第十五回

死の商人の正体を暴き出す
出口なし 恐怖の空気処刑

脚本:柏原寛司 監督:永野靖忠

仕事開始

マイトは横浜でバーの跡を掃除していた.タミーが話し掛ける.
タミー「いいところね.」
マイト「昔はもっと良かったよ. 日が暮れるとジャズが流れて外国航路の船員達が安酒を飲みながら殴り合ってた. みんな昔の話さ.」
タミー「珍しく感傷的ね.」
マイト「女ほどリアリストじゃないからな,男は.」
タミー「ここは今度の作戦の前線基地としては最適だわ.」
マイト「前尾(綿引勝彦)の足取りは?」
タミー「横浜で切れてるわ.これ,ゴッドから預かった前尾健三の資料.」
タミーが資料を説明する.
タミー「前尾は横須賀の生まれ. 高校時代からぐれて一時横浜の暴力団に入ってたこともあるわ.ま, 今は善良な市民だけど.両親はすでに亡くなっていて弟が一人, 山手に住んでるわ.弟の方は兄貴とは違って三星商事のエリートサラリーマン.」
マイト「前尾のこれ(情婦)に関する資料が欠けてるじゃないか.」
タミー「そこまでわかっていたらゴッド一人でも何とかなっちゃうわよ. 前尾の恋人はトルコのホステス.わかってるのはそれまで.」
マイト「わかった.当たってみよう.」
タミー「今日中にここは何とかするわ.」
マイト「頼む.」
タミーは出て行った.

ゴッドのオフィスで前尾の写真を見たオショウは
オショウ「ん? これは殺人容疑で手配されている男じゃないか.」
デジコン「二週間前に森川工業の社員二人が殺害された. がいしゃの所持金は消え,凶器のナイフから前尾の指紋が出た.」
オショウ「指紋が出たんじゃ,もう警察の仕事だなあ.」
デジコン「ところが犯人は前尾ではない.」
オショウ「え?」
デジコン「殺されていた二人が勤めていた森川工業だ.年商15億. 関東を中心に5箇所の工場をもち,トラクター,ユンボー, トレーラーなどの部品を輸出用として製造している.ま,言ってみれば, それほどの会社ではない.ところがだ.会社の幹部達の生活は豪勢この上ない. 都内の一等地に大邸宅を持ち,夜毎派手に遊びまわっている. 右の男が社長の浅里たくじ.左が専務の小林だ.」
オショウ「会社ぐるみでなんか悪いこと企んでたわけか.」
デジコン「殺された二人の社員は森川工業のある事実をつかみ, それをマスコミに暴露しようとしていた.それで消されたってわけだ.」
ヨガ「ある事実?」
デジコン「武器の密輸だ.」
オショウは口をあんぐり.スクリーンに戦闘シーンが映された.
デジコン「中東やアフリカ諸国では大小の戦いが四六時中起こっている. 経済的に豊かではないこれらの国が買う武器は, ベトナム戦争などで使い古されたセコハンが大部分だ. 製造がすでに中止されているものも多い.」
オショウ「なるほど.森川工業じゃ,それらの武器の弾を作ってるってわけか.」
デジコン「そういうことだ.」
ヨガ「弾丸の製造なら大規模な工場も要らないし,密輸もしやすい. おまけに金になる.」
オショウ「死の商人か.ふざけやがって!」
デジコン「弾丸製造の秘密工場も密輸ルートもわかってない. だが今度の殺人事件を糸口に森川工業を叩き潰すことは可能だ. それがゴッドの狙いってわけだ.事実を暴露しようとした二人の社員を, 森川工業側は始末した.前尾の仕業に見せかけてね.多分その後, 前尾も始末する気だったんだろう.」
ヨガ「だが前尾は逃げた.」
オショウ「前尾が危ないな.」
デジコン「そっちはマイトがやっている.我々は森川工業サイドを洗う.」
ヨガ「Ok!」

マイトは横浜のソープ街を当たっていた. そして前尾の情婦および前尾のことをトルコで聞き込んだが支配人は白を切った. マイトが去った途端に支配人は前尾の情婦ユミ(鳥居恵子)を呼び出した.その頃, 羽田空港で共立警備会社の社長広沢(石橋雅史)と浅里が会っているところを, オショウとデジコンが覗いていた. 広沢は横浜の弱小暴力団ぎ竜会の幹部だった男. 二人の社員を殺したのは広沢達に違いない. ヨガは警備が厳しすぎて盗聴機をつけることもできない. 窓には超音波警報機がついていて, 盗聴機を打ち込んでも振動で超音波警報機が鳴り響く仕掛けになっていた.

