ロイヤルボックスでオショウと今西達は5千万を確認しあった.
オショウ「これがどちらの懐に転がり込むか,興味深々ですなあ.」
今西「そうですなあ.」
二人は笑って席に着いた.

さて梶尾は大平にオレンジの首尾を報告した.
大平「薬が効かなかった? 中川はオレンジを食わなかったのか.」
梶尾「どうもそうらしいんで.」
大平「わかった.お前は万一の準備をしとけ.薬は俺が預かる. 何とか中川に飲ましてみよう.」
梶尾は大平に薬を渡した.梶尾と別れた大平は堀内に声をかけた.
大平「おい,堀内.今日のレースは徹底的に中川をマークして妨害するんだ. いいな.」
堀内「大丈夫ですよ.」
大平「それからな.」
大平は薬を取り出した.
大平「うまく中川を誘って,この薬を飲ませろ.」
大平は堀内に薬を渡した.
堀内「何の薬ですか?」
大平「下剤だよ.お,中川が来たぞ.」
堀内は中川をお茶でも飲もうと誘った.大平はほくそえんだが, その様子をタミーも見ていた.そこでタミーは堀内と中川の真後ろの席に座った. 堀内は中川のコーヒーに薬を入れ,持って来た. 中川が薬入りのコーヒーに口をつけようとした瞬間
タミー「あ,ああ.」
中川「どうかしたんですか?」
タミー「コンタクトレンズが, テーブルの下に落っこちゃったみたいなんですけど.」
中川「え?」
中川も立ち上がった.タミーは堀内にも探してくれと頼んだ. そして堀内と中川の注意がタミーの座っていたテーブルの方に向いている隙に, 堀内と中川のコーヒーをそっくりそのまま入れ替えた. こうして,堀内が薬入りのコーヒーを飲んだのであった.

大平は堀内がトイレへ駆け込むのを目撃.トイレで苦しむ堀内のところへ マイトが現れた.心配する大平.そして堀内が戻ってきた.
大平「馬鹿.なーにをやってるんだよ.大事なレースなのに.早く行け.」
そしてレースが始まろうとしていた. ロイヤルボックスでレースを見守る今西とオショウ.
オショウ「やっぱり中川がポールポジション取ったようですなあ. お宅の堀内は,ああ,あんな後ろですか.」
今西「は,ははは.レースは下駄を履くまでわかりませんからな.」
オショウと今西はお互いに笑った.涼子も客席でレース開始を待っていた. そしてレースが始まった.やはり中川が先頭を走る.
今西「あいつ.」
オショウはほくそえんだ.大平に梶尾が近寄った.
タミー「はい.」
ロイヤルボックスに戻ったタミーはオショウにグラスを渡した.
オショウ「どうも.」
今西「くっそう,堀内.」
大平は梶尾に命じた.
大平「最後の手段だ.行け.」
梶尾はライフルで中川の車を狙うため,外へ出た. そして柵の外から梶尾はライフルで狙いを定めた.ライフルをぶっ放す梶尾. しかし弾は中川の車のタイヤには当たらず,梶尾の顔は真っ黒になってしまった. そこへデジコンが登場.
デジコン「お生憎だな.ここは禁猟区なんでねえ. 夕べのうちに弾は変えといた.」
梶尾は逃げようとしたが,ヨガに進路を阻まれた. そして梶尾はヨガとデジコンに捕まってしまった.

結局,レースは中川リードのまま進行.オショウは笑いが止まらない.
今西「どうした.」
大平「あと1周だ.何をしてるんだ,梶尾は?」
今西も大平も焦ったが情勢は変わらない. 結局,中川にチェッカーが振られ,ゴールイン.
オショウ「ブラーボー.ブラーボー.やっぱり,あたしの予想通りでしたなあ. ははは.じゃ,約束の金,頂戴して帰りますから.」
今西は大慌て.
今西「待ってくれ.これは何かの間違いだ.中川が勝つ筈は…」
オショウ「おかしなこと言うねえ.勝負は水もんでしょう? ね.それとも何かな, オレンジや何かで中川が負けるように仕組んであったということかな?」
今西の顔色が変わった.オショウはにやりと笑った.
今西「くっそう.俺達をはめやがったな.」
今西はオショウにつかみかかった. だが今西はタミーに麻酔薬を嗅がされて眠ってしまった.