その夜.花火が鳴り響く中,マイトは前尾にぶん殴られていた. マイトは逃がし屋と名乗り, 警察に追われている前尾を外国へ逃がしてやると言った. そして,前尾を探す広沢の手の者を前尾と一緒に撃退した. 前尾は男を尋問するが,消音銃を持った男が現れて前尾達を狙ったので, マイトと一緒に逃げた.マイトは腕を撃たれてしまった. マイトは前尾を例のバーに連れ込んだ. バーにはタミーがいた.前尾は話し始めた.
前尾「集合場所へ行った途端,誰かに頭を殴られ,気を失っちまった. 気がつくと二人が殺されていて,俺がナイフを握っていたってわけさ. どじな話だよ,全く.」
タミー「それから狙われだしたのね.」
前尾「慌てて逃げようとしたが,男が現れた.さっきの連中だ. それから二度狙われた.今日の奴を入れると三度目だ.」
マイト「最後に一つだけ聞かせてくれ.あんたを雇ったのは誰だ.」
前尾「広沢の兄貴さ.」
マイト「共立警備の広沢か.」
前尾「ハマでぐれてた頃,面倒見てもらったことがある.」
タミー「その男があんたを犯人に仕立て上げたのね.」
前尾「信じられねえ話だよ,全く.広沢の兄貴, しめたと俺の面倒見てくれたんだよ. 若い頃の前科のおかげでまともな就職なんかつけなかった. その俺を見て兄貴は警備の仕事を回してくれたんだよ.」
タミー「共立警備の社員だったの?」
前尾「いや.時々手伝うだけだ.金は社員以上に出してくれたよ. 俺を理解してくれたのは弟と広沢の兄貴だけだ.」
マイト「やくざのやりそうな手口だ.」
前尾はマイトをじろっと睨んだ.
マイト「恩.」
マイトの傷が痛んだ.
マイト「恩着せがましく面倒見といていざとなったら使い捨てにする. それがやくざの手口さ.この上が住まいになっている.密航の日まで隠れていろ. 彼女も一緒にな.それから弟には近づくな.奴らがはってる可能性がある.」
前尾「明日また来る.」
前尾は去ろうとした.
タミー「あたしも行こうか?」
前尾「いや結構.銭の用意もあるしな.」
マイトは追おうとしたが,諦め,ヨガを呼んで弾を摘出させた.
マイト「あー,後で覚えてやがれー.」
ヨガ「なんなら止めようか?」
マイト「やめないでくれえ.」
マイトは痛みで苦しんだが,何とか弾丸を摘出することができた.
ヨガ「草.」
マイト「草?」
ヨガ「中国の薬草だ.」
ヨガは薬草を塗ったガーゼを傷口に貼った.
マイト「ほうれん草みてえだなあ.」
ヨガの手当てを受けながら
マイト「かなりの粗悪品だなあ.」
タミー「証拠になるかしら?」
マイト「ああ.デジコンに分析させろ.」
タミー「Ok!」
マイト「俺だけこんなに痛い目にあわせやがって, デジコン達は遊んでるんだろう.」
ヨガ「デジコンは秘密工場の線,オショウは取引相手を洗っている.」

次の日.前尾の弟は妻のみゆきと前尾健三のことを心配していた. 前尾は弱いものいじめをせず,いつも自分より強いものを相手に喧嘩をしていた. そして妻は健三に会ったら健三に渡してくれと貯金をおろしていた.その頃, 前尾健三は情婦のユミに会っていた.そこへ電話がかかってきた. 電話は健三の弟順一からのものだった. 順一は3時にヨットハーバーで会おうと言って電話を切ったが, 暴漢に捕まってしまった.そして順一は拷問された. 早速広沢から浅里に前尾の動きがつかめたと報せが入った. それをデジコンはビデオカメラで撮影していた.

今週のよね子

一方,オショウは森川工業の営業部長丸山の家を訪れた. が,家を出たところでよね子と鉢合わせしてしまった.
よね子「和尚様.なんですか,ニコニコしちゃってもう.」
オショウ「いや,いや.何でこんなところに,あなた.」
オショウでなくても驚くと言うものだ.
よね子「お寺にいらっしゃらないと思ったら, こんなところにいらしていたんですか.」
オショウ「こんなところって,ここは檀家ですよ.」
よね子「後家にはあき足らず,今度は亭主持ちでございますか.」
オショウはスクーターに乗り込んだ.だがよね子は強引にオショウに捕まった.
よね子「今日という今日は許しませんよ.」
オショウはそのままスクーターを走らせた. よね子はスクーターから振り落とされてしまった.
よね子「和尚様,お待ちなさい.和尚様.お待ちになって. 乗せてください.和尚様.」

デジコンは人間の口の動きを入力し, ビデオテープを解析して浅利達が何を話しているかを解析した.
浅利「キャプテンに電話して日時を決めろ.」
だが電話している部下の小林の言葉は解析できなかった.
デジコン「おかしいなあ.」
オショウはコンピュータのディスプレイを叩いた.
オショウ「どうだ.」
デジコン「そんなことしたって直るわけないでしょう! もう.」
オショウ「昔はこんなことで直ったんだけどなあ.」
ますます調子が悪くなった.
デジコン「オショウ,木魚じゃないんだから.参ったなあ.よし.」
浅利の言葉は続けて解析できた.
浅利「金を用意しろと言っておけ.」
ここでデジコンは気がついた. コンピュータに入力した口の動きは日本語のものだ. 小林は外国語を話していたのだ.だからコンピュータは読み取れなかったのだ. つまり小林は密輸の相手に電話していたのだ.しかし, 電話は国際電話ではなかった.オショウは手帳を探った.米軍根岸キャンプ.

前尾はユミが弟の順一と本牧のヨットハーバーで待ち合わせをしている, とマイトに伝えた.マイトは車で向かおうとしたが,前尾は強引に乗り込んだ. ユミに包丁で腹を刺された順一が姿を現した. そしてマイトと前尾が駆けつけたときは順一の死体だけが転がっていた. 前尾は順一の死体を起こそうとした.
マイト「触るんじゃねえ.指紋がつくじゃねえか. そうなったら森川工業の思う壺だ. この犯行もお前の仕業に見せかけようとしてるんだよ.」
前尾「順一!」
マイト「前尾.前尾.」
前尾「順一.」
マイト「前尾.」
やっと前尾は順一の死体から離れた.そのとき車が逃げ去るのが見えた. マイトと前尾は車を追いかけた.マイトは焦る前尾を制止し, 自分一人でユミを救出しに向かった.暴漢達はユミを拷問した.そのとき, 電気が消えた.その隙にマイトは忍び込み,ユミの縄を外して一緒に逃げた. だが一味の連中に囲まれて絶体絶命だ.この危機を前尾が救った. だが前尾は拳銃を握ったまま弁慶の立ち往生.
前尾「お前とやり直しがしたかったよ.外国でなあ.」
前尾は死んでしまった.前尾の死体を抱きながら,ユミは泣きじゃくった. そしてマイトは無言だった.その顔は悪への怒りに燃えていた.

その晩.バーにハングマンが集結した.
デジコン「弾丸の密輸相手は根岸の米軍キャンプだ. ジープの部品と一緒に引き渡され, そこからアメリカ流れのバイヤーが各国に流している.」
タミー「バイヤーの名前はわかってるの?」
デジコン「浅利はキャプテンに電話すると言っていた.キャプテンとは大尉だ.」
デジコンが懐から写真を出した.
デジコン「陸軍大尉バート・J・ウェイン. ジープ部品の納入に関係している大尉はこの男しかいない. それから秘密工場の場所だが,川崎にある第三工場に間違いない.」
オショウ「なんでここだってわかった?」
デジコン「マイトの弾に撃ちこまれた弾を分析した. 鉛が30%と後は錫などを混ぜた粗悪品だ. 森川工業の5つの工場の中で錫を扱っているのはこの川崎の第三工場だけだ.」
オショウ「よーし.証拠はそろったな.やるか.」
全員,マイトを見た.
マイト「やってやろうじゃないか.」
そしてハングマンは表の仮面を脱ぎ捨ててハンギングに出動した.

ハンギング

米軍の軍人がたむろするプールバーでマイトは軍人相手に大暴れ. ウェインを捕まえた.川崎の第三工場にはヨガが乗り込み, 催涙弾を投げ込んだ.ヨガは荷物を調べ,弾を発見.そして広沢も捕まえた. そして浅利達はデジコン,タミー,オショウが捕まえた.

その頃.バーで前尾の情婦矢崎ユミは寝ていた.そこへ手紙が投げ込まれた. それは黒い封筒に入っていて,導火線に火のついたダイナマイトを手に持ち, 葉巻をくわえたギャンブラーが描かれたシールで封をされた手紙,すなわち, マイトからのハンギングパーティの案内状だった.ユミは案内状を読んだ.
マイトの声「本日12時,前尾健三・順一殺害,並びに人間の命を喰いモノにして 私服を肥やす死の商人たちに対する制裁の催しがおこなわれます.ぜひ, 下記の場所へお越し下さい.」
ハンギングパーティの場所は本牧のコンテナヤードだった.

コンテナの中に弾薬が置かれ,ガラスの箱の中でロウソクが燃えていた. その中に浅利,ウェイン,広沢,小林など悪党達6名が縄で縛られていた.
マイトの声「おはよう,皆さん.気分はどうかね. 諸君は二時間前からそこにいる.何か感じないか? ちょっと息苦しいような. 狭い中に6人も入ってるんだ.空気にも限りがある.そこは密封されているしな. 俺が計算したところでは中の空気はあと5分でなくなる. お互い殺しあって少しでも自分が長生きするか, まあそれでも15分生き残るのがいいところだ.」
マイトの言葉を聞いた悪党達は立ち上がって右往左往し始めた.
浅利「助けてくれえ.」
悪党達は「開けろ!」と叫んだ.
マイトの声「窒息死と言うのは一番苦しい死に方らしい. のどをかきむしり,目をむいて,苦しみもがいて死ぬわけだ.」
浅利「ロウソクを消せ.空気がなくなるから息を吹き込んで消すんだ.」
悪党達は箱に駆け寄って息を吹き込もうとするが…
マイトの声「よしたほうがいいぞ.ガラス箱の中にある機械を見ろ. そいつはサーモスタットだ.コタツの温度調節に使う奴さ.今, ガラス箱の中はロウソクの火で温まっている.それを消すと中が冷える. と同時にサーモスタットがスイッチオンだ.どうなると思う? サーモスタットはリード線で諸君が作った砲弾につながっている. 結果はわかるね.爆発だ.」
悪党達はガラス箱から離れた.
マイトの声「窒息死を選ぶか,爆死を選ぶか.まあどっちみち死ぬんだけど.」
浅利「助けてくれ.金がほしけりゃ,いくらでもやる. 頼むから,助けてくれえ.」
マイトの声「虫が良すぎるんだよ.前尾.その弟.社員の二人. 4人も殺してるんだ.いや,もっとかも. お前達が密輸してる弾丸で何千何万の人間が死んだと思ってるんだ.」
悪党達の呼吸が激しくなった.
マイト「お前達のやった悪事を全部話してみろ.そうすれば扉を開けてやる.」
ロウソクの火が小さくなった.
広沢「すべて浅利社長の命令でやったことだ.」
浅利「馬鹿なこと言うな.」
ついにロウソクの火が消えた.
広沢「弾丸の密輸がばれそうになり,二人の社員を殺したのも, それも前尾の犯行に見せかけ,奴を始末しようとしたんだ.」
その声はスピーカーで外へ流された.港の作業員がコンテナに集まった.
浅利「黙らんか! 広沢.」
悪党「苦しい,苦しい.」
悪党「広沢さんの命令で両方とも殺したんです.助けてください.」
広沢「馬鹿.俺は浅利の命令を伝えただけだ.」
浅利「な,何を言うか.俺は悪くない. 弾の製造と密輸を持ちかけてきたのはバートだ.」
そこへユミがやってきた.ユミはバートが言い訳するのも聞いた. 悪党達が苦しんだのでデジコンがスイッチを押した. コンテナは大型のクレーンで吊り上げられ,と同時に扉が開いた. コンテナから荷物がこぼれだし,パトカーのサイレンが鳴り響いた. そしてハングマンはパトカーと入れ替わって去って行った. それを見てユミも去った.

雨の降る中,傘もささずにユミはマイト達がいたバーにやってきた. だがそこは元の廃墟に戻っていた.そしてユミはバーを後にして歩いていった. 実は中にはマイトがいてユミを見送っていた.
マイト「いい女になれよ.」
マイトはいつまでもユミを見送っていた.

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東平 洋史 E-Mail: hangman@basil.freemail.ne.jp