中川の表彰式が始まっていた.怒った大平はロイヤルボックスに入った. そこで眠りこけている今西を発見.
大平「おい,今西.今西.おい,しっかりしろ.ブラジル野郎はどうしたんだ?」
ロイヤルボックスに設置してあった盗聴機の拾った声が, デジコンの操作で客席のスピーカーに流された.
大平「今西ー,今西,今西,しっかりしろ.カッ.いやあ,おい.」
その叫び声を聞いて涼子,そして他の客もスピーカーに注目した.
大平「今西,しっかりしろ.」
やっと今西が目を覚ました.
今西「会長.あ.あいつら.」
大平「すると,むざむざと奴らに金を取られたっちゅうわけか. 馬鹿.貴様が見てて何たる真似だ.」
今西「それより,あいつら,俺達の八百長何もかもしってやがったんだ. その上で俺達の裏をかいて…」
大平「そんな馬鹿なあ.一体どこから漏れたって言うんだ.」
会場に漏れているとも知らず,大平と今西はぺらぺら喋り始めた.
今西「知りませんよ. 兎に角,須藤や塚田を殺した事まで何もかも全部知ってやがったんだ. だから俺は気が進まなかったんだ.あんな一見の客を誘うのは.」
どうでもいいが,オショウは須藤や塚田殺しを知っているとは喋らなかったぞ. きっと脚本の段階では話していたに違いない.
大平「そんなことを言って今更どうするんだ.」
今西と大平はつかみ合いの喧嘩を始めた.
今西「これはあんたに責任がある.大平,この落とし前はつけてもらうぜ.」
大平「馬鹿野郎.」
大平は今西をぶん殴った.
今西「野郎,何しやがんだ.」
大平「貴様は俺に対して何たる態度だ.」
そこへレーサーの格好をした男が入ってきた.男は帽子を目深にかぶり, 頭をたれていたので顔が見えなかった.
大平「堀内.貴様にはあれほど中川の妨害をしろと言っといたじゃないか. 奴にはちゃあんと薬を飲ませたんだろうなあ.おい,どうなんだ.」
男は首を左右に振った.大平は気がついた.
大平「これは堀内じゃないなあ.貴様はいったい誰なんだ.」
男が顔をあげた.
マイト「気の毒だがこれまでだなあ,会長さんよ.」
男はマイトだったのだ.大平も今西も驚いた. マイトは仕掛けてあった盗聴機を見せつけた.
マイト「今までの話は場内に筒抜けだ.」
驚く今西,そして大平.マイトはにやりと笑った.
今西「俺は無実だ.全部,大平,お前が悪いんだ.お前が須藤を殺した.」
大平「黙れ.何を言うんだ,今西.お前が車に仕掛けをして須藤を殺したんだ.」
今西「何を言うんだ.大平,お前の命令で須藤を殺したんだ. その上,証拠隠滅のため塚田も殺した.お前が張本人だ.」
それを聞いた涼子は涙を流し,鼻をハンカチで押さえながら, パトカーのサイレンの響く中を帰っていった.
大平「うるせえ.黙れ.実際に手を下したのはお前だ. 今西,お前が殺したんだ.」
今西「いや,俺じゃない.お前だ.大平,お前だ.」
大平「うーん,今西,黙れ.」

そして

マイトとデジコンがラジコンカーでレースをやっていた. マイトは自分の車をデジコンの車に当てるなどの妨害工作. デジコンの車はひっくり返ってしまい,マイトが勝った.
マイト「やったあ!」
デジコン「八百長だ!」

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp